Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第9話 本戦:VS宮路森高校(前編)

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「いぇーっいクロォ!! 昨日振りっ! 元気にしてたー!? 僕は元気だz……」
「「黙れ」」
「ごるばちょふっ!!?」
 開口一番騒がしくなりそうだったミハイルを、前方と後方からラリアットが襲う。
 前方からは白神玄が、そして後方からは……。
「久しぶりだな……白神」
「元気そうで何よりだよ……針間先輩」
 『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』、アクエリアスの針間戒。190cmを超えるであろう身長に、ペンキでも被ったかのように真っ黒の髪の毛、さらには目付きの悪い三白眼。放っている威圧は栖鳳学園の鳳以上のものだった。
 8月15日。正午。
 白神玄と針間戒。互いの後ろには各高校のメンバーたちが、下には首を抑えて悶え苦しむミハイルが。
 これから控室に入るというところで神之上高校決闘部一同は、宮路森高校決闘部のメンツと鉢合わせになっていた。
 そこで戒は玄を見下ろし話しかける。身長は30㎝近く離れているため、対する玄は当然見上げる形となった。
「思いのほか早い再会だったな。よくもまぁあの状況から這い上がってきたもんだ」
「色々とあったんですよ。色々とね」
「うぐおおおおおお」
「昨日のお前らのデュエル、見せてもらったぞ。どいつもこいつもいいデュエルをしやがる」
「そりゃあどうも。だがあれくらいでこいつらの全力だと思っちゃ足元掬われるぜ」
「ぬあああああああ」
「言うじゃねぇか。俺の出番前に負けるなんてことがないように気を付けろよ」
「それはこっちの台詞ですぜ、針間先輩」
「ふげええええええ」
「「うるせえっ」」
 ドスッ、という鈍い音は、2人の踏み付けがミハイルの腹部にクリーンヒットした音だった。今度は奇妙な断末魔もなく、完全に意識がなくなる。
「あの……クロくん。大丈夫じゃないと思うん……」
「大丈夫だ。日常茶飯事だ」
「いや、口から泡吹いて……」
「大丈夫だ。宮路森でも週に一度はこんな感じだ」
 うんうん、と戒の後ろにいる宮路森高校のメンバーたちも頷く。神之上高校のメンバーはミハイルの将来を考えるとやるせない気持ちになり自然と視線が下降した。
 閑話休題。
 騒がしいミハイルが完全に沈黙(意識不明)したことで、いったん場が静まる。最初に口を開いたのは音無だった。
「2人で話を進めるのもいいけど、君の後ろのメンバーも含めてみんなが退屈してるよ」
「ん? ああ、すまんな。何せ久しぶりとの知人との再会だ。話に花が咲いた」
 戒は高い視線を玄からその後ろのメンバーに移す。
「お前たちはこちらの試合は見たんだろう? 観客席の一番前でビデオカメラを回している奴がいた。おそらくあれはお前たちの知り合いだろ?」
「相変わらず目がいいな、針間先輩は」
「まぁな。それはそれとして、そうなるとミハイルの試合しか見ていない訳だ。なら紹介しておこう、俺の愉快な仲間たちだ」
 いたのは『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』の戒とミハイルを除く4人の男女だった。
「3年生、部長をやらせてもらっているわ。喜多見涼香(きたみりょうか)よ。よろしくね」
 眼鏡を掛けた礼儀正しい女性。わざわざ神之上高校の全員と握手をして回った。
「1年生、鼬之原宋次郎(いたちのはらそうじろう)です。よろしくお願いします」
 次に出てきたのは温厚そうな少年。大人しそうに見えるが何か芯のようなものが感じられる。
「2年、神宮司一二三(じんぐうじひふみ)でっす! よろしく!」
 先ほどの鼬之原とは真逆の活発そうな少年。明らかに髪の毛を茶色に染めているのが分かった。
「……」
「十時(ととき)さん。挨拶しましょう?」
「……はぁ。3年、十時直(なお)」
 喜多見に催促され、億劫そうに溜め息をついた少女。前髪が長すぎて表情がよく読み取れない。
「そしてご存じ、そこに転がってるのが2年のミハイル・ジェシャートニコフ。そして俺が3年、副部長の針間戒だ」
「なら今度はこっちの番か? 知ってるかもしれないけど、白神玄とその愉快極まりない仲間たちだ」
 玄のその言葉に反応し、神之上のメンバーたちも同じように自己紹介をした。
 それが終わるとまた僅かに場が静まる。今対面している者たちとこれから戦うのだという実感が湧いてきたのか、先程とは違い若干空気がピリピリとしている。
「そう構えるなよ。俺たちがやりあうのはまだ後だ。こんなところで気を張って体力消耗するだけ無駄だろ?」
「確かにな。ほら見ろ、そこに転がってるミハイルなんてこれでもかと言うぐらいに脱力しているじゃねぇか」
「それは気絶してるからでしょ……」
「というか放っておいても大丈夫……なんですよね、はい。もうそれでいいです」
 そんなミハイルの首根っこを掴み、ずるずると地面を引きずりながら戒は宮路森の控室のある方へと向かっていった。
「一応試合前だ。人目もあるし、対戦校同士が仲良くしてるってのも不自然だろ。俺たちはこれから試合に備える。お前らもデッキ調整でもしてろよ」
「それじゃあ試合の時はよろしくねー」
 喜多見がバイバイと手を振り、部員たちもその後ろに着いていく。
 全員が控室に入り終わったところで音無が口を開き、自分たちも控室に入ろう提案した。音無の言う通りにみな控室へと入っていく。
「ふぅ、思い掛けない遭遇だったけど、すごいね彼らは」
「直接渡り合ってもいないのに、実力の高さが分かった。2人の『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』だけじゃねぇってか」
「そうだな。だが昨日も話した通り、まずはミハイル打倒が第一目標だ」
 玄が口を開き、場の空気が変わる。
「桜ヶ丘戦のようにはいかない。まずミハイル1人にこっちの戦力がかなり持って行かれるだろうな」
 Aブロックでのデュエル。ミハイル1人に藍原学園の部員6人全員が打ち負かされてしまったのだ。どれだけ警戒しても警戒したりないだろう。
「それについてはもう何度も聞いた。それよりもあっちの針間ってやつ、あっちの方はどうなんだよ」
「確かにね。実力的には針間くんのが上なんでしょ?」
「ああ、それについては俺に任せてくれ。と言うか、今ここにいるメンツじゃ俺以外にはどうしようもできねぇ。いや、俺の見積もりが甘ければ俺でも駄目かもしれない」
 弱気な発言をする玄に周りが心配そうな顔をする。それを見て玄は笑顔を作った。
「ま、そんな心配そうにするなよ。俺じゃあ勝てないかもしれないが、別に1対1ってわけじゃない。これは団体戦だ」
 それも6対6と言う変則ルール。必要なのは個人の実力だけではない。
「勝とうぜ、俺ら6人で。ミハイルに、針間先輩に、そして宮路森に」
 スッと右手の甲を上向きにして正面に出す。すると小さな手がその上に乗る。璃奈だ。
「もちろんですよ」
「頑張るよ」
「楽しませてもらさ」
「全力で行きましょう」
「さぁ、勝ちに行こう」
 さらに手が、その上にもまた手が重なる。6人の手が重なると、玄が言葉を紡ぐ。
「作戦は昨日言った通りだ。まず第一にミハイルを倒すことが優先されるけど、だからと言って他の奴ら相手なら気を抜いていいってわけじゃねぇ。何度も言うが……勝つぞっ!!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
 重ねられた手は離れる。だが、重ねられた思いは離れることなく、6人の心の中に残り続けた。



 9-1 ― 明鏡止水の決闘 ―



「ミハイルのデュエルスタイル、『明鏡止水(クリア・マインド)』は……言葉では説明しにくい」
 今から5日前。再び「MAGIC BOX」に集まった神之上高校決闘部に向けて玄が放った第一声がそれだった。ちなみに美里はこの日も体調不良で休みだった。
「つーか、説明したところで対策立てられるようなもんでもないし」
「……断片的でもいいから教えなさいよ」
「えーっと……爆発力がない、けど安定してる『自殺決闘(アポトーシス)』って言い方が一番しっくりくるかな」
 この時点では璃奈以外のメンバーが『自殺決闘(アポトーシス)』について詳しく知らない状態。しかし大体のニュアンスは伝わってきた。
「行動に無駄がない……とは少し違うな。洗練されてるってのが正しいか? まぁそんな感じ」
 説明の仕方が大分曖昧だった。
「えっと……弱点みたいなものは?」
「ないな。と言うか弱点をなくすためのスタイルみたいなもんだし。まぁ、あのスタイルはミハイルが集中している間にしかうまく機能しないし、強いて弱点と言うなら長続きしないことか」
 スッと璃奈が挙手する。
「どれくらいで集中が切れるんですか?」
「その時々で結構変わるけど、12~13ターンってところかな。と言っても、あいつを相手に10ターン以上も耐えられる奴なんて現役高校生で10人もいないだろうけど」
「それってほとんど止めれないってことじゃないですか」
「いや、今回のルールに限ってはそうでもない。デュエルが1戦で終わらず、後続のプレイヤーに引き継がれるからな。それにこんなルールはミハイルにとっても初めてだろうし、いつもより集中できる時間は短いかもしれない」
 そう言うと、物陰からひょこっと顔だけを覗かせている少女が現れた。というかアンナだ。
「アンナちゃん!? どうしたんですか?」
「クロに呼ばれて来たんだよー。練習相手になってくれーって」
「デッキタイプ的にはアンナとミハイルは似てるんだ。って言うかアンナにデュエルを教えたのはミハイルだからな。と言うわけでアンナをミハイルに見立てて練習だ」
「さらっとカミングアウトしましたね。ミハイルさんはアンナちゃんのお師匠さんってことですか?」
「まぁそんなもんだろ」
「それよりもアンナちゃんは良いの? 相手はお兄さんなのに私たちを手伝ってくれて」
 真子が首を傾げアンナに問いかける。
「いいんだよ。ミハよりもクロやリナたちの方が好きだもん」
 ミハイルは聞いたら騒ぎそうな一言だったが、突っ込まずアンナの好意に甘えることにした。
「美里は今日いないから、真子先輩と鷹崎の2人掛かりでアンナを倒せるように特訓だな」
 さらっと言うが、2人掛かりだとしても『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』を倒すのは容易ではない。しかし2人ともノリノリでアンナに挑む。余談だが、この日真子と鷹崎はアンナに惨敗し続けることとなる。
「さて、次は音無先輩と璃奈だ。ぶっちゃけ音無先輩の方はほとんど心配ない。後はいろんなタイプのデッキと戦わせて、そのいなし方を身に付けるくらいしかすることないだろ」
「そんな適当な……」
「適度と言ってくださいよ。あとでデュエルしたこのないタイプを教えてください。そのデッキを作って俺がやるんで」
「それじゃあ私はどうすればいいんですか?」
 美里はいない。真子と鷹崎はアンナと特訓。玄と音無がスパーリング。璃奈だけ余った。だが。
「璃奈も俺とやってもらう。並行して2つのデュエルを俺が受け持つ」
「で、出来るんですかそんなこと!?」
 2人の相手と1人とデュエルするのであれば、変則タッグデュエルとして成り立つが、玄が2つのデッキを使い、2人のデュエリストと別々のデュエルを行うなど、およそ神業だ。
「できるよ。とは言っても十全に力は出し切れない。璃奈はその状態の俺から一本取ってみろ。付け焼刃の『自殺決闘(アポトーシス)』を残りの数日だけで完璧にしないといけないからな」
「……はいっ!」
「僕も頑張らせてもらうよ」
 言う方も無茶だが、それに応える方も無茶。しかし無茶を超えなきゃ勝てない相手もいる。
(大会本番まであと4日。宮路森との対戦はさらにプラス1日。だけど、前日には向こうに行かなきゃならないから移動で時間が食われる。実質この3日の間に何とかしなきゃいけない訳だ。結構しんどいが、俺の勘を取り戻すためにも……な)


 そして……。
(前日にギリギリ全員ノルマは達成した。それでも不安は残るけど……やれることはやった)
 あとはそれを結果として残すだけ、玄は心の中で何度も反芻した。
『はーっい! 会場のみなさんお静かにー! これより全国高校生デュエル大会本戦決勝戦を開始いたします! 実況兼解説はBブロックから引き続き、三木島由愛とっ』
『ぁ……はい……Aブロックからは、明石光(あかしひかり)……です。プロデュエリストです……』
 名前の割に暗い明石プロ。ちなみに、ランキングではアベレージ109位。三木島プロに一歩及ばないが、それでもかなり上位に位置している。
「何とも両極端なプロを呼んだもんだな、実行委員会は」
「偶然暇だったんだろ」
『それでは対戦校の発表です。Aブロックからは宮路森高校決闘部!』
 玄たちの相手。先程出会ったばかりだか、一風違った印象を受ける。向こうも臨戦態勢と言うことだ。
『明石プロ、宮路森高校はどういったチームなんですか?』
『はい……。まずいやでも目に付くのは2人の『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』ですね。Aブロックではその1人のミハイル選手が藍原学園を1人で倒してしまったことが今でも鮮明に思い出されます……』
 もはや何を伝えたいのか分からないが、事実ミハイルの偉業は誰にとっても衝撃的であった。
『ではBブロック、神之上高校決闘部です!』
 今度は視線が玄たちへと向けられる。すさまじいプレッシャーだった。
『神之上高校にも1人『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』がいますけど、昨日の桜ヶ丘女学院とのデュエルでは彼が出るまでもなく決着してしまいました! お互い実力の程はすべて見せてはいません。どっちが勝つか気になりますねっ。っていうかバーゲンセールかと言うぐらい『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』だらけですね!』
「ねぇねぇ玄くん。今さらなんだけど質問良い?」
 小さく挙手したのは美里だ。
「なんで『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』がいたのに、宮路森は今まで公式戦でのデータが全然ないの?」
「どうやら人数不足だったらしいな。そこに針間先輩が転入して、ミハイルが留学してきたみたいだ」
「なるほど」
 宮路森高校は人数不足によってここ5年ほど公式戦には出ていない。ここにいる相手すべてのデータが少ないのだ。
「全く情報がないってわけじゃないけど、こっちの情報はおおよそ筒抜け。これは厳しいわよねぇ」
 そうこう言っているうちに三木島プロの雑談が終わり、決勝戦の幕が下ろされた。
『各校、一番手のプレイヤーはステージに上がってきてくださーい』
 三木島プロが促し、2人の決闘者がデュエルディスクを腕に装着する。
「行ってくるわ」
「練習通り、頼んだぜ副部長」
「善処するわ……」
 真子がステージを上り終えると同時に、ミハイルも所定の位置へと着いた。
「やっほー。最初は君かー。よろしくね」
「よろしくー」
『宮路森高校からは2年生で『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』! 特攻隊長ミハイル・ジェシャートニコフ選手! 神之上高校高校からは副部長。3年生でデュエリストレベルは8、辻垣外真子選手です! それでは……』

「「デュエル!!」」

 あっさりと始まった第一戦。先攻は真子に決まった。
「私のターン、ドロー!」
 6枚の手札を凝視する。スタートが肝心となる。ここは慎重に動く真子。
(手札は悪くない。でも彼相手に悪くない程度じゃダメよ。牽制手なんて撃たずに最初から全力!)
「モンスターをを1体守備表示で召喚。そしてカードを1枚伏せて……ターン終了」
 持てるすべての力を吐き出す。そのための静の構え。攻撃を待ち構える。
「それじゃあ、僕のターンだね」

第1ターン
真子
LP:8000
手札:4
SM、SS

ミハイル
LP:8000
手札:5
無し

 ミハイルのターン。しかしカードをドローしない。目を閉じ大きく息を吸った。
「すぅー……ふぅーっ。すぅー……ふぅーっ」
『……ミハイル選手はドローもせずに深呼吸をし始めましたね?』
『はい……。彼はAブロックの時も同じような行動をしていました。プリショット・ルーティーンに似たものだと思います……』
 プリショット・ルーティーン。ゴルフや野球などでショットを打つ前の一連の動作の事を指し、それを行うことによってショットの安定化、集中力の強化などの効能が見られる。当然デュエルでもそういった行為はあり、彼にとっての深呼吸は彼のデュエルスタイルである『明鏡止水(クリア・マインド)』に必須のものなのだ。
「……ふぅー。さぁて、行くよ。僕のターン! ドロー!」
 勢いよくカードをドロー。手札を一瞬だけ確認すると、迷いなく1枚のカードを発動させる。
「魔法カード、《手札抹殺》! 5枚捨てて5枚ドロー!」
「4枚捨てて4枚ドローよ」
(このあたりはアンナちゃんと同じ動きね。さすが兄妹)
「相手のフィールドにモンスターがいて、僕のフィールドにモンスターがいないとき、このモンスターは特殊召喚することができる。《TG ストライカー》!! さらに、レベル4以下のモンスターが特殊召喚されたことで、《TG ワーウルフ》を特殊召喚!」
 一気に「TG」のコンボで召喚権を使わずにチューナーと非チューナーを揃える。
「レベル3の《TG ワーウルフ》にレベル2の《TG ストライカー》をチューニング! シンクロ召喚! 現れろ、《TG ハイパー・ライブラリアン》!!」
 シンクロデッキの要。連続シンクロによるドローでさらなる展開の助けとなるキーカード。もちろんミハイルの展開は続く。
「次だよ! デッキトップに手札を1枚置いて、《ゾンビキャリア》を特殊召喚。そして墓地の《D-HERO ディアボリックガイ》を除外してデッキから同名モンスターを特殊召喚! レベル6の《D-HERO ディアボリックガイ》にレベル2の《ゾンビキャリア》をチューニング! 疾風を纏いて勝利を導け! シンクロ召喚! 羽ばたけ、《スターダスト・ドラゴン》!! さらにチェーン1《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果、チェーン2墓地の《スターダスト・シャオロン》の効果を発動! 逆順処理、《スターダスト・ドラゴン》がシンクロ召喚に成功したことで、墓地の《スターダスト・シャオロン》はフィールドに特殊召喚できる! そして《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果でカードを1枚ドロー」
 《スターダスト・シャオロン》。スターダストの名を関しているがその姿は西洋の「竜」と言うよりは東洋の「龍」と言った感じだ。
(展開が速い……けど、アンナちゃんとの特訓ではこんなものじゃなかった! まだまだ余裕よ!)
「続いて通常召喚。《ジャンク・シンクロン》! その効果で墓地の《音響戦士ベーシス》を特殊召喚! レベル1の《スターダスト・シャオロン》にレベル1の《音響戦士ベーシス》をチューニング! 新たなる力をその身に宿し、奇跡へと通じる道を切り開け! シンクロ召喚! 未来へと駆け抜ける光の使者、《フォーミュラ・シンクロン》!!」
 その効果により1ドロー。さらに《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果でもう1枚ドロー。
「フィールドにチューナーモンスターが存在するとき、このカードは墓地から特殊召喚することができる! 《ボルト・ヘッジホッグ》!」
 便利な自己再生効果を持っているが、1度使用されれば次に送られるのは墓地ではなく除外ゾーン。一度っきりの効果だ。
「レベル2の《ボルト・ヘッジホッグ》にレベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング! シンクロ召喚! 光を憎み光を嫌う機械の兵隊、《A・O・J カタストル》! もちろん1ドロー!」
 減らないどころか増えていく手札。これだけ展開しても手札はまだ5枚。初期手札となんら変わらない量を誇っていた。さらに。
「さてさて、主役の登場だ! レベル8の《スターダスト・ドラゴン》に、レベル2のシンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング! 捕われない風のように、掴むことのできない光のように。その身は怒涛の光となりて、ここに顕現せよ!」
(くるっ……!!)
「アクセルシンクロォ!!」
 目を眩ます様な多大の閃光が会場を包み込む。光りに目が慣れた頃には、すでに「それ」は会場全体を埋め尽くさんばかりの威圧を放っていた。

 Shooting Star Dragon!!!

(……っぅ!!? なんて威圧なの!? 存在としては《シューティング・クェーサー・ドラゴン》が上位のはずなのに、ミハイル君のこれはそれ以上の存在感を持ってる!! あのアンナちゃんを相手取ったときよりも明確に「脅威」を感じる……っ!)
「アンナは、攻撃的なデッキに『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』と言う防御的なデュエルスタイルを合わせることによって「攻防合わせ持つデュエリスト」と言うキャラクターを生み出した。しかしその元祖たるミハイルは、攻撃的なデッキを攻撃的に扱い攻撃し、『明鏡止水(クリア・マインド)』によって無駄に洗練された無駄のない無駄に攻撃的な「超攻撃型のデュエリスト」と言うキャラクターを生み出した。その攻撃力は『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』の中では3番か4番目と言ったところだが、その攻撃の速度は間違いなく1番だ」
 玄が認めるミハイルの実力。その真骨頂はこれからだ。
「まずは《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドロー。そして《シューティング・スター・ドラゴン》の効果を発動! デッキトップから5枚のカードを捲って、その中のチューナーモンスターの数が《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃回数となる! 行くよ!」
(おそらくチューナーの比率は3分の1近い程度には入っているはず。3回攻撃くらいは覚悟しておかないと……)
「1枚目、《クイック・シンクロン》! 2枚目、《ジャンク・シンクロン》! 3枚目、《アンノウン・シンクロン》! 4枚目、《スポーア》、5枚目、《エフェクト・ヴェーラー》! これで5回攻撃ィ!!」
「なっ……!?」
『ミハイル選手ここで5回連続攻撃確定! まだ2ターン目だというのに《TG ハイパー・ライブラリアン》と《A・O・J カタストル》を含めて7回攻撃! 辻垣外選手は防ぎきれんでしょうかっ!?』
「バトルフェイズに入るよ。まずは《TG ハイパー・ライブラリアン》で裏側守備モンスターに攻撃!」
「《ピラミッド・タートル》の効果を発動! デッキから《茫漠の死者》を特殊召喚!」

《茫漠の死者》 ATK:?→4000

(攻撃力4000の《茫漠の死者》なら攻撃力3300の《シューティング・スター・ドラゴン》で超えられないし、闇属性だから《A・O・J カタストル》も無意味! これでこのターンは……)

真子 LP:8000→7400

「はっ……?」
 現れた次の瞬間には《茫漠の死者》は破壊されていた。
「速攻魔法、《イージーチューニング》を発動したよ。僕は墓地の《ジャンク・シンクロン》を除外して、その攻撃力1300ポイント分《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃力を強化!!」

《シューティング・スター・ドラゴン》 ATK:3300→4600

(ほとんど反射みたいな速度で対抗された……速すぎる!)
「バトルは続行! 《シューティング・スター・ドラゴン》の2回目の攻撃!」
「くっ、《リビングデッドの呼び声》を発動! 《ピラミッド・タートル》を特殊召喚!」
 《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃を《ピラミッド・タートル》が受ける。当然なんの壁にもならず、あっさりと破壊される。
「きゃっ……!」

真子 LP:7400→4000

「《ピラミッド・タートル》の効果で《魂を削る死霊》を守備表示で特殊召喚!」
 攻撃性の高い《茫漠の死者》でバトル終了を目論み失敗したことから学習し、今度は防御的な方法でバトル終了を目論む。《魂を削る死霊》は戦闘では破壊されず、また闇属性であるため《A・O・J カタストル》の効果でも破壊されない。
 だが。
「《エネミーコントローラー》第2の効果を発動! 相手モンスター1体の表示形式を変更する!」
 その目的は表示形式の変更ではなく、《魂を削る死霊》の効果を発動のトリガーとすることだった。《魂を削る死霊》はハンデス、戦闘破壊体制というメリットを持っているほかに自壊デメリットを持っている。その発動条件はカードの効果の対象となった時。当然《エネミーコントローラー》でもその効果は発動し、《魂を削る死霊》は自壊を強いられる。
 一瞬で打開される。何の迷いもないプレイング。それこそがミハイル・ジェシャートニコフのデュエルスタイルなのだと、まさにこの瞬間真子は気付かされた。
 不意打ちは効かず、打開策は最善手で破られ、攻撃は急激。その表情は強者の余裕もなく、弱者に対する油断もなく、己の力を過信するわけでもなく、相手の力を見誤ってもいないような、そんな「無」だった。デュエルスタイルが成立している間は彼の心には一切の波紋は立たない。
 これこそが彼の境地にして極地、『明鏡止水(クリア・マインド)』だ。
「地味だが相手にすればはっきり言ってうざいことこの上ない。心理戦もブラフも通用せず、目の前の壁は最短ルートで打ち破っていく。普段の印象からミハイルを甘く見てたら一瞬で狩られちまう」
「すごい……」
 璃奈の口から出たのは純粋な感想。それ以上の言葉として語る術がないほど単純な強さを持つミハイルへの敬意を表す感想だった。
「《魂を削る死霊》は自壊! これで壁はなくなった! 《シューティング・スター・ドラゴン》でダイレクトアタック!!」

 Starlight Extinction!!!

「きゃあああああああああああっ!!」

真子 LP:4000→0

『わ……僅か2ターン目にして決着っ! 初戦を制したのは臨界時高校ミハイル選手です!』
『……彼は藍原学園とのデュエルでも、1人を除いてすべての相手を返しの2ターン目で倒してしまっています。生半可な防御では、神之上高校も藍原学園と同じようにやられてしまいますよ……』
「いっぇーっい!! まず1勝!」
「……はぁ、強いわね、あなた」
 ライフが0となり、真子はミハイルに向かってそう告げる。
「でも……こっちだってそう簡単には負けられないわ。覚悟しておきなさい」
 そう言って真子はミハイルの返答も待たずにステージから降りる。
「鷹崎くん。正直想像以上よ。基本的な動きはアンナちゃんと同じだけど、圧倒的に速さが違いすぎる。気を付けて」
「任せろ。倒すとまでは言えねぇが、一矢ないし二矢くらいは報いてやるよ」
『続いて神之上高校からは、2年生、デュエリストレベル7、鷹崎透選手です! 「速さ」に関しては彼も相当なものを持っていますから、お姉さん的には楽しみな対戦カードです』
「僕はカードを1枚セット。これでターンエンド!」
 開始早々追い込まれてしまった神之上高校決闘部。しかし、デュエルはまだ始まったばかりだ。

第2ターン
鷹崎
LP:8000
手札:5
無し

ミハイル
LP:8000
手札:4
《シューティング・スター・ドラゴン》、《TG ハイパー・ライブラリアン》、《A・O・J カタストル》、SS


 To be continue

     



「俺のターン、ドロー!」
 神之上高校決闘部からは2人目、鷹崎透がステージに立つ。しかし2人目にもかかわらず盤面はまだ3ターン目。眼前にはたったの2ターン、より正確に言うならば返しの1ターンで真子を破ったデュエリスト、ミハイル・ジェシャートニコフが立っていた。
(破壊無効、攻撃無効、連続攻撃の効果を持つ《シューティング・スター・ドラゴン》に加え、同属性以外のモンスターではほぼ無敵の《A・O・J カタストル》。ドローブーストの《TG ハイパー・ライブラリアン》。やっかい極まりないな)
 ドローカードを含め6枚の手札を一瞥する。
(だが、この手札ならスタートとしては悪くない。うまくいけば、このフィールドくらいなら覆せるかもしれない)
「魔法カード、《手札抹殺》を発動!」
「ありゃりゃ、《エフェクト・ヴェーラー》が捨てられちゃったか。4枚捨てて4枚ドローだよ」
(ここで《エフェクト・ヴェーラー》を捨てさせたのは大きい……このまま流れに乗る!)
「5枚捨てて5枚ドロー。さらに、《伝説の白石》2体の効果を発動!」
 《手札抹殺》で捨てられたのは《伝説の白石》2枚と《ガード・オブ・フレムベル》、《デルタフライ》、《スキル・サクセサー》。そして《伝説の白石》が墓地へ送られたことで、デッキから《青眼の白龍》を手札に加える。
「《トレード・イン》で今加えた《青眼の白龍》を墓地へ送り2枚ドロー! さらにもう1枚《トレード・イン》を発動、さらに2枚ドロー!」
 鷹崎お得意のドローブースト。彼のデッキはすでに17枚も掘り進められている。
(よし!)
「《闇の量産工場》を発動。墓地の《青眼の白龍》を回収! 行くぞ、《融合》を発動し、《青眼の究極竜》を融合召喚!!」
 攻撃力4500を誇る最強クラスの3つ首のドラゴン。白く光る体は何物にも汚されず美しく、青い瞳はすべてを飲み込んでしまうかのようだった。
「なるほど……《青眼の究極竜》の攻撃力は4500。だけど《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃力は《イージーチューニング》でアップして4600。でも《シューティング・スター・ドラゴン》が攻撃無効効果を使用すればステータスはリセットされる。それができないのをいいことに《TG ハイパー・ライブラリアン》を殴り倒す気だね。えっと、トオルだっけ? 君結構やるなぁ」
「そりゃあどうも。《青眼の究極竜》で《TG ハイパー・ライブラリアン》に攻撃! アルティメット・バーストォッ!!」
「仕方ないから受けるよー」

ミハイル LP:8000→5900

『……3ターン目にしてミハイル選手のライフに傷を付けたのはいい流れですね。藍原学園が彼のライフを初めて削ったのは7ターン目でしたから、それに比べれば何倍もいい結果と言えますね……』
 明石プロの言う通り、この時点でミハイルに傷を負わせたのは後に繋がる一歩となる。鷹崎がミハイルを打倒することは不可能でも、その役には立てる。これは大きな一歩だ。
 しかし、ここで鷹崎の動きは止まらなかった。
「速攻魔法、《融合解除》! 《青眼の白龍》3体を特殊召喚!」
「……? 分裂したって《シューティング・スター・ドラゴン》はおろか、《A・O・J カタストル》にも勝てないよ?」
「いいや、これでいい。《青眼の白龍》2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 轟く雷により終焉をもたらせ、《サンダーエンド・ドラゴン》!!」
 その効果は集団破壊(マス・デストラクション)。しかし、破壊効果である以上《シューティング・スター・ドラゴン》の前には意味を成さない。
「……ってことは、その手札に《シューティング・スター・ドラゴン》を無力化するカードがあるわけだね。《禁じられた聖杯》?」
(ちっ、読まれてる……。この余裕はなんだ? 2枚目の《エフェクト・ヴェーラー》を握ってる? いや、例えそうでもここでこいつの効果を撃たない意味はねぇ。ここはとにかく攻める!)

《サンダーエンド・ドラゴン》 ORU:2→1

 鷹崎は《サンダーエンド・ドラゴン》の効果を発動。自身のフィールドの《青眼の白龍》を巻き込み、全てのモンスターに雷を落とす。《シューティング・スター・ドラゴン》の破壊無効効果は持っていた《禁じられた聖杯》で封じ、見事ミハイルのフィールドをがら空きにした。
「よしっ!!」
「うーんと、これ……最初から《サンダーエンド・ドラゴン》出してから攻撃したほうがダメージ多かったんじゃない?」
「いや、プレイングとしてはこれであってると思うよ。ダイレクトをトリガーに《冥府の使者ゴーズ》が来るかもしれないし、そもそも《サンダーエンド・ドラゴン》の効果を2枚目の《エフェクト・ヴェーラー》に止められたかもしれないしね」
「あ、なるほど」
 《エフェクト・ヴェーラー》が《手札抹殺》によって1枚墓地へ行ったとは言え、《シューティング・スター・ドラゴン》の効果でデッキ内にまだ眠っていることは判明している。それを考えれば、ダメージが多少少なくなってもこの判断の方が正しいと言えるだろう。
「これで俺はターンエンドだ」
『ミハイル選手の強力な布陣を打ち破っちゃってしまった鷹崎選手! これはひょっとするとひょっとしてしまうかもしれませんよ! お姉さんちょっぴりわくわくしてます!』
『ですけど……ミハイル選手はこの程度では止まりません。むしろ……ここから正念場です……』
 まるで明石プロの発言がトリガーになったかのように、ミハイルは行動する。
「エンドフェイズ、《リビングデッドの呼び声》を発動! 再び舞い上がれ、《シューティング・スター・ドラゴン》!」
 光の粒子と共に墓場よりその姿を再度現す。1ターンすらフィールドを離れてはくれない。
「ちっ、苦労して倒したものを……ッ!!」

第3ターン
鷹崎
LP:8000
手札:2
《サンダーエンド・ドラゴン》、SS

ミハイル
LP:5900
手札:3
《シューティング・スター・ドラゴン》、《リビングデッドの呼び声》

「僕のターン、ドロー! これは想像してたよりも楽しめそうだし……ちょっと気を引き締めないとね」
 ミハイルを包む空気が変わる。真子を撃破したあの瞬間にも似た空気を感じた鷹崎は、無意識のうちに体を強張らせた。
「《シューティング・スター・ドラゴン》の効果発動! デッキトップを捲って攻撃回数をアップ!」
 捲れた5枚のカード。その内容は前のターンと同様5分の5がチューナーだった。2ターン連続5回攻撃権を得た《シューティング・スター・ドラゴン》はその姿をジェット機のように変化させ、攻撃の姿勢を取る。
「バトルッ!! 《サンダーエンド・ドラゴン》に攻撃!」
「くっ……」

鷹崎 LP:8000→7700

「2発目! ダイレクトアタックだ!」

鷹崎 LP:7700→4400

「ぐっ……がら空きのフィールドに無警戒とはな! この瞬間現れろ! 《冥府の使者ゴーズ》! 《冥府の使者カイエントークン》! 《冥府の使者カイエントークン》の攻守は《シューティング・スター・ドラゴン》と同じく3300。突破はできない! これでお前の攻撃は――」

《シューティング・スター・ドラゴン》 ATK:3300→4100

鷹崎 LP:4400→300

 ――防げる。鷹崎の口がそう紡ぎ終わる前に、フィールドは閑散とした有様になっていた。そのフィールドに残っているのは唯一ミハイルのフェイバリットだけだった。
「2枚目の《イージーチューニング》で、墓地の《TG ストライカー》を除外。800アップした攻撃力で、《冥府の使者ゴーズ》と《冥府の使者カイエントークン》を突破。さらにもう1発ダイレクトを決めさせてもらったよ」
 5回すべての攻撃を受けてなお、鷹崎は立っている。そう言えば聞こえはいいが、実際の状況はそう生易しいものではない。圧倒的すぎる。
(気付けなかった。《イージーチューニング》が発動されたのだけならまだしも、《冥府の使者ゴーズ》たちが突破されたことも、ライフが削られたことも……)
 普通ならミハイルと同じ状況にあっても誰もがこのようなパフォーマンスをできるわけではない。デュエルスタイル、『明鏡止水(クリア・マインド)』によって極度の集中状態にあるミハイルだからこそ、あの状況での《冥府の使者ゴーズ》の存在を確信し、完璧かつ鷹崎の意表を突くタイミングでの《イージーチューニング》の発動を成功させたと言っていい。
(速すぎる……あのアンナが霞んで見えるほどに最強だ。これで8番目? この上にまだ7人も最強がいるのかよ……なんて世界だよ、ったく)
「いやー、刈り切れなかったよ。やっぱりクロが見込んだだけはある、トオルは強いよ」
「はっ、どの口が言うんだよ。だが刈り切れなかったのは事実だ。まだ終わってやらねぇぞ」
 ミハイルの口元が僅かに釣り上がる。
「いいなぁ、すっごく楽しいよ。僕はカード1枚セット、ターンエンドだ! さぁ、次はいったい何を見せてくれるんだ!」

第4ターン
鷹崎
LP:300
手札:1
無し

ミハイル
LP:5900
手札:2
《シューティング・スター・ドラゴン》、《リビングデッドの呼び声》、SS

「俺のターン、ドロー」
 このドローで手札は2枚。フィールドは0枚。
(それなりに防御の態勢はとれる。だが……あっちは次のターンのドローで手札は3枚。実際どの程度攻撃を防げるかもわからねぇ。どうせあいつはまた《シューティング・スター・ドラゴン》の効果で5回攻撃を成功させるだろうしな)
 軽くミハイルを睨む。しかしすぐに目線を手札へと戻した。
(下手に延命するよりも、次につなげた方がいい。俺の勝利ではなくチームの勝利を優先させる。なら……)
「《聖刻龍-ドラゴンヌート》を通常召喚。墓地の《スキル・サクセサー》の効果を発動! 《聖刻龍-ドラゴンヌート》の攻撃力を800上げ、さらに効果の対象となったため効果を発動。デッキから通常ドラゴンを1体特殊召喚する。俺はデッキから《アレキサンドライドラゴン》を特殊召喚する」

《聖刻龍-ドラゴンヌート》 ATK:1700→2500

「レベル4の《聖刻龍-ドラゴンヌート》と《アレキサンドライドラゴン》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 打ち抜け、《ガガガガンマン》!」
(へぇ……《交響魔人マエストローク》じゃないんだ。防御じゃなくて攻撃を選ぶか……)
「オーバーレイユニットを取り外し、効果を発動! このモンスターが守備表示の時、相手プレイヤーに800ダメージを与える!」

《ガガガガンマン》 ORU:2→1

ミハイル LP:5900→5100

「俺はカードを1枚伏せる。これでターンエンドだ」
(あとは今伏せた「これ」が決まれば随分と勝ちに近づくが……)
 続いて3度目のミハイルのターン。着実に敗北へと近づいていく。

第5ターン
鷹崎
LP:300
手札:0
《ガガガガンマン》、SS

ミハイル
LP:5100
手札:2
《シューティング・スター・ドラゴン》、《リビングデッドの呼び声》、SS

「僕のターン、ドロー」
 ドローカードを確認し手札に加えると、彼はそのまま《シューティング・スター・ドラゴン》の効果を発動させた。
「捲れたチューナーは当然5枚! 5回連続攻撃! バトルフェイズに入るよ! 《ガガガガンマン》に攻撃!」
「ただでやられるかよ! 《魔法の筒》を発動! 攻撃を無効にしそのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」
 破壊を介さず攻撃を無効にし、大幅にライフを削ることのできる優秀な防御カード。この発動が通ればミハイルのライフは一気に1000まで削れる。鷹崎はデュエルに敗北するが、それでも続く美里が大分楽になる。
 しかしミハイルはそれを打ち破る。
「カウンター罠、《盗賊の七つ道具》! ライフを1000払って罠を無効だ!」

ミハイル LP:5100→4100

「ぐっ……!」
「バトル続行! 《ガガガガンマン》を破壊! さらにダイレクトアタック! スターライト・エクスティンクション!!」
「ぐあああああああっ!」

鷹崎 LP:300→0

『ミハイル選手2連勝! しかし鷹崎選手もミハイル選手のライフを大幅に削りました! 大健闘と言えますよーっ』
 鷹崎はミハイルのライフを合計3900削った。この数値は藍原学園が13ターン……つまりは藍原学園が全力を賭して削った数値と相違ない。それを考えれば、鷹崎の活躍は十分のものと言えるだろう。
(タカサキトオル……デュエリストレベル7、ドラゴン族だけで固めたデッキに大量のドローブーストでフィールド、手札、デッキを高速回転させるプレイングが基本形。この大会は墓地共有のルールがあるから《冥府の使者ゴーズ》や《ガガガガンマン》も採用してたけど、その辺の構築について予想はついてた。けど、想定外だったのはそのプレイング。最初から勝つ気がなかった……違う、最初から自分の力で勝とうとしてなかった。あくまで前座、準備、捨て駒……自分の事を最終的な勝利への1つのピースとしか考えてなかったんだ。生き延びるための防御よりも、少しでも僕のライフを、アドバンテージを削ろうと攻めを繰り返していた)
「トオルはホント面白いなぁ。これはそう遠くないうちに化けるぞぉ」
 ミハイルは笑みを崩さずステージを降りていく鷹崎を、ステージに上ってくる美里を見た。
「悪い……任せる形になっちまった」
「けほっ……いいよ。元からそんなにうまくいく相手じゃないって分かってたんだし、それに……圏内には入ったよ」
「ああ」
 ステージに登っていく美里。その途中何度か咳を手で押さえる。
(また咳き込んでるな。まだ体調は戻ってない……いや、むしろ昨日より悪くなってないか?)
『神之上高校からは3人目、2年生、デュエリストレベル7、秋月美里選手です! ミハイル選手に対抗すべくいったいどんな手を打ってくるのでしょうか?』
「僕はカードを1枚セット、ターンエンド!」

第6ターン
美里
LP:8000
手札:5
無し

ミハイル
LP:4100
手札:2
《シューティング・スター・ドラゴン》、《リビングデッドの呼び声》、SS

「けほっけほっ……私のターン」
 鷹崎の懸念通り、美里の体調は良くなっていないどころか、悪化していた。
(一応昨日はたっぷり休んだんだけど……昨日から酷くなってる)
 見るからに正常ではなかった美里に対し、ミハイルが心配そうに声をかける。
「そんな体で大丈夫? 対戦相手の僕が言うのもなんだけど、休んだ方がいいんじゃ……」
「大丈夫だよ。せめて、君を倒してからじゃないとみんなに顔向けできないし、私もデュエリストだよ。こんなくらいじゃ、デュエルをやめる理由にはならない」
 一瞬キョトンとした顔をするミハイル。しかしすぐに笑みを浮かべた。
「いいな。ホントに君たちは面白い。ああ、それじゃあ遠慮はしないよ! 心行くまでデュエルを楽しもう! 君のターンだぜ!」
「うん。それじゃあ私は……」
 手札から数枚のカードを引き抜く。
「モンスターをセット。カードを2枚セットして、ターン終了だよ」
(ふぅん……意気込んてた割には消極的な一手。こっちの手数が段々と少なくなるのに対し、あっちの手札は6枚の状態からのスタート。この辺で一度《シューティング・スター・ドラゴン》攻略に出てくるかな?)

第7ターン
美里
LP:8000
手札:3
SM、SS×2

ミハイル
LP:4100
手札:2
《シューティング・スター・ドラゴン》、《リビングデッドの呼び声》、SS

「美里ちゃん……」
 遡ることおよそ6時間前。朝食を一緒に取ろうと璃奈が美里を部屋まで呼びに行った時の事だった。

 コンコンコン、と璃奈が美里の部屋のドアを3度ノックする。返事はなかった。しかし鍵は開いていたので、失礼とは思いながらも璃奈は勝手に部屋に入る。
「美里ちゃーん……?」
 ドアから顔を覗かせ中の様子を窺う。やはり返事はない。可能性として、既に1人で食べに行ったのかと思ったが、前日から一緒に朝食を取る約束をしていたのだから、それを反故するとは思えない。次にまだ寝ているのかと思った。彼女は朝にあまり強いとも言えなかったので、その可能性が高いと思っていた。
 事実、彼女は眠っていた。
 しかしベッドの上ではなく床で、さらに正確に言うならば睡眠ではなく気絶していた。
「美里ちゃん!?」
 璃奈はすぐに駆け寄り上半身を抱きかかえて美里に呼びかけた。触れた体は明らかに熱く、少なく見積もっても体温は38度を上回っていただろう。
 呼びかけが十を超えたあたりで美里はようやく意識を取り戻した。
「けほっ、璃奈……ちゃん……? どうしたの……? 今にも泣きそうな顔してるけど? 玄くんに変なことでもされた?」
「美里ちゃん!! 体調が優れないんだったらすぐに言って下さいよ! 心配したじゃないですかぁ……」
 瞳を潤ませる。ここでようやく美里は自分がどんな状況に置かれているのか把握し、俯きながら謝罪した。
「ごめんね……心配させたくなかったんだけど、逆効果だったね。ごめん。本当にごめんなさい」
 何度も謝る。眼鏡を付けていないせいで若干ぼやけた視界と、熱のせいで激しくぼやけた思考で目の前の少女に何度も謝った。
「えっと、とりあえず熱を下げないと……みんなに連絡して、氷出して、それとそれと」
「待って璃奈ちゃん。みんなには……伝えないで」
 璃奈は美里を凝視する。美里も朧気な視界で璃奈を凝視する。美里の表情は完全に病人のそれだったが、意志の強さが感じられた。
「みんなに心配は掛けたくないし、それにもしかしたら私の体調を考えて大会に出るのを自重するかもしれない。みんな優しいから……。でもね、私はみんなと一緒に戦いたい。玄くんと、真子先輩と、音無先輩と、鷹崎くんと、そして璃奈ちゃんと一緒に。だから私に頑張らせて」
 璃奈は涙ぐみながら言葉に詰まる。口を開いたのは2分程度経過してからだった。
「頑張っちゃダメです……なんて言いません。私だって美里ちゃんと一緒に戦いたいです。だから、無理はしないでください」
「ありがとう璃奈ちゃん。大好き」
「私もです。だから絶対に無理だけはしないでくださいよ……」
「うん……うん」
 自分に言い聞かせるように、美里は何度も頷いた。

(あれから市販の熱さまし用のシートを大量に全身に張ったおかげで熱は下がったけど、咳は止まらないしフラフラする。お願いだからあと数ターン、数ターンもって……)
「僕のターン、ドロー!」
(フィールドに出るカードは全部合わせて3枚……今までのデータから考えればセットモンスターの可能性としては《クリッター》、《墓守の偵察者》、《墓守の番兵》あたりかな。セットカードは……破壊系のカード2枚使いで《シューティング・スター・ドラゴン》を突破してくる可能性もある。まぁ一番きついのは《墓守の番兵》だけど、ケアは十分にできる。それ以外は大した障害じゃない。ここは攻撃あるのみだ!)
 この思考にかけた時間はドローフェイズ時の2秒のみ。洗練された思考で最善策を選択する。
 そして再び《シューティング・スター・ドラゴン》の効果を発動。当然のように5枚のチューナーを捲り、4度目の5回攻撃となる。
「セットモンスターに攻撃!」
「《クリッター》の効果を発動。手札に《墓守の番兵》を加えるよ」
(ここで《墓守の番兵》か……。だけど一手遅い! このターンでライフを削り切れば関係ナッシング!)
「2度目の攻撃!」
 ここで美里がセットカードの1枚に手を掛ける。
「《聖なるバリア-ミラーフォース-》! 攻撃モンスターを破壊!」
「《シューティング・スター・ドラゴン》の効果を発動! 破壊効果を無効にし破壊する! クリスタル・ウォール!!」
「もう1枚罠カード発動! 《サンダー・ブレイク》! 《シューティング・スター・ドラゴン》を破壊!」
(やっぱり狙いは2連罠! でも……)
「その程度読んでるよ! カウンター罠、《魔宮の賄賂》!! 魔法・罠を無効化する!」
「くっ……《魔宮の賄賂》の効果で1枚ドロー」
 《サンダー・ブレイク》は虚しく空振り。《シューティング・スター・ドラゴン》は未だ健在しており、その鋭い一撃が美里を襲う。
「きゃあっ!!」

美里 LP:8000→3900

「次の一撃で終わりだ! 行けっ、《シューティング・スター・ドラゴン》!!」
 だが。
「ううん。ここでお終いだよ」
 《シューティング・スター・ドラゴン》は、動かない。いや、動けない。
「えっ……どうしてだ。《シューティング・スター・ドラゴン》! どうして動かない!」
「自分のライフを、よーく確認するといいよ」
 そう言われ怪訝そうな顔をしながらミハイルは自身のデュエルディスクを確認する。すると。
「これは……ッ!?」

ミハイル LP:4100→0

「墓地から、モンスター効果を発動させてもらったよ。けほっ……《ヴォルカニック・カウンター》!」
「なぁっ……!?」
 《ヴォルカニック・カウンター》。炎属性モンスターが墓地に存在するとき、受けた戦闘ダメージをそっくりそのまま相手に与えるカード。ミハイルのライフは4100、そして《イージーチューニング》によって強化された《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃力も4100だ。それによって結果、ミハイルのライフは0となったのだ。
(《ヴォルカニック・カウンター》は今の《サンダー・ブレイク》で捨てたカード。発動条件のトリガーになったのはトオルが《手札抹殺》で捨てた《ガード・オブ・フレムベル》。そこまでは分かった。でもどうしてこの程度のコンボが『明鏡止水(クリア・マインド)』発動状態の僕が気付かなかった? いや、気付けなかったのか……? 藍原学園とのデュエルでは『明鏡止水(クリア・マインド)』は8ターンもった。こんなデュエルをするのは初めてだったから集中力が長持ちしなかったのは事実。それでもこのターンはまだ8ターン目。本当ならここまではまだ発動しているはずなんだ。間違いなく発動はしてたはずだ。なのに、なんだ気付けなかったんだ?)
 極限の集中状態にあるミハイルならば本来この程度のコンボは見破れたはず。しかしそれができなかった。
「……気になってるみたいだね。うん、教えてあげるよ。私は、私たちは君を攻略するために、意識を逸らすための布石を3つ撃った」
「3つの布石……?」
「1つ目は私の体調不良。私の具合が悪くなったのはただの偶然だけど、君は最初に私の事を心配したよね? あの時点でまず1つ目が成功してたんだよ。君のデュエルスタイル『明鏡止水(クリア・マインド)』で「秋月美里は体調が悪い。意識が正常ではない。本来の力を出し切れないだろう」って見抜いた。そのせいでほんの少し、ほんの少しだけ君は警戒心が緩んだ。それは本当に極々僅かだけど、それが後々効いてくる」
 実際彼女は体調不良で万全の状態ではなかった。しかしその程度でデュエルのレベルが下がるほど美里は決意は小さくない。
(偶然でも体調不良になったんだから、そこを利用する。使えるものは全部使わせてもらうよ……)
「2つ目、これは《クリッター》で加えた《墓守の番兵》。あの状況で君が一番厄介だと感じる手は、リバースモンスターが《墓守の番兵》だった場合だよね? きっとそれでも持ち直せたんだろうけど、それでも一番厄介だと感じるのはこの手だったはず。だから私は君の意識に一番大きく出てきている《墓守の番兵》を《クリッター》で加えて、またほんのちょっとだけ警戒を緩ませた」
 ミハイルは無言で美里の話を聞き続けた。その様子を確認して美里は続ける。
「最後に3つ目。罠カード2枚使いの打倒《シューティング・スター・ドラゴン》。《聖なるバリア-ミラーフォース-》が発動した時点でその作戦を確信。だから君は《サンダー・ブレイク》コストである《ヴォルカニック・カウンター》なんか気にも留めず、《シューティング・スター・ドラゴン》で私を攻撃した」
(本当は4つ目もあるんだけど……それは内緒にしとこう)

 それはつい昨日のこと。宮路森高校の試合を録画したビデオを見終わった後の事。美里は玄に読みだされた。
「どうしたの玄くん? できれば早くお休みしたいんだけど……」
 この時点ですでに体調悪化の兆しは出ていた。なるべく早く休み、体調を万全のものにしようとしていた。結局はその思惑もうまくいくことはなかったのだが。ここでは関係のない話。
「ああ、一応お前だけには話しておこうかと思ってな。ミハイルの弱点……ってわけじゃないけど、隙を作るためのヒントを」
「隙を作るための……ヒント? そんなのあるんだ」
「ホントにヒント程度だけどな。美里、お前はミハイルの『明鏡止水(クリア・マインド)』をどう捉えている?」
「どうって……うーんと、相手の動きを読み切って、最善策を最短ルートで叩き込む……みたいな?」
「概ね正解」
 俺からの情報とビデオを見ただけでその回答なら及第点だよ、と玄は付け加えた。
「実はあいつのデュエルスタイルの発動条件はもうちょっと面倒臭くてな。対戦相手の情報を多少なり知ってないといけないんだ」
 実際にデュエルしたことがある者や、デュエルを映像で見たり、その個人の情報を口伝に聞いても構わない。問題はその相手がどんなデュエルをする相手なのかを知っていなければならないのだ。
「あいつはAをされたらBをする。CをされたらDをする。って感じに全ての行動に対しての回答を持ってるわけじゃない。EさんならFのような行動をするからそうしたらGをしよう。と、ある程度の予測、予想がある上での行動を行っているに過ぎない。だから全く知らない情報、思い掛けないような行動をすればそれを覆せる。俺が伝えられるのはこんなもんだ。あとは頑張ってみてくれ」
 そう言って玄は自室へと入っていく。美里は少しその場に棒立ちした後、自室で少し考えた。

(私が今まで使ったことのない《ヴォルカニック・カウンター》。正直思い付きで入れてみたんだけど、いや思い付きで入れからこそうまく行ったのかな)
 実際この話をメンバーたちに話したところ、玄はもちろんほかの4人も賛成した。そうして4つの布石がうまく重なり合い、今のこの状況を作り出した。
「うん……これが私たちの作戦。ぬるっと成功させてもらったよ」
(言うだけなら簡単だ……でもそれを考え、成立させるのは難しい。作戦通りにやったところで普通の人間ならこうはうまくいかない。彼女、ミサトの才能があってこそできる芸当だ)
 美里のデュエルスタイル『羊の皮を被った狼(ミスディレクション)』は、相手の心理の隙を突き、そこから生まれる隙を突く。読まれていたとは言え、1度は玄を苦しめかけたデュエルスタイルだ。特異なルールに加え、『明鏡止水(クリア・マインド)』が切れかかっていたタイミングを突き、美里は見事ミハイルを倒した。
(藍原学園にはこんなことをしてくるデュエリストはいなかった……だから『明鏡止水(クリア・マインド)』の切れかかるタイミングを狙って自らのスタイルを捻じ込んで無理矢理成立させたような作戦。未だにデュエリストレベルが7で留まっていることが不思議なくらいこの子は強い。はぁー、これは完全に一本取られちゃったよ)
「今回のルールだと、僕はこれ以上デュエルを続けられない。メイン2に移動することもできない。完敗だよ」
 くるっと、美里に背を向け、ステージを降りていく。
『あ、あ、あ、秋月選手! 見事『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』であるミハイル選手を倒しましたーっ!! お姉さん興奮が抑えられません! すごいですよ、すごいですね、すごいです! ねっ光ちゃん!』
『はい……正直私もとても驚いています。秋月選手のレベルではミハイル選手に一矢報いることも難しいと思っていましたから……。これは素直にすごいと言えます。……あと、光ちゃんはやめてください。一応、お仕事中です』
 変則的なルールとは言え、あのミハイルをたった8ターンで沈黙させたという偉業に、2人のプロデュエリストだけでなく、観客全員が興奮していた。Aブロックでのミハイルの暴れっぷりを知るものならば余計にそう感じるだろう。
「ごめーん! 負けてきちゃった! 全員……なんて最初から思ってなかったけど、こんなに早く退場させられとは思ってなかったよ」
「馬鹿が。あの手札ならもっと安全に攻めることができただろうが。お前のことだ、どうせ「後のために取って置きたかった」とか考えてたんだろ」
「ここから手札見えてたんだ……目ぇいいなぁカイ。その通りだよ。ホントごめんねー」
「……ふん。ま、今回に限っては許してやるよ。あいつらの実力は本物だ」
「それに、私たちの出番なしじゃつまんないでしょ?」
 横から口を挟んできたのは部長の喜多見。宮路森高校の2番手は彼女だ。
「それじゃ、あの子倒しちゃって来るから、応援よろしくねー」
 軽い調子で喜多見はステージへと登って行った。

第8ターン
美里
LP:3900
手札:3
無し

喜多見
LP:8000
手札:5
《シューティング・スター・ドラゴン》、《リビングデッドの呼び声》

『興奮冷めやらぬうちに次へ行きましょう! ここからは宮路森高校では初お披露目となります。3年生、デュエリストレベル8の部長、喜多見涼香選手ですっ』
「よろしくね」
「……」
(返事はなし……というか聞こえてなさそう。この子、ホントに重症みたいね。こんなコンディションでミハイルくんを倒したの? それとも……こんなコンディションだから倒せたのかしら)
 追い込まれることによって真価を発揮する決闘者と言うのがいる。その究極系が璃奈だと言えるが、美里もそれと同タイプ。フィジカル面に異常をきたすことでその分メンタル面で本来以上のパフォーマンスを起こすことができるのだ。
(ハンドアドバンテージ、ライフアドバンテージ、フィールドアドバンテージ的には私の方が有利。でもこのルール上、ペナルティとでもいうような不利が私を襲う。この状況なら大して気にならないものかもしれないけど、今の状況の秋月さん相手にそれは甘い見積もりかもね)
(……なんとか倒した。ギリギリだったけど第一目標はクリア。でもこの状況でどこまでいける? そもそも私はまだ戦えるの? デュエルディスクがすごく重く感じる。手札を持ってるのも億劫になってきた。投げ出したい。投げてもいい? 投げても許してくれるかも。投げ……)
「美里ちゃんがんばれーっ!!」
 聞こえてきたのは少女の声。小さい頃から何度も聞いたその声は、折れかかっていた彼女の心を繋ぎ止める。
 少女の声のする方向へ振り向きはしない。自分の気持ちは少女には十分通じていると思ったから。
「……うん。ちょっぴり元気出てきた」
「?」
「行きます。私にはまだ、倒れちゃいけない理由ができました……!」



 9-2 ― 繋いだ思いと繋がる想い ―



 To be continue

     



(甘く見てた……)
 『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』のミハイルが倒され、宮路森高校は部長である喜多見がステージへと上がっていた。
 喜多見の手札は初期の5枚のまま。対する美里は3枚。ライフは8000と3900。フィールドにはミハイルの置き土産、《シューティング・スター・ドラゴン》とそれをフィールドに繋ぎ止める《リビングデッドの呼び声》のみ。状況だけを見れば喜多見の圧倒的有利だった。
 しかし今大会のルール、「ターンプレイヤーのライフが0になった場合、メインフェイズ2へ移行することはできず、次のプレイヤーへとバトンタッチし、対戦プレイヤーのターンからスタートする」と言うルールによって、喜多見がバトンタッチしたにも関わらず、美里のターンから行われる。だが状況が状況。多少不利だとは思っても、覆されることはないだろうと思っていた。
 だが。
『喜多見選手のの《リビングデッドの呼び声》をコストに《トラップ・イーター》を特殊召喚し、さらに《墓守の番兵》を通常召喚してダブルアタック! そしてメインフェイズ2に《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》を立てましたーっ!』
「……やられたわ」

喜多見 LP:8000→7000→5100

『《シューティング・スター・ドラゴン》を《リビングデッドの呼び声》を処理することで間接的に除去し、その上先制ダイレクトアタック……。不利な状況を一気に覆しましたね……』
 《トラップ・イーター》は、相手フィールドの表側の永続罠を墓地へ送ることで初めてフィールドに姿を現すことを許されるモンスター。《シューティング・スター・ドラゴン》の破壊無効効果では処理することのできない相手。
 三木島プロが言うほど戦況を覆したわけではない。それでも1:9程度だった勝機が3:7程度まで回復したとは言っていいだろう。
「カードを、1枚セット。これで……ターン終了」
 けほっ、と軽く咳き込む。『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』を相手取り、美里のコンディションはおおよそ最悪のものとなっていた。
(まともにデュエルできるのはあと何ターン? 次のターンまで? それともあと10ターンくらい行ける? どっちにしても、立っていられる間は全力でデュエルする。そうじゃないと、目の前に立っている喜多見さんにも失礼だし、後ろで待ってくれるみんなに合わせる顔がない。それに、私がおもしろくない……!)

第9ターン
美里
LP:3900
手札:1
《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》、SS

喜多見
LP:5100
手札:5
無し

「私のターン! ドロー!」
(手札は結構いい。って言っても一気に攻め立てることができるような手札でもない。なら一手ずつ、確実に潰していく)
「私は《BF-極北のブリザード》を召喚! 効果を発動!」
 《BF-極北のブリザード》は召喚成功時、墓地から「BF」と名のついたレベル4以下のモンスターを蘇生できる。そして墓地にはミハイルが最初の《手札抹殺》で捨てた《BF-疾風のゲイル》がいる。対象はもちろんそれだ。
 しかし。
「させない。《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》の効果を発動! オーバーレイユニットを2つ取り外して、《BF-極北のブリザード》の効果を無効にする! バイス・クロー!!」

《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》 ORU:2→0

 《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》の大きな腕(というか全身)が《BF-極北のブリザード》の小さな体を握り潰す。
「効果は不発ね。まぁ、元々狙いは別にあるんだけど。このカードは、自分フィールドに「BF」と名のついたモンスターがいるとき手札から特殊召喚できる。《BF-黒槍のブラスト》を特殊召喚! さらに、レベル4の《BF-黒槍のブラスト》にレベル2の《BF-極北のブリザード》をチューニング! 漆黒の翼を広げ、地に伏す獲物を刈り取れ! シンクロ召喚! 黒き狩人、《BF-アームズ・ウィング》!!」
 強力な「BF」のシンクロモンスターの1体。その役割は「攻撃」。喜多見は即座にバトルフェイズに入る。
「《BF-アームズ・ウィング》で《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》を攻撃よ!」
「う、く……っ」

美里 LP:3900→3600

 ダメージは少ない。だが今の美里の体にはそれだけで十分に深刻なダメージだった。
「カードを1枚セット。これでターンを終了するわ」

第10ターン
美里
LP:3600
手札:1
SS

喜多見
LP:5100
手札:3
《BF-アームズ・ウィング》、SS

「私のターン、ドロー……けほっけほ……」
 咳き込みながらも手札を一瞥。やれることは少ない。今できる動きを行うしか美里にはない。
「《ホルスの黒炎竜 LV4》を通常召喚。バトルフェイズ、《ホルスの黒炎竜 LV4》で《BF-アームズ・ウィング》を攻撃……」
(ここで攻撃力の低い《ホルスの黒炎竜 LV4》で《BF-アームズ・ウィング》に攻撃。《収縮》か《禁じられた聖槍》を引いたわね……なら)
 喜多見はセットされたカードを発動させる。
「《ゴッドバードアタック》! 《BF-アームズ・ウィング》をコストに、あなたの《ホルスの黒炎竜 LV4》とセットカードを破壊!」
「させ……っない。《スターライト・ロード》を発動! 私のカードが2枚以上破壊する効果が発動されたとき、それを無効化してエクストラデッキから《スターダスト・ドラゴン》を特殊召喚!」
「くっ……」
『《BF-アームズ・ウィング》の犠牲も虚しく、《ゴッドバードアタック》は不発に終わりました! 秋月選手は新たな戦力を得てバトルを続行します!』
 《ホルスの黒炎竜 LV4》の攻撃。これによって喜多見のライフが美里のライフを下回ってしまった。

喜多見 LP:5100→3500

「私はっ、《冥府の使者ゴーズ》の効果を発動! このカードを特殊召喚して、さらに受けたダメージと同じ攻守を持つ《冥府の使者カイエントークン》を特殊召喚!」
(《スターダスト・ドラゴン》の攻撃を受けてから使ったんじゃ流石にライフがまずいことになる。仕方ないけどここはもう使わせてもらうわ……!)
「それじゃあ……《スターダスト・ドラゴン》で《冥府の使者カイエントークン》を破壊」
 《冥府の使者ゴーズ》の守備力は2500……《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力2500と同じであるため、《冥府の使者ゴーズ》を葬ることはできない。
「カードを1枚セット。けほっ……ターン、終了」
(《冥府の使者ゴーズ》が残った。セットカードは十中八九コンバットトリックカード。迂闊には攻められないわね……)

第11ターン
美里
LP:3600
手札:0
《ホルスの黒炎竜 LV4》、《スターダスト・ドラゴン》、SS

喜多見
LP:3500
手札:2
《冥府の使者ゴーズ》

「私のターン。ドロー!」
(よしっ。これなら《ホルスの黒炎竜 LV4》を突破できる!)
「永続魔法、《黒い旋風》を発動! さらに《BF-蒼炎のシュラ》を通常召喚よ!」
 ここで《黒い旋風》の効果が発動。通常召喚された「BF」よりも攻撃力の低い「BF」一体をデッキからサーチする。
「私は《BF-蒼炎のシュラ》の攻撃力は1800。よって攻撃力1300の《BF-疾風のゲイル》をサーチ! そのまま自身の効果で特殊召喚!」
 《BF-疾風のゲイル》も《BF-黒槍のブラスト》同様、フィールドに仲間がいれば自身を特殊召喚することができる。喜多見はさらに《BF-疾風のゲイル》の効果を発動した。

《ホルスの黒炎竜 LV4》 ATK:1600→800

「《ホルスの黒炎竜 LV4》の攻撃を半分に! バトル、《BF-蒼炎のシュラ》で《ホルスの黒炎竜 LV4》に攻撃!」
(《収縮》と《禁じられた聖槍》の両方を警戒して慎重に攻めてきた……。今の私じゃこの人を相手に思考の隙を突くのは難しいかも……っ)
 この時美里が伏せていたのは《禁じられた聖槍》。ここで使用しても《BF-蒼炎のシュラ》を迎え撃つことはできないため使用せず、《BF-蒼炎のシュラ》の攻撃を甘んじて受ける。

美里 LP:3600→2600

「さらに《BF-蒼炎のシュラ》の効果を発動! 相手モンスターを戦闘で破壊したとき、デッキから攻撃力1500以下の「BF」の効果を無効にして特殊召喚! 《BF-大旆のヴァーユ》!」
 喜多見はこの1度の攻撃でバトルフェイズを終了。セットカードを警戒し、攻めずに受けの態勢を取る。
「レベル4の《BF-蒼炎のシュラ》にレベル3の《BF-疾風のゲイル》をチューニング! 漆黒の翼を広げ、無敵の装甲を見せつけろ! シンクロ召喚! 黒き守り手、《BF-アーマード・ウィング》!!」
 戦闘において最高の型さを誇り、「攻め」の《BF-アームズ・ウィング》と対を成す「守り」の「BF」だ。
「さらにもういっちょ! レベル7の《冥府の使者ゴーズ》にレベル1の《BF-大旆のヴァーユ》をチューニング! シンクロ召喚! 不屈の戦士、《ギガンテック・ファイター》!!」
 《ギガンテック・ファイター》はお互いの墓地の戦士族モンスターの数×100ポイント攻撃力を上昇させる。だが現在互いの墓地に戦士族モンスターは存在しない。攻撃力の上昇は起こらない。
(2体とも戦闘に関して言えば無敵と言っても過言ではない強力なシンクロモンスター。やっぱりコンバットトリックを警戒してる……)
「私はこれでターンを終了よ!」

第12ターン
美里
LP:2600
手札:0
《スターダスト・ドラゴン》、SS

喜多見
LP:3500
手札:1
《BF-アーマード・ウィング》、《ギガンテック・ファイター》、《黒い旋風》

「私の……ッ、ターン!」
 ドローカードを確認し、発動を宣言する。
「《貪欲な壺》! 墓地の《ピラミッド・タートル》、《魂を削る死霊》、《クリッター》、《墓守の番兵》、《ホルスの黒炎竜 LV4》をデッキに戻して、2枚ドロー!」
(このタイミングで《貪欲な壺》を引いた!? データにある今までの彼女のデュエルからはこんな展開なかった。明らかに今までとは別人の動きじゃない!)
「なぁ、カイ。これもしかして……」
「ああ。間違いないな」
「えーっと、2人とも何の話をしてるんですか?」
 戒とミハイルの会話に首を傾げたのは鼬之原。2人の視線が彼に向けられる。
「あいつ、えーっとなんて言ったけ。あー、そう、秋月だったか。あいつのデュエリストレベルは8に上がってる。ミハイルとのデュエルを通してな」
「え?」
 鼬之原が驚いた。ミハイルとのデュエルを通して彼女のデュエリストレベルが上がった、と言うのはもちろんそうなんだが、それ以上に。
「そんなもの見て分かるんですか、針間先輩は?」
「俺は目がいいからな」
 理由になってない、と鼬之原は心の中でつっこんだ。
 同時刻、玄も同じく美里の異変に気づいており、神之上高校のメンバーたちにその説明を行っていた。
「最悪のコンディション、圧倒的強者とのデュエル。そういった極限の状態で美里は進化し、真価を発揮した。どうも奇妙だとは思ってたんだよ。ミハイルならあのレベルの作戦に気付く可能性は五分五分。ギリギリのところで気付かれるんじゃないかと思ってたけど、美里のデュエリストレベルが8に上昇してたのなら『羊の皮をかぶった狼(ミスディレクション)』の精度も上昇してるはず。これなら五分どころか十中八九成功する」
「美里ちゃんすごい……こんな土壇場でデュエリストレベルが上がるなんて!」
 璃奈が感嘆の声を上げる中、鷹崎はぼそっと呟いた。
「……離されちまったか」
「ん? 鷹崎、何か言ったか?」
「いいや、何も」
 各校のメンバーたちが会話を進めている間も、ステージの上ではデュエルが展開される。
(変な感じ……今にも倒れちゃいそうなくらい体がフラフラなのに、頭だけはすごくスッキリしてる。今なら……負ける気がしない!)
「魔法カード、発動! 《ブラック・ホール》!! フィールドのすべてのモンスターを破壊する!」
 《BF-アーマード・ウィング》と《ギガンテック・ファイター》は戦闘においては無敵に近い性能を持った強力なシンクロモンスターだ。しかし、効果破壊による体制は皆無。抵抗することもできずに重力の渦へと飲み込まれる。
「リバースカード、《禁じられた聖槍》を発動。《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力を800下げる代わりに、このカード以外の魔法・罠の影響を受けなくなる!」
「くっ」

《スターダスト・ドラゴン》 ATK:2500→1700

「《スターダスト・ドラゴン》でダイレクトアタック! シューティング・ソニック!!」

喜多見 LP:3500→1800

『《スターダスト・ドラゴン》のダイレクトアタックでライフはまたまた逆転! 喜多見選手のライフは2000を切ってしまいましたよーっ』
『それでも喜多見選手の墓地には「あの」カードがありますし……フィールドにも《黒い旋風》は残っています。まだ勝負はどうなるか分かりませんね……』
「はぁ、はぁ……私は、カードをセット。ターン、終了……」

第13ターン
美里
LP:2600
手札:0
《スターダスト・ドラゴン》、SS

喜多見
LP:1800
手札:1
《黒い旋風》

「私のターン、ドロー!」
(彼女は強い。それは事実よ。だけど……これでも私は宮路森高校決闘部の部長を任されてるんだ! 負けるわけにはいかない!)
「相手フィールドにモンスターが存在し、私のフィールドにモンスターがいないとき《BF-暁のシロッコ》はリリースなしで通常召喚できる!」
 そして《黒い旋風》の効果でデッキから《BF-黒槍のブラスト》をサーチする。 
「さらに、墓地の《BF-大旆のヴァーユ》の効果を発動! このカードと墓地の《BF-アーマード・ウィング》をゲームから除外し、レベル8の《BF-孤高のシルバー・ウィンド》をエクストラデッキから特殊召喚!」
 《BF-大旆のヴァーユ》の効果によって現れた《BF-孤高のシルバー・ウィンド》。その攻撃力は2800。《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力2500を超えている。しかし喜多見はそれを守備表示で特殊召喚した。
(今まで通りコンバットトリックはもちろん、《聖なるバリア-ミラーフォース-》を警戒するならココは《BF-暁のシロッコ》の効果を活用して単騎で攻める!)
「《BF-黒槍のブラスト》を守備表示で特殊召喚! そして、《BF-暁のシロッコ》の効果を発動!」
 1ターンに1度、「BF」1体を選択し、その攻撃力にほかのすべての「BF」の攻撃力を付加することができる。《BF-暁のシロッコ》の攻撃力2000に、《BF-黒槍のブラスト》の攻撃力1700と《BF-孤高のシルバー・ウィンド》の攻撃力2800を上乗せする。

《BF-暁のシロッコ》 ATK:2000→6500

「攻撃力6500……!」
(これなら《収縮》も《禁じられた聖槍》は大して意味がないし、《聖なるバリア-ミラーフォース-》が来ても破壊されるのは《BF-暁のシロッコ》だけ。そしてそうなっても、このターン引いた《次元幽閉》で対処できる。問題はないわ!)
「バトルよ。《BF-暁のシロッコ》で《スターダスト・ドラゴン》に攻撃!」
「速攻魔法、発動!」

美里 LP:2600→0

喜多見 LP:1800→0

『な……っ!?』
『両選手……ライフポイント、0……ですか?』
「これは……《ヴォルカニック・カウンター》!?」
 ミハイルのライフを0にした《ヴォルカニック・カウンター》。その効果が再び発動された。
「速攻魔法、《異次元からの埋葬》を発動させました……けほっ」
 除外されているカードを3枚まで墓地へ戻すことのできる速攻魔法。これで除外されていた《ヴォルカニック・カウンター》を墓地へと再び埋葬し、その効果によって《BF-暁のシロッコ》と《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力差、4000のダーメジがお互いのライフから削られ、共倒れと言う形になった。
「本来のルールなら、《ヴォルカニック・カウンター》の効果は自身がダメージを受けた後に相手プレイヤーにダメージが与えられる。そのため自分のライフが0になった場合はその処理がされずに負けが確定し、引き分けと言う結果にはならない。だけど今大会のルールでは、デュエルを引き継ぐプレイヤーがいるのならばその処理は行われ、相手プレイヤーにもダメージが与えられるという裁定が出てる。ちゃんと先日運営本部に電話してたしかめたから間違いないぜ」
 玄がその場の全員に引き分けと言う極めて稀な状況の説明を行う。
「大会専用の特殊裁定か。あるかもわからないこんな状況の裁定を確認しているとは……さすがは白神だな」
(負ける気がしないって思ってたけど、勝ってもいない。引き分けってオチとしてはどうなんだろう? でもそんなに贅沢言えないよね。引き分けにできただけ十分……かな。ちょっと頭痛い。熱も出てきたかも。視界がぼやけてる。足に力が入らない。倒れ……)
 体が前後に大きく揺れている。このまま倒れては体へと大きな衝撃が走ることとなる。そのことを理解していても体が言うことを聞かない。重力に身を任せ、美里の体は直立を保てなくなり、遂に前方に大きく倒れこんだ。
 だが、地面へと激突することはなく、ぽすっと誰かの胸と腕に支えられバランスを保っていた。
「大丈夫……秋月さん?」
「喜多見……さん?」
「すごい熱。こんな状況でミハイルくんと私とデュエルしてたなんて……あなたほんとにすごいわ」
 そう言いながら喜多見は美里を背負い、会場の出口の方へと向かった。
「え……っと、喜多見さん? 何を?」
「こんな状態なあなたを放っておけないでしょ。このまま医務室連れて行って多少は看病しようと思うけど……大丈夫かしら、神之上高校一同さん?」
「問題ないよ。と言うかありがたい。ご厚意に甘えるとするよ」
「あ……っと、ありがとう、ございます……」
 そう言って美里は喜多見の背中に身を任せる。
「そう、それじゃあ行ってくるわ。針間くーん、ちょっと抜けてるから、その間任せたわよー!」
 それだけ言い残し、美里を背負い退場する。おそらくは備え付けの中継画面からデュエルの経過を見守る気だろう。
「ったく、お人好しだな喜多見は」
「だからこそ喜多見先輩は僕たちの部長なんですよ。それじゃあ次、行ってきます」
「おう、気を付けろよ鼬之原。向こうの部長は、少々手強そうだ」
「はい」
『秋月選手は喜多見選手と共に医務室へ行ったようですね。それでは気を取り直して試合を再開しまーっす! 宮路森高校からは唯一の1年生、デュエリストレベル7の鼬之原宋次郎選手! 神之上高校からは3年生、デュエリストレベル8の部長さん、音無祐介選手です!』
『今大会のルールだと、宮路森高校側のターンでデュエルが中断しているため、神之上高校側のターンからスタートします……』

《BF-暁のシロッコ》 ATK:6500→2000

第14ターン
音無
LP:8000
手札:5
無し

鼬之原
LP:8000
手札:5
《BF-暁のシロッコ》、《BF-黒槍のブラスト》、《BF-孤高のシルバー・ウィンド》、《黒い旋風》

(僕のフィールドには喜多見先輩が残した「BF」が3体……相手のターンから始まるとはいえ、有利なのは僕だ。このデュエルは取らせてもらいます!)
 だが。
「それじゃ、僕ターン。ドロー」
 音無祐介にとってその程度のアドバンテージはハンデになりすらしない。



 9-3 ― 風向き ―



(風はこっちから吹いてる。ミハイル先輩が作って喜多見先輩が繋いだ流れを途絶えさせない……!)
「このモンスターは相手フィールドにモンスターが存在し、僕のフィールドにモンスターが存在しないとき特殊召喚できる。《サイバー・ドラゴン》!」
(【サイバー・ダーク】……別名【裏サイバー流】。それに【サイバー流】のギミックを組み込んだ亜種型のデッキを使ってくる。事前に確認してたデータ通りみたいだ。ここからさらに通常召喚を絡めて《BF-暁のシロッコ》と《BF-黒槍のブラスト》を破壊する気か……。でも、それなら《BF-孤高のシルバー・ウィンド》は残るし、そこで生まれるアドバンテージ差を少しずつ広げさせてもらいます)
 しかし、音無はその予想を裏切る。
「《融合呪印生物-光》を通常召喚! 効果を発動!」
(……ッ!? そんなものまで入ってるのか!?)
 その効果によって《融合呪印生物-光》と融合素材モンスターをフィールドから墓地へ送り、エクストラデッキから光属性の融合モンスターを特殊召喚する。現れたのは双頭の機械竜。
「《サイバー・ツイン・ドラゴン》を特殊召喚! そして機械族専用装備魔法《ブレイク・ドロー》を装備。バトル、《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《BF-暁のシロッコ》に攻撃!」
「くっ……」

鼬之原 LP:8000→7200

「《ブレイク・ドロー》の効果が発動。このカードは装備後3ターンしかフィールドに存在できないが、装備モンスターが相手モンスターを戦闘で破壊したいとき、デッキからカードを1枚ドローする。そして《サイバー・ツイン・ドラゴン》は1度のバトルフェイズ中に2度の攻撃を行うことができるモンスター……もう一撃、《BF-孤高のシルバー・ウィンド》に攻撃! エヴェリューション・ツイン・バースト!!」
 《BF-孤高のシルバー・ウィンド》も2つの口から発射されたエネルギー砲によって破壊される。そして再び《ブレイク・ドロー》の効果によって1枚ドロー。
『これで互いに手札は5枚。フィールドにはモンスターゾーン、魔法・罠ゾーンにそれぞれ1枚ずつカードが置かれている状況! 勝負は五分五分となっちゃいました!』
(アドバンテージ差は一瞬で詰められた。三木島プロの言う通り、これでほとんど状況は五分……でも、実力はそうとは限らない。明らかに僕よりも格上の相手。普通にやっても勝てない)
「僕はカードを2枚セット。これでターンエンドだ」

第15ターン
音無
LP:8000
手札:3
《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《ブレイク・ドロー》、SS×2

鼬之原
LP:7200
手札:5
《BF-黒槍のブラスト》、《黒い旋風》

「僕のターン、ドロー!」
(だからこそ、僕はいつも通りのデュエルをする。下手なことをしてあっけなく負けるわけにはいかない。当然勝ちは目指すけど、仮に負けても続く人たちが少しでも楽になるようにする!)
 手札6枚をじっくりと眺めながら長考する。
(攻撃力2000を超えるようなの高攻撃力のモンスターを序盤からガンガン使用して大幅にライフを削りながら、相手の動きを全て読み切っているかのように伏せカードで相手の動きを制するのがこの人の得意なプレイング。モンスターで攻め、魔法と罠で守る。とても当たり前でありふれたプレイング。だけでその当たり前でありふれたものをここまで高いクオリティで行うのは至難の業。隙らしい隙はない。それなら防御が追いつかなくなるくらいの攻めで隙を作る!)
「《手札断殺》を発動! 手札2枚を墓地へ送って2枚ドロー! 《紋章獣レオ》と《紋章獣アバコーンウェイ》を墓地へ」
「僕は《ハウンド・ドラゴン》と《サイバー・ダーク・エッジ》を墓地へ送り、2枚ドロー」
 《手札断殺》で墓地へ送られた《紋章獣レオ》の効果が発動。墓地へ送られた時、デッキから「紋章獣」1体をサーチする。鼬之原はデッキより《紋章獣ツインヘッド・イーグル》を手札に加えた。
「そしてそのまま通常召喚! そして鳥獣族レベル4モンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 吹き荒れろ、《零鳥獣シルフィーネ》!!」
 《紋章獣ツインヘッド・イーグル》と《BF-黒槍のブラスト》によって構築された氷のエクシーズモンスター。早速鼬之原はその効果を使用する。

《零鳥獣シルフィーネ》 ORU:2→1

「オーバーレイユニットを1つ取り外し、効果を発動! 相手フィールドの表側カードの効果をすべて無効にし、このカード以外の表側のカード1枚につきこのモンスターの攻撃力を300ポイントアップす……」
 ガチッ、と何か鉄のようなものが当たった音が鳴る。音無のフィールドから放たれた無数の鎖が《零鳥獣シルフィーネ》の体を縛り上げた音だった。
「《デモンズ・チェーン》を発動。《零鳥獣シルフィーネ》から効果と攻撃権を奪わせてもらったよ」
「くっ……なら次です! 《高等紋章術》を発動! 墓地の《紋章獣アバコーンウェイ》と《紋章獣ツインヘッド・イーグル》を一度フィールドを経由させてからオーバーレイ! エクシーズ召喚! 轟け、《電光千鳥》!! エクシーズ召喚成功時、セットされたカード1枚をデッキボトムに送ることが出来る! もう1枚のセットカードを選択!」
「《奈落の落とし穴》。《電光千鳥》を破壊しゲームから除外する」
 奈落の底へと追いやられる《電光千鳥》。鼬之原の攻めは次々といなされる。しかし。
「これで……伏せカードはなくなりました。魔法カード発動!《おろかな埋葬》を発動。デッキから《ダンディライオン》を墓地へ送って、その効果で《綿毛トークン》2体を特殊召喚!」
「トークン生成? 君のデッキが【紋章獣】であることを考えれば《クイック・シンクロン》からのシンクロかな?」
 それならば考えられる手は《ジャンク・アーチャー》でのダイレクトアタックか、《ニトロ・ウォリアー》で《サイバー・ツイン・ドラゴン》と相殺。
(どちらにしても痛手にはならないね……)
 しかし鼬之原のとった行動は全く別のものだった。
「《綿毛トークン》2体と、墓地のモンスター1体をゲームから除外!」
「!?」
 珍しい召喚条件を持ったそのモンスターは、大きな翼を広げ大気を震わせる色鮮やかな怪鳥だった。
「《The アトモスフィア》を特殊召喚!!」
『……最上級にも関わらず攻撃力はたったの1000。ですが《The アトモスフィア》は相手モンスター1体を吸収して、そのモンスターの攻撃力を自身の攻撃力に付加する効果を持ています。鼬之原選手の目的は最初からこれだったようですね……』
『音無選手の防御札がなくなるタイミングを狙ったんですねっ! これが決まれば流れは完全に鼬之原選手のもの。やや強引ではありますけど、うまい運び方です!』
「効果発動! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》を吸収します!」
 大気が紐となり綱となり鎖となって《サイバー・ツイン・ドラゴン》に巻きつく。しかし、次の瞬間には大気は緩み双頭の機械竜は自由を取り戻した。
「《エフェクト・ヴェーラー》。手札からこのモンスターを墓地へ送り、《The アトモスフィア》の効果を無効にさせてもらった。デュエルはまだ始まったばかりだ。そう焦ることはないんじゃないかな?」
「……もう16ターン目ですけどね」
(ああ駄目だ。風は……向こうから吹いている)
 風向きはもう、変わっている。


 To be continue

     



『凄まじい勢いで繰り出された《零鳥獣シルフィーネ》、《電光千鳥》、《The アトモスフィア》の鳥獣族三連投! ですが音無選手はその全てを防ぎきってしまいます! 決勝戦も中盤に差し掛かってまいりましたーっ! 勝利はどちらの手にっ』
「僕はターンを終了します……」
(伏せる札はない……このままだと2ターン前とはアドバンテージ差が逆転してしまう!)

第16ターン
音無
LP:8000
手札:2
《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《ブレイク・ドロー》、《デモンズ・チェーン》

鼬之原
LP:7200
手札:2
《零鳥獣シルフィーネ》、《The アトモスフィア》、《黒い旋風》

「僕のターン、ドロー!」
 このドローで手札は3枚。鼬之原の《手札断殺》で準備は整っている。相手に守るための札はなし。躊躇いなく攻めていく。
「《サイバー・ダーク・ホーン》を通常召喚! 効果で墓地の《ハウンド・ドラゴン》を装備し、その攻撃力1700分自身の攻撃力をアップ!」

《サイバー・ダーク・ホーン》 ATK:800→2500

(くっ……僕の《手札断殺》で結果的に向こうの展開速度を上げてしまった。いや、やってしまったことを後悔しても遅い。今は目の前の状況を何とかすることに集中しないと)
「バトルフェイズに入ろう。まずは《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《零鳥獣シルフィーネ》を攻撃!」

鼬之原 LP:7200→6400

「《ブレイク・ドロー》の効果で1枚ドロー。さらに、もう一撃! 《The アトモスフィア》を破壊しろ! エヴォリューション・ツイン・バースト!!」
「ぐっ……ぅ!」

鼬之原 LP:6400→4600

 当然《ブレイク・ドロー》の効果でカードをドロー。
「続いて《サイバー・ダーク・ホーン》でダイレクトアタック!」
 鋭く研ぎ澄まされた機械生物がプレイヤーに向かって突撃する。しかし、その攻撃は突如現れた壁に阻まれる。
「ダイレクトアタックを宣言されたとき、このモンスター手札から特殊召喚できる。《ガガガガードナー》を守備表示で特殊召喚!」
 守備力2000の壁。だがドラゴンの力を吸収し強化された《サイバー・ダーク・ホーン》の攻撃力2500前のでは意味を成さない。構わず突進する。
「《ガガガガードナー》の効果を発動! 攻撃対象に選択されたとき、手札1枚を捨てることで戦闘破壊を免れる! 僕は《紋章獣レオ》を捨てて破壊を無効!」
「だけど《サイバー・ダーク・ホーン》には守備貫通効果がある。ダメージは受けてもらうよ!」
「捨てられた《紋章獣レオ》の効果が発動します。デッキから《紋章獣アバコーンウェイ》をサーチ!」

鼬之原 LP:4600→4100

『手に汗握る攻防! 鼬之原選手は大幅にライフを削られながらも守り、次の一手への布石を打ちます!』
「カードを1枚セット。ターンエンドだ」

第17ターン
音無
LP:8000
手札:3
《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《サイバー・ダーク・ホーン》、《ブレイク・ドロー》、《ハウンド・ドラゴン》(装備)、SS

鼬之原
LP:4600
手札:1
《ガガガガードナー》、《黒い旋風》

「僕ターン!」
 鼬之原の手札は2枚。1枚は《紋章獣レオ》の効果でサーチした《紋章獣アバコーンウェイ》。そしてこのターンドローした《紋章変換》は「紋章獣」の特殊召喚とバトルフェイズをスキップする効果を持つ罠カードだ。
(《紋章獣アバコーンウェイ》を通常召喚すれば4×2のランク4エクシーズが出せる。そして《紋章獣アバコーンウェイ》が墓地に行けばその効果で《紋章獣レオ》を回収して《紋章変換》も使えるし、まだ大丈夫だ!)
「《紋章獣アバコーンウェイ》を通常召喚! レベル4の《ガガガガードナー》と《紋章獣アバコーンウェイ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 打ち抜け、《ガガガガンマン》!! オーバーレイユニットを1つ取り外して、効果を発動!」

《ガガガガンマン》 ORU:2→1

「このモンスターが攻撃表示のとき、モンスターと戦闘を行うダメージステップ時このモンスターの攻撃力を1000ポイント上げ、戦闘するモンスターの攻撃力を500下げる。バトル! 《ガガガガンマン》で《サイバー・ツイン・ドラゴン》に攻撃!」
 銃口が《サイバー・ツイン・ドラゴン》に向けられる。しかし、その攻撃が行われることはなかった。
「バトルフェイズ移行時、罠カードを発動。《魔のデッキ破壊ウィルス》! 攻撃力2000以上のモンスター《サイバー・ダーク・ホーン》をリリースし、相手のフィールド、手札の攻撃力1500以下のモンスターを全て破壊する。《ガガガガンマン》を破壊。手札も確認させてもらうよ」
 《ガガガガンマン》はダメージステップに入らなければ攻撃力が上昇しない。素の攻撃力は《魔のデッキ破壊ウィルス》の効果圏内、ぴったり1500だ。
 鼬之原は《魔のデッキ破壊ウィルス》の効果処理通り手札を見せる。
「《紋章変換》か。破壊されるのは《ガガガガンマン》だけだね」
 音無の消費は2枚、鼬之原が失ったのは1枚だけ。そう考えればディスアドバンテージを負ったのは音無の方。だが、手札を見られてしまっては鼬之原の動きが筒抜けになったも同然。損害の大きさは明らかだった。
「僕は……カードを1枚伏せて、《紋章獣アバコーンウェイ》の効果で別の《紋章獣アバコーンウェイ》を除外し、《紋章獣レオ》を回しゅ……」
「チェーン、《D.D.クロウ》。このカードを墓地へ送り、《紋章獣レオ》をゲームから除外する」
 《紋章変換》を発動させるためのコストさえ奪われる。もはや鼬之原に音無の攻撃を防ぐ術は何一つとして残されていなかった。
「っ……ターン、終了……です」

第18ターン
音無
LP:8000
手札:2
《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《ブレイク・ドロー》

鼬之原
LP:4600
手札:0
《黒い旋風》、SS

「僕のターン! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》で2度のダイレクトアタック! エヴォリューション・ツイン・バーストォ!」
(なんなんだこの人は……これで本当にデュエリストレベル8? 明らかにその枠を逸脱してる……!)
「うわああああああああっ!!」

鼬之原 LP:4600→1800→0

『決着ですっ。音無選手、ノーダメージで鼬之原選手に勝利しました!』
『これで両校とも残っている選手は3名ずつ……序盤でミハイル選手が付けた差はなくなってしまいました』
『会場の皆様の予想を裏切る展開!! 熱くなってきましたー! それでは宮路森高校からはデュエリストレベル7、2年生の神宮寺一二三選手です!』
「神宮寺先輩、気を付けて下さい」
「おう、任せとけっ!」
 音無はメイン2へ移行。カードをセットし、ターンを終えた。
「カードを1枚セット。このエンドフェイズ時、《ブレイク・ドロー》発動から3ターンが経過したため自動的に破壊される」
 この《ブレイク・ドロー》によって音無がドローしたカードは合計4枚。3ターンだけの役目とはいえ、十分な活躍だろう。
「ターンエンドだ」

第19ターン
音無
LP:8000
手札:2
《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《サイバー・ダーク・キール》、《ハウンド・ドラゴン》(装備)、SS

神宮寺
LP:8000
手札:5
《黒い旋風》、SS

「僕のターン、ドロー!」
『ウイルスカードはドローしたカードを逐一確認して、効果圏内のカードを破壊していくカードです。だけど、今大会の特殊裁定では、ウイルスを掛けられたプレイヤーが退場して後続のプレイヤーにバトンタッチした場合その効力は切れる、と言うことになっています……』
『つまり神宮寺選手に対して《魔のデッキ破壊ウィルス》は適用されない、ってことですねっ!』
 それは神宮寺に対しては朗報であると同時に音無に対しての悲報。しかし音無もその程度把握した上でのこと。なんら問題はない、と言う風だった。
「魔法カード、《大嵐》発動! 魔法・罠ゾーンのカード全てを破壊する!」
 互いに魔法・罠が2枚ずつフィールドに存在する。しかし神宮寺の魔法・罠はすでに意味のない《黒い旋風》とセットされた《紋章変換》だ。ダメージを受けるのは音無だけとなる。しかし。
「チェーンして《八汰烏の骸》を発動! デッキからカードを1枚ドロー」
 セットカードはブラフ。だが伏せがブラフだと分かった今、神宮寺は心置きなく攻めることができる。
(さて……鼬之原君とのデュエルで多少カードを使いすぎた感はある。こっちのフィールドには2800の《サイバー・ツイン・ドラゴン》もいるけど、向こうの手札はまだ5枚。こっちには伏せもないし、これくらいはこのターン中には抜けられそうだ。問題は次のターンの切り返しだけど……まぁ、問題はないか)
「僕は《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!」
「……っ!」
『ここで神宮寺選手、音無選手と同じく《サイバー・ドラゴン》を出してきましたっ! と言うことは……』
『「アレ」が来ますね……』
「《サイバー・ドラゴン》と《サイバー・ツイン・ドラゴン》を素材に、融合召喚!!」
 《融合》のカードを必要としない特殊な融合方法。その上その素材対象は相手フィールドにも及ぶ。自身が機械族であるにもかかわらず、機械族キラーと呼ばれる要塞。

 Chimeratech Fortress Dragon!!!

 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》。その攻撃力は素材としたモンスターの数×1000ポイントとなる。
 素材となったのは《サイバー・ドラゴン》、《サイバー・ツイン・ドラゴン》の2体。よって《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》攻撃力は……。

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》 ATK:0→2000

 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力自体は低い。だが、これで音無のフィールドにカードは存在しない。完全に無防備な状態となった。
「さらに《ブリキンギョ》を通常召喚。効果で《イエロー・ガジェット》を特殊召喚!」
 《イエロー・ガジェット》の効果でデッキから《グリーン・ガジェット》をサーチ。そして。
「機械族レベル4モンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 歯車の戦士、《ギアギガント X》!! 効果発動!」

《ギアギガント X》 ORU:2→1

「オーバーレイユニットを1つ取り外し、デッキまたは墓地からレベル4以下の機械族モンスターを手札に加える! 《マシンナーズ・ギアフレーム》をデッキからサーチ!」
(典型的な【マシンガジェット】……! 少しやっかいかな)
「バトル! 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》、《ギアギガント X》でダイレクトアターック!!」
「ぐっ……うわぁっ!!」

音無 LP:8000→6000→3700

『音無選手ここで初ダメージです! 一気にライフポイントを持っていかれちゃいましたーっ!!』
「ふふん! どうだっ! 僕はカードを2枚セットして、ターンエンド!!」
「……結構痛いなぁ。これはきっちりお返ししないと駄目だね」

第20ターン
音無
LP:2700
手札:3
無し

神宮寺
LP:8000
手札:2
《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》、《ギアギガント X》、SS×2

「僕のターン、ドロー」
(思ったより落ち着いてるなぁ……向こうの手札は4枚、フィールドはがら空き。こっちのフィールドには《ギアギガント X》と攻撃力2000の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に2枚の伏せカード。モンスター自体はそう大したものじゃないけど、簡単に覆される状況じゃないはず……)
 音無は手札から1枚のカードを引き抜く。するとフィールドに突風が吹き荒れた。
「《大嵐》を発動。君の2枚の伏せカードを破壊させてもらうよ」
「同じ手で来たか! でも……《スターライト・ロード》を発動! 自分のカードが2枚以上破壊カード効果が発動されたとき、そのカードを無効化し破壊。さらにエクストラデッキから《スターダスト・ドラゴン》を特種召喚する! 飛翔しろ《スターダスト・ドラゴン》!」
 吹き荒れる突風を押し退け、風を纏い星屑の竜が現れる。
 だが、隙間を縫うようにして新たに旋風が巻き起こり、神宮寺のセットカード――《神の警告》――が破壊された。
「《スターライト・ロード》にチェーンして《サイクロン》を発動。もう1枚のセットカードを破壊させてもらったよ」
『んー? このプレイング、どう思いますか明石プロ?』
『そうですね……何か逆転の大技を狙っているなら《スターライト・ロード》を警戒して《サイクロン》で1枚破壊してから《大嵐》を発動してもおかしくありません。ですが……これはチーム戦ですし、なるべく手札を温存しておきたかったのかもしれませんね』
『うーん……何か音無選手らしくないというか、何かが引っかかってるんですよねー』
(確かにおかしい……)
 鼬之原も三木島プロの感じていた違和感を同じように感じていた。
(あの人は恐ろしいくらいこっちの手を読んでくる。中型モンスターを2体並べ、伏せカードも2枚。この状況なら《スターライト・ロード》伏せられてると考えても何もおかしくない。それを音無さんが読めなかった? それとも、わざと……?)
 その疑問は、音無の繰り出す1枚の魔法によってスッキリ解決された。
「続いて魔法カード、《オーバーロード・フュージョン》を発動!」
 闇属性・機械族専用の融合カード。音無は墓地から5体のモンスターをゲームから除外した。
「《サイバー・ドラゴン》、《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《サイバー・ダーク・エッジ》、《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・キール》をゲームから除外し、融合召喚! 現れろ……」

 Chimeratech Overdragon!!!

 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》。神宮寺の召喚した《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》とは同系統の強力な融合モンスター。素材の数×800ポイントの攻撃力を得て、同じく素材の数だけモンスターに攻撃することができる。その強力な効果の代償として融合召喚時に自身以外の自分のフィールドのカードをすべて破壊してしまうが、現在音無のフィールドには《キメラテック・オーバー・ドラゴン》のみのため損害は0となる。
「5体のモンスター素材としたため攻撃力は4000ポイント! さらにモンスターに5回攻撃が可能となる!」

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》 ATK:?→4000

(そうか……攻撃回数を増やし、ダメージをより多く与えるために《スターライト・ロード》を使わせたのか!)
(でもこれで僕が受けるダメージは合計5200……大ダメージだけどライフはまだ2800残るし、返せない状況じゃない!)
「さらに、機械族専用装備魔法《重力砲》を《キメラテック・オーバー・ドラゴン》に装備! その効果で《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の攻撃力を400ポイントアップさせる!」

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》 ATK:4000→4400

(攻撃力が400ポイントアップしても受けるダメージは合計1200増えて6400……ん? 待てよ……《重力砲》? ってことは――)
「――しまった」
 《重力砲》には攻撃力上昇効果だけでなく、もう1つ効果が存在する。装備モンスターと戦闘したモンスターの効果をダメージステップ終了時まで無効化する。《ギアギガント X》や《スターダスト・ドラゴン》の効果が無効になったところで今は関係ない。だが、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は別。《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は自身の効果によって保たれているもの。つまり。
「《重力砲》を装備した《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の前ではただの攻撃力0のモンスター。いくよ、バトルフェイズ! 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》で全モンスターに攻撃! エヴォリューション・リザルト・バーストォッ!! 3連打ァ!」
「うっ、うわああああああああああっっ!!!

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》 ATK:2000→0

神宮寺 LP:8000→3600→1500→0

『大ダメージを受けたと思ったら次のターンには1ターンキル! 神宮寺選手を2ターンで退場させてしまいました!』
『と言いますかこれは……』
「形勢逆転……だね」
 宮路森高校は残り2人。対する神之上高校は音無を含めて3人。ミハイルの付けた数の差はこれで逆転した。
「くっそー! 勝てると思ったのにーっ!! 悔しーっい!」
「そう凹むな神宮寺。あれを相手に4000以上ライフ削っただけで十分だ。それに今ので向こうの手札は0枚。よくやったよお前は」
「そうそう。こっちにはカイがいるし……ナオも残ってるんだぜ」
 全員の目線が十時直に向けられる。その視線を感じたのか、十時ははぁと溜め息をついた。
「はぁ、私の出番……ね。やってくるわよ。約束通りね。それでいいんでしょ?」
「ああ。頼んだぞ」
 十時は無言でステージへと登っていく。長い前髪が邪魔をして表情は全く読めない。



 9-4 ― もう一つの壁 ―



 会場入口付近。たったったったったったっ、と走る6つの足音が響く。
「ああもう。始まってから大分経っちゃったじゃない! 誰のせいよ!」
「姉さんが乗る電車を間違えたからじゃ……」
「あんたのせいよ!」
「ええっ!? なんで僕に責任転嫁!?」
「はいはい分かったから。口じゃなくて足動かしなさい」
「会場にとーちゃくっ! クロたちのデュエルはどこでやってるのかなー?」
「あそこだな。歓声が聞こえる」
『それでは宮路森高校からは5人目です!』
「あらあら。もうそんなに進んじゃってるの? アンナのお兄さんはもう負けちゃったみたいね」
「もちろんだよ! アンナが一生懸命マコとトオルとミサトを特訓してあげたんだからっ!」
 栖鳳学園決闘部。東ブロック決勝で玄たち神之上高校決闘部デュエルし、接戦の末に本戦への切符を逃した6人。
 金銭面の関係で2日間来ることはできず、決勝である本日のみ玄たちを応援しにやってきたのだが、諸事情のため会場に着くのが遅れてしまい、終盤になってようやく観客席まで辿り着いたのだ。
「ふぅ、ようやく着いたわ。今ステージに立ってるのは音無くんと……誰かしら? 見たことないわね」
(ん? あの女どこかで……)

『なんとデュエリストレベル10! 3年生、十時直選手です!』
『2人の『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』のほかにデュエリストレベル10のデュエリスト……神之上高校がチームでのデュエルを意識しているのに対して、宮路森高校は個人の強さを前面に押しているように感じられますね……』
「僕のターンはこれで終わりだ。ターンエンド」

第21ターン
音無
LP:3700
手札:0
《キメラテック・オーバー・ドラゴン》、《重力砲》

十時
LP:8000
手札:5
無し

「……ドロー」
 気怠そうにカードをドローし、十時のターンが始まる。
「魔法カード、《トレード・イン》。手札の《銀河眼の光子竜》をコストに、2枚ドロー」
(《銀河眼の光子竜》……【フォトン】かな。彼女のデュエリストレベルは10。この状況から何ターン堪えられるか)
 この時、音無にしては珍しく相手の事を読み切れていなかった。
 攻撃力4400、戦闘モンスターの効果を無効化する《キメラテック・オーバー・ドラゴン》が場にいるのだから、そう易々と盤面は覆らないはず……そう思っていた。だが。
「《未来への想い》を発動。墓地からレベルの違うモンスター3体の効果を無効化し、攻撃力を0にして特殊召喚」
 十時は《銀河眼の光子竜》、《イエロー・ガジェット》、《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚。

《銀河眼の光子竜》 ATK:3000→0

《イエロー・ガジェット》 ATK:1200→0

《サイバー・ドラゴン》 ATK:2000→0

 《未来への想い》は3体のモンスターを特殊召喚できる強力な効果を持っているが、発動ターンはエクシーズ召喚以外の特殊召喚ができない上、そのターン中にエクシーズ召喚しなければ4000のライフを失ってしまう。まさに諸刃の剣と言ったところだろう。
「《ギャラクシー・クィーンズ・ライト》を発動……自分フィールドのモンスターのレベルを《銀河眼の光子竜》のレベルに揃える」

《イエロー・ガジェット》 LV:4→8

《サイバー・ドラゴン》 LV:5→8

「この流れは、まさか……っ!?」
「レベル8のモンスター3体で、オーバーレイ」
 3体のモンスターが光の球となり、螺旋状に交わり、ビッグ・バンを彷彿させるような大きな爆発を生む。
「轟く銀河よ……至高の光となりて、ここに顕現しろ……。エクシーズ召喚」

 Neo Galaxy-Eyes Photon Dragon!!!

 三つ首のドラゴン。全身を赤く光らせ、その鋭い眼光は名の通り銀河を映し出している。
「このモンスターが《銀河眼の光子竜》を素材としてエクシーズ召喚に成功したとき、このカード以外の表側でフィールドに存在するカードの効果を全て無効化する」
 効果が無効となった《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の攻撃力は著しく減少する。かろうじて《重力砲》の効果によるアタックの上昇分のみが攻撃力として反映されるが、《超銀河眼の光子龍》の前では何の意味もなさない。

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》 ATK:4400→400

「バトルフェイズ。《超銀河眼の光子龍》で《キメラテック・オーバー・ドラゴン》に攻撃……!」

 Ultimate Photon Stream!!!

「ぐっ……ぁあああっ!!」

音無 LP:2700→0

「《銀河眼の光子竜》……ということは間違いないな……」
「……? 鳳先輩、あの人のこと知ってるんですか?」
 観客席からただ一点を凝視する鳳に向かって冬樹が問いかける。
「ああ。俺が優勝した3年前の全国中学生デュエル大会。それの準優勝者があいつ、十時直だ」
 鳳の様子とは裏腹に、栖鳳の者たちの反応は薄かった。
「ふぅーん、じゃあ少なくとも昔は鳳くんの方が強かったわけね。今のデュエリストレベルは彼女のが上みたいだけど」
「それがそうでもないのよね」
 答えたのは鳳ではなく彩花。そのまま話を続ける。
「私も今思い出したんだけど、瞬ちゃんと十時さんはその年の2大優勝候補だったのよ」
 《ネフティスの鳳凰神》を主軸とし、トリッキーな戦術で確実に追い詰めていく鳳。《銀河眼の光子竜》を主軸とし、圧倒的攻撃性で一気に場を制圧する十時。他の追随を許さず、そうなることが決まっていたかのように2人は決勝へと駒を進めた。
「だが、十時は決勝の舞台に現れることはなかった。不戦勝……それがあの大会の結末だ。それ以来、俺はアンナと出会うまでデュエルをやめた。その間、十時もデュエルをやめていたと聞いていたが……」
「瞬ちゃん同様アンナに……『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』に出会ったことで、デュエルを再開したってことね」
「鳳先輩はアンナを通してデュエルの楽しさを思い出した。それじゃあ十時さんも同じように……?」
(いや……1ターン。たったの1ターンだが、十時のデュエルからは楽しんでいるという風には見えなかった。むしろこれは……)

『宮路森高校、追い抜かれても即座に追いつきましたっ』
『連続で対戦プレイヤーが交代していきましたが、次はどうなるでしょうね……』
『神之上高校からも5人目、デュエリストレベル6ながらも大きな爆発力を備えています! 1年生、早川璃奈選手です!』
「気を付けなよ。ミハイル君、針間君と同様に、彼女は僕たちにとってもう一つの壁となる」
「はい。頑張ってきます」
 璃奈がステージに到着すると、十時はメインフェイズ2へと移行する。
「……カードを2枚セット。ターンエンド」

第22ターン
璃奈
LP:8000
手札:5
無し

十時
LP:8000
手札:2
《超銀河眼の光子龍》、SS×2

 このデュエルが、このチーム戦の勝利に大きく関わるであろうことを、両チームはもちろん、会場中の全員が感じていた。
 片やレベル10の《銀河眼の光子竜》使い。片やレベル6の《E・HERO ネオス》使い。
 圧倒と破壊。展開と蘇生。瞬殺と必殺。似て非なるデュエルをする2人の決闘者。
 ここまでのデュエル、同じ決闘者が多くのターンを1人の決闘者と戦うことはなかった。それはデュエリストとしての実力が拮抗したデュエルが、強いて言うならば美里と喜多見のデュエルくらいしかなかったためだと言えるだろう。
 ならばこの2人はどうだろうか。デュエリストレベルだけを見ればその差は歴然。しかしそれがすべてを物語るわけではなかった。
 またこのデュエルは、チームの勝敗を揺るがすだけでなく、1人の少女のこれからに、大きく関わるデュエルにもなることを、この会場にいるすべての人間はまだ知らない。

       

表紙

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Neetsha