Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第1話 黄金色の決闘

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 決闘者(デュエリスト)。
 デッキからカードを引き、手札からカードを使い、場にカードを置き、墓地へカードを送り、どこからともなくカードを除外する。
 モンスターを使役してライフを削り、魔法を駆使して戦いを加速させ、罠を仕掛けて相手を騙し、決闘(デュエル)を行う者。それが決闘者。
 決闘とは遊戯であり、運動であり、文学であり、宗教であり、狩猟であり、睡眠であり、青春であり、魔法であり、教育であり、恋愛であり、食事であり、芸術であり、欲望であり、排泄であり、人生であり、決闘である。
 決闘を構成する6つの要素というものがある。「構築力」、「戦術」、「精神力」、「体力」、「運」、「異能」。
 構築力がなければデッキは完成しない。完成していないデッキなどただの紙束だ。
 戦術がなければ戦いとは言えない。目の前にあるカードを無為に使うことなど赤子でも可能だ。
 精神力がなければ心などすぐさま折れてしまう。諦めたらそこで決闘は終了なのだ。
 体力がなければ肉体などすぐさま崩れてしまう。強靭な肉体にこそ強靭な決闘が宿る。
 運がなければ奇跡など起こせない。奇跡のない決闘など牛肉の抜けた牛丼に等しい。
 異能などない。だがそれに準ずるものを異能と呼ぶことはある。
 例えば、そう例えばだ。代表的かつ有名な例に、真の決闘者は有色の波動(オーラ)を纏う、というものがある。迷信に過ぎないが、与太話としては丁度いい。
 真の決闘者は有色の波動を纏い、またその波動を目視できるのも真の決闘者だけ。
 その色は決闘者そのものを表すという。
 例えば灼熱の様な赤。例えば深海の様な青。例えば森林の様な緑。例えば雷撃の様な黄。例えば大地の様な茶。例えば闇夜の様な黒。例えば閃光の様な白。
 ならば……光り輝かんばかりの、すべてを覆い尽くすほどの黄金色ならば、いったいどんな決闘者を表すのだろうか?
 あくまで、例えばの話だ。



 某月某日某時刻。
 辺り一面が桜色になるまであと少し、というそんな時期。天候は極めて青天。気温、湿度ともに良好。眠気を誘うような温かな陽気に包まれている。
 そんな本日、カードショップ「MAGIC BOX」主催の非公認の小規模デュエル大会では、決勝戦が行われているところだった。
 店外のデュエルスペースには2人の決闘者。1人は腰にまで届きそうな長髪の少女。その対面には眼鏡をかけた大学生くらいの青年。周りには10人程度観客。
 盤面はすでに第5ターンのエンドフェイズ。少女がエンドを宣言し、続いて青年のターンだ。

第5ターン
少女
LP:6000
手札:2
《E・HERO ネオス》、SS(セットスペル)

青年
LP:3100
手札:2
SS

「俺ターン、ドロー」
 デッキからカードを1枚引き抜き、即座に1枚のカードをモンスターゾーンに叩きつける。
「俺は《甲虫装機 ダンセル》を通常召喚。効果を発動し、墓地の《甲虫装機 ホーネット》を《甲虫装機 ダンセル》に装備する」
 甲虫装機――最近大会で猛威を振るうカード群の1つ。虫の貧弱なイメージとは掛け離れた強力な効果を持つ。少女のほうがライフ、手札、フィールドにおいて圧倒的有利な状況とはいえ、油断できない状況だ。 
 だが。
「させません。手札から墓地へ送ることで《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動。《甲虫装機 ダンセル》の効果を無効にします」
 効果は無効化されてしまい、《甲虫装機 ホーネット》を装備できなくなった。《甲虫装機 ダンセル》から効果を取れば見た目通りの弱小モンスターだ。
「くっ、なら次だ。リバースカード発動! 《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地にいる《甲虫装機 ダンセル》を特殊召喚!」
「それもさせません。《ヒーロー・ブラスト》!」
 墓地の通常「E・HERO」1体を手札に回収し、その攻撃力以下の相手モンスターを破壊する罠カード。少女が回収したのは攻撃力1900の《E・HERO アナザー・ネオス》。《甲虫装機 ダンセル》の攻撃力は1000。当然破壊される。
「……カードを1枚伏せて、ターン終了」
 召喚権は使用し、もはや打てる手がない。ターン終了の宣言がフィールドに響く。

第6ターン
少女
LP:6000
手札:2
《E・HERO ネオス》

青年
LP:3100
手札:1
《甲虫装機 ダンセル》、SS

「私のターン、ドロー。魔法カード発動、《O-オーバーソウル》! 2枚目の《E・HERO ネオス》を特殊召喚!!」
 少女のデッキ、【ネオスビート】の核となるモンスター、《E・HERO ネオス》。「E・HERO」、「通常モンスター」、「戦士族」であるためサポートカードが豊富。故にあらゆる方法で、あらゆる角度からフィールドに現れる。
「バトルフェイズ、《E・HERO ネオス》で《甲虫装機 ダンセル》に攻撃です!」
「通さん! 《次元幽閉》!」
 除外されては流石の《E・HERO ネオス》といえど帰還は難しい。もちろん、その対策を少女がしていない訳ではない。
「速攻魔法、《超融合》! 手札1枚をコストに、《E・HERO ネオス》と《甲虫装機 ダンセル》を融合! 《E・HERO エスクリダオ》!!」
 《E・HERO エスクリダオ》の攻撃力は墓地の「E・HERO」の数×100ポイント上昇する。少女の墓地には4体の「E・HERO」。

《E・HERO エスクリダオ》 ATK:2500→2900

 まだ少女バトルフェイズは続いている。
「もう1体の《E・HERO ネオス》と《E・HERO エスクリダオ》でダイレクトアタック!」
「ぐあああああっ!」

青年 LP:3100→600→0

 結果、少女が圧倒的力量差を見せ付け、大会は幕を閉じた。


「ふぅ」
 少女――早川璃奈(はやかわりな)――は大会終了後、優勝賞品であるプロモカードを受け取り、店外のベンチに腰を下ろした。
 今年度で15歳となった彼女の前には、高校受験という人生の壁が待っていた。そのせいで受験勉強に集中せざるを得ない状況となり、カードには全くと言っていいほど触れていなかった。大会はおろか、デュエルするのも数ヶ月ぶりだ。
 しかし、その甲斐あってか見事第一志望の高校に合格。努力が報われたことや、知り合いがいる高校に受かったこと以上に、「これで心おきなくデュエルができる」という気持ち方が強く、早速大会に出場して、貯まっていた鬱憤を発散するように優勝。
「うーん、疲れましたぁ」
 自動販売機で買ったミルクティーを一口飲んで、ベンチに背中を預ける。
 少し目を閉じると突然疲れが出てきて、すぐに眠ってしまいそうになる。ここで眠ってはいけない、と頭を左右にぶんぶんと振り、もう一口ミルクティーに口を付けてその場に立ち上がる。
 久しぶりのデュエルで舞い上がったのか、彼女は多少の疲労感を感じていた。段々と瞼が重くなるのを感じ、眠気が襲ってくる。
「もう家に帰って寝てしまいましょうか……」
 と言いながらも再びベンチに座る。睡眠の欲求に素直に従って目を閉じてしまっていた。おそらくこういう人間が朝、親に起こされて「後5分~」などと眠そうな声で呟くのだろう。
 と、夢の国へと飛び立つ5秒前というところで。
「あのー、ちょっといいかな?」
 不意に声を掛けられた。
 パチッと目を開き、声のする方へ顔を上げると同年代の少年。身長は璃奈と大差ない。ちなみに璃奈の身長は(去年の記録では)160cm。少年は160cmを少しオーバーした程度だろう。163~164cmと言ったところだろう。
「は、はいっ! な……なんでございましょうか……?」
 テンパりすぎてわけのわからない口調になっていた。頬を赤くし、眠そうだった目をごしごしと拭い始める。
「ここでデュエル大会が開かれてるはずなんだけど……もしかしてもう終わった?」
 そんな璃奈の調子は気にもせず、会話を進める。この口ぶりからするに、ここの大会に参加する気でいたらしい。つまりはこの少年もデュエリスト。
「はい、30分くらい前に終わったところです」
「うわー、マジか。少し道に迷ってたらこれだよ。ったく俺って奴は……」
 道に迷った、と言う台詞から察するに、どうやらこの少年はここの住人ではない、あるいは最近引っ越してきたということらしい。
(デュエリスト……でしょうし、せっかくですからデュエルを申し込みましょうか? 眠気も飛ぶかもしれませんし、それにまだまだデュエルし足りなかったところです)
 そんな事を考えていると、再び声を掛けられる。
「それじゃあ、その大会の優勝者とかまだ店内にいたりする? せっかく来たし、せめて強いデュエリストとデュエルしたいかなー、と思ったんだけど」
 都合が良かった、と璃奈は思った。利害、と言うか目的は一致してる。
「その優勝者って私なんですけど……よかったらお相手お願いします」
 一瞬驚いた顔をするも、少年はすぐに笑顔に変わった。
「それじゃ、よろしく。えっと……」
「早川璃奈です。名字でも、名前でも、お好きな方で」
「早川……か。うん、俺は白神玄(しらがみくろ)。こっちも好きに呼んでくれて構わないよ」
 自己紹介終了。
 早速デュエルの準備に入る。店の横のスペースにデュエルディスク用のデュエルスペース(決勝戦を行った場所)へと移動する。
「えっと……迷ったって言ってましたけど、こっちにお引越しされたんですか?」
 デュエルスペースに向かう途中、とりあえず世間話を。
「ああ、そうだよ。一身上の都合でこっちの高校に転入することになってな。神之上(かみのかみ)高校ってとこの2年生だ」
「え、神之上って……私が今年から入学する高校です。と言うか、年上だったんだすね」
 璃奈、内心ではとてつもない驚きを見せる。
「ってことはそっちは年下か。身長のせいなのかよく間違えられる」
「あ、ごめんなさい。えーっと、白神先輩……って呼んだ方がいいですかね?」
 4月から同じ学校の先輩なのだ。やはりそう呼ばなければならないだろう。
「いや、先輩はよしてくれ。あと名字で呼ぶのも出来ればやめてくれ。あんまり好きじゃないんだ。名前で構わないよ。知人からはよく、「シロ」とか「クロ」とか呼ばれてるけど」
(猫みたい)
「今猫みたいだと思っただろ」
「いえ、全然」
 思いましたごめんなさい、と心の中で謝罪。
「うーんと、じゃあ……クロ先輩」
「だから先輩は無しの方向で」
「注文多いですね。じゃあ、クロ……くん?」
 冗談半分で璃奈が言うと。
「あー、いいよそれで。うん、気楽に行こう気楽に」
(適当ですね)
 そんな話をしているうちにデュエルスペースに到着。両者とも持参している鞄の中からデュエルディスクを取り出し、左手に装着。そして、対面に立ちデュエルディスクにデッキをセット、そして自動でシャッフル。お互いに5枚のカードをデッキからドローし、初期手札として構える。
 準備は万端だ。
「それじゃあ、お手柔らかに」
「こちらこそ」

「「デュエル!!」」

 デュエルディスクがランダムで先攻後攻を決める。玄のデュエルディスクのターンランプが点滅。玄が先攻だ。
「俺のターン、ドロー。そうだな……まずは手堅く行くか。モンスターをセットし、カードを2枚セット。さらにフィールド魔法、《岩投げエリア》を発動」
 ソリッドビジョンシステムによって辺りの風景が一変。投石場の様な空間に包み込まれる。
「ターンエンド」

第1ターン

LP:8000
手札:2
SM(セットモンスター)、《岩投げエリア》、SS×2

璃奈
LP:8000
手札:5
無し

「私のターン」
 《岩投げエリア》。デッキから岩石族モンスターを墓地へ送ることで戦闘破壊を無効化するフィールド魔法。
(ってことは、クロくんのデッキは【岩石族】で間違いありませんね。岩石族は全種族の中でも最高の防御力を持ったカード群。突破するのは少し難しいですけど……)
「このモンスターは自分フィール上にモンスターがいない時に特殊召喚できます。《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚!」
(突破するのは難しいけど、無理じゃありません)
「さらに、《E-エマージェンシーコール》を発動。デッキから「E・HERO」1体を手札に加えます。《E-エマージェンシーコール》を加わえ、そのまま召喚。効果発動、デッキから《E・HERO プリズマー》をサーチ!」
 これでフィールドにレベル4のモンスターが2体並んだ。
「私は、レベル4の戦士族モンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《機甲忍者ブレード・ハート》!!」
 両手に刀を携えた漆黒の戦士がフィールドに現れる。その真っ黒な全身は、暗闇で見つけることはさぞ難しいことだろう。今は真昼間だが。
「オーバーレイユニットを1つ取り外して、効果発動! このターン《機甲忍者ブレード・ハート》に2回の攻撃権を与えます!」

《機甲忍者ブレード・ハート》 ORU(オーバーレイユニット):2→1

「最初っから全速力だな」
「行きますよ。バトルフェイズ! 守備モンスターに攻撃!」
「守備モンスターは《メタモルポット》だ。《岩投げエリア》の効果で《ゴゴゴゴーレム》を墓地へ送り戦闘破壊を代替わり。そして《メタモルポット》の効果が発動!」
 《メタモルポット》はリバースした時、互いの手札を全て捨て、5枚ずつドローさせる効果を持つ。
(さっきサーチしたばかりの《E・HERO プリズマー》が……。あ、でも《オネスト》を引けました)
 それ以外にも汎用魔法・罠が手札に数枚加わる。
「もう1度《機甲忍者ブレード・ハート》攻撃です!!」
 この時、思わぬ収穫に浮かれていて璃奈は気付かなかった。ここで攻撃するのは当たり前だ。だが、もし気付いていれば、攻撃を止めていたかもしれない。気付いていれば……玄の口元が吊り上っていることに。

「再び、《メタモルポット》の効果発動!!」

「え」
(な……なんで!? リバース効果をもう一度使えるわけがありません! でも、処理は行われているし……いや、これは《月の書》!? 攻撃宣言時に《月の書》で《メタモルポット》をセット状態に戻してもう1度効果を発動させたんですか!?)
 【ハイパー・メタモル・ターボ】――制限カードを2枚も使用した大掛かりな手札交換コンボ。出番も無く《オネスト》を含めた数枚の強力カードが墓地へ。
「メインフェイズ2に入ります。カードを2枚伏せて、ターン終りょ」
「その瞬間、リバース罠オープン! 《砂塵の大竜巻》! セットカードの1枚を破壊する」
 ターン終了宣言のタイミングを狙い、璃奈の台詞を遮り即座にスペルを除去する。
(《リビングデッドの呼び声》が……)
「そしてこの効果で手札のカード1枚をセットする。これでターン終了だな?」
 何もすることは無くなり、ターン終了を宣言。

第2ターン

LP:8000
手札:4
《岩投げエリア》、SS

璃奈
LP:8000
手札:3
《機甲忍者ブレード・ハート》、SS

「俺のターン、ドロー。墓地の岩石族2体をゲームから除外し、特殊召喚!!」

 Gaia Plate the Eart Giant!!!

 軽い召喚条件と攻撃的な効果から岩石族の切り札として名を轟かせるカードの1枚。これを残せばフィールドを圧倒し続ける。
(でも)
「通しませんよ! リバースカード、《奈落の落とし穴》を発動! コストのカードと仲良く一緒に除外されてもらいます!!」
 しかし、むざむざと通す玄では無い。
「伏せられたカードの1枚が《リビングデッドの呼び声》だった時点で、もう1枚が破壊系のカードである可能性は高い。そのことを考慮しないとでも思ったか? 《地球巨人 ガイア・プレート》をリリースし、速攻魔法発動! 《エネミーコントローラー》!! その忍者野郎のコントロールを得る!!」
「しま……っ!」
「そしてオーバーレイユニットを取り外し、《機甲忍者ブレード・ハート》の効果発動! 2回攻撃権を付加!」

《機甲忍者ブレード・ハート》 ORU:1→0

「バトルフェイズ、ダイレクトアタック!」
「きゃぁっ……!」

璃奈 LP:8000→5800

「くっ……私のフィールドにカードが存在しない状態でダメージを受けた時、手札から《冥府の使者ゴーズ》を特殊召喚です! さらにその効果で、受けたダメージと同じ攻守を持つ《冥府の使者カイエントークン》を特殊召喚!!」
 攻守2200の《冥府の使者カイエントークン》が現れる。相殺を防ぐために両方守備表示。これで戦力を削られることも、これ以上のダメージを受けることも無くなった。
 はずだった。
「甘い! リバース罠、《化石岩の解放》! 除外されている岩石族、2枚目の《地球巨人 ガイア・プレート》を特殊召喚! 《冥府の使者ゴーズ》を粉砕!!」
(また《地球巨人 ガイア・プレート》!? さっきの召喚コストで除外していたんですか!?)
「メイン2に移行。《機甲忍者ブレード・ハート》をリリースして、《ヴェルズ・ゴーレム》をアドバンス召喚し、効果を発動。1ターンに1度、闇属性以外のレベル5以上のモンスター1体を破壊する。《冥府の使者カイエントークン》を破壊!」
 《奈落の落とし穴》はかわされ、《機甲忍者ブレード・ハート》は有効活用され、防御と反撃ために用意した《冥府の使者ゴーズ》と《冥府の使者カイエントークン》は場に存在せず、さらには大型モンスターを展開される。
「ターンエ……なんか嫌な予感がするな」
「?」
 そこで突然ターンエンド宣言を中断。
「ここはまだ動いておくか。《化石岩の解放》を墓地へ送り、《マジック・プランター》を発動。デッキからカードを2枚ドロー」
 《化石岩の解放》が無くなったことで《地球巨人 ガイア・プレート》が墓地へ。
(戦力を削ってまでドロー? どういうことでしょう?)
「なんですか、そのプレイング?」
「なんとなくだ、気にするなよ。カードをセット、ターンエンド」

第3ターン

LP:8000
手札:2
《ヴェルズ・ゴーレム》、《岩投げエリア》、SS

璃奈
LP:5800
手札2
無し

「私のターン、ドロー」
 玄の不可思議なプレイングに疑問を持ちながら自分のターンに移行すると、璃奈は無言で驚愕した。
 ドローしたカードは《ブラック・ホール》。フィールドのモンスターを全て破壊する集団破壊魔法(マス・デストラクション・マジック)。つまり、あのまま玄がターンを終了していれば、《地球巨人 ガイア・プレート》と《ヴェルズ・ゴーレム》を破壊し、《化石岩の解放》もフィールドには残らず、《マジック・プランター》は手札で腐っていた。もしこうなっていれば璃奈が有利にデュエルを進められていたはずだ。
(まさか……「嫌な予感がする」って言うのは、このこと? そんなインスピレーションだけであのプレイングを?)
「どうした? 早川のターンだぜ」
「璃奈でいいですよ。ちょっと考え事してました」
(考えていても仕方がありませんね。今はできることをするだけです!)
 思考を切り替える。今彼女が考えるべきなのは玄を倒すことだ。
「魔法カード発動、《ブラック・ホール》!!」
 渦巻く重力空間が《ヴェルズ・ゴーレム》を包み破壊する。
 《ヴェルズ・ゴーレム》1体に《ブラック・ホール》はもったいと感じるかもしれないが、使用しなければ攻めに転じられない。多少無理でもしなければ、璃奈は玄には敵わないだろう。
「さらに魔法カード、《O-オーバーソウル》! 墓地の《E・HERO ネオス》を特殊召喚します!」
「《メタモルポット》の効果で落ちてたのか」
 璃奈のフェイバリット。何度でも蘇る不屈の魂を持つヒーローだ。
「バトルフェイズ、《E・HERO ネオス》でクロくんにダイレクトアタック! ラス・オブ・ネオス!」
 攻撃が通る。だが彼のライフには傷一つ付いていなかった。
「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動。ダメージを0にし、カードを1枚ドロー」
 未だライフは無傷。攻撃が通らない。
「カードを伏せて、ターン……終了です」

第4ターン

LP:8000
手札:3
《岩投げエリア》

璃奈
LP:5800
手札:0
《E・HERO ネオス》、SS

「俺のターン、ドロー。《ゴゴゴジャイアント》を通常召喚し、効果を発動。墓地の《ゴゴゴゴーレム》を守備表示で特殊召喚し、その後このカード自身も守備表示になる」
 玄のフィールドにレベル4のモンスターが2体並ぶ。目的は至って明瞭だ。
「俺は、レベル4の《ゴゴゴゴーレム》と《ゴゴゴジャイアント》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 砕け、《ジェムナイト・パール》!!」
 効果がない代わりに高い攻撃力をもったランク4のエクシーズモンスター。《E・HERO ネオス》の攻撃力をわずかに上回っている。
「バトルフェイズ、《ジェムナイト・パール》で《E・HERO ネオス》を攻撃!」

璃奈 LP:5800→5700

(ここですっ!)
「リバースカード発動! 《極星宝レーヴァテイン》!」
「チェーン不可能の破壊カードか」
「はい。癖はありますけど、慣れれば頼もしいカードですよ」
(そして、条件もそろいました)
「これでフィールドも手札も0。お望みは「あれ」……いや、「あれ」の可能性もあるのか」
 玄の言うとおり、彼女の狙いはこの状況を打開できる可能性のある2枚のカードのどちらか。
 初期手札で5枚、通常のドローで1枚、《E-エマージェンシーコール》で1枚、《E・HERO エアーマン》の効果で1枚、《メタモルポット》の効果×2回で10枚、通常のドローで1枚。よって合計19枚。残りのデッキ枚数は21枚。引きたいカードはデッキ内に5枚。確率は約24パーセント。
(絶対に無理って数字じゃありません。ここは何としても引かないと)
「カードを2枚セット、ターンエンド」

第5ターン

LP:8000
手札:1
《岩投げエリア》、SS×2

璃奈
LP:5700
手札:0
無し

「私のターン!!」
 恐る恐るドローを確認する璃奈。結果は……。
「……っ! 来ました!! 墓地の「E・HERO」5枚をデッキに戻して《ホープ・オブ・フィフス》を発動です!」
 墓地の「E・HERO」をデッキに戻すことでカードを2枚ドロー出来るカード。
(だけど)
「フィールドと手札が0枚なら、ドロー量は3枚!!」
 《E・HERO エアーマン》、《E・HERO プリズマー》、《E・HERO ネオス》、《メタモルポット》で墓地に送られた《E・HERO アナザー・ネオス》2枚。合計5枚のカードを戻す。
(あとは逆転のカードを引くだけ……!!)
「ドロー!! ……行きます! 《E・HERO エアーマン》を召喚。効果で《E・HERO バブルマン》をサーチし、カードを2枚伏せます」
 《E・HERO バブルマン》は手札が0枚の時、特殊召喚が可能。これで璃奈のフィールドにはレベル4のモンスター、《E・HERO エアーマン》と《E・HERO バブルマン》が並んだ。
「2体のモンスターでオーバーレイ! エクシーズ召喚! 全てを切り裂く一刃の戦士、《H-C エクスカリバー》!!」
 戦士族の縛りがあり、素の攻撃力は2000ポイント。しかし、高レベルの攻撃能力を秘めている。
「《H-C エクスカリバー》のオーバーレイユニットを2つ外し、効果発動!自身の攻撃力を次の相手のエンドフェイズまで2倍にします!」

《H-C エクスカリバー》 ORU:2→0 ATK:2000→4000

「装備魔法カード、《アサルト・アーマー》を発動! 装備を解除して、このターン《H-C エクスカリバー》は2回攻撃ができます!」
 攻撃力4000の2回攻撃。玄のフィールドにはモンスターが0。この攻撃が通れば、璃奈の逆転勝利となる。
「バトルフェイズ、《H-C エクスカリバー》でダイレクトアタック!!」
 だが、玄はこれすらも通らない。
「永続罠、《デモンズ・チェーン》! 攻撃を止め、効果も奪いとる!」

《H-C エクスカリバー》 ATK:4000→2000

(まだ……まだ大丈夫です。伏せカードがありますし、まだ十分に闘えます)
 璃奈は諦めない。決闘者は諦めない。ライフポイントがある限り。
「ターン終了です」

第6ターン

LP:8000
手札:1
《岩投げエリア》、《デモンズ・チェーン》、SS

璃奈
LP:5700
手札:0
《H-C エクスカリバー》、SS

「俺のターン、ドロー。墓地の地属性モンスター2体ゲームから除外!」
(また《地球巨人 ガイア・プレート》? いや、これは……)
「《ギガストーン・オメガ》を特殊召喚!」
(このタイミングで《ギガストーン・オメガ》? これは……壁?でも攻撃表示で出してますし。一体何を考えて……)
「さらに永続罠発動。《安全地帯》! 対象は《ギガストーン・オメガ》! そして魔法カード発動、2枚目の《マジック・プランター》。安全地帯を墓地へ送り2枚ドロー! そして、《ギガストーン・オメガ》の効果発動!」
 連鎖していくカード効果。それが引き起こす事象は2つ。
(しまった! 狙いは疑似的な《ハーピィの羽根帚》!)
 《ギガストーン・オメガ》がカード効果で破壊された時、相手の魔法・罠を全て吹き飛ばす。そして《安全地帯》はフィールドを離れるときに対象モンスターを破壊する。そして《マジック・プランター》は永続罠1枚をコストに2枚ドローするカード。
 玄は新たに2枚の手札を得て、璃奈は伏せカード――《聖なるバリア-ミラーフォース-》――が破壊される。
「このタイミングで《聖なるバリア-ミラーフォース-》か……まったく恐ろしいぜ」
「私はクロくんの方が恐いですよ。一体何者ですか?」
「さぁね。最近ここらへんに引っ越してきたただのデュエリストじゃないかな?」
「「ただの」じゃないでしょうに……」
「かもな」
(こんなに強いデュエリストはお姉ちゃん意外に見たことがありませんよ)
「さてと、そろそろ終わりにするか。手札を1枚捨て、《死者転生》を発動。墓地よりモンスター1体を回収する」
 今彼が手札に加えたのは……岩石族最強のモンスター。
「墓地の岩石族モンスターは合計で11枚。それら全てをゲームから除外し、現れろ……大地を揺るがす最強の巨龍よ!!」

 Special Summon! Megarock Dragon!!!

「で……でっかい……!!」
 ソリットビジョンだと分かっていても、凄まじい迫力。見るもの全てを圧倒する巨大さ。
「《メガロック・ドラゴン》は、召喚時に除外した岩石族の数×700ポイントの数値、7700ポイントが攻撃力となる!!」

《メガロック・ドラゴン》 ATK:?→7700

「璃奈のライフは5700ポイント。《H-C エクスカリバー》の攻撃力は2000ポイント。そしてその数値を《メガロック・ドラゴン》の攻撃力から引けば……」
 5700。ぴったり璃奈ののライフが0になる。
 もう、この一撃を防ぐ方法は、彼女には無い。
「バトルフェイズ。星々の砕ける様を見ろ!!」
 その時、一瞬だけ、何かが光ったように、璃奈の目には映った。
(今のって……)

 Galaxian Explosion!!!

璃奈 LP:5700→0

 結局、このデュエル中に彼女が玄のライフポイントを削ることはなかった。


「ありがとうございました」
 璃奈は深々と頭を下げ、玄へと礼をした。
「いや、こっちがデュエルを申し込んでそれをそっちが了承したんだ。礼を言うのはこっちのほうだろ?」
「そうでしょうか……? そうかもですね」
 えへへ、と彼女は少し恥ずかしそうに笑った。
「それにしても、クロくんってすごく強いんですね。全然歯が立ちませんでしたよ」
 ライフも削れませんでしたし、と続ける。
「運が良かっただけだよ」
 適当にはぐらかすかのように、玄はそう言った。璃奈も特には言及しなかった。
「そういえば、璃奈も神之上に入るって言ってたよな。やっぱりあれか、決闘部か?」
 そこで思い出したかのように玄は口を開いた。
「はい。知り合いが決闘部にいるんです。それで誘われちゃって……ってことはクロくんも決闘部が目当てですか?」
 神之上高校決闘部はこの辺りだと最も実力のある部活。夏の全国高校生デュエル大会地区予選でも4年連続優勝。つまり4年連続で全国への切符を手に入れているのだ。故にこの辺りの決闘者は基本的には神之上への入学を考える。
「まぁそうだな」
 そこでなんとなく腕時計を確認する玄。すると、驚いた顔でもう1度腕時計を覗きこむ。
「やばっ! こっちで知り合いと待ち合わせしてるんだった! もう時間がねぇ!!」
「え、大丈夫なんですか?」
「いや結構ヤバいかも! こっから市民会館って、どう行けばいい!?」
 簡潔にその道程を教える。ここから大した距離では無く、走れば間に合うようだ。
「そんじゃ、また今度! 次会う時は多分学校だ!」
「はい! お気を付けて!」
 別れの言葉と共に手を振りながら見送る。存外に玄の足は速く、あの速度なら間に合うだろう。
「嵐、いや大嵐のような人でした……」
 もう玄が走る後ろ姿は見えなくなっていた。
 玄が走り去り、1人になった璃奈。再度ベンチに腰を下ろす。飲みかけだったミルクティーを一口だけ口に含み、飲み込んだ。
「ふぅ」
 疲れはあったが、不思議と眠気は飛んでいた。なんとなく目をつぶる。さっきの光景を思い出すように。
(例えば……例えばの話。真の決闘者が纏うと言われている波動の色が、光り輝かんばかりの、すべてを覆い尽くすほどの黄金色だったら? 一瞬だけ、ほんの一瞬だけでしたけど、あれは間違いなく……でもどこか間違ってるような……)
 まるで、何色もの絵具を混ぜたら、何かの間違いで黄金色が生まれたような、そんな感覚。
 混じり気のない、だけど濁りきった、そんな黄金色。
(そんな……すごく綺麗な、黄金色の決闘……)

       

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