Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第3話 神之上高校決闘部

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「とりあえずはおめでとう」
 壇上に登った玄たちを待ち構えていた小さな副部長、辻垣内真子が口を開いての第一声は称賛の声だった。
「一応あなたたち3人は合格よ。ようこそ決闘部へ」
「とりあえずとか一応とか、随分と曖昧言い方をするんだな」
 鷹崎が口を挟む。
「暫定的に合格、と言ってるように聞こえるな」
「ご名答。正解よ、白神くん」
 まだ試験は終わってはいない。むしろ、ここからが本番である。
「あなたたちの入部はもう決まっているわ。決定事項。ただし、あなたたちが戦力になるかどうかは別の話よ」
「戦力……ですか?」
「そう、戦力よ。夏の全国高校生デュエル大会に向けて、のね」
 全国高校生デュエル大会。全国から集まった多くの高校生が互いの鎬を削りあい、雌雄を決する場。高校生という立場で体感することのできる最大にして最高のデュエルの式典。
「なんだと……? 俺たちのレベルじゃ戦力にはならないって言いたいのか?」
 真子の物言いにやや苛立ちを見せた鷹崎は、先輩であるにも関わらずぶっきらぼうな口調で反抗の意を示す。
「そういうわけじゃないわ。だから、これからそれを確かめるのよ」
 そう彼女が言うと、上手袖のほうから男女が1人ずつ出てくる。胸に付けたリボンとネクタイの色から、女子は2年生、男子は3年生であることが分かる。
 すると、女生徒の方が璃奈の方を向いた。
「久しぶり……ってほどでもないけど、久しぶり璃奈ちゃん」
「美里ちゃん!!」
 璃奈と顔見知り。璃奈は分かりやすく喜びの笑顔を美里と呼んだ少女に向けた。
「あー、例の知り合いがこの病弱そうな女子?」
 肩まで伸びている髪にはトレードマークと言っても過言ではない大きなリボンを付けており活発そうなイメージを受けるが、銀色の眼鏡の奥に見える垂れた瞳のせいなのかおっとりとしたイメージのほうが強く感じられる。さらには、今まで日に焼けたことがないかのような真っ白な肌に、力を入れてしまえばすぐに折れてしまいそうなほど線が細い。物静かな雰囲気を醸し出している。初対面のならば「病弱」という印象を受けてしまうだろう。そして印象通り、病弱である。
「秋月美里(あきつきみさと)……璃奈ちゃんの幼馴染で君と同じ2年生だよ。よろしく。って言うか白神くん、同じクラスだよね」
「え、マジで。ごめん。俺ずっと寝てたからさ、クラスメイトの顔はおろか、担任の顔も知らないんだよ」
 起きてましょうよ、と璃奈が呆れながらつっこむ。
「ふーん。君が璃奈ちゃんのお眼鏡にかかったデュエリストかぁ……なんかちょっとイメージと違うかな」
「どの辺が? ちなみに、身長についてならもう言われなれてるからな」
「……」
「図星かよ」
 璃奈を交えて3人でわいわいやっていると、最後の1人が一歩前に出てくる。身長は高いが横幅がないせいか、圧迫感は無い。しかし妙な威圧感があった。
「さっそく仲がいいみたいでよかった。僕がここの部長をやらせてもらってる。音無祐介(おとなしゆうすけ)だ。よろしく」
 気さくな笑顔で新入部員3人に微笑み、そのまま握手をしようと右手を前に出す。玄と璃奈は快く応じ、鷹崎だけはやや不満がりながら応じた。とにかくずっと笑顔で、人当たりの良さそうな雰囲気だった。
「まぁ、部長とは言っても名ばかりだよ。実際に取り仕切ってるのは真子ちゃんだし」
 遠慮がちにそう呟く。
「何言ってるのよ。私よりも絶対に音無くんのほうが適任よ。先輩たちだってそう言ってたじゃない」
 真子が抗議の声を上げ、音無の隣まで歩いてくる。その差40㎝。並ぶとものすごい身長差だった。
 そのまま鷹崎も無理やり気味に会話の輪の中に入れられ、6人でごちゃごちゃと話し続ける。


 十数分後。
「さて、簡単な顔合わせも終わって休憩もしたいし、本題に入りましょ」
(休憩だったんですか……これ)
 その割にはしゃべり疲れた璃奈。玄と鷹崎も疲れたという感じはないが、休憩できたようにも見えなかった。
 と、そこで再び音無が一歩前に出る。代表して説明をする、ということだろう。
「白神君、早川さん、鷹崎君。君たち3人は、これから僕ら部員3人とデュエルしてもらうよ」
 その一言はおおよその予想がついていた。新入部員は3人、対して3人の部員がその場に現れた。これはつまり。
「それでこっちの実力を確かめる……そういう解釈でいいのかな? 部長さん」
「ああ、その通りだ白神君。君は察しが良くて助かる」
 そこで音無の簡単なルール説明が入った。
 要約すると、1対1でそれぞれの部員とデュエルする。対戦相手は部員側が指名する。デュエルの勝敗に関わらず、対戦した部員が及第点と考えれば「戦力」として部活動メニューが組まれる。しかし及第点を貰えなければ、夏の全国高校生デュエル大会には参加できないと考えていい、とのこと。それ以外のルールは全て公式に定められたものを使用する。それだけだ。
 説明が終わると、部員側が一斉にデュエルディスクを装備した。その姿を見て3人もデュエルの準備をする。
「白神くん。あなたの相手は私……一般部員、秋月美里」
「よろしくな」
 互いのデュエルの状況が分かっては集中できないだろうということで、第一から第三までの体育館を贅沢にすべて使う。玄と美里は第一体育館へと移動。この時間ならばほかの部活動はもう切り上げているはず。貸切状態だ。
「鷹崎くん。君の相手は僕……部長、音無祐介が」
「誰であろうと、潰す」
 鷹崎と音無は第二体育館へ。
「そして早川さん。あなたの相手はこの私、副部長、辻垣内真子が務めさせてもらうわ」
「お、お手柔らかに……」
 そして璃奈と真子は移動せずにそのまま第三体育館を使用。
「それじゃあ……行くわよ!」
 真子の言葉が開戦の号砲となり、1対1の真剣勝負が始まる。

「「デュエル!!」」

「「デュエル!!」」

「「デュエル!!」」

 3つのデュエルが、同時刻にその幕を開けた。


<Side-K>

 玄VS美里。先攻は美里からだ。
「私のターン。私はモンスターをセット、カードを1枚セットしてターン終了」
 セオリー通りの1ターン目。カードは晒さず、相手の出方を覗う。

第1ターン
美里
LP:8000
手札:4
SM、SS


LP:8000
手札:5
無し

「随分と質素な1ターン目だな」
「君もさっきセットカード1枚で終わってたくせに」
「見てたのかよ」
「そりゃあ、審査しないとね」
「それじゃあ思う存分審査してくれ。俺のターン!」
 勢いよくドロー。
(あの口ぶりからすると、この体育館内でのデュエルはすべて見られてたみたいだな。それに璃奈からも聞いてたみたいだし……俺のデッキタイプはほとんどばれてるか)
「モンスターをセット。カードを2枚セットしてターンエンド」
 対する玄も動きは見せない。目には目を、歯に歯を、不動には不動で対抗する。

第2ターン
美里
LP:8000
手札:4
SM、SS


LP:8000
手札:3
SM、SS×2

「私のターン。モンスターを反転召喚。《墓守の偵察者》! リバース効果を発動して、デッキから同じく《墓守の偵察者》を特殊召喚。そして1体をリリースして、アドバンス召喚! 《ホルスの黒炎竜 LV6》!!」
 《ホルスの黒炎竜 LV6》――《ホルスの黒炎竜 LV4》の進化形態。一切の魔法効果を受け付けず、相手モンスターを戦闘破壊することでレベルをアップさせる有名なレベルモンスターの1体。
「なるほど。そういうデッキか」
「《ホルスの黒炎竜 LV6》で守備モンスターを攻撃!」
「守備モンスターは《伝説の柔術家》だ。守備表示のこのモンスターを攻撃したモンスターをデッキトップに送る」
 相手モンスターの除去と相手の次のドローをロックする強力なモンスター。しかし、戦闘では破壊されてしまったため、玄のフィールドには攻撃を防ぐための壁がない。
「《墓守の偵察者》でダイレクトアタック!」
「リバース罠発動! 《徴兵令》! 相手のデッキトップのカードを確認し、モンスターならば俺のフィールドに特殊召喚。魔法・罠であれば相手の手札に加わる」
 珍しいタイプのギャンブルカード。しかし、トップのカードはすでに分かっている。《伝説の柔術家》の効果で戻した《ホルスの黒炎竜 LV6》だ。これで玄のフィールドにモンスターが召喚されるのが確定した。
「だけど甘いよ。永続罠、《王宮のお触れ》! 罠カードの効果を無効!」
「だけど甘いな。速攻魔法、《サイクロン》! 《王宮のお触れ》を破壊!」
 チェーン1:《徴兵令》。チェーン2:《王宮のお触れ》。チェーン3:《サイクロン》。
 逆順処理により、最終的に《徴兵令》の効果が適用され、《ホルスの黒炎竜 LV6》が玄のフィールド現れる。
「むっ……! やるね、白神くん」
 《墓守の偵察者》では《ホルスの黒炎竜 LV6》を倒せない。やむなく攻撃を中断し、メインフェイズ2へ移行する。
「カードを1枚セット。ターンエンドだよ」

第3ターン
美里
LP:8000
手札:3
《墓守の偵察者》、SS


LP:8000
手札:3
《ホルスの黒炎竜 LV6》

「俺のターン」
(秋月美里……こいつのデッキは十中八九【お触れホルス】)
 《ホルスの黒炎竜 LV8》の効果によって魔法を封じ、《王宮のお触れ》の効果によって罠を封じるデッキ。決まった時の制圧力は相当のもので、唯一の抜け道であるモンスター効果にもいくかの対策が用意されている。
(そう考えれば、あのセットカードはある程度絞られてくるが……決めつけるにはまだ早い。多少は警戒しながら行ったほうがいいな)
「このままバトルフェイズに入る。《ホルスの黒炎竜 LV6》で《墓守の偵察者》を攻撃!」
(普通に考えれば《王宮のお触れ》の影響を受けないように罠カードはほとんど入れない。それなら除去カードは魔法カードに頼っているはずだ。普通は)
 そうとは言っても、《激流葬》や《聖なるバリア-ミラーフォース-》などの強力な除去カードを入れている可能性は十分にある。
(かといって大して高くもない確率にビビッて攻めないわけにもいかないしな。もし予想通りセットカードが魔法なら、《ホルスの黒炎竜 LV6》には影響がない。確実に攻めながら、被害は最小限に抑える)
「リバースカード発動! 永続罠――」
(永続罠? まさか……)
「《洗脳解除》! すべてのモンスターのコントロールは元々のプレイヤーに戻る! 《ホルスの黒炎竜 LV6》は返してもらうよ」
 結果、攻撃は中断。玄のフィールドに攻撃できるモンスターは存在しない。そのままバトルフェイズを終了する。
「なるほど……《王宮のお触れ》はカモフラージュか」
 《洗脳解除》の発動によって、玄は即座に美里の意図に気付く。
(こいつはここでの俺のデュエルをすべて見ているはずだ。前のターンに行った《伝説の柔術家》と《徴兵令》のコンボはすでにこの体育館内で5回。《エネミーコントローラー》の発動は6回。加えて《精神操作》の発動も3回)
 どれもコントロール奪取効果を持つカード。
(つまり、あいつはそれを見越したうえでメタカードとして《洗脳解除》を入れ、事前に《王宮のお触れ》を見せておくことで、無意識的に永続罠の、いや《洗脳解除》の選択肢を削ぎ落としていた)
「流石は神之上高校決闘部、ってとこか」
「すごいね。今のプレイだけでそこまで見抜くなんて」
 美里はこのデュエルが始まる前までに、16度玄のデュエルを見ている。その結果、彼女は玄のデッキ内容すべてを把握することに成功した。
「《伝説の柔術家》3枚、《コアキメイル・ガーディアン》2枚、《コアキメイル・ウォール》2枚、《コアキメイル・サンドマン》2枚、《ナチュル・ロック》2枚、《ゴゴゴゴーレム》1枚、《ゴゴゴジャイアント》3枚、《地球巨人 ガイア・プレート》1枚、《冥府の使者ゴーズ》1枚、《アチャチャチャンバラー》1枚、《死者蘇生》1枚、《ブラック・ホール》1枚、《精神操作》1枚、《マジック・プランター》2枚、《エネミーコントローラー》2枚、《サイクロン》2枚、《禁じられた聖槍》1枚、《禁じられた聖杯》1枚、《聖なるバリア-ミラーフォース-》1枚、《徴兵令》2枚、《鳳翼の爆風》1枚、《岩投げアタック》2枚、《リビングデッドの呼び声》3枚、《デモンズ・チェーン》2枚。これが君のデッキ内容……間違ってる部分はあるかな?」
「……」
 この時玄は口には出さなかったが、彼が構築したデッキと寸分違わぬデッキ内容を美里は言い当てた。流石に16度もデュエルを見ていれば、その内容を言い当てることはそう難しくはない。しかし、この1戦のためにそこまで研究するというのはなかなかできる行為ではない。
(おそらく秋月は、璃奈からの情報を聞いて最初から俺に焦点を合わせていた。そして俺に勝つために策を巡らせ、メタカードも入れてきた。審査の場でそこまでするか、普通? いや……違うか。審査の場だからここまでするんだな。「この状況を打破してみろ」ってか)
「面白くなってきた。これくらいしてもらわないとな。モンスター1体をセットし、カードを1枚伏せてターンエンド」

第4ターン
美里
LP:8000
手札:3
《墓守の偵察者》、《ホルスの黒炎竜 LV6》、《洗脳解除》


LP:8000
手札:2
SM、SS


<Side-T>

 鷹崎VS音無。鷹崎のターンからスタート。先攻の鷹崎は2枚のセットカード場に出すだけでターンを終える。

第1ターン
鷹崎
LP:8000
手札:4
SC×2

音無
LP:8000
手札:5
無し

「モンスターはなし、か。僕のターン、ドロー」
 ダメージを通すなら鷹崎の場にモンスターがいないこのタイミングを狙うのが普通。だが。
「見え透いた罠だね。モンスター1枚と魔法・罠2枚をセットし、ターンエンドだ」
(流石に……引っかからないか。まぁ、動かないなら動かないでいいんだけどな)

第2ターン
鷹崎
LP:8000
手札:4
SC×2

音無
LP:8000
手札:3
SM、SC×2

「俺のターン、ドロー。手札の《伝説の白石》をコストに、《調和の宝札》を発動し、2枚ドロー。そして《伝説の白石》の効果で手札に《青眼の白龍》を加える。それをコストに《トレード・イン》を発動し2枚度ドロー。さらに、もう1枚《調和の宝札》を発動。コストは《ガード・オブ・フレムベル》だ」
 さらに2枚のドロー。
「突然動き出したね。まったく、手札交換まで速いとは」
 最速の攻撃には最速の準備が必要である。準備運動があってこそポテンシャルを引き出せる。
「俺は《バイス・ドラゴン》を特殊召喚! そして通常召喚《ドラゴラド》! 《ドラゴラド》の効果により、墓地より攻撃力1000以下、通常モンスター、《ガード・オブ・フレムベル》を特殊召喚!」
 チューナーを含め、フィールドに3体のモンスターが並ぶ。
「俺はカードを1枚伏せる。そして、レベル4の《ドラゴラド》とレベル5の《バイス・ドラゴン》に、レベル1の《ガード・オブ・フレムベル》をチューニング! 封印されし灼熱の龍よ、骸を糧にその力を解き放て! シンクロ召喚! 燃やし尽くせ、《トライデント・ドラギオン》!!」
「さっそくレベル10のシンクロモンスターか」
 しかし《トライデント・ドラギオン》が真の力を発揮するには生贄が必要。しかしすでにその準備も完了している。
「《トライデント・ドラギオン》の効果発動! 自分フィールドのカードを2枚まで破壊し、破壊した分だけ攻撃回数が増える! 俺の2枚の伏せカードを選択」
 その内、1ターン目に伏せておいた《スキル・サクセサー》をチェーン発動させ、《トライデント・ドラギオン》の攻撃力を上昇させる。

《トライデント・ドラギオン》 ATK:3000→3400

「バトルフェイズ、《トライデント・ドラギオン》で裏守備モンスターに攻撃!!」
「迷いがないね。でも残念ながらはずれだ。《ライトロード・ハンター ライコウ》のリバース効果を発動」
 《ライトロード・ハンター ライコウ》。リバース時にフィールドのカードを1枚破壊し、自分のデッキトップ3枚を墓地へ送る効果を持つ。墓地肥やしと除去を同時にこなす強力なモンスターだ。これによって《トライデント・ドラギオン》は破壊される。
「そして僕のデッキの上から3枚を墓地へ。《ボマー・ドラゴン》、《サイクロン》、《サイバー・ドラゴン》。うーん、いまいちかな」
「このままターンエンドだ」
 大がかりな攻撃もかわされ、鷹崎は動けない。

第3ターン
鷹崎
LP:8000
手札:3
SC

音無
LP:8000
手札:3
SC

「僕のターン、ドロー。君ほど派手ではないけど、攻めるのは僕も得意なんだよ。《サイバー・ダーク・ホーン》を召喚!」
(このデッキ……【サイバー・ダーク】か!)
 【サイバー・ダーク】――機械族モンスターでありながら、ドラゴン族モンスターを利用してその力を上昇させるカード群。素の攻撃力は低いが、効果を使用すれば上級レベルのモンスターに匹敵する力を得ることもある。
「僕は《サイバー・ダーク・ホーン》の効果で墓地の《ボマー・ドラゴン》を装備。攻撃力を《ボマー・ドラゴン》の攻撃力分アップする!」

《サイバー・ダーク・ホーン》 ATK:800→1800

「さらに《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地から《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!」
 そして音無はそのままバトルフェイズへと移行する。
「《サイバー・ダーク・ホーン》と《サイバー・ドラゴン》でダイレクトアタック!」
「通すかよ! 《聖なるバリア-ミラーフォース-》!!」
 攻撃モンスターをすべて焼き尽くす罠カード。音無のモンスターは全滅する……事はなかった。
「リバース発動、《スターライト・ロード》!!」
「なっ……!」
 自分のカードを2枚以上破壊するカードが発動したとき、その破壊を無効にし、エクストラデッキから《スターダスト・ドラゴン》を召喚条件を無視して特殊召喚できる特殊なカード。戦力を削るどころか増やしてしまった。
「防ぐ手段はなさそうだね。このまま全軍のダイレクトを通させてもらうよ!!」
「ぐああああああああああああああっ!!」

鷹崎 LP:8000→6200→4100→1600

(くそっ、ライフを削られすぎた! 正直かなりまずいぞ!)
「僕はこれでターンエンドだ」
 4ターン目終了時点で、鷹崎はすでに追い込まれていた。

第4ターン
鷹崎
LP:1600
手札:3
無し

音無
LP:8000
手札:3
《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ドラゴン》、《スターダスト・ドラゴン》、《ボマー・ドラゴン》(装備)、《リビングデッドの呼び声》


<Side-R>

 璃奈VS真子。先攻を得たのは真子だった。
「私の先攻ね。ドロー。モンスターを1枚伏せてターン終了」
 特に大きな動きは見せずに1ターン目を終了。続いて璃奈のターンとなる。

第1ターン
真子
LP:8000
手札:5
SM

璃奈
LP:8000
手札:5
無し

「私のターン、ドロー。《E・HERO プリズマー》を通常召喚して、効果を発動します。《E・HERO ネオス》を墓地へ送って名称を変更」
(この副部長さんは間違いなく私より格上なんですし、出し惜しみはできません。幸い伏せカードはありませんし、ここはガンガン行きましょう!)
「そして《O-オーバーソウル》を発動! 墓地の《E・HERO ネオス》を特殊召喚し、さらにもう1枚魔法カードを発動です! 《H-ヒートハート》!」
 モンスター1体の攻撃力を500上げ、守備貫通効果を付加。璃奈は《E・HERO ネオス》の攻撃力を上昇させる。

《E・HERO ネオス》 ATK:2500→3000

「バトルフェイズです! 《E・HERO ネオス》で守備モンスターに攻撃!」
「仕掛けが早いわね。守備モンスターは《ピラミッド・タートル》よ」
 その守備力は1400。《H-ヒートハート》の効果で1600の貫通ダメージが真子を襲う。

真子 LP:8000→6400

(《ピラミッド・タートル》……! ってことは)
 《ピラミッド・タートル》は戦闘破壊されたときにデッキから特定のモンスターを特殊召喚できるリクルーター。《ピラミッド・タートル》が呼んで来れるモンスターの範囲は、守備力2000以下のアンデット族。そして、そこから呼び出されるのは最大級の攻撃力をもつ化け物。
「効果発動よ。現れなさい、《茫漠の死者》!!」
 《茫漠の死者》は、召喚、特殊召喚成功時の相手のライフポイントの半分の数値の攻撃力を得る。璃奈のライフは無傷の8000。つまり《茫漠の死者》の攻撃力はその半分。

《茫漠の死者》 ATK:?→4000

 攻撃力4000のハイパワーモンスターが真子のフィールドに現れる。
(おそらくこれがエースモンスターのはずです。次のターンに攻めてくるのでしょうけど、防ぎきらせてもらます)
「私はカードを2枚伏せて、ターン終了です」
 エンドフェイズに《E・HERO ネオス》の攻撃力が元に戻る。

《E・HERO ネオス》 ATK:2500→3000

第2ターン
真子
LP:6400
手札:5
《茫漠の死者》

璃奈
LP:8000
手札:1
《E・HERO プリズマー》、《E・HERO ネオス》、SS×2

「私のターン、ドロー! まずは《手札抹殺》を発動! お互いに手札を全て捨てる」
 璃奈は1枚、真子は5枚の手札を交換する。
「そして、《ゾンビ・マスター》を通常召喚。手札を1枚をコストに効果を発動。墓地からレベル4以下のアンデット族モンスター、《ピラミッド・タートル》を特殊召喚するわ。さらに、《手札抹殺》で捨てた《馬頭鬼》の効果を発動! 自身を除外して墓地からアンデット族1体を特殊召喚できる。私は《ゴブリンゾンビ》を特殊召喚」
 レベル4のモンスターが一瞬にして3体並ぶ。だがこれは展開の途中経過でしかない。
「魔法カード、《強制転移》を発動。私はあなたに蘇えりたてほやほやの《ピラミッド・タートル》をあげる」
 《強制転移》によって互いのプレイヤーは自分フィールドのモンスター1体を相手に渡す。璃奈は当然、攻撃力の低い《E・HERO プリズマー》を渡す。
「それなら、私はレベル4の《ゴブリンゾンビ》と《ゾンビ・マスター》、あなたからもらった《E・HERO プリズマー》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 全てを食らい尽くしなさい! 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》!!」
 その召喚を火蓋としたかのように、すぐさまバトルフェイズに突入。《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》で《ピラミッド・タートル》に攻撃を宣言する。
「狙い通りにはさせません! 《聖なるバリア-ミラーフォース-》!!」
 攻撃モンスターをすべて吹き飛ばす強力な罠カード。
「これで副部長さんのモンスターは全滅です!!」
「あっまぁい!! 速攻魔法、《我が身を盾に》!」
「!?」
 ライフを1500払い、モンスターを破壊するカード効果を無効にし破壊する速攻魔法。これで《聖なるバリア-ミラーフォース-》は無効化され真子の攻撃は続く。
 余談ではあるが、丁度このタイミングで鷹崎も《聖なるバリア-ミラーフォース-》を音無に無効化されているところだった。ただの偶然なので、全く無関係だが。

真子 LP:6400→4900

璃奈 LP:8000→6400

「そして、《ピラミッド・タートル》&《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》の効果発動!!」
 璃奈のフィールドで戦闘破壊されたとはいえ、《ピラミッド・タートル》の効果は墓地で発動するもの。故にリクルート効果を発動するのは真子。さらに、《《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》のオーバーレイユニットを1つ取り外し、その効果によってたった今戦闘破壊した《ピラミッド・タートル》が攻撃力を1000ポイント下げ再び璃奈のフィールドに現れる。そして《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》はもう1度攻撃が可能となった。
「《ピラミッド・タートル》の効果でもう1体、《茫漠の死者》を特殊召喚!」

《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》 ORU:3→2

《ピラミッド・タートル》 ATK:1200→200

《茫漠の死者》 ATK:?→3200

「そしてもう1度、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》で《ピラミッド・タートル》に攻撃! デプス・バイトォ!!」
「きゃああああああっ!!」

璃奈 LP:6400→3800

「もう1度《ピラミッド・タートル》の効果を発動! デッキから《ヴァンパイア・ロード》を特殊召喚!」
 続いて攻撃力4000の《茫漠の死者》でネオスを攻撃。もちろん《E・HERO ネオス》は破壊され、1500の超過ダメージが璃奈を襲う。

璃奈 LP:3800→2300

「終わりよ! もう1体の《茫漠の死者》でダイレクトアタック!!」
 2300のライフでは攻撃力3200の《茫漠の死者》の攻撃を耐えきれない。だが、ここで終わる璃奈ではなかった。
「《ガード・ブロック》! ダメージを0にしてカードを1枚ドローします!」
 なんとか耐えきる。だが、真子のフィールドには《ヴァンパイア・ロード》が残っていた。
「《ヴァンパイア・ロード》でダイレクト!」
「うっ……!」

璃奈 LP:2300→300

「《ヴァンパイア・ロード》の効果発動。ダメージを与えた時、モンスター、魔法、罠のいずれかを選択。相手は自分のデッキから選択された種類のカードを1枚墓地へ送る。私は「罠」を選択するわ」
 真子の宣言通り1枚の罠カード――《ヒーロー・ブラスト》――を墓地へ送る。
「カードを1枚伏せて、ターン終了」

第3ターン
真子
LP:4900
手札:0
《茫漠の死者》×2、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》、《ヴァンパイア・ロード》、SS

璃奈
LP:300
手札:2
無し

(まずいです……まず過ぎです……)
 3ターン目にして璃奈のライフは残り僅か300ポイント。一撃でも受けてしまえば必殺は必至である。
 そんな焦っている璃奈の顔を見て、真子が口を開く。
「早川さん」
「な……なんでしょうか?」
「私最初に言ったわよね。「勝敗に関わらず、及第点をとればいい」って」
「言ってましたね、確かに」
「あれは嘘よ」
「……へ?」
 突然の発言に間抜けな声を出す璃奈。しかし真子はお構いなしに話を続ける。
「正確には嘘じゃないんだけどね。ほかの2人はその通りにやってるかもしれないけど、私の場合に限っては嘘よ。私に勝たなきゃ、認めてあげない」
 璃奈にとってその発言は、走っている途中で、突然ハードルが大きくなったような気分だった。今までだって精一杯飛んで超えてきたハードルが、ジャンプした程度じゃ飛び越えられないような大きさになった。ハードルの下を潜る、なんて業を真子が認めるとも思えない。
 開始わずか3ターン目にして、死刑宣告でもされたかのような心情だった。
「私に勝てたら及第点を、あ、げ、る♪」
(……目の前に、悪魔がいます。見た目は小悪魔ですけど、中身は閻魔様でした……どうしましょう)


 三者三様。それぞれ違う形で、追い詰められていた。
 しかし、試験はまだ始まったばかりである。


To be continue

     



<Side-K>

 玄VS美里。
 5ターン目に突入したそのフィールドを見れば、どちらが優勢であるかはすぐに判別がつく。圧倒的とまでは言わずとも、その盤面は美里が流れを掴んでいた。
「私のターン。《墓守の偵察者》をリリースして、《邪帝ガイウス》をアドバンス召喚!」
 場に残っていた《墓守の偵察者》を糧として、上級モンスターである《邪帝ガイウス》を召喚。その効果によって、セットモンスターを除外する。
「させるか。《デモンズ・チェーン》発動! その効果と攻撃を封じる!」
「残念。それじゃあバトルフェイズに入って、《ホルスの黒炎竜 LV6》で守備モンスターを攻撃!」
「守備モンスターは《ゴゴゴゴーレム》。守備表示の時、1ターンに1度戦闘では破壊されない」
 《邪帝ガイウス》の攻撃宣言は《デモンズ・チェーン》で封じられている。《ゴゴゴゴーレム》を排除することはできない。
(簡単にレベルアップはさせてくれないね……)
 《ホルスの黒炎竜 LV6》は相手モンスターを戦闘破壊したターンのエンドフェイズに《ホルスの黒炎竜 LV8》に進化することができる。戦闘破壊できなければレベルアップはお預けだ。
「カードを1枚セットして、ターン終了」

第5ターン
美里
LP:8000
手札:2
《ホルスの黒炎竜 LV6》、《邪帝ガイウス》、《洗脳解除》、SS


LP:8000
手札:2
《ゴゴゴゴーレム》、《デモンズ・チェーン》

「俺のターン、ドロー」
(今のところほとんど予想通り。ライフはお互い全然減らないけど、このまま少しずつ壁を崩していく)
 ただの1度とはいえ玄の裏をかいた美里。だが、その程度のことで油断などしない。裏をかいて掴んだ流れを取り逃さないためにも慎重に動く。
「魔法カード、《マジック・プランター》で《デモンズ・チェーン》をコストに2枚ドロー。《コアキメイル・サンドマン》を通常召喚。レベル4のモンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《妖精王 アルヴェルド》! 効果を発動!」
 その効果によって、《ホルスの黒炎竜 LV6》と《邪帝ガイウス》の攻撃力は低下する。

《妖精王 アルヴェルド》 ORU:2→1

《ホルスの黒炎竜 LV6》 ATK:2300→1800

《邪帝ガイウス》 ATK:2400→1900

「そして魔法カード、《エネミーコントローラー》発動。《邪帝ガイウス》を守備表示に変更」
 流れると様に動作をこなしていき、バトルフェイズに入る。
「《妖精王 アルヴェルド》で《邪帝ガイウス》を攻撃」
 何の抵抗もなく《邪帝ガイウス》は破壊される。
「メイン2に移行。カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
「用心深いね」
「相手は「あの」神之上高校決闘部だ。そりゃ多少はな」
(私のセットカードは《収縮》。モンスター1体の元々の攻撃力を半分にするカード。もしさっき、《エネミーコントローラー》を使わずに《妖精王 アルヴェルド》を出してから攻撃してたら、これで返り討ち。でも《邪帝ガイウス》確実に倒せるように守備表示にしてからの攻撃。デッキがバレてるっていうのが効いてるのかな? どちらにせよ、白神くんは慎重にならざるを得ないはず……外堀から少しずつ埋めていってあげる。もはや君のデュエルは私にとっての公開情報だよ)

第6ターン
美里
LP:8000
手札:2
《ホルスの黒炎竜 LV6》、SS


LP:8000
手札:1
《妖精王 アルヴェルド》、SS

 美里はドローを終えると即バトルフェイズに入り、《ホルスの黒炎竜 LV6》で攻撃宣言。
「ダメージステップ、《収縮》を発動! 《妖精王 アルヴェルド》の元々の攻撃力を半分にするよ!」

《妖精王 アルヴェルド》 ATK:2300→1150

 これで攻撃力の下がった《ホルスの黒炎竜 LV6》でも《妖精王 アルヴェルド》を倒すことが可能となった。
「《妖精王 アルヴェルド》を破壊!」

玄 LP:8000→7350

 第7ターンに来て初のダメージ。ダメージ量は微々たるものだが、これで《ホルスの黒炎竜 LV6》が進化の時を迎える。
「カードを1枚セット、エンドフェイズ、《ホルスの黒炎竜 LV6》が相手モンスターを破壊したことで、《ホルスの黒炎竜 LV8》に進化!!」
 これで玄は一切の魔法カードの発動を封じられた。勝利は一気に美里に傾いたと言っても過言ではない。
「これで俺は魔法を使えない。まずいなそれは、そうなると確かにまずい」
(ん? なんか……雰囲気が違――)
 と、その瞬間だった。
 フィールドに現れたはずの《ホルスの黒炎竜 LV8》が、姿を消した。
「え……?」
(何が……起きたの? 《ホルスの黒炎竜 LV8》が消えて、え? 消えた? なんで?)
「随分と驚いた顔をしてるじゃないか。そんなに不思議か?」
 美里は不思議で不思議でたまらない。なぜなら、玄のデッキを知り尽くしているからこそ、その異常性が不思議でたまらないのだ。
(どう……して……?)
「まぁ、ここでネタばらしだ。リバース罠を発動した。それだけだ」
 しかし、それは明らかにおかしかった。何がおかしかったか。それは、さっき美里が開示したデッキレシピの中には、1枚も召喚に反応する除去カードがなかったのだ。にも関わらず、《ホルスの黒炎竜 LV8》はその召喚時に姿を消した。
「な……なんで? なんでそのカードが……」
 玄フィールドにはリバースされた1枚の罠カード。それは。

「どうして君のデッキに、《奈落の落とし穴》が入ってるの!?」

 そのカードは紛れもなく、どうみても、《奈落の落とし穴》だった。
 攻撃力1500以上のモンスターの召喚、特殊召喚成功時にそのモンスターをゲームから除外する。強力な除去罠だ。
 だが。
「ありえないよ。なんでそれが……」
(カードの枚数を数え間違えた? ううん、そんなんじゃない。数える時に枚数はデュエルごとに数えなおしてた)
 焦りながらもあらゆる可能性を考える。そこで1つの可能性を提示する。
「もしかして。デッキ枚数が40枚じゃない?」
 それならば可能性として十分にあり得る。デッキは必ずしも40枚でなくてはならない訳ではない。40枚から60枚の間ならば好きなように枚数を調整できる。流石に60枚なんてことはないが、それでも45枚程度なら十分にあり得る。
「それは違うな。俺はこだわりとしてデッキ枚数は必ず40枚にしてるんだ」
 しかし、そんな美里の予想も外れる。
「じゃあ、いったいどうして?」
「答えは至極単純明快。少し考えれば分かることだけど、時間切れってことで正解発表。俺はただ単純に、デッキを変えたんだよ」
 玄の言うとおり、至極単純明快。ネタが分かればそれだけのことなのだ。
「体育館でデュエルしたとき(今もまだ体育館内だけど)使ったデッキはお前がさっき言った通りのものだ。それで合ってる。そして、副部長さんに呼びかけられたとき、気付かれないように、懐に入れておいた別のデッキと差し替えた」
 ここからは多少長くなるので、要約して記そう。
 玄は神之上高校決闘部には入部試験が存在するということ自体は前々から知っていた。しかしその試験の内容がどんなものかは一切知らなかった。とは言え相当な数の入部希望者が来るのは容易に想像でき、その人数を審査するのであれば、いかなる方法であろうと複数回のデュエルが必要ではないかと考えた。さらに、直接部員が実力を確かめることなく入部試験が終わることはないという考えにも至った。そうでなかった場合も考えられるが、両方考えておいて損はない。結果としては予想が当たり、玄が思い描いた通りの展開となった。
 では、何をしたのか? これも大したことをしたわけではない。まず普通に使うデッキを1つ用意する。そして、もしデッキを入れ替えるチャンスがあった時のために、それによく似た違うデッキを用意する。ただ、これだけである。そして誰も見ていないタイミングで懐のデッキと交換して、準備は完了だ。
「……最初に真子先輩が「デッキの変更は不可能」って言ってたはずだけど」
「いいや違うな。正確には「ストップがかかるまでの間デッキの変更は不可能」だ。そして副部長さんのストップはもうかかってる。それ以降ならデッキをいくら変えたって大丈夫なはずだ」
 美里は黙る。玄の言っていることは屁理屈に聞こえるかもしれないが、間違いなく正論だった。というか、そこに気付けるかどうかも試験の一部でもあったのだ。
 合格を聞かされて浮かれている入部希望者たちを計るための、一種の罠の様なものだった。しかし、玄は難なく乗り越える。
「お前はこのデッキの内容を完全に把握していると思っているだろうが、それは違う。むしろ、よく似ているデッキを完全に把握してしまっているせいで、お前にはどこが違いどこが同じかは分からない。と言っても相違点はたったの9枚。その1枚がこの《奈落の落とし穴》だったというわけだ」
 ここまで玄が見せたカードは《奈落の落とし穴》を含め9枚。つまり、あと31枚の内8枚が未公開のカードだ。
(白神くん……。この1戦のために16度の試合をすべて見て、その対策をわざわざデッキに組み込んだ私が言えることじゃないかもしれいけど、普通そこまでする?)
「そういえば、ターンエンドだったな。それじゃ、俺のターンに行かせてもらおうか」
 確かに掴んでいたはずの流れは、いつの間にか奪われていた。

第7ターン
美里
LP:8000
手札:2
《洗脳解除》、SS


LP:7350
手札:2
無し

「ドロー。《ブロック・ゴーレム》を召喚し、効果発動!」
 自分の墓地が地属性のみの場合、リリースすることでレベル4以下の岩石族を2体特殊召喚できる。玄の墓地のモンスターは《伝説の柔術家》、《ゴゴゴゴーレム》、《コアキメイル・サンドマン》、《妖精王 アルヴェルド》の4枚のみ。どれも地属性、条件は満たしている。
(さっそく未公開カード……!)
「《ゴゴゴゴーレム》と《コアキメイル・サンドマン》を蘇生し、バトルフェイズ! ダイレクトアタック!」
「きゃあっ!」

美里 LP:8000→6200→4300

 中々決まらなかった攻撃が嘘のようにすんなりと通る。
(私の伏せカードは2枚目の《王宮のお触れ》。《ホルスの黒炎竜 LV8》が場に出たから【お触れホルス】を決めようと思った矢先、こうなっちゃうか……)
「メイン2、2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《ジェムナイト・パール》! さらにカードを1枚伏せてターンエンドだ!」


第8ターン
美里
LP:4300
手札:2
《洗脳解除》、SS


LP:7350
手札:0
《ジェムナイト・パール》、SS


(あの伏せカードは何? 私が知ってるカード?それとも別の何か? 知ってるカードだとしたら何がある……《デモンズ・チェーン》? 《リビングデッドの呼び声》? 《禁じられた聖槍》? 《岩投げアタック》? ……ダメだ、もうそのカードが入っているかすら私には分からない……!)
 すでに思考に意味はない。考えるのを諦め、美里は1枚のモンスターを召喚する。
「《N・グラン・モール》! 《ジェムナイト・パール》に攻撃!」
「《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動! 破壊だ」
「うっ……!」
 《聖なるバリア-ミラーフォース-》は公開されているカードの中にあった。だが、もはやそれは意味をなさない。考えれば考えるほど深くはまっていく。もはや逃げることはできない。
「カードをセット、ターン終了……」

第9ターン
美里
LP:4300
手札:1
《洗脳解除》、SS×2


LP:7350
手札:0
《ジェムナイト・パール》

「ドロー、魔法カード発動。《鬼神の連撃》! 《ジェムナイト・パール》のオーバレイユニットをすべて取り外し、2回攻撃権を得る!」

《ジェムナイト・パール》 ORU:2→0

 今伏せた《激流葬》のカードも、さっき引いたばかりの《エフェクト・ヴェーラー》も、デッキのメインコンセプトである《王宮のお触れ》も、メタカードとして投入した《洗脳解除》も、この状況では全く意味をなさない。
「パールでダイレクトアタック!」
「きゃああっ!」

美里 LP:4300→1700→0

 勝者、白神玄。

「負けたよ。すごいね」
「どんな気分だ?」
「なんか案外スッキリしてるよ。今日はいいことが分かったしね」
「何が分かったんだ?」
 笑顔を浮かべて一言。
「上には上がいる」
「ちょっと違うな。上には下がいるんだよ」
 玄が挑発すると、むっとしたように頬を膨らませる。
「そうむくれるなよ。上とか下とかなくなるように精々がんばれ」
「そうだね……頑張る」
「2人は……璃奈と鷹崎のほうはどうなったのか気になるな」
 互いが互いの邪魔にならないように、場所を変えてしまったため、ほかの2つのデュエルの状況を知ることはできない。
 と、そこで美里の顔が沈んだ様子だった。そして、口を開く。
「白神くん……正直に言うよ」
「何をだよ」
「2人は、璃奈ちゃんと鷹崎くんは……勝てないよ」


<Side-T>

「俺のターン、ドロー!」
 5ターン目、鷹崎のドロー。圧倒的不利な状況にもかかわらず、未だ鷹崎の覇気は消えてはいない。
「《聖刻龍-ドラゴンヌート》を通常召喚。そして、墓地の《スキル・サクセサー》の効果を発動!」
 《スキル・サクセサー》は通常の場合、自軍のモンスター1体の攻撃力を400上げるだけのカード。だが、《スキル・サクセサー》には墓地で発動するもう1つの効果がある。
「《スキル・サクセサー》をゲームから除外し、《聖刻龍-ドラゴンヌート》の攻撃力を800ポイントアップ。さらに、《聖刻龍-ドラゴンヌート》が対象となったことで、デッキより《アレキサンドライドラゴン》を特殊召喚!」

《聖刻龍-ドラゴンヌート》 ATK:1700→2500

「《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力と並んだか……」
「まだだ! 《アレキサンドライドラゴン》を墓地へ送り、《馬の骨の対価》を発動。2枚ドロー!」
 《調和の宝札》、《トレード・イン》に続いて3種類目のドローブーストカード。
(よしっ!)
「魔法カード、《死者蘇生》。墓地より《青眼の白龍》を復活させる!」
 効果の備わっていない通常モンスターとはいえ、攻撃力3000の上級モンスター。これで音無のフィールドのモンスターの攻撃力すべてを上回った。
「バトル! 《青眼の白龍》で《スターダスト・ドラゴン》を、《聖刻龍-ドラゴンヌート》で《サイバー・ドラゴン》を攻撃!!」
「両方受けよう」

音無 LP:8000→7500→7100

 ここに来て音無初のダメージ。しかしそれでもライフポイントの差は僅かにしか埋まらない。
「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」
 そして《スキル・サクセサー》の効力が消え、《聖刻龍-ドラゴンヌート》の攻撃力が下がる。

《聖刻龍-ドラゴンヌート》 ATK:2500→1700

第5ターン
鷹崎
LP:1600
手札:2
《聖刻龍-ドラゴンヌート》、《青眼の白龍》、SC

音無
LP:7100
手札:3
《サイバー・ダーク・ホーン》、《ボマー・ドラゴン》(装備)

「僕のターン。速攻魔法、《手札断殺》を発動。お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、2枚ドローする」
 鷹崎の手札は丁度2枚。選択することもできず2枚の手札を墓地へ。
「《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》と《ドレッド・ドラゴン》を墓地へ送り、2枚ドロー」
「《サイバー・ダーク・キール》と《仮面竜》を墓地へ送り、2枚ドロー」
(さらに【サイバー・ダーク】の種を落としたか……)
「《サイバー・ダーク・エッジ》を通常召喚。《仮面竜》を装備し、攻撃力1400アップ」

《サイバー・ダーク・エッジ》 ATK:800→2200

「バトルフェイズ、《サイバー・ダーク・ホーン》で《青眼の白龍》に攻撃。ダメージステップ、《収縮》を発動し、《青眼の白龍》の攻撃力をダウン」
「くっ!」

鷹崎 LP:1600→1300

「《サイバー・ダーク・エッジ》で《聖刻龍-ドラゴンヌート》に攻撃」

鷹崎 LP:1300→800

「ターンエンド」
 再び鷹崎の場ががら空きになる。音無は焦ることもなく、目の前の障害を難なく崩していく。
 だが、鷹崎もまだまだ終わりはしない。
「リバースカード、《リビングデッドの呼び声》発動! 墓地よりモンスター1体を蘇えらせる!」
(《手札断殺》の手札交換でいいカードが引けた。このままぶっちぎる!!)
「《聖刻龍-ドラゴンヌート》を蘇生!」
「へぇ……ここで《聖刻龍-ドラゴンヌート》かい。何を狙っていることやら。うん、何もないよ。ターンエンドだ」

第6ターン
鷹崎
LP:500
手札:2
《聖刻龍-ドラゴンヌート》、《リビングデッドの呼び声》

音無
LP:7100
手札:1
《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・キール》、《ボマー・ドラゴン》(装備)、《仮面竜》(装備)

「俺のターン、ドロー!」
(ライフ差6600ポイント。正直かなりやばかったが、それもここまでだ! 一気に押し返す!!)
「速攻魔法、《月の書》を《聖刻龍-ドラゴンヌート》に対して発動!」
 《聖刻龍-ドラゴンヌート》は裏側守備表示となるが、対象に取られたことで、チェーンする形でその効果が発動し、墓地から《アレキサンドライドラゴン》を攻守0にして特殊召喚。
「そして《聖刻龍-ドラゴンヌート》を反転召喚!さらに通常召喚、《スター・ブライト・ドラゴン》! 召喚時にモンスター1体のレベルを2上げる。対象はもちろん《聖刻龍-ドラゴンヌート》だ!」
 1度セット状態になったことで、《聖刻龍-ドラゴンヌート》の「1ターンに1度」しか発動できない効果はリセットされ、再び効果の発動が可能となった。それによって、レベル6の《エレキテルドラゴン》を特殊召喚した。
 そして、《聖刻龍-ドラゴンヌート》のレベルも、6まで上昇。

《聖刻龍-ドラゴンヌート》 LV:4→6

「レベル6となった《聖刻龍-ドラゴンヌート》と《エレキテルドラゴン》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 世代を繋ぐ古の龍、《聖刻龍王-アトゥムス》!! 効果を発動!」

《聖刻龍王-アトゥムス》 ORU:2→1

 その効果により、デッキからドラゴン族モンスターを特殊召喚できる。攻守は0になってしまうが、効果の発動は可能だ。
「デッキより、《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を攻守0にして特殊召喚! 効果を発動し、墓地より《青眼の白龍》を蘇生!」
「すごい展開力だ。でも、まだ終わりじゃないんだろう?」
「もちろん! レベル4の《アレキサンドライドラゴン》と《スター・ブライト・ドラゴン》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 燃えろ、《竜魔人 クィーンドラグーン》!! こっちも効果発動だ!!」

《竜魔人 クィーンドラグーン》 ORU:2→1

「墓地より、レベル5以上のドラゴン族1体を特殊召喚。俺は《バイス・ドラゴン》を蘇生する」
 この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン攻撃に参加できず、また効果を発動することもできない。だが、今の状況には関係ない。これはさらなる攻撃のための布石に過ぎない。
「魔法カード、《ドラゴニック・タクティクス》!」
 自分フィールドのドラゴン族2体――《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》と《バイス・ドラゴン》――をリリースしデッキからレベル8のドラゴン族を1体特殊召喚する魔法カード。鷹崎が呼んだのは2体目の《青眼の白龍》。
「さらに、エクシーズチェンジ! 《聖刻龍王-アトゥムス》を素材とすることで、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》をエクシーズ召喚!!」
「……驚いた。正直、あの状況からここまで場を埋め尽くすとは思わなかったよ」
「バトルだ! 《竜魔人 クィーンドラグーン》、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》、《青眼の白龍》2体で、攻撃!!」
 「サイバーダーク」の共通効果。装備を外すことで、戦闘破壊を無効化する。これによって、《サイバー・ダーク・ホーン》と《サイバー・ダーク・キール》は1度だけ戦闘破壊を免れる。
「それでも、あんたのフィールドのモンスターは全滅する!! 食らえ!!」
「ぐぅ……ッ!!」

音無 LP:7100→6700→4900→4100→1900

 見事5200の大ダメージを与え、ライフを一気に詰め寄らせる。
「どうだ!」
 これで、鷹崎の手札は0枚。することはなく、このままターンを終了する。

第7ターン
鷹崎
LP:800
手札:0
《竜魔人 クィーンドラグーン》、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》、《青眼の白龍》×2、《リビングデッドの呼び声》

音無
LP:1900
手札:1
無し

「僕ターン、ドロー。このターンを進める前に、一つ言っておくことがあるんだ、鷹崎君」
「……何を」
「この勝敗に関わらず、さっきのプレイングだけで十分に及第点だ。君の合格は確定だ」
「そりゃどうも」
「だから、君はこの敗北を何も恥じることはない」
 その瞬間だった。鷹崎は言い返してやろうと口を開こうとした瞬間、その場の空気が一変した。
(なん……だ、これは……?)
 さっきまでは感じられなかった、まるで押しつぶされるかのような空気。突然、その場の大気圧が変改したかのように息苦しくなり、鷹崎は今日初めて息切れというものを起こした。
(くそっ……なんだこれ……! わけがわからねぇっ!!)
「僕は《手札抹殺》を発動」
 たった1枚のカードの発動が、最上級モンスターをフィールドに出したかのような威圧感を帯びている。
 手札は、音無が持っている1枚以外にない。たった1枚の手札交換。ただそれだけのはずなのに、鷹崎にはそれが死刑宣告化のように感じられた。
「魔法カード、《サイバーダーク・インパクト!》!! 墓地の《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・キール》、《サイバー・ダーク・エッジ》をデッキに戻し、融合召喚!!」

 Cyberdark Dragon!!!

 その効果により、墓地のドラゴン族を装備。そのモンスターの攻撃力分、自身の攻撃力に加算する。
「僕は、手札抹殺で墓地に送った《Sin トゥルース・ドラゴン》を装備。攻撃力を5000ポイントアップ」
 さらに、自分の墓地のモンスター1体につき攻撃力が100ポイントアップする。

《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》 ATK:1000→6000→6500

「こっ……攻撃力、6500……だと」
 この瞬間、鷹崎が1つの事に気付く。
「これが……あんたの本気かよ……」
「気付いたかい。一応、試験だからね。審査するのが目的だ。多少の無礼は許してくれると、ありがたい」
「別に……悪いのはあんたじゃねぇよ」
 互いに口にはしないが、鷹崎は気付き、音無は認めた。
 ここまで音無祐介は本気など出していなかった。手加減をしていたのだ。いや、そもそもこのデッキだって審査用に手を抜いて作っているものかもしれない。それでも、高崎は自分が思っていたほど怒りを感じることはなかった。むしろ、自らの実力不足に嫌気がさした。
(白神といい……世界は広いんだな、くそったれ)
「バトルフェイズだ。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の攻撃」
「また……またいつかデュエルをしてくれ。その時までにはもっと、強くなってるからよ」
「ああ」
(1日で……目標が2つもできちまった。負けてばかりだが、今日は良い日だな)

 Full Darkness Burst!!!

鷹崎 LP:800→0

 勝者、音無祐介。

「……ちくしょう」
 鷹崎は、音無に聞こえないように、小さくそう呟いた。


To be continue

     



<Side-K>

「璃奈と鷹崎が勝てない……? それ、どういう意味だよ」
 玄と美里のデュエルが終わり、美里の言った一言に玄が疑問を浮かべる。
「そのままの意味。単純に実力的に勝てないってこと」
 その一言を口にし、心なしか美里は若干うつむいてしまう。
「俺はあの2人のデュエルを知らないから何とも言えないが、別に勝たなくてもいいはずだろ。目的は勝つことじゃなくて、及第点をもらうことだろ? 負けてもいいとは思はないし、そりゃ勝ったほうがいいだろうが、必ずしも勝たなきゃいけない訳じゃない」
「うん……そうだよ。そうなんけど」
「そうなんだけど?」
「音無先輩なら優しいし、多少は甘くつけてくれるかもしれない。でも真子先輩は……」
 段々と美里の口調が弱まっていく。
「優しくないのか」
「いや、優しんだけどね。どちらかっていうと……厳しいって感じかな。きっと、真子先輩に勝たなきゃ合格させない、とか言ってると思うよ」
 予想的中。伊達に入学から1年間一緒にいたわけではなく、真子の性格をよく理解していた。
「さっきからずっと璃奈ちゃんが心配で心配で気が気じゃないんだよ……」
 そわそわとし始める美里。よほど璃奈のことが心配のようだ。
「俺は副部長さんがどんなデュエリストか分からないし、璃奈とだってデュエルしたのは1回だけだ。それでも俺は璃奈を信じるよ」
「白神くん……」
「不安な気持ちもわかるけどさ、お前は璃奈の幼馴染なんだろ? ならあいつの強さはお前も知ってるはずだろ? 信じてやれよ、きっと璃奈は勝つ」
「そうだね……そうだよね」
 美里の目に光が戻る。
「璃奈ちゃんのこと心配だし、第三体育館に戻ろう、白神くん」


<Side-R>

 実は、3つのデュエルの中で最も早く決着が着いたのがここ、第三体育館での璃奈と真子のデュエルだった。
 故に、玄や鷹崎たちはここに着いた時には勝敗はすでに決していた。
 ここから多少、時間を遡る。
 そこは、第3ターンが終了したところ。璃奈の残りライフはたったの300。真子のフィールドには攻撃力4000と3200の《茫漠の死者》が2体、連続攻撃が可能な《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》、効果破壊に強く相手のデッキを削る《ヴァンパイア・ロード》。突破は至難の業である。
「私のターン、ドロー」
 このドローで璃奈の手札は3枚。合計攻撃力12000のモンスターたち。戦闘で破壊するのは無理がある。だが、璃奈のデッキは【ネオスビート】。除去と蘇生はお手の物。
 璃奈は1枚の手札を引き抜き、デュエルディスクに叩きつける。その瞬間、真子のモンスターが黒い渦の中に巻き込まれる。
「魔法カード、《ブラック・ホール》を発動!! これで、モンスターは全滅です!」
 しかし、《ヴァンパイア・ロード》は相手によって効果破壊された次の自分のスタンバイフェイズに蘇生する。
「今のドローなのか、はたまた《手札抹殺》で引いたのか、それとも《ガード・ブロック》で引いたのか。どれかは分からないけど、いずれにせよ大したドロー運ね」
「どうもです」
 ちなみに《ブラック・ホール》を引いたのはこのターンのドローである。もしこのドローで《ブラック・ホール》を引けなかったと考えたら璃奈はぞっとした。
「これでモンスターは4体のモンスターは全滅です。ここから反撃させてもらいますよ」
 しかし、真子も安々と破壊を受け入れるわけではなかった。
「残念だけど、そうはさせないわ。私のモンスターが破壊されたことをトリガーに罠カード発動。《魂の綱》! 自分フィールドのモンスターが破壊されて墓地へ送られたときにライフを1000払ってデッキからレベル4のモンスター1体を特殊召喚。私は《ピラミッド・タートル》を守備表示で特殊召喚するわ」

真子 LP:4900→3900

 一時的にでも真子のフィールドをがら空きにすることに成功したと思いきや、2枚目の《ピラミッド・タートル》。攻撃すれば再び上級アンデットが出てくるのは目に見えている。ただのリクルーターが大きな壁として璃奈の前に立ちはだかる。
(ダイレクトアタックも通せない……やっぱり強いです、副部長さん)
「《E・HERO エアーマン》を召喚して、《E・HERO アナザー・ネオス》をサーチします」
 当然攻撃はできない。攻撃すれば無駄に大型のモンスターを呼び出され、璃奈の首を絞めることとなる。
(それでも、いくらこの人が強くても、私は勝ちます。勝ちたいんです。玄くんや美里ちゃんと肩を並べて歩きたいんです。だから、私は負けません!)
「カードを1枚伏せて、ターン終了です」
 胸に思いを秘め、璃奈は臆せず前に進む。ここで進まなければ、いつまでも進むことなどできないのだから

第4ターン
真子
LP:3900
手札:0
《ピラミッド・タートル》

璃奈
LP:300
手札:1
《E・HERO エアーマン》、SC

「私のターン、ドロー」
 まずはこのスタンバイフェイズ、前のターン《ブラック・ホール》によって破壊された《ヴァンパイア・ロード》が真子のフィールドに蘇える。
 その攻撃力は2000。《E・HERO エアーマン》では太刀打ちできない。
「《ピラミッド・タートル》を攻撃表示に変更。《ヴァンパイア・ロード》も復活したことだし、お待ちかねのバトルフェイズよ」
「待ってませんけどね……」
 むしろ璃奈からすれば来てほしくないものだった。
「《ヴァンパイア・ロード》で《E・HERO エアーマン》に攻撃!!」
 この攻撃を受けても璃奈のライフは0になることはないが、《ヴァンパイア・ロード》がダメージを与えた時、その効果によって璃奈のデッキが削られる。そうなれば逆転はさらに困難なものとなる。ここで璃奈が選んだ選択は――。
「攻撃を……受けます」
 
璃奈 LP:300→100

「《ヴァンパイア・ロード》の効果を発動。私は前のターン同様、「罠」を宣言」
 再び宣言は罠カード。璃奈はデッキを手に取り、数秒考え《サンダー・ブレイク》を墓地へ送る。今後の状況から手札コストを払えないことを考えての選択だ。
「そして……《ピラミッド・タートル》でダイレクトアタック!!」
 この攻撃を通せば、残りたった100のライフでは受けきれない。
「それは通せません、手札の《E・HERO アナザー・ネオス》を捨てて、《サンダー・ブレイク》を発動! 《ピラミッド・タートル》を破壊です!」
 だが、璃奈はもちろん防御用の罠を残しておいた。
 《ヴァンパイア・ロード》の効果で先ほど送ったばかりの《サンダー・ブレイク》。すでに璃奈のフィールドにもう1枚がセットれていたのだ。
 そして《ピラミッド・タートル》が破壊されたことで、真子が璃奈に止めを刺す手段がなくなる。なんとか璃奈は首の皮を一枚つないだ。
「粘るわね」
「粘りますよ。勝ち目があるなら、最後まで」
「そう。それならメイン2へ。カードを1枚伏せてターン終了よ」
 この5ターン目をなんとか乗り切る。そして、続いて第6ターン。璃奈のターンになるが、ここで攻めきることができなければ、璃奈はより一層敗北に近づく。
 ここが、運命の分かれ道となる。

第6ターン
真子
LP:3900
手札:0
《ヴァンパイア・ロード》、SC

璃奈
LP:100
手札:0
無し

「私のターン」
(なんででしょうか……このドロー。逆転のカードを引けなければ負けだっていうのに、不安がありません)
 その顔は諦め、敗北を受けいれた顔に見えたかもしれない。それほどまでに清々しかった。
 だが違う。この時璃奈は、自分の敗北を全く考えていなかった。
 いつも通り、当たり前のように、1枚のカードをデッキより引き抜く。
「ドロー」
(んー? 空気が、変わった……?)
 真子が感じた「何か」など璃奈には知る由もなく、確認したドローカードを即座に発動させた。
「魔法カード、《E-エマージェンシーコール》を発動です。デッキから「E・HERO」1体を手札に加えます。私が加えるのは《E・HERO バブルマン》」
「ここでそれを引くのね……ホント、すごいドロー運ね」
「《E・HERO バブルマン》は手札がこのカードのみの場合、手札から特殊召喚できます。さらに、もう1つの効果を発動」
 《E・HERO バブルマン》には2つの効果がある。1つは特殊召喚効果。そしてもう1つは、ドロー効果。召喚、反転召喚、特殊召喚時に自分の手札及びフィールドにほかのカードがなければデッキから2枚のカードをドローできる。
「2枚のカードをドロー!」
 ここでさらにドローしたうちの1枚を発動。
「魔法カード、《死者蘇生》を発動し、墓地から《E・HERO エアーマン》を特殊召喚! 効果によってデッキから《E・HERO アナザー・ネオス》を手札に加えます」
 璃奈のライフは100。そしてフィールドにはレベル4のモンスターが2体。この条件でのみ効果の発動を許された一発逆転のエクシーズモンスター。
「私は、レベル4の《E・HERO エアーマン》と《E・HERO バブルマン》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 希望の光、《No.39 希望皇ホープ》!!」
 さらに、《No.39 希望皇ホープ》は進化する。
「《No.39 希望皇ホープ》をオーバーレイユニットとすることで、カオスエクシーズチェンジ!! 混沌を光変える、希望の使者! 《CNo.39 希望皇ホープレイ》!!」
 《CNo.39 希望皇ホープレイ》は、自身のライフが1000以下の時、オーバーレイユニットを1つ取り除くことで、《CNo.39 希望皇ホープレイ》自身の攻撃力を500ポイント上昇させ、相手モンスター1体の攻撃力を1000ポイント下げる効果を持つ。この効果が成立すれば、4000のダメージが発生し、ライフ3900の真子に勝利することができる。まさに一発逆転だ。
 だが、真子はそう甘くはなかった。
「罠カード、発動。《奈落の落とし穴》!」
 《CNo.39 希望皇ホープレイ》はあっけなく次元の彼方へと飛ばされてしまう。攻撃どころか効果を発動することすらできなかった。
「《奈落の落とし穴》……」
「これであなたの逆転の札は消えた。と言っても、あなたの手札にはまだ《E・HERO アナザー・ネオス》。そしてまだ召喚権も使ってないわ。私のドロー次第じゃ、次のターンも《E・HERO アナザー・ネオス》を壁にして耐えることができる。さぁ、デュエルを続けましょう」
 真子は、その小さな口で次々と言葉を紡いでいく。だが、璃奈の耳には届いていなかった。必殺の切り札を打ち破られ、まさに希望を失った璃奈の耳には、そんな言葉は入ってこなかった。
 と、言うわけではない。耳に入らなかったのは、別の理由――真の理由があった。
「《奈落の落とし穴》……来ると思ってました」
「ん?」
「きっと副部長さんなら私の攻めを封じるための何かを伏せていると思ってました。信じてました。もしそれが攻撃反応型の罠だったなら、分かりませんでしたけど、それでもなんとなく、《奈落の落とし穴》だと思ってました」
「何を……言っているの……?」
「私の勝ちです!!」
勝利を確信した璃奈の耳に、真子の言葉は届かない。ただただ、前に進む。
 璃奈は通常召喚権を行使し、《E・HERO アナザー・ネオス》を召喚。もちろん、セット状態ではなく、攻撃表示だ。
「これが、私の本当の、最後の逆転の切り札!!」

 Hero Flash!!!!!

 カードエフェクトによって、璃奈の背後に「H」「E」「R」「O」の四文字が光り輝く。
 墓地の《H-ヒートハート》、《E-エマージェンシーコール》、《R-ライトジャスティス》、《O-オーバーソウル》をゲームから除外することで発動できる魔法カード、《ヒーローフラッシュ!!》。
「なっ……いつの間に4枚のカードが墓地に……!?」
 そもそもこの中で《R-ライトジャスティス》は使用されていない。真子の疑問ももっともである。だが。
「そんなに驚くほどの事じゃないですよ。確かに《R-ライトジャスティス》は使ってませんけど、それでも墓地へ置く機会はありました。副部長さん、あなたの《手札抹殺》です」
「《手札抹殺》……あの時手札に残ってた1枚が偶然《R-ライトジャスティス》だったって言うの?」
 ドロー運だけではなく、璃奈はこんなところでもその運を発揮していた。
「《E・HERO ネオス》を蘇生した《O-オーバーソウル》も、その《E・HERO ネオス》を強化して貫通ダメージを与えた《H-ヒートハート》も、《E・HERO バブルマン》を呼んできた《E-エマージェンシーコール》も、《手札抹殺》の効果で墓地へ行った《R-ライトジャスティス》も、どれが欠けても、この状況をあり得ませんでした。でも、だから、偶然でも、そんなすべてが揃ったからこそ、今の私があるんです!」
 そして、《ヒーローフラッシュ!!》の効果が発動する。
「通常モンスターの「E・HERO」1体、《E・HERO ネオス》をデッキから特殊召喚します!!」
 さらに効果はそれだけではない。
「そして、私のフィールドにいる通常モンスターの「E・HERO」はこのターン、相手プレイヤーにダイレクトアタックができます!!」
 真子のフィールドの《ヴァンパイア・ロード》をスルーして真子に直接攻撃を与える。そして。
「《E・HERO アナザー・ネオス》も《E・HERO ネオス》も通常モンスターで、2体の合計攻撃力は4400。副部長さんのライフは、3900。これで、終わりです。バトルフェイズに入ります。《E・HERO アナザー・ネオス》と《E・HERO ネオス》でダイレクトアタック!!」
 2体の英雄が《ヴァンパイア・ロード》を無視し、真子の体目掛けてその全身を猛突進させる。
(通って、通って、通って!!)
「あら残念。負けちゃった♪」

真子 LP:3900→2000→0

 勝者、早川璃奈。

(通った……?)
「あれ、えっと、勝った……? 勝ったんですか私」
 さっきまでの勝利への自身はどこへ行ったのか、璃奈は自分の勝利が信じられないというように口を開いた。
「私……私っ……勝てた……勝てました」
 その瞳は今にも泣きだしそうなほど潤んでいた。勝利の感動を全身で感じていた。
 と、そんなところで不意を突かれ、真子の抱きつき(突撃)に気付かずもろに食らう。
「げほぉぅっ!?」
 およそ女子高生とは思えないような声を上げながら真子に押し倒されるように体育館の床に倒れる。
「きゃー、すごいわすごいわよ! まさかほんとにあの状況から勝つなんて! やっぱり私の目に狂いはなかったわ!!」
 目をキラキラと輝かせながら、璃奈の背中側に回した両手の指をめいっぱいに駆動させ、胸の部分に押し付けた顔で頬ずりする。
「うわっ、ちょっ、やめっ、やめてくださいっ! くすぐったいです! 変なところ触らないでください!!」
 いつの間にか真子の手は璃奈の腰よりも下のあたりまで下りていた。全力駆動しながらも真子の指はさらに下へ向かって突き進む。
「ひゃぁっ! お尻っ、お尻に来てますよ!? やめてくださいってば! ホント、くすぐったいんですよー!!」
「あら? ポヨンポヨンしてる? 案外ふくよかな感じで……いや、案外どころかこれはなかなかの……」
「頬ずりしながら何を吟味してるんですかー!!?」
 

 結局、璃奈が真子の魔の手から解放されたのは玄と美里が第三体育館へと到着したときだった。
 感動で貯まっていた涙は、何かを失ったかのように目から流れ落ち、璃奈の体はぐったりと体育館の床に倒れていた。
「えーっと、これは?」
 美里が倒れこんでいる璃奈の体を指さしながら真子に説明を求める。
「全身マッサージ……かしら」
「嘘でしょ」
「うん」
 玄が璃奈の元まで歩み寄り、屈みこんでその顔を覗く。
「大丈夫……ではなさそうだけど、大丈夫か?」
「うぅっ……もうお嫁さんに行けませんよぉ……」
「大丈夫、私がもらってあげるからね、璃奈ちゃん」
 言ったのは美里だった。
「いや、お前も行く側だから。もらえねぇから」
「じゃあ私がもらうから」
 言ったのは真子だった。
「あんたも行く側だから。っていうかこれやった張本人だから」
 そんなコントをやっているうちに鷹崎と音無も到着。璃奈もなんとか立ち直り、それぞれのデュエルの結果を報告しあった。
 そして。
「と、言うわけで……3人とも合格おめでとー!!」
 真子の歓声と同時に、美里、音無が賞賛の拍手を送る。
「これで君たち3人は晴れて神之上高校決闘部の一員だ。これからよろしく」
 3年、決闘部部長、音無祐介。
「璃奈ちゃんおめでとう。まさか真子先輩に勝っちゃうなんて、驚いたよ」
 2年、決闘部部員、秋月美里。
「偶然ですよ、偶然。私なんてまだまだです」
 1年、決闘部新入部員、早川璃奈。
「いいんだよ、偶然でも勝てば。まぁ、今回に限っては勝ち負けはそこまで重要なファクターじゃないけどな」
 2年、決闘部新入部員、白神玄
「腹ァ……減ったなぁ」
 1年、決闘部新入部員、鷹崎透。
「はーい、みなさんこちらにちゅうもーっく!」
 3年、決闘部副部長、辻垣内真子。
 この6名がこれからの神之上高校決闘部を支え、これから互いが互いを高めていく。
「それじゃあ、新入部員歓迎会ってことで、焼き肉でも食べに行きましょうか。音無くんの奢りで」
 そう言ったのは小さな小さな副部長。
「え?」
「おっ、いいね副部長! 賛成だ」
 賛成したのは低身長の男子。
「ちょっ」
「金欠だったからありがたい」
 笑顔を向けたのは病弱そうな女子。
「おいおい」
「お腹も空いてきましたし……お言葉に甘えて」
 遠慮がちにもあやかる気満々の少女。
「待って!」
「本当に腹が減った。今日は少し体力を使いすぎた。早くいこうぜ」
 目つきの悪い少年が催促する。
「なんで!?」
 理不尽に抗おうと交渉したが虚しくスルーされた部長。
 曲者揃いの決闘部、新生・神之上高校決闘部は、親睦会を含めた歓迎刊をしに焼肉屋に行くのであった。
 ちなみに、流石にかわいそうなので、半分が音無、残りの半分は割り勘ということになった。

       

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Neetsha