Neetel Inside ニートノベル
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魔剣士ベリムドットの受難
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 ベリムドット  黒髪の魔剣士(♂)
 ファル     赤髪の魔法使い(♀)
 クラレ     金髪の僧侶(♀)




 ベリムドットたちがリールの村を出てから三日が経った。ケイグスの町への通り道にある森の中で、一行は焚火をしている。
「……まさか迷うなんてな」
「太陽についていけばなんとかなると思ってたんだけどね」
 そう言ったのは、魔法使いのファル。頭にかぶった三角帽子の下の整った顔は沈痛さに満ちている。
「元気を出していきましょう。このあたりはそれほど強い魔物もいませんし、食料も水もたくさん買い込みましたから」
 クラレが拳を握って力説する。
「それにベリムドットさんの剣の腕があれば盗賊団と出くわしても大丈夫ですよ」
 まさか折れたとは言えない。ベリムドットは黙っていた。
「盗賊っていえば」
 ファルが木の枝で焚火を突きながら言った。
「このあたりには『天樹の一味』ってのが出るらしいわよ。なんでも飛行魔法に特化した悪党どもだとか」
「あ、それ聞いたことあります。木の上に隠れて道ゆく旅人を襲うとか。ひどい人たちがいるものですねえ」
「時代が時代だからね」
 ファルの声には疲れが滲んでいる。
「魔王が二千年ぶりに復活したりしたら、まともに生きていこうって気も失せるわよね。明日には彗星が落ちてきてみんな死んじゃうかもしれないんだし」
「ですから、そうなる前に私たちが魔王ジャブルグルを倒さなければならないんじゃないですか」
「そうなんだけどねえ……べつに魔王討伐隊はあたしたちだけってわけじゃないし、あーあ、セキレードの都でのんびり暮らしてたかったなあ」
 ファルはセキレードの都で魔法道具の密売をしているところをベリムドットに見つかり、投獄される代わりにパーティに加わる条件で仲間になった経緯があった。
「ちぇっ。どーしてあたしがこんな森の中で野宿しなきゃいけないのよ」
「世のため人のためです」
 聖セキルム教の敬虔な信者であるクラレは手を合わせて瞑目した。
「魔王は聖セキルムが遣わした神のしもべなのです。あの王を倒せる者が人間の中から現れることこそセキルムの願うところ……」
「またそれ? よくもまあ太古の昔の妄想を今になるまで信じてられるわね」
「神を感じるきっかけがあれば、ファルさんも私のようになれますよ」
「ごめんだわ」
 ファルがふわわ、とあくびをした。
「そろそろ寝るわ。見張りよろしく、ベリム」
「わかった」
「では、私も寝ますね。二時間後に起こしてください」
「ああ」
 二人は寝袋におさまってコトリと眠ってしまった。
 ベリムドットは火の世話をしながら、うつらうつらとする。
 さて、折れた剣のことである。
 ベリムドットの剣は魔剣として名高いコルクーストと呼ばれる銘である。人間が作ったものではないらしい。うわさでは魔人の鍛冶屋が打ったとか。それが本当かどうかはともかく、その柄を握ったものに凄まじい剣技を与えると言われている。事実、そうだった。
 コルクーストを古びた道具屋で10ゼルで買い叩いた名無しの剣士が今ではひとつの魔王討伐隊のリーダーだ。10ゼルが偉い運命に化けたものである。おかげで仲間が二人も増えた。どちらも腕利きで美少女。
 だがその運命を招いた剣はもはや無い、に等しい。
「……」
 ベリムドットは柄を握って、剣を引き抜いた。
 刀身が半ばで折れている。
 ひとつ運命を変えるたびにこの剣は傷むさだめにあったらしい。
 ベリムドットは剣を戻した。月明かりの下、安心しきって眠る二人の仲間を見下ろす。
 逃げるなら今である。


 1.仲間を見捨てるわけにはいかない。ベリムドットは代わりの剣を探しに森の奥へ踏み込んだ。
 2.ファルの魔道具なら治せるかもしれない。ベリムドットはファルの道具カバンへ手を伸ばした。
 3.秘密を打ち明けるわけにはいかない。ベリムドットは折れた剣を置きざりに、その森を後にした。


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