Neetel Inside 文芸新都
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消失点
1. 遠近法

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遠近法



 過去とは遠景だ。
 道を歩いていたとする。ふと立ち止まって後ろを振り返ると、自分が歩いてきた道が見える。だがそれは全て遠くに、しかも後ろ向きに見えるのだ。
 面白いなと思った看板は反対側の無機質な骨格が見える。やけに大きいなと思ったマンションは遠くからだと小さく見える。気にも留めなかった建物の色が意外と悪趣味なカラーリングであると気づく。そして道の彼方は見ることも出来ない。
 過去とはそういうものだ。現在の立ち位置から見た風景に過ぎない。立ち位置が変われば見え方も変わる。大事だと思っていたことは小さくなってやがては忘れてしまう。逆に気にも留めていなかったものが大事に見えたりする。そしてすべては一点において消失していく。
 もし過去に意味があるとすれば、それは現在のある一点においてのみだ。僕が歩き出せばその意味は消える。つまり過去そのものに意味は無い。にもかかわらず僕が過去を見ようとするのは何故だろうか。慰みか、憧憬か、後悔か。
 多分、今を歩いていることを実感したいからだ。道を歩いているのか、どこを目指しているのかわからないまま歩く恐怖を乗り越えるためだ。そう信じた。
 そして僕はまた歩き出した。

       

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