Neetel Inside ニートノベル
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 ひと呼吸置いて、俺も少し考える余裕が出来る。野霧もいい加減どいてくれて、ベッドで二人で背中を合わせている。こうしていると仲の良い兄妹みたいで、なんか不思議だ。
「……しかし俺に、女たらしの才能なんてあるのか?」
 背中越しに野霧が少し動く。
「アンタより百倍頑張っているアタシが言う。本当に才能っていうものが仮にあるとしたら、それは『他人がほっとけないもの』だと思うよ。他人は能力がない人間には冷たいからね……。だから、異性から何となく好かれるのも……多分才能の一つなんじゃないかな。アンタが他の人より優れているのはそれだけだよ」
「俺って好かれてるのか?」
「……うん。つーか今更言いたくないけど、なんで気付かないの? 鈍いとか、そういう次元じゃないよね。アンタ、どっかおかしいんじゃないの? ……で、アンタを好きなのは六人いる」
「え!? そんなにいるのか?」
「……そうだよ。せあや、奈賀子、ネコクロ、ゼナ、あとあの女」
 えーと、ネコクロ、ゼナ、せあや、奈賀子、あとあの女か。
「『あの女』ってどの女だ? あと、そいつ含めても六人じゃなくて五人じゃね?」
「う、うっさい。そんなところだけ突っ込むんじゃない」
「で、俺はどうすればいいんだ?」
「少しは考えろっつうの。一番お金を持ってそうな、あるいは稼げそうな子のところに行って仲良くなるの。付き合ってそのまま結婚しなさい。ヒモでもいいから」
「身も蓋もないな」
「ア、アタシだって別にこんなこと言いたくないよ! だって、しょうがないじゃん。お金稼げない人と結婚したって生活楽にならないでしょ。アンタは知らないだろうけど、お金を稼ぐって凄く大変なんだよ!?」
「そうなのか?」
「はあ。そうだよ……ホントどうしようもない馬鹿だよね……アンタに出来る事っていったら土下座くらいのもんじゃん」
「人徳か?」
「ハイハイすごいねー。まあ土下座はタダだからね。するやつは大体クズだよ」
 一応弁解しておくと、俺はエロゲーが趣味であって土下座は趣味ではない。野霧からはそう誤解されているようだが。
「おい」
「アタシの見立てだと、今んとこ、せあやが一番有望かな……」
「お嬢様だからな。家もでかいし」
「何でアンタせあやの家知ってるの? あとでぶっ飛ばすから。……でも、せあやは働くって言う感じじゃないんだよね。新婚さんいらっしゃーいって言う感じだから……ミスコンとかも簡単に優勝しそうだし、凄いとは思うんだけどね……あとちょっと、メンタル的に許容範囲が狭いところあるしね……『今日はちゃんと家にいましたか? まあ当然ですよね。鎖がついてるんですから……ふふ……何? ご飯? ああ、私少し疲れちゃいました。足を舐めたら作ってあげても良いですよ?』とか言いそうだしなあ……」
 何となく今のは分かった。俺にしては理解が早い方である。
「つまりあれだ。美人だけど頭おかしいって事だろ?」
「そういう訳じゃない! 凄く可愛くて才色兼備だけど少しだけ人より変わってて尖ってる部分があるって事!」
 それって同じじゃないのか?
「ネコクロは? 美人だとは思うが……」
「顔で選ぶんじゃない! アタシの友達は全員美人だっつーの! で、美人だから何なの? あんたネコクロを容姿で売る職業に就かせるつもり? あのコミュ障女じゃ対人関係難しいだろうし、思いあまって変なとこいっちゃうかもしれないでしょ。真面目に考えろ!」
「えーと、刺繍とか料理とかゲームとか小説とか漫画とか得意みたいだが」
 野霧はこっちに思い切り聞こえるだろう、わざとらしいため息をついた。
「アンタ何も分かってない。『何でも出来る』が社会では一番ダメなんだよ……。何でも出来るって言うやつは大抵中途半端で使い物にならないの。普通は人より多く稼ぐためには何かに特化してないと。そういう意味ではネコクロは器用貧乏を地でいってるからなあ……。趣味としては凄いとは思うよ? けど……やっぱお金稼ぐのには向いてないと思う。家も何となく余裕なさそうだし……。結局社会でやっていけなくて内職して『ごめんなさい……今月これしか稼げなくて……』とか言いそう。ダメ。不幸な未来しか見えない。巻き込めないよ」
 野霧は限りなく真剣な表情で言う。友達を褒めたいのか貶したいのかはっきりしないやつである。
「じゃあゼナは?」
「ゼナちーかあ。うーん。将来の夢がゲームプログラマだっけ? かなり頭は切れると思うんだけどなあ。意固地なところがあるって言うか……付き合ったところでそこは絶対曲げないよね。凄いとは思うけど、あんまり稼げなそう……あと、ゲーム作りとかチョー忙しそうだよね。『すいません来月まで帰れません! お金だけここにおいときますから!』とか言われそう。あんまり大切にされないのはなあ……」
 野霧の想像の中の未来ですら基本的に俺はあまりいい目には合わないらしい。
「奈賀子。……って、そもそも俺のこと好きなの?」
「うん。パラメータ的には攻略可能だよ。一定量満たせば向こうから来る感じかな」
「おい……お前エロゲのやり過ぎじゃないのか? いくら何でも適当すぎるだろ」
「現実は大体そんなもんだよ。んー、奈賀子かあ……あの子将来何するんだろう」
「アイドルだっけ?」
「うん。本気で目指してる時点で凄いとは思うよ。あの子だったらなれるかもしれない。けど、なれなかった時は何やるのかな。要領はいいし努力家だけど、凄く単純だからなあ。手堅い職には就きそうにないよね。あとアンタがあんまり『おらおら奈賀子サマが帰ってきたゾー! ストレス解消だゼー! 肩揉めー! 着替えさせろー!』とかいって召使い扱いされるのもなんだかムカつくって言うか……寝覚めが悪いし……そもそもあの子家で服着てる感じしないし」
 野霧の読モ仲間の中では俺はあまり人間扱いされない設定らしい。
「別に家で服着てるとか着てないとかどっちでもいいだろ。外で着てなかったら問題だが」
「ツッコミし辛いからそれ」
「……んじゃ『あの女』は?」
 良く分からないが聞いてみると、烈火のごとき反応が返ってきた。
「ある訳ないでしょうが!? それがイヤだから今こうしてるんだよ! そのくらいわかれ!」
「す、すまん……。じゃあ六人目は? それも『凄いとは思う、けど』ってやつなのか?」
 野霧は一瞬驚いたような顔をして、そのあと困ったような顔をした。俺は何を喋ればいいのか分からないので、野霧をじっと見上げる。野霧は眉根を寄せたまま、しかし淡々と続けた。
「六人目とは、結婚出来ないよ。そういうのイヤでしょ」
「じゃあ全員ダメなのか」
「アタシ、もう少し考える」
 野霧はベッドの上から降りて、ドアを開けて出ていこうとする。
 俺は何となく、思わず呼び止めた。
「野霧!」
 野霧は力なく振り向いた。
「……何?」
「俺は馬鹿なんだ」
「知ってるよ、そんなこと」
「だから確認したいんだけど。俺たちがやろうとしていることは、『善いこと』なのか?」
「そんなの……どっちだっていいじゃん。少し考えりゃ分かるでしょ」
「良くない。分からねーからこそ聞いてるんだ。お前からしたら、どうなんだ?」
「アンタ良くそれで高校受かったね……アタシに言わせれば、善悪以前の問題だよ。アンタ食べものなかったらどうするの?」
「死ぬ」
「そうでしょ。そういう事だよ。やりたいからやる訳じゃない。それしか方法がないと思うから、死にたくないからやるんだよ」
「……」
「勿論犯罪はダメだけ思うけど……。この方法なら誰も傷つかない。アンタも善悪とかくだらない事言わないで。そういうのはお金があるから、食べられるからグダグダ話す余裕があるんだよ。アンタがふつーに食べるために働けたら、こんな話そもそもしてない。アタシたち家族にそんな余裕ないっつーの」
「そうか」
「……もう確認しないでね。ウザいから」
「分かった」

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