Neetel Inside 文芸新都
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僕と神無月さんの事情
プロローグ的な

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 僕とお隣の神無月さんは幼なじみと言う間柄で、僕らは幼稚園児の頃から同じ学び舎で時間をすごした。雨の日も、風の日も、僕らは行動を共にし、今ではすっかり親友となっている。それは、高校に入ってからも変わりない。
「おはよう、瀬戸さん」
 今日も僕たちの家を出るタイミングが重なった。自家用車が余裕で通れてしまいそうな広い門から、神無月さんが姿を現す。
 神無月さんは僕のお隣さんであると同時に、超ド級のお嬢様でもあった。黒髪のロングヘアー、夏場にもかかわらず長いスカート、それでも汗をかいている様子は微塵もない。見るからに凛としたお嬢様としての風格が漂っていた。
「おはよう、神無月さん」
 あくびを交えて返事をする。
「瀬戸さん大丈夫ですの? 随分眠そうですけれど」
「あぁ、昨日テスト勉強してたから」
 今日は高校に入って初めての期末試験、その第一日目だった。睡眠時間はなくなるが勉強しないわけにはいかない。それは大半の生徒が同じだろう。
 しかし神無月さんは「まぁっ!」と声を上げた。
「いけないわ、瀬戸さん。寝不足はテスト時において最大の敵ですのよ? ちゃんと睡眠はとらないと」
「いや、でも勉強しないと解答に必要な知識がないから意味ないんだよ」
「それでも、本当に良い家なら一時間仮眠をとるだけで元気になるはずですわ」
 神無月さんはさらりと無茶を言うと「やはりあの豚小屋を改築しないと……」などと呟きだした。豚小屋と言うのは恐らく僕の家のことだろう。何が狙いかは知れないが、この人はやたらと僕の家を改築したがる。僕は三十年ローンでマイホームを購入した父を不憫に思った。
「そういえば三枝(さえぐさ)さんは一緒じゃないの?」
 三枝さんは神無月さん専属の執事である。いつもこうして登校するときには神無月さんの後ろについて回り、僕の鞄を無理やり持とうとしてくる厄介な存在だ。
「三枝は本日お休みをいただいてますの。昨日お酒を飲んで風邪をひいたって」
「仕事させろ」
 十分ほど歩くと僕たちの通う高校へと到着する。どこにでもありそうな、無名の公立高校。
 全国模試百番以内にいつも食い込む神無月さんは運動も出来るし、気立てもよい。才色兼備、眉目秀麗とは彼女の事を言い、おまけに社長令嬢でもある。そのためこんな平凡な学校では当然のように目立つし、人気も高い。
 校内に入るといつもの様に登校中の生徒達が騒ぎ出した。神無月さんが歩くと、多くの人が神無月さんに視線を寄せる。その美しさや気品に見とれ、長く透き通るような髪や、花が咲きそうな笑顔に注目する。今年入学したばかりだが、神無月さんはもはや全校生徒に知られる有名人だ。本人が望めば一年生にして生徒会長にもなれるだろう。
「おはようございます、神無月さん」
「ごきげんよう」
「神無月さん、今日も素敵ですね」
「あなたもね」
 神無月さんは華やかな微笑を浮かべる。
 そんな誰からも好かれる彼女の横にいるのは、決して楽なことではない。

       

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