Neetel Inside 文芸新都
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スカートの骨格
めろんとうみうし(「匿名で官能小説企画」参加見合わせ作品)

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【めろんとうみうし】

 見覚えのないアドレスから、メールが届いた。
 そのメールは添付ファイル付きで、普段なら即行で削除行きなのだが、件名に書かれた名前に見覚えがあったことで、躊躇した。
 そこに書かれていたのは久美子であるとか郁恵であるとか、陽菜であるとか遥香であるとか、探せばありそうな名前ではなく、『輝(めろん)』だったから。
 『輝』ならば驚かないし、普通は男であることを予想するだろう。しかし、『輝』を『めろん』と読むことを知っているのは、本人家族以外には当時の同級生の一部くらいだろう。本人以外は今でもネタにしているかもしれない。逆にネタ扱いされすぎて封印した後かもしれない。

 そういう、見覚えのある、そして、忘れ得ない名前。めろん
 尤も、本人はキラキラしていたわけでもDQNだったわけでもなく、至って普通にこの名前を嫌っていて、女子には苗字または『あきら(あき)』、男子からは専ら苗字で呼ばれていた。といっても、めろんは多人数と交友を持つタイプではなく、日常的に言葉を交わす男は、部活が同じだった僕くらいだっただろう。帰りの電車、めろんが降りる駅で、後を追いたいことが何度あったか。引き止めて誘いたいことが何度あったか。めろんの立ち去り際、指先が触れたり袖口や裾に引っかかったりする偶然に、如何ほどドキドキしたか。
 ──今日こそは彼女が誘ってくれるのではないかと、休日前のたびにどれだけ期待外れな夜を一人で過ごしたか。
 卒業後、十年。会ってもいないし、連絡も取り合っていない。
 今でも夢想する。誘っていたら、誘われていたら、ふたりがどうなっていたのだろう、と。
 しかし、実際に僕が出来たことは、何かの課題で作ったストラップを、何故かそれを欲しがっためろんに手渡したくらいが精々で、そのストラップのモチーフは、当時、僕が描いていた漫画の主人公のウミウシだったことが悔やまれる。

 誰かの悪戯か、それともめろんの意思なのか。最悪、何か犯罪的なことに巻き込まれて助けを求めているのか。
 いや、それなら余裕ありすぎだろ。
 そう、自分に言い聞かせ、もっと悪いケースに思い至っていない振りで自分を誤魔化す。

 添付ファイル。mp4。動画か。
 何らかの悪意あるプログラムが仕込まれているのなら……
 いや、たかが(私用)メインPCをやられるだけだ。
 再生。

         *

 家庭用のビデオカムっぽい画質。部屋の一点に固定されているようで、中央には小綺麗でいかにも女子が好みそうなベッドが見下ろす角度で映されている。
 ドアが開く音。
「今日は誰もいないからー」
 女の声。似ている。めろんに。
「その辺座ってー」
 声の主が現れる。制服だ。今も変わっていなければ、あの学校の。
 そして女はめろんに似ていた。相応の齢を重ねているように見えるが、まだ、当時の制服に違和感が生じるほどではない。
 本人だとするならば。
 何故。
 女は、画面中央、ベッドの角に座る。招かれた男は、女と九十度の角度で、同じく角に座る。
「なんで隣にw ゃ……ん……」

 男は、九十度の角度を利用し、後から女を抱きすくめ、左手で乳を揉みつつ、右手でスカートをめくり、薄いピンクの三角の布地の上から慣れていない様子で恥ずかしい丘をまさぐる。そして左手は胸を離れ、スカートをたくし上げ続けることに協力し、女は丁度ベッドの角を股間で挟むような角度に座り直し、そのまだ渇いている股間をビデオカムに見せ付ける。
 ウミウシ。あの、ストラップ。
 女の股間には、あのウミウシが刺青されていた。いや、シールかもしれないし、ペイントかもしれない。
 でも、確かに、あのウミウシが、描かれていた。
 めろん
 明らかに知っている者の意図が介在している。
 しかも、かなりめろんに近しい。本人としか思えないほどに。
 その図案を確実に見せつけようとするかのごとく執拗に背後からの両手での丘攻めと堀攻めは続き、薄いピンクはその中央部からその色の濃さを増し、布地の表面や筋肉で生じた凹み、そしてベッドと接する部分は、搾り出された本能の湿度が、じわりじわりと増えてゆく。

*
(ここに服を脱がすことすらままならない男女中高生の妄想を具現化したような、ぎこちない挿入前シーンが入る)
*

 脱がせる時間すら惜しむように乱雑にたくし上げ、露出した部分に吸い付く。
 突起。窪み。溝。そして弾力。
 ありとあらゆる男女の異物を確かめるかのように。
 互いに。
 口で。手で。舌で。
 五感全てで相手を味わいつくすかのように。
 まるで明日、全てが止まってしまうことを望むかのように。
 全力で。

*
(ここに妄想豊かで健康な男女中高生の妄想を具現化したような濃厚な基盤シーンが入る)
*

 それは、僕が夜毎思い描いていたものとたがわなかった。
 そうしたかった。そう。したかった。

*
(ここに組んず解れつの濃厚な基盤シーンが入る)
*

 体位を何度も変え、互いが互いを貪りつくすように、互いの情熱をぶつけ合い、互いにそれを受け止め返すように。
 僕がそれを出来なかったように。

*
(ここに互いに数度果てて、名残りを惜しむかのような濃厚な基盤シーンが入る)
*


 女は抱かれながら僕の名を呼ぶ。
 いや、それは抱いている男の名なのだろう。
 それが役名なのならば、何故? 偶然?

「あな──たに、ず……っと、こうぅぅぅぅぅしっっっってほぉしっ──っかぁぁぁぁった……のょ」
 途切れ途切れに。
 正常位、両手足にあらんばかりの全力を込め、男にしがみつきながら。
 あなた。誰? 僕? その男?
 台詞? 今更? 何故?

 僕が暫し呆然としている間に、モニタの中のふたりは息も絶え絶えに力尽きていた。
 並んで仰向けに、呼吸を整える努力も忘れ、ただ、忘我の境を愉しむように。
 女は手を伸ばす。
 男の、力を失った股間に。
 男は、女の髪を撫でる。
 女は『しかたないわね』とばかり、気怠そうに上体を起こし──今まで気付いた素振りも見せていなかったカメラへとしっかり目線をあわせ、
「──────」
 確かに、しっかりと、確実に、誘うような淫靡な笑みを浮かべ、僕の名を音に出さずに呼んだ。

       

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