Neetel Inside ニートノベル
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Johann,-ヨハン-
第3章 聖帝エル・シド

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 「グレネードの試運転は上々のようだな」
 4回目の爆撃が終わると、銀髪の男は燃え盛る森林を見下ろし、不気味に笑った。
 「‥‥だが、再発射までの時間が掛かり過ぎだな。テオドール?」
 男は背中越しに告げる。
 「はっ。今回は試運転ですので、出力を抑えて稼働しております」
 テオドール聖都守護隊長は恐縮して答える。禿げ上がった頭にじとりと汗が伝う。
 「そうか。私はてっきり、動力炉の制御がまだ不完全かと思ったのだが。それは支障無いんだな?」
 「ははっ。綿密な調教の結果、現時点では100パーセントの制御が可能です」
 「素晴らしい」
 銀髪の男は目を細める。
 「アレさえあれば、私がこの世界を支配することも可能だ」
 男は展望室の中央に移動し、身体を椅子に預ける。
 「ところで、ギデオン殺害の件はどうなっている?」
 「守護隊及び警備隊全隊を挙げて容疑者を捜索しております。しかし、既に聖都を出た可能性が高いと思われます」
 テオドール守護隊長の報告を聞き、男は眉をひそめる。
 「一介の学術生が、ギデオンと5人の兵、さらに警備クリーチャーを始末したなどと、にわかには信じ難い。殺された兵が化物だと叫ぶのを聞いた者もいるしな。引き続き全力を挙げて捜査しろ」
 「承知しました」
 すると、乗組員らしき女が入室した。髪は短く揃えており、一見すると美男子に見える。腰にレイピアを下げている。
 「お待たせして申し訳ありません。如何でしょうか、飛空艇サラマンドラは。お気に召したでしょうか?」
 「ああ、愉しませて貰っているよ。この飛空艇は見事だ。まるで、神にでもなった気分だよ」 男は愉快そうにほくそ笑む。
 「近い将来、神々さえも貴方の下に平伏すでしょう。我らがエル・シド陛下」
 「フフ。口が上手いな、テッサ艦長。‥‥ん、あの光は何だ?」
 エル・シド聖帝は身体を起こすと、展望室を横断し、進行方向の反対に目を凝らす。視線の先には、幻想的に光る森と、その中心で一際強く発光する巨大な樹木があった。
 「あれは‥‥精霊ポリスーンだ! 自ら姿を現すとは好都合。射程距離まで近づいて、主砲で焼き払え!」 


 「人を殺す協力はできない」
 ヨハネスの計画を聞き、僕は言った。
 「ヒューマンの侵略戦争を止めるためなら、真相を暴く協力はする。でも、エル・シド聖帝を暗殺する手助けは出来ない」
 魔族の男は鼻で笑う。 「最初からそんなことは期待していない。貴様はその時が来たら証言をするだけでいい」
 「‥‥どうやって真相を暴くつもりなんだ? 聖帝に証拠を突きつけたって、闇に葬られるだけだ」
 ヨハネスに尋ねると、彼は目を細め、僕の表情を探る。
 「何か考えがあるようだな?」
 「聖都内で、聖帝に対抗することの出来る勢力が1つだけある。今は殆ど力を失っているけれど、その勢力の助けを得れば、何とかなるかもしれない」
 「神聖教会か」 ヨハネスがニヤリと笑う。
 神聖教会は聖都が建設される以前から存在する教会だ。自然を敬い、かつてはヒューマンの代表として精霊に謁見していたそうだ。しかし、科学技術が発達し機械が生活の根幹を為すようになってからは、徐々に信者も減り廃れる一方である。
 「教会内に僕の知り合いがいる。どうにかして彼女と連絡が取れれば‥‥」
 「しかし、貴様は殺人罪と反逆罪で指名手配されているからな。聖都に戻った時点で捕まるだろう」
 最悪の現実を改めて認識させられ、僕は沈黙する。
 「警備用のウルフにわたしが手懐けた子がいるわ。その子に頼めば、手紙くらいなら届けてくれる」
 僕らの話を聞き、クインが提案する。
 「残念だが、警備クリーチャーは俺が全て殺してしまった」
 「‥‥ならその方法はムリね」
 ―ゴォォォオオ
 「何だ!?」
 突然、熱風が吹いたかと思うと一筋の焔が宙を奔り、空気の焦げる匂いが鼻腔を突いた。
 「大変! ポリスーンが!」 クインが叫んだ。
 東を見ると、精霊ポリスーンが業火に包まれもがいている。
 「ヒューマン共の兵器だ! ポリスーンを始末するつもりだ!」
 ―ブォオン
 二筋目の焔が森を薙ぎ払うと、瞬く間に樹々が灰と化した。
 「うっ‥‥何だ?」ガルーザが目を覚ました。
 「ガルーザ!」
 「クイン。俺は一体‥‥?」
 「ヒューマンの兵器にやられて、この人達と精霊ポリスーンが助けてくれたのよ」
 「ううむ」 ガルーザは巨体を起こし、左腕で頭を抱える。
 「残念だけど、右腕は元に戻らなかったわ‥‥」
 「生きていただけ儲けものだ。貴殿達が助けてくれたのか。感謝する」 ガルーザが僕達に頭を下げる。
 精霊ポリスーンが燃え尽きて崩れ落ちると、ヒューマンの飛空艇が100メートル程先の湖畔に着陸した。
 「ポリスーンはもう駄目だ」
 僕が呟くと、クインは苦しそうに顔を歪める。
 「森さえ無事なら、ポリスーンは再生できるわ。ポリスーンのためにも、聖域が焼き尽くされるのだけは防がないと!」
 ガルーザの耳がピクリと動く。 「ヒューマン共がこちらに向かってくる。かなりの数だ!」
 「おそらく、ポリスーンが力を使うところを見られたんだ! この辺一帯を捜索するつもりだ!」
 「逃げるぞ!」 ヨハネスの号令が飛び、僕らは南に向かって駆け出した。
 「――いたぞ! 不審者だ!」
 「――陛下に報告しろ!」
 ――陛下?‥‥まさか、飛空艇にエル・シドが!?
 「ヨハネス! 飛空艇にエル・シド聖帝がいる!」
 「そうらしいな」 僕が叫ぶと、ヨハネスは不敵に笑う。
 「エル・シド‥‥ヒューマンの王か!」
 ―キィン
 ガルーザが剣を抜いて立ち止まった。
 「ガルーザ!」
 クインに続き、僕とヨハネスも足を止める。
 「クイン、お前は逃げろ! 俺は一族の仇を討つ!」
 「今は無理よ!」
 「‥‥二手に別れよう。アンリとクインはこのまま逃げて教会と連絡を取る方法を考えろ。俺とガルーザは飛空艇に侵入して、エル・シドを討つ!」
 そう言い放ち、ヨハネスとガルーザはヒューマン部隊に向かって駆け出した。


 「撃てっ!」
 部隊に向かって突進する2人に照準を定め、号令が飛んだ瞬間、その巨体からは想像もつかない身のこなしでガルーザは空中に跳んだ。
 「何!?」
 突如ターゲットが視界から消え、驚きで硬直しているヒューマンを頭から真っ二つに斬り裂くと、ガルーザは続けて2人、立て続けに薙ぎ払った。
 「グォォオ!」
 雄叫びを上げて獣の如く剣を振るうガルーザに向かい、弾丸を撃ち込もうと銃を構えたヒューマンの手首を斬り落とすと、ヨハネスは瞬時に3人の頸動脈を切断する。
 ―ガキィイン
 剣を叩き折り、ガルーザが更に1人葬ると、残りは部隊長らしき男と腰を抜かした狙撃手の2人となった。
 「化物共め‥‥だが、一瞬遅かったな」
 部隊長らしき男がそう告げると、空中から凄まじい速さで何かが突進する。ガルーザが後方に吹き飛ばされた。
 「ぐぅう‥‥!」 
 「上等の獲物だ」 再度空中に戻ると、グリフォン――ヒューマンの分類によると、聖獣型上級クリーチャー。鷲の翼と上半身、獅子の下半身――が鋭利な嘴を歪ませ、残虐な笑みを浮かべた。
 「厄介だな」
 残る2人のヒューマンを片付けたヨハネスが、ダガーに付いた血を払い、呟く。
 「ちっ。軟弱なヒューマンめ」 グリフォンが舌打ちをする。
 「だが、俺一人で十分だ。そっちのデカイ奴は美味そうだ。お前は‥‥魔族か? 今日は珍しいものが喰えるな」
 「貴様が俺を喰うだと? 笑わせる」
 ヨハネスは冷酷な笑みを見せると、呪文を唱えた。
 「貴様は俺の下僕の生贄だ」


 ヨハネスが呪文を唱えると、前方の空間が歪み、暗闇の中から女が現れた。青白い肌をしているが、それを除けばヒューマンと変わりない。
 「ごきげんよう、ファウスト様。お久しぶりです」
 ヨハネスの手に口付けをすると、漆黒の髪をかき上げ、女はクスリと笑った。
 「久しぶりだな、ギルティ」
 「私を呼んだってことは、上等の獲物かしら」
 「大したことはない。チキンと‥‥ビーフだ」
 「あら。チキンもビーフも大好物よ」
 ヨハネスと女が軽口を交わしていると、グリフォンが急降下し、女の左腕を喰いちぎった。
 「何だ? わざわざ獲物を増やしてくれたのか? ‥‥脂肪ばかりで不味い肉だがな」
 女の左腕を咀嚼し終わると、グリフォンはほくそ笑む。
 「デリカシーのない獲物ね。でも、本当、美味しそう」
 ギルティは獲物を一瞥し、唇を舐めると、近くの岩に腰掛けた。
 「俺の嘴には猛毒がある。意識が朦朧としてきただろう? だが、安心しろ、殺すときは俺の爪でなぶり殺しにしてやる。せっかくの肉が毒塗れじゃあ勿体無いからな」
 グリフォンの演説を聞くと、ギルティは瞳を不気味に輝かせる。
 「あら。私は猛毒も大好物よ」
 「ぐうぅ‥‥!」ギルティが腰を上げると同時に、グリフォンが落下し、激しく痙攣を始めた。
 「私の身体にも、猛毒が含まれているの。この毒は、摂取すれば痙攣・昏睡状態に陥り、心臓が麻痺して直ぐに死に至るわ。また、非常に発火し易い性質も持ち合わせていて、これによって火傷を負った場合、火傷部位を高熱で焼き尽くしながら体内に毒が潜り込んでいき、最終的には全身がこんがりと焼けることになるわ」
 「貴方はしっかり火を通した方が美味しそうだったんだけど‥‥私が喰べたくて我慢できなかったのね。せっかちな獲物」
 ギルティの解説が終わる頃には、痙攣も止み、グリフォンは息絶えていた。
 「それじゃあファウスト様、ごきげんよう」
 ギルティはうやうやしく礼をすると、獲物と一緒に消えた。
 
  

       

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