Neetel Inside ニートノベル
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Johann,-ヨハン-
第8章 逆賊のエルフ

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 族長の言葉を聞き、クインは耳を疑った。
 「精霊ポリスーンはヒューマンに焼き尽くされた。今、我々が森を護るために今後の方針を立てているところだ」 ギルサリオンはペンを置いて立ち上がる。 「紹介が遅れたな。私はギルサリオンだ」
 「そんな‥‥聖域さえ無事なら、ポリスーンは再生するはずよ!」 クインは張り詰めた表情でギルサリオンに告げる。
 彼は眉を寄せ、改めてクインを見る。 「君はヂードゥの巫女と言ったね。確かにポリスーンは再生する力を持つ。しかし、ヒューマンに森を燃やされ予想以上に森の力が弱まっているんだ。我々は今、森の守護者として森の再生を試みている。精霊ポリスーンは死んだが、森を滅ぼしはしない‥!」
 そう言って彼は椅子に座り、書類を書き始めた。 「そういうことで私は今忙しい。他に用がないなら出て行きたまえ」
 クインはギルサリオンの話に納得出来ない様子だ。
 「‥行こう、クイン」 ガルーザが促すと、2人は扉を開け部屋を出た。


 「そんなはずはないわ。聖域さえ無事ならポリスーンは再生する。彼自身そう言っていたわ!」 巨樹を出るとクインは声を荒げる。
 「奴が嘘を付いていると‥?」
 「そうとしか思えないわ」 クインは眉間を寄せる。
 「しかし何故? それに、実際ポリスーンは再生していない」 
 「‥あのギルサリオンとかいう族長、彼は何か隠しているわ。フェアグリン長老が死んだ理由も気にかかるし。さっき案内をしてくれた、クーリンディアに詳しく話を聞いてみましょう!」
 2人はクーリンディアと会った場所へ移動する。そのすぐ近くの島に、一軒だけ家が建っていた。 「ここね‥」
 クーリンディアの家は、里にある他の家と比べると粗末な建物だった。クインが扉をノックをするが、返事はない。留守のようだ。
 2人が家の前で5分ほど待っていると、クーリンディアが荷物を背負って帰宅した。 「さっきの‥クインさんとガルーザさん」 2人を見て、彼は笑顔で手を挙げる。
 「さっきはどうもありがとう。実は、貴方に聞きたいことがあってお邪魔したの」
 「そうですか。お待たせしてすみません。ちょうど夕飯の材料を調達してきたところですので、良かったらお2人も食べて行って下さい」
 彼は背負っていた山菜と獲物の牡鹿を2頭下ろすと、白い歯を見せた。
 「助かる。腹ペコだ」 ガルーザは牙を見せてニヤリと笑う。
 クーリンディアは手際よく料理をし、テーブルにシチューを並べる。  「お2人の口に合うといいんですが」
 ガルーザの皿には5人前は盛りつけてある。
 「ありがとう。そういえば、ちゃんとしたご飯を食べるのは久しぶりね」
 「集落を出てから、ずっと野宿だったからな。‥こいつは旨い!」 ガルーザがシチューを口に入れ、歓声を上げる。「本当! 作り方を教えて貰いたいくらいだわ」
 満足そうに舌鼓を打つ2人の様子を見て、クーリンディアは顔をほころばせる。 「良かった。何でしたらあとでレシピを教えますよ。この辺でしか取れない山菜があるんです」
 既に空になったガルーザの皿を見て、クインは口元を緩める。 「お願いするわ。ガルーザが随分と気に入ったみたいだから」
 3人は食事を終え、皿を片付ける。
 「それで、ギルサリオンからは話を聞けましたか?」 
 「‥ええ、ポリスーンは死んだって。でも、納得出来ないのよ。彼は何かを隠してるように感じるんだけど、クーリンディアは何か知らないかしら?」 
 クインが質問すると、クーリンディアはおもむろに口を開く。
 「ギルサリオンは、幼い頃からの僕の友人なんです。よく一緒に狩りに出かけていました。彼は頭が良くて学校でもいつもトップの成績で、やがて長老の秘書を務めるようになりました。それに比べて僕はからっきしで‥。まあ、弓の腕には自信があるんですが」 そう言って、クーリンディアは自嘲気味に笑う。
 「だから、僕は彼が出世をするのが嬉しかったんです。嫉妬が全くなかったとは言いませんが、僕と彼は貧しい生まれでしたから」
 ガルーザが長椅子に横になり、地鳴りのようないびきを立てる。
 「でも、長老が亡くなった頃から彼の様子が変わったんです。ポリスーンがヒューマンに燃やされたのもその頃で。初めは立て続けに問題が起こって疲れてるんだと思ったんですが‥」
 「フェアグリン長老はどうして亡くなったの?」 そこまで聞き、クインが尋ねる。
 「殺されたんです。一応、犯人は捕まっています。闇堕ちしたエルフが里で見つかって、彼女が犯人だということになりました」
 クインは首をひねる。「闇堕ちって?」
 「エルフの中には、肌と髪が黒い種族がいるんです。僕らの間では、彼らは邪悪な魂を持つとされていて、闇堕ちしたエルフと呼ばれています」
 「そうなの‥‥でも、さっきは長老の死について詳しくは知らないって」 クインが聞くと、クーリンディアは暫し口を閉じる。
 「僕は、本当はギルサリオンが犯人じゃないかと疑っているんです」
 クインは彼をじっと見つめる。
 「3日前、彼の様子がおかしかったんで僕は跡をつけたんです。彼は里を出て、闇堕ちの集落に向かって進んで行きました。そして、僕は彼が闇堕ちと話しているところを目撃したんです。内容は聞き取れませんでしたが‥‥ただ、闇落ちが苗木のようなものを持っているのが見えました」
 クインは息を飲む。 「それはまさか、ポリスーンの苗木じゃ?」
 「‥‥かもしれません」 クーリンディアは全てを打ち明けると、俯いて息を吐き出した。
 「クインさん、ガルーザさん。ギルサリオンを助けてあげて下さい」 そう言って彼は頭を下げた。


 闇堕ち―ヒューマンの伝説ではエルフの紛い物とされ、「オーク」と呼ばれている―の集落は、エルフの里から3キロメートルほど北に位置する湖の湖底洞窟に造られている。洞窟は直径100メートル程度の空洞になっており、そこに50程度のオークが棲息している。
 オーク達は、真夜中にエルフの里にむかって進行していた。銀色の髪と褐色の肌を持ち、角が生えている。筋肉が発達しており、エルフより身体が一周り大きい。
 「まずは中心にある巨大な樹に火を放つ」 一際大きな角を持つ、オークの族長が計画を述べる。 「奴らが混乱している隙に、一人残らず殺せ」
 「奴らが魔法を使えないってのは間違いないんだろうな?」 オークの一人が聞く。
 族長が口角を吊り上げて笑う。  「ああ。精霊の加護がない今、俺達の方が有利だ」
 エルフの里が目前に迫り、オーク達は足音を殺して行進する。
 「シュジェはどうする‥?」 別のオークが族長に尋ねる。
 「裏切り者は奴らと一緒に殺す」
 エルフの里に到着すると、彼らは崖の上から里の様子をうかがう。光蟲が神秘的に瞬き、里中がぼんやりと光っている。人影は見えない。狼の遠吠えがこだまする。
 「もうすぐこの場所がが俺たちのものになる! 火を放て!」
 族長が号令を飛ばすと、いくつもの火矢が宙を飛んだ。着弾し、巨樹に火の手が上がる。 「行くぞ!」
 オーク達が侵略を開始するやいなや、突如、無数の矢が彼らに降り注いだ。
 「ぐぁっ!」 「何だ‥!?」
 オーク達が悲鳴を上げる。知らぬ間に里中にエルフが姿を見せ、彼らに向かって弓を構えている。
 「計画がバレてるぞ‥! 何故!?」 オーク達は口々に叫び声を上げ、騒然とする。
 「シュジェが漏らしたんだ!」 「あり得ない! あいつは具体的な計画は知らない!」
 続々とオークが倒れ、彼らは後ずさる。
 「くそ! 撤退だ!」 族長が叫んだ。


 「ポリスーンの場所はわかるのか!?」 ガルーザが声を張り上げる。
 「この子が案内してくれるはずよ!」
 ウルフ――狼型下級クリーチャーの後に続き、ガルーザとクインが森を疾走していた。
 「多分ファスケス族長の部屋よ」 銀髪を逆立てたオークの女が告げる。
 ガルーザとクイン、シュジェ、更にクーリンディアが全速力で真っ暗な森を駆け抜ける。すると、ウルフが湖底洞窟の入り口で足を止めた。
 「この中ね」 クインが呟く。
 クイン達は、クーリンディアから事情を聞いたあと野生のウルフを手懐けてオーク達の集落に密偵を送り、ポリスーンの苗木の在り処と今宵の襲撃計画を知った。その後、エルフの族長ギルサリオンに進言し、防御体制を整えた。
  しかし、ギルサリオンはオークと密会した事実については否認している。
 長老殺害の容疑で牢獄に囚われていたシュジェを、ガルーザが牢獄の錠を破壊して連れ出し、ポリスーンを奪還するべくオークの集落へ向かっている最中だ。
 4人は湖底洞窟へ侵入する。洞窟内は真っ暗で、獣臭い匂いがつんと鼻を突く。水滴の滴る壁に手をやり、壁伝いに進む。
 「ファスケス族長の部屋は一番奥よ」 シュジェが前を進むクインに告げる。
 「本当にフェアグリン族長を殺してないんだよね?」 クーリンディアは彼女を信用しきれない様子だ。
 「殺してないわ。私は売られたのよ、襲撃計画に反対していたから‥‥」 シュジェは歯を食いしばる。
 「それじゃあ、一体誰が?」
 「私は知らないわ」 
 洞窟を4分の3ほど進むと、ウルフが停止した。クインは物陰から様子をうかがう。 「見張りが1人いるわ。どうする?」
 「私に任せて」 シュジェはそう言って弓を構え、矢を番えると躊躇なく放つ。風切音を響かせて矢は大きく左に弧を描いて飛び、見張りの眉間にグサリと刺さった。
 「お見事」 ガルーザが歓声を上げる。
 「この程度の距離余裕よ」 彼女は弓を仕舞い、得意げに呟く。
 4人は再度前進し、族長の部屋に侵入する。
 「しかし、仲間を躊躇なく殺すとは冷酷だな」 ガルーザがシュジェを挑発するように言う。
 「‥‥あんたには関係ないわ」
 「心外だな。牢から出してやったのは俺だぞ」
 シュジェがガルーザを睨みつける。 「仲間に売られる気持ちなんて、あんたには解らない」
 「あった!」 部屋の奥を捜索していたクーリンディアが声を上げる。クインが彼に駆け寄る。
 クーリンディアは、机の引き出しから植物の苗を引っ張り出した。 「状態はどう?」
 「枯れかけてるけど、急いで聖域に植えれば間に合うわ! 急ぎましょう!」 クインは急いで苗木を抱える。
 「そこまでだ」
 背後から突然声が響き、4人は後ろを振り向く。すると、クイン達 はおびただしい数のオークに包囲されていた。
 

       

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