「よう、鈴木じゃないか。久しぶり」
繁華街を越えると学生服を着た男に声をかけられた。今日はよく声をかけられる日だ。バンドを組んでからこういう事が増えたかもしれない。
俺は声をかけたその男の顔を見た。残念だが面識がない。俺が頭の隅の記憶を辿っていると6月だと言うのにマフラーを巻いた小柄な学生は俺に言った。
「僕だよ。お前の近所に住んでた大橋照之」「おおはしてるゆき...」
名前を呼ばれても俺は彼の事を思い出せなかった。「もー、じれったいなぁ」歩道を歩く俺の隣に来て彼は笑みを作った。
「覚えてるよ。お前の親父さんの事件の事」
それを聞いて俺は街灯の下で足を止める。「なんで知っている?」俺はその男を見下ろした。
「お前は誰だ?」「だから幼馴染のテルだって。忘れたのか?幼稚園の同組で僕とお前と泉さんの3人で一緒に向こうの駒ヶ岳にハイキングに行ったじゃないか」
テルと名乗った男が闇夜に沈む山々を指さした。「泉の事も知っているのか?」それを聞いてテルは呆れたように両手を広げた。
「3年ぶりにあった友人に完全に忘れられてるなんて、泣けてくるぜー」テルは頭を振って俺に答えた。
「今年に春に親の都合でこっちに戻って来たんだ。僕の場合はお前んとこと違って父親の転勤だけどな」
俺達は再び歩き出した。「お前とは都会の中学校で2年間一緒のクラスだった。クラスメイトと馴染もうとしないお前はいつも一人で空とばかり話していた」
忘れかけていた黒い記憶を掘り起こされ、俺は「やめろ」と呟く。にひひ、といやらしい笑いを浮かべるとテルは続けた。
「で、親父さんの事件がきっかけでその街には居られなくなり、お前ら一家はおふくろの実家のあるこの向陽町に戻ってきた。
時が経ちお前は高校生になりあの事件の事をなんとも思わずに過ごしている。それを知って僕は我慢ができなくてね。今日、お前の前に姿を現した」
威圧的なテルの言葉を受けて俺は視線を下に落とす。「親父の件は悪いと思っている。だけどあれは事故だ。親父のせいじゃない」
「いいや。あれはお前の親父の過失だね。国がそれを証明してるじゃないか。お前は父が用意するはずだった安定した出世コースから転落。
僕は一生心に傷を負って生きていく事になった」
信号待ちで俺達は立ち止まった。「バンド、演ってるんだって?」対向車線のトラックのハイビームがテルが顔を照らす。微笑みの中に狂気をたたえていた。
俺が静かにうなづくとテルは信号を先に渡りラインの終際で振り返って俺にこう宣言した。
「前からお前の事気に入らなかったんだよね。人見下してるような目つきで自分がなんだって出来ると思っている。
だから潰してあげるよ。お前が一番好きで得意な音楽でね」
そう言い残すとテルは細い路地の先へ消えていった。俺は自分がひどく震えている事に気がついた。握った手のひらを見つめるとびっしりと汗をかいていた。
次の瞬間、大きなクラクションと同時に大型トラックがこっちに向かって突っ込んできた。俺は悲鳴をあげながら体を前に放り出した。
「あぶねーぞ!このガキ!ちゃんと信号見やがれ!!」窓から捨てセリフを放るとトラックは大きな音を立てて右折していった。
俺は十字路の出口で尻餅をついた。危なかった。大きく息をつくと自分に宣戦布告したテルという同級生の事を思い出そうとした。
でも恐怖で頭が働かない。あの日の事を思い出すと体から汗が吹き出して、目の前がぐるぐる回りだして、震えが止まらなくなる。
「あんた、大丈夫かい?」杖をついた老人が心配そうに俺に声をかけた。「大丈夫です。ちゃんと立てます」俺は老人に言葉を返すと立ち上がって急ぎ足で家に向かって歩き出した。
夕飯を胃にかっこんで風呂に入ると俺はベッドに潜って震えをやり過ごしていた。妹のアイコがいつの間にか俺の部屋に入ってきた。
「かわいそうなお兄ちゃん」毛布を被ってる俺の隣に腰を降ろし、アイコが俺の頭を撫でる。「とても怖い思いをしたんでしょう?」
妹の優しい声を聞いて俺は目から涙を零した。「あの日の事を思い出したの?」アイコが横になって俺の体を抱く。冷たい腕と柔らかいぬくもりが俺の体を締め付ける。
「大丈夫、大丈夫だから」俺が声を振り絞るとアイコが俺の下腹部に手を伸ばした。「おまえ...」「いいの、お兄ちゃん」アイコが耳元で呟く。
アイコが俺の陰茎を撫でると俺は恥ずかしい事に妹の前で勃起させられた。制御セヨと信号を流すシナプスとは逆に俺の陰茎はどんどん反り返っていった。
アイコがそれを握るとそいつは妹の手の中で完全に姿を現した。陰茎を上下にさすりながらアイコが俺に体を擦り付ける。俺は様々の感情が頭を巡り、言葉を発する事が出来なかった。
「今日だけ、特別」毛布を被った俺の耳元でアイコ呟く。「私が妹だって事、忘れて?」アイコが手を動かすスピードを早める。
快楽に身を預け頭を空にするとしばらくして俺は妹の手の中に射精した。心がぶっ壊れそうだった。