Neetel Inside 文芸新都
表紙

○-証拠偽造屋-
第4話

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 「その男は捕まらなかったんですか?」
 そんなに堂々と詐欺を働いたんだったら、警察だって黙ってないはずだ。
 「居所がわからなかったんだ」
 扉が開き、言さんが地下室へ入る。外はまだ暗いようだ。
 彼は封を開けて煙草を口に咥え、マッチを擦る。ふうと煙を吐き、言葉を続ける。
 「奴が名乗ったのは、偽造した免許証の住所と名前だ。本当の名前すらわからなかった」
 彼は無表情で話す。
 「不動産を購入した人は、何も知らない善意の第3者だったからね。不動産を取り戻すこともできなかった」
 類さんががらっと換気窓を開ける。 
 「居所を掴めないまま、7年の時効が過ぎた」
 ―‥許せない。
 人の人生を狂わせておいて、詐し取った金でのうのうと暮らしてるなんて。
 「今は犯人の居場所は掴めているんですか?」
 類さんが首を振る。
 「ずっと探してるんだ。唯一の手がかりは、両頬にうっすらと傷を縫った跡があることだけだ」
 沈黙が場を包み、類さんがぱんと手を叩く。
 「余計な話をしちゃったな。前にも言ったけど、ひなたを巻き込むつもりはないからね‥。今僕達が話したことは、忘れて」
 そう言って話を切り上げる。
 「余計なことじゃないです!」
 私が叫ぶと、類さんは驚いて振り返る。
 「私にとって類さんは大事な人です。詐欺にあって泣き寝入りするしかないと諦めかけていた時、助けてもらいました。私も力になりたいんです!」
 まくし立てるように告げると、彼女は私を見て微笑む。
 「それは、僕がやりたくてやったことだよ。それに、どんな理由があったって、犯罪には変わりないからね。ひなたを犯罪者にするわけにはいかない。」
 「別にそれでもいいです!私もやりたくてやるだけですから!」
 私がムキになって応えると、類さんが苦笑する。
 「気持ちは嬉しいけど、それはダメだ」
 「‥類さむのわからずや!」
 ――‥噛んだ。
 「さむ‥?」
 「ばかーー!!」
 私は地下室を飛び出した。
 すると、ビルの前でうずくまって寝ている画流探偵を発見した。


 月曜日。いつもの通り、目覚し時計のスムーズ機能が私に屈服し、おとなしくなると、私は雇い主である類さんには聞かせられない言葉を呟きながら上半身を起こす。
 と言っても勘違いして欲しくないのだが、実は私は、類さんのことが大好きなのだ。
 しかし、正直言って煩雑なだけで面白みのない法律事務は嫌いだ。
 一昨日、私が類さんに詐欺事件解決の協力を申し出たところ、取り付く島もなく断られた(私のためを思ってのことなのだが)。そのため、今日は特に気が重い。
 はだけたパジャマを適当に整え、ぼーっと小春の頭を撫でる。
 「おはよー‥小春」
 小春をいじって20パーセント程度覚醒すると、リビングに移動してテレビをつける。冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぎ、胃袋に流し込む。
 「ぷはーっ」
 この段階で40パーセントまで覚醒する。あとはシャワーを浴びてシリアルを流し込めば、通勤できるレベルになるはずだ。
 ――台風16号の影響で、山手線の内回り、外回りともに運転を見合わせています。
 と、ZIPO!の太一アナが気になるワードを口にした。
 続けてプルルルルとケータイが振動する。類さんからだ。
 「ひなた?今日台風で依頼者も来ないだろうから、休んでいいよ」
 ――やったぁ!
 私は類さんに半分寝ぼけた頭で愛の言葉を囁き、布団に潜った。


 翌日、私は平常運転でRDL法律事務所に出勤する。
 事務所の扉を開けて挨拶をすると、類さんが改まった表情で私に話しかけた。
 「ひなた、土曜のことだけど‥」
 私は右手を上げ、彼女の言葉を遮る。
 「わかってます。類さんが私のことを考えて関わらせないようにしてるんだって‥。私の方こそ、わがままを言ってすいませんでした」
 私は斜め45度の角度で頭を下げる。
 「そっか。わかってくれたんなら良かった」
 彼女は安堵の表情を浮かべる。
 「それじゃあ、今日も張り切って書類提出してきます!」
 そう言って、私は事務所から出た。
 ――なんちゃって。類さんが何て言おうが、とことん首突っ込んでやるんだから!画流さんにはもう話してあるし。
 私は口元を押さえてうししと笑う。
 役所を回って事務所に戻ると、類さんは席を外していた。
 ――お客さんかな?
 会議室に移動すると、予想通り類さんは依頼者と面談中だ。私はそっと中に入る。
 「‥これがその写真です」
 依頼者―50台くらいの女性だ―が、机に書類を広げる。建物の写真を拡大したもののようだ。
 私は部屋の隅に置かれた椅子に腰を下ろす。類さんがまじまじと書類を見る。
 「なるほど‥。これなら、おそらく請求は認められると思います」
 どうやら、新規の依頼を受任するようだ。類さんは委任契約書を作成して着手金を受け取ると、次回面談の日程を決め、会議室を出た。
 「今回は偽造案件ですか?」
 私は念のため確認する。偽造案件の時は私は関与させてもらえないため、新規の依頼を受けた時はまず確認するようにしている。
 「いや、証拠は揃ってるから、今回はひなたにも考えてもらおうかな」
 「ホントですか!」
 覚醒率120パーセントだ。事案は以下の通り。
 昨日、私は部屋から一歩も出なかったため目の当たりにしなかったが、ZIPO!の太一アナが話していた通り、首都圏は猛烈な台風16号に見舞われた。
 それによって家屋の屋根がはがれるなどの被害も発生したらしく、今朝も太一アナが被害状況を解説していた。
 今回の依頼者は、台風16号によって落下した建物の外壁により自動車に傷を付けられた。そのため、自動車の修理代を建物の所有者に請求したいとのことである。
 依頼者(車の所有者)の名前は轟美居子(とどろきびいこ)。
 相手方(建物の所有者)の名前は丁寧工作株式会社(ていねいこうさくかぶしきがいしゃ)。
 「今回みたいに台風が原因になった場合でも、修理代を請求できると思う?できるとしたらその根拠は?」
 類さんが私に尋ねる。こうやって法律的な意見を求められたのは初めてだ、頑張らなくては!
 私は拙い記憶を頼りに小六法をめくる。
 「えーと‥。建物がボロボロで、通常備えるべき安全性を有していなかった場合、民法717条が定める土地工作物責任によって建物の占有者又は所有者に修理代を請求できます!」
 私は自信を持って答える。こう見えて、類さんの下で補助者として働くようになってから法律の勉強をしていたのだ。
 「それじゃあ、そこでいう通常備えるべき安全性を有していたかどうかは、どうやって判断する?」
 ――むむっ。
 2問目が来るとは。
 「えーと‥、ケースバイケースかと‥」
 私は逃げの一手を打った。類さんがクスリと笑う。この笑いは私にわざと意地悪をしている時の笑いだ。屈辱感とともにちょっとした快感を得るが、私はそれに気づいてません。
 「そう、明確な基準はないから、ケースバイケースだね」 
 ――合ってたんかい!
 「ただ一応の目安としては、建築基準法の定める最低基準を満たしていたかどうか、台風の強さはどの程度だったのか、周辺の建物に同程度の被害が生じたかっていうことを記載して、こちらに有利な主張を組み立てていくことになるね」
 「今回のケースでは、依頼者の轟さんが事故直後の建物の様子を写真に撮っていてね。建物の骨組みが腐って黒く変色しているのが明白なんだ。仮に轟さんが機転を効かせずに写真を撮っていなかったら、請求するのは難しかっただろうね‥」
 証拠が全て、ということになるのだろうか。
 翌日、晝間さんが訴状を作成し、私が裁判所へ提出した。

     


 定時になり業務が終わると、私は画流探偵の事務所へ向かった。
 「ここかな‥?」
 ビルの2階の窓に「画流探偵社」という文字が書かれている。階段を登ってチャイムを鳴らすと、画流探偵が応答した。ドアを開けて中に入る。
 画流探偵の事務所は、狭くもなく広くもないといった想像通りの間取りだった。入ってすぐの場所に仕切りで囲まれた面談室があり、その奥が事務スペースだ。私はそのまま奥へ進む。
 「やあ、ひなたさん」
 画流探偵が物陰から姿を見せ、私はびくりとする。彼はスカーフを巻いたりして普段よりお洒落をしている。
 この後デートの予定でもあるのだろうか。彼女かいたとは意外だ。
 「こんばんわ。突然お願いをしちゃってすいません」
 「なんの!ひなたさんのお願いだったらいつだってノープロブレムですよ。よければこれから一緒にお食事‥」
 「それで!類さんの両親を騙した詐欺師なんですが、画流さんが調査してるんですよね?」
 彼を見ると、ビー玉でも飲み込んだような顔をしている。変な顔だ。
 「ええ、ずっと調べています。両頬に傷がある中年の男という情報しかないので、目撃情報を中心に集めているんですが、今は20人弱の情報が集まってます」
 「そうなんですか!」
 思ったより絞れているようだ。
 「それなら、その20人の写真を取って類さんに見せればわかりますね!」
 ストーカーというイメージしかなかったが、これは画流さんを少し見直さなくてはならないようだ。
 「いや‥さすがに20人弱を張り込むのは予算的にも物理的にもムリだから、1人づつ潰していかないと‥」
 「そうなんですか‥。私も手伝います!2人ならその分早くなるし」
 「オッケー。これがその19人の名前と住所だよ」
 そう言って、画流さんが名簿を渡す。
 ――この中に類さん達の仇が‥。
 私は名簿に目を通す。
 すると、ある名前に目が止まった。
 「匂坂鷺(さぎさかさぎ)」
 ――怪しい‥。
 「この男です!」
 「え、何で?」
 「勘です。助手の勘には理屈が不要!ってことで納得してください」
 こうして、私は晝間家の仇敵を発見した。


 2日後、類さんにその男の写真を見せると心底驚いていた。
 勝手に首を突っ込んだことを怒られるかと思いきや、上機嫌でボーナスをくれると言うので、後日2人きりで私の部屋で飲む約束をした。彼女を酔わせてどうにかしちゃう作戦だ。
 類さんは即刻言さんに電話して何やら話し込んでいた。匂坂鷺をハメる計画を練っているのだろう。
 こうして私達の一世一代の勝負が始まった。
 しかし、その間にも通常の業務は続く。その2日後、轟さんの件で相手からの答弁書が届いた。
 「相手は弁護士をつけたみたいだね」
 類さんが答弁書を読み、呟く。
 「そ、そうなんですか‥」
 ――弁護士か‥。でも、類さんなら大丈夫のはず。
 「相手の主張としては特に驚くものはないね‥。他の家屋にも被害が発生しているというニュースの切り抜き、建築基準法上に基づく耐風性能の算定が間違ってるっていういちゃもん‥」
 「まあ、印象としては本気で闘うつもりはなさそうだね。妥当なところで和解して、さっさと終わらしちゃおうっていう考えかな」
 「そうなんですか‥」
 こちらとしては手を抜いて貰ったほうが嬉しいが、同じ法律業務な携わるものとしては腹が立つ。
 「いい加減な和解に応じるつもりはないけどね。判決を取れば10割とはいかないまでも、8割は取れる案件だ」
 こうして、匂坂鷺との決戦の準備を整えつつ、第1回期日が訪れた。
 第1回期日には、相手方代理人弁護士武朽火木(むくちかもく)が出廷した。
 初老の裁判官が形式的に提出書類の確認をし、和解をする意思の有無を尋ねる。
 類さんから聞いた話では、裁判官は執拗に和解をさせたがる傾向があるらしい。
 なぜかというと、裁判官は膨大な数の事件を抱えており、一つ一つに判決文を書いている暇がないという理由だ。
 判決文を書くには、裁判官もしっかりとした法律的な判断をする必要があるのに対して、和解は当事者が合意すれば基本的になんでもありなため、楽なのだ。
 あと、自分の出した判決が上級裁判所でひっくり返されたらすごくかっこ悪い。だから判決を出したくないのだ(類さんいわく)。
 そのため、きっぱりした意思を持っていないと、裁判官の勧めに押されて和解をすることになってしまう。私も気をつけよう。
 「金額によっては、和解に応じることもできます」
 類さんが裁判官の質問に答え、第1回期日は終了した。次回期日は2週間後で、和解の話し合いをする期日だ。


 翌日、依頼者の轟さんが来所した。
 「今回の件とは全く別の話になるんですが、先月母が他界しまして、晝間さんに不動産の名義変更をお願できればと思って」
 「わかりました。えーと‥、必要書類が戸籍と住民票ですね。戸籍は僕が集めますので、住民票だけ用意してください」
 ――ふむふむ。
 今回のように、裁判業務の依頼者から登記の依頼をされることはたまにある。
 裁判業務と登記業務とでは仕事の性格が全く違うため、勉強する方はめんど‥大変だ。わたしは裁判業務の方が性にあってる気がする。
 「それと、もし可能でしたらお願いしたいことがあるんですが」 轟さんが続けて話す。
 「母から大圀魂神社の近くのビルを相続したんですが、私が持っていても仕方ないので売却しようと考えていて。仲介業者を紹介していただけないかと」
 大圀玉神社は府中駅のけやき並木の終点(始点?)にある神社だ。
 「ああ、あのビルですか」 
 場所を教えてもらい、類さんが呟く。
 すると、彼女は暫くの間真剣な面持ちで何ごとか思案する。
 「あの‥?」 
 轟さんがしびれを切らすと、類さんが口を開いた。
 「もしよければ、このビルを僕に売ってくれませんか?」


 2週間後、第2回期日が開かれた。和解の話合いをするために別室に移動する。私もちゃっかり付いていく。
 正確には和解勧試という手続きらしく、類さんと武朽弁護士が交互に部屋に入り、裁判官と話をする。
 「いくらなら和解できますか?」
 「10割です。そのかわり、一括でなく分割払いにも応じます」
 類さんが裁判官とやり取りを交わす。
 類さんと私が退室し、入れ替わりに武朽弁護士が入室する。
 10分ほど待合室で待ち、もう一度私たちが部屋へ入る。
 「相手方は5割なら応じられると言っています。その代わりというわけではないですが、一括で支払うとのことです」
 「話にならないですね。でしたら、判決を出していただきます」
 類さんがはっきりとした口調で告げると、裁判官が渋い顔をする。
 「轟さんご本人はどうですか? 判決になると裁判が長引く可能性もありますし、晝間代理人も立証が完璧とは思っていないでしょうから」
 初老の裁判官が私に向き合い、告げる。どうも引っかかる言い方だ。
 「あの、私は轟さんではなくて、類さんの補助者です」
 とりあえずそう言うと、裁判官が驚いた顔をし、続けてなんでここにいるんだという表情に変わる。しかし、私は動じない。
 ――なんか、裁判にも慣れてきたな。
 私がにやにやしてると、裁判官が変なものでも見る目つきで私を見る。
 「せいぜい、一括で9割ですね。それに応じられないなら和解には応じません」
 再度私たちは待合室に移動する。
 「なんか、引っかかる言い方をしていましたね。立証が不十分とかどうとか」
 「裁判官がよく使う手だね。立証が不十分とは言わずに、僕が不十分だと思ってるという言い方をしてたでしょ。判決になるとまずいことになるって思わせて和解させようとしてるんだよ。他にも、お互いの言い分をあえて伝えずにわざと勘違いさせるようにしたりとか」
 特別、裁判官は立派だという幻想は持っていなかったが、予想以上に不誠実な印象を受ける。早く終わらせることを最優先にしているような。
 類さんいわく、それが普通らしい。代理人を付けずに訴訟に挑むと、よほど強固な意志がある人でない限り、裁判官に籠絡されてしまうとのことだ。
 もやもやした感情を抱えつつ、9割を月末までに一括払いという内容で和解が成立した。
  

 
 

     


 ひなたの不動産登記豆知識。
 日本列島に存在する土地と建物には、必ず登記記録というものが作成されている。それを見れば、その不動産の様々な情報を知ることができる。
 そして、その登記記録は、手数料を払えば誰でも見ることができる。
 例えば、ふとお隣さんの庭付き1戸建ての登記記録が見たい! と思い立った場合、法務局に足を運んで700円の収入印紙を貼付した申請書を提出すれば、ものの5分で見れてしまう。
 と言っても、そもそも登記記録というのは、その不動産を購入しようとしている人や担保に取ろうと考えている銀行屋などが、取引の安全を確保するために確認するためのものであって、戸籍などと違って持ち主の個人情報はあまり記載されていない。
 ちなみに、登記記録には前の所有者やすでに消滅した抵当権といった過去の記録も記載されており、それらの記録にはアンダーバーが引かれている。つまり、アンダーバーの引かれた記録は抹消された権利ということだ。
 なので、もしお隣さんの登記記録にアンダーバーの引かれていない抵当権があった場合、まだローンが残ってるのね! ということは分かってしまう。あと、どこの銀行からいくら借りたのかということも。
 ここ数か月で、私は登記記録を完璧に読み取れるくらいにはなった。
 「抵当も付いてないし、何の変哲もないビルですね!」
 私が今見ているのは、轟さんが相続したビルの登記記録だ。何故か、類さんが轟さんから買い取ると言い出し、その手続きを進めている。
 「あの、どうして急に買うことにしたんですか? まさか、事務所を移転するとかですか?」
 私は寝台に仰向けに寝転がった類さんを見る。
 ――寝ちゃったかな‥‥?
 「匂坂鷺に売りつけてやるんだよ」 類さんが欠伸をしながら言った。
 類さんと言さんの仇、匂坂鷺は個人で不動産業仲介業をやっている。
 類さんの意図が解らず私は首をひねる。 「高値で売りつけるってことですか?」 
 「いや、ものすごく安く売ってあげるんだよ」 彼女は意地悪く微笑む。
 何か良からぬことを考えているのは間違いない。
 「どういうことですか? 私にも詳しく‥‥」
 覆い被さるように覗き込むと、彼女はすやすやと寝息を立て始めた。


 「いよいよだな」 類さんが誰ともなく呟いた。
 府中の事務所には、私と類さんの2人だけだ。轟さんの件が終了してから1週間が経過した。匂坂をハメるための全ての準備が整い、あとは作戦を決行するだけという状況だ。
 類さんの前には偽造が完了したばかりの書類が置かれている。
 「なんか、不思議な気分だな」 類さんは私の向かいのソファに座っている。オレンジ色の明かりに照らされ、リラックスした表情だ。
 「あんなに恨んでいた相手にいざ仕返しをしようって時なのに、自分でも意外なくらい落ち着いてる」
 「類さんと言さんなら、絶対上手くいきますよ! 画流さんはちょっと不安だけど、やる時はやる人のはずです」
 私の言葉を聞くと、彼女は微笑む。 「ひなたには感謝してるよ」
 不意に真剣な言葉を掛けられ、ドキリとする。
 「思えば、僕はちゃんと今を生きていなかった気がする。自分の信念に従って偽造を続けてきたけど、心の何処かに罪悪感の様なものもあって、無意識に人と深く関わるのを避けてきたんだ。別に、理解や同情を得ようなんて考えはこれっぽっちもないけど、自分のしてることを批判されるのは怖かったんだと思う」
 少し間が空き、彼女は話を続ける。
 「でも、ひなたと会って僕は少し変わったと思う。正直、今の僕にとって復讐はそんなに重要じゃないのかもしれない。‥‥でも、これは僕のけじめだ。この件に区切りを付けて、僕は前に進むよ」
 そう言うと、彼女は照れくさそうに珈琲を飲む。
 仕事では迷惑をかけてばかりの私が、類さんが前に進むきっかけになれたということだろうか。私は思わず頬をほころばせる。
 「どどーん! 実は、AKIMORIでブルーチーズケーキ買ってきたんです。一緒に食べましょう」
 類さんは笑う。 「それじゃあ、飲み物淹れ直してくるよ」
 「あっ、私も行きます!」 類さんに続き、私も腰を上げる。
 作戦決行まであと2日だ。
 
 
 
 

       

表紙

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Neetsha