Neetel Inside 文芸新都
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ドッペルゲーム
第一話ドッペルゲンガーガンゲルペッド

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 地面が激しく揺れる。また地震かよ。倉橋秀一は、歩きながらにそう思った。この所、やけに自然災害が多い。台風が3号連続で日本を縦断したり、桜島が噴火したりと。地震など、規模は違えど日常茶飯事だ。世間では、神の怒りだとか、自然の逆襲だとか言われているが、ヤクザを職業としている秀一には何ら影響はないので、特に気にはしていなかった。
 信号の先に、目的の福岡グラウンドホテルが見えてくる。5年程連絡を取っていなかった母親が突然電話で「会いたい」と言ってきたのだ。わざわざ東京から九州まで来るというので、秀一も渋々、会うことにした。つまりは、その会う場所が、福岡グラウンドホテル内にあるレストランなのだ。信号が青に変わる。横断歩道を渡りながら、母親と一体何を話せばいいのだろうかと考えていた。瞬間、右頬に突風を感じる。何事かと右を見た秀一の目に飛び込んできたのは、50Cm先に迫る、大型トラックの姿だった。全てがスローモーションで永遠に感じられるかの様な1秒が過ぎた後、体に強い衝撃が走る。え?。事故?。夢?。信号無視?。死?。秀一の頭を駆け巡る言葉は、意識とともに遠のいていった。







 どこまでも白い空間の中で目が覚める。ここは、どこだ?天国だろうか。ヤクザという、危ない職業をしている秀一が天国にこれるなら、有り難いことだなと皮肉混じりに思った。突然、目の前に身長2メートルほどの人間が現れる。その姿は、男とも女ともとれた。その人間が口を開く。
「私は、神」高いアルトボイスが白い空間中に響きわたる。
「はぁ」何か言わなければと思い、秀一も、とてもヤクザとは思えない腑抜けた返事をする。
「倉橋秀一。現在お前の体は、トラックに跳ねられ、脳死状態だ。今、ここにいるのは、おまえの精神だ。」またもアルトボイスが響く。
自分の名前を知っているという事は、この目の前の人物は、本当に神なのかもしれない、と秀一は考える。
「・・・聞いてるか?」神が訪ねてくる。
「ああ」秀一も、落ち着きを取り戻してきた。
「現在脳死状態のお前の体は、東京の病院に移され、安置されている。しかし、放っておけば、後13日で、全機能が停止し、死に至るだろう。」
「何!?」自分はまだ、死んでいないが、すぐに死ぬだろうという事を、目の前の神は言っているのだ。その言葉には、何ともいえない説得力が感じられた。まだ自分は、死にたくない。
「そこでお前に、チャンスをやろう」神が言う。
「チャンス?」聞き返す。
「ある、ゲームに参加してもらいたい」
「ゲーム」真っ先に想像したのは、マリオだ。
「いや、お前が今考えているようなゲームではなく、体感型の、本格的なゲームだ。説明する。質問は終わった後に受け付ける。いいか?」何とも合理的思考な神様だ。
「ああ」承諾する。
「これからお前が行うゲームは、「ドッペルゲーム」」
「ドッペル・・・ゲーム?」怪しい名前に、つい、聞き返してしまう。
「ルールは単純、お前には、競争をしてもらいたい。」「競争?」
「まあ聞いてろ。今、地上ではお前が死んでから7日経っている。その間に、お前の体は、東京に移された。しかし、君の精神自体はまだ、福岡にいるわけだ。つまり、お前は東京にある自分の体までたどり着かなくてはならない。そこで、そこまで福岡から競争するんだ。お前の、ドッペルゲンガーと。」
「ドッペルゲンガー?」何だそれは。
「今、君の目の前には神がいるんだ。ドッペルゲンガー位、驚くことではない。」神が淡々と返す。
確かに、納得がいく。
「俺の、メリットは?」
「話そう。さっきも言ったとおり、君はそのドッペルゲンガーと、東京にある、君の体まで競争をするんだ。期限は13日。君が勝ち、先に君の体に入れば、君は生き返る。ドッペルゲンガーが勝ち、先に君の体に入れば、君は消え、体も死ぬ。」
「なるほど」理解する。東京など、新幹線で1日でつく。
「おっと、競争の方法は歩きか、走りだ。乗り物はタブーだぞ。」
「何!?」13日で東京まで走れと言うのか。
「ああ、ドッペルゲンガーに勝つ方法は2つ、普通に競争に勝って先に体に入るか、ドッペルゲンガーを殺して先に体に入るかだ。ルールは以上、参加するか?」
「・・・わかった。参加しよう。」答える。どうであれ、生き返るチャンスがあるのなら、藁にもすがる気持ちだ。
「わかった」神が手を人振りする。景色が変わった。
 ここは、ビルの上だろうか、目の前には、自分がいる。こいつが、ドッペルゲンガーか。
「さあ、ドッペルゲーム、スタートだ。」
目の前の自分が、言う。

       

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