Neetel Inside 文芸新都
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不夜城

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「枠(わく)」
私は普段はフリーターとして、アルバイトに勤しんでいる。
5年前には、地方のビル管理会社に勤めていたがリストラされてしまった。
原因というものも、会社の資金繰りがうまくいかない、といったありがちなものである。
悲しいとも思ったが、自分には似合っている気がした。
私はいわゆる「普通の人間」であった。
成績も運動も容姿も家柄も、特筆するべき点はなかった。周りに流され、何も考えずに生きてきた。
何も考えずに。いや、違うのかもしれない。私なりに考えて行動していたつもりだったのだが、それが一定水準には至らなかったのだろう。
「私なり」
この言葉で自分を守ってきたのである。知らない自分がいる筈ないと。「自分の枠」を超えることができないと。
その枠は誰が作ったのかもわからない。気づいたらそこにあった「枠」。
年々その枠が小さく狭くなっていった。アニメやドラマであれば、そんな人間にも一大チャンスと共に明るい未来が見えるのかもしれない。
しかしこの現実の「私の枠」は簡単には崩れない。はずだった。
そんな私に秘密など持てるはずではなかった。
秘密など持てる思考もなかった。

3年前の冬に私はその秘密を持った。
その秘密の始まりも、なんとも私らしく普通だ。「見てしまった」のである。
落ちる音。トマトが潰れるような。硬いも柔らかいもいっしょくたにしたあの音。
その音と共に見た笑顔。その笑顔にたまらなく惹かれてしまったこと。
自分の「枠」が一瞬にして、無くなってしまったこと。
久しぶりの派遣で紹介された仕事であった。私は指定された会社に向かうために電車を待っていた。
雪が降り始めた1月下旬に多くの人々が疲れた顔とどこを見ているのかわからない顔で、電車を待っていた。
当たり前の日常。なんとも私らしい日常。
通過する快速電車が入ってきた次の瞬間、「ヒッ」という声とあの音が聞こえてきた。
ふと声の元に目をやると、何故か微笑む少女がいた。
12~14歳ぐらいであろうか。服装はジーパンに、だぼだぼのダウン。そして黒いおかっぱ頭。
なにより、黒く奥が見えない一重の大きな目を弓状に曲げて少女は微笑んでいた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
叫び声と断末魔が木霊する。ああ、私の表現能力がないのが腹立たしい。
あのような人の声を聞いたのは初めてだった。本当にその人が「人間」であったころがあったのか疑わしい声であった。そして、私は始めて人の死を見た。
赤く染まる周辺から、騒然とした人ごみを掻き分け颯爽とその少女は去っていった。
通勤での人身事故など、現代では当たり前なのかもしれない。しかし、あの少女はどうして笑っていたのか。
そして私はどうして、その少女にたまらなく惹かれたのか。
私の知らない私である。この日、私の「枠」はどこかに消えてしまった。
これが、私の1つ目の秘密である。
ああ今夜も眠れない。





落ちて死んだのは女性であったらしい。
おやすみなさい。


コメント(1)
意味わかんねwwww殺人願望があるとか????しかもロリコンwwww
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