Neetel Inside ニートノベル
表紙

お前らこんなのが好きなんだろ(笑)
学園編

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             ※お詫びと警告
・ラノベにありがちな変な部活ものを書こうとしたのですが……。作者は高校時代、バイトと資格取得しかしてこなかったので部活ものが書けませんでした。

・以後ステマ臭いことも書くことがあるかもしれませんが、もちろん作者は一円もマネーを貰っていないし、ステマされたほうも宣伝ではなく逆効果で、迷惑にしかならないだろうと思ってますのでご容赦ください。

・いつもコメントありがとうございます。最低限しっかり最後まで書き上げるので、のんびり待っていてください。

・最後に、私のアンチはひどい目にあう

   □■□

第四章 あらゆる部活に入ってた記憶が無い件

 鼻腔をくすぐる味噌汁と焼き魚の匂いが浩一の目を覚まさせた。時計を見ると時刻はまだ6時である。薄暗い家の中で唯一、明るく照らされた台所では、見慣れたはずのピンク頭が珍妙な歌を歌いながら料理をしていた。
「ほんとのところは~殺したいほど~あなたが好きよ~~~」
「何の歌だ? 今日はずいぶん早いのな」
「あっ、浩一さん! なんでもないわさ!」
「どこの訛りだよ……」
「んふふ秘密です」
 振り向いた少女は優しく微笑む。グリーンと薄茶色の色違いの双眸が浩一を見つめていた。そして見るものを魅了する桃色の髪は、肩まで届かない程度のセミショート。それは浩一にとって幼馴染で妹みたいな存在で――かつて初恋の相手だった――矢内神奈子である。
「あ、そうだ。俺は朝飯いらねぇ。食いたくねーんだ」
 少女を強引に押しのけ、流し場で顔を洗う男の名は佐々木浩一。人殺しみたいな凶悪な目つきをした本作の主人公である。彼は鏡の前でポーズを決めると、染めた金髪をヘアワックスで逆立てて、ヒゲをアゴの先だけ少し残し剃る。ジョリジョリとした手触りを確かめると彼は満足げに笑みを浮かべた。
「あー、信用できない他人の作ったものは食べない主義でしたっけ? もちろん存じてますとも!」
 神奈子はダイニングテーブルに自分ひとり用の食事だけ用意した。箸はひとつ、味噌汁や茶碗は二つである。
「これ、私一人用の食事ですから。お気遣い無く」
「あぁ? 食いすぎだろバカか」
 その瞬間、神奈子の瞳が怪しく光る。彼女は今まさに罠にかかった獣を仕留める猟師だ。
「ほんまやわー完全に食べ過ぎやで。どっかの誰かさんが食べんからワシが食わなならんのや。浩一さんはワシがこれ以上ブタになってもかまへんのやな?」
 神奈子はわざとらしく関西弁を使うと、小柄な身体の割に膨らんだお腹をさすってみせた。
 しまった、と浩一は思った。完全に言い負かされたのだ。前述の通り、浩一は神奈子に惚れていた時期があった。だがそれは何年も前の出来事で、彼女が手足がスラッと長く、抱きしめると折れそうなほどに細い儚げな美少女だった時の話だ。断じて現在の見る影もないブタではない。
 以前、奴を痩せさせようと思って食事を管理しようとしたり、わざと食欲のそそらないものを作ったこともある。もし、神奈子が昔のままの姿で現れていたら……その時は今とは違う関係だっただろうと、浩一は思う。
 つまり単純に、二人分朝飯を食べられては困るのだ。それにアイツのことだ。朝昼晩、毎食仕掛けてくるに違いない。

「わーったよ、食えば良いんだろ食えばよ!」
 浩一は乱暴に箸を掴むと焼きシャケを二人分(つまり神奈子の分も奪い)、骨ごと気合で噛み砕いた。そして二人分の味噌汁を両手で口内へ流し込む。これがたった数秒の出来事である。
「あー! ワシのシャケさんが!」
 悲痛な叫び声を上げつつも神奈子はどこか嬉しそうだ。浩一には時々、彼女が何を考えているのか分からなくなる。
「まぁアレですけどね。食事の回数減らしたほうが太るんですけどね」
 どうやら逆効果だったみたいだ。いや、どっちに転んでも勝ちは無かったのだろうか。 「うるせえ! メシだけで食え!!」

   □■□

「よっと」
 突然、神奈子が目の前で服を脱ぎ始めた。野暮ったい灰色のスウェットを脱ぐと白いキャミソールが一緒にめくれて、お腹とヘソが露わになる。浩一はギョッとした。
「なっ、何してんのお前!?」
「んあ? 着替えるねんで。今日は学校あるやろ」
「今ここで着替えることないだろ。しまえ! 見苦しい腹をしまえ!」
「別に恥ずかしがる間柄でも無いでしょーが。ほーれジャミラ、ジャミラ。知ってる?」 
 神奈子は脱ぎかけのスウェットから顔だけ出すと、手をワシャワシャさせながらジリジリと距離を詰めてきた。やっぱり色白の腹が丸出しである。
「今の子供はそれ知らねーよ! バーカ!」
 浩一は部屋から逃げるように立ち去った。何を慌ててるんだ俺は。ブタ女が部屋で何しようと知ったことではないじゃないか。落ち着け。

 制服に着替えると、二人は玄関で顔を合わせることになった。きっと地元の制服なのだろう。神奈子はエンブレム付きのあずき色のブレザーを着て、あずき色の大きなベレー帽に髪をすっぽりと覆い隠している。学生らしい紺色のチェックスカートは膝までの長さだ。
 一方の浩一は、詰襟の学ランだ。その下には派手な柄のTシャツを着ている。
「さてさて、休みも終わって今日から学校初日ですよ! 春は出会いの季節です!」
「それはお前にとってだけだ。俺にとってはいつもどおりの登校なんだが?」
 確かに、時期は4月もすでに下旬である。桜の木も花びらを散らし、わずかに残った薄い桃色は若葉の緑に飲み込まれつつある。この時期に転校してくる人間はそうそういないだろう。

「よーっしゃ、準備は出来てる? ネクタイ曲がってない? ハンカチ・ティッシュ持ってるか? 忘れ物は無い? ケータイ持った? 防犯ブザー持っとく? 昨日の疲れ残ってない? 腹減ってない? 飴ちゃん舐めるか? 制服のサイズ合ってる? ラグで詰まないか?ミサイル発射準備できてる? 弾幕薄いよ? そんな装備で大丈夫か? 生きてて楽しい? それと最近遅くまで起きてるみたいだけど大丈夫? 酒も控えて、あまり無理なさらないでくださいね」
「学ランだからネクタイ着けねー! ってか話なげーよ! お前の中で俺は一体どんな人間なんだよっ!?」

「あとは、ちゃんとパンツ履いてるかな?」
 神奈子は両手をワシャワシャさせながら迫ってきて――
「うぜぇ!」
 放たれた鋭い蹴りでベレー帽が宙に舞った。

   □■□

 新緑の眩しい通学路を、二人は微妙な距離感を保ちながら歩く。浩一が一人でスタスタと先を歩き、それに神奈子が必死で追いつく格好だ。だが、神奈子は道を知らないので置いていくわけにもいかず、時々浩一は後ろを見て歩幅を調節する。
 彼らの通う「セント・クロノス学園」は同じクロノス市内にある。女の足でも歩いて20分もかからないだろう。
 そんなこんなで、学校が見える場所までやって来た。周りにもセーラー服と学ランの生徒が増えてくる。
「あっ、狂犬(マッド・ドッグ)……」
 どこかで小さなつぶやきが聞こえた。学生たちがみな一斉に振り返ると、浩一から一定の距離をとって視線をそらした。
「え? なんやこれ、覇気? はへ~、やっぱり選ばれし主人公ともなると、様々な超能力が身につくんですね」
 早足でやってきた神奈子がぴったりと、くっついた。柔らかな胸の感触が浩一の二の腕に伝わってくる。
「みんな浩一さんのこと見た目で避けてるのかなー、もったいないなー。もっと、近くでよく見てみぃ……あらやだ奥さん。想像を凌駕するダメっぷり!」
「うるせぇな。ほっとけよ」
 神奈子はあくまでホンワカと、のんびりとした口調で告げる。だが、その言葉には言い知れない嫉妬や怒りがこめられているような気がした。

「皆さん、おはようございます!」
 校門の前で竹刀を持ったメガネの女生徒が叫ぶ。腰まで伸ばした長い三つ編みの少女だ。背はとても低いが、高い足場に乗っていることで群衆の中でも一際目立つ。
「委員長、おはよー」
 すれ違いざまに女の子たちが挨拶を返す。
「あっ、あれ昨日の店長とちゃうの?」
 いち早く気づいた神奈子が浩一の袖をぶんぶん引っ張った。
「いやまぁ、そうだが……チッ、めんどくせーな」
 浩一はうつむいて足早に通り過ぎようとする。だが、人垣が離れていくうえに派手な金髪。おまけに後ろに見慣れないあずき女がいては、目立たない方が無理な話であった。
「おはよう、佐々木。オ・ハ・ヨ・ウ」
 委員長の例のツンと尖った声がした。その言葉は佐々木。つまり佐々木浩一にピンポイントで向けられている。
「おう」
 浩一も一応、ぶっきらぼうではあるが、挨拶をした。
「はは、どーもー」
 すぐ後ろで神奈子も遠慮がちではあるが、挨拶を返す。

 ピキューン

 委員長のメガネが光る。
「待ちなさい」
「あなた、他校の生徒でしょ? 先生の許可は取ってあるの?」
 委員長は二人を引き離すかのように竹刀を突き出した。
「ワ、ワシ転校生なんですぅ。体型がちょっと特殊なんで前の学校の制服着てるんですぅ」
 神奈子はオドオドしつつも弁明した。
「学生証は? あるでしょ」
「へい、こちらに」
 神奈子がおもむろに学生証を見せると、ジャンプ一番! 委員長は神奈子のベレー帽を掴んで奪おうとした。
「ちょ、何しますの?」
 神奈子は帽子を奪われまいと掴んで地面に倒れた。
「何、髪の毛ピンクに染めてんのよ! よそは知らないけどウチの学校は染めるの禁止してるんだから!」
「やめっ、やーめーや。ホンマにやめて。脱げる、脱げるゥ!」
 顔はヘラヘラと笑ってはいるが、身をよじらせ神奈子はかたくなに帽子を脱ごうとしない。それを委員長は強引に奪い取ろうとする。
「待てよ」
 浩一が委員長の腕を掴んだ。委員長は力ずくで無理に動かそうとするが、それも出来ず苦い顔をした。
「そいつの毛の色は生まれつきだぜ」
「染めてるのは俺だけだ。こいつは染めてない」
「あ、そう。ふーん。じゃあ、アナタ校則違反ね。あとで生徒会室に来てもらうわ」
 委員長は竹刀を掴むと、値踏みするように浩一を見つめた。
「派手なTシャツ着てるわね。脱ぎなさい。今すぐ」
「っ」
 浩一は言われるがままTシャツを脱いで上半身ハダカになった。周囲がどよめく。
「そうよ、それでいいの。あなたはただ私に従っていればいいの。逆らおうだなんて思わないことね」
 委員長の高笑いが校門に響いた。その時、周囲で歓声が沸いた。
「うおおおおおおお」
 男の野太い声である。
「フフン」
 委員長は得意げに腕組みした。だが、女の子の悲鳴が委員長の心をどん底に突き落とす。
「委員長、後ろ! スカート! 押さえて」
「えっ」

「なぁなぁ、なんで風紀委員なのにスカートこんなに短くしてるのはどうして?」
「きゃあああああああ! 何してんのよ! このピンク頭!」
 背後で神奈子がスカートを引っ張って持ち上げていた。小ぶりなお尻が、そして子猫のプリントされたオレンジのパンツが丸出しになっていた。
「うわ、オレンジの子供パンツや! 校則違反ちゃうのコレ!」
「やめなさい! 違うって! わかった! スカート長くするから! 離しなさい! 離して!!」
 委員長と神奈子は、しばし尻尾を追いかけて回るアホな子犬のようなワルツを披露した。

   □■□

「これで文句無いでしょ? まったく」
 巻き上げていたスカートを戻すと、膝丈はおろか、ふくらはぎの辺りまで布で覆われた。
「うはwwwwチビのロングスカートダッセェeeeeeeeeee!!!」
 神奈子は指差してキャッキャと笑う。委員長は腕を組んでふんぞり返った。
「別に! ダサいからイヤってわけじゃないんだからねっ!?」
「なぁ、おい。ところで俺もう服着ていいか?」
 浩一はTシャツを頭からかぶった。ちょどその時である。

「おい、お前ら何してるんだ! そこのジャミラ……じゃなく半裸! あと、隣のあずきベレー! お前ら、うちの生徒じゃないだろ」
 スーツを着た中年男性が現れた。
「あ! 先生! こいつら校則違反者です! 然るべき処罰を」
 委員長がスーツ教師に擦り寄った。
「お前こそ何してる? 中等部はこっちだろ!」
「えっ、違います! 私は……」
 委員長はスーツの中等部教師にズルズルと引きずられていった。
 二人はそれを眺めながら
「ああ、確かに中学生に見えますね」
「しかも隣が中等部だからな」
 しみじみ納得した。さらば委員長。子猫パンツは忘れないよ。

 □■□

 神奈子は浩一や委員長と同じクラスになった。
「はじめまして! 矢内神奈子です!」
「群馬生まれ! 関西育ち! インチキ関西弁やけど……皆さん、よろしくやで!」
「すごーい、オッドアイだよ!」「リアル関西弁はじめて聞いた!」
 クラスメイトたちがドッと沸いた。こういう場面での人受けの良さはさすがだな、と浩一は思ったが、同時に隣の席で委員長が神奈子を凄まじい形相で睨んでいるのに気づいた。
「委員長、アイツには手を出さないほうが良い。時々わけのわからん行動に出るぞ」
「は?」
 だが、浩一の忠告は残念ながら聞き入れられなかった。
「なによ、アンタまでアイツの味方するって言うの!?」
「信じられない! 私はクラスのみんなの為を思って行動してるのに! クラスの連中はあんなののどこが良いのよ」
 委員長は憎らしげに鉛筆を噛んだ。

「私、ずっと大好きだった男の子がいて、彼に会うためにやって来たんですよ!」
 クラスメイトからいっせいに歓声が出る。ピーピーを口笛を吹くものもいた。教師の会田が、うっとりしている妖怪あずき女を教卓から引き離す。
 優勝パレードのように両サイドに手を振りながら神奈子は歩く。
「イェーイ、飲んでるゥ?」
 すれ違いざまにウインク&ピースをしたが、浩一は睨みつけて威圧した。
「なに調子ぶっこいてんの?」
「す、すまんぬ」
 神奈子は急に大人しくなって、空いている席、浩一の後ろに座った。

 教師の会田は淡々とHRを進める。
「さーてと。この前言ってた班分けの話だが、転校生含め未だに決まっていない奴らがいるな」
「はーい先生! 私、副班長になりたいです!」
 神奈子が挙手と同時に言い放つ。
「なんで副なんだよ!?」「そこは班長でいいだろー」
 ノリの良い生徒からツッコミが飛んできて、神奈子はテヘッと舌を出した。
「よーし、じゃあお前は副班長な。班長はどうするか……」
 委員長が勢いよく挙手した。
「私、今の班を抜けます。この女を正しく導く使命があるので」
「そうか、わかった。じゃあクラス委員長の姫宮がリーダーでいいよな?」
「えー(笑)」「残念だけど委員長がそれなら仕方ないねー」
 委員長の元々所属してた班だろうか? 残念がる声も聞こえたが、内心喜んでいるふうにも思えた。
「俺もその班に入れてもらおうかなー?」「行っちゃう? 行っちゃう?」
 
 ちぇっ、カナ子のバカのせいで俺まで委員長の班かよ……。余りものの班に適当に入れてもらうつもりだったのに……。浩一は憎々しげに拳に力を込めた。
 だが、事態はその程度で済まされない――

「ワシは嫌どす!」
「班長は絶対、佐々木浩一さん! 私の大好きだった『佐々木浩一さん』です!」

「」「」
「……」「……」
「お前、入れよ」「……い、嫌だよ」
 クラスメイトが一斉に静かになるのがわかった。だがそrに反して教師の会田は大笑いしていた。
「ガッハッハッハ、それでいいか佐々木!」
 バンバンと教卓を叩いて、大はしゃぎする。
「知らねーよ、どうせどこに入っても気まずいのは同じだろ」
「じゃあ、班長は佐々木! 副班長は矢内! そして委員長の姫宮と、今日はまだ来ていないが、須加と朝田! 佐々木班の誕生だ!」
「私はいいわよ。一向に構わないわ」
 委員長がメガネをクイッと直した。
「イェーイ」
 神奈子が嬉しそうな顔をして浩一を見つめる。
「これで知らんぷりも日和見もできませんねぇ? 大暴れしてくれることを期待してますよ!」
『知るか、バカ。勝手に巻き込むんじゃねぇ』など、言いたいことは色々あったが、決まってしまったものはしかたない。ここからひっくり返すのも面倒だし、それはそれはクラスには迷惑だし、神奈子には喜びを与えるだけだ。
「はー、やれやれ」
 どうやら佐々木浩一はとんでもない騒動に巻き込まれてしまったらしい。

       

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Neetsha