Neetel Inside ニートノベル
表紙

お前らこんなのが好きなんだろ(笑)
学園編

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             ※お詫びと警告
・ラノベにありがちな変な部活ものを書こうとしたのですが……。作者は高校時代、バイトと資格取得しかしてこなかったので部活ものが書けませんでした。

・以後ステマ臭いことも書くことがあるかもしれませんが、もちろん作者は一円もマネーを貰っていないし、ステマされたほうも宣伝ではなく逆効果で、迷惑にしかならないだろうと思ってますのでご容赦ください。

・いつもコメントありがとうございます。最低限しっかり最後まで書き上げるので、のんびり待っていてください。

・最後に、私のアンチはひどい目にあう

   □■□

第四章 あらゆる部活に入ってた記憶が無い件

 鼻腔をくすぐる味噌汁と焼き魚の匂いが浩一の目を覚まさせた。時計を見ると時刻はまだ6時である。薄暗い家の中で唯一、明るく照らされた台所では、見慣れたはずのピンク頭が珍妙な歌を歌いながら料理をしていた。
「ほんとのところは~殺したいほど~あなたが好きよ~~~」
「何の歌だ? 今日はずいぶん早いのな」
「あっ、浩一さん! なんでもないわさ!」
「どこの訛りだよ……」
「んふふ秘密です」
 振り向いた少女は優しく微笑む。グリーンと薄茶色の色違いの双眸が浩一を見つめていた。そして見るものを魅了する桃色の髪は、肩まで届かない程度のセミショート。それは浩一にとって幼馴染で妹みたいな存在で――かつて初恋の相手だった――矢内神奈子である。
「あ、そうだ。俺は朝飯いらねぇ。食いたくねーんだ」
 少女を強引に押しのけ、流し場で顔を洗う男の名は佐々木浩一。人殺しみたいな凶悪な目つきをした本作の主人公である。彼は鏡の前でポーズを決めると、染めた金髪をヘアワックスで逆立てて、ヒゲをアゴの先だけ少し残し剃る。ジョリジョリとした手触りを確かめると彼は満足げに笑みを浮かべた。
「あー、信用できない他人の作ったものは食べない主義でしたっけ? もちろん存じてますとも!」
 神奈子はダイニングテーブルに自分ひとり用の食事だけ用意した。箸はひとつ、味噌汁や茶碗は二つである。
「これ、私一人用の食事ですから。お気遣い無く」
「あぁ? 食いすぎだろバカか」
 その瞬間、神奈子の瞳が怪しく光る。彼女は今まさに罠にかかった獣を仕留める猟師だ。
「ほんまやわー完全に食べ過ぎやで。どっかの誰かさんが食べんからワシが食わなならんのや。浩一さんはワシがこれ以上ブタになってもかまへんのやな?」
 神奈子はわざとらしく関西弁を使うと、小柄な身体の割に膨らんだお腹をさすってみせた。
 しまった、と浩一は思った。完全に言い負かされたのだ。前述の通り、浩一は神奈子に惚れていた時期があった。だがそれは何年も前の出来事で、彼女が手足がスラッと長く、抱きしめると折れそうなほどに細い儚げな美少女だった時の話だ。断じて現在の見る影もないブタではない。
 以前、奴を痩せさせようと思って食事を管理しようとしたり、わざと食欲のそそらないものを作ったこともある。もし、神奈子が昔のままの姿で現れていたら……その時は今とは違う関係だっただろうと、浩一は思う。
 つまり単純に、二人分朝飯を食べられては困るのだ。それにアイツのことだ。朝昼晩、毎食仕掛けてくるに違いない。

「わーったよ、食えば良いんだろ食えばよ!」
 浩一は乱暴に箸を掴むと焼きシャケを二人分(つまり神奈子の分も奪い)、骨ごと気合で噛み砕いた。そして二人分の味噌汁を両手で口内へ流し込む。これがたった数秒の出来事である。
「あー! ワシのシャケさんが!」
 悲痛な叫び声を上げつつも神奈子はどこか嬉しそうだ。浩一には時々、彼女が何を考えているのか分からなくなる。
「まぁアレですけどね。食事の回数減らしたほうが太るんですけどね」
 どうやら逆効果だったみたいだ。いや、どっちに転んでも勝ちは無かったのだろうか。 「うるせえ! メシだけで食え!!」

   □■□

「よっと」
 突然、神奈子が目の前で服を脱ぎ始めた。野暮ったい灰色のスウェットを脱ぐと白いキャミソールが一緒にめくれて、お腹とヘソが露わになる。浩一はギョッとした。
「なっ、何してんのお前!?」
「んあ? 着替えるねんで。今日は学校あるやろ」
「今ここで着替えることないだろ。しまえ! 見苦しい腹をしまえ!」
「別に恥ずかしがる間柄でも無いでしょーが。ほーれジャミラ、ジャミラ。知ってる?」 
 神奈子は脱ぎかけのスウェットから顔だけ出すと、手をワシャワシャさせながらジリジリと距離を詰めてきた。やっぱり色白の腹が丸出しである。
「今の子供はそれ知らねーよ! バーカ!」
 浩一は部屋から逃げるように立ち去った。何を慌ててるんだ俺は。ブタ女が部屋で何しようと知ったことではないじゃないか。落ち着け。

 制服に着替えると、二人は玄関で顔を合わせることになった。きっと地元の制服なのだろう。神奈子はエンブレム付きのあずき色のブレザーを着て、あずき色の大きなベレー帽に髪をすっぽりと覆い隠している。学生らしい紺色のチェックスカートは膝までの長さだ。
 一方の浩一は、詰襟の学ランだ。その下には派手な柄のTシャツを着ている。
「さてさて、休みも終わって今日から学校初日ですよ! 春は出会いの季節です!」
「それはお前にとってだけだ。俺にとってはいつもどおりの登校なんだが?」
 確かに、時期は4月もすでに下旬である。桜の木も花びらを散らし、わずかに残った薄い桃色は若葉の緑に飲み込まれつつある。この時期に転校してくる人間はそうそういないだろう。

「よーっしゃ、準備は出来てる? ネクタイ曲がってない? ハンカチ・ティッシュ持ってるか? 忘れ物は無い? ケータイ持った? 防犯ブザー持っとく? 昨日の疲れ残ってない? 腹減ってない? 飴ちゃん舐めるか? 制服のサイズ合ってる? ラグで詰まないか?ミサイル発射準備できてる? 弾幕薄いよ? そんな装備で大丈夫か? 生きてて楽しい? それと最近遅くまで起きてるみたいだけど大丈夫? 酒も控えて、あまり無理なさらないでくださいね」
「学ランだからネクタイ着けねー! ってか話なげーよ! お前の中で俺は一体どんな人間なんだよっ!?」

「あとは、ちゃんとパンツ履いてるかな?」
 神奈子は両手をワシャワシャさせながら迫ってきて――
「うぜぇ!」
 放たれた鋭い蹴りでベレー帽が宙に舞った。

   □■□

 新緑の眩しい通学路を、二人は微妙な距離感を保ちながら歩く。浩一が一人でスタスタと先を歩き、それに神奈子が必死で追いつく格好だ。だが、神奈子は道を知らないので置いていくわけにもいかず、時々浩一は後ろを見て歩幅を調節する。
 彼らの通う「セント・クロノス学園」は同じクロノス市内にある。女の足でも歩いて20分もかからないだろう。
 そんなこんなで、学校が見える場所までやって来た。周りにもセーラー服と学ランの生徒が増えてくる。
「あっ、狂犬(マッド・ドッグ)……」
 どこかで小さなつぶやきが聞こえた。学生たちがみな一斉に振り返ると、浩一から一定の距離をとって視線をそらした。
「え? なんやこれ、覇気? はへ~、やっぱり選ばれし主人公ともなると、様々な超能力が身につくんですね」
 早足でやってきた神奈子がぴったりと、くっついた。柔らかな胸の感触が浩一の二の腕に伝わってくる。
「みんな浩一さんのこと見た目で避けてるのかなー、もったいないなー。もっと、近くでよく見てみぃ……あらやだ奥さん。想像を凌駕するダメっぷり!」
「うるせぇな。ほっとけよ」
 神奈子はあくまでホンワカと、のんびりとした口調で告げる。だが、その言葉には言い知れない嫉妬や怒りがこめられているような気がした。

「皆さん、おはようございます!」
 校門の前で竹刀を持ったメガネの女生徒が叫ぶ。腰まで伸ばした長い三つ編みの少女だ。背はとても低いが、高い足場に乗っていることで群衆の中でも一際目立つ。
「委員長、おはよー」
 すれ違いざまに女の子たちが挨拶を返す。
「あっ、あれ昨日の店長とちゃうの?」
 いち早く気づいた神奈子が浩一の袖をぶんぶん引っ張った。
「いやまぁ、そうだが……チッ、めんどくせーな」
 浩一はうつむいて足早に通り過ぎようとする。だが、人垣が離れていくうえに派手な金髪。おまけに後ろに見慣れないあずき女がいては、目立たない方が無理な話であった。
「おはよう、佐々木。オ・ハ・ヨ・ウ」
 委員長の例のツンと尖った声がした。その言葉は佐々木。つまり佐々木浩一にピンポイントで向けられている。
「おう」
 浩一も一応、ぶっきらぼうではあるが、挨拶をした。
「はは、どーもー」
 すぐ後ろで神奈子も遠慮がちではあるが、挨拶を返す。

 ピキューン

 委員長のメガネが光る。
「待ちなさい」
「あなた、他校の生徒でしょ? 先生の許可は取ってあるの?」
 委員長は二人を引き離すかのように竹刀を突き出した。
「ワ、ワシ転校生なんですぅ。体型がちょっと特殊なんで前の学校の制服着てるんですぅ」
 神奈子はオドオドしつつも弁明した。
「学生証は? あるでしょ」
「へい、こちらに」
 神奈子がおもむろに学生証を見せると、ジャンプ一番! 委員長は神奈子のベレー帽を掴んで奪おうとした。
「ちょ、何しますの?」
 神奈子は帽子を奪われまいと掴んで地面に倒れた。
「何、髪の毛ピンクに染めてんのよ! よそは知らないけどウチの学校は染めるの禁止してるんだから!」
「やめっ、やーめーや。ホンマにやめて。脱げる、脱げるゥ!」
 顔はヘラヘラと笑ってはいるが、身をよじらせ神奈子はかたくなに帽子を脱ごうとしない。それを委員長は強引に奪い取ろうとする。
「待てよ」
 浩一が委員長の腕を掴んだ。委員長は力ずくで無理に動かそうとするが、それも出来ず苦い顔をした。
「そいつの毛の色は生まれつきだぜ」
「染めてるのは俺だけだ。こいつは染めてない」
「あ、そう。ふーん。じゃあ、アナタ校則違反ね。あとで生徒会室に来てもらうわ」
 委員長は竹刀を掴むと、値踏みするように浩一を見つめた。
「派手なTシャツ着てるわね。脱ぎなさい。今すぐ」
「っ」
 浩一は言われるがままTシャツを脱いで上半身ハダカになった。周囲がどよめく。
「そうよ、それでいいの。あなたはただ私に従っていればいいの。逆らおうだなんて思わないことね」
 委員長の高笑いが校門に響いた。その時、周囲で歓声が沸いた。
「うおおおおおおお」
 男の野太い声である。
「フフン」
 委員長は得意げに腕組みした。だが、女の子の悲鳴が委員長の心をどん底に突き落とす。
「委員長、後ろ! スカート! 押さえて」
「えっ」

「なぁなぁ、なんで風紀委員なのにスカートこんなに短くしてるのはどうして?」
「きゃあああああああ! 何してんのよ! このピンク頭!」
 背後で神奈子がスカートを引っ張って持ち上げていた。小ぶりなお尻が、そして子猫のプリントされたオレンジのパンツが丸出しになっていた。
「うわ、オレンジの子供パンツや! 校則違反ちゃうのコレ!」
「やめなさい! 違うって! わかった! スカート長くするから! 離しなさい! 離して!!」
 委員長と神奈子は、しばし尻尾を追いかけて回るアホな子犬のようなワルツを披露した。

   □■□

「これで文句無いでしょ? まったく」
 巻き上げていたスカートを戻すと、膝丈はおろか、ふくらはぎの辺りまで布で覆われた。
「うはwwwwチビのロングスカートダッセェeeeeeeeeee!!!」
 神奈子は指差してキャッキャと笑う。委員長は腕を組んでふんぞり返った。
「別に! ダサいからイヤってわけじゃないんだからねっ!?」
「なぁ、おい。ところで俺もう服着ていいか?」
 浩一はTシャツを頭からかぶった。ちょどその時である。

「おい、お前ら何してるんだ! そこのジャミラ……じゃなく半裸! あと、隣のあずきベレー! お前ら、うちの生徒じゃないだろ」
 スーツを着た中年男性が現れた。
「あ! 先生! こいつら校則違反者です! 然るべき処罰を」
 委員長がスーツ教師に擦り寄った。
「お前こそ何してる? 中等部はこっちだろ!」
「えっ、違います! 私は……」
 委員長はスーツの中等部教師にズルズルと引きずられていった。
 二人はそれを眺めながら
「ああ、確かに中学生に見えますね」
「しかも隣が中等部だからな」
 しみじみ納得した。さらば委員長。子猫パンツは忘れないよ。

 □■□

 神奈子は浩一や委員長と同じクラスになった。
「はじめまして! 矢内神奈子です!」
「群馬生まれ! 関西育ち! インチキ関西弁やけど……皆さん、よろしくやで!」
「すごーい、オッドアイだよ!」「リアル関西弁はじめて聞いた!」
 クラスメイトたちがドッと沸いた。こういう場面での人受けの良さはさすがだな、と浩一は思ったが、同時に隣の席で委員長が神奈子を凄まじい形相で睨んでいるのに気づいた。
「委員長、アイツには手を出さないほうが良い。時々わけのわからん行動に出るぞ」
「は?」
 だが、浩一の忠告は残念ながら聞き入れられなかった。
「なによ、アンタまでアイツの味方するって言うの!?」
「信じられない! 私はクラスのみんなの為を思って行動してるのに! クラスの連中はあんなののどこが良いのよ」
 委員長は憎らしげに鉛筆を噛んだ。

「私、ずっと大好きだった男の子がいて、彼に会うためにやって来たんですよ!」
 クラスメイトからいっせいに歓声が出る。ピーピーを口笛を吹くものもいた。教師の会田が、うっとりしている妖怪あずき女を教卓から引き離す。
 優勝パレードのように両サイドに手を振りながら神奈子は歩く。
「イェーイ、飲んでるゥ?」
 すれ違いざまにウインク&ピースをしたが、浩一は睨みつけて威圧した。
「なに調子ぶっこいてんの?」
「す、すまんぬ」
 神奈子は急に大人しくなって、空いている席、浩一の後ろに座った。

 教師の会田は淡々とHRを進める。
「さーてと。この前言ってた班分けの話だが、転校生含め未だに決まっていない奴らがいるな」
「はーい先生! 私、副班長になりたいです!」
 神奈子が挙手と同時に言い放つ。
「なんで副なんだよ!?」「そこは班長でいいだろー」
 ノリの良い生徒からツッコミが飛んできて、神奈子はテヘッと舌を出した。
「よーし、じゃあお前は副班長な。班長はどうするか……」
 委員長が勢いよく挙手した。
「私、今の班を抜けます。この女を正しく導く使命があるので」
「そうか、わかった。じゃあクラス委員長の姫宮がリーダーでいいよな?」
「えー(笑)」「残念だけど委員長がそれなら仕方ないねー」
 委員長の元々所属してた班だろうか? 残念がる声も聞こえたが、内心喜んでいるふうにも思えた。
「俺もその班に入れてもらおうかなー?」「行っちゃう? 行っちゃう?」
 
 ちぇっ、カナ子のバカのせいで俺まで委員長の班かよ……。余りものの班に適当に入れてもらうつもりだったのに……。浩一は憎々しげに拳に力を込めた。
 だが、事態はその程度で済まされない――

「ワシは嫌どす!」
「班長は絶対、佐々木浩一さん! 私の大好きだった『佐々木浩一さん』です!」

「」「」
「……」「……」
「お前、入れよ」「……い、嫌だよ」
 クラスメイトが一斉に静かになるのがわかった。だがそrに反して教師の会田は大笑いしていた。
「ガッハッハッハ、それでいいか佐々木!」
 バンバンと教卓を叩いて、大はしゃぎする。
「知らねーよ、どうせどこに入っても気まずいのは同じだろ」
「じゃあ、班長は佐々木! 副班長は矢内! そして委員長の姫宮と、今日はまだ来ていないが、須加と朝田! 佐々木班の誕生だ!」
「私はいいわよ。一向に構わないわ」
 委員長がメガネをクイッと直した。
「イェーイ」
 神奈子が嬉しそうな顔をして浩一を見つめる。
「これで知らんぷりも日和見もできませんねぇ? 大暴れしてくれることを期待してますよ!」
『知るか、バカ。勝手に巻き込むんじゃねぇ』など、言いたいことは色々あったが、決まってしまったものはしかたない。ここからひっくり返すのも面倒だし、それはそれはクラスには迷惑だし、神奈子には喜びを与えるだけだ。
「はー、やれやれ」
 どうやら佐々木浩一はとんでもない騒動に巻き込まれてしまったらしい。

     


  【登場人物紹介】
 佐々木浩一:この物語の主人公。自分で染めた金髪とヒトゴロシみたいな目つきで、周りの人間からヤンキーだと誤解を受けやすい。性格がひねくれており、主に一人で過ごすのが好き。

 矢内神奈子:ヒロイン。生まれつきのピンクヘアーに右がアンバー、左がグリーンのオッドアイ(虹彩異色症)。性格は自虐的なところがあり、基本的にマジメで大人しいが好きなものに関することには饒舌。関西弁デブ。

 委員長:ヒロイン。勉強もスポーツも出来る優等生。だが、規則を守らず自分勝手に生きる浩一には嫌悪感を抱いている。欠点は、背が低く小学生並みであることと味覚オンチ。緑髪みつあみメガネ。

   【今までのあらすじ】
 第一章
 両親が家に帰って来ず、プチ一人暮らしを満喫する佐々木浩一(ササキ コウイチ)の元に、かつて一緒に暮らしていた「幼馴染みで妹のような存在」の矢内神奈子(ヤナイ カナコ)が現れた。
 特徴的なピンク色の髪の毛に緑と褐色のオッド・アイ。浩一は神奈子であるということを認めざるをえなかった。
 彼女は「恋人になりたい。特に理由は無いが何故か好きだからHがしたい」と浩一に迫るが、浩一は得意のプロレス技で撃退。何故ならば神奈子は昔に比べ丸々と醜く太っていたからだった。

 第二章・第三章
 その後、二人は浩一のバイト先の洋食屋で店長(テンチョウ)と出会う。
 店長は黒服のボディーガードを連れた美少女だった。彼女は味覚オンチのため自分が作った料理が美味しいと思えないと言う。
 それに対して浩一は目に見えて効果が出るほどの激マズ料理で対抗し、彼女に涙を流させた。
 帰り道、神奈子は浩一に将来、店長と結婚し洋食屋を継ぐように勧めるが、浩一は自分は嫌われているからとそれを断るのだった。

 第四章
 二人はセントクロノス学園という高校に通っている。さっそく学校に行くが、頭髪がピンクだからという理由で委員長(イインチョウ:店長とは同一人物)に断られてしまう。
 浩一は自分の金髪が染めていることをカミングアウトし、許してもらうが今度は自分が委員長に敵視されてしまうのだった。
 ホームルームの班決めで、神奈子は強引に浩一を班長にしてしまう。その勢いで神奈子は副班長に就任。だが集まってきたメンバーはクセ者ぞろいだった。
 っていうか委員長以外、誰も姿を見せなかった。

   □■□

 神奈子は気づくと深い霧の中に立っていた。霧の中で、誰かが近づいてくるのがわかる。それは、見慣れた金髪の男だった。
「……浩一さん?」
「やぁ、カナちゃん。久しぶりだね?」
 浩一がゆっくりと問いかける。きついツリ目が細められ、柔和な笑顔になった。その姿はまさしく神奈子がかつて出会い、何年も恋焦がれた「優しくて強いお兄さん」だった。
「あ、あの、その(あらやだ、どうしましょう? いつもと雰囲気が違うのです……)」
「さぁ、こっちにおいでよ」
 懐かしくて、照れくさくって、でも、どことなく不気味。神奈子がマゴマゴとしているうちに浩一は手を握り引っ張ってきた。
「どうしたんだい? まさか僕の顔を忘れてしまったのかい?」
 浩一は身をかがめて顔を覗き込んできた。息がかかりそうなほどに二人の顔は近づいていく。
「違う!」
 神奈子は手を乱暴に払いのけた。
「違う! 違う! 違います! 浩一さんは、そんな優しい存在じゃないのです!」
 浩一が困ったような顔をした。彼は何かを言いたげな様子だったが、聞く耳は持っていない。神奈子は声を途絶えさせないように、ひたすらまくし立てる。
「本物は、もっとひねくれてて乱暴で……いつも冷めてるけど本当は熱血で頑固者で、自分の信念だけで動く男の人なんです!」
 感情のままに。深い霧の中あらん限りの声で、ピンク髪の少女は叫び続けた。
「ワシ、知っとるよ! 目を見たらわかる! アレはなぁ、ほんまもんの犯罪者の目つきや。死んでもそんなこと言わん! 本物はそんなん言わへん!」
 深い霧の中で神奈子は叫び続け、やがて霧と共に、浩一の姿は見えなくなって……。

 起きると、布団の中だった。窓から光が差し込んできて眩しい。
「よう、起きたか?」
 金髪で目つきの悪い少年が、神奈子の視界にヒョコっと現れた。
「え? あれ?」
 神奈子は飛び起きた。そこは、見慣れた自分の部屋である。何回見ても、自分の部屋だった。
「学校、遅れるぞ。おう早くしろよ」
 浩一は急かすよう太ももに小キックを入れてくる。
「委員長が呼んでただろ。あいつ約束守らないとうるせーぞ」
 そういえば、今日は班活動で早く来るように委員長から言われていたのだ。
「なんだか私、夢見てたみたいです」
「俺が犯罪者になる夢か?」
 浩一は邪悪な笑いを浮かべる。重ねた握りこぶしがバキバキと鳴った。
「あっ、聞こえてたんですね。ナハハ」
 神奈子は苦笑いを浮かべながら立ち上がった。浩一が振りかぶると、神奈子は咄嗟に頭をかばった。
「まわしげり!」
 足の甲が的確に膝をとらえ、神奈子は力なく布団に崩れ落ちた。
「ぐっは……ナイスキック!」
 今日も二人の学校生活が始まる。

第五章 主に補足とパンツの回

「さーて、全員揃ったわね?」
 委員長が竹刀を片手にプラプラさせながら机の上に座りふんぞりがえっている。その姿は浩一の目にはいつも通りの委員長に見えた。
 よかった、とでも言えばいいのだろうか? 少し、ほんのちょっぴりだが浩一は気にしていたのだ。神奈子にやり返された、通称『委員長スカート短すぎ』事件から委員長は心にダメージを負ってないのだろうか?
 だが、委員長の顔は以前より凛々しく、眼光はさらに鋭くなったように見える。内心、ホッとした。元気でよかった。
「あ゛?」
 よく考えたらおかしな話ではないだろうか? 何で俺が委員長の心配をしなければならない? ましてや俺は竹刀で叩かれ、裸に剥かれたのだ。むしろ向こうから謝罪があってもおかしくない。よく考えたら腹が立ってきたぞ……。
「どうしたの佐々木浩一くん? なにか言いたいことでもあるのかしら?」
 バチバチバチ(火花の散る音)
「いいんちょー! まだ須加くんと朝田くんが来てませんー」
 神奈子はタイミングよく挙手をした。
「そう、問題はそこなのよ」バシーン
「うげ!」
 竹刀を振り下ろした委員長が浩一の頭をはたく。浩一は崩れた髪型を直しながら言い放つ。
「おい、なんで今俺を叩いた? 返答によっては容赦しねえ」
「アンタ班長でしょ? さっさと連れてきなさいよ」
「うぜぇな、来たくない奴ぁほっておけばいいだろ」
「なにその無責任! そんなんだからクラスで嫌われるのよ! この狂犬!」
「あ゛あん? 今なんつったテメ、コラ!」
 二人の間にバチバチと火花が散った。神奈子は慌てて話題を変える。
「そ、そういえば、浩一さんはどうして狂犬なんて呼ばれてるんです? 私、気になりました! なんでなんで? んでんでんで!?」
「……チッ」
 浩一は一瞬こっちを睨んだが、すぐに目を逸らした。
「えっとね、中等部の頃にそうとう荒れていたの。ケンカばっかりして、そのうち不良たちの中でも恐れられる存在になっていったの。――アイツは誰にでも噛み付く『狂犬』だ――って」
「はぁ~カッコよろしいでんな。……って、なんで委員長が答えるんや!? ワシ浩一さんに聞いとるんやぞ」
「コイツのことはだいたい知ってるわよ、嫌でも耳に入ってくるんだもの」
 神奈子はしばし、考え込んだあと、ニヤニヤ笑いながらぼそりと呟いた。
「嫌というわりには、ずいぶんお詳しいようで」
「ちょっと待ってよ、おかしいじゃない、そんな短絡的思考! だいたいコイツのどこが良いわけ? こんな凶暴でバイト一筋でいつも前髪ばっかいじっててバイトの休憩中にTV画面に向かってツマランだの引っ込めだの言ってる奴!」
「オイコラ、聞こえてんぞ」
 浩一の目の前で翠と黒の瞳が睨み合う。そこにはバチバチと火花すら散っているように見えた。
「ホラ、真面目にやれ。授業始まっちまうぞ」
 仕方なく浩一は二人をなだめる。どうやら、この二人は馬が合わないようだ。もっとも自分自身は誰とも仲良くできる気がしないがな!

 □■□

「えー、ゴホン。話を本題に戻しましょう。班のメンバーが全員揃ってないので、選択授業のプリントが揃ってません」
 委員長は二人の目の前にプリントを差し出し、神奈子は興味深げにそれを見つめる。それは転校を重ねる中でよく見慣れた「どこにでもある一週間の時間割」だった。ある一点を除いては。
「なんでこれほとんど空白やの? 埋まってるところはあるけれど『基礎授業』? なんやそれ」
 頭上で深いため息が聞こえた。神奈子が見上げると、委員長が露骨に見下しているのが分かった。
「アンタね、この学園をなんだと思ってるの?」
「セ、セントクロノス……学園。公立校のクセに学園を名乗る変な高校」
「そうじゃなくて。何のためにこの学校を選んだのか聞いてるのよ? 率直に答えて」
 神奈子はポカンと口を開けて「んとねー、浩一さんと同じ学校だから?」と答えた。後ろで男がむせたような音が響く。
「はー、呆れた。これを見なさい。私の時間割なんだけれどね」
「はへー」
 それは丁寧な文字でびっしりと書き込まれていた。様々なカラーペンで色分けされており、枠外にも小さくて可愛らしい小動物のイラストが"夢に向かってガンバレ"、"やればできる"などの標語付きで自己主張していた。
「ほーん、可愛らしい絵を描くやないけ」
「絵はどうでもいいのよ! ウチの学校はバカから天才まで入れるんだけど、それは夢に命を懸けてるから! 生徒自身に将来の夢があって、それを全力サポートする学校なの。やりたいことのない人間は本来居ちゃいけない場所なのよ」
 委員長はプリントを鼻面に押し付け力説する。神奈子は不思議そうにそれを見つめるだけであった。
「見なさいよ、私の選択は調理科と経営科とあとなんか色々! 私は将来、親の跡を継いで社長になるんだからね!? 姫宮グループって知ってる? 実際に私の案がジュースやお菓子で採用されたこともあるんだから!」
「あ、ああ、まさか! あのキウイ味とかマングローブ味とかの……」
「そう、それよ!」
 委員長はズビシッと指差した。
「クッソ不味いジュースばっかり作ってる頭おかしいメーカーや!」
「……」
「……」
 妙な空気が流れた。委員長は指を引っ込め「き、貴重なご意見ありがとうございました」と言った。それはもう顔真っ赤で。
「なぁオイ、俺帰っていいか? もう必要ないだろ俺」
 二人は同時に振り向いた。そこにいたのはまさしく"狂犬"こと佐々木浩一だった。
「いたんか」
「忘れてた」
「ひでぇなオイ」

 □■□

 浩一は帰宅部特有の超速帰り支度をすると、ドアに手をかけ言った。
「じゃあ、俺は帰るから。あとはお前らでよろしくやってくれ」
 だが、委員長は見逃さなかった。竹刀を器用に扱い、浩一の詰襟を絡め取る。
「何しやがる! 離しやがれ」
「アンタも今すぐ書きなさいよ! 将来のことくらい決めなきゃ。子供じゃないんだから」
「そんなんゆうても、パンツは子供なんですけどね」
 神奈子が素早く委員長のスカートの裾をめくり上げた。白い布地とピンクのリボンが視界に飛び込んできた。
「きゃああ!」
 甲高い叫び声。今までの毅然とした態度からは想像もできない声。
 委員長は、持っていた竹刀を放り投げると両手でスカートを押さえつけた。床に叩きつけられた竹刀が乾いた音を立てる。
「じゃあ、なに? アンタはそんなに大人っぽいパンツ履いてるワケ!?」
 そのまま振り返って神奈子を指差す。その目は少し涙ぐんでいた気がした。
「ご覧の通りガードルですが、なにか?」
 神奈子は自分でスカートをつまみ上げて見せつける。
 無論、こちらにも丸見えである。
「ブッ」浩一は一瞬呼吸が困難になった。
 ガードルは太ももの中間までの長さで、締め付けられた太ももと露出している部分が窮屈そうに段を作っている。ちなみに色はベージュで細かい花柄の刺繍がしてあった。
「ハァ!? なによそれ、そんなのオトナ通り越してオバサンじゃないのよ!」
 委員長の叫びが教室にコダマした。

 □■□

 それから最初に口を開いたのは浩一だった。
「なんださっきからの茶番! この一連のやりとりに俺がいる必要一切ねーだろ!?」
 浩一は再び、ドアに手をかける。
「夜のバイトに備えて寝ておきてーんだ。じゃあな」
「ワシも帰ろっと」
 神奈子も浩一の肩にしがみつく。それも結局、不機嫌そうに振り払われるのだが。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
 帰ろうとした二人を委員長が引き止めた。小さい身体を必死に伸ばしてドアの前に立ちふさがる。
「だから、時間割を書いて提出しなさいっていうのよ! あとはもう、アンタ達と須加君だけなんだからね!?」
「はぁ~~~難儀やのぅ」
 神奈子はプリントを手に取るとサラサラと書き進める。だが、途中でピタとペンが止まる。
「なによ、どうしたの」
 覗き込んでみると、選択授業の最終目標である「将来の夢」が空欄のままであった。
「なによ、アンタだって夢くらいはあるんじゃないの? あんまりおすすめしてないけど、全く思いつかないんだったらOLとか書いておけば?」
「あ、ありますぅ! でもそれは……」
 神奈子は戸惑ったようにキョロキョロした。キョロキョロしたのちモジモジした。やがてモジモジしながら話し始める。
「わ、私の夢は~、お嫁さんになることです! つまり将来専業主婦になる女です! 特に未来の展望なんか無いので……えっと」
 浩一にしがみつく。「この人とおんなじ時間割で!」
「は?」
 浩一は素っ頓狂な声を出した。同時に口元が自然と緩むのを感じて、手で押さえる。
「うわ、なにその意味深な笑み。キモいんですけど」
「出た! 佐々木流奥義・暗黒スマイルや! ワシ売り飛ばされる!」
「あのなー……」
 面倒臭そうに頭を掻く。

 ポリポリ

 ポリポリポリ

「けっ、わーったよ。やりゃ良いんだろ、やりゃあ」
 浩一は明らか不満そうな態度ではあったが、壁にプリントを押し付け時間割を書き出す。
「ほれ毎日、全時間体育だ。これでずっと一緒にいられるぜ。良かったな」ここでニヤリと暗黒スマイル。
「わかったわ。矢内さんは、『お嫁さん』、佐々木は『未定』だけど、二人とも全教科・体育。受理します。あとは須加を探し出して班に加えるだけね」
「ちょい待ってって! そんな運動ばっかしたらワシ死んでまうやろ! しかも体育は男女別々ゥ!」

 □■□

 浩一は学校の屋上にいた。手すりに寄りかかりながら上を見上げると、小さな雲がいくつも浮かんでは消えて、目をつむっても消えないほどの強烈な青と白のコントラスト。初夏の空はどこまでも青く澄んでいて見ていて不思議と心地よく、彼は時間さえ許せば、いつまででもこうしていたいとさえ思っていた。
 だが、視界にチラチラと入り込むピンクの物体が浩一の気分をひどく害するのだった。
「で、なんでオメーがここにいるんだよ?」
「あっあっ、蹴らんといて痛いから……そっか、ワシ打撃は効かないんだっけか」
 神奈子は一人で納得した。
「休み時間だけ、休み時間の間だけ居させてーな、ワシ居場所がないねん」
「なんで……」途中まで言いかけて、言葉に詰まった。神奈子がクラスの人気者から居場所が無くなったのも、理由を辿れば俺自身に原因があるのだ。
「まぁ、屋上は広いからな。好きにしたらいいんじゃねーの」
 神奈子は小さくうなづいて、顔を綻ばせた。
「そういえば、この学校って屋上を解放してるんですね。私は日本中の学校を渡り歩いてきましたが、とても珍しいです。その割に誰もおらんのが気になりますが……もったいないのぅ」
「ああ、それは理由があるんだ」
 浩一は屋上から貯水槽へと続くはしごを指差した。

――つづく

       

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