Neetel Inside ニートノベル
表紙

ぎゃんぶる。
8.ババ抜き7並べ(3)

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◆前回までのあらすじ(三行)

・変則7並べする
・一位が最下位に命令する
・一人負けそう


◆それぞれの情報(更新された情報は★印)

◇藤吉
・百合子を1位にさせないことが目的(自身が1位でなくても良い)
・ジョーカーの位置がわかる
・里緒菜のチート性能を知らない
・里緒菜が7並べのルールを知らないことに気づいていない

◇百合子
・自分が1位になり、藤吉を最下位にすることが目的
・里緒菜のチート性能を知っている
・里緒菜が7並べのルールを知らないことに気づいている

◇里緒菜
・順位にこだわりはないが、できれば1位になりたい
・相手のカードが把握できる
・すり替えなどのイカサマが可能
★7並べのルールがわかり始めている
・7並べのルールを知らないことを百合子に気づいているとは思っていない

     


 ★★★ お知らせ ★★★

 前回の更新で、

[28] これ面白いなあ でもちょっとどれが誰の発言なのか分かりにくくなっちゃう。いっそのこと、SSみたいになるけど、藤吉「――」みたいな形式にしてくれればギャンブルものとしてはすごくやりやすくなると思うんだけど <2013/09/13 14:27:28> 5kOkPNI/P

 というコメントをいただいたので、試験的ではありますがそのようにしてみます。

     


 里緒菜が山札――のトップにあるジョーカーに手を伸ばした姿を見て、藤吉は胸を撫で下ろしていた。

藤吉(これで最下位は決まった。今回のルールは『一位が最下位に命令する』だから、僕が二位になっても何ら害はない。まあ本当は百合子さんを最下位にして徹底的に心を折りたかったけど、それは贅沢だよね)

 今回の肝である、引けば即敗北のジョーカーに印をつけているからこその余裕、そして同時に慢心、油断。藤吉はポーカーフェイスのまま、けれど勝利を確信していた。

 常人なら藤吉の心境なんて気づくはずがない。そう、常人ならば。


 藤吉が抱いたごくごく僅かな慢心を、常人ではないある人物が気がついた。


 ξ*゚Д゚)ξ !!!


里緒菜(……何か変、変だ!)

 里緒菜は山札に触れようとした寸前で手を止めた。

里緒菜(2人の様子に変化はない。でも、ぜったい……今までこんなこと、感じたことなかったけれど……『緊張の糸が切れた』ような気がする)

 張り詰めていた空気が霧散した、そんな感覚。

 普段、里緒菜は相手のわずかな挙動を見逃さない観察眼と、相手の鼓動を聞いて精神状態を知ることで優位に立とうとしている。それは間違いなく驚異的な能力であるが、その秘密を知っている百合子と、ぎゃんぶる中はまったく変化のない藤吉の前では効果を存分に発揮できない(それでも十分に脅威であるが)。
 人間離れした身体能力ではあるが、決してオカルト的なものではない。五感で認識できないような――極端な例で言えば、相手の心の声など――を知る術はない。

 けれどこの瞬間、里緒菜は新たな能力に体得した、という自覚があった。
 どんな勝負にも負けるはずがないベストコンディションと、7並べのルールを知らないという危機的状況、そんな矛盾が生じた環境で発現したのだ!

里緒菜(わかる……わかるぞ! 2人の『心の波』が!)

里緒菜「ごめん、もうちょっと考える」
百合子「持ち時間はないから、たっぷり考えるといい」(出せるカードがあるのか? 背中が煤けてるぞ?)
藤吉(……まずい、バレたか?)

里緒菜(お姉ちゃんは今、『俺をバカにしつつも警戒している』。そしてお兄ちゃんは……『わずかな恐怖と大きな不安を抱いている』。お姉ちゃんの反応は別にいい、問題はお兄ちゃんだ。なぜ恐怖と不安を感じている? それに……『緊張の糸が繋がった』)

 ここで里緒菜は先ほどの『緊張の糸が切れた』ことを思い出す。

里緒菜(山札に手を伸ばしたら切れ、現在は戻った。さて、ぎゃんぶるで緊張の糸が切れる瞬間とはどんなときか……そうだ、『勝利、または敗北を確信したとき』だ。山札を引くというアクションで敗北を確信するタイミングは山札が残り一枚でジョーカーがまだ出ていないとき、だ。そんな状況はまだまだ先だし、現実的じゃない。そうなると勝利を確信したんだ、そう、このルールで勝敗が確定するには、あのカードが関係している!)


里緒菜(そして次に2人の……いや、お兄ちゃんの様子だ! 手を引っ込めて、なぜ恐怖と不安を感じるのか! おかしいよなぁ、恐怖と不安のようなマイナスな思考は『期待していたことが起きない』『何か後ろめたいことがある』とかだ)


里緒菜(これらから、たった一つの結論しか導けないよなぁ!)



里緒菜(お兄ちゃん、テメェ、ジョーカーにガンつけてるな!?)



 常識外れの観察眼を持つ里緒菜にとって、山札の一番上のカードの隅に小さく“J”と書かれていることに気づくなんて、たやすいことであった。

里緒菜(考えてもみれば、この人にカードを配らせるというのが間違いだった、そりゃあイカサマぐらいするだろう。まったく恐れいったよ……でも、相手が悪かったね)

里緒菜「んー、やっぱりカード引くよー」

 これまでの葛藤をすべて捨てるように、里緒菜はカードを引き、それを表に向けた。

里緒菜「ほい、セーフ!」

 里緒菜はたしかにカードを引いた。けれどそれはジョーカーではなく、通常の数字のカードだった。

藤吉「じゃあ次は僕だね」(え……ええええええええええ!?)

 内心は絶叫していた。その様子に気づいている里緒菜は笑いを堪えることで必死だった。


里緒菜(このゲームの本質がわかった。名称こそ『ババ抜き7並べ』だけど、これはババ抜きじゃない。場に出せなかったらペナルティとして一枚引く……これはUNOの特性だ。そしてUNOには存在するルール……『チャレンジ』が、このゲームには存在しない)

里緒菜(ワイルドドロー4に限り、出せるカードがあるのに出さない場合、それに対して手札をチェックすることができる、それが『チャレンジ』。これがない限り、手札を貯め込むほうが良いに決っている。まあ、ジョーカーの存在がそれを妨げているんだけどね)

里緒菜(まあ、何が言いたいかというと)


 里緒菜は『自分の手札にあるジョーカー』を見つめ、優しく微笑んだ。


里緒菜(こうしてブッコ抜いても、バレる心配がないってことだよ。まさか『その手札はジョーカーだ!』とか言えるはずないよなぁ?)


藤吉(どこだ……どこにジョーカーが消えた。何かしたとすれば里緒菜ちゃんだが……ああそうだ、考えてみれば僕は里緒菜ちゃんのこと知らないな。前回のときも厨房の様子がわかっていたような様子だったし……)

藤吉(抜いたか、替えたか。どちらにせよ僕が気づかないはずがない。ひとまず今は延命だ)

 藤吉はクローバーの4を出し、次に出せるカードがなくなってしまった。

藤吉(百合子さん、何か出してくれ!)
百合子「ふむ、一枚引こう」(何かラブコールを受け取った気がした)
藤吉(この役立たずー!)

 そして再び里緒菜の番が来た。里緒菜も山札に手を伸ばし、一枚引いた。

藤吉「え?」(え?)

 山札のトップ、次に藤吉が取るべきカードに“J”の印があった。

里緒菜(俺にとって、カードのすり替えなんてドアを開けることのように簡単なんだ。あと、やられたらやり返す、それがモットーなんでね。手札も把握済みだ、さあ沈め)
百合子(この2人、いろいろ考えているみたいだな。疎外感だ)

藤吉「…………」



藤吉(やれやれ、甘く見ていたようだ。結局どうやったかわからないけど、次のカードがジョーカーってことだけはわかる)

藤吉(僕もすり替えぐらいはできる。でも2人もこんな至近距離から見られていたら、さすがにバレてしまう)

藤吉(……では、奥の手だ)

 空いた左手で、藤吉はポケットから五百円玉を取り出した。

藤吉(左手だから精度は落ちるけど、これを飛ばして音を鳴らす。2人の注意がそちらに向いているうちにすり替える。無音でコインを飛ばせる人間はそうそういない……なかなか味わえない、スリルに満ちたイカサマだ……!)
里緒菜(あ、悪巧みしてる)
百合子(なにか考えている表情だな)

藤吉(勝負は一瞬、さぁ行け五百円玉ショット――)

 弾こうとした親指が動かなかった。
 藤吉は嫌な汗が全身から吹き出たのがわかった。

藤吉「うお、おっ」

 震える手で、零れ落ちそうになった五百円玉を握り締め、どうにかポケットに戻した。
 こんな感覚は初めてだった。

 イカサマをしようとして山札に伸ばした手が粉砕する――そんな、ショッキングな予感。

里緒菜(イタズラはいけないなぁ。その手、壊れても知らないぞ?)

 放たれた殺気が里緒菜なものだということに、藤吉は気づかない。だが、一度失敗するイメージを抱いてしまった以上、そのイカサマをするようは藤吉ではない。とはいえ他のイカサマも思いつかない。

 重いため息をついて、藤吉はカードを引いた。

藤吉「うん、僕の負け」

 肩を落としてジョーカーを2人に見せた。



 最下位:藤吉

 残り:百合子、里緒菜

       

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