Neetel Inside 文芸新都
表紙

地球の空
一章

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プロローグ


ー自転車のハンドルに肘を乗せ、ぼんやりする。
ペダルに足は乗せずに僕はつま先で蹴るように進む。
ゆっくりとした車輪の動きが心地よい。


「小坂、このままだと進みたい大学に行けないぞ」


わかっているセリフを今日も聞いた。塾でも学校でも家でもそうだ。
聞くことに慣れた耳は疲れ。言いたいことを言い出せない口は衰えている。
目の輝きなんてとっくにないだろう。
ぼんやり取り出した自分が採点したテストさえ自身を嘲笑ってるようにみえる。

皆は僕がわかってないというのか。踏み出す力が答えになってくれない。
他人の言葉も力になってくれない。
足取りも重く帰路をとぼとぼと歩いている。
これは僕の力だ。
ただ歩いている信号機もない道路は抑揚もない。
辺りは暗くて、僕を慰める人も、僕を落ち込ませるような周りの楽しさも存在しない。


それでも自分にはこの時間が最も落ち着いており、最も自分の中で自問自答する時間なのだ。
そのため余計、今日も言われたことが頭に響く。
気持ちを切り替えるために周囲を見渡すが、ただの住宅街。
皆閉鎖的に自分を囲っているようにしか見えない。
回り道していけるコンビニぐらいしか憩いはないものだ。

特に何も連絡の入らない携帯を開いたりしながら歩いていると自分の家がある登り坂までついた。
自転車を降りて力を少し入れて自転車を押そうとしたその時右のポケットに振動を感じた。
いつも僕のメールBOXを埋める企業からのメールだろうと思いながら片手で取り出して、
若干の期待を寄せながら携帯を開く。

節電した弱い光の携帯の画面にあるメールは僕の想像とは違っていた。

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【小坂愛様にお知らせがあります】

貴方は選ばれました。
後日連絡をまたします。

===============


出会い系だとしか思えなかったがそれよりも疑問だったのは
なんで僕の名前を知っいるのか、それに明らかに少なすぎる文章に不可解さしか残らない。
僕の名前はとても男には見えないが、僕を女性と勘違いしてもこんなメールをよこすものだろうか?
この文章からは相手の性別も読み取れない。
考えるのをやめて携帯を閉じて僕は坂を登った。
登った。

     

一章.「連絡網」




遅刻だ。

好きで遅刻したいわけじゃない。しかし時間は僕を置いていってしまった。
生徒指導室に磔刑にされた僕を時間は待ってくれなかった。
左腕を締め付ける腕時計の文字を憎らしく見つめる。
失敗した。大失敗だ。

携帯を持ってきていた僕が悪い。
規則は規則だ。学校の規則を僕は破った。
携帯は学校に持ってきてはいけない。
ルールに僕は足を取られてしまった。


違反したことを正当化するわけではないが、
生徒指導室に軟禁されたのは少々うんざりした。
反省文でもなんでも書いてはいいが、予備校の授業開始時間一五分前まで僕を抑えて
説教なんて嫌がらせとしか思えない。
初めに生徒指導の教師には予備校に向かわなきゃいけない事は言った。
言い訳でもなく、予定はないかと聞かれたからだ。
だのにこのザマだ。

いつ終わるか、いつ終わるかと僕の腰が浮き上がるたびに癇癪を起こし反省が足りないという。
反省文を出来るだけ書き残ったものは翌日書いてくるように言われた。
余白とのにらめっこが待っているのも重くのしかかる。
そもそもだ。帰りのHRに僕の携帯がなるなんて想像してなかったことだ。
油断は事故のあとに気づく。
メールは昨日の晩に来た悪戯のようなものと同一人物だった。


=================

 【小坂愛様】

先日連絡をさし上げた者です。
貴方と是非お話をさせてもらいたいので、
そちらへ伺わせていただきたます。
いつかは分かりませんが何らかのコンタクトを考えております。
貴方が希望する、日時場所がもしあればご返事ください。


=================


やっぱりこの出会い系のメールかと、携帯のメール画面を見る。
説教を食らったあとようやく返してもらったため目を通したの時間が開いていた。
一番前の席、中央、担任の前というポジションで着信音にビビってポケットを抑えた
数時間前の自分の姿を思い出し笑いそうになる。
で、来たメールは出会い系のもの。内容はストーカーチックでさえある。
僕をやっぱり女と勘違いした愚かな業者が頭に浮かぶ。雑なテンプレートだ。
メールを消去しようとしながら指を動かすと、
大して中の良くない調子の良いクラスメイトの囃し立てが耳に返ってくる。


僕は馬鹿だ。消去するのも面倒くさくなって画面を閉じ息をつく。
間に合わなくなった授業の風景を想像しながら
先に行ってしまった時間を追いかけようと僕は、自転車を漕いだ。

     

一日を終えて自分のベッドの上に座っている。
テレビに映るニュースを流し見しながら頭をタオルで包み乾かす。
2月上旬、外の空気は寒いが部屋は暖房が効いており湯冷めの心配は無い。

人口の温風を浴びながらぼんやりとニュースに耳を傾ける。
隣県の殺人事件。国会での議員のセリフの取り沙汰。
聞いたこともない国の経済不況。

身近な話題は何一つない。
全国ニュースで取り上げる地域はどうでもいい東京の話題ぐらいしか触れない。

当然興味は移る。

ベッドを降り立ち、横の机の椅子にどっかり座りパソコンの電源をつける。
起動と同時に立ち上がるチャットのアプリケーションの通知音が鳴る。




+ 
  今日はやっちまったな
  生徒指導室の空気はうまかったか?
                   +


星野だ。
僕のクラスで唯一の友人であり、校外でも付き合いがある数少ない友人。
嫌味も心地よいもんだ。
ああ旨かったよ。とりとめもない返事を返す。



  愛ちゃん慌てて可愛かったぞ
                   +


うるさいバカ。
その通りだったので言い返す気はない。
全く先週僕と同じ事をやらかして捕まった男に嫌味言われるなんて。
でも、なんとなくそういう繋がりもあるわけで僕らの仲はますます色合いがあるのか。
恥ずかしい呼び方を許す程度には仲が良い。

一人思案の時は暗い気持ちになるが人とやり取りしてる時は頭が空っぽになって気持ちいい。


ずっとチャットに没頭し満足したあと、
勉強を進めずに僕は寝てしまった。

     

僕の高校は進学校だ。
生徒数約900人
一学年辺りおよそ300人、そして7クラス編成。
そのうちひとつのクラスは特別進学コースに乗った生徒たちということになる。

僕はそれ以外の六クラスのうちの一つのクラスの生徒というわけだ。
だからといって劣等感を感じてるわけではないが、自分の凡骨さを実感する。

なんの部活をするでもなし。
体育系の部活動が活発なうちの学校は広々としている上、
周りを囲むものは飼い慣らせる程度の自然ぐらいなものだ。
お金さえあれば拡張していける。

町並みを若干見下ろせる高台にあるため学校からの帰りの景色は悪くない。


その広々した学校の敷地内を僕は歩いていた。
購買にあるパンの自販機を求めにテクテクと。

隣には星野がキョロキョロしながら歩いている。


「愛ちゃんさあ、いっつも思うけど自販機でパン買うより学食くおうぜ」
星野はやれやれといったように腕を頭の後ろで組んでいる。

「食堂は空気が嫌いなんだよ。」

「まあ・・・そりゃ分かるけどパンばっかりだと飽きるだろ~」

「飲み物との組み合わせ変えてるから平気だよ。」
 正直、これは強がりだ。

「せめてコンビニで買ってきたほうがいいだろうに愛様ときたら」

「その呼び方はやめろ」


うだうだ話しながらパンを購入し終えると僕らは1,2年生の校舎の屋上へやってきた。

こっちの方が好きだ。
開けた青い空を見ながらどっかりとフェンスの近くの段差に座り込む。

食堂はなんというか混沌としている空気が嫌だ。
弁当を見せ合いながら談笑する女生徒の円卓や、一人で隅で食べている生徒。
同じ部員同士でうるさく集まる男子生徒たち。

時間から解放されるために僕は屋上で昼を過ごす。
冷めたチキンカツを頬張る。
うんやっぱり美味しい。

     

教室に戻ると例のとおり僕らの席はクラスメイトに使われていた。
昼休みはまだ時間が余っているから廊下に出て星野と話す。
理系の道に進む気の星野とは勉強の話はあまりしない。
高校2年2月の時期でもまだゲームの会話ばかりだった。
休憩が終わるまで結局席には戻れなかった。

とりとめのない会話の中で星野がひとつだけ頭に残っていた。

昨日の放課後校門の近くでえらい美人な他校の女子生徒がたって誰かを待っていたと。
昨日というと、僕が生徒指導されたときか。
少しだけ見たかった気がする。
やはり不幸は重なるものか。

もうすぐバレンタイン。余計に独りの自分が焦燥を駆られる。

妹と母さんも最近忙しいみたいだし、義理の2つも無さそうだ。
開き直っ逆チョコはどうだろうか。
気持ち悪い以前に、あげたい異性はいないことに気づく。

ため息だ。

妄想で昼下がりの授業も居眠りに落ちた。

       

表紙

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