Neetel Inside 文芸新都
表紙

ロマサガロワイヤル
ジェラール

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部屋を出た僕は支給されたものを確認した。
(トビーの弓……)
かなり高性能な弓だった。
殺傷能力が高く、固定技である「死ね矢」は当たりさえすれば
相手を確実に死に至らしめることができる。
(まずは技を閃くことが先決だな)
僕は弦を張り、引き絞ってみた。
(この張力だと、50メートルといったところだな)
幸い、僕の器用さは低くない。
と、部屋からまた誰かが出てきたようだ。
すばやく近くの物陰に身を潜めた。

テレーズだ。
まだ泣いているのか、肩を震わせながらノロノロと歩いている。
(殺すか……?)
今ならたやすく仕留めることができるだろう。
だが、それはいつでもできる。
まず優先すべきは自分のスキルを磨くこと。
器用さが高いとはいえ、僕の弓レベルは0だ。
このままでは手ごわい相手に襲われた時ひとたまりもない。
宮廷弓兵候補のテレーズだ。
大いに利用価値はある。

「テレーズ!」
僕はテレーズを呼び止めた。
びくっ、と大きくテレーズの肩が震える。
おそるおそる振向くテレーズ。
(のろのろするな…!こんな見通しのいいところからはすぐにでも移動したい)
「あ、ジェラール様!」
テレーズの瞳が大きく開かれる。
「話はあとだ。まずは人目につかないところへ…」
「は、はいっ」
馬鹿な女だ。
いいのかい?ホイホイついてきちまって。
俺は宮廷弓兵だって構わず食っちまう男なんだぜ?

     

「ここなら少しは安全だろう…」
森の中は同じことを考えるヤツが多そうなので避け、
廃墟となっていた山小屋へと僕たちは移動した。

「ジェラール様、私たちどうなってしまうんでしょうか……」
「わからない。ただ……これは現実なんだ」
この女にはしっかりと生きていてもらわないと困る。
まずは信頼を得るか。

「テレーズ、君はとても優しい子だ」
「……そんなこと」
「でも、それはこのゲームでは意味がないんだよ」
テレーズは俯く。
「優しさだけじゃ、このゲームではきっと生きていけない。
僕も、戦いは不慣れだから、命を落とすかもしれない。
だけどね、テレーズ」
大きく僕は息をつく。
三文芝居も大変だ。
「二人一緒なら、なんとかなるかもしれない。
それに、こんなゲームに乗りたくないって人はきっと大勢いると思うんだ」
「そ、そうですよね!?」
ようやく聞きたい言葉が聞けた。
そうテレーズの表情は物語っていた。
「うん。それに僕は、兄様を殺したあの男を絶対に…絶対に許さない。
だから、仲間を集めてクジンシーを討とうと思うんだ。」
「ジェラール様……お兄様のことは……その……」
「いいんだ。気を遣わなくても。
ショックじゃないとは言えないけど、立ち止まってもいられないから」
「……」
「一緒に闘ってくれるかい?」
「は、はい!もちろんです!ジェラール様のためなら……」
ふん、簡単なものだ。
次期国王の権利をようやく得たんだ。
そう簡単に死ぬわけにはいかない。


テレーズに支給されていたのは耐火服だった。
(器用さの上がる防具がよかったが…)
僕は耐火服をテレーズに装備しておくよう命じた。
魔術を得意とするミリアムやアメジストを相手にすることもあるだろうが、
何よりもまずはテレーズの信頼を確固たるものにしておきたかった。

弓の訓練は深夜に行うことにした。
夜、眠ってしまうことは死を意味する。
夜襲は戦略の基礎であることは流石に生徒たちも学んでいることだし、
それは別としても、この季節だ。
火を起こすことさえままならない状況で眠ってしまえば、まず命はない。
アバロンよりも寒いことを考えると、どうやらここはルドンより南に位置するようだった。

「あ、あの……ジェラール様」
「なんだい?」
テレーズの声に僕は振り返る。
「私……その、お手洗いに……」
顔を朱に染めながら恥ずかしげに言った。
(やれやれ、アバロンに帰ったら兵の教育方針を見直す必要がありそうだな)
僕はできるだけ優しい笑顔を浮かべ、
「あまり遠くへ行かないようにね」とだけ告げた。
テレーズは頷き、急ぎ足で、しかし音を立てないように気を配りながら小屋を出た。

午後9時11分。
ゲーム開始から9時間が経っていた。

(遅いな……)
テレーズが出て、すでに10分近くが経とうとしていた。
その時だった。

「きゃあああああああああああああ!」

夜の静寂をテレーズの悲鳴が引き裂いた。
(ちっ)
僕は小屋から飛び出し、声のした方へと駆け出した。

       

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