Neetel Inside ニートノベル
表紙

勇者、僕と魔王
永久の分かれ? 幼馴染との邂逅!

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 城を出るとまず考えたのが仲間。
 酒場に行って強力な仲間を集めても良い。でも旅先で新たな誰かと知り合うこともある。多すぎは良くないが、とにかく仲間は欲しい。仲間がいないと一度の戦闘でやたらと時間を食われるからだ。
 一人で魔王城に入った事があったが、四百匹の魔物を一人で倒すのは苦労した。途中で本気を出したところ、僕の魔法で城が半壊した。結果的に損害賠償請求してきた魔王の口を封じると言う形になってしまい、あの罪悪感は二ヶ月ほど僕を苦しめた。
 その様な悲劇をもうもたらさないためにも仲間は必要だ。旅始めに仲間にすると終盤強くなってくれて助かる。やはり酒場に行くべきだろう。
 少し洒落た木製の扉を開くとバーカウンターとテーブルが点々と広がっていた。薄暗い店内に客の姿はなく、店長のイム姉さんがカウンターのところで飲んでいるだけだった。商売上がったりか。
「イム姉さん、仲間を探しに来たんだけど」
「仲間ぁ? なんで?」
 酒臭い。彼女の顔は赤かった。酔っているのだろう。昼間からお気楽な仕事である。昼飲みっていいよね。
「テレビ見てごらんよ。魔物がうろついてる。魔王が復活したんだ」
「復活? バカ言うんじゃないよ。前回からまだ一ヶ月しか経ってないじゃないか」
「まぁ確かに早すぎるけどさ……」
「実は誰かの陰謀だったりするんじゃないの?」
「どうでもいいから、仲間がいるんだ。ヒューゴさんいないの?」
 ヒューゴさんは僕が初めて魔王退治に出かけたときの仲間である。一緒に死線を潜り抜けてきた仲だ。彼が旅についてきてくれると心強い。
 しかしイム姉さんはぷらぷらと力なく手をふった。
「あいつは海を越えてどこか遠くへ旅に行っちまったよ。私を置いてね……」
 なるほど。やけ酒か。それ以前にお前ら付き合ってたのかよ、とは言わないでおく。
「それに今日は開店休業状態だよ。やけに客が来ないと思ったんだ。魔王が復活したなら旅人もこないはずだよ」
 魔王が復活すると毎度経済の流通が悪くなり著しい不況へと突入する。そのため世界を救うと各国からのお礼金がすごい。にも関わらずこの国が財政難へと陥っているのはおそらくいくらか王様が個人的に着服しているからだろうと考えられた。まぁ母の介護さえしてくれたら文句は言いませんがね。
「魔王城の位置はもう特定しているのかい?」
「いや、まだ」
 そういえばすっかり忘れていた。何か違和感があると思ったらまだ魔王が名乗りを上げていないのだ。それでも魔物が出ていると言う事は魔王がどこぞで誕生したのは確かな訳で。
 イム姉さんは首を振った僕を見て呆れたように溜息をついた。
「あんたは本当、どこか抜けてるねぇ。敵の事を知らずして何が魔王討伐だよ」
「旅の始まりでいきなり魔王の詳細がつかめるのもどうかと思うけど」
「それもそうか」あまり興味なさげに彼女は頷く。「とにかく仲間はいないよ。旅先で見つけな」
「そうする」
 僕が店を出ようとすると、「勇者」と声を掛けられた。振り向くと、イム姉さんはアルコールで頬を茜色に染めて僕をじっと見てくる。
「どうしたの」
「死ぬんじゃないよ」
「大丈夫。死んでも勝手に復活する呪文を既にかけてあるから」
「旅の始まりでそんな強力な呪文覚えてる奴もどうかと思うけど……」
「呪文なんてなくても、魔力さえあれば魔法なんか感覚で出来るよ」
「その力使って曲芸師にでもなったら?」
 ぼやくイム姉さんを無視して僕は酒場を出た。
 曲芸師になったら王様に母の介護を頼めないではないか。

       

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