Neetel Inside ニートノベル
表紙

勇者、僕と魔王
絶体絶命? 勇者対洞窟の魔物!

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 村を襲う魔物たちは村から北に歩いたところの洞窟に巣食っている。風が中に吸い込まれ、明かり一つない奥底へと消えていく。不気味なことこの上ない。
 ギュッと手の平に強い力を受け、見るとキトが僕の手を握っていた。かすかに震えている。
「キト、怖いのなら村長の家で待っていても良いんだぞ」
 しかしキトはフルフルと首をふった。
「僕は師匠の弟子になったんです。しかも師匠は勇者。こんな序盤のダンジョンで躓いていたら、敵討ちはおろか、魔王討伐のお手伝いなんて出来るわけありません」
「キト……」魔王討伐まで一緒に来るつもりだったのか。何と言う衝撃的事実。献身的な子。
「それに、あんな欲望に支配された人々と一緒にいて正気を保てる気もしません」
「お前を弟子にして良かったよ」
 ぐっと、恐怖を内に押し殺すキトの姿は見ていて愛しさすら覚えた。この子が女の子だったらどれだけ良かったか。いや、違う。僕はロリコンでなければそんなショタがロリに変貌して欲しいなんて言う特殊性癖の持ち主でもない。それだけは紛れもない事実だ。
「キト、手を離すなよ」
「はい、師匠」
 しばらく進むと外の光はあっという間に消えうせ、僕らを完全な暗闇が包んだ。足場は割と安定しているから転ぶ心配は少ないが、いつどこから襲われるとも知れない。
「し、師匠、何も見えないです……」
「まぁそう慌てなさんな」
 そっと魔力を放出すると、辺りにある岩が薄く光りだした。
「なんですかこれ?」
「鉱石だよ。僕の魔力と反応させてるんだ。こうするとMPの消費が少ないからね」
「へぇ、すごい」
 ちなみに消費するMPは一歩で一ポイントである。普通の冒険者なら途中で終わる。
 洞窟を奥へ進むと様々な魔物が僕らの前に現れた。ガーゴイル、ミニドラゴン、大きな目玉を持つ植物などだ。
 キトはそれらの魔物を見かけるたびに泣き叫んでいた。僕はおよそこの子が強くなることは永遠にないのではないかと感じた。
「キト、逃げ回っていたら成長しないぞ。戦うんだ。肉弾戦でも良い。経験を積め」
 洞窟の中腹までやってきて、キトに注意する。
「でも師匠、あんな怪物にちょっとでも攻撃されたら」
「死ぬ」
「師匠!」
「大丈夫だよ。何とかなる。僕も最初はそんな感じだった。仲間に守られながら、スライムやベヒーモスを少しずつ攻撃して慣れていったんだ」
「師匠、スライムとベヒーモスって桁が違いますけど」
「うん。七人中三人死んだ」
「師匠!」
「落ち着きたまえよ。ちゃんと教会で生き返らせたから」
「そんな問題なんですか……」
「痛みを重ねて人は成長するんだよ」
 よく考えたらこの子は魔物に村を襲われている。軽いトラウマがあるのかもしれない。それに心の痛みは誰よりも知っているはずだ。それなのにここまで真っ直ぐで素直。こんな子は中々稀有だ。
「もしかしたらキトはもう十分成長出来るだけの痛みを抱えているのかもしれないね」
「えっ? 師匠、今なんて言ったんですか?」
「なんでもないよ」
 やがて洞窟の最深部に到達した。人工的な造りの泉の広場には美しい装飾の柱がいくつも連なっている。今は魔力を放出しているからその幻想的な光景を目にする事が出来ているが、普段なら暗くて何も見えない状態だ。一体誰がこんな装飾を施したのか。ここだけに限らず、ダンジョンでは不可解な事が多い。
 村娘のミロちゃんは柱に鎖で手をつながれていた。全身緑色のジャージを着たまま気絶している。思いっきり部屋着だ。
「ミロさん!」
 キトが思わず叫ぶ。なんて事を。魔物に見つかる前に不意打ちして倒そうとしたのに。
 しかしよくよく辺りを見ると魔物の姿が見当たらない。出かけているのだろうか。僕達は周囲に警戒しながらミロちゃんに近づく。
「師匠、ミロさん顔が青ざめてます」
「落ち着くんだキト。顔面にペンキを塗りたくられているだけだよ」一体何の嫌がらせだ。
 彼女の頬をつつくと乾いたペンキの感触がした。かぴかぴである。洗顔剤で洗って落ちるかどうか。
「今は魔物がいない。とりあえずミロちゃんを連れて村に戻ろう」
 ついでに魔物も倒しておきたかったが仕方ない。あとで洞窟もろとも滅ぼしてくれる。六度目はないぞ。
「でも師匠、こんなに頑丈そうな鎖が」
「外れないの?」
 よく見ると鎖には鍵が付いている。こういう鍵は得てして魔物が管理している物である。倒したらお宝として手に入るのだ。お宝といえば聞こえは良いが、実際は身包みを剥ぐ行為のことである。旅とはきれい事だけでまかり通らない。
 そういえば昔ピクシーの身包みを剥いだ事があった。十八歳の女性と同じ姿かたちをしており、それはそれはもう眠らせて身包みを剥ぐのが最高に楽しかったそうな。グフヘヘヒヒイ。
「師匠、帰ってきてください、師匠」
 腕を引っ張られようやく我に返る。そうだ、鎖だったな。魔物を待つのも面倒なので魔法で外してしまおう。僕は魔力を込めて鍵が開くよう念じた。しかし反応がない。鎖はうんともすんとも言わない。
「どうしたんですか? 師匠」
「おかしいな、鎖が外れん。ひょっとして魔法が効かないように作られているのかな?」
 ガチャガチャと鎖を引っ張る。うむ、外れん。
「でも師匠、ミロさんを置いていく訳にはいきませんよ」
「わかってるさ。あんな親でもこの子に罪はないからね」
「じゃあどうするんです?」
「キト、僕の力は何ポイントだと思う?」
「えっ? に、二百くらいですか?」
「二十億だ」
 僕は鎖を引き千切った。すごいや師匠! キトが叫ぶ。もっと叫べ。ちなみに二百ポイントの力があればもはや魔王と対等な戦いが出来るレベルだ。つまり僕にとって魔王とは鼻くそ以下の存在である。
 そのときミロちゃんが小さくうめき声を上げて目を覚ました。
「ん……あ、勇者様」
「気がついたかい、ミロちゃん」
「ここは?」
「いつもの洞窟だよ。気付いてなかったのかい?」
「前日、夜中までゲームをして爆睡してましたから。私また生贄にされたんですのね」
 娘が寝ている隙に生贄として差し出すとは残虐非道な両親である。
「でもよかったですわ。また勇者様が助けに来てくれて」
「今回は僕だけじゃない。弟子のキトも一緒なんだ」
「キトと言います。ミロさん、無事でよかったです!」
「キト君ね。よろしく、キト君。あ、でも年下だからキトで良いでしょうか。よろしく、キト」
 特に言う事はないが、えらいなれなれしい女だなとは思った。
 ミロちゃんの意識がはっきりしたのを確認して、僕らは洞窟の入り口へと歩き出す。
「そう言えば勇者様、魔物はもう?」
「いや、探したけど見当たらなかったんだ。もう面倒くさいから洞窟もろとも破壊したらどうにかなるんじゃないかって発想が僕の中にある」
「さすがです師匠!」
「もっと褒めて良いよ」
「あら、二人とも随分仲がよろしいのね?」
「出会ってまだ半日だよ」
「実はそうなんです!」
「……やっぱり仲良いですわね」
「良かったですね師匠! ミロさんが焼きもち焼いてくれましたよ」
「醤油つけて喰ったら美味そうだな」
「だ、誰が焼きもちなんか!」
「こんな可愛い人に焼きもち焼いてもらえるなんて師匠さすがです!」
「親はアレだけどな」
「ふふふ、勇者よ、まんまと現れよって馬鹿め」
「勇者様、私、もう家を出ようかと思っているんです」
「そうしたほうが身のためだよ」
「貴様の命もこれまでだ! 勇者よ!」
「このまま私も旅に連れて行ってくれませんか?」
「ギャルと少年を抱えて魔王城か。ちょっときついかな」
「でも、もっと外の世界を見てみたいんです。お願いします勇者様。それに私、もっと勇者様と一緒に居たいんです」
「師匠、モテる男は辛いですね」
「止まれい! 勇者よ!」
「まぁ女の子がパーティーに加わることでちょっとは冒険に色も出るかな」
「師匠、色とは?」
「少年にはまだ早いさ。宿屋でのシャワートラブルとか、ベッドで触れる柔らかいものとか、魔物の酸で服が中途半端に溶かされたり」
「あら、勇者様? 私にそういうのを求めていらっしゃるの?」
「例えば、の話だよ。はははこやつめ、ははは」
「勇者! 待って! 止まって!」
「あ、師匠、喋りながら歩いてたらいつの間にやら洞窟の入り口ですよ」
「お、やっと着いたな。やれやれだ」
 その後僕は魔法を使い洞窟を破壊した。
 六度目はない。


       

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