Neetel Inside ニートノベル
表紙

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対峙する俺たちとアウトロー2人。

今やるべきことは何か。
ハインの話を信じるならば、真っ向勝負は得策じゃない。
となれば逃げるべきなのだが。何をしたのか知らないが、馬は2頭とも潰された。
足がなくては逃げられない。

「アーリー」

荒野で獲物を見つけた狩人。さて、どういう対応に出るか。
俺が《ナンバーズ》を持っていると、おそらく奴は知らないだろう。となると。

「殺せ」

殺して身ぐるみ剥ぐのが普通か。
フランク自身は腕を組んでいる。自分で動く気はないらしい。

「……」

だが、言われたアーリーも棒立ちだ。かすかに腰が引けている。

「もう1回だけ言うぞ。殺せ」

声のトーンが下がるのを聞いて、ようやくアーリーは銃を抜いた。
銃口は俺に向いている。で、どうしよう。

「……」

弾が放たれる気配はない。銃口はわずかに震えてる。
撃たれても別に死にはしない。が、《ナンバーズ》を持っているとバレる。
そうなると戦闘は避けられない。泣く子も黙るアウトローたちは、《ナンバーズ》を奪いに来るだろう。

「……」

7500$の実力はどの程度なのか。はたして俺は勝てるのか?
それは謎だが、デュエルは強制デスマッチ。どちらかが死ぬまで終わらない。
負ければそこでゲームオーバー。リスクはなるべく避けたいな。

「おい、アーリー

現状の俺たちは一般人。奴らにとっても『ただそこにいたから殺して略奪する』くらいの認識なはず。
この認識を維持したまま、ある程度逃げることができれば。さほど本気で追ってはくるまい。

「……」

アーリーの手は震えている。こいつは相当小物なようだ。
思考はまとまった。隣のハインに視線を送る。
ハインはガタガタ震えていたが、俺に気づくと震えを止めた。

「逃げるぞ」

口の動きでそう告げる。
ハインは黙ってうなずくと、内腿の銃を取り出した。
それを見て、アーリーも銃を構える。

「遅い!」

ハインのほうが早かった。
ためらいなく引き金を引く。

「おわ…っ!?」

弾丸がアーリーの銃を弾き飛ばした。すげえ。
ハインはすぐさま踵を返し、俺もそれに倣って走る。

「銃の扱いには、ちょっとばかり自信があるんだよっ!」

走りながらハインは言った。俺は素直に感心する。
しかし逃げるのはいいんだが。己の足ひとつで逃げるのは、いろいろ厳しいものがある。
俺は首だけで後ろを向く。

「わ、あ……!」

アーリーは焦って銃を拾い、フランクは冷ややかにそれを見る。追ってくる様子は見られない。
やけに余裕な態度だな?

「……」

そう思ったとたん、顔を上げたフランクと目が合う。
フランクは軽くため息をつくと、左手を開いて、こちらに突き出した。

微かに、風を切る音がした。

「ぅわっ!?」

隣でハインがすっ転んだ。

「な、痛、なんだ、これ……!?」

わけがわからないと言った風に、右足首をぺたぺた触る。
フランクを見る。左手はすでに下ろしていた。

「これ……糸?」

足を軽く撫でた後、ハインの両手は宙をまさぐる。
その手は何かに触れていた。それをハインは"糸"だと言う。

「"煉獄の糸"……」

俺は軽く呟いて、フランクのほうに目を向ける。
今度は右手を突き出していた。視線は、ハインに向いている。

「《シャーク・ドレイク》ッ!」

直感で。
俺は、ハインを庇うように右手を出した。


ガキンッ!


「……!?」

フランクが驚いている。

「え、ちょっ、あんた、その手……」

ハインも驚いている。が、お前が驚くとこじゃないだろ。
突き出した俺の右腕は、もはや人間の腕ではなく、赤いヒレになっていた。

「たぶん、あいつも同じだよ」

「え?」

ハインは首をかしげるが、十中八九正解だろう。
《ナンバーズ》には、《スフィア・フィールド》を展開する力がある。
そのフィールドの中では、すべてのカードが実体化し、プレイヤーを傷つける。
が、《ナンバーズ》自身はどうか。

「"糸"だけ、出してるっぽい」

そう言って、俺はその場にかがみこむ。
ハインの足元を軽く探り、右手で手刀を振り下ろす。
"糸"の切れた感触があった。

「"糸"だけ?」

「うん」

《スフィア・フィールド》など使わなくても、《ナンバーズ》自身はいつでも実体化できるのだ。
実際、俺は今《シャーク・ドレイク》のヒレだけを実体化させている。それと同じ要領だ。
奴は、何かの《ナンバーズ》の"糸"だけを実体化させ、それを操っている。
ワイヤーみたいな素材の糸だ。さっき馬を殺したのも、たぶんこれの仕業だろう。

「……くくっ」

小さな笑い声が聞こえた。視界の端で、フランクが笑っている。
さて。ヤバそうだったからつい出してしまったが、これで俺が《ナンバーズ》持ちだとバレたわけだ。
そうなると、どうなるか。俺は右腕を元に戻す。

「おい、アーリー」

《ナンバーズ》を持つ人間は、今俺たちがやったように、特殊な力を行使できる。
そんな人間を殺す、もっとも確実な方法は何か?

「《スフィア・フィールド》だ。出せ」

《スフィア・フィールド》を展開し、実体化したモンスターでトドメを刺すこと。
一度張られた《スフィア・フィールド》からは、デュエルが終わるまで出られない。
フィールドが展開された途端、デスマッチが確定する。それだけは、避けねばならない!

「あっ、はい!」

フランクの命令を受けて、アーリーが1枚のカードを取り出した。

「ドロー!」

俺はデッキからカードを引いた。
トラップカード、《フィッシャーチャージ》。この際カードはどうでもいい。
拾った銃を握るアーリー。

「《シャーク・ドレイク》ーッ!」

スピンをかけて、カードを投げた。
この世界のカードは、クレジットカードのような素材でできている。
それに、《ナンバーズ》補正をかけて飛ばせば――

「おわ!?」

――拳銃くらいは切断できるッ!
カードは砲身を切り飛ばし、そのまま地面に突き刺さる。

「わ、わ……!?」

手にした銃がぶっ壊れ、アーリーは右往左往する。
《スフィア・フィールド》を張る条件は、《ナンバーズ》に傷を入れること。
さすがに素手では厳しいはず。

「逃げるぞ!」

「お、おう!」

へたり込んでいたハインを起こして、すぐさま前へと走らせる。
アウトロー2人に注意を向けつつ、俺も少しずつ後退する。

「……っとに、てめえは……」

不機嫌な表情を浮かべつつ、フランクは腰から銃を抜いた。俺は再びディスクを構える。
奴が《ナンバーズ》を取り出そうものなら、すぐ2枚目のカードを投げる。その用意だ。
フランクがゆっくり腕を上げる。

「……?」

が、その銃口はアーリーに向いていた。
銃をなくしたアーリーは、両手で自身の《ナンバーズ》を掴み、引き裂こうともがいている。


銃声がした。


「うわ……っ!?」

直後、目もくらむような光。
俺はとっさに目を閉じる。

「い……っ、ぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!」

叫び声に目を開ける。
荒野も空も、太陽さえも。景色が青く染まっている。

「これ……《スフィア・フィールド》!」

後ろでハインの声がした。
フランクはマントをなびかせながら、腰のホルダーに銃をしまった。

「いっ……てぇ……!」

このフィールドを展開したのは、アーリーの持つ《ナンバーズ》。
フランクの撃った弾丸が、アーリーの《ナンバーズ》を撃ち抜いたようだ。それを握っていた両手ごと。

「立て、アーリー。やるぞ」

痛みに体を震わせながら、へたり込んでいたアーリーに。無慈悲に告げて、フランクは歩く。
アーリーのそばでかがみ込み、地面に刺さったカードを抜くと、俺のほうへと投げてきた。2連続で。

「っと」

「お前のだろ? 返してやるよ」

2枚のカードをどうにか受け取る。
《オーシャンズ・オーパー》に《フィッシャーチャージ》。律儀に拾ってくれていたようだ。

「ど、どうする!?」

息を切らしながら、ハインが駆け寄ってきた。
周囲を見渡してみる。かなり広いフィールドだ。

「まだ制御できねえのか。無駄にフィールド広げやがって」

「あ……ぐ……」

「うぜえ……さっさと、立て!」

うずくまっているアーリーの背に、一発蹴りを入れるフランク。
アーリーは地面を転がった後、震える腕で身を起こす。

「頭数が揃ってるんだ。2vs2で闘るぞ、いいな」

そんなアーリーを横目で見やり、フランクはそう言ってきた。
全員フィールド内にいる以上、俺たちに選択権はない。とりあえず頷いておく。

「よし。……つってもまあ、一人殺ればそれで済むんだがな……」

やたらに冷たい視線とともに、フランクはぼそり呟いた。当然視線が向くのは俺。
俺はさっきハインを庇った。だからおそらく、奴らはハインの《ナンバーズ》に気づいていない。
というか、俺自身ハインを《ナンバーズ》持ちにカウントしていいかわからない。白紙だし。

つまりハインは一般人でしかないので、このデュエルで俺を消しさえすれば。どうにでも料理できるわけです。
それを理解したのだろうか、ハインはぶるっと身を震わせた。

「なあ、フラッド……なんか、ないのか? 策」

不安げな目を俺に向けてくる。
精一杯の微笑みを、俺はハインに返してやった。

「やるしかない」

「……」

ハインが死にそうな顔をした。

「はぁ、はぁ……」

風穴が空いた両の手で、アーリーはぎこちなくディスクを構える。
派手なマントを存分になびかせ、フランクが大声で叫んだ。

「んじゃ、闘るぞ。――決闘!」

旅人vsアウトロー。生き残るためのデュエルが始まる。



ターンの順は、ハインから。ちらりとハインに視線を送る。
俺の視線に気づいたようで、ハインはグッと親指を立てた。

「あたしのターン。ドローっ!」

そのままカードをドローする。

「……」

右手に引いた1枚を、左手に手札5枚を持ち、ハインはそのまま動きを止めた。
左右のカードを交互に見つつ、なにやら考え込んでいる。

さて。
『足手まといになるつもりはない』。
俺の記憶が確かなら、昨日こいつはそう言った。
それでは、お手並み拝見だ。はてさてハインはどう動く?

「ターンエンド」

動かなかった。

「は?」

「いや、だって……」

そろりと俺ににじり寄り、5枚の手札を見せてくる。

《邪帝ガイウス》。☆6。モンスターカード。
《サンダー・ドラゴン》。☆5。モンスターカード。
《サンダー・ドラゴン》。☆5。モンスターカード。
《ライトパルサー・ドラゴン》。☆6。モンスターカード。
《サンダー・ドラゴン》。☆5。モンスターカード。

「……」

スリーカードもさることながら、レベルが5・6フルハウス。こいつ1人だけゲームが違う。
小声でハインとやりとりをする。

「モンスターしか引けなかった?」

「ああ」

そう言って、ドローしたカードを俺に見せる。《混沌球体》、☆5。
5のフォーカード。意味わかんねえ。

「まあ、もともとモンスターしか入れてないし、それは別にいいんだけど」

『足手まといになるつもりはない』。
もしかしなくても、俺の記憶違いだったのだろう。

「アーリー。お前のターンだ」

「あ、はい……俺のターン、ドロー!」

横のフランクに促され、アーリーは慌ててカードを引く。
次はこいつのターンだが、はたしてどうなることだろう。

「かったるいのはなしだ。まだターンが回ってきてねえ俺とお前はともかく……」

俺を指差して、フランクが言った。

「今このターン、アーリーはそこの女に攻撃できる。それでいいな」

ゆっくり腕を動かして、差した指をハインに向ける。
がら空きなのに攻撃はされる、防御策は何もなし。ハインが一歩下がるのが見えた。

「……」

当のアーリー本人は、手札をじっと見つめてる。
そして、1枚のカードに手を出した。

「《増援》のマジックカードを発動。デッキから、レベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える」

戦士族のサーチカード。さて、何を持ってくるか。

「俺はデッキから、《フォトン・スラッシャー》を手札に加える」

ふむ。
自分のフィールドにモンスターがいないとき、手札から特殊召喚できるモンスター。
攻撃力も2100と高い。となれば、攻めてくるか。

「ん、《フォトン》?」

ハインが妙な声を出した。なに? そこ気にするとこなの?
《フォトン・スラッシャー》それ自体は、汎用性の高いカードだ。どんなデッキに入っていても、さほど驚くことではない。

「……」

まあ、ハインは置いておこう。
《フォトン・スラッシャー》を手札に入れると、アーリーは再び悩みだす。
ハインに防御の策はない。攻め手を考えているのだろう。

「モンスターを1体守備表示で出して、ターンエンド」

違った。

「……あぁ?」

あまりに消極的な手だ。
せっかく加えた《スラッシャー》も、使わず手札に残してる。

「おい、アーリー。どういうことだ」

「ひ……いや、その」

フランクもキレ気味である。
だが、俺としては大歓迎。次に来るのは俺のターン。

「俺のターン、ドロー!」

勢いを付けてカードを引く。
さっきの理屈で言うならば、俺はアーリーに攻撃できる。
ハインが役立たずな現状、流れを掴むのは俺の仕事。ここで一発やるしかない!

「《ハンマー・シャーク》を召喚!」

引いたカードを横目で見やり、すぐさまディスクへ直行させた。
地面がいきなりひび割れて、そこから水が噴き上がる。

「《ハンマー・シャーク》の効果発動! こいつのレベルを1つ下げて、手札の《オーシャンズ・オーパー》を特殊召喚!」

そのまま手札を1枚抜き出し、デュエルディスクに叩き置く。
噴き出す水の柱から、2匹の魚が飛び出した。
ハンマーヘッドの水色鮫と、槍を抱えた赤金魚。2匹揃って吠え上げる。

『ゥゥゥゥゥァァァアアアアアアアアア!!』
『ギョェェェェェェェェェェェェェェェ!!』

うるせえ。

《ハンマー・シャーク》:【☆4→☆3】/水属性/魚族/ATK1700/DEF1500
《オーシャンズ・オーパー》:☆3/水属性/魚族/ATK1500/DEF1200

「バトルフェイズ! 《オーシャンズ・オーパー》で、その《守備モンスター》を攻撃!」

アーリーの場に伏せられた、謎のカードを指差して。赤い金魚に命令を下す。
金魚は尾びれをばたつかせ、セットカードへ特攻する。

「っと……俺の守備モンスターは、《シャインエンジェル》!」

寝ていたカードが表を返し、直後に白い光を放つ。
それに照らされ現れたのは、白い翼のオッサン天使。
金魚が槍を振り上げる。

「刺せ!」

槍はそのまま振り下ろされて、天使の右翼を切り落とす。刺してねえ。
無数の羽が宙を舞い、天使は苦しそうに呻く。

『ギョェェェェェェェェ!』

軽く槍を振り血を飛ばす。
直後、その槍を天使に投げた。

「《オーシャンズ・オーパー》は、守備モンスターを攻撃したときにも、ダメージを与えることができる!」

槍は天使の胸を貫き、それでもまだなお止まらない。
勢いを落とすことなく、アーリーめがけて飛んでいく。

「お……っ、あがぁっ!」

慌てて飛び退こうとするが、槍はその脇腹を捉えた。
そこから血が噴き出すと同時に、天使はその場で霧散した。
淡く細かい光の粒が、ふわりふわりと場に漂う。

《オーシャンズ・オーパー》:☆3/水属性/魚族/【ATK1500】/DEF1200
  vs
《シャインエンジェル》:☆4/光属性/天使族/ATK1400/【DEF 800】

「《シャインエンジェル》、撃破」

ビシィ、と指を突き付けてやる。
《オーシャンズ・オーパー》はATK1500、《シャインエンジェル》はDEF700。
差し引き800のダメージで、アーリーのライフは残り7200。
どこか得意げな笑みを浮かべて、金魚が俺のもとに戻る。

「い……ぁ、けど、《シャインエンジェル》、効果発動!」

血の出る脇腹を抑えつつ、アーリーは苦しげに言った。
場に舞っていた光の粒が、一点へと集まっていく。

「戦闘で破壊されたとき、デッキから、攻撃力1500以下の、光属性モンスターを……攻撃表示で、特殊召喚する」

荒い吐息を漏らしつつ、アーリーはデッキに手をやった。
カードを1枚抜き出すと、デュエルディスクにそっと置く。

「《サイバー・ヴァリー》を、特殊召喚……」

集まる光は蛇を形どり、やがて再び霧散する。
光が消えるとそこにいたのは、機械の体を持つ蛇だった。

《サイバー・ヴァリー》:☆1/光属性/機械族/ATK 0/DEF 0

『……』

無言でとぐろを巻く機械蛇。そのステータスは攻守ゼロ。
では、その能力はというと。

「行け、《ハンマー・シャーク》! 《サイバー・ヴァリー》を攻撃!」

『ァァァァァアアアアアアアア!!』

ハンマー頭をぶんぶん振って、ガチンガチンと歯を打ち鳴らす。
水色の鮫は宙を泳ぐと、機械の蛇に牙を立てた。

「けっ……ど! 《サイバー・ヴァリー》の効果発動!」

ハンマーヘッドのひと噛みは、機械のボディを噛み砕く。
が、蛇は砕け散らずに、そのまま光の粒になる。

「こいつは、攻撃されたとき! 自分自身をゲームから除外することで、バトルフェイズを終わらせる!」

光が弾けて飛び散ると、その勢いで鮫も吹き飛ぶ。
俺のほうへ飛んできた鮫は、金魚にぶつかり目を回す。

「そしてそのあと、俺はカードを1枚ドローできる……。ドロー」

アーリーは脇腹を抑えつつ、器用にカードをドローした。
《フォトン・スラッシャー》、《シャインエンジェル》、《サイバー・ヴァリー》。
デッキの内容は掴めないが、共通点を挙げるなら……【光属性】?

「俺はカードを1枚伏せる。これで、ターン終了だ」

まあ、実力は低そうだ。
俺は罠を1枚出して、それでターンを終えておく。

「え? 《ハンマー》はレベル3で、《オーパー》もレベル3で……」

ハインは目を丸くして、2匹の魚を交互に見る。

「エクシーズ、しないのか?」

そして俺に聞いてきた。
たぶん狙ってはいないだろうが、ナイスアシストと言っておこう。


さて。
《ハンマー・シャーク》に《オーシャンズ・オーパー》。
この2体のモンスターを見れば。魚族主体のデッキだと、そのくらいの予想は立つだろう。
実を言うとこのデュエルには、盤外戦術を混ぜてある。

「……」

フランクに向けて視線を送る。無表情を通している。
さっき、アーリーに投げたカード。それは、トラップカード《フィッシャーチャージ》。
その効果は、『魚族モンスター1体をコストとして、相手のカード1枚を破壊し、その後カードを1枚引く』。
魚族デッキを作るなら、投入候補にすぐ挙がる。

「俺のターン、ドロー」

フランクは静かにカードを引く。
同じレベルのモンスターを、2体揃えておきながら。エクシーズ召喚を行わず、貧弱なままの2体を残す。

「……」

軽く、口元に笑みを浮かべる。
少し腕の立つ相手なら、俺の罠が読めるはず。
《フィッシャーチャージ》のコストのために、魚族の駒を残したと。そう読めるはず。

「……」

フランクは黙り込んでいる。
破壊の罠があるとわかれば、迂闊なプレイはできないだろう。
《フィッシャーチャージ》を匂わせることで、"煉獄の糸"の動きを縛る。糸だけに。

「……フゥ」

ため息が聞こえた。


「めんどくせえな」


なぜだか、とてもゾッとした。

「相手のフィールドにモンスターがいるが、俺のフィールドにはいないとき。こいつを、手札から特殊召喚できる」

1枚、カードを手に取った。
堂々とした立ち居振る舞い。罠に怯える様子はない。

「《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚」

ディスクにカードが置かれると、天から竜が飛んできた。機械の体の白い竜だ。
竜は地上に降り立つと、フランクの背後におとなしく控える。

《サイバー・ドラゴン》:☆5/光属性/機械族/ATK2100/DEF1600

「そして、《ギミック・パペット-シザー・アーム》を召喚する」

大きく腕を振りかぶり、2枚目のカードをディスクに置く。
オーバー気味に腕を振りつつも、必要以上の力は入れない。脱力気味のその動作。
罠に気づいていないのか、気づいた上で無視しているのか。

「こいつの召喚に成功したとき、俺はデッキから《ギミック・パペット》1枚を墓地に送ることができる」

動作に気を取られているうちに、黒い人形が場に立っていた。
黒いボンテージを身に纏う、どこか不気味な人形だ。
付け加えて異質なのが、巨大なハサミを背負っている点。

《ギミック・パペット-シザー・アーム》:☆4/闇属性/機械族/ATK1200/DEF 600

「《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》を墓地へ」

デッキからカードを1枚引き、それを無造作に放り投げた。
同時に人形が飛び上がり、背中のハサミをぎこちなく振るう。
切られたカードは真っ二つになり、ひらひら地面に舞い落ちた。

「さらに、魔法カード《トレード・イン》を発動」

役目を終えたハサミ人形は、恭しく、しかしやはりぎこちない動作で、フランクの背後に引き下がった。
そんなしもべには目もくれず、フランクはデュエルを進めていく。

「手札から、レベル8のモンスター……《ギミック・パペット-マグネ・ドール》を墓地に送り、カードを2枚ドローする」

ゆっくりと、落ち着いた動きで、カードを引いた。
引いたカードを見もせずに、フランクは突如声を張る。

「場の《シザー・アーム》は機械族! よって俺は、《サイバー・ドラゴン》と《シザー・アーム》の2体を墓地に送る!」

突っ立っていた黒人形が、フランクの前へ躍り出た。同時に竜が飛び上がる。
背負った鋏を地面に下ろし、人形はその場で膝をつく。
竜は体をしならせると、尾を人形に叩きつけた。人形はその場でバラバラになる。

「フィールドに存在する《サイバー・ドラゴン》および機械族モンスターを墓地に送ることで、こいつは融合召喚が可能!」

そうして出来た無数の破片を、機械の竜は残さず喰らう。
黒い人形を取り込んだ竜。体は変色し始めていた。


「来い。《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》」

パーツを体に取り込んで、竜のボディは膨れ上がる。
そこにいたのは、紫色の巨大竜。巨大な機械の竜だった。

【《サイバー・ドラゴン》】:☆5/光属性/機械族/ATK2100/DEF1600
  +
《ギミック・パペット-シザー・アーム》:☆4/闇属性/【機械族】/ATK1200/DEF 600
  ↓
《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》:☆8/闇属性/機械族/ATK2000/DEF 0 【融合】

「こいつの攻撃力は、召喚時に墓地に送ったモンスターの数×1000になる。つまり、今は2000ポイントだ」

「あれ、攻撃力下がってないか?」

ハインが微妙な顔をした。
その横で紫竜は頭を下げ、フランクの後ろへ回り込む。

「マジックカード《ジャンク・パペット》を発動」

フランクは魔法を発動した。
《サイバー・ドラゴン》に《シザー・アーム》、そして《ジャンク・パペット》。これで3枚目のカードになる。
《フィッシャーチャージ》を警戒して動く。そんな様子は、まったくもって見られない。

「自分の墓地から、《ギミック・パペット》1体を特殊召喚する。蘇れ、《ギミック・パペット-マグネ・ドール》!」

地中から鎖が飛び出した。
空に向かって伸びる鎖は、1体の人形を引き上げる。

『……』

金属板を貼り合わせただけの、粗末な細身の人形を。
腕も頭も垂れ下がり、ピクリとも動く気配がない。

《ギミック・パペット-マグネ・ドール》:☆8/闇属性/機械族/ATK1000/DEF1000

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》と、《ギミック・パペット-マグネ・ドール》」

フランクが腕を振り上げた。紫の竜が咆哮を上げる。
人形が急に頭を上げた。

「このレベル8のモンスター2体を、オーバーレイ!」

ドス黒い光に己を変える。
そして紫竜も光となった。

「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚」

静かな前口上の後に、2つの光が交わった。
黒と紫、2つの光は、フランクの背後に飛んでいき、頭の後ろで球体を作る。
やがてその色は黄色に変わり、輝く真球が現れた。

「《聖刻神龍-エネアード》!」

真球が割れ、筋肉質な手足が飛び出す。
卵の殻を破るように、赤熱した身体を外へ出す。

「で、でけぇ……」

ハインがぽかんと口を開ける。
赤く、黄色い巨大な竜が、巨大な翼を空に広げて、巨大な足で地に立っていた。

《聖刻神龍-エネアード》:★8/光属性/ドラゴン族/ATK3000/DEF2400 【エクシーズ:Unit 2】

「墓地に存在する《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》の効果を発動」

どっしり構えた龍をバックに、フランクはさらりと宣言する。
直後、さっき《シザー・アーム》に切り裂かれ、地に落ちたカードが震えだす。

「自分の墓地に存在する《ギミック・パペット》1体をゲームから除外することで、《ネクロ・ドール》は墓地から特殊召喚できる!」

そう言って、墓地から《ギミック・パペット-シザー・アーム》を抜き出した。
二つに裂かれた《ネクロ・ドール》は、その時宙に浮き上がり。再び一つにくっついた。

「蘇れ、《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》!」

再生したカードを、右手で掴み。そのまま後ろへ放り投げる。
回転しながら飛ぶカードから、黒い棺桶が現れた。

《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》:☆8/闇属性/機械族/ATK 0/DEF 0

「そして、《エネアード》の効果発動!」

巨大な龍の真っ赤な腕が、その棺桶を無造作に掴む。
それをメキメキ握り潰して、巨龍は大声で吼えたてる。

「手札、およびフィールドから、好きなだけモンスターを生贄に捧げる」

対峙する俺たちとフランクの、ちょうどその中間地点。そこに、赤く巨大な魔方陣が浮かび上がる。
フランクは手札を1枚抜くと、魔方陣に向けそれを投げた。
同じように、龍も握った棺桶を投げる。

「手札から《ギミック・パペット-ナイトメア》、場から《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》を生贄にする!」

投げたカードと棺桶が、魔方陣へと吸い込まれ、消えた。
巨大な陣が震えだす。

「そして生贄にしたのと同じ数だけ、相手のカードを破壊する!」

魔法陣が光った。ヤバい。

「《ハンマー・シャーク》ッ!」

水色鮫を手元に引き寄せ、その尾びれを必死で掴む。

「飛べ!」

ハンマーヘッドの水色鮫は、ヒレをバタつかせ真上に泳ぐ。

「さあ――死ね!」

直後。
魔方陣から、巨大なビームがぶっ放された。

「ちょ……フラッ……」

ハインの声が聞こえた気がした。
が、地面の抉れる音や、《オーシャンズ・オーパー》の断末魔に交じって、ほとんど聞こえない。
真下を見ると真っ赤な光線。ここからでも熱気を感じる。

「《オーシャンズ・オーパー》と、その伏せカード……《激流蘇生》か。2枚、破壊だ」

《激流蘇生》。破壊された水属性モンスターを復活させるカードだが、これごと破壊されてはどうしようもない。
というか、こいつ。《フィッシャーチャージ》がハッタリであると、既に見抜いていたというのか?
《ハンマー・シャーク》に掴まって、空中で呆然としていると、一瞬フランクと目が合った。

にやりと笑顔を浮かべられた。

「バトルフェイズ」

違う。
おそらくこいつは、元から罠など気にしていない。

「《エネアード》で、《ハンマー・シャーク》を攻撃!」

魔方陣がまた宙に浮く。
龍は大きく息を吸うと、口から火球を吐き出した。

「降りろ、《ハンマー……」

間に合わん。
火球は陣に飲み込まれ、一拍遅れてビームが飛び出す。
鮫の尾ビレから手を放す。

「《ハンマー・シャーク》、粉砕!」

さっきよりやや上向きのビーム。水色鮫は消し飛んだ。
それを俺は落ちながら見てい――

「うげぁっ!」

背中から落ちた。

「お、おい! フラッド、大丈夫か!?」

「……」

うまく息ができなかった。
心配そうに見てくるハインに、大丈夫と手を振ってやる。
が、やっぱり息はできない。しばらくその場にうずくまる。

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

"煉獄の糸"の手番が終わった。
《ハンマー・シャーク》ATK1700vs《聖刻神龍-エネアード》ATK3000。差分、1300のダメージ。
よって俺のライフは8000→6700。背中を手の甲でさすりつつ、どうにかこうにか立ち上がる。

ハッタリかまして心理戦……なんてセコいやり口は、どうも通用しないらしい。さすが7500$と言うべきか。
保持するカードの数で言えば、戦況は互角と言っていい。
が、敵の場には大型モンスター、俺たちの場は焼け野原。
加えて、ハインの手札は相当カオスっている。なにこれ、いきなり負けイベント?

「……」

ハインが不安そうに俺を見つめる。
下手を打てば、ここでゲームオーバーだ。



☆現在の状況☆
【チーム旅人】

"ひとりポーカー"《ハイン・ウエイン》
手札:6枚 / ライフポイント:8000
場:なし


"異世界人"《フラッド・ビーチ》
手札:3枚 / ライフポイント:6700
場:なし

【チームアウトロー】

"600$"《アーリー・ウォーリー》
手札:6枚 / ライフポイント:7200
場:なし


"煉獄の糸"《フランク・ストレイド》
手札:1枚 / ライフポイント:8000
場:《聖刻神龍-エネアード》@ATK3000 / リバースカード×1

       

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Neetsha