Neetel Inside ニートノベル
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一度大きく伸びをして、それから店の外に出る。
思ったよりも日が高い。
早起きしろよと言われたが、どうやら結構寝てたらしい。

「おはよーございます……?」

怒られるかと思ったが、そもそも店主が店にいない。

「どこ行ったんだろ」

酒場の中をさらりと漁り、食えそうなものを探し出す。
時間としては昼飯か。まあ適当にかっこんだ。

「さて……」

食事は済んだ、後はデュエル。夕暮れまではまだ長い。
さて、どうしたものですか。

「……」

『町の散歩』に落ち着いた。
昨日来たのは夜だった。ロクに観光もしていない。
それ目的では来てないが、少しは見ておくべきだろう。

「しかしまあ、思った以上に世紀末」

つぶやきながら歩いてみる。
夜の間に見たときは、綺麗な家だと思ったが。

「窓は割れるし、壁はぶち抜き、おまけにあちこち血痕が」

解説してみりゃ相当ひどい。この町やっぱり普通じゃねー。
その原因はなんなのか? ギャングが《ナンバーズ》を狙うから。
うつむきながら考える。

「この町のどこかに、《ナンバーズ)が……」

当然のように独り言。誰か聞いてたりしないよね?
あたりをキョロキョロ見回した。
人がいた。

「……」

「……」

小さい子。その母親。人がいましたいましたわ。
どちらも荷物を背負ってる。やたらとデカい大荷物。

「晴れましたね」

とりあえず話しかけてみた。

「ひ……っ!」

「早く!」

逃げた。
まさかギャングと間違えたのか? 人畜無害なこの俺を?

「はー……」

世知の辛さに浸りつつ、行くあてもなくまた歩く。
その後も何度か人に出会うが、どいつもこいつもメタルスライム。ビビりすぎだよ君たちは。

「……ん?」

それでもめげずに歩いていると、面白そうなものを発見。

「張り紙……」

おそらく町の中央あたり、建物の壁に張られてた。
建物自体はぶっ壊れてて、紙もなかなかボロボロだ。が。
どでかく描かれた似顔絵と、頭上に輝く『WANTED』。これだけ見えればそりゃわかる。

「賞金首、ってやつですか」

どいつもこいつも目つきが悪い。目に留まったのをいくつか読む。

《バレル・フォース》。懸賞金10000$、罪状大量虐殺、デッドオアアライブノーアスク。
《クラーク・ザ・メテオストライク》。8000$、強姦殺人etc、デッドオアアライブノーアスク。
《フランク・ストレイド》。7500$、大量虐殺、デッドオアアイブノーアスク。

「……」

似たようなのがまだ続く。
思った以上に世紀末。さっきも言ったな世紀末。

「《アーリー・ウォーリー》……懸賞金600$……窃盗……しょっぱ」

まあ微妙なやつもちゃんといる。
冴えない顔に少ない賞金。なんか若干ホッとした。

「と、待てよ」

そういや昨日のあいつらは?
後ろの有象無象はともかく、場を仕切っていたあの男。ここに出ててもおかしくない。

「賞金稼ぎなんざ、やめときな」

そう考えて探していると、後ろから声をかけられた。
振り向くとそこに謎老婆。町人だろうが、逃げはしない。

「そこに載ってるような奴らは、大概どいつも《ナンバーズ》を持ってる。返り討ちにされるだけさね」

並ぶ張り紙を一瞥し、バカバカしいと切り捨てた。

「見ない顔だね。あんた、旅人かい?」

「ええ」

「ふん。そりゃまたタイミングの悪いことで」

随分と肝が据わってる。これなら話ができそうだ。
さて、情報を集めよう。気になることがひとつある。

「この町、保安官とかいないんですか?」

「そりゃ、いたさ」

それだけ言って老婆は黙った。
死んだか逃げたか知らないが、どうやら今はいないらしい。
だからこんなにも世紀末。ともかく話題を変えようか。

「昨日の夜この町にたどり着いたけど、どこの家も真っ暗で……酒場で、ハインさんに泊めてもらったんです」

店主の名前を出してみる。
昨日はそこそこ騒ぎを起こした。それを知ってりゃ食いつくかも。

「ハインのところに行ったのかい」

「ええ」

これは食ったと見ていいか?
老婆は大きく息を吐き、声のトーンをやや下げた。

「はぁ。責任も取らずに男連れ込んで、いったい何を考えてんだか」

「……」

意外とリターンが辛辣だ。なんと返せばいいのでしょう。
静止した俺を一目見て、老婆はニタニタ嘲笑う。

「なんだ、あの小娘から聞いてないのかい? ……ああ、自分から言うはずないか」

『小娘』呼びだよこの婆さん。
昨日の店主を思い出す。嫌われ者とは思えなかった。

「簡単なことだよ。あのゴロツキどもは、《ナンバーズ》が目当てでこの町に来る」

「ええ。それは昨日聞きました」

この町には《ナンバーズ》がある。しかし奴らはその場所を知らない。
なのでその在処を聞き出すために、住民たちを襲っている。
昨日の店主の話だと、そんな風に聞こえたが。老婆の話はまだ続く。

「ふん。だったら、その《ナンバーズ》を手に入れちまえば、あいつらもここに来る理由はないんだ」

「はい」

「だったら、さっさと《ナンバーズ》を渡しちまえばいい。それで終わりにすりゃいいだろう」

「……はい?」

いまいち話がつかめない。
そう思ったら、いきなり核心。

「あの酒場には、《ナンバーズ》があるんだよ。あの子たちの父親が手に入れた、ね」

「はっ……?」

さすがにビビった。
あの酒場に《ナンバーズ》がある。
つまり、あの店主が《ナンバーズ》を持っている?

「さっさと《ナンバーズ》を引き渡して、それで終わりにしちまえばいいんだ。力を惜しんでそれをしないから、町全体が迷惑を……」

だんだん話が愚痴っぽく。そんな話はどうでもいい。

「ちょ、ちょっと待ってください。《ナンバーズ》って、どういう……」

愚痴を遮り割って入ると、老婆は若干顔をしかめた。

「はぁ……。あの子らの父親は、この町出身の冒険家でね。今にして思えば、向こう見ずなバカだったよ」

いきなり暴言来ましたよ。どうも機嫌が悪いらしい。

「あちこち旅して《ナンバーズ》を手に入れては、ここに戻ってきて自慢してた」

言い方からして、複数枚。男は《ナンバーズ》を持っていた。
つまり、あの店主も複数の《ナンバーズ》を……

「そんなバカなことしてたからだろうね。ギャングたちに嗅ぎ付けられて襲われて、《ナンバーズ》を取られて殺されちまった」

……なんてことは、なかったらしい。

「酒場を経営してた母親も、そのショックでぶっ倒れて……そのままぽっくり死んじまったのさ」

予想以上に話が重い。立ち話でする内容じゃない。
だが、老婆の話はここから変わる。

「けど、あの男もただじゃ死ななかった。全部の《ナンバーズ》を取られたわけじゃなかった」

語りに熱が入ってきた。唾を飛ばして老婆が語る。

「集めた《ナンバーズ》の一部を、子供に託して逝ったのさ。その《ナンバーズ》に守られて、子供3人で酒場を切り盛りして……」

懐かしむようなその眼には、いったい何が見えるのか。
だが待て、3人? 
店主とその姉は知ってるが、3人目までいたというのか?

「……けどまあ、やっぱり嗅ぎ付けられちまったんだろうね。また、ギャングに目をつけられた」

そこを掘り下げる余裕はなかった。
老婆が眉間にしわを寄せる。

「今度は一人の問題じゃない。この町全体が標的さ。まったくいい迷惑だよ」

心底嫌そうな顔をしていた。

「『話をつけてくる』って言って、セレーネは町を出ていった。けど、それきり帰ってこない」

この婆さん、俺が旅人だってこと忘れてないか?
セレーネ、セレーネ、セレーネか。おそらく、姉の名前だろう。

「セレーネさんは、話し合いに《ナンバーズ》を持っていかなかったと?」

「そうとしか考えられないだろう。セレーネが消えてからも、ギャングたちはしつこく襲ってくるんだから」

「……」

うーむ。

「ともかくセレーネが出て行って、ハインは一人になっちまった。寂しかったんだろうよ、それであんたを泊めたんだ」

姉が消えて、一人になった。なら、3人目はどこで消えたんだ?
それを聞こうと思った時には、老婆はもう歩き出していた。

「まあ、あんたがどうなろうと、あたしの知ったことじゃあない。けど……」

悪いことは言わないから、こんな町さっさと出ていくことだね。
老婆はそれだけ言い残し、さっさとその場を立ち去った。

       

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