店主が《ナンバーズ》を持っている。なかなかいい話を聞いた。
店主ハインとその姉セレーネ、そこに加わるもう1人。その存在も知りました。
だが、もう1人の名前と、そいつが消えたタイミング。この2点はまだ謎そのもの。
もう少し情報を集めたい。
それで散歩を続けたが、やはり町人は逃げていく。
結局誰とも話せずに、気づけば空が薄赤い。闘う時間が始まった。
「……で、どうしよ」
すごく今更ではあるが、戦う場所を聞いてない。まずは酒場の前に行く。
店主と男たちがいた。
「あいつなら、来ないよ」
「はっ、そうか。この俺に喧嘩を売るからには、《ナンバーズ》の1枚でも持ってるかと思ったが。逃げるってことは、そうでもなかったのかね」
なぜか話が進んでる。当事者抜きで進んでる。
「それよりも、だ。あいつを逃がして、お前だけがここにいるってことは……ようやく覚悟が」
「あー、はいはい。遅れてすみません」
面倒だから、ぶった切る。
店主が驚き奇声を上げた。
「あっ、えぅ……おまえ、帰れって」
「で、ここで闘るんすか?」
面倒だから、ぶった切る。
男はしばらくきょとんとしてたが、それを聞いて笑い出した。
「こいつはいい! ここまで命知らずなバカがいるとはな。いいだろう、決闘の始まりだ! ついてこい!」
まくしてたてると踵を返し、ザクザク大股で歩き出す。
取り巻きたちもそれに倣った。それじゃあ俺もついてくか。
「おい! なんで来たんだ、帰れって言っただろう!」
なぜか店主もついてきた。
「お前、わかってるのか? 相手は《ナンバーズ》を持ってるんだ、戦えばただじゃすまない!」
「そのくらいは知ってるよ」
「じゃあ、なんで……!」
「昨日言った」
やたらせわしなく歩く店主を、適度にあしらいつつ進む。
このへん確か昼に来た。そういや広場があったかも。
「《ナンバーズ》を集めてるって話か? そもそも、それが……」
「さて、ここでいいだろう」
男に連れられ来た場所は、やはり町の中央広場。
男はこっちに向き直る。店主もそれで黙り込んだ。
「俺の名はフォード・スロール。お前は?」
「フラッド」
「ふ、まあいい……フラッド!」
急に大声を出す男、改めフォード・スロールさん。
取り巻きたちも口を閉じ、場が静寂に包まれた。
「一応聞いてやる。何か、言い残す言葉はあるか?」
「《No.47》ってどこにあるか知らない?」
答えてやると、また静寂。一拍おいて大爆笑。
「随分と変わった遺言じゃねえか。気に入った、なるべく楽に殺してやる」
笑う取り巻きを諌めつつ、フォードスロールはそう言った。
そのままカードを1枚取り出す。つーか質問に答えろよ。
「行くぜ……さあ、《ナンバーズ》よ!」
フォードがカードをぶん投げた。スピンがかかって飛んでいく。
「この場所を――戦場に変えろ!」
直後に腰の銃を抜き、ためらいなしにぶっ放す。
弾がカードを貫く瞬間、視界がホワイトアウトした。
「うお、まぶし……!」
取り巻きたちがざわつくが、すぐに景色は元通り。
視界が晴れるとそこにあるのは、いつもと変わらぬ町並みだ。
たったひとつだけ違うのは、空が青っぽく見えること。店主はかなりビビってる。
「な、なんだこれ……」
「はっ。なんだハイン、知らなかったのか?」
カードがゆっくり落ちてきた。フォードはそれをキャッチして、ゆっくり銃を腰に戻す。
さっき弾丸をブチ込んだのに、カードは穴も傷もなし。
「《ナンバーズ》使いの決闘ってのは、特殊なフィールドで行われる。それがこの《スフィア・フィールド》だ」
《ナンバーズ》を得た人間は、その身に特殊な力を得る。
その一端がこの光景、球体状のフィールドだ。
「《ナンバーズ》には力がある。有り余るほどのその力を、パンッパンに蓄えてる。だから、ちょっと穴を開けてやれば、こうして力が漏れ出す……そういうわけさ」
どういうわけだか知らないが、《ナンバーズ》は誰も破壊できない。
拳銃撃ってもこの結果、焼いても切っても蘇る。これはほんとにミステリー。
「フィールドの規模は《ナンバーズ》によるが、今の適用範囲は……この町全域ってとこかな」
フォードがデュエルディスクを構えた。
一般人の普通のデュエル。そこで召喚されるカードは、ディスクが浮かべるソリッドヴィジョン。
だがこの《スフィア・フィールド》の中は、立体映像が映像でなくなる。つまりはただの立体だ。
「このフィールドの中では、モンスターが実体となって現れる。一つの生命として現れる!」
「……!」
店主が驚き顔をする。なんでお前が驚くの、《ナンバーズ》持ってるはずでしょう。
実体化するというのはつまり、お互い触れるということで。つまり当たれば怪我をする。
「……驚かないってことは、お前は知ってて挑んできたってことか。いい度胸だ」
フォードがこっちを見て言った。当たり前だと言いたいね。
「さっさと始めたいんだけど」
俺もディスクを構えて言った。
「ふ、そう死に急ぐな。言われなくても、すぐ始める……行くぞ!」
そして声が重なった。
「「デュエル!」」
腕のディスクがチカチカ光る。
「どうやら、お前が先攻らしいな。さあ、カードを引きな」
「じゃあ俺のターン、ドロー」
うーむ、実に無難な手札。
「モンスターを1体、守備表示で召喚。ターンエンド」
壁を1枚出して、終わり。我ながらなんとも味気ない。
「おいおい、たったそれだけで終わりか? 俺のターン、ドロー!」
相手にもこの言われよう。
だがもう別にやることはない。カード自体は他にもあるが、出したところで使えない。
「俺は手札から《メカ・ハンター》を召喚!」
男はしもべを繰り出した。
読んで字のごとく機械狩人。手にした槍がキラリと光る。
「さて、さっそくバトルと行くぞ! 《メカ・ハンター》よ、敵のモンスターを攻撃しろ!」
来ました攻撃。それを待っていた。
狩人が槍をぶん投げる。
「俺の守備モンスターは……」
伏せたカードが裏返り、槍を防ぐべく飛び出した。
「《オーシャンズ・オーパー》」
赤い槍持ち金魚もどき、形容するならそんなとこ。
こいつが俺のカードだが、その能力はどうも粗末。
《メカ・ハンター》:☆4/闇属性/機械族/【ATK1850】/DEF800
vs
《オーシャンズ・オーパー》:☆3/水属性/魚族/ATK1500/【DEF1200】
逆立ちしても勝てはしない。
防御体制をとる間もなく、金魚に槍が突き刺さる。
『ギョェェェェェェェ.................』
場に響き渡る断末魔。だがまあ、それでいいんだな。
「俺は、《オーシャンズ・オーパー》の効果を発動する」
「む……?」
金魚の腹には卵があった。死体が消えてもまだ残る。
それは急速に成長し、殻を破ってこんにちは。
「このカードがバトルによって破壊されたとき。俺はデッキから、《サウザンド・アイズ・フィッシュ》を手札に加えることができる」
飛び出たカードをキャッチング。これで損失は補えた。
「なるほど、サーチャーだったか。だが、フィールドは俺が制圧した。永続魔法《機甲部隊の最前線》を発動」
フォードは次なるカードを切った。魔法の効果が場に満ちる。
「こいつが発動している間に、俺の場の機械族モンスターがバトルで破壊された場合。そいつと同じ属性で、それより攻撃力の低い機械族モンスターを、デッキから呼ぶことができる」
つまり《ハンター》がぶっ壊れても、補充ができるということだ。
帽子のツバをつまむフォード。《メカ・ハンター》もにやりと笑い、手中の槍をくるくる回す。
「攻撃するなら、慎重にな。俺はこれでターンを終了」
「じゃあ俺のターン、ドロー」
さて、どうやって攻めたものか。
「《竜宮の白タウナギ》を召喚!」
普通に攻めよう。
俺の次なるしもべはこいつ、真っ白ボディの小奇麗なタウナギ。ただのウナギとはまた違う。
「ほう、そいつはチューナーモンスター。ということは……」
「うん。俺は手札から、魔法カード《浮上》を発動」
うねうねしているウナギの横で、突如渦潮が巻き起こる。
俺が使ったカードは《浮上》。その力の全容は、『墓地からレベル3以下の魚族モンスターを復活させる』。
「戻ってこい、《オーシャンズ・オーパー》」
渦の中から金魚が飛び出し、そのままウナギに飛び乗った。
俺の手駒はこれで2匹。
「ふ……まるで水族館だな」
やかましいわ。
「さて、行くぞ。レベル3水属性の《オーシャンズ・オーパー》に、レベル4チューナー《竜宮の白タウナギ》をチューニング!」
赤い金魚はウナギを駆り、手にした槍を天へと向ける。
『ギョェェェェェェェェ!』
うるせぇ。
背中に金魚を乗せたまま、天へと昇るは白ウナギ。太陽めがけて飛んでいく。
《竜宮の白タウナギ》:【☆4】/水属性/魚族/ATK1700/DEF1200 【チューナー】
+
《オーシャンズ・オーパー》:【☆3】/【水属性】/魚族/ATK1500/DEF1200
2匹の魚は交わって、やがて1つの光になる。
さて、この組み合わせで出せるのは……
「シンクロ召喚。4足す3でレベル7、《氷結界の龍 グングニール》!」
天から龍が飛んでくる。光の中から飛んでくる。
ところどころに朱色が混じる、青く冷たい氷の龍。魚2匹が龍になるとは、まったくとんだ出世魚。
「ほう……」
地上に降り立つ氷龍を見て、フォードはわずかに微笑んだ。
氷の翼を広げる龍は、催促のように首を振る。
「で、《グングニール》の効果発動。俺の手札を捨てることで、捨てた枚数分だけ、相手のカードを破壊する」
大口を開けて氷龍が吠える。俺は手札を1枚抜き出し、その口めがけて投げ込んだ。
「この効果で捨てられる手札は2枚まで、つまり2枚まで破壊できる。けどまあここは手札を温存して、捨てるのは1枚だけにしておく」
《グングニール》が食ったのは、さっき持ってきた《サウザンド・アイズ・フィッシュ》。
目玉だらけのキモい魚だ。《グングニール》が顔をしかめる。
「よって破壊するカードは1枚。俺は、お前の《機甲部隊の最前線》を破壊する!」
嫌そうな顔で咀嚼して、《グングニール》は再び吠える。
すると地面から氷柱が突き出し、フォードのカードを突き刺した。《メカ・ハンター》が焦りだす。
「ふ、なかなかやるな」
フォードは余裕を保ってる。だが《最前線》は破壊した。
これで普通に攻撃できる。
「バトルフェイズ! 《グングニール》で、《メカ・ハンター》を攻撃!」
冷たい翼をバサバサさせて、《グングニール》が飛び上がる。
首を大きく反らした後に、氷のブレスを吐き出した。
おたおたしていた《メカ・ハンター》は、逃げる間もなく凍り付く。
「やれ! 《メカ・ハンター》を破壊しろ!」
《氷結界の龍 グングニール》:☆7/水属性/ドラゴン族/【ATK2500】/DEF1700 【シンクロ】
vs
《メカ・ハンター》:☆4/闇属性/機械族/【ATK1850】/DEF 800
氷のオブジェにそのまま突撃、尻尾をしならせ打ち付ける。
凍った機械はそのまま砕け、破片がフォードへ飛んでいく。
「く……っ、うおおおおおおおお!」
かわそうとしても無理な話。デカい破片が直撃し、そのまま後ろへぶっ飛んだ。
2500-1850で、650ポイントのダメージ。男のライフは残り7350。
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
俺の手札は残り4枚。念のため罠を張っておく。
《グングニール》が帰ってきた。とても得意げな表情だ。
「ぐ、う……は、なかなか、やるじゃねえか」
ふらつきながらも立つフォード。そのままデッキのカードを引く。
さすがにあれではダウンしないか。さて次は何をしてくるか。
「俺のターン、ドロー。俺は手札から《ツインバレル・ドラゴン》を召喚!」
現れたのは、機械の恐竜。
頭がそのまま銃になってる。どうもわからない美的センスだ。
「さて、《ツインバレル・ドラゴン》の効果発動だ。さぁ、受け取りな!」
「っと……!」
フォードがなんか投げてきた。慌ててそれをキャッチする。
なんだろうこれ。コイン? コインか?
「《ツインバレル・ドラゴン》の召喚に成功したとき、俺はコインを2回投げる」
ガシガシ音を響かせて、《ツインバレル》が歩み出た。
「そして2回とも表が出れば、相手のカード1枚を破壊することができる!」
ジャコンと銃口がこっちを向く。
確率25パーのゲーム。分の良い賭けは嫌いじゃない。
「俺とおまえで1枚ずつコインを投げる。それでいいな?」
「ああ」
俺がイカサマをするかもとは思わなかったんだろうか?
いやまあ、やり方知らないが。
「さて、行くぞ」
フォードが軽く命じると、《ツインバレル》は後ろを向いた。
「投げろ!」
合図で互いにコインを投げる。
「3」
《ツインバレル》が1歩前に出た。
「2」
さらに1歩。
「1」
コインが落ちてくる。
「FIRE!」
《ツインバレル》が振り返った。
撃鉄が倒れ、銃口が火を噴く――
「……」
「……」
『……』
《グングニール》が鼻を鳴らした。《ツインバレル》はすごすご下がる。
俺が表であいつが裏だ。よって効果は不発に終わる。
「失敗だったみたいだけど?」
「ふ……まさか、これで終わりだと思ってないだろうな?」
ニヤニヤしながらフォードが問うが、失敗しといてドヤ顔すんな。
フォードは手札を1枚抜き出す。
「装備魔法、《魔界の足枷》! こいつを装備されたモンスターは、攻撃力が100ポイントに固定され、攻撃そのものも封じられる!」
天高く掲げてそう言った。
要はモンスターが弱くなるのだ。《グングニール》に枷を嵌めて、《ツインバレル》で撃ち殺す気か。
《グングニール》の目つきが険しい。《ツインバレル》は興奮しだした。
「こいつを、俺の《ツインバレル・ドラゴン》に装備する!」
「は?」
ごつい鉄球が降ってきて、《ツインバレル》を直撃した。目を回しながらぶっ倒れる。
そのまま鎖で鉄球を繋がれ、攻撃力は100に下がった。
「フフフ、どうした? 俺のコンボはここからだ、マジックカード《機械複製術》を発動!」
ピクピク震える《ツインバレル》に、フォードは新たなカードを切る。
「なんだ? あいつ、何やってんだ?」
横の店主が聞いてくる。狙いがわからないようだ。
「えーっと。《機械複製術》は……」
「《機械複製術》は、攻撃力500以下の機械族モンスターを対象にして発動するマジックカード」
俺の説明を遮って、ここぞとばかりに語り出す。
こいつ、説明したくてしょうがなかったんだろうな。
「デッキから、対象にしたのと同じモンスターを2体特殊召喚する。だが《ツインバレル・ドラゴン》の攻撃力は1700、本来こいつの対象にはならない」
「そうか! だから《足枷》で攻撃力を下げて……」
「そのとおり! 一度対象に取ってしまえば、出てくる奴らは500以上でも構わない! さあ来な、2体の《ツインバレル・ドラゴン》!」
目を回す《ツインバレルA》の左右に、《ツインバレルB》と《C》が降ってきた。
2匹の頭がこっちに向く。再び効果発動だ。
「さあ、2体の《ツインバレル・ドラゴン》の効果発動だ! 受け取りな!」
またもやコインを投げてきた。キャッチはしたが、1枚しかない。
フォードを見ると2枚構えてる。慌ててさっきのコインを拾った。
《B》と《C》が後ろを向いた。
「お前のコインは《ツインバレルB》、俺のコインは《ツインバレルC》! さあ、行くぞ! 投げろッ!」
口早に言ってコインを投げる。俺もコインを2枚投げるが、はてさてここからどうするか。
1回25%と言えど、3回試せばバカにできん。確率にして6割弱。
《グングニール》がこちらを見るが、その目はどこか不安そう。しょうがないので発動した。
「3」
《B》と《C》が一歩ずつ進む。
「2」
さらに一歩。
「1」
コインが落ちた。
「FIRE!」
《B》《C》ツインズが振り返った。
その銃口が同時に火を噴く。
「……」
「……ふっ」
『グケァァァァ.......』
氷の翼を打ち抜かれ、《グングニール》は荒野に伏した。
俺のコインは表と裏、奴のコインは両方表。《バレルC》が当たったらしい。
「ふっ……《氷結界の龍 グングニール》、破壊だ」
《バレルC》がニヤリと笑い、煙のたなびく銃口を下げた。
風情をわかってると言いたいが、数撃ちゃ当たるを地で行くお前に、ガンマンを名乗る資格はない。
《バレルB》は無言のままで、《バレルA》は潰れている。
「さて、お前のエースモンスターは破壊させてもらった。どうだい、感想は?」
感想か。そうだな、一言で言うならば。
「どこ見てんだよ、って感じかな」
地に伏す《グングニール》の死体は、突如霧になって消えた。
驚く《バレルB》と《C》。ざまあみやがれと言っておく。
「なに……っ!?」」
「お前が《ツインバレル・ドラゴン》たちの効果を発動したとき、俺は既にトラップカード《儀水鏡の反魂術》を発動していた」
「は……?」
「俺の場の水属性モンスター1体をデッキに戻すかわりに、墓地の水属性モンスター2体を手札に戻す。お前が撃ったのは残像だよ」
《グングニール》に銃口が向いた、その瞬間に罠発動。
狙われた《グングニール》をデッキに逃がし、墓地の《オーシャンズ・オーパー》と《サウザンド・アイズ・フィッシュ》を手札に戻した。
狙う相手が場から消え、2丁の《バレル》は不発弾。コインの表裏は関係ない。
「ふ、なるほど。うまくかわしたってわけだ……だが!」
「まずい、これじゃガラ空きだ……!」
店主が不安げに呟いた。その通りだから困っちゃう。
破壊されるのは回避した、が、場から消えたのは確かなわけで。
《グングニール》がいなくなり、俺のフィールドはがらりと空いた。どうすることもできません。
「詰めが甘かったみたいだな。そして、俺はまだ終わらない! レべル4の《ツインバレル・ドラゴンA》と《B》の2体でオーバーレイ!」
《ツインバレルB》が飛び上がり、光となって天へ向かう。
《A》も慌てて起き上がり、枷を引きずり飛び上がった。
「2体の機械族モンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」
2つの光が空中交差。それらはやがて一つに交わり、大爆発を引き起こす。
《ツインバレル・ドラゴン》:【☆4】/闇属性/【機械族】/ATK1700/DEF 200
&
《ツインバレル・ドラゴン》:【☆4】/闇属性/【機械族】/ATK1700/DEF 200
「現れろ、《ギアギガント X》!」
《ギアギガント X》:★4/地属性/機械族/ATK2300/DEF1500 【エクシーズ:Unit 2】
2体の機械恐竜は、歯車の王に生まれ変わった。
爆炎の中から降りてくる、全身歯車の機械巨人。ちょっとこれは面倒かもしれん。
「《ギガントX》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い……」
巨人のギアが回転を始めた。
周囲を漂う《バレルA》が、ギアに飲まれて裁断される。
「デッキ、もしくは墓地から、レベル4以下の機械族モンスターを1体手札に加える!」
ギアの速度はどんどん上がる。
砕け散った《A》の破片は、新たなマシンに再構成。
「俺は墓地から、今使った《ツインバレル・ドラゴン》を手札に加えるぜ」
《バレルA》はリサイクルされて、男の手札へ飛んでいった。
「さて……バトルフェイズに入る!」
巨人の拳と竜の銃口、ふたつがダブルでこっちを向いた。
それを防ぐしもべはいない、どちらも直接俺を狙う。
「《ツインバレル・ドラゴン》! そして《ギアギガント X》! 奴にダイレクトアタックだ!」
《ツインバレル・ドラゴン》:☆4/闇属性/機械族/【ATK1700】/DEF 200
《ツインバレル》の後頭部、そこにあった撃鉄が起きる。俺はそれを見て横へ飛んだ。
直後2発の銃弾が着弾、地面を抉り取っていった。
「あぶねー……」
かわしたとはいえ、ライフは減る。残り8000→6300。
ふぅと息をついた途端、なんかあたりが暗くなった。
「ちょっ……フラッドー!」
店主の声がした気がする。
見上げるとごつい拳が迫っていた。
《ギアギガント X》:★4/地属性/機械族/【ATK2300】/DEF1500 【エクシーズ:Unit 1】
「う、ぐ……」
ライフ残量、6300→4000。
巨人の一撃をモロに受けた。
なかなかきつい、足に来た。ふらつきながらも起き上がる。
「あいつ、立ちやがるぜ……?」
「《ギアギガント》の攻撃を食らって立ってられるやつなんて、今までいなかったってのに……」
取り巻きたちが若干ざわつく。
「ふっ。俺の一撃を受けて、まだ立つ力があるとはな。ターン終了だ」
足元を見ると陥没してた。一般人が食らえば死ぬな。
頭を振って息をつく。ライフは残り半分もある、まだまだ慌てる時間じゃない。
「よし。俺のターン、ド」
「なんだ……ッ!?」
仕切りなおしと構えた瞬間、聞き覚えのない声がした。
「あいつらは……」
「また襲いに来たのか!」
派手にドンパチやってたせいか、あたりの民家から人が出てきた。
対峙する俺とフォードの姿、後ろに控える取り巻きたち。それを見て住民もざわつき出す。
店主は気まずそうに立ち尽くしていた。
「やれやれ、うるせえギャラリーが集まってきた。……おい、お前ら」
フォードは後ろを向き、言った。
「黙らせてこい」
少し間があって、取り巻きどもが奇声を上げた。
揃って腰の銃を抜く。
「な……! おい、てめえ!」
店主が抗議の声を上げるが、男はさらりと聞き流す。
住民たちは慌てて逃げた。
「ちくしょう、いい加減にしろよ……! なんで俺たちがこんな目に!」
「《ナンバーズ》なんて知らねえよ……さっさと持って行って、それで終わりにしてくれよ!」
不平不満をぶちまけながら。
店主は拳を握りしめた。
「はははははは! だとさ、ハイン。どうだ? そろそろ……」
「俺のターン! ドロー!」
面倒なので、遮った。
今のドローで手札は6枚。攻めに移るにゃ十分だ。
「俺は手札から、《オーシャンズ・オーパー》を召喚!」
さっき戻した赤い金魚を、もう1度場に呼び戻す。
その能力は貧弱そのもの、だがこいつには仕事がある。踏み台という仕事がな。
「さらに! 手札のこのカードは、フィールドの《オーシャンズ・オーパー》を墓地に送ることで、特殊召喚することができる」
金魚がぶるぶる震え始めた。体が白く発光する。
さあ、進化論にケンカを売るぞ。
「《サウザンド・アイズ・フィッシュ》を特殊召喚!」
同じくさっき戻したカード。金魚は目玉に転生した。
目玉を集めて束ねた後に、そこからヒレを生やしたような。キモい魚が場に降り立つ。
フォードも店主も顔をしかめた。
「《サウザンド・アイズ・フィッシュ》の効果。こいつがフィールドにいる間、俺は相手の手札を見ることができる!」
「なに……!?」
「ほら、さっさと見せてもらおうか!」
無数の目玉がぎょろつくと、それらすべてが男に向いた。
1000の視線を一気に浴びて、男が手札を取り落す。相手の手札は3枚、果たして……
「魔法カード《ヒーローアライブ》、同じく魔法《オーバーロード・フュージョン》、さっき回収した《ツインバレル・ドラゴン》……」
どれもこれも攻めの札。返しのターンがヤバいかも。
だが、攻め札はこちらにもある。もう1枚の手札を切った。
「そして魔法カード発動、《簡易融合》! 1000ポイントのライフを払うことで、この場で融合モンスター1体を融合召喚する!」
ライフ残量4000→3000。ちょっと厳しくなってきた。
だが見返りは十分だ。
「即座に融合召喚だと!?」
2体以上のしもべを束ねる。それが融合召喚なのだが、即席なので素材はいらない。もはやそれは融合じゃない。
空間が歪み渦を巻く。渦から水が流れてきた。
「《深海に潜むサメ》を特殊召喚だ!」
水流に乗って現れる、紫色のデカい鮫。キモい目玉と並び立つ。
さて、各々のステータスは?
《サウザンド・アイズ・フィッシュ》:☆5/水属性/魚族/ATK 300/DEF2100
《深海に潜むサメ》:☆5/水属性/魚族/ATK1900/DEF1600 【融合】
「あ……レベル5のモンスターが、2体!」
どうやら店主が気付いたようだ。続いてフォードも身構える。
向こうがエクシーズで攻めて来るなら、こっちもエクシーズ召喚だ。
「レベル5の《サウザンド・アイズ・フィッシュ》と《深海に潜むサメ》をオーバーレイ!」
目玉がいきなり破裂した。横にいたサメがビビって飛び退く。
バラけた目玉はそのまま空へ。サメも恐る恐る飛び上がる。
「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」
光となった2匹の魚。2つの光は空中で重なり、大爆発を引き起こす。
民家を襲う取り巻きたちが、爆発音に空を見上げた。
「降りてこい、魚たちの大和! 《シャーク・フォートレス》ッ!」
空からゆっくり降下する巨体。シルエットでもわかるそのサイズ、さっきの巨人の比ではない。
敵のフィールドの《ギアギガント》は、空中を見上げ立ち尽くす。
「な、な……」
店主が口をパクパクさせた。
周囲に散った取り巻きたちも、バカみたいに口を開く。
「でかい……な」
フォードも若干ひきつった笑みを浮かべていた。
黒いボディは10m超、開いた大口も5m超。
魚かメカかもはやわからない、そんな巨大要塞だ。
《シャーク・フォートレス》:★5/闇属性/魚族/ATK2400/DEF1800 【エクシーズ:Unit 2】
「で、魔法カード《アクア・ジェット》を《シャーク・フォートレス》に発動!」
鮫のヒレに当たる部分に、2つの砲台が装着された。
「場の魚族モンスター1体の攻撃力を、1000ポイントアップさせる!」
《フォートレス》、ATK2400→3400。
《ギアギガント》が一歩下がった。
「そして《シャーク・フォートレス》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使う!」
《シャーク・フォートレス》の周囲を漂う、素材となった《深海に潜むサメ》。
それが《フォートレス》の口の中、というかカタパルトの中に入る。
「このターン、自分のモンスター1体は、1度に2回の攻撃をすることができる!」
その対象は《フォートレス》自身。
《ツインバレル》も1歩下がった。
「さあ、バトルだ!」
「……!」
フォード自身も一歩下がる。
「《シャーク・フォートレス》の攻撃、1回目! 《ツインバレル・ドラゴン》を攻撃!」
そう命じると、《フォートレス》はゆっくりと高度を上げ始めた。
狙いをつけられた《ツインバレル》は、慌てふためき逃げようとする。どこへ逃げようが、無駄だというのに。
《フォートレス》が空中で静止した。地上から見えるその姿は、だいぶ小さくなっている。
「さて。――行け!」
突撃命令を下した瞬間、《フォートレス》は動き出した。
攻撃方法は単純明快、大和に恥じぬ神風特攻。地上めがけて飛んでくる。
「え、な……!」
フォードがたじろいだ。
そのスケールを存分に生かす、小細工なしの体当たり。さて、とりあえず耳を塞ごう。
《シャーク・フォートレス》:★5/闇属性/魚族/【ATK3400】/DEF1800 【エクシーズ:Unit 1】
vs
《ツインバレル・ドラゴン》:☆4/闇属性/機械族/【ATK1700】/DEF 200
「わああああああああああああ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおお!」
轟音と風圧で吹っ飛んだ。俺が。
誰の声だか知らないが、悲鳴があちこちから上がっている。
モノ凄まじい土煙、何も状況がわからない。が、とりあえず《ツインバレル・ドラゴン》は破壊。3400-1700、そのダメージは1700ポイント。
「げほっ、ごほっ、おぼっ……おい! おい、あんた!」
煙の中から店主が出てきた。咳き込んで涙目になっている。
それと同時に《フォートレス》も浮上。薄黄色の煙幕を抜けて、そのままゆっくり高度を上げる。
「さて、《シャーク・フォートレス》の攻撃はあと1回残っている」
「ちょっ、待て! 待ってくれ!」
煙の中で影が揺らめく。おそらくあれが《ギガントX》。
《フォートレス》が空中で静止した。
「バトル! 《シャーク・フォートレス》2回目の攻撃、《ギアギガント X》を攻撃!」
「待ってくれー!」
《シャーク・フォートレス》2度目の特攻。巨体が猛スピードで迫ってくる。
俺はすぐさま地面に伏せた。
「がああああああああああああああああああああああああああああ!」
「あああああああああああああああああああああああああああああ!」
「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ.......」
店主の姿が視界から消えた。
《シャーク・フォートレス》:★5/闇属性/魚族/【ATK3400】/DEF1800 【エクシーズ:Unit 1】
vs
《ギアギガント X》:★4/地属性/機械族/【ATK2300】/DEF1500 【エクシーズ:Unit 1】
風圧がすごい。ともかく3400-2300で、与えたダメージは1100ポイント。
さっきのと合わせて、このターンは合計2800ダメージ。
よって男の残りライフは、7350→4550……の、はず。
土煙が晴れるまで、正確な状況はわからないが。
☆現在の状況
フォード・スロール / 手札:3枚 / ライフポイント:4550
場:なし
フラッド / 手札:2枚 / ライフポイント:3000
場:《シャーク・フォートレス》@ATK3400 【ユニット:1】