煙もだんだん晴れてきた。あちこちで人が倒れてる。
「は……なか、なか……やるじゃねえか」
たった一人で立つフォード。褒めてやるべきなのだろう。
だがその足は震えてる。ノーダメージとは言わせない。
「あんた、意外と強かったんだな……」
店主が視界にリターンズ。服やら髪やら乱れてる。
若干ふらふらしながらも、フォードに鋭い目を向ける。
「それだけ強いんなら、もっと早くに言ってほしかったもんだ」
言葉は俺に向くものの、視線はまるで違うとこ。
鋭く険しいその目つき。さらには言葉も尖り出す。
「死にたくなけりゃ、今すぐ消えろ。お前はもう、この町にいていい男じゃない」
声色冷たくそう言った。
フォードも大概ボロボロなのに、聞くとケラケラ笑いだす。
「随分嫌われたもんだな、ハイン。兄貴としては寂しいよ」
テンプレみたいな台詞だな。店主もその歯を食いしばる。
「あたしの家族は、もう姉さんしかいないんだ。もう1回言ってみろ、あたしがお前を殺してやる」
やたらと攻撃的である。それだけムカつく話らしい。
さて。店主の『兄』を名乗ったフォード、老婆から聞いた『3人目』。
店主の視線が俺に向く。俺の存在を思い出す。
「……こいつは昔、あたしの家にいたことがあるんだ。あの酒場にね」
いや、別に聞いてません。
そう思ったが、黙っとく。興味はあります、ありますよ。
「あいつの親は早くに死んでね。行くところのなかったあいつを、うちの親父が引き取った」
店主は真顔でそう語る。内心何を思うのか。
フォードも黙って聞いていた。
「あたしと姉さんと一緒に、兄弟同然に育てられた……はっ、なのに」
語りの途中で地面を蹴った。
眉をひそめて歯をむき出して、憎しみが顔に現れる。
「親父が死んでしばらくして、あいつはいきなり姿を消した。この町から出ていったんだ」
敵意むき出しの眼光を、フォードはさらりと受け止めた。顔には笑みすら浮かんでる。
それがかえってムカつくようで、店主の声は荒れ調子。
「いなくなるのは、構わねえよ。ショックではあったけどな。だが、お前は再び現れた」
早口でそう言い切ると、店主は肩を震わせた。
やや間をおいて、こう続く。
「よりにもよって、親父の《ナンバーズ》を狙ってだ!」
絶叫だった。
「クソみてえなギャングの一員になって……しかも、姉さんまで! 姉さんから《ナンバーズ》を奪い取って、それでもまだ飽き足らねえ!」
あれ、なんかおかしいぞ。
姉さんの《ナンバーズ》を奪った?
「『恩知らず』ってのは、あたしが言うことじゃないかもしれねえ。だが親父はもういないんだ、あたしがはっきり言わせてもらう」
老婆の語った話では、姉は話を付けただけ。《ナンバーズ》は持たなかった。
「てめえは、クズだ。最低最悪のクズ野郎だ。とっとと、この町から消えちまえ!」
あれこれゴチャゴチャ考えてると、店主渾身の大絶叫。思考が一時停止する。
肩で息をする店主に向けて、フォードは哀しい笑みを浮かべた。
「悲しいねえ。そこまで嫌われちまったとは」
ため息をつき、肩をすくめて、演技がかった仕草で言う。
「だがなあ。こんな俺でも、お前にとっちゃ……残された『最後の』家族、なんだぜ?」
『最後』を強調して言った。
それの意味するところは、まあ。
「……んの」
たしか、昨日も言ってたな。
『最後まで』気にかけていた、と。
「こんの、クソ野郎がああああああああああああああ!」
店主が叫んで駆け出した。
それを遮りフォードが言う。
「俺のターン、ドロー! マジックカード《ヒーローアライブ》を発動!」
デュエル再開。
フォードはすぐさまカードを切った。
「《E・HERO エアーマン》を特殊召喚!」
空を切り裂き飛んでくる、ウィング装備の伊達男。店主とフォードの間に入る。
モンスターが相手となると、足を止めなきゃ仕方ない。店主はひどく悔しがる。
「俺の場にモンスターがいないとき、ライフを半分払うことで、デッキからレベル4以下の《E・HERO》を特殊召喚できる。さらに《エアーマン》の効果発動!」
残りライフ、4550→2275。だいぶ終わりが見えてきた。
しかし油断はできないか。ここからがたぶんヤバいとこ。
「こいつが場に現れた時、俺はデッキの《HERO》1体を手札に加えることができる。《E・HERO プリズマー》を手札に入れて、そのまま召喚だ!」
続けて場に現れたのは、全身プリズム優男。
キラキラ光るそのボディ、どちらかといえば怪人だ。
「さて、《プリズマー》の効果を使う。こいつの効果はちっとばかし特別でな」
フォードはカードを1枚取り出す。
紫色のそのカード、どうやら融合モンスター。名前は《ガトリング・ドラゴン》。
「俺の持つ融合モンスター1枚を相手に見せる。その後、そいつの融合素材になるモンスター1体を、デッキから墓地に送らせてもらう」
《ガトリング・ドラゴン》の素材。2体融合、《リボルバー・ドラゴン》+《ブローバック・ドラゴン》。
七色に光る優男。フォードは《リボルバー・ドラゴン》を墓地へ。
「そして《プリズマー》は、墓地に送ったモンスターと同じカードへ変身する――"リフレクト・チェンジ"!」
光はぐにゃぐにゃ変形し、男の体も変わりゆく。
やがて光が収まると、そこにいたのは黒い銃。
「これで、《プリズマー》は《リボルバー・ドラゴン》に変身した。まあ能力値は変わらねえ、ただのこけおどしなんだがな……」
頭がそのままリボルバー、《ツインバレル》と似た意匠。
だがあいつとはまた違い、肩にも2丁のリボルバー。合わせて3丁、銃を持つ。
「さて、変身してもステータスは変わらない。よって俺は、レべル4の《エアーマン》と《リボルバー・ドラゴン》でオーバーレイだ!」
空に飛び上がる伊達男。《リボルバー》もまた飛び上がる。
銃と男は光になって、空の彼方で交わった。
《E・HERO エアーマン》:【☆4】/風属性/戦士族/ATK1800/DEF 300
&
《リボルバー・ドラゴン(E・HERO プリズマー)》:【☆4】/光属性/戦士族/ATK1700/DEF1100
「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚。来い、《ラヴァルバル・チェイン》!」
2つの光が生み出したのは、サンゴを生やしたオオトカゲ。
その全身は炎に包まれ、吠え声とともに火種を散らす。
ウィング男と銃機竜、どこにも素材の名残はない。
《ラヴァルバル・チェイン》:★4/炎属性/海竜族/ATK1800/DEF1000 【Unit:2】
「オーバーレイユニットを1つ使う。さあ、《ラヴァルバル・チェイン》の効果発動だ!」
フォードは自分のデッキを取り出し、まとめて宙にバラ撒いた。
甲高い声で《チェイン》が吠える。
「デッキから、好きなカード1枚を墓地に送ることができる!」
撒いたデッキが燃え上がる。
燃えるカードの数十枚。その中のたった1枚が、灰となり、そして燃え落ちる。
「俺が墓地に送るのは、《ブローバック・ドラゴン》だ」
残りのカードは自然と束に。炎が消えて、フォードの手中に戻った。
《ブローバック・ドラゴン》か。さっきの素材の片割れだ。
「これで、俺の墓地には《リボルバー・ドラゴン》と《ブローバック・ドラゴン》が揃った」
奴の手札は残り3。うち1枚を抜き出すと、フォードはそれをぶん投げた。
「行くぜ! マジックカード――《オーバーロード・フュージョン》を発動ッ!」
投げたカードが破裂した。
「俺の墓地に置かれたモンスターを素材として、闇属性かつ機械族の融合モンスターを召喚する!」
続いて地面が揺れ出した。
「墓地の《リボルバー・ドラゴン》と《ブローバック・ドラゴン》の2体をゲームより除外。さあ、現れろ!」
最後に再び大爆発。煙がもくもく立ち上る。
《ツインバレル》に《ギアギガント》と、いろいろ小競り合ってきた。が。
奴の本当のエースカードは、どうやらこいつだったらしい。
「《ガトリング・ドラゴン》、融合召喚だ!」
頭がそのまま銃になる、素材の意匠はそのままに。スケールだけがただ増えた。
煙が晴れるとそこにいた、全身凶器の機械竜。《ガトリング・ドラゴン》、降臨だ。
《リボルバー・ドラゴン》:☆7/闇属性/機械族/ATK2600/DEF2200
+
《ブローバック・ドラゴン》:☆6/闇属性/機械族/ATK2300/DEF1200
↓
《ガトリング・ドラゴン》:☆8/闇属性/機械族/ATK2600/DEF1200 【融合】
素材と違う点は何か。頭が3つになったこと。
ついでに首も長くなり、脚部は車輪に組み変わる。
「あの野郎、まだこんな奴を……!」
機械を見上げて店主が言うが、さっき手札を見た段階で、ある程度ならば読めていた。
そう、問題はそこじゃない。ここから何が起きるかだ。
「永続魔法、《セカンド・チャンス》を発動する」
フォードは手札を1枚出した。永続魔法が場に満ちる。
さてここからが勝負です。《シャーク・フォートレス》の高度を下げる。
「そして、《ガトリング・ドラゴン》の効果発動だ! 受け取れ!」
フォードがコインを投げてきた。やっぱりこいつもコイントス、片手でばっちりキャッチする。
長い三つ首を振り回し、機械の竜が吠えたてる。
「今度は、お前にもだ。受け取りな、ハイン」
コイン2枚目を店主に投げた。
まったく予想もしてなかったか、店主はコインを取り落とす。
「な、あたしに……? てめえ、何考えてんだ!」
「だから、そういちいち怒るなよ。《ガトリング・ドラゴン》の効果だ」
フォード自身も1枚持った。コインが3枚場に揃う。
「《ガトリング・ドラゴン》の効果で、俺たちはコインを3枚投げる。そして表が出た数だけ、場のモンスターを破壊する!」
3つの首がうねうね動く。その先端にはガトリング。
「今フィールドにいるのは、俺の《ラヴァルバル・チェイン》と《ガトリング・ドラゴン》、そしてお前の《シャーク・フォートレス》」
射撃範囲はフィールド全部、つまりはロシアンルーレット。自爆の恐れもあるわけで。
命中率、それ自体は高い。問題はどこに当たるかだ。
「この3体が標的だ。それじゃあ、行くぜ……投げろ!」
フォードが真上にコインを投げた。それに続いて俺も投げ、少し遅れて店主も投げる。
ガトリング砲が回転しだす。1つは《チェイン》、1つは《フォートレス》、1つは自分自身に向く。
コインが1枚ずつ落ちてくる。はてさて結果はどうなるか。
「ふ、裏か」
「裏」
「……裏だ!」
上から順に、フォード、俺、店主。別に関係ないですね、見事に全員ハズレです。
《チェイン》が安堵の息をつく。《フォートレス》はただ浮いている。
だがガトリングは止まらない。
「この瞬間、《セカンド・チャンス》の効果を使う!」
フォードの鋭い叫び声。
その叫び声に呼応して、長い三つ首がぐりぐり回る。
「1ターンに1度だけ、コイントスを最初からやり直すことができる。《ガトリング・ドラゴン》、再装填だ!」
「な……!?」
コインを3枚取り出して、まとめて空へぶん投げた。店主が驚き上を見る。
全部自分で投げるんかい。なんてこと言う暇もなく、コインが再び降ってくる。
「さあ、結果は!」
地面に当たって跳ね返り、しばらく地上を右往左往。
ようやく止まったその結果、表と裏が2:1。
「表、表、裏……だ。よって、2体のモンスターを破壊する」
フォードは微妙な表情だ。まあ、それもそうだろう。
「ち、惜しかったな。あと1枚裏が出てれば、ここで終わってたってのに」
そうなんですよねー。
この能力は強制効果。2枚表が出たならば、必ず2体を破壊する。
おかげでフォードのものも死ぬ。
「ま、いいだろう。ちょっとツキが向きすぎてただけだ……死ね、《シャーク・フォートレス》! 《ラヴァルバル・チェイン》!」
一斉掃射が始まった。
『グキィァァァァァァ...........』
火を噴く2つのガトリング。機銃の雨が《チェイン》に降る。
逃げる間すらも与えずに、《チェイン》は全身穴だらけ。そのまま地面に倒れ伏す。
ガトリング砲が《フォートレス》に向いた。
「逃げたほうがいいんじゃ?」
「え?」
店主に忠告したものの、意味がわからなかったらしい。
再び掃射が始まった。
「その要塞を撃ち落とせ!」
フォードの指示を聞いてか聞かずか、ガトリング弾を乱打する。
《フォートレス》のこの巨体では、かわすにしても間に合わない。全部まとめて被弾する。
「あのー、逃げたほうがいいと思うよ」
「は?」
さりげなくその場を離れつつ、再び忠告しておいた。
《フォートレス》はもう限界だ。だんだん高度が落ちてくる。
「《シャーク・フォートレス》、撃破!」
フォードのそのセリフとともに、《シャーク・フォートレス》が爆発した。
ゴツい破片が降ってくる。もちろんこれも実体化。
「おわ……! ちょ、ちょっ!」
「だから逃げろって言ったのに!」
いくつもいくつも降ってくる。
破片を必死でかわしつつ、相手の場にも目を向ける。俺の場は今がら空きだ、当然次に来ますのは……
「行くぞ、バトルフェイズ! 《ガトリング・ドラゴン》で、ダイレクトアタックだ!」
ガトリング砲が見えました。破片もまだまだ降ってるし、これはちょっとマジで死ぬ。
俺はフォードに背を向けた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そのまま全力疾走するが、決して逃げるわけではない。
決闘からは逃げない。が。攻撃からは逃げにゃ死ぬ!
「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!」
後ろで機銃の音がした。
敵の《ガトリング・ドラゴン》は、おそらく俺が見えていない。破片が砂利を舞い上げて、砂埃を巻き起こすから。
「おおおお―――」
後ろですげえ音がした。
破片が機銃に打ち抜かれ、再び爆発したようだ。
そう考えた時にはもう、俺の体はFly away。
ライフポイント、残り3000→ 400……。
☆現在の状況
フォード・スロール / 手札:1枚 / ライフポイント:2275
場:《ガトリング・ドラゴン》@ATK2600 / 《セカンド・チャンス》
フラッド / 手札:2枚 / ライフポイント: 400
場:なし