Neetel Inside ニートノベル
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2話:狂えぬ男

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ハインが馬上で声を張る。

「それでさー! あんた、どこから来たんだー?」

「は?」

フォードが乗ってきた馬は、主を失い置き去りに。
取り巻きたちも逃げたので、当然奴らの馬も置き去り。

「だから、どこから来たんだよー!?」

「……は?」

というわけで。
酒場で一晩休んだ後、よさげな馬を2匹選んで、俺たち2人は町を出た。

「だー、かー、らー!」

「……」

乗馬の経験なんてない。が、どうにかこうにか乗れている。
最初は馬も抵抗したが、《シャーク・ドレイク》で黙らせた。
荒野を走る2匹の馬。なかなかどうして絵になりそうだ。

「最初に会ったときは、はぐらかしてただろー? あたし、まだあんたの出身地とか、いろいろ知らないんだよー!」

「……」

にしてもまあこの女。
『酒場の女』の肩書きを、あの町に置いてきたせいか。やたらと詮索が増えた。

「知らなくて」

「えー? なんだってー!?」

「……」

蹄の音がなかなかうるさく、声は張らねば届かない。
返事するのも面倒なので、もう黙っておくことにした。

「なあ、おーい! 返事くらいしてくれよー!」

「……」

「おーい!」

「……」

黙っておこうと思ったのだが。
ハインのほうに、そんな気配はないようで。

「それは……」

「んー?」

仕方ないから、答えてやる。


「こことは別の世界から」


ハインが目を丸くした。

やっぱりそういう反応か。そりゃまあ無理もないけれど。
あまりに衝撃的だったのか、そのまま馬を止めてしまう。

「お、おい! 止まれ! 止まれーっ!」

何も止まるこたないだろう。そう思いながら振り向くと、ハインは馬から降りていた。
どこか様子がおかしいと思い、俺も馬から飛び降りる。

「なに?」

「なにじゃねえよ! 前見ろ前!」

走り寄って聞いてみると、ハインは腕をぶんぶん振った。
前を見ろと言われたので、とりあえず前を向いてみる。

「……馬?」

遠くに馬の影が見える。
誰かが乗っているようだ。白いマントがたなびいている。
いや、白一色ではない。マントの裏は赤かった。

「何グズグズしてんだよ、アウトローだ! ヤバいぞ、隠れろ!」

目を細めながら見ていると、突然腕を掴まれる。
ハインは俺を見もせずに、近くの岩陰へ飛び込んだ。

「なんで! なんでだ!? なんでこんなとこに、あいつがいんだよ!?」

頭を抱えてしゃがみこむ。何をそんなに恐れてるんだ。
アウトローって、アウトローだろ? 

「昨日のあいつらみたいなもんじゃ?」

そこまでビビることじゃないだろう。
そう言ってみると、ハインは唾を飛ばして叫んだ。

「あんた、マジで言ってんの!? "煉獄の糸"だぞ!?」

「は?」

「白と赤のマント……ぁぁぁぁああああ、なんで!? なんで"煉獄の糸"がここに!?」

ハインが髪を振り乱す。ねえ、"煉獄の糸"って何?
岩から顔を出してみる。2匹の馬の影が見える。

「紅白マントが、"煉獄の糸"?」

聞いてみた。

「バカ、隠れろ!」

首根を掴まれ引き倒された。

「あんたまさか知らねえの!? "煉獄の糸"《フランク・ストレイド》! 7500$の賞金首だよ!」

「……あ」

そう言われると、そういえば。
昨日街で見た張り紙に、そんな名前があったかも。
だが待てよ、賞金首ってことは、だ。

「あいつ、《ナンバーズ》持ってるのか?」

昨日の老婆は言っていた。
張り紙が出回るような奴は、大抵《ナンバーズ》を持っている、と。

「持ってるに決まってんだろ!? それがヤバいんだ、あいつの《ナンバーズ》はヤバいんだよ!」

首をぐりんと回転させて、ハインは俺のほうを見た。

「あいつの糸にかかったら、もがき苦しみ抜いて死ぬか、それすらできずに一瞬で逝くか……」

「糸?」

糸の《ナンバーズ》を使う、ってことか?
そうだとすれば。俺の探してる《ナンバーズ》、《47》とは結びつかない。
鮫と糸に関わりはないだろ。

「地獄の苦しみを味わうか、ぽっくり天国逝きになるか……決めるのは、その間にいる、あいつだ。だから、"煉獄の糸"」

ハインがまじめくさって言う。
が、"煉獄の糸"はちょっとどうなの。

「そういう話、腐るほど聞いてきたよ。あんた、ほんとに知らないのか?」

でもまあ、ここはそんな世界か。
アウトローがゴロゴロしてて、二つ名まで手に入れている。それが普通の世界なのか。

「とにかく、戦おうなんて考えるなよ。7500$のイカレ野郎だぞ、いくらあんたでも勝てねえよ」

了解しました。
しましたけどね。

「馬は?」

「え?」

蹄の音が近づいてくる。7500$が迫っている。

「いや、馬ほったらかし」

「あ"っ"!?」

ハインが濁った声を出した。
俺たち2人は岩陰に隠れた。が、馬は乗り捨ててそのままだ。
荒野に騎手のいない馬が2匹。それを見て、"煉獄の糸"はどう思うのか。

「やばっ、ヤバい! やぶぇぁっ」

慌てて飛び出そうとしたハイン。首根を掴んで引き止める。
いくらなんでも手遅れだ、今から出るのは逆にまずい。

「ぐぇ、ごほっ……じゃ、どうすんだよ!?」

「……」

どうしようかな。
迫る足音を聞きながら、デュエルディスクを構えてみる。

「ドロー」

1枚引いた。《オーシャンズ・オーパー》。

「こんな時に何やってんだよ!?」

ハインが切れた。

「……」

撒き餌に金魚を使うってのは、ちょっと聞いたことないけども。
俺は腰から銃を抜く。フォードから頂戴したものだ。

「やるしかないのでは?」

「……なんでこうなるかなぁ……!」

銃を構えてそう言うと、ハインはその場にうずくまった。


男2人の会話が聞こえる。

「アーリー」

「うぇっ、はい」

「止まれ」

「……はい」

馬の足音が緩やかになり、やがて2頭とも停止した。
岩陰で息を潜める。

「馬……っすね」

「ああ、馬だ」

俺たちの馬に気付いたようだ。そりゃ気付かないわけがない。

「ネズミが2匹いる」

低い声がした。
こっちが噂の"煉獄の糸"、フランク・ストレイドなのだろう。

「はぁ……そっすね」

どこか間抜けな響きの声。
こっちは"アーリー"と呼ばれていた。どっかで聞いたなこの名前。

「……」

しばらく沈黙。

「探せ」

低い声には、苛立ちがにじみ出ていた。
直後に地面を踏む音が。1人が馬を降りたようだ。

「……」

再び沈黙。
足音がひとつしかない。つまり、降りたのは"アーリー"ひとりだけ。

「なあ、おい……」

ハインが小声で話しかけてくる。
それを手だけで制止して、もう少し奥に行くよう指示。

「……」

足音はこちらに向かってきている。
だだっ広いこの荒野。隠れられそうな場所なんて、岩陰くらいしかないわけで。
足がまっすぐこっちへ向くのも、当然といえば当然だ。

「……」

ざく、ざく、ざく、ざく。

「……」

ハインが死にそうな顔をしている。

「……!」

ちらり、と"アーリー"の姿が見えた。
ハインを奥へ押しやって、音を立てずに数歩下がる。

「……ん?」

足元を見て、"アーリー"は歩みを止めた。
地面に落ちている1枚のカード。それに、視線が釘付けになっている。
俺は何歩か前に出る。

「なんだ、これ?」

"アーリー"は軽く腰を落とし、地面のカードに手を伸ばす。
うん。バカで助かった。

俺は大股で歩み寄り、"アーリー"に銃を突きつけた。

「《オーシャンズ・オーパー》……っ!?」

拾ったカードに目を通し、その直後俺の存在に気付く。
驚きに身を硬くする"アーリー"。額に向けて引き金を引いた。

ガギン!

「は?」

"アーリー"はその場ですっ転んだ。なんだ今の音。

「おい、やったのか!?」

ハインが駆け寄ってきたが、それを俺に聞かれても困る。
たしかに弾は当たったはずだが、硬質な音しか出なかった。

「な、な……なんだ、おまえら!?」

間抜けに腰を抜かしたまま、これまた間抜けな声を出す。
そうだ、顔見て思い出した。こいつもたしか賞金首、名前は《アーリー・ウォーリー》だ。
冴えない顔に冴えない賞金、すげえ微妙な小物野郎。
が、撃たれて死なないってことは。

「まさか、こいつも……」

ハインの声が震えている。
こいつも《ナンバーズ》を持っているのか?
罪状:窃盗、懸賞金:600$。こんなカスみたいな奴が、《ナンバーズ》を持っているというのか?

「お、おい! どうすんだ!?」

ハインはひたすらテンパっている。
アーリーはまだ腰が抜けている。
ざくりと地面を踏む音がした。

「おい、アーリー!」

低く苛立った声がする。
こちらに向かう足音がする。

「逃げよう」

「お、おう!」

"煉獄の糸"が馬から降りた。その事実だけを確認して、俺たち2人は走り出す。
反対側から岩を飛び出し、さっき乗り捨てた馬へと走る。

「急げ! 急げ!」

言われなくても急いでいるが、ハインは相当テンパっている。土壇場に弱い女らしい。
後ろは決して振り返らない。なんとか馬へとたどり着く。

「出すぞ! 急げ!」

慌てていても動作はスムーズ。ハインは馬に飛び乗った。

「早くしろ! 急げぇぁっ!」

そして落ちた。

「……」

何やってんだこいつ。
そんな視線を向けてやると、ハインは慌てて弁解しだした。

「ちが、ちがっ! 今の、あたしじゃない! あたしじゃ!」

おまえ以外に誰がいる。
そう思いながら、手綱を握る。馬から血が噴き出した。

「ぶぇぁっ」

ちょっと待って、なにこれ。
鮮血をモロ顔面に浴びる。手綱を放して飛び退いた。

「お、おい! フラッド!?」

服で血を拭い、目を開ける。
馬の首がゴトリと落ちた。

「……は?」

「おわあっ!? わわわ、フラッド! フラッドォー!」

やたら甲高い声がする。
見ると、ハインの馬にも首がなかった。

「クソが。つくづく役に立たねえな、あいつは」

突如スプラッた馬を前に、ただ困惑する俺たち2人。
そんな俺たちと対峙するのは、紅白マントのアウトロー。1枚、カードを握っている。

「おい、アーリー! さっさと来い!」

「すまっ、すいません! すいません!」

岩陰からアーリーが現れた。ふらつきながら走ってくる。

「……」

「……フラッドォォォ.......」

ハインが泣きそうな声を出す。

"煉獄の糸"、《フランク・ストレイド》。罪状:大量虐殺、懸賞金:7500$。
そして、えーと……"三桁男"、《アーリー・ウォーリー》。罪状:窃盗、懸賞金:600$。

もしかして、これって結構ヤバいのか?

     


対峙する俺たちとアウトロー2人。

今やるべきことは何か。
ハインの話を信じるならば、真っ向勝負は得策じゃない。
となれば逃げるべきなのだが。何をしたのか知らないが、馬は2頭とも潰された。
足がなくては逃げられない。

「アーリー」

荒野で獲物を見つけた狩人。さて、どういう対応に出るか。
俺が《ナンバーズ》を持っていると、おそらく奴は知らないだろう。となると。

「殺せ」

殺して身ぐるみ剥ぐのが普通か。
フランク自身は腕を組んでいる。自分で動く気はないらしい。

「……」

だが、言われたアーリーも棒立ちだ。かすかに腰が引けている。

「もう1回だけ言うぞ。殺せ」

声のトーンが下がるのを聞いて、ようやくアーリーは銃を抜いた。
銃口は俺に向いている。で、どうしよう。

「……」

弾が放たれる気配はない。銃口はわずかに震えてる。
撃たれても別に死にはしない。が、《ナンバーズ》を持っているとバレる。
そうなると戦闘は避けられない。泣く子も黙るアウトローたちは、《ナンバーズ》を奪いに来るだろう。

「……」

7500$の実力はどの程度なのか。はたして俺は勝てるのか?
それは謎だが、デュエルは強制デスマッチ。どちらかが死ぬまで終わらない。
負ければそこでゲームオーバー。リスクはなるべく避けたいな。

「おい、アーリー

現状の俺たちは一般人。奴らにとっても『ただそこにいたから殺して略奪する』くらいの認識なはず。
この認識を維持したまま、ある程度逃げることができれば。さほど本気で追ってはくるまい。

「……」

アーリーの手は震えている。こいつは相当小物なようだ。
思考はまとまった。隣のハインに視線を送る。
ハインはガタガタ震えていたが、俺に気づくと震えを止めた。

「逃げるぞ」

口の動きでそう告げる。
ハインは黙ってうなずくと、内腿の銃を取り出した。
それを見て、アーリーも銃を構える。

「遅い!」

ハインのほうが早かった。
ためらいなく引き金を引く。

「おわ…っ!?」

弾丸がアーリーの銃を弾き飛ばした。すげえ。
ハインはすぐさま踵を返し、俺もそれに倣って走る。

「銃の扱いには、ちょっとばかり自信があるんだよっ!」

走りながらハインは言った。俺は素直に感心する。
しかし逃げるのはいいんだが。己の足ひとつで逃げるのは、いろいろ厳しいものがある。
俺は首だけで後ろを向く。

「わ、あ……!」

アーリーは焦って銃を拾い、フランクは冷ややかにそれを見る。追ってくる様子は見られない。
やけに余裕な態度だな?

「……」

そう思ったとたん、顔を上げたフランクと目が合う。
フランクは軽くため息をつくと、左手を開いて、こちらに突き出した。

微かに、風を切る音がした。

「ぅわっ!?」

隣でハインがすっ転んだ。

「な、痛、なんだ、これ……!?」

わけがわからないと言った風に、右足首をぺたぺた触る。
フランクを見る。左手はすでに下ろしていた。

「これ……糸?」

足を軽く撫でた後、ハインの両手は宙をまさぐる。
その手は何かに触れていた。それをハインは"糸"だと言う。

「"煉獄の糸"……」

俺は軽く呟いて、フランクのほうに目を向ける。
今度は右手を突き出していた。視線は、ハインに向いている。

「《シャーク・ドレイク》ッ!」

直感で。
俺は、ハインを庇うように右手を出した。


ガキンッ!


「……!?」

フランクが驚いている。

「え、ちょっ、あんた、その手……」

ハインも驚いている。が、お前が驚くとこじゃないだろ。
突き出した俺の右腕は、もはや人間の腕ではなく、赤いヒレになっていた。

「たぶん、あいつも同じだよ」

「え?」

ハインは首をかしげるが、十中八九正解だろう。
《ナンバーズ》には、《スフィア・フィールド》を展開する力がある。
そのフィールドの中では、すべてのカードが実体化し、プレイヤーを傷つける。
が、《ナンバーズ》自身はどうか。

「"糸"だけ、出してるっぽい」

そう言って、俺はその場にかがみこむ。
ハインの足元を軽く探り、右手で手刀を振り下ろす。
"糸"の切れた感触があった。

「"糸"だけ?」

「うん」

《スフィア・フィールド》など使わなくても、《ナンバーズ》自身はいつでも実体化できるのだ。
実際、俺は今《シャーク・ドレイク》のヒレだけを実体化させている。それと同じ要領だ。
奴は、何かの《ナンバーズ》の"糸"だけを実体化させ、それを操っている。
ワイヤーみたいな素材の糸だ。さっき馬を殺したのも、たぶんこれの仕業だろう。

「……くくっ」

小さな笑い声が聞こえた。視界の端で、フランクが笑っている。
さて。ヤバそうだったからつい出してしまったが、これで俺が《ナンバーズ》持ちだとバレたわけだ。
そうなると、どうなるか。俺は右腕を元に戻す。

「おい、アーリー」

《ナンバーズ》を持つ人間は、今俺たちがやったように、特殊な力を行使できる。
そんな人間を殺す、もっとも確実な方法は何か?

「《スフィア・フィールド》だ。出せ」

《スフィア・フィールド》を展開し、実体化したモンスターでトドメを刺すこと。
一度張られた《スフィア・フィールド》からは、デュエルが終わるまで出られない。
フィールドが展開された途端、デスマッチが確定する。それだけは、避けねばならない!

「あっ、はい!」

フランクの命令を受けて、アーリーが1枚のカードを取り出した。

「ドロー!」

俺はデッキからカードを引いた。
トラップカード、《フィッシャーチャージ》。この際カードはどうでもいい。
拾った銃を握るアーリー。

「《シャーク・ドレイク》ーッ!」

スピンをかけて、カードを投げた。
この世界のカードは、クレジットカードのような素材でできている。
それに、《ナンバーズ》補正をかけて飛ばせば――

「おわ!?」

――拳銃くらいは切断できるッ!
カードは砲身を切り飛ばし、そのまま地面に突き刺さる。

「わ、わ……!?」

手にした銃がぶっ壊れ、アーリーは右往左往する。
《スフィア・フィールド》を張る条件は、《ナンバーズ》に傷を入れること。
さすがに素手では厳しいはず。

「逃げるぞ!」

「お、おう!」

へたり込んでいたハインを起こして、すぐさま前へと走らせる。
アウトロー2人に注意を向けつつ、俺も少しずつ後退する。

「……っとに、てめえは……」

不機嫌な表情を浮かべつつ、フランクは腰から銃を抜いた。俺は再びディスクを構える。
奴が《ナンバーズ》を取り出そうものなら、すぐ2枚目のカードを投げる。その用意だ。
フランクがゆっくり腕を上げる。

「……?」

が、その銃口はアーリーに向いていた。
銃をなくしたアーリーは、両手で自身の《ナンバーズ》を掴み、引き裂こうともがいている。


銃声がした。


「うわ……っ!?」

直後、目もくらむような光。
俺はとっさに目を閉じる。

「い……っ、ぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!」

叫び声に目を開ける。
荒野も空も、太陽さえも。景色が青く染まっている。

「これ……《スフィア・フィールド》!」

後ろでハインの声がした。
フランクはマントをなびかせながら、腰のホルダーに銃をしまった。

「いっ……てぇ……!」

このフィールドを展開したのは、アーリーの持つ《ナンバーズ》。
フランクの撃った弾丸が、アーリーの《ナンバーズ》を撃ち抜いたようだ。それを握っていた両手ごと。

「立て、アーリー。やるぞ」

痛みに体を震わせながら、へたり込んでいたアーリーに。無慈悲に告げて、フランクは歩く。
アーリーのそばでかがみ込み、地面に刺さったカードを抜くと、俺のほうへと投げてきた。2連続で。

「っと」

「お前のだろ? 返してやるよ」

2枚のカードをどうにか受け取る。
《オーシャンズ・オーパー》に《フィッシャーチャージ》。律儀に拾ってくれていたようだ。

「ど、どうする!?」

息を切らしながら、ハインが駆け寄ってきた。
周囲を見渡してみる。かなり広いフィールドだ。

「まだ制御できねえのか。無駄にフィールド広げやがって」

「あ……ぐ……」

「うぜえ……さっさと、立て!」

うずくまっているアーリーの背に、一発蹴りを入れるフランク。
アーリーは地面を転がった後、震える腕で身を起こす。

「頭数が揃ってるんだ。2vs2で闘るぞ、いいな」

そんなアーリーを横目で見やり、フランクはそう言ってきた。
全員フィールド内にいる以上、俺たちに選択権はない。とりあえず頷いておく。

「よし。……つってもまあ、一人殺ればそれで済むんだがな……」

やたらに冷たい視線とともに、フランクはぼそり呟いた。当然視線が向くのは俺。
俺はさっきハインを庇った。だからおそらく、奴らはハインの《ナンバーズ》に気づいていない。
というか、俺自身ハインを《ナンバーズ》持ちにカウントしていいかわからない。白紙だし。

つまりハインは一般人でしかないので、このデュエルで俺を消しさえすれば。どうにでも料理できるわけです。
それを理解したのだろうか、ハインはぶるっと身を震わせた。

「なあ、フラッド……なんか、ないのか? 策」

不安げな目を俺に向けてくる。
精一杯の微笑みを、俺はハインに返してやった。

「やるしかない」

「……」

ハインが死にそうな顔をした。

「はぁ、はぁ……」

風穴が空いた両の手で、アーリーはぎこちなくディスクを構える。
派手なマントを存分になびかせ、フランクが大声で叫んだ。

「んじゃ、闘るぞ。――決闘!」

旅人vsアウトロー。生き残るためのデュエルが始まる。



ターンの順は、ハインから。ちらりとハインに視線を送る。
俺の視線に気づいたようで、ハインはグッと親指を立てた。

「あたしのターン。ドローっ!」

そのままカードをドローする。

「……」

右手に引いた1枚を、左手に手札5枚を持ち、ハインはそのまま動きを止めた。
左右のカードを交互に見つつ、なにやら考え込んでいる。

さて。
『足手まといになるつもりはない』。
俺の記憶が確かなら、昨日こいつはそう言った。
それでは、お手並み拝見だ。はてさてハインはどう動く?

「ターンエンド」

動かなかった。

「は?」

「いや、だって……」

そろりと俺ににじり寄り、5枚の手札を見せてくる。

《邪帝ガイウス》。☆6。モンスターカード。
《サンダー・ドラゴン》。☆5。モンスターカード。
《サンダー・ドラゴン》。☆5。モンスターカード。
《ライトパルサー・ドラゴン》。☆6。モンスターカード。
《サンダー・ドラゴン》。☆5。モンスターカード。

「……」

スリーカードもさることながら、レベルが5・6フルハウス。こいつ1人だけゲームが違う。
小声でハインとやりとりをする。

「モンスターしか引けなかった?」

「ああ」

そう言って、ドローしたカードを俺に見せる。《混沌球体》、☆5。
5のフォーカード。意味わかんねえ。

「まあ、もともとモンスターしか入れてないし、それは別にいいんだけど」

『足手まといになるつもりはない』。
もしかしなくても、俺の記憶違いだったのだろう。

「アーリー。お前のターンだ」

「あ、はい……俺のターン、ドロー!」

横のフランクに促され、アーリーは慌ててカードを引く。
次はこいつのターンだが、はたしてどうなることだろう。

「かったるいのはなしだ。まだターンが回ってきてねえ俺とお前はともかく……」

俺を指差して、フランクが言った。

「今このターン、アーリーはそこの女に攻撃できる。それでいいな」

ゆっくり腕を動かして、差した指をハインに向ける。
がら空きなのに攻撃はされる、防御策は何もなし。ハインが一歩下がるのが見えた。

「……」

当のアーリー本人は、手札をじっと見つめてる。
そして、1枚のカードに手を出した。

「《増援》のマジックカードを発動。デッキから、レベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える」

戦士族のサーチカード。さて、何を持ってくるか。

「俺はデッキから、《フォトン・スラッシャー》を手札に加える」

ふむ。
自分のフィールドにモンスターがいないとき、手札から特殊召喚できるモンスター。
攻撃力も2100と高い。となれば、攻めてくるか。

「ん、《フォトン》?」

ハインが妙な声を出した。なに? そこ気にするとこなの?
《フォトン・スラッシャー》それ自体は、汎用性の高いカードだ。どんなデッキに入っていても、さほど驚くことではない。

「……」

まあ、ハインは置いておこう。
《フォトン・スラッシャー》を手札に入れると、アーリーは再び悩みだす。
ハインに防御の策はない。攻め手を考えているのだろう。

「モンスターを1体守備表示で出して、ターンエンド」

違った。

「……あぁ?」

あまりに消極的な手だ。
せっかく加えた《スラッシャー》も、使わず手札に残してる。

「おい、アーリー。どういうことだ」

「ひ……いや、その」

フランクもキレ気味である。
だが、俺としては大歓迎。次に来るのは俺のターン。

「俺のターン、ドロー!」

勢いを付けてカードを引く。
さっきの理屈で言うならば、俺はアーリーに攻撃できる。
ハインが役立たずな現状、流れを掴むのは俺の仕事。ここで一発やるしかない!

「《ハンマー・シャーク》を召喚!」

引いたカードを横目で見やり、すぐさまディスクへ直行させた。
地面がいきなりひび割れて、そこから水が噴き上がる。

「《ハンマー・シャーク》の効果発動! こいつのレベルを1つ下げて、手札の《オーシャンズ・オーパー》を特殊召喚!」

そのまま手札を1枚抜き出し、デュエルディスクに叩き置く。
噴き出す水の柱から、2匹の魚が飛び出した。
ハンマーヘッドの水色鮫と、槍を抱えた赤金魚。2匹揃って吠え上げる。

『ゥゥゥゥゥァァァアアアアアアアアア!!』
『ギョェェェェェェェェェェェェェェェ!!』

うるせえ。

《ハンマー・シャーク》:【☆4→☆3】/水属性/魚族/ATK1700/DEF1500
《オーシャンズ・オーパー》:☆3/水属性/魚族/ATK1500/DEF1200

「バトルフェイズ! 《オーシャンズ・オーパー》で、その《守備モンスター》を攻撃!」

アーリーの場に伏せられた、謎のカードを指差して。赤い金魚に命令を下す。
金魚は尾びれをばたつかせ、セットカードへ特攻する。

「っと……俺の守備モンスターは、《シャインエンジェル》!」

寝ていたカードが表を返し、直後に白い光を放つ。
それに照らされ現れたのは、白い翼のオッサン天使。
金魚が槍を振り上げる。

「刺せ!」

槍はそのまま振り下ろされて、天使の右翼を切り落とす。刺してねえ。
無数の羽が宙を舞い、天使は苦しそうに呻く。

『ギョェェェェェェェェ!』

軽く槍を振り血を飛ばす。
直後、その槍を天使に投げた。

「《オーシャンズ・オーパー》は、守備モンスターを攻撃したときにも、ダメージを与えることができる!」

槍は天使の胸を貫き、それでもまだなお止まらない。
勢いを落とすことなく、アーリーめがけて飛んでいく。

「お……っ、あがぁっ!」

慌てて飛び退こうとするが、槍はその脇腹を捉えた。
そこから血が噴き出すと同時に、天使はその場で霧散した。
淡く細かい光の粒が、ふわりふわりと場に漂う。

《オーシャンズ・オーパー》:☆3/水属性/魚族/【ATK1500】/DEF1200
  vs
《シャインエンジェル》:☆4/光属性/天使族/ATK1400/【DEF 800】

「《シャインエンジェル》、撃破」

ビシィ、と指を突き付けてやる。
《オーシャンズ・オーパー》はATK1500、《シャインエンジェル》はDEF700。
差し引き800のダメージで、アーリーのライフは残り7200。
どこか得意げな笑みを浮かべて、金魚が俺のもとに戻る。

「い……ぁ、けど、《シャインエンジェル》、効果発動!」

血の出る脇腹を抑えつつ、アーリーは苦しげに言った。
場に舞っていた光の粒が、一点へと集まっていく。

「戦闘で破壊されたとき、デッキから、攻撃力1500以下の、光属性モンスターを……攻撃表示で、特殊召喚する」

荒い吐息を漏らしつつ、アーリーはデッキに手をやった。
カードを1枚抜き出すと、デュエルディスクにそっと置く。

「《サイバー・ヴァリー》を、特殊召喚……」

集まる光は蛇を形どり、やがて再び霧散する。
光が消えるとそこにいたのは、機械の体を持つ蛇だった。

《サイバー・ヴァリー》:☆1/光属性/機械族/ATK 0/DEF 0

『……』

無言でとぐろを巻く機械蛇。そのステータスは攻守ゼロ。
では、その能力はというと。

「行け、《ハンマー・シャーク》! 《サイバー・ヴァリー》を攻撃!」

『ァァァァァアアアアアアアア!!』

ハンマー頭をぶんぶん振って、ガチンガチンと歯を打ち鳴らす。
水色の鮫は宙を泳ぐと、機械の蛇に牙を立てた。

「けっ……ど! 《サイバー・ヴァリー》の効果発動!」

ハンマーヘッドのひと噛みは、機械のボディを噛み砕く。
が、蛇は砕け散らずに、そのまま光の粒になる。

「こいつは、攻撃されたとき! 自分自身をゲームから除外することで、バトルフェイズを終わらせる!」

光が弾けて飛び散ると、その勢いで鮫も吹き飛ぶ。
俺のほうへ飛んできた鮫は、金魚にぶつかり目を回す。

「そしてそのあと、俺はカードを1枚ドローできる……。ドロー」

アーリーは脇腹を抑えつつ、器用にカードをドローした。
《フォトン・スラッシャー》、《シャインエンジェル》、《サイバー・ヴァリー》。
デッキの内容は掴めないが、共通点を挙げるなら……【光属性】?

「俺はカードを1枚伏せる。これで、ターン終了だ」

まあ、実力は低そうだ。
俺は罠を1枚出して、それでターンを終えておく。

「え? 《ハンマー》はレベル3で、《オーパー》もレベル3で……」

ハインは目を丸くして、2匹の魚を交互に見る。

「エクシーズ、しないのか?」

そして俺に聞いてきた。
たぶん狙ってはいないだろうが、ナイスアシストと言っておこう。


さて。
《ハンマー・シャーク》に《オーシャンズ・オーパー》。
この2体のモンスターを見れば。魚族主体のデッキだと、そのくらいの予想は立つだろう。
実を言うとこのデュエルには、盤外戦術を混ぜてある。

「……」

フランクに向けて視線を送る。無表情を通している。
さっき、アーリーに投げたカード。それは、トラップカード《フィッシャーチャージ》。
その効果は、『魚族モンスター1体をコストとして、相手のカード1枚を破壊し、その後カードを1枚引く』。
魚族デッキを作るなら、投入候補にすぐ挙がる。

「俺のターン、ドロー」

フランクは静かにカードを引く。
同じレベルのモンスターを、2体揃えておきながら。エクシーズ召喚を行わず、貧弱なままの2体を残す。

「……」

軽く、口元に笑みを浮かべる。
少し腕の立つ相手なら、俺の罠が読めるはず。
《フィッシャーチャージ》のコストのために、魚族の駒を残したと。そう読めるはず。

「……」

フランクは黙り込んでいる。
破壊の罠があるとわかれば、迂闊なプレイはできないだろう。
《フィッシャーチャージ》を匂わせることで、"煉獄の糸"の動きを縛る。糸だけに。

「……フゥ」

ため息が聞こえた。


「めんどくせえな」


なぜだか、とてもゾッとした。

「相手のフィールドにモンスターがいるが、俺のフィールドにはいないとき。こいつを、手札から特殊召喚できる」

1枚、カードを手に取った。
堂々とした立ち居振る舞い。罠に怯える様子はない。

「《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚」

ディスクにカードが置かれると、天から竜が飛んできた。機械の体の白い竜だ。
竜は地上に降り立つと、フランクの背後におとなしく控える。

《サイバー・ドラゴン》:☆5/光属性/機械族/ATK2100/DEF1600

「そして、《ギミック・パペット-シザー・アーム》を召喚する」

大きく腕を振りかぶり、2枚目のカードをディスクに置く。
オーバー気味に腕を振りつつも、必要以上の力は入れない。脱力気味のその動作。
罠に気づいていないのか、気づいた上で無視しているのか。

「こいつの召喚に成功したとき、俺はデッキから《ギミック・パペット》1枚を墓地に送ることができる」

動作に気を取られているうちに、黒い人形が場に立っていた。
黒いボンテージを身に纏う、どこか不気味な人形だ。
付け加えて異質なのが、巨大なハサミを背負っている点。

《ギミック・パペット-シザー・アーム》:☆4/闇属性/機械族/ATK1200/DEF 600

「《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》を墓地へ」

デッキからカードを1枚引き、それを無造作に放り投げた。
同時に人形が飛び上がり、背中のハサミをぎこちなく振るう。
切られたカードは真っ二つになり、ひらひら地面に舞い落ちた。

「さらに、魔法カード《トレード・イン》を発動」

役目を終えたハサミ人形は、恭しく、しかしやはりぎこちない動作で、フランクの背後に引き下がった。
そんなしもべには目もくれず、フランクはデュエルを進めていく。

「手札から、レベル8のモンスター……《ギミック・パペット-マグネ・ドール》を墓地に送り、カードを2枚ドローする」

ゆっくりと、落ち着いた動きで、カードを引いた。
引いたカードを見もせずに、フランクは突如声を張る。

「場の《シザー・アーム》は機械族! よって俺は、《サイバー・ドラゴン》と《シザー・アーム》の2体を墓地に送る!」

突っ立っていた黒人形が、フランクの前へ躍り出た。同時に竜が飛び上がる。
背負った鋏を地面に下ろし、人形はその場で膝をつく。
竜は体をしならせると、尾を人形に叩きつけた。人形はその場でバラバラになる。

「フィールドに存在する《サイバー・ドラゴン》および機械族モンスターを墓地に送ることで、こいつは融合召喚が可能!」

そうして出来た無数の破片を、機械の竜は残さず喰らう。
黒い人形を取り込んだ竜。体は変色し始めていた。


「来い。《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》」

パーツを体に取り込んで、竜のボディは膨れ上がる。
そこにいたのは、紫色の巨大竜。巨大な機械の竜だった。

【《サイバー・ドラゴン》】:☆5/光属性/機械族/ATK2100/DEF1600
  +
《ギミック・パペット-シザー・アーム》:☆4/闇属性/【機械族】/ATK1200/DEF 600
  ↓
《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》:☆8/闇属性/機械族/ATK2000/DEF 0 【融合】

「こいつの攻撃力は、召喚時に墓地に送ったモンスターの数×1000になる。つまり、今は2000ポイントだ」

「あれ、攻撃力下がってないか?」

ハインが微妙な顔をした。
その横で紫竜は頭を下げ、フランクの後ろへ回り込む。

「マジックカード《ジャンク・パペット》を発動」

フランクは魔法を発動した。
《サイバー・ドラゴン》に《シザー・アーム》、そして《ジャンク・パペット》。これで3枚目のカードになる。
《フィッシャーチャージ》を警戒して動く。そんな様子は、まったくもって見られない。

「自分の墓地から、《ギミック・パペット》1体を特殊召喚する。蘇れ、《ギミック・パペット-マグネ・ドール》!」

地中から鎖が飛び出した。
空に向かって伸びる鎖は、1体の人形を引き上げる。

『……』

金属板を貼り合わせただけの、粗末な細身の人形を。
腕も頭も垂れ下がり、ピクリとも動く気配がない。

《ギミック・パペット-マグネ・ドール》:☆8/闇属性/機械族/ATK1000/DEF1000

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》と、《ギミック・パペット-マグネ・ドール》」

フランクが腕を振り上げた。紫の竜が咆哮を上げる。
人形が急に頭を上げた。

「このレベル8のモンスター2体を、オーバーレイ!」

ドス黒い光に己を変える。
そして紫竜も光となった。

「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚」

静かな前口上の後に、2つの光が交わった。
黒と紫、2つの光は、フランクの背後に飛んでいき、頭の後ろで球体を作る。
やがてその色は黄色に変わり、輝く真球が現れた。

「《聖刻神龍-エネアード》!」

真球が割れ、筋肉質な手足が飛び出す。
卵の殻を破るように、赤熱した身体を外へ出す。

「で、でけぇ……」

ハインがぽかんと口を開ける。
赤く、黄色い巨大な竜が、巨大な翼を空に広げて、巨大な足で地に立っていた。

《聖刻神龍-エネアード》:★8/光属性/ドラゴン族/ATK3000/DEF2400 【エクシーズ:Unit 2】

「墓地に存在する《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》の効果を発動」

どっしり構えた龍をバックに、フランクはさらりと宣言する。
直後、さっき《シザー・アーム》に切り裂かれ、地に落ちたカードが震えだす。

「自分の墓地に存在する《ギミック・パペット》1体をゲームから除外することで、《ネクロ・ドール》は墓地から特殊召喚できる!」

そう言って、墓地から《ギミック・パペット-シザー・アーム》を抜き出した。
二つに裂かれた《ネクロ・ドール》は、その時宙に浮き上がり。再び一つにくっついた。

「蘇れ、《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》!」

再生したカードを、右手で掴み。そのまま後ろへ放り投げる。
回転しながら飛ぶカードから、黒い棺桶が現れた。

《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》:☆8/闇属性/機械族/ATK 0/DEF 0

「そして、《エネアード》の効果発動!」

巨大な龍の真っ赤な腕が、その棺桶を無造作に掴む。
それをメキメキ握り潰して、巨龍は大声で吼えたてる。

「手札、およびフィールドから、好きなだけモンスターを生贄に捧げる」

対峙する俺たちとフランクの、ちょうどその中間地点。そこに、赤く巨大な魔方陣が浮かび上がる。
フランクは手札を1枚抜くと、魔方陣に向けそれを投げた。
同じように、龍も握った棺桶を投げる。

「手札から《ギミック・パペット-ナイトメア》、場から《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》を生贄にする!」

投げたカードと棺桶が、魔方陣へと吸い込まれ、消えた。
巨大な陣が震えだす。

「そして生贄にしたのと同じ数だけ、相手のカードを破壊する!」

魔法陣が光った。ヤバい。

「《ハンマー・シャーク》ッ!」

水色鮫を手元に引き寄せ、その尾びれを必死で掴む。

「飛べ!」

ハンマーヘッドの水色鮫は、ヒレをバタつかせ真上に泳ぐ。

「さあ――死ね!」

直後。
魔方陣から、巨大なビームがぶっ放された。

「ちょ……フラッ……」

ハインの声が聞こえた気がした。
が、地面の抉れる音や、《オーシャンズ・オーパー》の断末魔に交じって、ほとんど聞こえない。
真下を見ると真っ赤な光線。ここからでも熱気を感じる。

「《オーシャンズ・オーパー》と、その伏せカード……《激流蘇生》か。2枚、破壊だ」

《激流蘇生》。破壊された水属性モンスターを復活させるカードだが、これごと破壊されてはどうしようもない。
というか、こいつ。《フィッシャーチャージ》がハッタリであると、既に見抜いていたというのか?
《ハンマー・シャーク》に掴まって、空中で呆然としていると、一瞬フランクと目が合った。

にやりと笑顔を浮かべられた。

「バトルフェイズ」

違う。
おそらくこいつは、元から罠など気にしていない。

「《エネアード》で、《ハンマー・シャーク》を攻撃!」

魔方陣がまた宙に浮く。
龍は大きく息を吸うと、口から火球を吐き出した。

「降りろ、《ハンマー……」

間に合わん。
火球は陣に飲み込まれ、一拍遅れてビームが飛び出す。
鮫の尾ビレから手を放す。

「《ハンマー・シャーク》、粉砕!」

さっきよりやや上向きのビーム。水色鮫は消し飛んだ。
それを俺は落ちながら見てい――

「うげぁっ!」

背中から落ちた。

「お、おい! フラッド、大丈夫か!?」

「……」

うまく息ができなかった。
心配そうに見てくるハインに、大丈夫と手を振ってやる。
が、やっぱり息はできない。しばらくその場にうずくまる。

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

"煉獄の糸"の手番が終わった。
《ハンマー・シャーク》ATK1700vs《聖刻神龍-エネアード》ATK3000。差分、1300のダメージ。
よって俺のライフは8000→6700。背中を手の甲でさすりつつ、どうにかこうにか立ち上がる。

ハッタリかまして心理戦……なんてセコいやり口は、どうも通用しないらしい。さすが7500$と言うべきか。
保持するカードの数で言えば、戦況は互角と言っていい。
が、敵の場には大型モンスター、俺たちの場は焼け野原。
加えて、ハインの手札は相当カオスっている。なにこれ、いきなり負けイベント?

「……」

ハインが不安そうに俺を見つめる。
下手を打てば、ここでゲームオーバーだ。



☆現在の状況☆
【チーム旅人】

"ひとりポーカー"《ハイン・ウエイン》
手札:6枚 / ライフポイント:8000
場:なし


"異世界人"《フラッド・ビーチ》
手札:3枚 / ライフポイント:6700
場:なし

【チームアウトロー】

"600$"《アーリー・ウォーリー》
手札:6枚 / ライフポイント:7200
場:なし


"煉獄の糸"《フランク・ストレイド》
手札:1枚 / ライフポイント:8000
場:《聖刻神龍-エネアード》@ATK3000 / リバースカード×1

     


打った背中が地味に痛い。

「……」

この状況をどうしたものか。
俺たちはただ、次の町に行きたかっただけなのに。なぜこんなイベントが入るのか。

「……あたしの、ターン」

割とこいつにかかってる。うん、割とこいつにかかってる。
ハインは沈痛な面持ちでデュエルディスクを眺めると、意を決してカードを引いた。

「ドロー!」

おそるおそるカードを見る。
ハインの目が輝いた。

「よし! あたしは、手札の《星見獣ガリス》の効果発動!」

引いたカードをディスクに置いて、ハインはさらにカードを引く。

「自分のデッキの一番上から、カードを1枚墓地に送る。そいつが、モンスターカードだったなら!」

カードをぺらりと表に返す。
☆10、モンスターカード。《トラゴエディア》。

「そのレベル×200のダメージを相手に与えつつ、《星見獣ガリス》を手札から特殊召喚できる!」

翼とクチバシを生やしたデカい犬が、どこからともなく飛んできた。

《星見獣ガリス》:☆3/地属性/獣族/ATK 800/DEF 800

ハインがちらっとこっちを見る。

(どっちを狙う?)

口の動きでそう聞いてきた。顎でアーリーを指し示す。

「《トラゴエディア》のレベルは10! ×200で、2000のダメージを喰らえ!」

《ガリス》が羽ばたき飛び立った。クチバシの先がきらりと光る。
アーリーは泡を食って手札を抜いた。

「わ、はっ、《ハネワタ》! 《ハネワタ》の効果発動!」

「は?」

思わず声が出た。

《ハネワタ》☆1/光属性/天使族/ATK 200/DEF 300 【チューナー】

「手札からこのカードを墓地に送って、このターン俺への効果ダメージをカットする!」

カードが墓地へ置かれると同時に、そこから毛玉が飛び出した。羽の生えたオレンジの毛玉。
《ガリス》は突然進路を変えて、オレンジ毛玉に食らいつく。
《ハネワタ》なんてピンポイント防御を、まさか一発目で見るとは。

「ち……! だったら、《星見獣ガリス》をリリース!」

もさもさ毛玉を食ってる《ガリス》を、ハインは容赦なく墓地へ置く。
手札を眺めて一瞬止まる。だがすぐ次のカードを切った。

「《混沌球体》をアドバンス召喚だ!」

《ガリス》の背から煙が噴き出す。
もくもく出てくる黒い煙は、《ガリス》の体を覆い尽くすと、黒い球体を形取る。

《混沌球体》:☆5/闇属性/機械族/ATK1600/DEF 0

バランスボールくらいのサイズの、機械の球が現れた。ハインはさらりとデッキを取り出す。

「こいつを召喚したとき、デッキからレベル3のモンスター1体を手札に加える。もう1枚、《星見獣ガリス》を手札に加える!」

《ガリス》を手札に加えると、デッキを混ぜてディスクに戻す。
そして、カードを1枚引いた。

「《星見獣ガリス》の効果発動! デッキの1番上を落として、モンスターならダメージ召喚!」

だんだん説明が適当になってくる。
引いたカードを確認すると、ハインは若干顔をしかめた。

「レベル4、《黒薔薇の魔女》! 《ガリス》を特殊召喚して、そっちに800ポイントのダメージ!」

引いたカードを墓地に置き、《ガリス》をフランクに差し向ける。
クチバシを開き、《ガリス》は飛んだ。

「……おう、800のダメージだな。受けてやるよ」

肉を抉りに飛んでくる《ガリス》を、ものともせずにフランクは立つ。
尖ったクチバシが大きく開く。フランクは軽く手を振った。

『……!?』

《ガリス》の口がいきなり閉じて、翼もいきなり動きを止めた。
体をキリキリ震わせながら、《ガリス》は宙で静止する。敵の目前で静止する。
フランクは右の拳を握った。

「俺のライフは、7200だ!」

そのまま《ガリス》の顔面に、固く握った拳を打ち込む。
たまらず《ガリス》はぶっ飛んだ。

「わかったから――」

フランクがグッと左手を引くと、《ガリス》はまたもや空中で静止し、直後フランクのもとへ飛んでいく。
まるで、引き寄せられるかのように。

「とっとと、帰れ!」

戻ってきた《ガリス》に蹴りをかます。
サッカーボールと化した《ガリス》は、《混沌球体》と激突するまで止まらなかった。

「"糸"か……」

ダメージを無効にしたわけじゃないのに、なぜこんな仕打ちを受けねばならんのか。
ちょっと《ガリス》に同情したが、数字の上ではダメージは通った。ならまあいいんじゃないですか。

「……《ガリス》は、守備表示で特殊召喚する」

《星見獣ガリス》:☆3/地属性/獣族/ATK 800/DEF 800

ハインは片目をつぶっていた。額に手を当て、黙っている。

あいつの手札には《邪帝ガイウス》がいたはずだ。召喚したとき、場のカード1枚を消し去る帝王。
《混沌球体》ではなく《ガイウス》を召喚していれば、とりあえず《エネアード》は消せたはず。
それをしなかったということは。どうやらハインは、俺が示した『アーリー狙い』という方針を忠実に守っているらしい。

……でもそれってつまり、《エネアード》はぼくが消さなきゃダメってことですよね……。
手札3枚に目を落とす。勝てんのかな、これ。

「たはは……」

ハインは気まずそうに《ライトパルサー・ドラゴン》のカードを見せた。
墓地に光属性と闇属性が揃うと出せるドラゴンだ。《ガリス》の効果でそれを揃えて、物量で攻めようとしたらしい。
が、落ちたのは両方闇属性。運頼みって危険です。

「……バトルフェイズ! 《混沌球体》で、お前にダイレクトアタックだ!」

灰色の髪を軽く振り、ハインは両手で《球体》を抱えた。アーリーに向けてぶん投げる。
飛んでくる鉄の球を見て、アーリーはまたカードを出す。

「《テンパランス》! 《テンパランス》を墓地に送って、1度だけ戦闘ダメージをカット!」

無数の触手が地中から飛び出し、《混沌球体》の動きを止めた。

《アルカナフォースⅩⅣ-TEMPERANCE》:☆6/光属性/天使族/ATJ2400/DEF2400

《アルカナフォースⅩⅣ-TEMPERANCE》。手札から墓地に送ることで、一度だけ戦闘ダメージをゼロにする。
《ハネワタ》といいこいつといい、ピンポイントなカードばかり使う奴だ。

「くそ……あたしはこれで、ターンエンド」

すごすご戻ってきた《混沌球体》を見て、ハインはエンドを宣言する。
ハインの手札はオールモンスター、罠を張ることもできやしない。
アーリーのライフに傷を入れることもできなかった。大丈夫かよこれ。

「……俺のターン! ドロー!」

アーリーは一度息をつくと、ターンの初めにカードを引いた。
手札は5枚。さて、どう来るか。

「墓地から《シャインエンジェル》と《ハネワタ》を除外! 光属性の2体を除外して、手札の《神聖なる魂》を特殊召喚!」

一筋の白い光が、青みがかった景色に差し込む。白い翼に白い肌、美人の天使が舞い降りた。

《神聖なる魂》:☆6/光属性/天使族/ATK2000/DEF1800

「《シャインエンジェル》と、《サイバー・ヴァリー》、《ハネワタ》……これで、除外された光属性モンスターは3体!」

そんな天使に目をやりながら、アーリーは細く声を張る。

「だから、《ライトレイ マドール》を手札から特殊召喚する!」

白髪をびっしり逆立てて、仮面をかぶった魔法使い。羽織ったマントが変態臭い。

《ライトレイ マドール》:☆6/光属性/魔法使い族/ATK1200/DEF3000

《神聖なる魂》に、《ライトレイ マドール》。どちらもレベル6のモンスター。
やはり、エクシーズ召喚か……。

「よし。で、《手札抹殺》を発動。全員、手札をすべて捨てる」

「は?」

これは俺じゃない。フランクだ。

「ひっ」

「てめえ……」

「おっ!」

「……」

アーリー、フランク、ハイン、俺。このリアクションですべてがわかる。
すこぶる手札の悪いハインに、手札交換のチャンス到来。

「へへ……」

「え!?」

ハインの落とした《サンダー・ドラゴン》×3に、アーリーは全力で表情をゆがめた。さすがにちょっと同情する。
アーリー本人はというと……《ADチェンジャー》に、《フォトン・スラッシャー》。そういや、こいつ結局《スラッシャー》使ってねえじゃん。

「……」

フランクは黙って1枚捨てた。《ギミック・パペット-ボム・エッグ》……ふむ。
ちなみに俺は《竜宮の白タウナギ》《オイスターマイスター》《トランスターン》でした。ありがとう。

「……その後、捨てた枚数分、ドローする!」

4人一斉にカードを引いた。

「よし。レベル6の《ライトレイ マドール》と、《神聖なる魂》の2体でオーバーレイ!」

天使と変態が手を取り合って、そのまま宙へ浮き上がる。
天から差し込む光に包まれ、そのまま2人は交わった。

「エクシーズ……召喚っ! 来い、《セイクリッド・トレミスM7》!」

光をまとって現れたのは、白と金の機械竜。
プラネタリウムのようにきらめく、青い翼を左右に構え。雄々しくその場に立っている。

《セイクリッド・トレミスM7》:★6/光属性/機械族/ATK2700/DEF2000 【エクシーズ:Unit 2】

「《トレミスM7》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使って、墓地のモンスター1枚を手札に戻す」

地面がボコボコひび割れて、無数の触手が飛び出した。
うねうねしながら一つに丸まり、アーリーの手中に収まった。

「俺は、《テンパランス》を手札に戻す」

《神聖なる魂》や《ライトレイ マドール》でなく、防御カードを戻したようだ。
《手札抹殺》の使い方といい、プレイスタイルが見て取れる。

「バトルフェイズ!」

そんなことを考えながら、アーリーのほうを見ていると。ばっちり目が合いました。

「《トレミスM7》で、ダイレクトアタックだ!」

やっぱ俺ですか。
夜空のように暗い青、星の散らばる左右の翼を、これでもかってくらいに広げ。《トレミス》が俺に向き直る。
防御策、なし。俺は黙って腰を落とす。

プラネタリウムの星々の、それらひとつひとつから。細いレーザーが発射された。

「い……!」

避ける暇がなかった。
デカい翼から放たれる、レーザー砲の雨あられ。俺にどうしろと言うのかね。

「あ……g……」

結果、俺は全身打ち抜かれて、地面に倒れ伏すハメに……痛い。ちょっとこれはガチで痛い。痛い。痛い。

「大丈夫か!? 大丈夫かよ!? おい!」

切羽詰まった声がする。
痛い。痛いが、俺が倒れたらハインはどうなる。一般人のハインはどうなる。

「おい、フラッド! フラッドー!」

「……」

なんてことを考えてみたが、やっぱり痛いもんは痛い。
うつ伏せに倒れたまま、顔だけ起こし、軽く手を振る。大丈夫だから、そっとしてくれ。
《ナンバーズ》補正がある以上、この程度では死にゃしない。痛いけど。痛いけどね。残りライフは6700→4000。

「えーと、メインフェイズ2。俺は、魔法カード《一時休戦》を発動」

「あ?」

「ひっ」

アーリーが発動した魔法に、またもやフランクが切れた。

「え、えーと……お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする。そしてそのあと、次の相手のターンが終わるまで、お互いのプレイヤーはダメージを受けない」

「……全員、引け」

あわあわと説明を入れるアーリー。心底嫌そうな顔をするフランク。
『お互いのプレイヤーはカードを1枚引く』という効果だが、この場合全プレイヤーに効果が及ぶらしい。そりゃ嫌だよな。
ディスクを地面に擦りながら、なんとか目の前に持ってくる。俺はそのまま、カードをドロー。

「これで、次のお前のターン。俺はダメージを受けない……ターンエンド」

全員カードを引いたところで、アーリーはターンを終えた。
俺はのろのろ立ち上がり、再びカードを1枚ドロー。

「俺のターン、ドロー……」

さて、手札は5枚です。
ATK2700の《トレミスM7》、ATK3000の《エネアード》。どちらもユニットを残している。

「……」

……情けないが、手出しできん!

「《ハリマンボウ》を召喚」

ディスクにカードを1枚置いて、俺はのろのろ立ち上がる。
どうにかこうにか直立すると、右耳の横に気配を感じた。

『……』

『サッカァァァァァァァ!!』

マヌケなツラをしたマンボウが、静かにふよふよ浮いていた。じっと俺を見つめている。
横っ腹に青いコバンザメがくっついていた。

「《シャーク・サッカー》は、魚族モンスターを召喚したとき、それに付随して手札から特殊召喚できる」

2枚目のカードをそっと出した。
これでレベル3のモンスターが2体、エクシーズチャンス到来です。

《ハリマンボウ》:☆3/水属性/魚族/ATK1500/DEF 100
《シャーク・サッカー》:☆3/水属性/魚族/ATK 200/DEF1000

「この2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

密着したマンボウとコバンザメが、青い光に姿を変える。

「エクシーズ召喚。《太鼓魔人テンテンテンポ》!」

魚族デッキだからといって、魚族モンスターしか使わない、なんてことはないんです。
光が弾けて現れたのは、愛嬌のある食い倒れ人形。腹部の太鼓をポンポン鳴らした。

《太鼓魔人テンテンテンポ》:★3/地属性/悪魔族/ATK1700/DEF1000 【エクシーズ:Unit 2】

さて。こいつでは《エネアード》と《トレミス》を倒すことはできない。
だから、とりあえず無力化しておく。

「《テンテンテンポ》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使うことで……」

食い倒れ人形が、両手のスティックを構える。

「1ターンに1度。相手のエクシーズモンスター1体のオーバーレイユニットを、1つ墓地へ送ることができる!」

俺は静かに耳を塞いだ。
それを合図と受け取ると、人形は太鼓を打ち鳴らす。

「《トレミスM7》のオーバーレイユニットを、1つ墓地に送る!」

塞いだ耳を貫く騒音。音波が敵の《トレミス》を襲う。
しつこくドンドコ鳴る音にやられ、機械の竜は崩れ落ちた。オーバーレイユニット、1→0。

「そしてその後、《テンテンテンポ》の攻撃力が500アップする!」

食い倒れ人形はけらけら笑い、手にしたスティックでジャグリング。ATK1700→2200。
これで《トレミス》の効果は封じた。が、攻撃力では負けている。

「……」

なので、ここからは綱渡り。"煉獄の糸"に視線を向ける。
《フィッシャーチャージ》のハッタリは、ものの見事に踏み潰された。奴に小技は通用しない。
奴に対して有効なのは、致命傷となりえる罠だ。

「リバースカードを2枚出す! ターンエンド!」

俺の手札は残り1枚。この罠が決まらなかった場合、闘い続ける余力はない。
どうなることでしょうねー……。

「……俺のターン、ドロー」

フランクがカードを引く。とりあえず、やれることはやっておかねば。

「そこで、再び《テンテンテンポ》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い……」

ドローの直後に割って入る。《テンテンテンポ》のこの効果は、相手のターンでも使用可能。
騒音ドラムが再び始まる。

「《エネアード》の持つオーバーレイユニットを墓地へ送り、攻撃力を500アップ!」

暴力的な音の波が、フランクの背後の巨龍を襲う。たまらずその場で膝をつく龍。
食い倒れ人形は爆笑しながらスティックを捨てた。ATK2200→2700。
ついでに腹の太鼓も外して、空高く適当に放り投げる。

「で! オーバーレイユニットとして使われた、《ハリマンボウ》の効果発動! こいつが墓地へ行ったことで、《エネアード》の攻撃力を500下げる!」

太鼓の膜がいきなり破れ、そこから無数の針が飛び出す。
膝をついていた《エネアード》に、この針をかわすことはできない。翼をぶち抜かれ、雄叫びを上げる。ATK3000→2500。
太鼓はそのまま自由落下し、地面にぶつかり破損した。

『……』

太鼓の中にはマンボウが入っていた。
が、着地の衝撃で死んだらしい。そのまま霧になって消えた。

「……」

フランクは黙って《エネアード》を見上げる。
騒音に鼓膜をやられ、翼には穴が開き、満身創痍のその姿。
効果も使えず攻撃力も負け、《テンテンテンポ》との力関係は、今や完全に逆転した。
"煉獄の糸"は、ここからどう出るのか。

「墓地の《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》の効果発動。墓地に存在する《マグネ・ドール》を除外することで、《ネクロ・ドール》は復活する」

フランクは平坦にそう告げて、ディスクの墓地からカードを取り出す。
その横で龍は頭を振ると、爪を尖らせ、地面を殴りつけた。龍の腕が地中にめり込む。
そこで何かを掴んだようで、腕をゆっくり引き上げる。その手の中には黒い棺桶があった。

《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》:☆8/闇属性/機械族/ATK 0/DEF 0

「そしてこの《ネクロ・ドール》を墓地に送り、《アドバンスドロー》を発動」

龍は棺桶を握りつぶした。
レベル8以上のモンスター1体を犠牲にすることで、デッキからカードを2枚ドローできる、そういう魔法カードだ。
フランクはカードを2枚引く。これで、手札は3枚か。

「リバースカード、オープン。永続トラップ、《闇次元の解放》……戻れ《マグネ・ドール》!」

《エネアード》は右手の爪をうならせ、そのまま虚空を切り裂いた。
空間が裂け、そこから細身の人形が現れる。

《ギミック・パペット-マグネ・ドール》:☆8/闇属性/機械族/ATK1000/DEF1000

意識せずに冷や汗が出た。
今のプレイ。《ネクロ・ドール》を捨てていなければ、《マグネ・ドール》とエクシーズ召喚ができたはずだ。
それをしなかったのは、単にドローを優先しただけなのか、それとも……。

「そしてこの《マグネ・ドール》を手札に戻すことで、《A・ジェネクス・バードマン》は入れ替わりに手札から特殊召喚できる」

メカニカルな鳥が飛んできて、人形を咥え飛び去った。

《A・ジェネクス・バードマン》:☆3/闇属性/機械族/ATK1400/DEF 400 【チューナー】

人形を無造作に投げ捨てて、《エネアード》の翼に留まる。

「そして、《ジェネクス・ニュートロン》を召喚……レベル4の《ジェネクス・ニュートロン》と、レベル3《A・ジェネクス・バードマン》でシンクロ!」

赤と青を基調とした、モノアイの人型ロボット。

《ジェネクス・ニュートロン》:☆4/光属性/機械族/ATK1800/DEF1200

それが《バードマン》と変形合体。

「レベル7《A・ジェネクス・トライフォース》をシンクロ召喚だ!」

銃と一体化した右腕を持つ、人型ロボットMk2。フランクの前に降り立った。

《A・ジェネクス・トライフォース》:☆7/闇属性/機械族/ATK2500/DEF2100 【シンクロ】

「……」

エクシーズできる場を捨てて、シンクロ召喚を狙ってきた。
尻尾を出した覚えはない。"煉獄の糸"の底が見えない。

「光属性を素材とした《トライフォース》の効果、発動! 墓地から光属性モンスター1体を選び、裏側表示で俺の場に召喚する」

腕のリボルバーをくるくる回し、その銃口を地面に向ける。
そのまま、一発ぶっ放した。

「出てこい、《サイバー・ドラゴン》!」

着弾地点がひび割れて、そこから白い竜が飛び出す。
それを見ながら、ハインがつぶやく。

「《サイバー・ドラゴン》は裏側表示、《トライフォース》も《エネアード》も攻撃力は2500。《テンテンテンポ》は倒せなさそうだな」

おい、フラグ立てるのやめろ。
確かに、《サイバー・ドラゴン》は裏側表示だ。本来なら、おとなしく寝ているべきモンスター。
だが今その《サイバー・ドラゴン》は、元気に空中を旋回している。

「融合素材って、裏側表示でもよかった気が」

「え?」

ハインは俺の言葉の意味を理解していないようだった。
普通のデッキなら、2枚目があるとは思えない。が、奴のデッキはレベル8主軸。ということは。

「自軍の《サイバー・ドラゴン》、及び《セイクリッド・トレミスM7》! そして敵軍、《混沌球体》! これらをすべて、墓地へ送る!」

「え!?」

「え……っ!?」

機械竜および黒い球体が、いきなりその場で砕け散った。
その主であるハインとアーリーは、揃って同じようなリアクションを示す。

「以上3体の機械族モンスターを素材として……」

空気を吸うように破片を吸い上げ、《サイバー・ドラゴン》は変貌する。
《混沌球体》と《トレミス》を部品に、ボディを巨大に組み替える。

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を融合召喚する!」

ゴツい紫の機械竜が、空からズドンと降ってきた。その重量で地面を揺らす。
振動の中を這いずりながら、フランクを中心として、長い体で円を描く。

『……』

フランクの前に立っていた《トライフォース》は、バク宙をかまして《フォートレス》の背中に飛び乗った。
そしてその場で跪く。役目は終えたと言わんばかりだ。

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》:☆8/闇属性/機械族/ATK3000/DEF 0

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は、召喚に使った素材の数×1000ポイントの攻撃力を得る。よって、その攻撃力は3000ポイント!」

「うそ、《テンテンテンポ》より……」

ハインが変なフラグを立てたせいか、さらっと攻撃力を超えられた。
迫る脅威を感じ取ったのか、食い倒れ人形が大口を開ける。

「……」

しかし、今度は融合と来た。
やっぱり、あいつは……

「さて、バトルフェイズだ」

そんなことを考えながら、フランクのほうに視線を送ると、やっぱりバッチリ目が合いました。
ATK2500《聖刻神龍-エネアード》、ATK2500《A・ジェネクス・トライフォース》、ATK3000《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》。
敵陣モンスターの総攻撃力、しめて8000ポイントなり。

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で、《太鼓魔人》を攻撃する」

フランクが軽く腕を振る。と、紫の竜が顔を上げた。
1度瞬きをしたら、その時にはもう、その顔がすぐ目の前にあった。

「うわ……っ!」

《テンテンテンポ》が食われていた。

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》:☆8/闇属性/機械族/【ATK3000】/DEF 0 
  vs
《太鼓魔人テンテンテンポ》:★3/地属性/悪魔族/【ATK2700】/DEF1000 【エクシーズ:Unit 0】

バリバリバキバキ音を立て、血をあちこちにまき散らしている。ちょっとかかった。俺のライフ、残り4000→3700。

「そして《聖刻神龍-エネアード》で、ダイレクトアタック!」

なかなか凄惨な光景に軽く引いていると、今度は空に魔方陣が浮かんでいた。

「トラップ! 《ピンポイント・ガード》!」

《エネアード》が口から火を噴いた。火は球になって飛んでいき、魔方陣に飲まれて消える。
そして陣から熱線が飛び出す。俺は必死でカードを投げた。

「防げ、《竜宮の白タウナギ》ッ!」

カードから白いウナギが現れ、熱線の軌道をわずかに逸らす。
ウナギはこんがり焼けているが、ギリギリ俺は飲まれずに済んだ。

「相手の攻撃宣言時、墓地の下級モンスターを守備表示で復活させて壁にする」

《白タウナギ》改め《黒ウナギ》が、どさりと地面に落下した。そのまま地面を這い回る。
《ピンポイント・ガード》で壁にしたモンスターは、そのターンの間死ぬことはない。

《竜宮の白タウナギ》:☆4/水属性/魚族/ATK1700/DEF1200 【チューナー】

「ち……俺はこれで、ターンエンド」

どうにかこうにか生き延びた。思わずため息が漏れたよ。
さて、次はハインのターン……。

「あたしのターン! ドロー!」

勢いよくカードを引いた。
フランクはやりたい放題やってくれたが、その分アーリーの場が空いた。
腐っていた手札も交換できたし、ここで攻め込んでもらいたい。

「手札の闇属性《イリュージョン・スナッチ》、あと光属性の《太陽風帆船》を墓地に送ることで、墓地の《ライトパルサー・ドラゴン》は復活する!」

ハインは手札を2枚捨てた。

「そして、《次元合成師》を通常召喚! で、効果発動! デッキの一番上のカード……《機動要塞トリケライナー》を除外」

さらに1枚、手札を切る。

「そうすることで、《次元合成師》の攻撃力を500ポイントアップ!」

結果、場に現れたのは。
青白く光る体の竜と、金の手甲の鉄騎兵。

《ライトパルサー・ドラゴン》:☆6/光属性/ドラゴン族/ATK2500/DEF1500
《次元合成師》:☆4/光属性/天使族/ATK1800/DEF 200

「《ガリス》を攻撃表示に戻す!」

そして、鋭いクチバシ犬。手札を3枚投げ捨てて、攻撃態勢を整えた。
が、ここまでやっておいて、フランクの場には一切干渉していない。これアーリー殺せないとマジで死ぬぞ。

「行くぞ、バトルだ! 《次元合成師》でダイレクトアタック!」

狙いは当然アーリーだ。
やけ気味に叫ぶハインの横で、鉄騎兵が駆け出した。

「トラップ発動、《聖なるバリア-ミラーフォース》っ!」

そして撃沈した。

「え!?」

「攻撃してきた相手モンスターを、全滅させる!」

動じていないと思ったら、アーリーは罠を張っていた。
光のバリアにぶち当たり、鉄騎兵は跳ね飛ばされた。
さらにバリアからビームが飛び出し、《ライトパルサー・ドラゴン》を襲う。いやマジでこれどうすんだよ。

「クソ……! だったら、手札から《異界の棘紫竜》の効果発動!」

「え?」

無数のビームに貫かれ、竜はその場で爆発四散。
しかしその爆風の中から、飛び出す影が1匹分。

《異界の棘紫竜》:☆5/闇属性/ドラゴン族/ATK2200/DEF1100

「あたしのモンスターが場から墓地に送られたとき、《棘紫竜》は手札から特殊召喚できる! こいつで追撃だ!」

あちらこちらに棘の生えた、紫色の竜である。
バリアの横をすり抜けて、アーリーを食らうため飛んでいく。

「喰らえ!」

「わ、わ……!」

《ミラフォ》に安心しきっていたのか、アーリーは動揺しまくっている。
やっと攻撃が通るのか?
そう思ったら。急速飛行する竜の眼前で、突如黒い傘が開いた。

「《ジェントルーパー》! 《ジェントルーパー》! 《ジェントルーパー》を特殊召喚! 守備で!」

「はぁ!?」

早口アーリーにハインがキレると、傘の持ち主が現れた。
紳士服をばっちり着込んだ、ピンク色のウーパールーパー。開いた傘でふわふわ浮かぶ。

「クソっ、やっちまえ! 《棘紫竜》!」

そして傘ごと竜に食われた。

《異界の棘紫竜》:☆5/闇属性/ドラゴン族/【ATK2200】/DEF1100
  vs
《ジェントルーパー》:☆4/光属性/爬虫類族/ATK1200/【DEF1000】

「あ、あぶね……」

アーリーは息をついている。
相手の攻撃時、手札から身代わりとして場に出せるのが《ジェントルーパー》。《ハネワタ》に《テンパランス》といい、やたらに防御カードを多用する奴だ。
というかよく考えると《オーシャンズ・オーパー》の一撃以外、アーリーにはダメージが入っていない。

「《次元合成師》が死んだから、《トリケライナー》は回収させてもらったからな」

ハインはちゃっかりカードを回収していた。死亡時に除外されたカードを回収できるのが、鉄騎兵の能力である。
だが、バトルフェイズは終わってしまった。もう攻められない。

「……あたしは、これでターンエンド」

手札は4枚残っている。が、ハインのデッキはオールモンスター。
いくら手札が余っていようと、罠を貼ることはできないのだ。どうにもこうにも不安が残る。

「お、俺のターン。ドロー」

そうこうしている間に、アーリーのターンが始まった。
まあ、こいつの手札もわずか2枚。うち1枚は《テンパランス》、実質使えるのは1枚のみ。

「俺は、《ワーム・ゼクス》を召喚!」

その実質1枚はなんだったのか?
地面から染み出るようにして現れた、緑色のエイリアンだった。

《ワーム・ゼクス》:☆4/光属性/爬虫類族/ATK1800/DEF1000

「このモンスターの召喚に成功したとき、デッキから《ワーム》モンスター1体を墓地に送る……《ワーム・ヤガン》を墓地へ」

ドーナツに棒を4本足してXの字にしたような、気持ち悪いモンスターである。
そのドーナツの中央には、牙をむき出した口がある。

「そして場に《ワーム・ゼクス》がいるとき、《ワーム・ヤガン》は墓地から復活する! 裏側表示で!」

で、今度はその口から、黄色いスライムをドバドバ吐き出した。
スライムは地面に流れ出る。

「まだだ、墓地から《ADチェンジャー》の効果発動。これを除外して、場のモンスター1体の表示形式を変える! 《ヤガン》を攻撃表示に変更!」

スライムがにょきにょき立ち上がる。
最終的にキモい松の木みたいな形になった。二枝に分かれた2本の枝が、Yの字を形どっている。
枝の先に生えているのは、松の葉ではなく、紫色の触手。うねうねしてる。

《ADチェンジャー》:☆1/光属性/戦士族/ATK 100/DEF 100
《ワーム・ヤガン》:☆4/光属性/爬虫類族/ATK1000/DEF1800

「そして《ヤガン》は、裏側表示から表側表示になったとき、相手のモンスター1体を手札に戻す!」

触手がグジュグジュ伸びはじめ、黒焦げのウナギに迫りくる。ホラー。

「《竜宮の白タウナギ》を、手札に戻してもらう!」

ウナギは触手に飲まれて消えた。俺はカードを手札に戻す。

「……」

これで俺には壁がない。だが、エイリアン2匹の攻撃を受けても、どうにかライフは残る計算だ。
そして、奴の場にはレベル4のモンスターが2体。

「行くぞ……」

アーリーは大きく深呼吸をした。なんだ?

「……俺は! 《ワーム・ゼクス》と、《ワーム・ヤガン》、レベル4のモンスター2体をオーバーレイ!」

2匹のエイリアンがその場で溶けた。

「……あ?」

黙って見ていたフランクが、眉をひそめて声を上げる。
が、アーリーは聞いていない。黄色と緑のスライムが、混ざり合って黒くなる。
黒いスライムは地面を広がり、マンホールぐらいの円になる。
円は水面のように波打っていた。

「……」

アーリーは一度唾を飲むと、その場に屈み、黒い円に手を突っ込んだ。

「え……!?」

ハインが驚きに変な声を出した。
黒い円は、ただのスライムだったはずだ。
にもかかわらずアーリーは、それが穴であるかのように、肘まで手を突っ込んでいる。

「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

穴から腕を引き抜く。
その手には、一本の白い剣が握られていた。

「エクシーズ、召喚っ!」

そしてアーリーは引き抜いた剣を、黒い穴の傍に突き刺した。

「うぇ……!?」

ハインの顔が驚きに歪む。
剣を引き抜いた黒い穴から、これまた黒い腕が突き出た。

「……来てくれ、俺の《ナンバーズ》!」

2本目の腕。頭。胴。足。
ドス黒い姿の人間が、黒い穴から這い出てきたのだ。
這い出たそいつはゆっくりと立ち上がり、アーリーが突き刺した剣を握る。
そして、すぐに剣を抜いた。

「現れろ、《No.39》! 《希望皇ホープ》!」

「え、あ、え……!?」

ハインが驚きに目をこすった。
さっきまでコナンの犯人だったはずの、穴から出てきたブラック人間は、今。
どういうわけだか、白い甲冑を身にまとう、光り輝く騎士へと……姿を変えていた。


《No.39 希望皇ホープ》:★4/光属性/戦士族/ATK2500/DEF2000 【エクシーズ:Unit 2】


「……こいつ、《ナンバーズ》!」

白い甲冑の背中からは、翼を模したパーツが伸びている。
その威容にしばらく気圧されていたが、ハインが思い出したように声を出した。
で、そのあとに続いたのは、意外なことにフランクさん。

「おい、アーリー。どういうつもりだ」

「え、え……?」

《フォートレス・ドラゴン》、《トライフォース》、《エネアード》。
3体のモンスターを背後に置き、腕を組んだまま、"煉獄の糸"は言葉を続ける。

「この状況なら、《ワーム》2体で攻撃してから、そのあとでエクシーズするのが普通だ。違うか?」

「あ……」

冷静に、プレイングミスの指摘をしていた。
まあ、そうだね。《ホープ》の攻撃力は2500、《ゼクス》と《ヤガン》はそれぞれ1800と1000。
2体で殴ったほうが、単純なダメージは大きくなっていた。

それに、こんな罠に引っかかることもなかった。


「トラップ、発動。《スプラッシュ・キャプチャー》」


白い騎士の現れた穴から、間欠泉が噴き出した。


「え、あ……!?」

「チッ!」

「……え?」

目の前に立ち上る水柱。
アーリーは驚き、フランクは舌を打つ。ついでにハインも驚いていた。

「相手がエクシーズ召喚を行ったとき、墓地の魚族モンスター2体を使って発動できる」

今この場は、俺の独壇場だ。

「相手が召喚した、そのエクシーズモンスターを……奪い取るッ!」

水柱から飛び出したのは、水色の鮫と赤い金魚。ロープをくわえて飛び出した。
くわえたままのそのロープを、器用に《ホープ》の甲冑へ引っかけ、そのまま上空へ飛び上がる。

「あ、ああっ!? 待て、待てよ!」

ようやく状況が飲めたようで、アーリーは空へ手を伸ばす。が、もはやどうすることもできまい。
2匹の魚はしっかりと、俺の手に《ホープ》を連れてきた。
俺の場に白い騎士が降り立つと同時に、アーリーのディスクから《No.39》のカードが飛んでくる。それを受け取り、俺のディスクに置く。
アーリーの手札は残り1枚、しかもそれは《テンパランス》。どうせできることはないので、このままターンを進めさせてもらう。


☆現在のフィールド☆
《ハイン・ウエイン》 手札:4 LP:8000
場:《異界の棘紫竜》@ATK2200

《フラッド・ビーチ》 手札:2 LP:3700 【NEXT】
場:《No.39 希望皇ホープ》@ATK2500

  vs

《アーリー・ウォーリー》 手札:1 LP:7300
場:なし

《フランク・ストレイド》 手札:3 LP:7200
場:《聖刻神龍-エネアード》@ATK2500 《A・ジェネクス・トライフォース》@ATK2500 
  《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》@ATK3000



「俺のターン、ドロー!」

アーリーの残りライフは、7300ポイント……。

「《竜宮の白タウナギ》を召喚。そして手札から、フィールド魔法《忘却の都 レミューリア》を発動する!」

地響きとともに《スフィア・フィールド》が揺れる。
足元がボコボコ盛り上がり、白い石造りの建物が、いくつも《フィールド》に現れた。
白いウナギも現れて、《ホープ》の隣に並び立つ。

《竜宮の白タウナギ》:☆4/水属性/魚族/ATK1700/DEF1200 【チューナー】】

「《レミューリア》が発動している間。フィールドの魚族モンスターの攻撃力と守備力は、200ポイントずつアップする」

「……ん? あれ?」

ハインが何か言いたがっているが、スルーしてプレイを進める。

「そして、《レミューリア》第二の効果発動! 俺の場に存在する水属性モンスター1体につき1つ、場の水属性モンスターのレベルを上げる!」

地中海チックな白い町並み。そこから水の力を受けて、《白タウナギ》は巨大化する。レベル4→5。
さて。さっき《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》が召喚されたとき、フランクは……
アーリーのモンスターを素材とする際、「『自軍の』《サイバー・ドラゴン》及び《トレミスM7》」と言った。

つまり。

「ハイン! モンスター借りる!」

「え? お、おう!」

このタッグデュエル、チーム2人のフィールドは分割されているが……味方間でのカードの利用は、許されているということだ!
棘まみれの紫竜が、俺の下へ飛んでくる。

「レベル5《異界の棘紫竜》と、レベル5になった《竜宮の白タウナギ》でオーバーレイ!」

そして白いウナギとぶつかり、紫と白は混ざり合う。
2匹は灰色の光になると、建物の陰へと消えていく。

《異界の棘紫竜》:【☆5】/闇属性/ドラゴン族/ATK2200/DEF1100
《竜宮の白タウナギ》:【☆5】/水属性/魚族/ATK1900/DEF1400

「こっち!」

「え?」

「こっち来て!」

手招きでハインを呼び寄せる。
ハインはいまいち理解していないようだったが、釈然としない表情で、こちらに走り寄ってくる。
んー、まあそのくらいの位置でいいか。よし。

「エクシーズ召喚!」

足元が爆発した。

「お、おわ……!」

ハインはその場で尻餅をつく。
俺とハインと、ついでに《ホープ》。その足元の地面が不自然に盛り上がり、そのまま空高く浮き上がる。

「な、なんだこれ!?」

離れていく地面を見下ろしながら、ハインが恐る恐る呟いた。

「飛べ、魚たちの大和――《シャーク・フォートレス》ッ!」

黒い鮫の姿を模した、10mオーバーの空中要塞。
浮上したその要塞に乗って、俺たち2人は飛んでいた。

《シャーク・フォートレス》:★5/闇属性/魚族/ATK2400/DEF1800 【エクシーズ:Unit 2】

「……チッ」

眼下でフランクが舌打ちをした。と思う。離れたせいでよく聞こえないけど。

「この《シャーク・フォートレス》も魚族だー! よって、《レミューリア》の効果を受けて、攻撃力は200ポイントアップー!」

なので、俺は声を張り上げて説明する。

「え? お、おい! ちょっと待て!」

ハインが立ち上がり寄ってきて、俺の肩を乱暴に掴んだ。
その手を払って、俺は続ける。

「で、《シャーク・フォートレス》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、場のモンスター1体の攻撃回数を増やす!」

重低音を響かせながら、黒い要塞は鳴動する。振動でハインがコケた。

「この効果を、《シャーク・フォートレス》自身に使う。これで、《シャーク・フォートレス》はこのターン2回攻撃することができる!」

「ちょ、ちょっと待てよ! 《ホープ》に使うところだろそれ!? なんか勘違いしてないか!?」

要塞の後ろのほうで跪いていた《ホープ》。
その《ホープ》を指差しながら、ハインがぎゃあぎゃあ叫んだ。

「《フォートレス》の攻撃力は200上がって2600、《ホープ》より高い。だから、2回攻撃させるならこっちじゃ?」

「だから! それが勘違いなんだよ、《レミューリア》で攻撃力が上がるのは魚族じゃねえ! 『水属性モンスター』なんだよ!」

「……いや、《レミューリア》ってたしか、《海》と同じ……」

「だから、それは名前だけ! 《白タウナギ》の攻撃力が上がったのは、あいつが水属性だから! 《フォートレス》は闇属性だろ!?」

「……」

俺は要塞の前のほうに立つ。
《レミューリア》のカードをディスクから抜き出し、そのテキストを読んでみる。

《忘却の都 レミューリア》
フィールド魔法
このカードのカード名は「海」として扱う。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする。
また、1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
このカードがフィールド上に存在する限り、
自分フィールド上の水属性モンスターの数と同じ数だけ、
自分フィールド上の水属性モンスターのレベルをエンドフェイズ時まで上げる。

確か、《海》のテキストは……

《海》
フィールド魔法
フィールド上に表側表示で存在する魚族・海竜族・雷族・水族モンスターの
攻撃力・守備力は200ポイントアップする。
フィールド上に表側表示で存在する機械族・炎族モンスターの
攻撃力・守備力は200ポイントダウンする。


「……」

「~~~~!」

カードを持ったまま黙っていると、ハインがその場で地団太を踏んだ。
無視されてイラついていたのだろうが、《フォートレス》が可哀想だからやめてほしい。
しかし、ナイスアシストだ。目だけでアーリーのほうを見る。

「……っ」


ため息まじりに、苦笑していた。


うん。つくづくナイスなアシストである。

「……バトルフェイズー! 《ホープ》でダイレクトアタックだ!」

アーリーを指して《ホープ》に命じる。
要塞の上で跪いていた、白い甲冑の輝く騎士は、剣を構えて跳躍する。

「う、わ……!」

上空からの急襲に、アーリーは数歩後ずさる。
《ホープ》はそのままアーリーに迫るが、その眼前で急停止した。

「《テンパランス》を手札から捨てることで、俺へのダメージを1度だけゼロにする!」

ぶっとい触手がうねうねしながら、アーリーの前で壁を作っていた。
《ホープ》は触手を切り払うが、その隙にアーリーは逃げおおせる。

「なら……《シャーク・フォートレス》で、2連続攻撃だ!」

要塞が少しぐらついた。
同時に、大量のミサイルが発射される。

「おわ……ああああああああああああああああっ!」

4800ポイント分のミサイル。もう回避どうこうの話じゃない。
ばら撒きミサイルの直撃を受けて、アーリーはその場で撃沈した。土埃すごくて見えないけど、撃沈したに違いない。

「う……ぐ……」

だが、奴も《ナンバーズ》持ち。この程度では死なないか。
黄色い砂煙の中で、立ち上がろうとする影が見える。

「……あれ?」

いや待て、なんか変だな。
あいつの《ナンバーズ》、《39》は今俺の手にある。
なのに、《ナンバーズ》の力が発揮されている……?

「ダメか、《フォートレス》でも仕留めきれねえ……!」

ハインの悔しそうな声を聞いて、ふと我に返る。
《39》以外にも《ナンバーズ》を持っていた、そんなところだろう。


そんなことより、この勝負を終わらせるのが先だ。


「いや、終わったよ」

「え?」

不思議そうにするハインに、俺は1枚のカードを見せてやった。

「《イージーチューニング》。発動してたから」


《イージーチューニング》
速攻魔法
自分の墓地のチューナー1体をゲームから除外し、
自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択した自分のモンスターの攻撃力は、
このカードを発動するために除外したチューナーの攻撃力分アップする。


では、改めて。

「速攻魔法、《イージーチューニング》! 墓地に存在するチューナーモンスター1体を除外することで、その攻撃力を場のモンスター1体に加える!」

速攻魔法を天高く掲げ、アウトローたちに見せつける。

「《竜宮の白タウナギ》を除外することで、《シャーク・フォートレス》の攻撃力を1700上げた!」

2400×2で、4800ポイント分のミサイル。さっきはそう言ったが、嘘だ。
実際にやったのは4100×2。総ダメージは8200。アーリーの残りライフは7300。以上。

「え、え……!?」

「……バカ野郎が」

アーリーはテンパり、フランクは悪態をつく。

「……あれ、もしかして」

そんな敵の姿を見つつ、ハインは急に顔を上げる。

「攻撃力の低い《シャーク・フォートレス》を、2回攻撃できるようにした……」

少し上のほうを見ながら、記憶をたどるようにぼやく。
そして、俺のほうを見た。

「もしかして、狙ってたのか? あれ」

その言葉を待っていました。

「自分が使うカードの効果を、間違えるわけないでしょ」

《レミューリア》で《シャーク・フォートレス》の攻撃力が上がらないことくらい、ちゃんと把握しているさ。
《ホープ》ではなく《フォートレス》に効果を使う、その口実が欲しかっただけだ。

「そうすりゃ、使ってくれるでしょ? 《テンパランス》を、《ホープ》に、さ」

『1度だけダメージをゼロにできる』と言われれば、もっとも大きいダメージを止めるのが普通だろう。
普通に特攻した場合、《イージーチューニング》で強化したモンスターの攻撃のうち、1回は《テンパランス》に防がれてしまう。
ダメージは2500+2400+1700=6600。それではライフを削り切れない。
だから、あえて攻撃力の低い《シャーク・フォートレス》に2回攻撃能力を付与した上で、
その時点で最も攻撃力の高かった《ホープ》に、《テンパランス》を使わせる必要があった。

「ほえー……」

そんな説明をしたわけではないが、ハインは勝手に理解したようだ。
そして、一言。

「あんた、意外とセコいんだな」

「……」

褒めるなら、そこは「したたか」と言ってほしかった。
まあ、いいか。

「《シャーク・フォートレス》!」

《フォートレス》はさらに高度を上げる。
アーリーと《No.39》が発動した《スフィア・フィールド》は、かなりの広さを誇っている。東京ドーム何個分だろう?
というわけで。ぐらつき倒れるハインに向け、俺は紳士的に告げてやった。

「落ちないように、気を付けて」

「え?」


「行け、《シャーク・フォートレス》!」

命令と同時に。
それまで固定砲台だった要塞は、まっすぐ飛行を開始した。

「3400ポイントの、追加ダメージを……食らわせろ!」

短い助走でスピードに乗る。
そしてアウトローたちの頭上に来ると、無数の爆弾をばら撒いた。

「え……お、わ、うわああああああああああああああああああああああああああ!!」

背後で聞こえるアーリーの悲鳴が、どんどん遠ざかっていく。ライフポイント、7300→3200→0。
アウトローたちを通り越し、要塞はそのまま飛行する。猛スピードで。

「な、なに、なに考えてんだ……!」

ハインの声が途切れ途切れに聞こえる。

「このまま、逃げる!」

俺の声も途切れ途切れだ。風圧キツい。というか落ちそう。
デュエルが始まるとき、フランクは『一人殺ればそれで済む』と言った。
《ナンバーズ》を持っているのは俺だけなので、その俺を仕留めさえすれば、一般人のハインはどうにでもなる。
そういう意味の発言だったのだろうが、それがそのままタッグデュエルの勝利条件になったとすれば。

「あ、《スフィア・フィールド》が……!」

ハインの声に顔を上げると、青色の《スフィア・フィールド》が、ボロボロ崩れ落ちつつあった。
やっぱり、そうだ。アーリーを撃破した時点で、デュエルは終わったとみなされている。
"煉獄の糸"に勝てるビジョンが浮かばなかったので、ひたすらアーリーを狙ったのだが、どうやら正解だったようだ。

「……」

というか、終わらなかったらたぶん死んでた。
《スプラッシュ・キャプチャー》をピンポイントで回避された辺りから、"煉獄の糸"に勝つビジョンは見えていない。

「で、でも、待てよ! 《フィールド》が、消えたら……」

《フォートレス》は飛行を続ける。
《スフィア・フィールド》の突き当りが見えてきた。

「実体化してるこいつは、立体映像に戻っちまうんじゃ……!?」

「行けー!」

《フォートレス》の巨体が、ひび割れた壁に激突する。
特に抵抗もなく壁は砕け、俺たちは《スフィア・フィールド》の外に飛び出した。

そして、落ちた。

「あ、わ、あああああああああああああああああ!?」

《フィールド》を出た時点で、《フォートレス》はただの立体映像に戻った。そんなものに乗れるわけがない。
だがまあ、焦ることもない。

「《シャーク・ドレイク》ッ!」

デッキからカードを1枚出して、ディスクにセット。
《ナンバーズ》だけなら、《フィールド》の外でも実体化できる。

「受け止めろー!」

4枚ビレの赤い鮫が、いきなり空中に出現した。
2枚のヒレで器用に俺たちを受け止めると、残った2枚で空中を泳ぐ。

「……」

「ふぅ……」

これでどうにかなりそうだ。俺は軽く息をつく。
ハインは死にそうな顔をしていた。

「……死ぬかと、思った……」

顔を動かさずに呟いた。ほんとに死ぬんじゃないかなこいつ。

「まあ、なんとか助かったし。《No.39》も、盗ませてもらったし。いいんじゃ?」

《シャーク・ドレイク》に掴まりながら、左手のデュエルディスクを見せる。
さっきので奴らを仕留められたかどうかはわからない。
だが、《スプラッシュ・キャプチャー》で奪った《39》は、このまま持ち逃げさせてもらおう。

「あれ? あんた、《No.39》……どこ行ったんだ?」

「え?」

ハインの顔に生気が戻った。
そして俺の顔からは表情が消えた。

「……あれ?」

デュエルディスクを確認する。
そこに置かれていたカードは、《シャーク・フォートレス》と《シャーク・ドレイク》の2枚だけ。おい、《ホープ》はどこ行った。

「まさか、落としたのか?」

ハインが引き笑い気味に言うが、そんなはずはない。
《フォートレス》はちゃんとディスクに固定されている。《ホープ》も同じだったはずだ。

「……」

……えぇー……?




☆現在判明中のナンバーズ所有者☆

"異世界人(自称)" 《フラッド・ビーチ》
所持ナンバーズ:《32》 《63》 使用デッキ:【魚族】

"元酒場の女" 《ハイン・ウエイン》
所持ナンバーズ:《???》 使用デッキ:【上級軸フルモンスター】


"600$" 《アーリー・ウォーリー》 懸賞金:600$
所持ナンバーズ:《39》 使用デッキ:【光属性?】

"煉獄の糸" 《フランク・ストレイド》 懸賞金:7500$
所持ナンバーズ:??? 使用デッキ:【カオスパペット】

     


明るい色の建物が、ずらりずらりと立ち並ぶ。
石造りのおしゃれな街に、俺たちはたどり着いていた。

「あー……」

そんな街の一角の、やっぱりおしゃれな喫茶店。
その一席に腰かけて、ハインは深く息をつく。

「生き返る」

そしてコーヒーに手を付けた。

「……」

俺も一口飲んでおきつつ、店内を見渡してみる。

『西部開拓時代』。

ガンマンだとかアウトローだとか、今まで見てきたものからは、その言葉が連想された。
だが。『石造りの建物』っていうのは、あの時代にあったのか……?
ここが異世界である以上、時代背景が一致するとは限らない。それでも、違和感は付きまとう。

まあ、いいか。

「バテイトラ、か……」

なんとなく、ぼやく。

「……しっかし、さぁ」

それを無視してハインが聞いてきた。

「あんたもさ、出せるんだろ? 《スフィア・フィールド》」

いきなりの今更な問いである。
とりあえず頷いた。

「だったら、わざわざ歩かなくたってさ……あの時みたいに、《シャーク・フォートレス》で飛んでくればよかったじゃんか」

声には恨みがにじんでいた。


あれから何があったのか。

《スフィア・フィールド》を出た後は、とにもかくにもひたすら逃げた。
その結果、本来進むはずだったルートがわからなくなった。
なので、途中で見つけた【この先バテイトラ→】の看板だけを頼りに、ひたすら歩き続けた。
で、今朝この街――バテイトラにたどり着いたのだが、ハインはどうも不満なようだ。生き残ったんだからいいだろうに。

「それだと、目立つ」

そのくらい俺も思いついたが、実行するのはまずかった。

爆撃で奴らを煙に巻き、そのまま《フォートレス》ですっ飛んできた。
とはいえ。
いちいち馬鹿でかい《フィールド》を展開して、これまた馬鹿でかいモンスターを召喚して、それに乗って空中を飛んで……
……なんてことを、だだっ広い荒野でやっていたら。すぐに居場所がバレてしまう。

「……だったらさ、《32》は? 《シャーク・ドレイク》だけなら、《フィールド》なしでも出せたんだろ」

「あいつにそこまでの馬力はないよ」

尚もハインは文句を言うが、無茶を言うなと言ってやりたい。
《シャーク・ドレイク》はあくまで鮫だ。人を乗せて飛ぶとか走るとか、馬車じゃないんだからさぁ……。
あれは緊急回避であって、常用できる移動手段じゃない。

「はぁ……」

言い返せなくなったようで、ハインは肩を落とすと黙った。
頼んだサンドイッチが出てきたので、お互い黙々とそれを食べる。

「……生きた心地がしなかったよ」

ハインの小さな呟きには、やたらと情感がこもっていた。


歩き続けた2日間。道中の食糧問題は、《ナンバーズ》フル稼働で乗り切った。

フォードから奪い取った《ナンバーズ》、《No.63 おしゃもじソルジャー》。
見たままふざけた名前の通り。戦闘における有用性は、かなり微妙なところである。少なくとも俺のデッキでは扱いづらい。
が、こいつが意外なところで実用性を発揮した。

しゃもじに手足を取り付けて、両手に爪楊枝を握らせた、一寸法師のようなモンスター。
こいつを実体化させると、不思議。どこからか器具を持ちだしてきて、器用に火を起こし、料理をする。
その腕前は一級品。ゲテモノとしか思えないものでも、食えるようにしてくれた。これが《ナンバーズ》の力らしい。
そしてこの世界は、《ダイヤウルフ》や《シルバー・フォング》のようなモンスターが、普通に出てくる世界である。
以上。

……ちなみに、水は《シャーク・ドレイク》が出せた。あまり気持ちのいいものではないが、《おしゃもじ》に任せればとりあえず飲めるようになった。


「……」

粛々とサンドイッチを味わう。
まともなものが食えるというのは、やはりありがたいものである。
《おしゃもじ》の腕は一級品だ。一級品なのだが。食ってる物はモンスターで、飲んでる物は鮫の吐いた水。
まあ……いろいろと、辛いものがあるのだ。

「はー……それで、これからどうする?」

サンドイッチをもごもごしながら、ハインが問いかけてくる。
これから、かぁ。

「……酒場?」

RPGと言えば酒場。貧困な発想でごめんなさい。
そんな俺の返答に、元酒場の娘は微妙な顔をする。

「今からってのは、ちょっと早いと思うけど……っていうか、あたしはもう寝たいよ」

ハインはだいぶ疲れているようだった。まあ無理もない。

「……わかった。じゃあ、ここからは別行動ってことにしよう、あたしは夜まで寝てるからさ」

「別行動?」

「うん。今のうちに宿は取っとくから、あたしはそこで休んでる」

サンドイッチを飲み込んで、ハインは軽く手を払う。

「夜になったら、2人で酒場に行こう。そういうことで」




というわけで、現在単独行動中です。
町をのそのそ一人で歩く。

「……」

割と広い街である。
とりあえず歩いてみてはいるが、何が何の建物なのやら。

「……ん?」

目立つ建物が一つあった。

……ステンドグラス?

白い石で出来た、屋根の高い建物。
大きく、きれいな色のガラスが、光を浴びてきらめいている。

「教会?」

ステンドグラスっていうのは、もう少しカラフルなものだと思っていたが。薄い水色一色である。
まあ、綺麗ではあるけどね。実物って初めて見た。

「……」

しかし、教会……教会、かぁ。
この世界の宗教観って、どんな感じなんだろう?

「よし」

宗教に興味があるわけじゃないが、なにせここは異世界なのだ。文化の把握に役立つかも。
というわけで、俺は教会へ足を向けた。


ノックは……いらないか。
教会の扉の前に立ち、一度深呼吸をしてから、その扉を押し開けた。

「ほー……」

水色のガラス越しに光が入ってくるからか、どことなく水族館のような雰囲気を感じる。
礼拝堂っていうのかな、ここ。中に入って、戸を閉める。
左右にずらりと並んでいるのは、ベンチのような形の椅子。

「へー……」

椅子の間の広い道を、胸を張って堂々と歩く。結婚式みたいな気分だな。
白を基調としているのは、外も中も同じのようだ。
差し込む淡い青の光が、白とうまくマッチして、いい感じの雰囲気が出ている。

「ふーん……」

意味のないことを呟きながら、ウェディングロード(正式名称知らない)をまっすぐ進み、祭壇(でいいのか?)のほうへ歩いていく。
そこでやっと、祭壇の横に立っている、一人の女性に気がついた。

「――あら」

胸のあたりまで伸びた、長い銀髪。俺より少し背が低い。
光の加減か知らないが、やや青みがかって見える。

テンプレ的な修道服を着て、テンプレ的な頭巾を被っている。テンプレと少し違うのは、色が薄い水色なこと。
首からは四角いロケットペンダントがかかっている。ちょうどカードが入りそうなサイズだ。
しかし、髪って出していいのか? 頭巾にしまうもんじゃないの?

「こんにちは」

なんてことを、ぼんやりと考えていたのだが。
いざ目が合うと、そんなものは吹き飛んだ。

「あ、えっ……と、ども」

テンパった。
テンパる程度には美人だった。つまりすげえ美人だったというかドストライクだったというか……
丸い目がにっこりとほほ笑んでいた。

「どうなされましたか?」

その声の響きは、まさに聖母のようだった。
そして聞かれて思い出したが、何しに来たって言えばいいんだろう。
『軽く見学にきました』? 事実だけど、ちょっと意味がわからない。

「えー……と」

「……」

謎のシスターさんはニコニコと笑っている。

「……。その、最近、人生に迷ってるというか……」

考えた末に出てきたのが、これ。
我ながら頭の悪い台詞だが、しかしこのまま続けるしかない。

「その、生きる道がわからなくなって……」

まあ、あながち嘘でもない。
いきなり謎の世界にワープして、以降ウエスタンサバイバル。迷うどころの話じゃない。

「それで、教えを乞いたいと」

「いけませんよ、甘えては」

「え?」

どうにか言葉を紡いでいると、食い気味に答えが返ってきた。

「あなたの人生は、あなたの闘い。あなたが自分で闘って、道を勝ち取るほかありません」

少し目を細めて、一歩俺に詰め寄ってきた。
見上げられる形になるが、上目遣いというには目が鋭い。
意外と辛辣な答えっていうか、なんなの? そういう教義なの?

「己の手で、己の道を切り開こうとする者にのみ。救いはもたらされるのですよ」

思わず俺が一歩下がると、またもや一歩詰め寄ってきた。
胸のペンダントを軽く持ち上げ、中を開いて俺に見せる。
案の定と言うべきか、中には1枚のカードが入っていた。

「……《輝光帝ギャラクシオン》?」

中に入っていたカードは、俺にも見覚えのあるカード。

の、はずなのだが。


《輝光帝ギャラクシオン》
ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守2100
「フォトン」と名のついたレベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つまで取り除いて発動できる。
この効果を発動するために取り除いたエクシーズ素材の数によって以下の効果を適用する。
●1つ:手札から「       」1体を特殊召喚する。
●2つ:デッキから「       」1体を特殊召喚する。


カードテキストの一部、というか、最も大事な部分。
そこが、すっぽり抜け落ちていた。

「あれ……?」

おかしい。
この世界のカードは、材質も性質も、俺のいた世界のカードとは全く違う。よりバイオレンスなものになっていた。
だが、それでも。書いてあることは、カードテキストそれ自体は、俺の世界と同じものだった。
だというのに、これは何だ?

「えっと……これって?」

やや厳しくなった目つきで、俺を見つめていたシスターさんに、恐る恐る聞いてみる。

「主は、いつでも見ています。己を高め、闘いに臨み、真の意味での勝利を、己の手で掴み得た時」

どこか酔ったような表情で、シスターさんは諭すように言う。

「私たちは、主の名を呼ぶことが許されるのです。その時、すべては報われる」

「……」

どうやら、ミスプリントの類ではないようだ。
シスターさんの教えは続く。

「我々青光教会の修道士は、いついかなる時でも《輝光帝》を呼び出せるように……日々、修練に励んでいるのです」

そう言って、ロケットを閉じた。
せいこうきょうかい、か。

「えーと、その……神様の名前っていうのは、わからないんですか」

「主の名を語ってはいけません」

また食い気味に返ってきた。
大股で詰め寄ってくる美人。いろいろと心臓に悪い。
こういうの、なんて言うんだろう。偶像崇拝の禁止? ちょっと違うか?

「弱き身で神の名を呼ぼうなどと、恐れ多い……」

シスターさんはそう言うが、わからないってことなのか?
知ってるけど言えないってことなのか?

「神の名を呼ぶに値する強さを得たと、主がお認めになった時、はじめて」

そこはいまいちわからないが、胸のペンダント――《ギャラクシオン》を握りしめて、シスターさんは後ろを向いた。

「《輝光帝》に記された神の名を、私たちは知ることができる。その時のために、我々は己を高めるのです」

「……」


《銀河眼の光子竜》って、そんな大層なもんだったのか。
なんだろう、余計この世界がわからなくなったぞ。

     


その後もしばらく街を散策、時間をつぶした後宿に向かった。

「ん……んー……」

ハインはガチ寝していた。
疲れていたのか知らないが、約束はどうした約束は。
とはいえ起こすのも忍びないので、俺もそのまま眠ることに。

「青光教会? 行ったの?」

で、ただいま朝食中。
昨日教会に行ったと言うと、ハインは目を丸くした。

「うん」

「……あんたもまあ、めんどくさいとこに踏み込みたがるもんだね」

「めんどくさい……?」

「ああ」

ハインはうんうん頷いて、寝起きの髪をかき上げる。

「なんつーの、その……教義が教義だから? あそこの連中、相当強いよ。上の連中も、下の連中も」

「あー……」

僧兵、っていうのかな。
確かになかなか過激というか、ストイックな思想を持っているようだった。

「それだけなら別にいいけど、嫌な噂もちょいちょい聞くし。アウトローに武器の横流ししてるとか」

ふむ。
あ、ちなみに。昨日、街を散策してみてわかったのだが。
銃火器とカードを同じコーナーで取り扱っている店があったので、この世界ではカード=武器らしい。

……シュールと言えばシュールなのだが、俺もそれで実害を受けたり与えたりしてるので、ちょっと笑えないところがある。

「あんたも見ただろ。《フォトン・スラッシャー》」

「ああ……」

そしてここで言う『武器』とは。
賞金首のアーリーが、《フォトン・スラッシャー》を持っていたことを考えると。カードのことを指すのだろう。

「《フォトン》のカードは、表に出回ってるもんじゃない。どういう経路で手に入れてるのか知らないけど、あれは青光教会だけの力なんだ」

それをアウトローが持ってるってことは、いろいろ黒い話になる、ってことだ。

「……」

じゃあ、《ギャラクシー》はどうなんだろう? 
そう思ったが、聞いていいものかどうか。
いろいろ勝手が違いすぎて、なにがなんやらわからない。《銀河眼》が信仰集めてる世界だぞ。

「関わらないのが一番だと思うけどね。……で、どうするつもりなんだ? 今日は」

そうして若干まごついていると、ハインは話を切り上げた。
今日の予定、ですか。

「えーと、今日もちょっと顔出してこようかなって」

「……教会に?」

「うん」

すげえ呆れた顔をされた。

「あんたさー、何? 今言ったばっかでしょ?」

「えー……あー、はい」

はい、わかってます。やめとけって言われたのはわかってます。
わかってますが、かなり好奇心をそそられるんだ。
アニメではそれなりのポジションについていたとはいえ。ただのいちカードに過ぎない《銀河眼》が、神。
《オシリス》や《ラー》を差し置いて、《銀河眼》が、神。面白い。実に面白い。
この世界の核心に迫る鍵が、そこにあるかもしれない。

「あ。服買いたい」

それともうひとつ、思い出した。
ハインのいた町は荒れ放題だったので、観光もクソもなかったから、素通りしてしまったが。
せっかくまともな街に来た以上、少しは買い物も楽しみたい。

「服? あんたそーいうの気にすんの?」

「いや、まあ……」

心底意外そうな顔をされた。そのくらい俺だって気にするぞ。
2回のデュエルでダメージを受け、着ている服はズタボロだ。マントで誤魔化してはいるが、そろそろ新しいのが要る。
もひとつ別の理由もあるが、とりあえず新しい服が要る。

「うーん……そういえば、あんたのその恰好どっかで……」

ジロジロ俺を見ていたハインが、腕を組んで首をかしげる。
俺はそれとなくマントを羽織った。


流石に、《ガガガガンマン》から剥ぎ取った服を、そのまま着ているとは……言えないよなぁ。




そんなわけで、またもやハインとは別行動。あいつはあいつで行くところがあるらしい。
俺は俺で、街を散策。

この世界に来た後。ハインの町へたどり着く前に、道行く人と何度かすれ違った。
どいつもこいつもウエスタンな格好で、ウエスタンな馬に乗っていた。
そんな時、野生の《ガガガガンマン》に襲われたので、ぶちのめして服と金を奪い取った。

……我ながらいろいろ酷いとは思うが、おかげでこの世界に馴染むことができた。
そのままの格好じゃ、たぶん周囲から浮きまくってたし。そんな異世界転移系ストーリーを歩む気はない。

「毎度」

というわけで、適当な服を見繕ってから、俺は店を出た。
まあ、あまり変わり映えしないというか、どちらにせよウエスタンなファッションなんだが。
なるべくキョロキョロしないよう、胸を張って町を歩く。

「いらっしゃい」

で、次に入ったのは、カード屋……じゃない、武器屋。
世界が変わっても、カードショップに入る時のワクワク感は変わらないものだ。拳銃どもには目をつぶる。

「……」

しかし、品ぞろえはあまりよくない。
どうせならここでガチな感じのデッキを組んでやろうかと思ったが、どうもその手のカードは見当たらない。
優秀と言えるカードには、軒並み高値がついている。

「……あ」

そんな中、投げ売り同然の値を発見。
手に取ってみると、よく覚えているあのカード。あー、ね……。

「いや……んー……でも……」

正直、そんなに使いたいカードではない。ないんだが。
この世界では《ナンバーズ》が貴重なものとして扱われているというか、1種1枚しか存在しない扱いになっている。
だからかどうか知らないが、この世界に来た時俺が持っていたのは《No.32》だけだった。
要するに、エクストラデッキが何枚か欠けてる。

「……買うか」

というわけで、穴埋めに起用することとした。どうせクズ値だし、まあいいか。
その他、なぜか見覚えのないカードも売っていたので、それも買う。
こっちは若干値が張ったものの、我がデッキとの相性は抜群。どうしても見逃せなかった……の、だが、なんだろうこれ? 見たことないぞ?

「毎度」

まあそれはともかくとして。
《ガガガガンマン》が意外と金を持っていたことに感謝しつつ、俺は店を出た。


「さて……」

散策もそこそこに、行くべきところは……やはり、教会。
またあのシスターさんがいるのか。それとも、今日は神父がいるのか?
昨日は気圧されてしまったが、もう少し詳しい話を聞きたい。
聞きたいんだが、なんて言おう。青光教会とやらがこの世界においてどの程度の知名度を誇るのか、未だによくわかっていない。
キリスト教くらいメジャーだったら、「どういう宗教かよく知らないんで教えてください」とか言ったらまずいんじゃないか。

そんなことを考えてると、もう教会に着いてしまった。
やっぱりデカい教会だよなあと、建物をぼんやり見上げて思う。

「ま、いっか」

仮にも神に仕える者たち。多少おかしなことを言おうが、寛大な対応を見せてくれよう。
そう頷いて、軽く戸を開け、中に入った。


入って後ろ手で戸を閉じて、祭壇のほうに目を向けて――


速攻で椅子の裏に隠れた。


「甘えてはいけません。あなたの問題は、あなたが……」

「そんな、俺だって怖いんですよ! 悩んでるんですよ!」

誰かいた。
後ろ姿なのでよくわからないが、一人の男が、昨日のシスターさんと話している。
うん。後ろ姿なのでよくわからないが、とっさに隠れてしまったのは、おそらく……。

「ほんとにおかしいんですよ。ちゃんと15枚持ってたはずなんです。それが急に2枚消えたんです!」

「落としたか、盗まれたのでは? あなたの失態は、あなたの手で……」

「そんなんじゃないんですって!」

会話は結構白熱している、というか男の方が必死だ。そのせいか、2人とも入ってきた俺に気付いていない。
絨毯の敷かれたウエディングロード。その両脇に立ち並ぶ椅子。
その椅子の裏に隠れつつ、2人の話に耳をすます。

「メインデッキもそうなんです! カードが、いきなり白紙になったんですよ!」

「白……はい?」

「デュエルの途中で引いたカードが、白紙だったりするんです。ほんと、意味がわからない……」

「……あなたの人生は、あなたの闘い。ですが、闘うためには休息も必要です。少し休むことを……」

「だから、そうじゃないんですよ! 幻なんかじゃない! デュエルが終わると元に戻ってる、それが怖いんだ!」

男が地団太を踏んだ。
うん。この声、聞いたことある。

「どのカードがそうなるかも、ちゃんとわかってるんだ。《異次元の一角戦士》、《サンライト・ユニコーン》、《V-タイガー・ジェット》……あと、そうだ、《オーバーレイ・リジェネレート》」

どうしよう。逃げるべきだろうか。
こいつ自体はさして問題にならない。が、近くにあいつがいるとまずい。

「なのに、デッキから抜くこともできやしない。この4枚をデッキから抜いても、抜いたはずなのに、デュエルが始まると枚数が元通り……」

入ってくるのは気づかれなかった。
だが、出ていくのも気づかれずに……済むか?

「それが、怖くて、気味が悪くて……」

(とりあえず、デュエルディスクは構えておくべきか……)

椅子の裏で体を縮めつつ、左手のディスクを展開する。

すると展開したデュエルディスクが床にぶつかっ――

「あ"っ!」

あっ!

「!?」

「?」

今更のように口をふさぐが、なんかいろいろと遅かった。

「……誰かいるのですか?」

シスターさんの透き通った声がする。
ディスクぶつけるだけならまだしも、そのあと「あ"っ!」とか言ったのは、つくづくバカだと自分で思う。

「……」

声はしないが、視線は確実にこちらを向いてるだろう。
……となれば、腹をくくるしかない。一度大きく息を吸う。

「すいません。俺です」

そして俺は立ち上がった。

祭壇の近くに立っていたのは、やはり美人な銀髪シスター。
そしてその横にいるのは、冴えない顔の賞金首。600$の、"アーリー・ウォーリー"!

「あっ……!」

アーリーも俺の顔は覚えていたようで、顔に驚きを滲ませていた。
滲ませているその隙に、ディスクに《32》を置いて――右手に《ドレイク》を実体化。

「おっ、お前!」

「《シャーク・ドレイク》!」

わたわた慌てる間抜け面に、俺は大股で走り寄る。
赤いヒレと化した右手に、できる限りの力を込めて――

「ほっ……《ホープ》! 《ホープ》ー!」

――ぶん殴ろうとしたところで、アーリーも剣を実体化した。
《ホープ》の持っていた剣を、その右手に握っていた。
知るか。

「うらぁッ!」

「うが……っ!」

俺は勢いを落とすことなく、ヒレでアーリーをぶん殴った。
剣で防ごうとしていたようだが、アーリーはそのままぶっ飛んだ。後ろの壁にぶち当たる。

シスターさんが目を丸くしていた。

「あなた、昨日の……いったい、どういうことです?」

やたらに落ち着いてんなこの人。
ハインの言う通り、闘いに慣れているようだ。いや待てそういう問題か?

「えと、その……後で!」

よたよた立ち上がるアーリーが見えたので、俺はすっぱり話を切った。
祭壇の横を回り込み、追撃をかけるため踏み込む。

「く、っ!」

立ち上がったアーリーも、今度はちゃんと剣を構えていた。剣先を左手で支えている。
ヒレの右ストレートを決めようとするが、その剣の腹で止められる。

「おりゃぁ!」

一度剣を引いた後、間抜けな声で切りかかってくる。たまらず数歩バックステップ。

「……」

若干の距離を取った後、対峙する俺@ヒレvsアーリー@剣。
こいつ相手なら、デュエルに持ち込むより、普通にブチのめしたほうが早いと思ったのだが。
腐っても賞金首ということか。ちょっと厳しいかもしれない。

だが、こいつがここにいるということは、"煉獄の糸"もこの街にいる恐れがある。それが一番ヤバイ。
逃げられないというのなら、何としても、ここで黙らせなくてはならない。

「……よし」

ヒレの実体化を解除する。
アーリーが怪訝な顔をする中、俺はエクストラデッキのカードを抜いた。

「《シャーク・ドレイク》ッ!」

そしてそのまま、デュエルディスクにセット。
4枚ビレに2本の脚、鮫と竜のハイブリッド。赤い鮫を、そのまま召喚する。

『ガアアアァァァァァァァァァァァ!!』

一人仕留めた実績を持つ、我が手中の《ナンバーズ》。
キチガイじみた吠え声を上げ、《シャーク・ドレイク》は飛び上がる。

「な、あ――」

「殺れ!」

空中からの急襲。
唸りを上げて迫る牙を、アーリーはどうにか回避した。
というか、その場にすっ転んだので、牙が空振ったというのが正しい。

『シャァァァァァァァァァァ!!』

そこへ迫る第二撃。
大口を開ける《シャーク・ドレイク》。

「わ、わ! ぉわー!」

その口に《ホープ》の剣を噛ませて、必死でアーリーは後ずさる。バリボリ剣が砕かれる。
後ずさりながら立ち上がり、2本目の剣を実体化。その剣を上へぶん投げて、1枚、カードを取り出した。

「こ、来い! 《ホープ》! 《ホープ》ー!」

白い甲冑を着た騎士が、落ちてきた剣を右手に掴む。《希望皇ホープ》の登場だ。
どういうわけだか知らないが。俺が奪ったはずの《ホープ》は、未だにこいつが持っていたようだ。
白い騎士と赤い鮫、2体が無言で対峙する。

『ォァァアアアアアアアァァァアアア!!』

『ホーーーーーープ!』

全然無言じゃねえや。
剣とヒレが、牙と翼が、火花を散らしてぶつかり合う。

「ひ……」

アーリーは完全に委縮していた。
仕留めるなら今だと言いたいが、《シャーク・ドレイク》は戦闘中。
手持ちの《ナンバーズ》は《おしゃもじソルジャー》のみ。さすがにこれでは……

『ァァァァァァァァアアアアアアアアア!!』

長い首をめいっぱい伸ばして、《シャーク・ドレイク》は《ホープ》に噛みつこうとする。
《ホープ》はスウェーでそれを回避し、そのままの態勢で――

『ォォォォーーーーーーーーッ!』

眼の前に来ていた鮫の顎に、左アッパーをぶち込んだ。
《ドレイク》の体は後ろへ反って、そのままひっくり返ってしまう。
攻撃力では勝ってるくせに、なんとも情けないというか。

『……』

内心ため息をついてると、《ホープ》の視線がこちらに向いた。ヤバい。
なら仕方ないか。ホルスターから銃を抜く。

「すいません。ちょっと下がっててください」

そして、シスターさんに向き直った。

「この教会、誰も入らないようにしてもらえますか?」

「はい?」

「……今から、俺の闘いが、始まります」

自分でも意味のわからないことを言ってると思う。
それでも。聞いてくれるとは思えないが、まあ頼むだけは頼んで――

「わかりました」

納得してくれたよこの人。
今はとりあえず感謝するが、どうなってんだこの宗教。

『オオオオオオオ!!』

《ホープ》は剣を構えると、雄叫びを上げて走り出す。
ディスクから《32》のカードを外して、真上へそれを放り投げる。

「《シャーク・ドレイク》――!」

そしてホルスターの銃を抜き、空中のカード向けてぶっ放した。

     


投げた《32》のカードを、俺の放った銃弾が撃ち抜く。
直後、宙にふわふわ浮く水色の球体――《スフィア・フィールド》が、教会に出現した。
この教会は結構デカいので、《フィールド》もそこそこ大きいのが出せた。
で、俺とアーリーはその球の中でふわふわ浮いている。これ重力とかどうなってるんだろう。

「あっ、これ……クソッ!」

《フィールド》が形成されたことで、《ホープ》はいきなり消滅した。キョロキョロしながら舌打つアーリー。
当面の危機は去った、が。一度これを出したからには、奴とは白黒つけねばならない。そうするまでこの《フィールド》は消えない。

「……、……」

《フィールド》の外でシスター氏が何か言ってるが、中からでは何も聞こえない。
傍から見ると建物の中に馬鹿でかい水球が浮かんでるとかいう意味不明な状況だが、シスターさんは巻き込んでないし、別にいいか。うん。

「クソ……やらなきゃなんないのか……」

アーリーは頭を掻きむしりながらディスクを展開した。
それを見て俺もディスクを構える。さて、勝負の始まりです。

「じゃあ、やるか……デュエル!」

「ぐ……っそ、決闘!」

いまいち掛け声が噛み合わなかった。しまらねーなぁ。




手札を5枚左手に取って、ちらりと眺め戦略を立てる。おおまかに。
さて、先攻はどっちだろう。

「先攻は、こっちだ。俺のターン……」

向こうだった。これはちょっと痛い。

「……ドロー!」

少し間を置いて呼吸を整え、アーリーは右手でカードを引いた。

「……」

右手の1枚と左手の5枚。両目を左右に動かして、アーリーは微妙な顔をする。
右手のカードをそのまま切った。

「……《サイバー・ヴァリー》を召喚!」

軽い動作でカードを置くと、白い魔方陣が虚空に出現。
メカニカルな蛇がそこから出てきた。

《サイバー・ヴァリー》:星1/光属性/機械族/攻 0/守 0

『……』

どこかダルそうに、のっそりととぐろを巻く。

「これで、ターン終了……」

終わりかよ。

【LP-8000 / 手札-5 / なし 】
【LP-8000 / 手札-5 / 《サイバー・ヴァリー/A 0》】

《サイバー・ヴァリー》。前の勝負でも見たモンスターだ。
ステータスは雑魚そのものだが、こいつを攻撃してもダメージにはならない。一発当てるとバトルが強制終了する、お茶を濁すモンスター。
めんどくさい防御札だ。

(が、初っ端からそれだけを出してくるということは……)

他に罠を張るでもなく、小物を1枚場に出すだけ。
おそらくあいつの手は悪い。となれば、ここでペースを握る!

「じゃあ俺のターン。ドロー!」

オーバー気味のアクションで、がっつりカードをドローする。
こいつは、前回の勝負で《スプラッシュ・キャプチャー》を見ている。

「――行くぞっ!」

意味もなく大声を出し、右手を天に突き上げる。
動作に意味はなかったのだが、なぜか《フィールド》の壁から水が流れ込んできた。どばっと。

「おわ、がっ、ごぼっ!」

蛇とアーリーは水流に飲まれている。
球状の壁の全方位から、ドバドバ水が噴き出ている。

「……」

最終的に、《スフィア・フィールド》の下半分が水に沈んだ。
この《フィールド》のシステムは未だによくわかっていないのだが、まあ演出ということにしておく。

「ごっ……ぶはぁっ!」

アーリーが水面から頭を出した。《サイバー・ヴァリー》はまだ沈んでいる。
とにかく、ここで畳みかける!

「手札から!」

水面の少し上に立ち、俺は1枚のカードを投げた。水中に。
数秒遅れて、水中からモンスターが飛び出してきた。

「《オイスターマイスター》を召喚!」

怪人牡蠣男とでもいうべきおっさん。
勢いよく飛び出てきた彼は、一度宙返りを決め、静止。

《オイスターマイスター》:星3/水属性/魚族/攻1600/守 200

「そしてこの召喚時、手札から……!」

さらに続けて、もう1枚――

「……っと!」

――と見せかけて、ここで一旦止まる。

「……」

「……?」

1枚カードを右手に握って、中途半端な姿勢で停止。
そんな俺を見て不審がるアーリー。

「……」

その反応を横目でチェックし、右手のカードを手札に戻す。
で、代わりにその横のカードを抜き出した。

「魔法カード、《強欲なウツボ》。発動」

顔がムカつく緑のウツボが、水面から顔を出す。
歯をむき出してニタニタ笑う、結構マジでムカつくウツボだ。

「手札にある水属性のモンスター2体、《シャーク・サッカー》と《素早いマンボウ》をデッキに戻す」

2枚のカードを、というより《シャーク・サッカー》を、なんでもない風にアーリーへ見せて、そのあと《ウツボ》めがけて投げた。
飛んできた2枚をむしゃむしゃ食って、憎たらしい笑みを浮かべると、《ウツボ》は水中に潜って消える。

「そしてその後、カードを3枚ドローする!」

直後に俺の足元から、3枚のカードが飛び出した。1枚残らずキャッチする。
引いた3枚が何かというのは、実はそんなに気にしてない。

「さらに、魔法カード《トランスターン》を発動!」

《ウツボ》で引いた3枚とは別の、元から持っていたカードを使った。
宙に浮いていた牡蠣男が、真下の水中にダイビング。

「魚族・水属性モンスターの《オイスターマイスター》を墓地に送ることで、同じ魚族・水属性で、なおかつ、レベルがそれより1つ高いモンスター1体を……」

俺は堂々と胸を張り、デッキから1枚カードを取り出す。
そしてそれを、水面に投げた。

「デッキから、特殊召喚する! 《オイスターマイスター》のレベルは3! よってレベル4の魚族……」

牡蠣男の潜ったあたり、そのあたりの水面に、気泡がぽこぽこ浮かびはじめる。
水中で《牡蠣》は変異を起こし、貝から魚に進化する。さあ、来い!

「《竜宮の白タウナギ》を特殊召喚!」

《竜宮の白タウナギ》:星4/水属性/魚族/攻1700/守1200

水のしぶきを上げながら、ぶっとい《ウナギ》が水面に出た。
で、この進化には続きがある。

「ここで《オイスターマイスター》の効果。こいつは墓地に送られた時、場に1体の《オイスタートークン》を特殊召喚する!」

怪人牡蠣男の特殊能力。それは、死んでも幼体を残すこと。
真っ白ボディの《ウナギ》の背には、ツヤツヤの《牡蠣》が張り付いていた。

《オイスタートークン》:星1/水属性/魚族/攻 0/守 0

さて、これでコマが2枚。
白い《ウナギ》が水面を跳ねた。

「レベル4のチューナー《竜宮の白タウナギ》を、レベル1《オイスタートークン》にチューニング!」

背中に張り付いた謎の《牡蠣》を、全身を震わせなんとか落とす。
そしてその《牡蠣》を丸飲みすると、《ウナギ》は光に包まれた。

「シンクロ召喚、レベル5!」

《ウナギ》はピカピカ光りながら、ゆっくり宙へ浮かんでいく。
そして光が弾けると、そこにいたのは謎のマシーン。

「《A・O・J カタストル》!」

《牡蠣》と《ウナギ》の掛け合わせ、ミラクル化学変化により、生まれ出ました殺戮機械。
白と金をメインカラーに、やたら曲線の多いボディ、細く尖った四本脚。
機械のくせに虫っぽいというか、エイリアンっぽいというか、とにかく気持ち悪いフォルムだ。

《A・O・J カタストル》:星5/闇属性/機械族/攻2200/守1200 【シンクロ】

「う、《カタストル》……」

くねくね動く細い足。アーリーは若干気後れしている。
それもそのはずこの《カタストル》。『闇属性以外のモンスターと戦う場合、その相手を問答無用で破壊する』という特性がある。
前回のデュエルを見た感じ、奴のデッキは光属性主体。そこらの雑魚では相手にならない。

「……」

そんな考えを巡らせつつ、さりげなく墓地を確認する。
といっても、確認するほどの枚数はないわけだが。《強欲なウツボ》、【《オイスターマイスター》】、《トランスターン》、【《竜宮の白タウナギ》】。
魚族が2体である。

「バトルフェイズ。《カタストル》で攻撃!」

それはそれとして、まず攻撃だ。
キュインキュインと駆動音を鳴らし、殺戮兵器がアーリーに突っ込む。鋭い足がきらりと光った。

「……《サイバー・ヴァリー》の効果発動!」

一瞬怯えた顔を見せたが、直後にアーリーは指示を下した。
すると、海中から蛇が飛び出す。

「攻撃された《サイバー・ヴァリー》を除外することで、このターンのバトルを終了させる!」

目の前の蛇に一度立ち止まるが、すぐさま《カタストル》は再起動。細い金色の前足で《サイバー・ヴァリー》を両断した。
が、敵にダメージはなし。仕方なく引き下がる《カタストル》。

「そしてその後、俺はカードを1枚ドロー!」

軽く息をついてから、アーリーはカードを1枚ドロー。
が、引いたカードを見て渋い顔をした。また微妙なの引いたのか。

「バトル終了。さて……」

ダメージは入らなかったが、まあいい。今回の狙いはそこじゃない。
残った手札4枚のうち、2枚をフィールドに出し、終了。

「2枚カードを伏せて、ターンエンド」

【LP-8000 / 手札-2 / 《カタストル/A2200》 / 《set1》 《set》】
【LP-8000 / 手札-6 / なし 】

さて、ターンを回してやったわけですが。

「……」

アーリーは何やら考え込んでいる。
どうやら、いい具合に悩んでくれているらしい。

ハイン曰く、青光教会はアウトローに武器を流している。
今この教会にアーリーがいることと、こいつが《フォトン・スラッシャー》を持っていたことから、少なくともこいつがそれを受け取っているのは間違いない。
ということは。どこまで流れているか知らないが、おそらく《輝光子パラディオス》も持っているのではないか?
光属性のモンスターを使うことで召喚でき、《カタストル》すらも倒すことのできる、かなり強力なエクシーズモンスター。あれも《光子》、つまり《フォトン》だ。

まあ、それでなくとも。
《カタストル》は闇属性でないと倒せない。が、アーリーのデッキは光がメイン。
どうにかしようと思ったら、エクシーズモンスターの能力に頼る。その可能性が割と高い。

だが、それが出せるかな?
アーリーは静かにカードを引く。

「俺のターン……ドロー」

《オイスターマイスター》と《竜宮の白タウナギ》。俺の墓地には魚が2匹。
《シャーク・サッカー》でランク3のエクシーズ召喚も狙えた状況で、あえてそれをせず《カタストル》を呼び、墓地に2枚の魚を置いた。

「……《サンライト・ユニコーン》を召喚!」

たてがみの青いきれいな白馬が、頭だけを水から出して、すいすい泳いでやってきた。
こいつも光属性なので、《カタストル》には敵わない。さて、どう繋ぐつもりなのか。

《サンライト・ユニコーン》:星4/光属性/獣族/攻1800/守1000

「そして効果発動。デッキの一番上のカードを見て、それが装備魔法なら、手札に加えることができる……」

首を伸ばしていななく白馬。
その姿を横目で見ながら、祈るように目を閉じる。そしてアーリーはカードを引いた。

「ドロー!」

恐る恐る開かれた目は、次の瞬間輝いていた。

「あ、やった……《アサルト・アーマー》! 装備魔法だ、手札に加える!」

どうだと言わんばかりに、見せる。《アサルト・アーマー》、装備カードだ。
戦士族専用の、だが。

「……」

馬しかいないこの状況で、それに何ができるんですか。
アーリー自身も首をかしげる。あまり意味のない札を引き、対応に困っているようだ。
右手を右往左往させつつ、やがて1枚のカードを取った。

「《手札抹殺》を発動!」

「!」

ビビった。
奴の手札は今6枚。その状態で、《手札抹殺》?
互いの持ち札が大きく動く。

「お互い手札をすべて捨てて、捨てた分だけ補充する」

俺はとりあえず2枚捨てる。《スピア・シャーク》、《ブレイクスルー・スキル》。
さて、アーリーの捨て札は?

「6枚捨てて、6枚ドロー!」

《チューニング・サポーター》。《神剣-フェニックスブレード》。《フォトン・スレイヤー》。《アサルト・アーマー》。《ライトレイ ソーサラー》。《ライトレイ ダイダロス》。

左から、《ザコ》《使用不能》《出せない》《使用不能》《出せない》《出せない》、といったラインナップである。

死に札多すぎだろ。

「……」

しかも引いた6枚を見て、またもや微妙な顔をしている。
相当手札が悪いらしい……というか、こいつのデッキどうなってんの?

「……ターンエンド……」

そして小声でそう言った。
つーか、また罠も何もなしかい。

【LP-8000 / 手札-2 / 《カタストル/A2200》 / 《set1》 《set2》】
【LP-8000 / 手札-6 / 《サンライト・ユニコーン/A1800》 / なし 】

手持ちのカードの数だけ見れば、アーリーのほうが多いっちゃ多い。
が、俺の牽制が効いているのか、それとも単に手が悪いのか、どちらの理由か知らないが、アーリーはまるで攻めてこない。
だから、ここは――

「俺のターン! ドロー!」

攻める!

「手札の《ダブルフィン・シャーク》を召喚!」

尾びれが二枝に分かれた鮫が、《スフィア・フィールド》の壁から飛び出す。
そのまま真下へダイブして、水の中へと姿を消した。

「《ダブルフィン・シャーク》の効果! このとき、俺は墓地から魚族・レベル4・水属性のモンスター1体を特殊召喚できる。戻ってこい《スピア・シャーク》!」

そして再び水面から飛び出す。どちらかというとイルカっぽい動きだ。
さらにその鮫に追従して、オレンジ色の鮫も跳ね出る。鮫2匹によるイルカショーもどき。
バシャバシャ海水が飛び跳ねるので、機械の《カタストル》は上方へ避難。

《ダブルフィン・シャーク》:星4/水属性/魚族/攻1000/守1200
《スピア・シャーク》:星4/水属性/魚族/攻1600/守1400

「そして自分の場に水属性モンスターがいることで、手札から《サイレント・アングラー》は特殊召喚できる!」

せわしく動く2匹の後ろで、ゆっくり浮上してくる魚。
マイペースに浮き上がってくる彼は、でっぷり太ったチョウチンアンコウ。丸いボディが愛らしい。

《サイレント・アングラー》:星4/水属性/魚族/攻 800/守1400

というわけで、魚が3匹揃った。

「3体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!」

3匹の魚が同時に潜水、底の底まで潜っていく。
若干の間があった後、水面に波紋が広がり出す。

「エクシーズ召喚!」

そして水中で爆発した。

「浮上、《No.32》!」

どぎつい噴水みたいなパワーで、水の柱が噴き上がる。
天井近くに伸び切ったあと、水が引くとそこにいたのは――

「――《海咬龍シャーク・ドレイク》!」

やたら長い4つのヒレと、地を踏むための2本脚。
真っ赤な体の鮫モンスター、俺の手にした《ナンバーズ》。
《シャーク・ドレイク》、降臨だ!

《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》:ランク4/水属性/海竜族/攻2800/守2100 【エクシーズ:Unit3】

『シャァァァァァァァァァァァァァァァ!!』

海面スレスレを浮きながら、《シャーク・ドレイク》は吠え上げる。
思う存分吼え切った後、区切るようにヒレを振った。

「これ……《ナンバーズ》!」

黙った《シャーク・ドレイク》を見て、アーリーは数歩後ろに下がる。
そんな主を守ろうと、《サンライト・ユニコーン》は前に出た。

「じゃあ、バトルフェイズ!」

上で浮いていた《カタストル》を、《シャーク・ドレイク》の隣に下ろす。
殺意にまみれた機械と鮫が、各々得物を光らせる。

「《シャーク・ドレイク》で、《サンライト・ユニコーン》を攻撃!」

先に飛んだのは《シャーク・ドレイク》。
唸りを上げて牙を剥き、《ユニコーン》へと襲い掛かる。

「うわ……っ!」

『……!』

怯えたように足を鳴らすが、回避できるはずもなく。
《シャーク・ドレイク》の鋭い牙が、《ユニコーン》の胴を噛みちぎる。敵ライフポイント、8000→7000。
いつもならここで追撃するところだが、《ダブルフィン・シャーク》を素材に使っているため、
何度か咀嚼した後で、《シャーク・ドレイク》は死体を捨てた。青い水中へ白馬が沈む。

「続いて、《カタストル》でダイレクトアタック!」

そんな鮫の頭上を飛び越え、《カタストル》が躍り出た。
虫みたくくねる細い足。鋭い足がアーリーに迫る。

「お、うっ……!」

アーリーはスウェーで避けようとして、そのまま後ろにずっこけた。
《カタストル》の足も情けなく空振る。敵のライフは7000→4800。

「これで、ターン終了」

《カタストル》と《シャーク・ドレイク》、2体を手元に呼び戻し、そのままターンの終了宣言。
露骨にほっとした表情を浮かべ、アーリーは立って息をつく。

【LP-8000 / 手札-1 / 《カタストル/A2200》 《シャークドレイク/A2800》 / 《set1》 《set2》】
【LP-4800 / 手札-6 / なし 】

軽く腕を組み、アーリーを見る。さて次は何をしてくるか?
そう思いつつ眺めていると、なぜか奴は目を閉じた。
数秒固くつぶった後、ゆっくり薄く目を開けて。自分のデッキに手をかけた。

「俺のターン、ドロー……あ、やった! 《光の援軍》を発動!」

引いた瞬間輝く瞳。
手にしたカードをノータイム発動。かなり切羽詰まってたらしい。

「デッキの上からカードを3枚墓地に送って、そのあとデッキから《ライトロード・マジシャン ライラ》を手札に加えて……」

無造作に3枚掴み取り、やはり無造作に3枚捨てる。《エクシーズ・エージェント》、《ダメージ・ダイエット》、《異次元からの帰還》。ふむ。
そして《ライラ》を手札に加え、そのまま召喚しようとして、腕を大きく振りかぶ――

「……あ、待て。まだ……その前に、速攻魔法発動!」

ったところで。
思い出したように、手札のカードを1枚つまんだ。
ぐらりと水面がさざ波立つ。

「《サイクロン》!」

いきなり竜巻が発生した。
足元の水を巻き込みながら、ゆっくり俺のほうへと迫る。

「その、右の伏せカードを破壊する!」

徐々に勢いを増す竜巻。飛ばされないよう、《ドレイク》に掴まる。
暴風に《カタストル》が飛び退くと、その背後にあった伏せカード……《アクア・ジェット》は破壊されてしまった。

「《アクア》……え?」

はい。
《アクア・ジェット》。魚族モンスターの攻撃力を1000ポイント上げる、通常魔法。
罠でもなんでもない、ただのハッタリです。

「……だ、だったら!」

アーリーはしばらく呆けていたが、我に返るとモンスターを出した。

「《ライトロード・マジシャン ライラ》を召喚して、効果発動! このカードを攻撃表示から守備表示に変えることで、もう1枚の伏せカードも破壊する!」

《ライトロード・マジシャン ライラ》:星4/光属性/魔法使い族/攻1700/守 200

真っ白なローブを上品に着込む、美形の女魔法使い。
場に召喚されると同時に、手にしたタクトをくるくる回す。リバースカードを破壊する合図だ。

タダで割られてはたまらない。
せっかくの『速攻魔法』。破壊される前に、使っておくことにした。

「じゃあ、チェーンしてリバースカードオープン!」

「え!?」

タクトから稲妻が放たれる。
それがこちらへ届く前に、伏せたカードは表になった。


「速攻魔法、《イージーチューニング》」


稲妻がカードに炸裂し、魔法カード《イージーチューニング》は破壊される。が。
紫電の着弾地点から、ウナギが一匹這い出てきた。

「自分の墓地のチューナーモンスター、《竜宮の白タウナギ》をゲームから除外することで」

ウナギは素早く宙を泳ぐと、《シャーク・ドレイク》の前に出る。

「《シャーク・ドレイク》の攻撃力を、《ウナギ》の攻撃力分……1700ポイント上げる!」

で、そのウナギを《シャーク・ドレイク》が食った。
バリバリモシャモシャ咀嚼して、《シャーク・ドレイク》ATK2800→4500。

「な、え、あ……!?」

どうやら、読みが外れたようで。
力を増した《ドレイク》を前に、アーリーはただ放心していた。

《強欲なウツボ》で《シャーク・サッカー》を見せることで、『エクシーズ召喚もできた状況で、あえて魚族をより多く墓地へ送る《カタストル》を選択した』という印象を植え付ける。
前回俺に《ナンバーズ》を奪われ、しかもそれが原因で負けているこいつなら。
『前回も発動された』『墓地の魚族を2体除外することで発動し』『相手の召喚したエクシーズモンスターを奪う』
《スプラッシュ・キャプチャー》を恐れるだろうと、そう思った。

そうして怯えているうちに押し切れれば良し。罠を破壊しに来ればそれもよし。
伏せていた2枚のうち、1枚はただのハッタリで、1枚はいつでも使える速攻魔法。どちらも、除去カードの無駄撃ちを誘うことができる。

「……《スプラッシュ・キャプチャー》じゃ……」

そんな感じの計画を、おおまかに立てていたのだが。
ここまでうまくいくとは思わなかった。

「……」

アーリーはなかなか動揺している。
実際保持カードの数で言うと、負けているのは俺なんだが。
勝負の流れを掴んでいるのは、間違いなく、確実に俺。動揺してるうちに押し込みたい。

とはいえ今はまだアーリーのターン。
さて、何をしてくるか?

「……魔法カード《死者蘇生》を発動!」 

思い切って!
……という感じの表情で、アーリーは手札を切った。

「墓地から《サンライト・ユニコーン》を特殊召喚!」

水面に大きな魔方陣が描かれ、そこから《ユニコーン》が駆け出してきた。

《サンライト・ユニコーン》:星4/光属性/獣族/攻1800/守1000

《死者蘇生》は強力で、しかしかなり貴重なカード。アーリーの悲壮な表情からは、攻めの姿勢など感じられない。
この状況でこれを使わねば、それもどちらかと言えば守備戦略に、これを使わねばならないと。
それだけ追い詰められていると、そういうことでいいだろう。

「《サンライト・ユニコーン》の効果発動、デッキの一番上を見て、それが装備魔法なら手札に加える!」

青いたてがみを揺らし揺らして、再び白馬がいなないた。
が。
こんな負けムード充満中に、運頼みの効果を使っても……

「……モンスターカード、《朱光の宣告者》。デッキの一番下に戻す……」

今更、流れは掴めまい。
引いたカードをデッキに戻して、アーリーは頭を掻きむしる。

とはいえ、《スプラッシュ・キャプチャー》の嘘はバレた。もうエクシーズに支障はない。
《ライラ》と《ユニコーン》はともにレベル4、そしてどちらも光属性。

「……レベル4の、 《サンライト・ユニコーン》と、《ライトロード・マジシャン ライラ》で……オーバーレイ」

さあ、何が出てくるか。
《ライラ》が呪文を唱えると、2体の身体は光になった。溶け合うように交わる光。

「……エクシーズ、召喚」

その光はやがて球状になり、主の眼前で静止した。球を見つめて息を飲むアーリー。
そして一度深呼吸すると、光の球に手を突っ込んだ。

「ッ、……。……現れろ!」

力強く、手を引き抜く。
その手に握られていたのは、一本の白い剣。その剣を――

「《No.39》!」

――叫んで、真上にぶん投げた。
《スフィア・フィールド》の天井に向け、回転しながら飛んでいく。
すると、球形を保っていたはずの光が、突如グニャグニャと崩れ始めた。
脈打ち波打ち姿を変えて、二本の足が、二本の腕が、そして頭が飛び出した。

投げた剣が降ってくる。

「《希望皇、ホープ》!」

ヒトの形をした光が、ゆっくりとその右手を伸ばし、降ってきた剣を確かに握る。
瞬きした次の瞬間、光は白い鎧をまとっていた。

《No.39 希望皇ホープ》:ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000 【エクシーズ:Unit2】

「……」

不定形のオーラが甲冑を着て、光の騎士に姿を変える。
前も思ったが、登場の仕方がなんとも奇妙だ。
しかし前回はもっとドス黒い感じだったので、いくらかましにはなっている。

「守備表示で、エクシーズ召喚だ。さらに俺は、リバースカードを1枚伏せて、ターン終了」

演出に気を取られているうちに、アーリーのターンは終わっていた。

【LP-8000 / 手札-1 / 《カタストル/A2200》 《シャークドレイク/A4500》】
【LP-4800 / 手札-3 / 《希望皇ホープ/D2000》 / 《set1》 】

しかし、守備表示か。
この状況を打開できるモンスターは結構いる。《輝光子パラディオス》がその筆頭だ。
とはいえ。《パラディオス》を出しても、潰せるのは《カタストル》と《シャーク・ドレイク》のどちらか片方だけである。
だから、《ホープ》の能力『2回まで攻撃を止めることができる』を選んだ。
どちらも倒せないが、とりあえずどちらも防げる《ホープ》を、守備表示で出したと。そういうことか。


こいつ、俺の捨て札見てないな。


「俺のターン、ドロー!」

ならもう後は押し切るのみ!

「バトル! 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》で、《No.39 希望皇ホープ》を攻撃!」

追加戦力を呼ぶ気はない。この2体で十分!
ATK4500となった《シャーク・ドレイク》の咆哮が、《スフィア・フィールド》に乱反射する。

「わ……《ホープ》の効果発動、オーバーレイユニットを1つ使って、攻撃を無効に……」

足に力を込める《ドレイク》。その姿を見て《ホープ》もまた、背中の盾を構えようとする。
が、そんなものは無意味。《シャーク・ドレイク》が飛び上がる。

ここだ!

「トラップ発動、《ブレイクスルー・スキル》!」

墓地からカードを1枚取り出し、アーリーに向けて見せつける。

「え!?」

そっちの《手札抹殺》で捨てたカードなのに、自分で驚かれても困る。

「このカードを墓地から除外することで、相手モンスター1体の効果を無効にすることができる!」

飛びかかってくる《シャーク・ドレイク》を、《ホープ》は背中の盾でいなす。
が、《シャーク・ドレイク》は、その盾を全力でぶん殴る。ヒレで。

「これで《ホープ》の効果は無効、《シャーク・ドレイク》の攻撃は有効!」

力任せに、ひたすら力任せに、4枚のヒレをぶんぶん回して、休む間もなく盾ごと殴る。
たまらず態勢を崩した《ホープ》に、《ドレイク》は頭突きをぶち込んだ。後ろにぶっ倒れる《ホープ》。

「行け――"デプス・バイト"!」

首をねじらせ牙を剥き、倒れた《ホープ》の腰に食らいつく。
直後ガチンと音がして、白い甲冑が砕け散った。

「なっ……《ホープ》ー!」

「そして《シャーク・ドレイク》の効果発動。戦闘で破壊した相手モンスターを墓地から引きずり出して……」

だらりと絶命した《ホープ》を、腰の千切れかかった《ホープ》を、しかし離すことはなく。
口にくわえた状態のまま、《シャーク・ドレイク》は頭を上げる。

「攻撃力を1000ポイント下げて、相手の場に復活させる!」

そしてくわえた《ホープ》の死体を、首だけの力でぶん投げた。アーリー向けに。

「な、あ…うげっ!」

アーリーはそれを避けることができず。
飛んできた死体と激突し、もんどりうって海中に沈んだ。

「そしてこの効果を使った場合、《シャーク・ドレイク》はもう1度攻撃できる」

「げぼ、ごっ、ごぼっ! ぶはっ!」

変な態勢で《ホープ》に乗られ、しかもその重みのせいで、そのまま沈みそうになるアーリー。
それを獲物と認識して、《シャーク・ドレイク》の目が血走った。

「もう一度、《シャーク・ドレイク》で《ホープ》を攻撃!」

『ガァァァァァァァァァァァ!!』

吼え声が耳にキンキン響く。
《シャーク・ドレイク》の特殊能力。『一度殺したモンスターを、生き返らせてまた殺す』。

「そして《希望皇ホープ》は『オーバーレイユニットを持たない状態』で攻撃を受けた時! 攻撃力の大小に関わらず、その場で破壊される!」

が、今の《ホープ》は既に死体。もう盾は使えない。
《ホープ》は妙なデメリットを持っていて、『盾を失うと必要以上に脆くなる』。壁にすらなれないのだ。

「よって、プレイヤーにダイレクトアタックだ!」

つまり、次の獲物はアーリー自身。
《シャーク・ドレイク》が牙を剥く。

「わ、いや、リバ……ごぶ、ぶはっ! リバースカー……でも発動……ごぼっ、ぼはっ、あ、く……!」

アーリーは半分溺れかかっている。さすがににテンパりすぎだろこいつ。
だが使うかどうか迷うってことは、大したカードではないだろう。

「《シャーク・ドレイク》のダイレクトアタック!」

《シャーク・ドレイク》が水に潜る。ホームグラウンドの海中で、獲物を仕留める魂胆だ。
いかにも必死の形相って顔で、アーリーが水から頭を出した。

「ごほっ! ……《テンパランス》! 《テンパランス》! 《アルカナフォースXIV-TEMPERANCE》! 《テンパランス》の効果発動!」

泳ぎ迫り来る《ドレイク》を見て、アーリーは必死に連呼する。

「これを手札から墓地に送って、そのダメージをゼロにするー!」

叫んでカードを放り投げると、《シャーク・ドレイク》の動きが止まる。
昆布みたいな大量の触手が、全身に絡みついているようだ。まあ、しょうがない。
下がダメなら、上からだ。

「なら、《カタストル》のダイレクトアタック!」

潜れないので待機していた、白金のキモい殺戮機械が、再び駆動音を鳴らす。
甲冑に掴まり浮いているアーリーの、ちょうど頭上へと飛行する。

「え……あ!?」

水中ばかりに気を取られ、アーリーはこれに気付かなかった。
頭を上げるとそこにいた機械に、女みたいな悲鳴を上げる。

「わ、ああああああああああああああああああ!?」

手足を無様にバタつかせるが、水中じゃロクに動けない。
もがいているアーリーの首を、《カタストル》の爪が切り裂いた。

ガキンと金属音が鳴る。


金属音?


「ガキ……え?」


《ナンバーズ》を持つと補正が掛かる。だから常人より防御力は高い。
とはいえ、モンスターの攻撃をまともに喰らえば、とてもじゃないが無事では済まない。
だから、《カタストル》の一撃は、アーリーの首を切り裂いたはずだった。下手すりゃ首が飛んでいたはずだった。


が、目の前の光景は。


うっすら白く輝いている、大玉みたいな光の球に、アーリーがすっぽり入っていて――
《カタストル》の鋭い爪が、その大玉に阻まれている。

「……!?」

デュエルディスクを確認する。
俺のライフは8000で、場には《カタストル》と《シャーク・ドレイク》。
アーリーのライフは4800から2600に減った。手札の数も変わっていない。

つまり、《カタストル》の攻撃は成功している。

「ハァー……はっ、はー……はあ……」

大玉の中で息を切らすアーリー。表情は怯えきっている。
とてもじゃないが、狙って防御したようには見えない。


じゃあ、これはなんなんだ?



【LP-8000 / 手札-2 / 《カタストル/A2200》 《シャークドレイク/A4500》】
【LP-2600 / 手札-2 / 《set1》 】





     


「そういえば……そうだった……」

そんな言葉をつぶやきながら、のろのろアーリーは立ち上がる。
光の球は弾けて消えた。

「そうだ、俺は……」

虚ろな瞳でぼやき続ける。
納得してるということは、これは奴の能力なのか。
しかし微妙な反応からして、自覚のない能力なのか? パッシブスキル的なあれ?

「……ないんだ」

あれこれ推測している内にアーリーの目に光が戻る。
言葉の最初が聞こえなかったが、何と言ったかは次で分かった。

「怖がらなくて――いいんだ」


ヤバい感じがした。

「俺のターン! ドロ――!」

やたらにドローが力強い。
引いたカードと手札を一瞥、迷いなく次のカードを切る。

「手札の《ヴァイロン・スフィア》を召喚。そして、魔法カード《アイアンコール》!」

バレーボールくらいの球が、《フィールド》の天井から降ってきた。
目と腕の付いた機械のボール。アーリーの前でふわふわ浮いてる。

「下級機械族モンスター1体を、復活させる!」

ボールがふるふる震え出す。
やがて振動は音波を発し、水の底へと信号を届ける。

「戻れ、《チューニング・サポーター》!」

信号を受け取り浮上したのは、中華鍋を頭に被った、どこか間抜けな格好の小人。
《スフィア》の横に並び立つ。チビモンスターが2匹である。

《ヴァイロン・スフィア》:星1/光属性/機械族/攻 400/守 400 【チューナー】
《チューニング・サポーター》:星1/光属性/機械族/攻 100/守 300

「……」

手駒を2枚揃えたが、どちらも低級モンスター。対してこちらは殺人マシーン、それとデカくて凶暴なサメ。
この状況をどうにかするには、少々力不足に見えるが……
アーリーが右手を突き出した。

「さらに、墓地から《神剣-フェニックスブレード》の効果発動」

めいっぱい開いた手のひらを、海面にかざし宣言する。
ボコボコ水が湯立ち始めた。

「墓地の戦士族モンスター、《ホープ》と《フォトン・スレイヤー》を除外し……このカードを手札に戻す!」

鳥の羽をかたどった柄に、両刃・細身の白い剣が、水の中から飛び出した。
死んだ戦士の魂を吸い、刀身は白く光り輝く。
2枚の手札を右手に持ち替え、アーリーは左手で剣を握った。

「そしてこの《フェニックスブレード》を捨てて!」

そしてその剣を天にかざし、2枚をそれぞれディスクに差し込む。
剣の纏った光が消える。

「装備魔法! 《D・D・R》を――」

空いた右手を剣に添え、剣道みたいな構えを取る。
剣が再び輝きはじめ、今度は紫の光をまとった。
大上段に構えた剣を、アーリーは一度深呼吸して、

「――発動ッ!!」

力いっぱいに振り下ろした。
するとソニックブームが発生し……
ソニックブーム?

「おわっ!」

《フィールド》を真っ二つにするように、海を割るように飛ぶ衝撃波。死ぬ思いで何とか避けた。
壁にぶち当たりブームは消えた。一息ついて、アーリーに向き直る。
足元の海が割れていた。

「……」

海を割るような一撃と言ったが、マジで文字通りそうなっていた。
モーゼの奇跡が今目の前に。海が真っ二つに割れている。

「手札1枚と引き換えにして、除外された自分のモンスター1体を、フィールドに呼び戻す……」

若干息を切らしながら、アーリーは剣を放り投げた。
纏った紫のオーラが消え、空中で砕け散ると同時に――

「戻ってこい、《No.39》! 《希望皇ホープ》!」

白と金の鎧の騎士が、割れた海のその底から、主君の下へ舞い戻った。

《No.39 希望皇ホープ》:ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000 【エクシーズ:Unit0】


割れた海にまた水が戻った。


『ッシャァァァァァァァァァ!!』

戻った海の真ん中から、《シャーク・ドレイク》が飛び出してきた。おまえどこにいたんだよ。

『……』

『……』

《ホープ》と《シャーク・ドレイク》の2体、《39》と《32》が、眼光鋭く対峙する。
先に動いたのは《ホープ》だった。

「俺の場には、レベル1のチューナー《ヴァイロン・スフィア》と、同じレベル1《チューニング・サポーター》がいる!」

アーリーの指示に反応する《ホープ》。
その辺でふわふわ浮いていた《スフィア》を、右手でがっしと鷲掴みにし。
同じく浮いてた《サポーター》を、左手で雑に抱え上げる。

「この2体で、シンクロ召喚だ!」

2体を真上にぶん投げた。
こいつら2体はどちらも機械。一度パーツに分解されて、新たなマシンに再構築。

「シンクロ召喚、《フォーミュラ・シンクロン》!」

何ができたかと言いますと、手足の生えたF1マシン。
その上顔まで生えている。正直どうなのこのセンス。

《フォーミュラ・シンクロン》:星2/光属性/機械族/攻 200/守1500 【シンクロ/チューナー】

「さあ、見てろ!! 《フォーミュラ・シンクロン》《チューニング・サポーター》《ヴァイロン・スフィア》、3つの効果を発動!」

3枚のカードを指に挟んで、「どうだ!」とばかりに突き出してくる。
さっきから、どうも様子がおかしい。

「《フォーミュラ・シンクロン》と《チューニング・サポーター》で1枚ずつ! カードを2枚引く! ――!」

2枚目に引いたカードを見て、アーリーはなぜか目を見開いた。
ついでに口も開きっぱなしで、しばらく呆けたようにしていたが、我に返ったか首を振る。

「最後に、《ヴァイロン・スフィア》の効果! こいつが墓地に行った時、ライフを500払うことで、こいつを俺のモンスター1体に装備することができる!」

LP、2600→2100。
残りわずかなライフを捧げて、《ヴァイロン・スフィア》を復活させる。装備品として。

「さらに、《ヴァイロン・スフィア》にはまだ効果がある! 装備したこのカードを墓地に送ることで、自分の墓地にある装備魔法1枚を! 《ホープ》に装備させることができる!」

場に呼び戻した《スフィア》のカードを、すぐまた墓地へ戻してしまう。
代わりにまたもやもう1枚、別のカードを墓地から回収。

「……」

アーリーの手札は残り2枚。プラス、回収したカード1枚。
それらをジロジロ交互に見ると、アーリーは強く頷いた。

「行くぞ……行くぜ、"五刀流"……!」

強い光のこもった瞳で俺をまっすぐ見据えて言った。
その意味を俺が理解する前に、持てる手札をすべて切る。
                    スレイプニール・メイル
「手札、《ライトイレイザー》! 《ZW-極星神馬聖鎧》! そして墓地、《アサルト・アーマー》! さらに伏せカード、《ナンバーズ・ウォール》! すべてを発動する!」

持っていたカード3枚に加え、伏せたカードまで飛び出した。
カードすべてをディスクに置くと、アーリーは両手を打って叫んだ。

「来ォ―――――い!! "希望の四刀"!!!」

その声に呼応するかのように、4本の剣が海中から飛び出し、そのまま空中で静止する。
左から順に、ライトセイバー、紅色、赤、紫。4本の剣が宙に浮いている。

「《スレイプニール・メイル》を装備したことで、《ホープ》の攻撃力は1000ポイントアップする。バトルフェイズ――行くぞ!」

アーリーが戦闘を宣言した。

「《カタストル》! 《シャーク・ドレイク》!」

その辺に浮いてたり沈んでたりした2匹を、俺の目の前に呼び戻す。
《ホープ》の攻撃力は3500。《シャーク・ドレイク》は4500で、《カタストル》には力じゃ勝てない。
正攻法では勝てないのだが……

「《ホープ》で《カタストル》を攻撃!」

宙に浮く謎の4本剣。ライトセイバーと紫を手に取り《ホープ》はその場で跳躍した。
『闇以外をすべて破壊する』殺戮兵器《カタストル》に、臆すことなく向かってくる。

「……《カタストル》の効果! 闇属性以外のモンスターと戦闘を行うとき、その相手を問答無用で破壊する!」

光属性の《ホープ》を殺すべく、《カタストル》は起動する。
金色の足が高速振動、超振動のブレードと化す。が、《ホープ》はそれでも止まらない。

「一刀目――《ナンバーズ・ウォール》ッ!」

左手に持った紫の剣をくるりと逆手に持ち替える。
そんな《ホープ》に《カタストル》が迫る。

「このカードが発動している限り、俺の《ナンバーズ》は……」

震える鋭利な二対の足を《ホープ》を裂くため振り上げる。そのせいで胴のガードが空いた。
逆手に剣を構えたまま、《ホープ》は体を右にねじり――

「カード効果によっては破壊されないッ! やれ!」

――剣を《カタストル》にぶっ刺した。

『 … … ? # #"” ’$&& ! ? 』

紫色の剣をぶち込まれ、《カタストル》はバグって止まる。刺した剣をそのままにして《ホープ》は後ろに飛び退いた。
右手のライトセイバーを握り直すと、直後に再び飛び上がる。
アーリーが頭を振り上げ叫んだ。

「"二刀、《ライトイレイザー》"!」

落下の勢いをそのままに、《カタストル》を縦に両断した。
真っ二つになったマシーンはその場で爆発するでもなく、青い光に包まれて消えた。俺のライフ、8000→6700。

「《ライトイレイザー》に切られたモンスターは、破壊されるのではなく、除外される……」

《ホープ》は華麗にバク宙を決め、アーリーの下へ舞い戻る。
残る剣はあと2本、真っ赤な剣と紅白カラー。

「三刀、《アサルト・アーマー》! これを装備解除することで、《ホープ》は2回目の攻撃が可能になる!」

前者を左の手に握り、右手の《ライトイレイザー》を今度は逆手に握り直して、《ホープ》は再び駆け出した。
その目の先には《シャーク・ドレイク》。数歩で鮫との距離を詰め、左手の剣を振り上げる。

「《シャーク・ドレイク》を《ホープ》で攻撃!」

「止めろ!」

振り下ろされたその剣を、いともあっさりと右側のヒレで、《シャーク・ドレイク》は弾き飛ばした。
剣は空中に投げ出され、《ホープ》の体がぐらりと傾ぐ。前のガードがあっさり空いた。
鋭く尖った左のヒレは甲冑程度ものともしない。

「返り討ちに……しろ!」

ヒレをそのまま前に突き出し、手刀で胴をぶち抜いた。
胸から背まで貫く一撃、《ホープ》の体がくの時に折れる。敵残りライフ、2100→1100。

「ああ、《ホープ》は自滅する……けど!」

かと思いきや。
油の切れたぎこちない動きで、《ホープ》の背筋が再び伸びる。

「たとえ勝とうが負けようが、《ライトイレイザー》は発動する!」

左の剣は飛ばされたものの、右のライトセイバーは健在。
胴を《ドレイク》に貫かれたまま、ギギギとゆっくり右手を振り上げ、そしてその剣を――

「《ライトイレイザー》を装備した戦士と戦闘を行ったモンスターは、その戦闘が終わった後除外される!」

《ドレイク》の首元にぶっ刺した。

『ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

狂ったように叫び出す鮫。
ヒレを胴から抜いた後、《ホープ》を一発ぶん殴る。既に事切れていた《ホープ》はそのまま海に沈んで消えた。
が、刺された《シャーク・ドレイク》も、青い光に包まれ消滅。

「……」

《シャーク・ドレイク》も《カタストル》も死に、綺麗さっぱり場が空いた。
そしてあいつにはまだ1本、剣が残っていたわけで……。

「そして四刀、《ZW-極星神馬聖鎧》!」

紅白カラーのラスト一刀。
宙に浮いていた最後のそれを、アーリー自身が手に取った。

「これを装備していた《ホープ》が破壊された時! この剣を身代わりとすることで、《ホープ》は今一度復活できる! オラぁ!!」

手にした直後に真下へ投げる。
勢いよく着水した剣は、そのまま海中に沈んでいき、それと引き換えにするかのように――

「蘇れ、"五刀"! ――《ホープ》自身!」

体から水を滴らせつつ、《ホープ》が海面から飛び出した。

《No.39 希望皇ホープ》:ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000 【エクシーズ:Unit0】

「……」

アーリーの場には、復活した《ホープ》。
こちらの場には……防御策、無し。

「行け、攻撃だ! 《ホープ》でお前にダイレクトアタ――――――ック!!」

両手を勢いよく握り込み、アーリー渾身の叫びが響く。
《ホープ》は腰の剣を抜くと、切っ先を俺に突き付けて、そして突進してきた。

「の、っ――!!!」

猛然と距離を詰めてくる。早い!
今俺を守るしもべはいない。自力で何とか避けねばならない!
決死の思いで身構え……


「"ホープ剣! スラッシュ―――――――"!!!!」


……ようとしたときには、もう、《ホープ》がすぐ目の前にいて――


上段から振り下ろされる剣。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

『ッ!!』

反射神経を総動員して、全身全霊を傾けて、必死で、剣を避けるべく上体をひねる。
が、距離が詰まっている以上、ひねった程度では避けられなくて、

「うが……ァっ!」

目の前に血が飛んだ。
LP、6700→4200。

「ぐ! あ、お……っ!!」

胸が焼けるように熱い。
倒れ込みそうになるのを抑えて、どうにかその場で踏みとどまる。

「バトル、終わりだ! よくやった《ホープ》! 偉い! マジで!」 

喜び、跳ねるアーリーを背に、《ホープ》は黙って立っている。
斬られた胸に手をやりつつ、できうる限りの眼光で睨むと、それで《ホープ》は引き下がった。

「……っ」

なんだこの感覚は。
《ナンバーズ》を持つ者である以上、補正が掛かっている以上。この程度致命傷にはならない。
ならないが、斬られたのは初めてだ。

「メインフェイズ、2! 墓地から《エクシーズ・エージェント》の効果、発動!」

かなり気持ち悪い。
必死に呼吸を整える俺を、アーリーはまるで見ずに続ける。

「オーバーレイユニットのない《ホープ》は、攻撃されるだけで死んじまうけど……こいつを使えば万事OK! デュエル中1回だけ、墓地にあるこいつを《ホープ》のオーバーレイユニットにすることができる!」

妙に嬉しそうな声色で、墓地にフィールドにカードを動かす。
《ホープ》のオーバーレイユニットは、これでゼロから1に増えた。自爆させることはできない。
胸が熱い。

「これで、ターン終了! さあ、そっちのターンだぜッ!」

なんなんだ、こいつは。


【LP-4200 / 手札-2 / なし 】
【LP-1100 / 手札-0 / 《希望皇ホープ/A2500》 《フォーミュラ・シンクロン/D1500》 】


さて。

ナンバーズ補正がある以上、斬られた程度で死にはしない。
しないのだが。
胸を抑える。

「……」

抑えた右手は血まみれだった。
ヤバイ。

「俺の……俺のターン! ドロー!」

流れ出る血を振り払う気で、あらんかぎりの力で叫ぶ。
少し視界がぐらついたのは気のせいだとだけ思いたい。

「……」

手持ちの札を確認する。
劣勢ムードを跳ね除けようにも、それだけの駒が 揃っていない。

「モンスターを、1体、守備表示! そして……」

右手でカードを叩き付けると、勢いで血が飛び散った。
続けてもう1枚を置く。

「1枚カードを、伏せて……終了!」

「……」

今打てる策はこの程度。
相手の出方次第で、俺は――

「……そうだ……なんだ……んだよ……」

対峙するアーリーの肩が震える。
ボソボソ呟くその声じゃ、何を言ったかは聞こえない。
が、すぐに補完された。

「なんだよ……
 ――いけるじゃんか!!!」

気持ち悪いくらいに、人が変わったように、喜色満面の笑みを浮かべていた。

「俺のターン! ドロ―――――――!!」

強く、それでいて間延びした声が、《スフィア・フィールド》に響き渡る。
引いたカードをほとんど見ない。

「《フォーミュラ・シンクロン》を生贄に捧げる! そして来い!! 《ジャンク・コレクター》!!!」

尻上がりに強くなる語調が、F1マシンを海へと沈める。
入れ替わりに現れたのは、ボロ布を着た白髪の男。

「そして! 《コレクター》の効果、発動!」

そしてその男さえ、またも海中に沈んでいく。

「場のこいつを除外することで、墓地にあるトラップ1枚を、この場で発動することができる!」

厳めしい面を崩さぬまま、《コレクター》は入水した。
まるで間を置かずアーリーが続く。

「発動するのは《異次元からの帰還》! これで、除外されている俺のモンスターをすべてフィールドに呼び戻す!」

噴水のように湧き上がる水。
主の叫びに呼応して、とどまることなく噴き上がる。


水が弾けるとそこにいたのは――


「我が元に戻れ、勇士たちよ―――――!!」

一、銀色の騎士――《フォトン・スレイヤー》。
二、白髪のホームレス――《ジャンク・コレクター》。
三、機械蛇――《サイバー・ヴァリー》。

一気に頭数が増えた。

《フォトン・スレイヤー》:星5/光属性/戦士族/攻2100/守1000
《ジャンク・コレクター》:星5/光属性/戦士族/攻1000/守2200
《サイバー・ヴァリー》:星1/光属性/機械族/攻 0/守 0

「……」

湿った血で胸に張り付いた服。軽く剥がすがすぐまた張り付く。
《スレイヤー》と《コレクター》、2人の男は騎士のように、アーリーの前で膝をつく。《ヴァリー》は黙ってとぐろを巻いた。
そしてそれらの先頭に、《ホープ》は静かに立っている。

「さあ、どーしよっかなぁ……」

急に偉そうになったアーリーは、値踏みするように俺を見た。
傷口の血は止まってないし、視界はかすかに白くすらある。
それでも、決して屈するまいと、精一杯に目を凝らした。

視線が外れた。

「……じゃあ、このまま戦う!」

アーリーが無造作に腕を振る。《ホープ》が剣を振り上げた。
それに倣って後ろの二人も各々の武器を構え、立つ。薄刃の剣を握る《スレイヤー》、細く安っぽい槌の《コレクター》。

「行け――《ホープ》でおまえに攻撃する!」

軽く、ゆるく素振りをした後、《ホープ》は大きく踏み込んだ。猛スピードで迫り来る。
敵戦力は計3体、俺を守るしもべは1体。だが。

「俺のモンスターは、《素早いマンボウ》!」

水面からジャンプする《マンボウ》。
《ホープ》の進路を遮るように、小さな《マンボウ》が割って入る。

《素早いマンボウ》:星2/水属性/魚族/攻1000/守 100

「知らね―――――よぉッ!」

だからどうしたと言わんばかりに、《ホープ》は剣を振り下ろす。
小さく頼りない《マンボウ》は、字面通りに一刀両断。無残に海中へ沈んでいく。
が、ここだ!

「《素早いマンボウ》の効果発動! こいつが破壊されたとき、俺はデッキから魚族モンスター1体を墓地に送る!」

デッキからカードを1枚抜き出し、すぐさまそれを上へ投げた。

「捨てるのは、《ビッグ・ホエール》!」

直後。
空中に、デカいクジラが現れた。

「な……!?」

クジラはそのまま落下してくる。
《ホープ》はすぐさま剣を投げ捨て、逃げるように後ろへと飛んだ。

クジラ、着水。

「おわ……ッ!」

クジラはそのまま沈んでいくが、巨体は波浪を巻き起こす。
波に飲まれて怯むアーリー、その隙に俺はもう1枚。

「さらに、その後! デッキから、もう1体、《素早いマンボウ》を特殊召喚することができる!」

めちゃくちゃに揺れる水面から、再び《マンボウ》が飛び出してきた。
2体目の《素早いマンボウ》が、俺を庇う形で前へ。

「うー……クソ、知るか! 《ジャンク・コレクター》で《マンボウ》を攻撃!」

髪を振り水気を飛ばすアーリー。
手にしたボロいハンマーを振り上げ、《ジャンク・コレクター》が飛び上がる。

「消えろッ!」

声に合わせてハンマーを振る。《マンボウ》はぺちゃり潰れて沈んだ。
さして《コレクター》は表情を変えず、すぐにハンマーを構え直して俺に鋭い目を向ける。
俺もすぐさまカードを投げた。

「効果発動! デッキから《シャーク・サッカー》を墓地へ!」

空中にコバンザメが現れ、《コレクター》へと突進する。
何でもない風に振り払われたが、《コレクター》はそれで退いた。

「そして、もう1体、《素早いマンボウ》を特殊召喚……守備表示」

ざばざば水をかき分けて、最後の《マンボウ》が浮上した。さりげなく。

「これで絶滅だ! 《フォトン・スレイヤー》で、《マンボウ》を攻撃!」

その《マンボウ》も《スレイヤー》に斬られた。あっさり切られて沈んでしまった。
が、これで攻撃終了。とりあえずこの場は凌げたわけだ。

「効果発動。もう《マンボウ》は尽きたけど、デッキから魚を1体落とす。《ツーヘッド・シャーク》!」

アゴに目の付いた青いサメが、降ってきてすぐに沈んでいった。
これで、バトルは終了だ。

「げー、しぶといな、クソ……まあいい、まだ俺のターンだ」

顔を突き出してアーリーが言う。表情がかなり憎たらしい。
顎に手を当て目を閉じて、少し考えるそぶりを見せて、2秒ほど後に目を開けた。

「《サイバー・ヴァリー》の効果発動! 《サイバー・ヴァリー》自身と、フィールドの《フォトン・スレイヤー》を除外して、カードを2枚ドローする!」

機械の蛇が体を伸ばす。
這うように宙を移動した後、《フォトン・スレイヤー》の体に巻き付く。

「これさあ。カード引けるのはいいけどさ、《フォトン・スレイヤー》は消えちまうんだよな」

反射で「知るか」と言いたくなったが、そこはどうにかこらえておいた。
なれなれしく語り掛ける顔に、敵意を込めた視線だけ返す。

「でもさあ。行けそうな気、しねえ?」

反射で「知るか」と言いたくなったが、以下省略して視線を返す。
だが……。

「今ならさあ。今一番欲しいカード、今にベストなカード、引けそうだと思わねえ?」

アーリーは俺に向かって話す。俺に向かって話している。が。
形としてはそうなのだが、その実あいつはこちらを見てない。根拠はないが、そう感じた。
ひとしきり汚く笑ったあとで、アーリーは腕を振り上げた。

「効果発動! 2枚ドロー!」

《サイバー・ヴァリー》と《フォトン・スレイヤー》は共に光の粒子になってその場で弾けて消えてしまった。
そしてアーリーはカードを引く。

「やっぱりだ! 魔法カード《救援光》! 発動!」

引いたカードをちらりとだけ見て、ほぼ間をおかずに振りかざした。

「800ポイント! ライフを払うことで、除外されている光属性モンスター1体を手札に戻すことができる!」

それを別のカードと入れ替えて、満面の笑みで場に出した。ライフポイント1100→300。
残るライフは少ないというのに、惜しげもなしにコストを払う。

「……」

《ハネワタ》に《ジェントルーパー》、《テンパランス》。
その場しのぎの防御策を、怯えて乱用していたあいつは、一体どこへ行ってしまった。

「《フォトン・スレイヤー》を手札に戻す。で! 《スレイヤー》は、フィールドにエクシーズモンスターがいるとき、手札から特殊召喚できる! 俺の場には今《ホープ》がいる! 行け!」

消したそばから舞い戻る、銀色の騎士《スレイヤー》。
《フォトン・スレイヤー》と《ジャンク・コレクター》、どちらも光のレベル5だ。

「さあ!! 《フォトン・スレイヤー》と、《ジャンク・コレクター》で……オーバーレイ!!」

ハンマー抱えたホームレス、由緒正しい銀色騎士。2人の男が飛び上がり、光となって交わり合う。
さて、何が出てくるか……。

交わり合った2つの光は、地上に舞い降り爆発した。
光の中から現れたのは――

           ライオアームズ
「勇者の鎧、《ZW-獣装獅子武装》!!」


ライオンだった。

《ZW-獣装獅子武装》:ランク5/光属性/獣族/攻3000/守1200 【エクシーズ:Unit2】

「……」

赤・白・金の派手な体色、なめらかな肌のライオンだ。ライオンなのだが。
この状況で出すモンスターなら、もっと適したやつがいたはず。
というか、さっきの《極星神馬聖鎧》にしてもそうだが……

「《ライオアームズ》の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使って、デッキから《ZW》を1枚手札に加える!」

こいつは、《No.39》……《ホープ》専用のサポートモンスター。
《ホープ》は《ナンバーズ》である以上、この世界には1枚しかない。
そんなカードの限定サポートが、なぜこの世界に存在する? 
なぜアーリーは、こんなカードを持っている? 
この世界での《ZW》は、どういう理屈で存在している?

     ライトニングブレード
「《ZW-雷神猛虎剣》を手札に! そして! 《ライトニングブレード》は、《ホープ》専用の装備カードになる!」

あれこれ考えてる隙に、アーリーが宙にカードを投げた。
そのカードから飛び出したのは、一匹の白い虎だった。

「これを装備した《ホープ》は、攻撃力が1200上がり、さらに! 《ホープ》が破壊されるとき、これを身代わりにすることができる!」

この虎はただの虎ではない。機械で出来た虎なのだ。
みるみるうちに形を変えて、一刀の剣へ姿を変える。
虎の皮をあしらった柄を、《ホープ》は静かに右手へ握った。

「で。魔法カード、《ジェネレーション・フォース》! 俺の場にエクシーズモンスターがいるから、デッキから《エクシーズ・リボーン》を手札に加える! で、カードを1枚セット!」

素早くカードを入れ替えた後、アーリーはそれを場に伏せる。
満足そうに腕を組むと、2,3度うんうん頷いて……

「このくらいで、ターン終わりだ」

……というわけで、どうにか攻め手が止まってくれた。


【LP-4200 / 手札-1 / 《set1》 】
【LP- 300 / 手札-0 / 《希望皇ホープ/A3700》 《ライオアームズ/A3000》 / 《雷神猛虎剣》 《set1》 】


「俺のターン、ドロー」

動きを抑えてカードを引く。俺に残された手は3つ。
手札の2枚と場の罠1枚。

「……」

今のターンは使わなかった、温存しといた罠、1枚。
奴の場には《ホープ》と《ライオアームズ》、伏せカードが1枚と……
そして、墓地に《ダメージ・ダイエット》。

「《サルベージ》発動!」

打てる手はそう多くない、が。
奴を刺す手は見切っている。

「墓地から《ビッグ・ホエール》と《サイレント・アングラー》を手札に戻す」

2枚手駒をサルベージして、さらに続けてもう1枚。

「魔法発動。《浮上》! 墓地のレベル3以下の魚、《素早いマンボウ》を復活させる!」

海の底からまたもや1匹、小さな《マンボウ》が浮上した。
そいつの隣にもう1匹―ー

「さらに、こちらの場に、水属性モンスターがいることで……手札の《サイレント・アングラー》を特殊召喚」

――デブいアンコウが浮いていた。
手札はこれで残り1、どう転ぼうと次で終わる。

《素早いマンボウ》:星2/水属性/魚族/攻1000/守 100
《サイレント・アングラー》:星4/水属性/魚族/攻 800/守1400

「《素早いマンボウ》と、《サイレント・アングラー》! この2体をリリースして――」

2匹の魚がぶくぶく沈む。
最上級モンスターを呼ぶには、2匹生贄が必要だ。さあ、行け!

「《ビッグ・ホエール》をアドバンス召喚!」

空中に、デカいクジラが現れた。

《ビッグ・ホエール》:星9/水属性/魚族/攻1000/守3000

「な……!?」

クジラはそのまま落下してくる。
《ホープ》はすぐさま剣を投げ捨て逃げるように後ろへと飛び、《ライオアームズ》も同じように、身をひるがえして後ろに下がる。

見覚えのある光景と共に、クジラの巨体が着水した。

「おわ……ッ!」

「この《ビッグ・ホエール》は、召喚された瞬間! 死ぬ!」

アーリーが波に飲まれる横で、クジラはまたもや沈んでいく。
貧弱な上に短命なのだが、ただ短命なだけではない。

「死ぬけど、その代わりに! 俺は、デッキから……3体の、水属性モンスターを、特殊召喚する!」

沈みゆくその背中の穴から猛烈に潮が噴き上がる。
カードを3枚構えて、俺は、精一杯しかめ面を作る。

「レベル3……《オーシャンズ・オーパー》! 《キラー・ラブカ》! 《フィッシュボーグ-アーチャー》!」

ショボい小魚3匹が、噴気に乗って現れた。
銛を構えた赤い金魚に、黄色い体のウナギザメ。ラスト1匹は……ロボット。うん。魚が操縦するケンタウロス型ロボット。
どれも貧弱な低級のカード。

《オーシャンズ・オーパー》:星3/水属性/魚族/攻1500/守1200
《キラー・ラブカ》:星3/水属性/魚族/攻 700/守1500
《フィッシュボーグ-アーチャー》:星3/水属性/魚族/攻 300/守 300 【チューナー】


手札は全部使い切った。
重要なのは、ここからだ。

「……で!」

手札がなくなり空いた左手を額に当てて目を閉じる。
あからさまなほどグッと固く、固く目を閉じて、考える……フリをする。

「……レベル3! ……《キラー・ラブカ》と《フィッシュボーグ-アーチャー》……の、2体で! オーバーレイ!」

手はそのままで右目だけ開く。
ロボットとウナギザメの2匹で、何とかこの場を返す手を、打ちたかったのだが……

「エクシーズ召喚……。……、……《太鼓魔人テンテンテンポ》……!」

魚とロボが融合・合体、現れたのは……食い倒れ人形。ここから逆転勝利するには、ちょっとパワー不足なカード。
本人もそれを認めているのか、敵軍の騎士とライオンを前に、少し弱気に太鼓を鳴らした。

《太鼓魔人テンテンテンポ》:ランク3/地属性/悪魔族/攻1700/守1000 【エクシーズ:Unit2】


「……効果、発動!」

なんとか反撃したかったけど、今はこれが精いっぱいだ……。


という表情を、作る。


「オーバーレイユニットを1つ使い! 相手のモンスター1体から、オーバーレイユニット1つを奪う!」

できうる限りの渋い目で、眼前のアーリーを睨みつけ、視線を外さずカードを動かす。

「《ホープ》のオーバーレイユニットを奪え! やれ! 行け!」

気圧されていた人形も、意を決したか動き出す。
腹の太鼓をドンドコ鳴らして、音波で《ホープ》を責めたてる。

『……オ……ッ!』

わずかに苦悶の声を漏らして、《ホープ》はその場に片膝を着く。オーバーレイユニット、1→0。
さて。

「……《テンテンテンポ》の攻撃力が、500ポイントアップする。……で……それで……」

顎……というか、口全体に、右手を当てて、考え込む。ふりをする。
少し前《シャーク・ドレイク》でやったように。オーバーレイユニットを持たない今の《ホープ》は、攻撃力の大小にかかわらず、攻撃されるとその場で自壊する。
だが、今の《ホープ》は《ライトニングブレード》を装備している。
さっきアーリーが説明したように、奴は死ぬとき一度だけ、それを身代わりにすることができる。そして《ホープ》は生き残る。
だから、この状況で《ホープ》を攻撃しても。《ブレード》が外れるだけで、返り討ちに遭ってしまう。

「……けど! バトル!」

右手を勢いよく前へ。人形と赤い金魚の2体に、自爆の覚悟を決めさせる。
確かに、最初の1匹は、《ブレード》を外すだけに終わって、そのまま返り討ちにされる。
だが、残ったもう1匹で、もう1度《ホープ》を攻撃すれば、もう身代わりはない。ので殺せる。

とりあえず《ホープ》を仕留めておいて、さらに次のターン、《テンテンテンポ》で《ライオアームズ》のオーバーレイユニットも奪えば、被害は最小限になる。
しかし、それでも。《ライオアームズ》はATK3000、《テンテンテンポ》は2700。無慈悲に殴り倒されてしまう。
が、まあ、とりあえずは。とりあえず、後続を呼ばれる心配はない。攻撃は凌げるだろうから、次のターンに賭けるしかない。
今は、この程度の反撃で精いっぱいなのだ。



――と、奴は考えるだろう。


そうなればこの勝負、俺の勝ちだ。



「《オーシャンズ・オーパー》で、《希望皇ホープ》を攻撃だ!」

金魚は静かに銛を構え、黙って《ホープ》に特攻した。

「このとき、オーバーレイユニットのない《ホープ》は! 攻撃を受けることで、自滅する!」

「おーっと! んなわけねーだろ、《ライトニングブレード》の効果! こいつを身代わりにして、《ホープ》は破壊を免れる!」

ビシッ! と俺を指差して、テンション高くアーリーは叫んだ。
虎柄の剣を投げ捨てて、《ホープ》は自前の剣を抜く。

「返り討ちだ!」

金魚が必死で突き出した槍は、あっさりと剣で受け止められた。
2500vs1500。つばぜり合いが続くはずもなく、《オーシャンズ・オーパー》は跳ね飛ばされる。
態勢を崩す金魚に対し、すぐにアーリーは追撃の指示を――

「《オーシャンズ・オーパー》! 撃――」

出そうとして。
出そうとしていた。

「――!? !? ――! ―――!!!」

くぐもった声が聞こえて……来ない。
シャットアウトされていた。

「な……え!?」

《ホープ》は金魚を追う手を休め、静かにただただ直立している。
まただ。


またもや、アーリーは包まれていた。球に。
白く輝く光の球に、光の大玉の中に、すっぽり入っていた。


「―! ――!!」

アーリーはかなり驚いた顔で、内から球の壁を叩いている。
さっきと何故か反応が違う。さっきは自覚していると見えたが、今は本人も混乱している。

「――! ……」

というか、気のせいでなければだが。
さっきより、壁が厚くなってるような……?
アーリーの声も聞こえないし、本人も出られず困っているように見える。

「……」

未だ球の中にいるアーリー。
だが、少し落ち着いたようで、黙ってディスクを構えている――


「――そうか!」


いきなり球が弾けて消えた。


「そうか! そうか、攻撃時! 《オーシャンズ・オーパー》を返り討ちにする――その前に! 止まれ、《ホープ》!」

何のコメントをするでもなしに、一転顔を輝かせると、アーリーは腕を突き上げた。
止まれと指示するまでもなく、希望の騎士は静止している。

「反撃の前に! 墓地から、トラップカード発動! 《ダメージ・ダイエット》!」

「……!?」


ヤバい!

「《ダメージ・ダイエット》を除外して、発動! 普通に使うと、このターンすべてのダメージを半分にする能力がある……が! 今はそれじゃなくて! 別の効果を使う! やれ、《ホープ》! 返り討ちにしろ!」

それまで黙っていた騎士が、猛然と金魚を狩りに向かう。
驚異的なそのスピードに、《オーシャンズ・オーパー》は逃げる間もなく。

「"ホープ剣、スラッシュ"!!」

縦に両断されてしまった。

「……~~~~~~!!」

俺のライフは→。
こんなはずではなかった、が!
やらないとヤバい! 間に合わない!

「~~トラップ! トラップ発動、《激流蘇生》!」

海に沈みゆく金魚の死体。
その真下から水が噴き上がる。

「水属性のモンスターが破壊されたとき! そいつをこの場で復活させて!」

高く太く立ち上る、柱のように立ち上る水。
死んだはずの赤い金魚が、その柱から飛び出した。

「復活したモンスター1匹につき、500ポイント、ダメージを……与える!」


これで終わるはずだった。これで終わるはずだった!


金魚はそのまま機敏に動き、アーリーに向け銛を投げつける。が。

「《ダメージ・ダイエット》の効果! このカードを、普通に使うんじゃなくて! 墓地に行ったこのカードを、ゲームから除外することで! このターン、カードの効果で受けるダメージを! 半分にする!」

アーリーが両手を突き出した途端、目の前に白い壁ができた。
銛はその壁に阻まれて、アーリーへ届くことなく止まる。ライフポイント、300→ 50……。


「……《オーシャンズ・オーパー》は守備表示……」


どういうことだ。

「……っと、《オーシャンズ・オーパー》の効果。これが、戦闘で、破壊されたので……デッキから《サウザンド・アイズ・フィッシュ》を手札に加える」

とりあえず、効果を発動する。が。それに何の意味がある。
おかしい。

見てからでは遅いのだ。

「なんで……」

《激流蘇生》が発動するのは、《オーシャンズ・オーパー》が死んだとき。ダメージを計算するタイミング。
このタイミングでは、発動できないはずなのだ。《ダメージ・ダイエット》は。

「…《テンテンテンポ》で、《ホープ》を攻撃」

動揺しながら命令を出す。
《オーシャンズ・オーパー》は返り討ちだが、これで《ライトニングブレード》は外れた。

「オーバーレイユニットのなくなった《ホープ》は、攻撃を受けるとき、勝手に自滅する……」

《テンテンテンポ》が太鼓を鳴らすと、それだけで《ホープ》はくずおれた。
眼から光が消え、落ちていく。

「……バトル終わり」

おかしい!
《オーシャンズ・オーパー》が攻撃した時点で。《激流蘇生》より前の段階で、発動しないと間に合わないのだ。《ダメージ・ダイエット》は。
あいつは、僕が《激流蘇生》を伏せていると知っていた。読んでいた。でなければ間に合わない。おかしい。

前回のデュエル……"煉獄の糸"、フランク・ストレイドと、ハインも含めての2vs2。あの時。
フィールドに伏せた《激流蘇生》は、発動する前に破壊されてしまった。"煉獄の糸"に。

この場でアーリーが《激流蘇生》を予測できたとするなら。
僕が《激流蘇生》を見せたのは、以前のあのワンシーンだけだ。
既に攻略された罠、意識を向ける必要もない。そんな一瞬だけだったはず。おかしい。

読めるはずもない一撃だったのだ。
だからこそ、僕はこんな手を……

「危なかったよなー……危なかったよなぁ! なあ! で!? ターンは!? まだなんかあんのかよ??」

あの球だ!
あの光の球。《ホープ》が《オーパー》を破壊する前に―ー《ダメージ・ダイエット》が発動できなくなる前に。そのタイミングが訪れる前に。
都合よく発動した、あの光の球。

絶対に、あれが……何かある。

「なあ、おい!! まだなんかすることあんのかよ!! なあ!? さっさとターンエンドしろ!」

「……っ」

憎たらしいどころの話じゃなく、今のアーリーは威圧感を放っていた。
打てる手はすべて使い切った。決まると思ったから使った。
《オーシャンズ・オーパー》の能力で、手札は1枚増えたけれども、今役に立つカードじゃない。まずい。

「……ターン、エンド」


まずい。



【LP-4200 / 手札-1 / 《テンテンテンポ/A2200》 《オーシャンズ・オーパー/D1200》 】
【LP- 50 / 手札-0 / 《ライオアームズ/A3000》 / 《set1》 】




       

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