Neetel Inside ニートノベル
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僕とカナのいつも
さんばん

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さんばん、ただいま

 入学式が終わって、お昼の少し前に下校。今、僕は菜々津ちゃんと一緒に歩いている。
 学校で一番仲の良い友達である菜々津ちゃんは、僕とは違う学年なのだけれど、それでも学校は楽しい。僕の通う小学校は、全校生徒が二百人ぐらいの学校だ。集団登下校があるので、違う学年の子と触れ合う機会はとても多い。
「何やら実感がないが、私もついに六年生なのだね」
 集団下校の班の中では、僕と菜々津ちゃんの家が一番学校から遠いので、同じ班の二年生の子と別れてから、五分ぐらいの間二人きりで歩く。そういう時間も、僕にとってはとても楽しい。それでも僕は、家に帰るのがとても楽しみだ。
「僕も四年生かあ・・・」
「ミッチーも、実感なさそうだね」
「だって、去年の六年生も今年の一年生も同じ登下校班にいないから、身近なことは何も変わってないもん」
「ミッチーらしい理由だな」
 できれば、あまり連呼してほしくないけれど、言えない。恥ずかしいだけで、別に嫌ではないから、良いのだけれど。
「そうだ。ミッチーはどのクラブ活動をするか、決めているかい?」
 僕の通う小学校は、四年生になると、クラブ活動に参加しなければならない。毎年、新年度になると誰もが一つのクラブを新たに選び、四~六年生が混ざり合って活動を開始する。サッカークラブや、レクリエーションクラブが人気だ。
「まだ考えてない」
「それは困るよ。君が決めてくれないと私も決めかねてしまう。私は君と一緒のクラブに入りたいからね」
「何でさ」
 僕が軽い気持ちで聞くと、菜々津ちゃんは急に真顔になって、僕の両手をしっかりとつかんだ。
「一秒でも長く君と一緒にいたいから」
「・・・怒るよ?」
 いくら僕でも、そう何度も同じ手にひっかかったりしませんよ。菜々津ちゃんは僕に迫って、僕が慌てふためく様子を楽しんでいるのだ。僕にだって、それぐらい解る。
「・・・割と本気だったのにな・・・」
 珍しく、菜々津ちゃんは小声と共に頬を赤らめ、手を離してそっぽを向いた。
「・・・え、あの・・・菜々津ちゃん?」
 僕に背中を向けた菜々津ちゃんのことを考えると、急に切なくなった。
 僕、悪いことをしたのかな。
「・・・その・・・ごめん・・・ね?菜々津ちゃん」
「良いのだ。今までの私が悪かった。道朗に嫌われていても致し方あるまい」
「え・・・ち、違っ!」
 僕が慌てふためいていると、とても満足そうな表情で菜々津ちゃんが振り向いた。
「やっぱりミッチーはそうでなくっちゃ」
 何が起きているのかを理解するまで、僕は十秒くらいの間、極端に間の抜けた表情のままかたまっていた。
「な・・・」
 ようやく僕が意識を取り戻すと、これまでにないくらい近い所に菜々津ちゃんの顔があった。近い近い近い!
「何をしようとしているの!」
 それはもう、割る前の割りばしの先端部分同士ぐらい近くでしたよ。
 勢いよく後ずさりながら聞くと、菜々津ちゃんは自分の頭をがしがしと触りながら目をパチクリさせた。
「何って・・・キス」
「キッッ・・・・・・どうして」
「どうしてって・・・そういう雰囲気じゃなかった?」
 今の一連のやり取りが、菜々津ちゃんの目にはどのように映っていたのだろうか。少なくとも、僕自身はかたまったり慌てふためいたりしていただけのような気がするのですけれど。
 とりあえず、僕が振り回され続けている現状をどうにかしなければ。
「菜々津ちゃんのバカ」
 一言を置いて、僕は足早に駆け出した。少しは、菜々津ちゃんにも慌ててもらおう。
「ミッチー」
「うん?」
 僕は弱い。呼ばれたら、立ち止まって振り返ってしまう。
「私はあわてないよ」
 自分の中を見透かされたような気がした。
「菜々津ちゃんはずるい」
 僕がすねていると、菜々津ちゃんは僕の頭をなでてくれた。
「知ってる」
 菜々津ちゃんとのやり取りは、疲れるけどとても楽しい。いつも、いつか勝てる日がくるかもしれないと思えるからだ。それでも僕は、家に帰るのがとても楽しみだ。
「あ、それと、今日も暇だから、後で遊びに行ってあげるね。ミッチー」
「うん、後でね」
 お互いの家の前で手を振り合って、僕と菜々津ちゃんは別れた。
 どれほど楽しくても、どれほど楽しくても、僕はいつだって家に帰りたい。家には、いつだってカナが待っているのだから。
「ただいま」
 玄関を開けると、すぐ目の前にカナが座っていた。
「にゃあ」

さんばん おわり

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