Neetel Inside ニートノベル
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合間 大河の場合

 気がつけば親や飼い主なんてものはいなかったし、俺は一人で生きていた。多分これからもそうだろう。
 野良猫の中には人に飼われる猫を嫌うやつらもいるが、俺は生きるために人に飼われることを否定するつもりはない。俺は基本的には鳥や小動物を狩って日々の糧を得ているが、人に媚を売って餌を与えてもらうこともある。どちらとも食料を得るために自分の力を駆使しているだけに過ぎず、その結果として人に飼われるか何かを狩るかの違いがあるだけなのだ。餓え死にしなけりゃなんでも良い。
「あら大河さん。来てたのね」
「うす」
 秋子さんに声をかけられた。俺は野良猫だが、カナと仲良くしているので、この家の人間は皆顔見知りだ。大河という名を付けてくれたのも、この家の人間だ。
「そろそろお昼ご飯にするけど、大河さんもご一緒する?」
「そうしてくれると嬉しいぜ」
「大河さーん」
 俺の言葉が秋子さんに通じないことは解っているのだが、それでもやはり質問されたら答えるのが礼儀というものだろう。そう思っていると、先ほど物凄い勢いで玄関に駆けていった猫が帰ってきた。
「おうカナ。秋子さんに食事に誘われちまった。モテる男は得だぜ」
「何言ってんですか?馬鹿なんですか?」
 こいつには冗談というものが通じないのか。笑うところだろうだと思うのだが。
「それよりどうして秋子にさん付けで私は呼び捨てなんですか?」
「あ?カナちゃんとでも呼んで欲しいのかよ」
 カナは自分のことを分別ある大人だとでも思っているようだが、俺から見ればまだまだガキだ。一緒にいて楽しいガキだとは思うがな。
「私は"れでい"ですよ。カナさんと呼んでください」
 カナが偉そうに踏ん反り返っている。
 カナが偉そうにしていても全然偉そうに見えねえ。チビだしな。
「・・・・・・・・・」
「何か言ってくださいよ・・・」
 偉そうには見えないが、可愛いとは思ってしまった。こんなガキにそんな感想を抱かされるとは、春の陽気で俺の頭がおかしくなったのかもしれねえ。
「お前って可愛いよな」
 俺は不器用だから、照れってものを持ち合わせてない。思ったことをそのまま口に出しちまう。
「えっ・・・えっ?」
 反応に困ってやがる。そういうところがガキだっつうのに。
「い、今何と?」
「うるせーガキ。いいから飯食わせて貰おうぜ」
「ちょっと待ちなさい大河さん!今何て言ったんですか!」
 俺達がにゃーにゃー言い合っているところを、しゃがんで見学していた秋子さんが立ち上がった。何を言ってるのかわからないはずだから、見ていて面白いものだったとは思えないのだが、彼女には何か思うところがあったのだろう。
「やっぱり恋人同士って良いわねえ」
 ひでえ言いがかりだ。俺はガキにゃ興味ねえぞ。
 カナがまた固まっていた。





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