Neetel Inside 文芸新都
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監視×カンシ
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監視×監視

監視:
①(悪事が起こらないように)見張ること。「―の目をくぐる」「国境を―する」
②旧刑法で、再犯防止のための付加刑。
引用:広辞苑


モニターには一人が映っている。解像度は低く、顔をもちろんのこと人であること以外は分からない。その人物が何かを注視していることだけは分かった。

間森 美春は現在そのモニターを見ている。 数時間ただただ見続け、目に疲労を感じ始めていた。しかし、これが美春の日課である。ここ数ヶ月毎日モニターに向かい見続ける、この行為の繰り返しなのである。最初はこんな簡単な仕事でいいのかと思った。衣食住に不満は言えなかった。少なくともその生活は最低限より上であった。
一週間は持った。一週間しか持たなかったのだ。それ以降はこれという考えも持たずただ惰性であった。
単純、加えて意味の見いだせない作業を繰り返し行うというのは苦行である。有名なものに刑罰の強制労働として穴堀がある。囚人は半日をかけて穴を掘る。残る半日で穴を埋める。無意味無駄極まりない。いや、穴堀であればそこに肉体鍛練というものを見いだす者がいるかもしれない。しかし、この美春の仕事はモニターを見るだけである。視力の低下を求めない限り無駄だといえよう。まだこの仕事を始めた頃は画面の中の者について興味もあったし考察もした。しかし、考えたところでそれで終わりであり、何一つのヒントを得られないと感じた美春はすっかり諦めていた。

ここで間森美春について触れておく。美春は傷害罪の加害者である。美春はその日は珍しく居酒屋に寄った。店内はまばらに空いていた。他の客といくらか距離を取り一人で飲んでいた。しばらくして美春の隣に既に出来上がっていた男が座った。美春は絡まれなければそれでよいと気にしなかった。しかし、いよいよ店が混んできたところで事が起こった。周りには聞こえない程度の声で男が絡んできたのだ。その男はその界隈では有名だった。彼に絡まれれば慰謝料を取られると。美春は酔った勢いで男を突き飛ばした。
男を突き飛ばした丁度その辺りで警官が入ってきた。見るに見かね良心的な客が通報していたのかそれとも男があらかじめ仕組んでいたのか美春には分からなかった。
まず最寄りの警察署へと向かった。美春は警察署がこんな近くにあったなんてと驚いた。警官はあれやこれやとまくし立て淡々と調書を録っていった。その中で傷害罪に関しては何一つ反論しようとは思えなかった。不運だったのだ。そう自分に言い聞かせた。
しばらくして、再びどこかへ向かうと言われた。パトカーの中で揺られるうちに不思議にも眠りについてしまった。目が覚めるとどこかの一室のようだった。モニターが一つ、鍵のかかったドアが一つ、鍵は外からしか掛けられないようで、窓はない、壁際には布団が置いてある。まるで新築、あるいは賃貸といった殺風景。違和感があるのはモニターと対称にカメラが設置されている。どうやら監視をされているみたいだ。
間もなく見知らぬ白衣の男が入ってきた。
「これからモニターに映される者をただひたすら見続けろ、それだけでいい。」
低くもよく声が通っていた。美春も対抗して負けじと声高に言い返す。
しかし白衣の男は反応しなかった。するべきことはもう無いと言わんばかりに再び外へ出ていった。だが男はすぐさま戻ってきて何も言わず食品と衣類だけを置いていった。しばらく待ったところで何もなく、食事にありついた。食べながら今日この数時間のうちに何が起こったのか反芻した。そうするうちに先程の白衣の男に見覚えがあった。名前は加賀久志也、美春を捕らえた警官である。しかしそれ以上の情報はなく今に至る。


この日、美春のわずかながら探求心を生き吹き返らせる情報がもたらされた。加賀と名乗っていた者がモニターに映し出されているのはお前の知る男だとそう伝えてきた。美春はいくつか可能性のあるものを挙げた。その一つに対し美春は後悔していた。なぜ、この可能性に気づかなかったのか。初めの頃の意気込みは無駄だったのか。生産性皆無であり生きたゴミだったのかとさえ思っていた。美春の出した結論は美春が美春自身を見張っているというもの。元々美春には潔癖症のきらいがあり、幸いにも整理整頓をしなければ落ち着かないというところで落ち着いていた。食べ終えた後のものや着替え終えた衣類、これらをドアの方に寄せて置くとあまり間を開けず加賀が引き取りに来た。最初はつくづく監視されていると実感があった。この結果モニターには美春以外余分なものが映ることはなかった。美春はすぐに上を脱いだ。そしてカメラに映りそうなところへ置いた。すぐさま、後ろを振り替えるが画面は暗く、苛立った美春の顔が映っていた。

加賀がやって来た。美春は華奢ながらも喧嘩の腕に自信があった。出方次第では加賀を落とす気だった。加賀にここまでの仮説を述べると黙りと聞いていた。
「すばらしい、実にすばらしい 君は実にいい実験体だった」
「実験体? ふざけんなよ 俺は何の研究のために連れてこられたんだ ここはどこなんだよ」
「順に答えよう、まず我々の研究は無意味から意味を見いだすこと関連性のないものに関係をつくりだすこと、次にここは山中の研究所だ 以上。引き続き実験に戻ろう」
加賀は美春があっけにとられていた間に去った。しかし、美春はやる気を取り戻した。どうにか出られるのではと希望が見えた。彼は諦めようとしない。

     

監視×干支

干支:
十干と十二支。また、その60通りの組合せ。
中国に始まり、紀年法として用いる。えと。
引用:広辞苑第六版


「えーっとですね、舞台は山奥ということですが、これで良かったでしょうか」
森 賢矗(モリ ケンチク)はモニター越しの加賀に確認を促す。
加賀は話す気がないのか左手でOKサインをつくっている。
「それでいい。今回必要なのは60人を収容できる空間だ」
「重々承知ですとも。しかし、さすがは加賀先生。被験者60名をいとも容易く集めたそうで。それでは残る内装等に掛かります」


そこでは皆、役割に沿って生きていた。毎年一人の子供を産む。60歳以上の生活は自由にしてよいのだった。生きるも死ぬもよし。
生まれてから死ぬまでそこで生活する。だから彼らは自らが囚われの身だと思いもしない。例え言われたところで実感できないだろう。
平均よりも良い衣食住をもって生活している。ここにいる多くの者が過去と比較し今を選び生きている。

能登 泉(ノト イズミ)はこの十年をこの施設で暮らしてきた。
十年前、夫が亡くなり、お金はあったもののこれといった使い道もなかった。そこで、どう話を嗅ぎ付けたのか加賀という男がやって来た。
施設やら被験者やら怪しい話ではあったが楽しみを見つけられなかった彼女は加賀の話に二つ返事で答えた。それが49歳の時のことだった。
施設では何一つ不自由のない生活を送ってきた。ただ、彼女には十年来の疑問があった。この実験は何のためのものなのか。予測はしたものの答え合わせは行われない。

ここで断りを入れておくと、この実験施設では皆それぞれ年齢に対し名前が割り振られている。能登 泉というのもつまりは偽名でしかし彼女らに本名はもう要らなかった。
初めは設備に関しての実験だと考えていた。しかし、そのわりにこの十年新しい家電に替えられたこともなく、住人たちの要望で変化していっただけだった。その他の様子から見ても住居生活における実験だとは到底考えられなかった。
しばらく生活しているうちに彼女は驚きの事実に出逢ったのであった。そこにいた全員の誕生日がほとんど一緒だったのだ。そして、0歳から59歳までの人間が丁度一人ずついた。しかし経歴は皆、様々で若夫婦から老夫婦、子供連れの家族もいれば単身者もいた。さらに単身者にも学生と思える子もいたし、生き遅れもいた。職業も様々で専業主婦もいれば大手企業に勤めていたもの、元教師もいくらかいて彼らは子供たちに一般教養を教えていた。その点に関しては郡が壊れないような絶妙な選択がされているんだと感心した。

まもなく就寝時間である。そして、明日は誕生日。

彼女はこの実験を終えることになる。しかし、先に還暦を迎えた方々はどうしているのでしょう。一度深くに埋めた疑問が掘り返された。還暦を迎えたものはいつのまにかいなくなっていた。だからこそ彼女は明日目が覚めれば隠されていたものが現れるのではと期待を持った。彼女は期待を胸に就寝した。終身した。
延々と眠った。永遠に眠った。


60年という環における名前の関連性
小浦 佳子 (コウラ カコ)
越智 夕 (オツチ ユウ)
日野 捉 (ヒノ  トラエ)
示 卵 (シメス ラン)
成田 炬燵 (ナリタ コタツ)
水戸野 窒素 (ミトノ チッソ)
馬上 乃乃香 (マウエ ノノカ)
幸 来々 (サチ クルクル)
時任 車 (トキトウ クルマ)
撫養 心肺 (ムヨウ シンパイ)
井上 絹 (イウエ キヌ)
軒 意図 (ノキ イト)
蛇口 反 (ジャグチ ソル)
日野 透視 (ヒノ トウシ)
上尾 藍 (ウエオ アイ)
宇津野 栃 (ウツノ トチ)
彼塚 耐 (カノツカ タエ)
前東 留満 (ゼントウ ルマン)
葉梨 我 (ハナシ エゴ)
起 煮付 (オコシ ニツケ)
轟 轟 (トドロキ ゴウ)
百々 気乗 (トト キノリ)
一内 滅 (イチウチ メツ)
市ケ坪 十日 (イチガツボ トオカ)
指 親 (サシ チカ)
紐本 已然 (ヒモモト イゼン)矢野 女口 (ヤノ ジョコウ)
忍 怺江 (シノブ コラエ)
女良 妊娠 (メラ ニンシン)
水野 富 (ミズノ トミ)
田貝 違 (タガイ チガウ)
木野 辻人 (キノ ツジヒト)
火野 冴 (ヒノ サエル)
汀 酒 (ミギワ サケ)
一 無 (イチ ナシ)
土野 問 (ツチノ トイ)
鹿野 力 (カノ チカラ)
銅 亜鉛 (アカガネ アエン)
海野 星 (ウミノ ホシ)
望主 希臨 (モチヌシ キリン)
蔦 榎 (ツタ エノキ)
君 殿濃 (キミ トノコイ)
柄 臼杵 (ツカ ウスキネ)
臂 仁角 (ヒジ ヒトツノ)
明治 維新 (メイジ イシン)
配島 集 (ハイジマ シュウ)
後出 小説 (ウシロデ ノベル)
重茂 崖無 (オモイ ガケナイ)
根津 簑恵 (ネズ ミノエ)
葵 肘 (アオイ ヒジ)
岩岬 演技 (イワサキ エンギ)
掛札 柳 (カケフダ ヤナギ)
山井 久禿 (ヤマイ クチビル)
可児 巴 (カニ トモエ)
湧川 凹凸 (ワクカワ オウトツ)
団子 焚火 (ダンゴ タキビ)
康原 伸介 (ヤスハラ シンスケ)
仲間 友 (ナカマ トモ)
伊波 也 (イハ ナリ)
能登 泉 (ノト イズミ)

       

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