Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

    『モノクロノーム』
 
「それでね! 探偵さんと仲良くなろうかなって思ったのよ」
 なにがそれでなのか分からない。いや、赤いタバコを吸って灰色の脳細胞で推理する名探偵じゃなくても、推理可能な答えはある。なし崩し的に依頼をしようと言うことだ。でも分かりたくない…これは俺がハイライトを吸ってるのが原因なのか…一通り、くだらない思案をしていた。
 それを察してか知らずか彼女は雄弁に語り続ける。
「モーニング女子高生コーヒーサービス!!」
 女子高生との単語に釣られて、時計を見やる。午前七時三十分。
 こんな時間に起きるなんて何年ぶりだろうか…とまた忘却の彼方に思考が飛びかける。
「どうよ! 少し嬉しんじゃない?」
 確かに…しかしここで折れては大人の威厳は保てない。ここまで起き抜けで押されていたが少しでも形勢を立て直さなくては!!
「お前、学校は? 時間大丈夫なのか?」
 相変わらずのチキン…なんだこの間の抜けた質問は!!
 完全な世間話しではないか、道行くご近所の女学生に声をかけた、ただのおっさんではないか!!
 そんな葛藤など、そ知らぬ彼女は俺の質問に愚直に答える。
「大丈夫よ、せいぜい八時にここを出れば早いくらいに着くから」
 なるほど、確か近所に高校があったな、あそこの生徒なのか。思うでもなく口をつく。
「なんだ、案外頭良いんだな」
 言ってから失言に気づく。まるで彼女を馬鹿だと思っていたかのようではないか。下手な言い訳は薮蛇だろう。だまって彼女の発言を待つ。
 「ねっ!? 自分でもびっくりしてるんだぁ、殆ど鉛筆転がして入ったようなもんだし」
 良かったどうやら取り越し苦労だったようだ。
 その間にも彼女は自分の勘のよさについてとうとうと話しているが右から左に聞き流す。
 さてそろそろ本題に入ろうかと、少し身を乗り出した所…
「あぁ!! さすがにもう時間だ! じゃね探偵さんまた来るね」
 と微笑みながらささっと身支度を整えると嵐のように去っていく。
 完全に気勢を取られたな…このままでは思う壺だ…
 へんなことになって来たな…ソファーに寝転がり、惰眠でも楽しむことにしよう。
 そこに女子高生が戻ってくる。
「そうそう名前! まだだったよね米倉千早、ちーちゃんで良いから」
 早口でそういうと彼女、ちーちゃんは脱兎の如く走り去っていく。
 ちーちゃんて…



       *


 私は、有体に言えば学校が嫌いだ。ゆえに深く友達付き合い…等はした事がない。実際は学校内でのみ仲良くはしてはいるが、あくまで上辺だけの付き合いでしかない。
 そんな中でのこの拘束時間は苦痛以外の何者でもない。きっと今までに何万人もの学生が思ってきたんだろうな…そう思いながら先生の眠気をさそう単調な授業も、そぞろに校庭、そして空を見る。
 春か…なんとものどかなもので。
 生暖かい空気に身体が溶け込んでいくような錯覚に陥る。いっそこのまま鉄のように溶けてしまえたら良いのに…なんて考えていたら、いつの間にか周りの騒がしさに授業が終わった事を知る。
 なんなんだろう。と思案する。あの桜、ナニがあるんだろうか。
 

      *


 それは何でも無い普通の日曜日、まだ春休みで日曜日も何も関係ないのだけれど…その日曜日、あの桜を何となく観た。そろそろ満開になるであろう八分咲き…程度の丁度綺麗な姿がそこにあった。
 『心奪われた』という表現がまさにピタリと当てはまったのが解った。いままでも通学中見かけていたものだが、なぜかその瞬間奪われたのだわたしの心は。
 その時何かが聞こえた気がしたが、さすがに少女趣味すぎて忘れることにした。

       

表紙
Tweet

Neetsha