Neetel Inside ニートノベル
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 女子高生…ちーちゃんが帰ったあと、蒸気で一気に圧縮抽出されてしまったモカのエスプレッソに、砂糖とミルクをたっぷり目に入れられ、のんべんだらりと睡眠と覚醒の合間をフラフラと楽しんでいた。
 今日の『探偵業』のことだ、勿論依頼等は入っていないのだが。
 だからと言って事件をもって駆けつけてくれる警官や少年はいないのだ、つまり営業ってやつだ。この営業にはいろいろあるが、どうしようかと思索する。春の風がパーテーション越しに吹き込む。そのあまりにも安寧とした暖かさにこのまま寝るか、と言う選択肢が増えたのも無理からぬところだろう。
 
      *

 夢をみた、生ゴミや排水溝から立ち上る匂いもリアルだ、そんな路地裏を走る、走って追いかける。何を? 敵だ。
 敵をついに追い詰める。相手は懇願・哀願してくる、命だけは、こんな言葉なん万回も聞いてきた。そして、聞き入れたことなど一度たりとてないのだ。
 地面にめり込まんとするかのように土下座する相手をみて、力が抜ける思いに駆られる。いままさに殺される。そう思うのならば、なぜここまで殺されやすくするのだろう。 
 そいつは面をあげてなけなしの金を引っつかむと、地面になげだしもっとある、だから、助けろと、また地面に潜り込もうとする。
 相手の首をめがけて、いつもどうりに手を振りナイフを投げる。
 一瞬だナイフが延髄を貫き一瞬で終わり。しけてやがる。といいつつ先ほど投げ出された金を拾いその場を離れる。
 


     *


 いやな夢を見たきがする…、パーテーションの向こうから吹く風の温度から言ってまだ昼を過ぎたあたりかと、思いながら起き上がり時計を確認する。昼過ぎか…さて、飲み残しのエスプレッソをグイッと一気にのみ、底に残っている砂糖の甘さにしかめっ面になる。
 二度寝は決まって悪い夢を見る…口の甘さとは裏腹に苦い気持ちがせり上がってくる。嫌な事を思い出す前に営業にでも出かけることにしよう。行き先は、そうだな今日はパチンコ屋にでもしよう。
 営業活動とは言ったものの実際は、パチンコ屋の小冊子や休憩コーナーにそっと事務所の名刺を置いてくるだけだが。
 これが馬鹿にならない程度に依頼が来るのだ、依頼内容は様々だが、多いのは亭主の浮気調査が一番多い。これでなんとか食いつないでると言っても良い。
 特に行きつけがある訳でも無いので、適当にバイクに火を入れる。
 ドルンと始動して不等間隔で、ツインエンジン特有の鼓動が心地よい、ひとまずエンジンが温まるまで、ポケットからタバコを取り出してエンジン音に耳を傾けつつタバコを吸う、至福のひと時を過ごす。
 


     *


 危ういバランス、それは得てして崩れる。むしろ崩れる過程こそが危ういバランスなのだとも言える。
 そうして崩されたバランスは、また何処かの、別の、全く違うものに比重が移る。
 そこでまた繰り返し、危ういバランスをとり始める。世界が崩れない様に、崩れるために…


    

       

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