Neetel Inside 文芸新都
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不惑半弱冠記
エッセーの白々しいの

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エッセー、というものがある。随筆、随想を指す、フランス語来の言葉だが、エッセー若しくはエッセイと言うと、ここにある種の白々しさを感じてしまう。

「エッセー、素敵な響きね。」
やたらと演技っぽい感じを全身に滲ませつつ、緑色の徳利セェタァを身にまとった女が、北欧にて生産されたであろうソファに浅く座り、ホットカフィを啜って一息ついた後、そう、嘯いている。
チーク材で作られた書架には村上春樹が鎮座しており、また、天井に目を移すと意匠をこらした、だいたい三万二千円前後はしそうな、電灯色の照明が設置されていて、室内は薄暗い。
エッセイスト、と呼ばれる連中は、恒常的に、鴨肉のローストを貪り食い、且つ、ボルドーの赤などを呷り、マリアージュがどうだのと喚いて、それから、やっと落ち着いたかと思えば、今度は日々の細事を仰々しいレトリックで飾り立てた、愚にも付かぬ駄文を生成。挙句、有ろう事か、それを恥ずかしげもなく世間に公開、公表、垂れ流している。みたいな。悪意のある脳内映像。偏見。

で、何故なのかなと。何故エッセーという語の響きに、白々しさを感じ、その上、かのようなイメージが想起せられるのかなと。
これは考えるに、冒頭にも出てくるが、「フランス」という部分にキーがあるんではないのかな、なーんて僕は思ってるんだけど、君はどう?ボンソワ?
エッセイストの思考介入。ひとまずは放置して、続けると、まず、フランス語自体が、自分はあまり言語学に明るくないので深くは言及できないが、鼻に掛かったような発音をするし、そういうのを鼻音というのですか? 兎に角、鼻に掛かったような発音、声というのは、「云々を鼻にかける。」という言い回しにあるように、マイナスなイメージを、具体的には自己愛的なものを感じさせ、白々しいことこの上なく、
またこれは「仏国としてのフランス」というより、「字面としてのフランス」についてであるが、カタカナ。というのもその一因を担っているに違いない。
なぜって、それは自分の文章を見返していただければ、わかるのではないだろうか。
エッセー、エッセイスト、は除外したとしても、セェタァ、カフィ、チーク、ロースト、ボルドー、マリアージュ、レトリック。なんとも白々しいではないか。軟派ではないか。
例えば、ちょっとコーヒーが飲みたくなったからと、たまたま入ったスターバックスコーヒーで、大学生風の男が広げたmacbookにこれらの文言を見たとき、あなたはどうなるだろう。
「シチュエーション」、というとまた白々しいので、「状況」と言い直すが、状況の問題もあるにせよ、皮下で何かが蠢いて、彼奴の頭に冷水をぶちまけたくなるはずだ。なるでしょう。間違いなく。

と、ここまで来て気付いてしまった。それも、恐ろしいことに。というのも、自分の周囲、どころか貴方の周囲、即ち世間には大量の「フランス」とカタカナが氾濫しており、その証拠に、昼に食った素麺を湯がいた鍋はフランス製だし、自分が今、こうして文章を書くために使用している道具はパソコンと呼ばれているのであって、じゃあ、だからといって、今更これに抗うために、鍋を捨てようが、パソコンを電子計算機と呼ぼうが、それらは無意味な行動でしかなく、なぜならそれは上にも申した上げた通り「フランス」とカタカナは世間に氾濫し、浸透しているからであって、そこで自分一人が反抗しても、いずれ限界が来て、押しつぶされるだけだからである。
ただ、そのように頭では理解していても、実際問題、この白々しさを、終世、感じ続けるのは、やはり嫌。というか、感じ続けていては、いずれ精神が狂ってしまうだろうし、それならばこれらを享受、受け入れるほかない。そう、受け入れざるを得ない。受け入れよう。そうしよう。うん。よし、受け入れて、受け入れていこう。

決意した自分は、これを全面に取り入れた日記を書いた。「フランス」とカタカナに塗れた日記を書けば、つまり、自分の日常をそれらによって書き出せば、抉り出せば、自然と享受できるのでは、と考えたからである。最近は、以前ほどあの白々しさを感じなくなったので、恐らく、試みは成功したのだろう。
もし、貴方が自分と同様の感覚を抱いているのであれば、自分と同じく、日記をつけるといいかもしれない。解消できるかもしれない。参考までに、以下にその日記の一部を載せて、擱筆する。

某月某日。
今日はママンが朝食にパニーニを拵えてくれた。ミーはママンのパニーニが大好きで、朝からこれが出ると一日のテンションが上向き。街中をスキップして周って、それから市役所のピロティでダンスを踊りたくなっちゃう。実際にそういうことをするとポリスに捕まって詰問されちゃうから、しないんだけどね。それにしても、うーん、気持ちのいい陽気。最近雨が続いて気分がブルーだったけど、今日は空がキレーなスカイブルー。太陽はサンキストオレンジみたい。フルーティーな一日になるといいな。

       

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