消せない悪夢
俺はその日、酔っていた。大学に入って初めてできた彼女に手ひどく罵られ、強制的に別れさせられた。それについてはここで言ってもしかたがないことなので省かせていただこう。
とにかく傷心真っ只中だった俺は友人Jを自宅のアパート一室に呼び、一日中共に酒をあおっていた。そんなJもまた、大好きだった祖父が息を引き取る際に海外のホームステイ先でハメをはずしていたことをひたすらに後悔し、悲嘆に暮れていた。帰国して連絡を聞きつけた際には慟哭していたというから、よほどのおじいちゃんっこだったのかもしれない。
そういうわけだから、二人して際限なく酒に飲まれていたわけである。
途中、Jは俺のPCを立ち上げ、とある大手掲示板サイトの閲覧を始めた。ディスプレイは恋愛ジャンルのスレッドが並ぶ掲示板を表示していた。俺のデスクトップPCはTVの役割も兼ねている。そのため、ディスプレイは大きめで画質も美麗である。少し離れたところからでも掲示板の文字サイズくらいなら十分読める。
Jは俺とは違い恋愛とは無縁の生活をしていた。むしろ女は男をだめにするとか言って硬派を気取っていた。そんなJも俺の悲恋の風に当てられてか、恋愛相談のスレッドの閲覧を始めたようだ。
俺も一緒になってそれを見てみると、どうやら最近彼氏に手ひどく別れられたらしい女性が立ち上げたスレッドのようで、彼氏があんなことを言った、こんなことを言った、男の人は皆そうなのか。と、半ば相談というよりはグチの垂れ流しとなっていた。その内容があまりに共感できないせいで驚いたことを覚えているが、詳しくは思い出せない。
だが、俺はそのとき本当にどうかしていたのだ。
案の定、スレッド主のコメントに寄せられる返信はどれも主に否定的なものばかりで、ほとんど罵声の嵐となっていた。
俺はディスプレイの前に据え置きされていたワイヤレスのキーボードを取り、猛烈にコメントを走らせた。
「気持ち悪いよあんたw」
「頼むからこの世から○えてくれないかな。」「あんたがいるだけで元彼は不幸になるんだよ!いい加減にしろ!」
など云々、ひたすらに相手を批判し続けたことを覚えている。あくまで周りに便乗する形で自分の憂さ晴らしをしてしまった。それも心無い言葉や罵詈雑言ばかりで・・・。その間、スレッド主の書き込みは全くなかった。合間に時折書き込まれるのは、
「流石に言い過ぎじゃねえか?」
「やりすぎw何か気に食わないことでもあったのか?」
などといった他の閲覧者のコメントだった。
どれ位の間そんなコメントをつらつら書き連ねていただろうか、ようやくスレッド主が口を開いたのだ。
「そこまで言うなんて・・・ひょっとして私のこと好きなんですか?」
俺はすぐさま返信した。
「大好きだって言ったらどうすんの?俺に会いにくんの?」
完全に冗談だったのだが、次にスレッド主が書き込んだコメントによって、俺は無理やり酔いのまどろみから強制的にたたき起こされることになった。
「必ず!会いに行く!必ず必ず必ず必ず!!必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず必ず!!!!!!!」
「こええよこの人・・・なぁ?」
そう言いながらJのほうをちらりと見ると、Jは画面を見ているのかいないのか、
「ああ・・・。」
などと生返事をしていたので、気になってJの顔を注視した。すると、異常に怯えたその顔面は完全に蒼白となっており、焦点が定まっていないかのように瞳が小刻みに左右に揺れていた。
「お前飲みすぎじゃないのか?」
俺がそう問うと、
「そうだな、飲みすぎたよ。だけど、酔ってはいない。いや、今酔いが醒めたから。」
Jの普通じゃない様子に俺は、