Neetel Inside 文芸新都
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黒歴史短編集"環"
好きな音楽

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その日は、いつもと同じ道を、いつもと同じように歩いていた
小さい頃もらって、最近までずっと放置されてた知恵の輪を弄っていると、
僕の左手と両足が吹き飛んだ
あぁ、やっとか、と、思ったより痛みの無い死に感動を覚えていると、
いつの間にか目の前に青い何かが浮かんでいた
 君はここで死ぬよ。
どうやらその物体は兎のようなフォルムをしていて、僕に背中を向けているようだ
青い兎はちらりともこちらを見ずに僕の死を宣告した
みたいですね。
視界の端に移った、僕のパーツを持って高速で移動する黒い影を目で追いながら、適当に返事をする
 君は、死にたいの?。
少年のような声で兎は変なことを聞いた
人間って、死ぬために生きてるんだって。
どこかの誰かに聞きました。
だから、僕という個体の目的は果たされたんじゃないですか。
いまだにこっちを見ない兎の小さな背中を見ながら、思考を言葉にする
 まだ生きていられるのに、君は死を選ぶの?。
そういえばこの兎、尻尾が無いなぁ、と考えていたら、また質問が飛んできた
兎さんは、音楽って好き?。
答えなきゃいけないから、質問されるのは嫌いだ
 音楽?音楽か…。
 しばらく聞いてないから、うん、最近のは分からないけれど、好きだよ。
後出しの僕の質問に答えられてしまって、少し困惑した
仕方が無いので、僕も質問に答える
別に、どっちでもいいんです。
自分で決めるのは、苦手なので。
なんとなく惰性で歩いてるとき、首を上げて前を向くのも、横を見るのも、上を見るのも振り返るのも疲れるから。
重力に任せて、下だけ向いていたいんです。
誰かが僕を止めたのなら、また動き出すのは大変だから。
そのときは立ち止まろうかなって、考えていました。
今日の僕はよく喋る
僕が一生懸命喋っているその間、いつの間にかこちらを向いていた兎は、人形かと思うほど身動き一つせず僕の話を聞いていた
 そっか、なら、ここでお別れかな。
 たくさん喋ってくれたお礼に一つ、良いことを教えてあげる。
 神様は死者に一つ、試練を与えるんだ。
 それにパスしないと、転生できない。
 さて、君は好きな物はある?。
強いて言うなら、一つだけ。
 そう。
 なら、それの形を忘れないで。
 他の何を忘れても、形だけは、忘れないでね。
それじゃ。と兎はどこかに消えて、僕の意識もそのままどこかに消えていった
置き去りにされた知恵の輪は、バラバラになっていた

       

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