Neetel Inside ニートノベル
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プロジェクト・リビルド!
第4話 ビルド・エラー!

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-1-

 本日二度目のビルドエラー通知を受け取り、平針は長く嘆息した。
 いくらエラー検知が自動化されているとはいえ、こうも頻繁に検知されてしまうと支障がある。いくら「ビルドエラーのでないようにソースファイルはコミットしてください」と徹底していても、プロジェクトメンバが増えるに連れて検知数は上昇していく。チームメンバがポンコツ揃いだとは考えたくないが、こうも連日、利便性向上のためのシステムからメール爆撃で業務妨害をされると嫌になってくる。
 そう思っているのは自分だけではないのか、方籐が平針の席まで近づいてきて愚痴をこぼした。
「いくらなんでもエラー検知メール多すぎるだろ。しかも処理失敗じゃなくてビルドエラーってなんだよ。うちのスーパーハッカー共はIDEで確認しなくても脳内コンパイル可能なのか。履歴書にはそんなこと書いてなかったが」
「そんな奴はウチに来ずに大企業のサーバとして就職するでしょうね。サーバ室は寒いですから太ってるほうが有利かなあ、でもまあそれができてないから今問題になってるんですけど」
 平針がそんな軽口を叩きながら、昨今成長期という話題で持ちきりの方籐の腹部にある段々畑を眺めていたら、それに気付いた方籐は踵を返して自席へ戻っていった。どうやら誠意ある説明で納得していただけたようだと、顔には出さないが満足な心持ちで、平針は缶コーヒーをすすった。
 すすってる場合ではない。
 検知メールはプロジェクトメンバ全員に向けて送られているため、時間がたってもビルドエラーが継続している場合は平針に当てて問い合わせがくる。メールならいいが、社内電話がかかってきたら、その後一時間は普段通りの業務ができないと諦めざるを得ないような状況になる。電話をしながら通常業務を並行して行えるようなマルチタスク性能は平針にはない。

 継続的インテグレーション(CI)ツールをプロジェクト再建開始当初から使えたのは不幸中の幸いだった。
 昨今セキュリティ向上を意識してか『使用して良いツールは許可されたものだけ』という企業が実に多い。新しいツールを使いたいと言えば、部署どころか会社を巻き込んでの一大イベントになりかねないので、改善を気軽にささやける社会とは言い難い。その点で言うと平針が勤める単芝テックは寛容で、プロジェクトで使用できるツールに特に制限はない。使いたいといえば使えばいいんじゃねと突き放されるので、実際に使ったり、便利そうなツールを評価したりもできる。さすがにプロジェクト内で共通で使用するツールは資料にまとめておけと方籐から言われたが、それも会社の規則として決まっているわけではない。自身がトリガとなり改善が可能な、当たり前にありそうでなかなかない、よい環境といえる。
 CIツールも開発を円滑に行っていく上で今や無くてはならない存在になっている。主に定期的にバージョン管理ツールからソースを取得しビルドを行った後アプリケーションサーバにデプロイするまでを自動的に行う用途で用いているが、わざわざサーバにログインせずとも、タスクを事前に登録しておけば、WEBページのリンクをクリックするだけでソース取得からデプロイまでの作業が完了するのが最大の利点である。
 だが、今発生しているビルドエラーの騒動のトリガは、CIツールが発行したメールである。CIツールはソースコードを三十分間隔で監視しており、差異を検知した場合はタスクが起動し、ソースコードからビルド、デプロイまでの処理が実行される。コミット後三十分以内には必ず自動タスクが起動し、アプリケーションサーバに配置される仕組みである。
 ビルドエラー通知メールが来たのは本日二度目であるが、前回のビルドエラーは四時間以上前であるし、当該現象は担当者とメールのやり取りをして解消されたことまでを確認している。つまり、三〇分前後のうちに行われたソースコードのコミットが原因でビルドエラーが発生した、と考えられる。
 平針が統合開発環境に最新のソースコードをダウンロードしてビルドを試行してみたところ、エラー通知メールに記載された内容と同じエラーが発生している。よく見てみると、メソッドが存在しない旨が出力されていた。それが三件あるが、発生箇所は全て同じメソッドを示している。
 メソッドが削除されたのかと呼び出し元クラスを開いてみると、同一名クラスは存在するが引数の数が違っていた。どういうことかとソースコードの差分をとってみると、既存のメソッドの引数の数が修正という形で増やされているようだ。
(なんだこれは……)
 Javaは同一メソッド名称でも引数の型や数を変えることでオーバーロードメソッドとして共存できるが、この騒動を引き起こした開発者は、オーバーロードという形を取らず、既存メソッドの修正という選択を行ったようだ。もちろんそれが修正方法として誤りでない場合もあるが、既存の三つのクラスから現状ビルドエラーが発生しているのは事実だ。
「とりあえず確認してみるか……」
 平針は受話器を上げ、コミットを行った開発担当者への内線をつなぐ。

     


-2-

「はい、高澤です」
「平針です。おつかれさまです」
 嫌そうな声で、お疲れさまですという返事が返ってきた。気になるが後回しにする。
「ビルドエラーが出てるんですけど、エラー箇所の最終コミット者が高澤さんになってるんですよ。どうなってますか?」
 えっ、という声を上げて、高澤が慌てる様子がガタガタという受話器越しの音でわかった。
「ちょっとまって、今確認します。……ああホントだ、エラーになりますねー」
 やけに落ち着いて返答してきたので多少イライラしたが、今は高澤をこき下ろしている場合ではない。問題解決のあと、改善課題としていくらでも上げてやることはできる。
「なんで引数修正したのに他のクラス修正してないんですか?」
「そりゃ俺の担当じゃないからですよ」
 ええー。
 話を聞いたところ、この修正は高澤の上司である服部が設計書修正により指示したものらしい。確かに最新の設計書を見ると当該箇所が更新されていた。だがコミット日付は1分前で、それ以前のコミット日付は1ヶ月前になっている。騒ぎを聞いて責任を逃れるために慌ててコミットしたともとれなくはない。
 ただ、責任追及は後回しなのだ。いまは問題解決をすることが最優先。平針は高澤にヒアリングしながら解決法を模索することにした。
「オーバーロードにすることは出来なかったんですか?同名メソッドの作成で」
「それやろうとしてたんだけど、実装方法をわざわざ聞いてきて、オーバーロード作りますよって言ったら、『余計なメソッドをプログラム内に残すんじゃねえよ』だの『そんなこと設計書に書いてあるか?』だの言ってきたんだよ。結局服部さんの言うとおりメソッドの修正にしようとしたら、影響範囲が複数クラスに及んでたのがわかったから、服部さんに報告したら『他には俺が指示するから、お前はここだけ直しとけ』って言われたんだ。だから俺は俺の分だけ修正してコミットしたんだよ」
 やけにはっきりとはっとりに責任があるように話す。ということは、同室に服部はいないらしい。念のため一応きてみると、やはり服部はおらず、外出したらしい。設計書だけコミットして逃げたのか?
「そうですか・・・。じゃあとりあえず、今回の修正は一度以前の状態に戻して、オーバーロードメソッドを作成して下さい」
「ええっまじか」高澤のうろたえる声が聞こえる。「あの人にバレたら怒られんの俺じゃん。嫌だよ怒られんの」
 情けない声を上げながら高澤が狼狽する。
「だいじょうぶですよ、あの人ソースコードは見ません」
「いやそれは知ってるんだけど」ここから小声で続ける。「服部さんにちくる奴がいるんだよ。『服部さんの意図しないソースコードを書いた人がいます』みたいな感じで」
「本件に関しては平針指示という単語をコメントに残して下さい。あとで消してもらいますけど」
「なるほど、それならいいや。とりあえずオーバーロード作って、既存のメソッドはDeprecatedつけとけばいい?」
「それで構いません。不要メソッドの削除と既存メソッドからの修正に関してはそちらで連携して下さい。誰が修正するか把握されていますか?」
 いや、と高澤は返事をした。「さっきその件をメッセンジャーで開発の人間全員に投げてみたけど誰も何も聞かされてないって返事きた。俺もわからん」
「そうですか。それでは服部さんが返ってきたらその件について連携して下さい。あとオーバーロードの件、修正が終わったら連絡下さい。ビルドとデプロイしますんで」
「了解、さっそくかかる」
「よろしくお願いします」
 数分後、メッセンジャーで修正完了の知らせが届く。ソースコードを確認すると、先ほどの会話内容そのままのメソッドが作成されており、平針は安堵した。
 
 服部は以前にも「非効率的な作業をするな、それを部下に押し付けるな」と注意されていたらしい。注意した本人の方籐から聞いたから事実だろう。その服部とあとでごちゃごちゃとやりとりをしないといけないと憂鬱だと嘆いて机に伏していると、方籐がこちらを見てるのに気付いた。
「なにしてんのおまえ、机と結婚でもすんの」
 ヌボーっと机から顔を上げギギギと方籐の方向に振り向き、平針はこれまでの事情を説明する。すると、方籐から意外な提案があった。
「ああ、それならオレが話しつけといてやるよ。やりとりまとめた資料さえもらえればな」
 不気味な優しさを感じつつも、服部とやりとりしなくても済むと思うと気持ちがだいぶ楽になる。この調査の時間自分の仕事が全く進まなかったので、これ幸いとばかりにやりとりをまとめてメールで方籐へ送信し、程なくして方籐から受信確認のメールが送られてきた。
 平針は後々、「ここで方籐を疑っておけば、もう少し幸せな未来が訪れていたかもしれない」「ここでもう少し頑張っておけば、充足した日常を送ることができていたかもしれない」などと、過日を憂うことになる。

     


-3-

 平針はいつもどおり、出勤前の日課として会社の近くにあるコインパーキングに常設された自販機からブラック無糖のコーヒーを買い、自席にそれを置いたところで、周りがバタバタと騒がしいことに気付いた。
 騒がしいのだが、そのことを気にしている社員はあまりいない。すでに出社している技術者は他のことが目にはいらないのか、モニタに顔を釘付けにしてキーボードを打鍵していた。頼りになるのか周りが見えていないのかわからないが、自身としてはこれほどの喧騒だと気になって仕事にならないような気がしたので、平針はとりあえず近くでかわいらしくたたずんでいた長宗我部に事情を知らないか聞いてみた。
「べーさん、さわがしいみたいだけどなんかあったの」
 名字が長いので、先日の飲み会にて長宗我部のニックネームがべーさんとしてコミットされている。
「わかりません。ただ、方籐さんが社長に呼び出されてるみたいなことを誰かが言ってましたね。ホントかどうかは知らないですけど」
 これまで方籐が社長に直接呼び出されたことは数回記憶にある。そのたびに方籐が社長室からやつれた顔で返ってきていたのが印象的だったが、今回は周りの様子が妙にさわがしいのもあり、いつもの呼び出しとはなんとなく違う雰囲気だ。
 気にはなったが、政治となると出番はない。平針はPCを立ち上げて、メールチェックと今日のタスク確認を始めた。

 平針がスケジュールを確認して、統合開発環境を立ち上げたところで、内線がプルルルルという優しい音で着信を告げる。着信元を見ると、社長室からだった。
 何事かと心音の調子を幾ばくかテンポアップさせながら、受話器を上げると、意外にも通話相手は方籐だった。
「方籐です。ヒラか?」
 べーさんと同時期に、平針のニックネームがヒラでコミットされたことは記憶に新しい。平社員であることを強調されているみたいで気に入らなかったが、その後のやりとりが面倒だろうなあと思ったのでとくに否定しなかった。
「はい、どうかしましたか社長室から内線なんて」
 方籐の緊迫した調子を敏感に感じ取り、平針は心配になって用件より先に方籐を気にかけた。方籐はそのことに気づいた様子はなく、低いトーンで切り出した。
「べーさん連れて社長室きてくれ。今やってる作業は中断。すぐ来いよ。いいな」
「わかりました」
 社長室から内線をかけるということは、社長とのやりとりの中で平針もしくは長宗我部の名前が上がったということだ。そのことでもしかしたら方籐に迷惑をかけているかもしれない。平針は立ち上げかけた統合開発環境の起動をキャンセルし、コーヒーを一気飲みしたあと、長宗我部に「ちょっとこい」とだけ言い強引にひっつかんで社長室へ向かう。長宗我部からシャンプーのいい匂いがして平針は少しどきりとしたが、今は自身の出処不明な感情に振り回されている場合ではない。

「突然だが、お前たち二人、観神に行ってもらう」
 社長室に入って、社長の黒河の第一声がこれだったので、平針は状況を理解するのに苦労し、結果理解できなかったので、社長に説明を求める。
「あ、あの……、もうちょっと説明をいただけると」
「おお、そうか、そうだな。方籐がもう説明しとるもんだと思っとった。そこに座りなさい」
 黒河が皮肉を言うと、方籐の顔が少しぴくりとしたのが見えた。
 社長室には、エアホッケーのフィールドが二面分くらいとれそうな社長用の机から少し離れたところに、打ち合わせ用の机とソファーが置かれている。黒河が指さしたソファーに腰掛けると、対面に黒河がどっかと座った。長宗我部も座ったが、股を閉じて背筋をぴんと伸ばし、手を握りこぶしにして膝の上においている。顔には視認できるほどの脂汗を浮かべている。まるでリクルーターが面接に来た時のように顔も体も引き攣っていた。
 ややあって、黒河が口を開いた。
「常葉っていう名前は、聞いたことあるな?うちの社員だ」
 はい、と平針は頷いた。知っているもなにも、つい先日まで同じ仕事をしていたのだ。迷惑しかかけなかったばかりかそれを悪いと思っていないという人間性に、負のイメージしか持ち得なかったことが残念ではあった。

 そして、平針は思い出した。
 先日、同期の高島と飲み屋で交わした会話のことを。
 常葉が観神株式会社への「社外出向が決まった」ことを。

「ん、どうかしたか」
 あきらかに平針の表情が変わったことを感じ取り、黒河が説明を一時中断した。
 平針は黒河の声で放心状態を脱し、謝罪した。混乱した脳内の情報を整理し、黒河に推測として投げかけてみる。
「ということは、観神へのヘルプということでしょうか」
 そういうと、黒河は少しムッとしたような顔になった。
「きみな、常葉っていう名前しか出してないのに『ということは』とまで言ってしまうのは失礼だぞ。ちゃんと言葉を選びなさい」
 もうしわけありません、と平針は素直に詫びた。これを社外でやってしまうと、誰かの面子を潰してしまうことにもなりかねない。自分の悪い癖だ、と平針は反省した。
「とはいえ、察しのいいやつは嫌いじゃない、社内ではどんどん発言してくれよ」
 そう言って社長は腕を組んだ。
「ではやはり、増員ということでしょうか」
 平針が確認の意図で訊ねたが、社長の返答は予想の一回り上をいくことになった。

「いや、少し違う。常葉と菊川が観神にリジェクトされた。増員というよりは入替えだよ」

     


-4-

 二度と関わることのないと思っていた、XDDNビルの、よりによって四階。
 そして炎上案件のお手本のような環境に平針は居た。
 (これがいやだったから、転職したのに)
 平針は精神的な原因と思われる頭痛と胃痛に悩まされながら、現状把握のための資料を作っていた。長宗我部は借りてきた猫のようにキョロキョロと周囲を伺い、うさぎのようにプルプルと震え、時折こちらをチラチラと見ている。
 平針と長宗我部の出向に先立ち、説明らしき説明は『常葉と菊川がリジェクトされた理由』しかなかったため、それ以上の情報は自分たちで集める必要があったし、方籐からも「フォーマットは気にしなくていいから現状把握の資料を早急に送ってこい」と言われていた。もともとそのつもりだったが、フォーマットを気にしなくていいのは助かる。社内テンプレートの報告書ファイルは扱いづらいし、自分でフォーマットを作るにしても罫線やら印刷範囲やらを気にしている時間ははっきり言って、ない。翌日、見直し後の体制図を元請けSIerと顧客に説明しなければならないのだ。先にSIerや顧客に話が通っており大筋での合意はあるものの、平針が失態を犯せば最悪の場合失注も有り得ると方籐から釘を差されている。方籐も黒河からきつく言われたのだろう。
 正念場だった。
 幸いなことに、観神は机の上に飲み物を置いているだけで管理部からクレームが入るような会社ではなかったので、平針は微糖のコーヒーをすすりながら、ヒアリング結果を文字列に書き起こしていく。

 SIerとの事前打ち合わせが行われたのはつい一時間前のことだ。
 元請けSIerの富嶽総研株式会社のプロジェクトマネージャ一人と、システム開発担当の富嶽総研システムソリューション株式会社の主要メンバの二人。
 富嶽総研は日本を代表するIT企業の一つであり、白物家電から軍需産業まで業種は多岐に渡るが、IT業界でも強い影響力を持っている。企業体質が古く、顧客が要求するスピード感に対応できないことが多いため、受注だけ行って実態の作業は子会社に委任することがほとんどだが、その強大な資本というバックボーンを元にして莫大な利益を毎年計上している。
 富嶽総研システムソリューションは吸収合併を繰り返して出来上がった企業で、今現在もSIerとの合併がまことしやかに囁かれているが、事業再編のたびに会社名がコロコロと変わるため、俗称として創業当初の略称の「DBC」を使用していることが多い。メールの署名でも略称にDBCと記述している社員も多く、社員が正式名称で名刺を渡しても「ああ、DBCさんですね」と顧客に訂正されることが多い。
 平針の勤める単芝テックは、単芝株式会社の100%子会社であり、富嶽総研との資本的なつながりはない。事前調査によると、RFPの時点では富嶽総研は富嶽総研自身の「ERPパッケージソフトによる業務効率の改善」を提案していたし、同時期に提案していた単芝株式会社は「単芝テックのソフトウェア導入によるソリューション提案」を行っており、本来であればこのような体制図になることはないはずであった。
 しかし、顧客が「富嶽総研のマネジメントスキルは買っていたが、ソフトウェアの出来を酷評した」ことや、「単芝テックのソフトウェアの出来自体は特筆に値するが、単芝本体のマネジメント能力が富嶽総研に劣る」こと、そして一番の原因である、「単芝は最近政府プロジェクト運営に失敗し、裁判においても敗北した」ことが、事態をややこしくした。これは本来RFPとは無関係の事実であるが、導入システムが提案内容だけで決まるほど単純ではなかった。ましてや会社全体の業務効率をあげようという社運をかけたプロジェクトでは慎重になるなという方が無理だ。
 その後どのような政治的やりとりが行われたのかは平針の関与するところではないが、最終的にプロジェクトのマネジメントとシステム構築は富嶽総研が行い、パッケージソフトウェアには単芝テックのものが採用されることになる。当初揉めるかと思われた調整だったが、意外とすんなりプロジェクトの概要が決定し、まもなくキックオフした。
 順調に行くかに見えたシステム構築プロジェクトだったが、程なくして暗礁に乗り上げる。当初見積から約二倍の工数がかかることが開発中に発覚し、大混乱に陥る。

 ここまでが事前調査による情報である。以降は同じ単芝テックからの出向社員である田辺へのヒアリングによって得られた情報だ。

 カオスな状況の中、単芝テックの当時のマネージャが事態の収拾を図ろうと東奔西走したものの、体調を崩し休職を余儀なくされる。そこで投入されたのが、マネージャの常葉と、開発要員である菊川だった。
 正直、常葉と社内で仕事をしていなければ、この状況で投入される彼に深い同情を示していただろう。菊川についても同様だ。また、菊川自身は常葉の金魚のフンのような側面もあるが、悪い技術者だということはない。

 しかし、常葉と菊川は、観神からリジェクトされてしまった。これは事実だ。

 ただ、常葉たちが顧客らから排除された理由がいまいちよくわからない。会議に無断で欠席したことが社会人としての常識を著しく逸脱しているというのが表向きの理由らしいが、正直言ってそれだけでプロジェクトメンバから外されるというのはありえない。不在の件については後ほど常葉の方から謝罪を直接行い、メールでもフォローしたというし、行き違いなのであればそれほど目くじらを立てて怒るようなことではない。そもそも会議室から実作業を行っている部屋は近いのだから、来ていないのであれば呼びに来ればいいだけの話だ。現場の空気を感じていたであろう田辺もその点は不思議がっていた。
 もちろん、常葉が完全に正しいと言えるのかと問われれば、全く自信がないと返答せざるを得ない。それは残念ながら、社内で同じ作業をしていた人間としての実感であるから、嘘をつくにはまず自身の罪悪感から突破しなくてはならないし、そんなことは自己の分裂につながりそうだからできることならしたくない。

 平針は、できるだけ低姿勢を保ちつつも、両者が腹を割った会話ができるよう議事進行するように心がけ、SIerたちとの打合せに向かう。

     


-5-

 SIerとの会議は予想以上に紛糾した。責任の八割は富嶽総研側の皮肉に対して平針が皮肉で返したことが原因だが、平針は会議中、富嶽総研側の人間が言い含んでいる「とある思惑」に気付けないでいた。

「一体どうなっているんですかねえ、御社の社員は」
 名刺交換後、席に着くなり開口一番で富嶽総研のプロジェクトマネージャである斎藤が声を荒らげる。平針はこれが「なめられないようにするため初っ端で大手のアホがよくやる威嚇行動」だと知っていたが、そういうものに免疫がない長宗我部の顔が真っ青になっているのを見て、釘を差しておく必要があると思った。
(このまま彼らのペースでは、主導権を握られたまま終わる)
 めったに見せない柔和な表情で、張り詰めたオーラを更に怒張させる斎藤の前に、やんわりと押さえつけるように手を差し出しながら、静かだが通る声で平針は話す。
「申し訳ございません、弊社の長宗我部は持病の関係であまり大きい声を出されると発作を起こしてしまうんです。申し訳ありませんが、もう少し声のトーンを落としていただけませんか」
 これには斎藤がかなり驚いた様子で、先ほどまでの阿修羅の如き表情を一変させる。
「ええ、ほんとうですか。これは大変失礼いたしました」
「ご協力痛み入ります」
 平針は嘘をついたつもりはなかった。徹夜が4日目に突入したある日、長宗我部の隣に座っていた渡辺が突然大声を張り上げたあと、長宗我部が「オカザエモーン!」と叫び声を上げ、痙攣した後失神したのだ。ちなみに長宗我部は昨日ぐっすり眠れましたとかわいらしく朝会で報告してくれたのでオカザエモンがどこでもドアからこんにちわする心配は今のところない。
 平針は再度主導権を握られないよう、アジェンダをプロジェクタに移してヒアリングを始める。
 この時点で、平針は彼らに対する違和感には気付いていたが、それが一体何なのか、確証を得られないでいた。
 スライドには単芝テックの不手際に関する謝罪と新体制の詳細が記されている。新体制とは言っても、常葉と菊川を平針と長宗我部にすげ替えただけだ。目新しい部分はない。
 その部分をDBCの新達がつついてきた。
「あのー、ちょっといいですかね、何度見てもこの資料、なにも変わっていないように見えるんですけども」
 プロジェクトの進行状態自体は、単芝テック単体では問題がなかったと考えている平針には、この質問は予想できた。
「どういうことでしょう、なにか資料に問題でもございましたか?」
「どういうことでしょうじゃねえよ」
 ダァン!と新達が拳で机を容赦なく叩きつけた。案の定、長宗我部が目を丸くして脂汗を浮かべている。このままではトラウマになってしまうかもしれない。
「この資料からは誠意がまるで見えねえんだよ。なんだこれ、人入れ替えれば済むと思ってんの?御社のせいで弊社がどれくらいの迷惑を被ったかわかってい・る・ん・で・す・か~」
 反論は予想していたが、このような煽り方をしてくることを想定していなかった平針は、コメカミをピクピクとさせながら、あくまで穏やかにことを運ぼうと努力する。
「お怒りはごもっともでございます、弊社が至らぬばかりにプロジェクト運営に支障をきたしてしまうことは本意ではございません。対策を次のスライドに記載しておりますので、まずそちらをご覧下さい」
 そういって、プロジェクタに映しだされたスライドの次のページを表示させた。スライドには、発生した現象と、その原因、あるべき姿と対策が書かれている。
「弊社社員にヒアリングを行ったあと、資料も精査いたしましたが、進行上の問題点は見当たりませんでした。弊社のスケジュール遅延がなかったことについては、打合せ不参加の件以外においてはすでにご認識いただいたいることと思います」
「だからそ」
「ところで」
 新達が何かを言い始める前に、平針が「続きがあるぞ」と言わんばかりにそれを遮った。
「ところで、弊社田辺より聞き捨てならない報告がありました。『自分への作業を直接DBC様から依頼された』と」
 この平針の発言に、新達以外の全員が顔色を変えた。
「それがどうしたというんだ、なにが問題な」
「新達くん!」
 斎藤が新達を諌めるが、もう遅い。
「おかしいですねえ」
 ギロリと睨みを効かせ、平針が続ける。
「弊社と契約関係があるのはエンドユーザである観神様とソフトウェア開発と運用を依頼されている富嶽総研様です。DBC様とは契約どころか資本的つながりすらありません。それなのにDBC様がお前に直接指示をするなんてことあるわけがない、あっていいわけがないじゃないか、と。私は彼をそれはもう優しく諭しましたよ。彼もそれなりに賢い部下ですので、わかりましたと私の言葉を理解してくれました」
 ここまで言って、新達は平針の意図がようやく理解できたようだった。

 ここで周囲の顔色を伺うことで、プロジェクトの現状の予測が大体正しいことを平針は感じた。
 DBCの見積ミスに起因した工数超過によるプロジェクト運営失敗の責任をなんとか単芝テックへなすりつけ、成功すればそれでよし、失敗してもDBCの責任じゃないぞという絵図を描いているのではないかという平針の予想は、確信に変わる。

「もちろんそれが万一事実だとしても、弊社の責が免れるわけではございません。そこで弊社は常葉と菊川に対して現状の任を解き、新たな血を入れることでこれの解決を図ります。また、先程申し上げた万一を防止するため、社員に対して『契約関係のない会社からの作業依頼を上長の指示無く行ってはならない』という通達を出しておりますので、今後前述いたしました事態によるプロジェクト進行の遅延要因はございません」
 しーん、と室内が静まり返る。平針がふと長宗我部を見ると、落ち着きを取り戻したのか、凛とした目とへの字口でSIerと対峙していた。
 もう新達がなにか言う様子はない。退き時は心得ているのか、斎藤から諌められたのを気にしているのかはわからないが、安寧を手にしたことは平針にとって喜ばしいことだった。
 スライドの最後ですという表示を見ると、斎藤は手をポンと叩いて、まとめに入った。
「御社の方針については理解しました。私はこれで大丈夫だと思います。この内容で明日、お客様に説明をお願い致します。以上おしまい」

 打ち合わせ終了後、斎藤が平針に声をかけてくる。
「平針さん、本日はありがとうございました、いやあ、すごい迫力でしたよ」
「申し訳ございません、お恥ずかしいところをお見せしました」
「はっはっは、なにも気にすることはありませんよ、先ほどの魂を揺るがす『大音量の』演説、響いたなあ」
「――!」
 斎藤はニヤリとし、平針の肩を叩いた。そして耳打ちする。
「DBCさんが指示云々の件、あの辺はぜひご内密にお願いしたい。もちろんこちらからも厳しく言っておきますけどね」
 背筋をブスリと貫かれたような感覚に襲われた平針は、数秒間金縛りのような感覚に陥り、長宗我部に声をかけられるまで生きた心地がしなかった。

     


-6-

 観神への説明は驚くほどスムーズだった。というより、観神側は事態をそれほど重要視しておらず、単なる要員交代だと思っていたようで、説明後もそのような感じで捉えているようだ。
 富嶽総研への説明時以上に緊張していた平針にとって拍子抜けするようなプレゼンテーションだった。
 観神側はむしろ、富嶽総研のプロジェクト運営に激しく指摘を行っていた。指摘自体はごもっともで、プロジェクトに遅延が発生しており、それに対する具体的方策をとっていないことが非常に問題視されていた。
 実は、事前打ち合わせで田辺から聞いたという「DBCからの指示」というのは、実際に田辺から聞いたわけではないハッタリだった。だが確信を持って平針がそのことを話したのは、実際に新達が田辺と会話しているのを見ており、「おねがいしますね」という言葉尻を聞いていたからだ。後ほど田辺に問い質してみると、やはり新達から作業依頼を受けていたようだった。今後そのような形で作業依頼を受けないよう言い聞かせておいたが、田辺はあまりピンときていないのか、ハァと気のない返事をした後すぐ仕事に戻った。

 顧客への説明後、富嶽総研の斉藤からすぐに連絡が来て、今後の打ち合わせをすることになった。
 打ち合わせの内容は、プロジェクトの工数見積ミスによる遅延の解消手段として、単芝の作業量を増やしてほしいという依頼だった。平針は現状の人員にこれ以上作業を割り振ることは出来ないことと、単芝テックの人員単価が高いことを説明して断ろうかと思っていたが、富嶽総研の提示した契約条件が予想以上に良かったことや、作業内容が現状とあまり変わらなかったことから、
「会社と相談して前向きに検討します」
とだけ回答して打合せを終えた平針は、早速方籐に「作業依頼を受けるかどうか」と「作業が可能なスキルセットを持ち合わせた人員はいるか」という内容でメールを投げる。平針自身としては増員が二人で良いことや、好条件であることから受けても良いと思っているという注釈をつけておいた。
 メールを書いている最中、新達が何度か田辺の机の近くまで来て、田辺と会話していた。耳をうさぎのように大きくして彼らの会話を聞くことに集中していると、だいたいの流れをつかむことが出来た。
 どうやら方法が不明な作業があるらしく、それの実施方法を新達が田辺に聞いているようだ。かなり複雑な手順のようで、田辺がマニュアルの位置を伝えようとすると、新達が聞き捨てならない発言をする。
「ああ~、じゃあちょっと、やってもらえないですかね?パパっと」
 看過できない発言を聞いてしまった平針の怒りのオーラを感じ取ったのか、田辺が「えーと、今日はちょっと……」と言いながら平針をチラチラと見る。新達が視線を追うと、そこには鬼のような形相でモニタに向かう平針が居ることに気づく。チッ、と舌打ちをして、新達はどこかにいってしまった。

 リジェクト騒動による体制組み換えで若干のスケジュール遅延が発生しており、それは残業や休日出勤などでなんとかリスケして行くしかない。現状の遅れは二週間程度頑張れば取り戻せる試算はあったが、プロジェクト全体となると想像がつかない。富嶽総研が開示していないからだ。不安を抱えつつキーボードをパンチしていると、エンドユーザである観神株式会社システム開発部所属の小泉女史より飲み会のお誘いが来た。タイマンバトルなら妻子ある平針には縁遠い世界であったが、どうやら観神システム開発部の人間が二人ほど来るそうだ。お誘い合わせの上お越しいただければ幸いですと書かれていたため、長宗我部と田辺に声をかけておいた。

//--

「それでは、新しい仲間との合流を祝して、かんぱ~い!」
 かんぱーい、とグラスを突き合わせる音が散り散りに鳴る。飲み会を企画された人間から飲み会の場所の予約を依頼された時には一瞬なにが起こったかわからなかったが、先方の「隠れ家的お店がいいな~(はーと)」というお願いを華麗にスルーして、以前からよく使っていたほどよく静かで個室がある店を六人で予約した。駅から少し遠いのが難点だが、その分たちの悪い酔っぱらいに遭遇する可能性が低いし、帰宅時に吐瀉物を交わすアクションゲームをする必要もないので重宝している。
 結果的に店に集まったのは四人だった。先方の一人は突然の会議が入ったとのことで来れず、田辺は作業が終わらず終わり次第来るということだったが、作業内容を聞いたぶんだとあいつは来れないな、と平針は思った。
「いやー、でも単芝さんもたいへんですねー。いろいろあったんじゃないですか?」
 小泉が早速からんできた。とはいえ単芝テックを一番かばってくれたのが彼女であると聞いているので、無碍には出来ない。
「はい、その節は大変なご尽力を頂いたそうで、大変感謝しております」
 かしこまった返事をすると、小泉はアハッとわらい、ビールを煽った。
「ぷっはー。そんなにかしこまらなくてもいいですよん。ここでも社内でもね!なにせ私達、うぃんうぃんのかんけいじゃないですかあ!」
「う、うぃんうぃんですか」
「そう、そのとうり!うちの業務は効率化して、単芝さんは儲かる!まさにWin-Win!これほど美しい構造式を、私は見たことがないわ!!!」
 酔っ払っているとは知りつつも、平針は感謝の意を隠さなかった。孤立無援の場合、失注がありえたことは黒河から直接聞いていたから、かなり圧力を感じていたのだ。
「いやいや、感謝しているのは本当ですよ。今日資料を見ましたが、そもそもこのプロジェクトってホントはウチが入り込む余地ってほとんどなかったんじゃないですか?」
 あー、と頭をかきながら小泉が視線を逸らした。
「あれはねえ、不幸な出来事でしたよ。ちょっと内緒にして欲しいんですけど」
「口は鋼鉄より硬いですよ」
 言わなくてもこの先は話すだろうが、平針は一応アピールしておいた。

「たのもしい、実はこのプロジェクトね、F社は噛まない予定だったんですよ」

「えっ」

 衝撃の事実だった。ちなみにF社とは富嶽総研のことだ。

「単芝一本で行く予定だったんです。その方が総コストも安いし、何よりF社の評判が良くなかったんですよね~」
 想定を大きく超える暴露話に、平針は脳の回転が追い付かないでいた。
「そ、そうなんですか」
「そうなんです!ハードウェア導入でお世話になってるんですけど、サポートがひどいんですよね。電話サポートもありって言うから契約したのに、十五時以降は電話サポートなしでメールのみ対応ていうのが契約書の隅の方に超ちっちゃく書いてあったんですよ!ほぼ詐欺だと思いません!?」
「そ、そうですね」
「でしょ!仕方なくメール投げたら、一ヶ月近く返ってこなくて。どうなってますかっていうメールを一週間に一回は送ってるのにですよ?それでようやく返事が来たと思ったら、『調査をいたしますので、詳しい状況を教えていただけないでしょうか』だと。一番最初のメールに全部全てまるっと書いてあるっちゅうの!」
 相当富嶽総研に鬱憤が溜まっていたんだなあと、平針はビールをちびちび飲みながら視線を外した。これは話題を変えたほうが良さそうだ。
「ところで昨日のドラマ見ました?唐沢寿」
「だからFがRFPでなにを出してきたとしても、どんなに良い提案でも、私は断る気満々だったんですよ!それをあのジジイ……」
 どのジジイだろうか、と話題を変えることを諦めた平針は思った。
「単芝さんが裁判に負けたことを持ち出してきて、『こんな会社にうちのシステムは任せられんのじゃよ』とか言い出すんですよ!!!なにが『じゃよ』だこの老害が!!!」
 平針は苦笑いしながら情報を整理した。よく考えると非常に重要な人物と会話ができているのかもしれない。
「ということは、現プロジェクトの折衷案は小泉さんが考えられたんですね」
 平針の予想に対して、小泉は首を振った。
「私は昔から間を取るとかいうことが苦手なんだよねー。その辺のことはこっちの岩塚が考えたんです。すごい」
 小泉が岩塚の肩にぽんと手をおいた。岩塚は照れくさそうにしながらカシスオレンジを両手で啜っている。
「実際の行動は今日来れなかった子がほとんどやったんですけどね。彼女スーパーマンで何でも引き受けちゃうから今日も来れなくなっちゃった。あ、女の子だからスーパーマンではないか」
 アッハッハッハとどこがおかしかったのかわからないポイントで小泉が笑っている。
「三社協業体制をこちらが提案したら、F社はやっぱり最初は乗り気じゃなかったよねー。でも私の巧みな交渉術で納得させたわ。ほめて」
「は、はあ、さすがです」
「でも今回の件が起きちゃったじゃない?私は大したことじゃないのになんでここまで騒ぎが大きくなるんだろうと思ってびっくりしたんだけど、起きちゃったことはしょうがないからさー、いろいろ腐心したわけよ。でもあのFの人達、どうもプロジェクトを成功させたいっていう気概にかけるのよねー」
 小泉のその感想は、平針が事前打ち合わせの際に感じていた違和感と似ていた。どうすればプロジェクトがうまくいくかではなく、別の方向に視線が向いているという感じがした。
「ま、まあ、競合会社ですからね。反発するのもと」
 平針はそこまで言って、脳裏に新たな予見を見出した。

 F社は、単芝テックをプロジェクトから外したがっているのではないか?

 そう考えれば、これまで発生した全ての事象に説明がついた。わざとプロジェクトを遅延させ、単芝テックに責任をなすりつけ、プロジェクト全体から弾き出すのが彼らの主目的だとしたら。

「ん、どうしたの?」
 途中で言葉を切ったので、小泉が心配そうに訪ねてきた。
「い、いや、なんでもないです」
 予想にすぎないし、誰にでも予想できることだ。小泉は最前線で富嶽総研と折衝しているのだから、もうその可能性に気付いているかもしれない。今ここで持ちだしても悪口大会にしかならないだろうから、思ったことを口にするのはやめた。
「この味噌田楽、うまいな」
「ふふっ」
 小泉が笑う。
「それにしても平針さん、うらやましいなあ、こんな美女三人に囲まれて、うりうり」
 その手のやりとりには慣れていたので、いつもの様に返す。
「いや、私結婚してますし」
「ええ!そうなんですかぁ~。残念」
 わざとらしく小泉がシナシナと体をくねらせる。少しかわいいと平針は思った。
 そこへ、隣で唐揚げをほおばっていた長宗我部が口を開く。

「そうですよ~。そもそもぼくオトコですから美女は二人ですね」

「えっ」
「えっ」
「えっ」

 今日の出来事で一番の衝撃だった。

       

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Neetsha