Neetel Inside ニートノベル
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奴の偏愛
第1話「開始前」

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~数か月前~

「くっそ、また負けたよ」
悔しそうな声を上げる俺をよそに、筺体の向こう側からは笑い声が聞こえる。
「お疲れさん!なぁ、どうする?5連勝だからそろそろジュースじゃすまねーよ?」
笑顔で顔を出したのは俺の友人の1人、及川輝。少し明るめの茶髪にパーマ、着崩した制服、ついでにピアスまでつけたチャラ男だが、これでも俺の通う学校では一二を争うモテ男らしい。言動や女性遍歴など数々のクズっぷりを披露するが、友人としてはかなり良い奴で親友とも言える様な奴だ。そんな輝はゲームもそれなりに強く、俺は見事に連敗を喫する事になった。
「ジュースで済む内に止めとくわ、何がいい?」
さすがにこうも勝てないと諦めもつくのか、潔く負けを認めジュースを奢る事にした。
「キャラメルフラペチーノ」
「えっ、スタバ?」
「うん、外でたとこの」
「うぜぇ」
「はい、罰ゲーム罰ゲーム。とっとと行って来い」
しっしっと追い払うような手付きの輝はすでに次のラウンドに入っている。こいつがこうなってしまうともはやぎゃーぎゃー喚いても仕方がないので、俺はしょうがなく外に向かいスタバを目指すことにした。
ゲーセンの外から実際には少し離れた場所に目的地はあった。会社帰りのサラリーマンなんかもいるせいかレジは少し込み合っていて、俺は若干怠い気持ちになりながらふと店の外を眺めていた。すると、気のせいかウィンドウの外にいる人物と目があった。彼女は俺と同じ高校の制服を着ていて、長さはセミロングくらいで綺麗なストレートの黒髪にぴったりとハマるクールな美人、というか美少女だった。そんな彼女は少し微笑んですぐにその場から立ち去って行ったが、右手には何故か同じ鞄を2つ持っていた。
「あんな子いたっけ?てか何で鞄2つ持ってんだろ」
そんな風にぼんやりしていると前から「お客様?」と呼ぶ声が聞こえた。俺はハッとして目標の物を注文、手に入れた後は睨みつけてくるおっさんをしり目にそそくさとゲーセンへ引き返していった。

「おっせーよ、携帯鳴らしたのにでねーし」
ゲームをやり終えた輝は若干不機嫌そうな物言いだ。
「悪いな、てか待つのが嫌なら今度から自販機で買える物にしろよ。ちなみに携帯は鞄の中・・・ってあれ?」
「どうした?」
「・・・無い」
「何が?」
筺体の横に置いておいたはずの鞄が、無い。ふとさっきの美少女が頭に浮かんだ。あの子の持っていた鞄はもしかして俺のかもしれないと。
「輝、うちの学校に黒髪ストレートのクール系美人っている?」
「はぁ?」
「もしかしたらそいつが持ってったかも知れない」
輝は首を傾げて納得いかない顔をしていたが、すぐに腕を組み見るからに思い出してますといった姿勢を作った。あまりに情報が少なすぎる気がするが、こいつの情報網(特に女方面)はあなどれない。
「それなら3年の宗像月乃さんだな!」
「速っ!間違いない!?」
「たぶん合ってる。てかさっき話かけられたし」
「はっ?」
「初めて話したけどやっぱすげー美人だよ。久しぶりに緊張した♪なんか『借りますね。』とか言われたけど、何借りてったのかな?」
照れながら話す輝の頭にとりあえずグーを落としてやった。
「絶対そいつだよ!気づけよ!」
「いてーな。なんだよ、何がどうしたんだっつの」
「さっきスタバの前に鞄2つもって立ってたんだよ!んですぐどっか行った!」
「へっ、何で?」
「俺が知るかっ!とにかく返してもらう!」
「いやいや、ホントかどうかわかんねーけど、スタバの前に立っててすぐいなくなったんなら追いかけても間に合わねーだろ。明日学校で聞いてみろよ」
やけに冷静な判断の輝に少し戸惑いながらも、俺は頭を冷やしてその案に乗ることにした。ついでに熱くなってしまった自分に恥ずかしさが込み上げてきたのもある。
「3年の宗像月乃だよな?」
「おう、クラスはA組な。ついてってやろうか?」
「明日1人で行ってみるわ。てなわけで今日はもう帰ろう」
全く別の目的をもった輝はつまらんといいながらもおとなしく帰り支度を始めた。俺はといえば、冷静になろうと必死だったが頭の中ではこの出来事に対する疑問でいっぱいだった。


ライトに照らされた大通りを、黒塗りの高級車が走る。車内では一人の少女が、とある少年の生徒手帳と携帯電話を交互に眺めていた。
「ふふ、風間雪人君、雪人君、雪人・・・」
少女は愛おしそうに鞄を抱きしめながら、幸せそうに笑って何度も少年の名前を繰り返した。

       

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