Neetel Inside 文芸新都
表紙

かくも遅咲き短篇集 参
上履きの行方が知れない。/顎男

見開き   最大化      






 上履きの行方が知れない。


 私は持ち上げていた下駄箱のフタを枠組みがひしゃげるほどに叩きつけ(どぐちあ!)、相棒であり幼馴染であり私が授業でついていけないところがあったら懇切丁寧に教えてくれる係である綺羅慶(きら けい)に敢然と言い放った。
「私の上履きがない!」
 綺羅はどこの職員室からギッてきたのかチョコミントのアイスバーを卑猥な感じで舐めながら、ついでに私にも舐めた口を利いてきた。
「いや、あんたの下駄箱から消えたのは外履きだし」
 私は自分の足元を見た。2-Aとミミズの死骸を踏み潰した跡のような、我がことながら渾身の一筆がしたためられた上履きが私の麗しい足を包んでいた。私は言い直した。
「私の外履きがない」
「知らねーよどうせまた裸足で学校来たんでしょアンタ」
「ふざけるな、ぶち殺すぞ。そんなことをしたらお母さんに滅茶苦茶怒られる」
「普通の人はまずそんなことをしねーのよ」
「調子に乗るなよこの水河童が。へっ、なんだその頭は、イマドキ黒髪ショートなんて流行らないんだよ! 恥を知れ恥を」
「アンタまた期末テストで土下座する羽目になりたいの?」
「ごめんなさい」
 くそっ、この河童は知能が高い。綺羅め……自分は男子にウケやすいややロリちょいワル系美少女のニュアンスを多少持っているからといって、この高貴なる闇の血族の末裔である私の外履きの心配をしないとは何事だ。おまけに期末の話まで持ち出してきやがって。下痢になったらどうしてくれる。うちのおじいちゃんに言えばお前んちには卑猥な形のダイコンしか売らないようにも出来るんだからな。八百屋なめんな。
 ぐぬぬぬ、と憤りながら、とにもかくにも外履きがないとおうちに帰れない私は悠々と帰っていく帰宅部のクズどもを睨みつけた。ウダツの上がらない男子どもは「また滝沼か」といったような哀れみをこもった視線を私に向けてくる。なんだコラやんのかオラおお?
「コレコレ」帰宅部の富岡の首を絞め、その隙にバッシュのレプリカを薄汚い短足から失敬しようとした私を綺羅が羽交い絞めにした。何をするんだ。
「善良な一般市民から窃盗を働くのはやめなさい」
 これ窃盗なの、強盗なんじゃないの、と富岡がいらん口を利いたので私は目でやつの動きのすべてを制した。木の棒をケツに突っ込まれて女の子になりたくなければ黙っていろ。
 しかし、よく見てみると富岡のバッシュのレプリカはまがい物の上に物凄くださく、ちょっとコンビニにいくためだけにでも履くのは嫌だったので、私は彼を解放してあげた。摩擦係数がゼロになる魔術を喰らったようにアタフタした富岡は校舎から秒速5センチメートルで逃げ出し、外で何事かと心配そうにこちらを見ていた帰宅部のクズ仲間どもに抱えられるようにして回収された。鬼か私は。
「鬼だよ」うるさいぞ綺羅。
「そんなことはどうでもいい」私は自慢のゆるふわお嬢様ヘアをかき上げた。この髪質を手に入れるために私は市販のシャンプーを混ぜて混ぜて混ぜ合わせ、とうとう家の納屋を吹っ飛ばすにいたって望んだ髪質を得られるシャンプーを得たのだ。つまり何が言いたいかというと、私はとても偉く、高貴で、綺羅は私が髪をかき上げるために褒めてくれないといけないのだ。間違ってもバカを見るような目をしてはいけない。
「――とにかく、私は外履きを盗まれた。オーケイ?」
「イェーイ」
 殺すかこの女。なんだそのダブルピース。後ろで男子が喜んでるんだよ!! やめろよ!! これじゃ私が引き立て役みたいじゃん!!
 綺羅はひょいっと肩をすくめてみせた。
「まァ、アンタなら裸足で帰ってもなんの問題もないと思うけど、気になるなら探してみれば? まだ教室には誰か残ってると思うし」
「わかった」
 私は2-Aの教室へと戻った。くそっ、今日はすぐに家に帰って弟とCoDやる予定だったのにすべて台無しだ。今頃、弟は姉のいないことをいいことに彼女を呼んでいけないコーラを飲んではげっぷを漏らしているに違いない。殺す。姉より先に恋人を作った弟はみな殺す。

 私は殺意のこもった視線を美しい双眸に湛えたまま、教室の戸を開けた。
 ツカツカツカ、と教室に残っていた紅橋水母(べにばし みなも)にメンチを切る。
「紅橋、あのさ、聞きたいことがあるんだけど」
「え、なになに?」
 紅橋は向かいに座っていた友人をその巨乳で押し潰すかのごとくに身を乗り出してきて、どこかの銀河をかっぱらってきてオモチャ箱よろしくその中にぶちこんだのかと思えるほどに燦々と輝く瞳を私に向けてきた。わ、私はコイツが苦手だ。
「……えと、あの、私の外履きがなくなってて」
「えーっ!!」紅橋が両手で口を覆った。「信じられない、宇宙人っていたんだ」みたいな顔で私の背後に控える下僕、もとい綺羅を見た。綺羅が肩をすくめる気配がする。
 だからね、と私は続けた。
「私の外履き、見つけたら、教えて……ね?」
「教えるよぉーっ!!」
 紅橋はとうとう真向かいに座っていた友人を完全に押し潰して上半身だけで私に抱きついてきた。頬をすりすりしてくる。あまりにも滑らかな頬はあまり擦ると電気を帯びるのではないかと思える。チクチクと顔のあちこちに刺さる固めのショートカットが、私のいけない気持ちを色んなところから惹起させつつあった。うわああああ。
「滝ちゃんが困った時は、いつでもボクが力になるんだからーっ!!」
「やっ、やめっ、ちょっ、き、綺羅ァーッ!! たすけてーっ!!」
 綺羅はまじめ腐った顔で『ズビシィッ』と両腕を前衛芸術のような複雑さで交差させた。何そのバッテンすごくうざい。
 私はやっとの思いで紅橋を引っぺがして(あんっ、いけずぅ!)、A組の教室から出た。二百メートルを全力疾走したように汗だくになってしまった。
「くっ、くそ、この私としたことが」
「紅介ってなんでアンタのこと好きなんだろね」と綺羅は不思議そうに言う。ちなみに『べにすけ』というのはあの痴女のあだ名である。私はアイツと友達じゃないからそんなので呼ばない。
 よだれの名残と思しきべとつきを頬から拭うと、私は敢然と面を上げた。
「さあ、次はB組にいこう」



 B組。
 私はほっと息をついた。ここは生徒会長が治めている縄張りなので、話の分かるヤツが揃っているであろう。
 綺羅がそんな私に白い目を向ける。
「縄張りて……アンタらは獣か」
 闘わなければ生き残れない時くらい女子高生にもある。私は万一の時のために拳をペキパキ鳴らしながら、B組の中に入った。
「――ああ、君か」
 そう言ったのは、机に座って何か書き物をしていた、副会長の下倉路陽(みちび)だった。よかった、会長はいなかったが、代わりに日本語の通じる女がいた。
 路陽はうちのおじいちゃんの商売敵の孫娘だが、私とはけっこう仲がいい。あのハゲがどんだけ酒を喰らえばこういう孫に繋がる子種を作るのか知らないが、あのうざいハゲとは違って髪はふさふさ、ちょっと青みがかったストレート。生徒会役員にしか着用が許されていない白袖の制服を着ている。ところどころ青のラインが入っているので清楚な雰囲気だが、スカートは超ミニで、蹴りには一言持っている私には絶対にあんなの履けない。見るだけでハズい。
 とはいえ、白っぽい服を着ているやつはとりあえず信用しとけの理論に従い、私は彼女にことの次第をすべて打ち明けた。電池が切れたように黙って聞いていた路陽は、私の話が終わると、絶妙なタイミングで頷きを一つくれた。
「なるほど、話は分かった。この学校内で窃盗事件が起きるとは……すまない滝沼。生徒会の監督不行き届きだ」
 ぺこり、と頭を下げ影のような黒髪がさっと首筋から流れる。私はぽんとその肩を叩いた。
「その通りだよ、ミッチー」
 ずぼぉっ
 私の脇腹にクソ綺羅野郎のボディが突き刺さった。
「ぐ、ぐわー!!」
「ぐわー、じゃねーよ。……頭を上げて、下倉さん。物事には格ってものがあるんだから」
 こ、この河童が……格もクソもねーよ! 先祖はどっちも八百屋だよ!! 私は唇を噛み締めながらクソ綺羅野郎をじべたから見上げた。このスケは自分のお気に入りに私がナメた態度を取るとキレたパンチをぶち込んでくるのである。なんでアバラの隙間とかシャレにならないところを打つの……
「……大丈夫か?」
「ううっ……生徒会でこの河童を退治してよぅ……」
「それは出来ない。彼女は時々、生徒会主催のボランティアに参加してきてくれるからな……」
 気の毒そうに私の肩を擦ってくれる路陽。でも、言葉は優しいけど、結局それはそういう行事に参加しない私よりこのクソを取るってことじゃん!! 腹立つ!!
「もういいよ! とにかく、私の外履きを見つけたら教えてね。隠してるやつがいたらその首も届けて」
 じゃ、と片手を立ててその場を去ろうとしたが、路陽にくいっと袖を掴まれた。
「待ってくれ。実は私からも君に話があるんだ。……実はこれなんだが」
 そう言って、勇者は机の中から光の盾を取り出した。ぐ、ぐわーっ!!
「やめろぉ! それを私に近づけるなぁ!!」
「……なんで下倉さんがこのカスの英語の小テストの答案を持ってるの?」
「さっき先生から渡されたんだ。出来るだけ悪評を広めた上で本人に返してほしい、と」
 受けるなよそんなクエスト!! 魔王は両目をショックと絶望とお母さんへの恐怖で焼き潰されてしまったよ。このクソ勇者……エロ同人みたいな目に遭えばいいのに。
「滝沼……」
 路陽は、静かに私に答案を返した。
「アルファベットから、あやしいのか……?」
「う、うわああああああああああああ」
 私は答案用紙を破り捨ててB組から飛び出した。消火栓に突っ込みそうになって、慌ててその場で座り込み、おいおいと泣いた。
 二度とB組なんていかない。



 C組は、雑だ。
 まだ去年の文化祭の小道具が残っている。といっても、教室にいるメンバーがまるごと揃って留年した粒ぞろいのクズどもというわけではなく、ただ教室のカラーが世襲しただけだろう。私はガラっとC組の教室の戸を開けた。
 庭になっている。
 私はすうっとその場の空気を吸った。おいしい。背骨から綺麗になっていく気がする。
「素晴らしい……」
「アンタの頭がね」
 綺羅は、あきれた顔で、C組の教室の縁から中を身体を傾けて覗きこんでいる。どうもこの不思議空間に入ってくる勇気がないようだ。こものが。
 私は樹木の中を進み、窓際に絨毯を敷いて座っている貴少女を見つけた。
 地主の子、遠藤ユーカリ嬢である。駄洒落なんだか小粋なんだかよく分からない名前を親から財産と共に賜った彼女は、身体が弱いために、常に新鮮な酸素を欲して教室に樹木を植えている。ちなみにC組のクラスメイトは半分以上が彼女の家臣だった。恐ろしい金持ち。
「あら、あらあら?」とユーカリ嬢は口元に手をやった。お嬢様のくせに、茶髪だし、ウェーブがかかっている。そのくせ薄桃色の着物を用いているのは、なんというか、ギャップ萌え?
「これはこれは。我が校の恥ではありませんか」
「ファックユー」私は挨拶した。
「まあ。汚いお口ですこと」くすくすと上目遣いに笑ってくるユーカリ嬢。んだコラあんまナメてっと風呂に沈めんぞコラ。
「男の子にお生まれになったほうがよかったんではなくって? あなたを見ているとなんだかわたくし、無性に『もののあわれ』を覚えますわ……」
「辞世の句を『いとおかし』にされたくなければ吐きなよ。私の外履きをどこにやったのかを……!!」
 ユーカリ嬢がきょとんとした。
「外……履き……? 知りませんわ、そんなもの。わたくし、お昼からずっとここでお茶を点てていましたの」
 え、授業は……?
「なんですの、あなた、外履きが見つからないんですの? ふふ、裸足で学校に来たんじゃなくて?」
 ありうる、と私の背後で呟く綺羅。どっちの味方だ、てめー!
「心配なさらなくても、あなたの外履きを好んで持ち去るような殿方は太陽系には存在しませんわ。落ち着いて、冷静に、……焼却炉の中でもお探しになったらあ? おほほほほほ」
 古めかしい笑い方で私を嘲弄してくる和風ビッチ。このクソアマが……帯を取って駄目になったかんぴょう巻きみたいにしてやりたいところだけど、以前やられてからかなりきつめに帯を結ぶようになっていたので、今日のところは見逃しておいてやることにする。
 私はくるりと背を向けた。ひらり、と背後で扇子が翻る音がしたかと思うと、ユーカリ嬢がパタパタと扇ぎ始めた気配。勝った、とでも思っているのだろう。くだらない。
「……いいの?」
 と、一応、思案げに聞いてくる綺羅に黙って頷き、私はC組を後にした。扉を閉めてもまだあの甲高い笑い声が廊下に響いてきて場が乱れっぱなしである。
「まさか、アンタがあそこまでコケにされて退く時があるなんてね」
「いや退かないけど」
 私はソッコーで自分の汚名を否定し、目の前の消火栓の火災警報装置のボタンに右ストレートをぶち込んだ。
 当然だが、ジリリリリリリと警報が鳴り始める。
 わあああああああ、とどこかで鬨の声が上がり、わらわらとどこからともなく屈強な黒服たちが現れ、C組の中に乱入したかと思うと、中からクソビッチ和風仕立てを担ぎ上げて出てきた。そのまま『わっしょい、わっしょい』と煙もあがっていない校舎からクソビッチを運び出していく黒服たち。
「お、覚えてなさいよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 物悲しい負け犬の遠吠えに、綺羅がしみじみとした声音で呟いた。
「三歩進めば忘れる相手に言うセリフじゃないよね」
「本人に同意を求めるのもどうかと思うけどね」へこむんだけど。



 D組。
 通称『魔王城』は、今日も門番が戸の前に立ち塞がっていた。横をこっそり通りぬけようとした私と綺羅をモップの毛を外した棒でからりと塞ぐ。
「ここを罷り通ること罷り成らん」
「殺すぞ」
 メンチを切ってみたがD組の根性は並大抵のものではない。『魔王』によって鍛え抜かれたその心胆は、財布の一個や二個を落としたぐらいで揺らぎはしないほど強固なものだ。私はいよいよじいちゃんと編み出した殺人拳法の奥義をこの天地にひとさし演じなければならんかと思ったが、意外にも教室の戸は中から開いた。
「入りな」
 舌ったらずな『魔王』の声に導かれて、私と綺羅はD組の中に入った。
 『魔王』――菱潟真姫は、教壇に小さなお尻を乗せて、甘爪を噛みながら、私たちを悠然と見下ろしていた。
「よく来たな。久々じゃねえか、滝沼」
「はろー」
「そのふざけた態度……何度見聞きしても腹立つな」
 私の胸は何も痛まない。なぜなら私は、小さな女の子が大好きだからだ。菱潟真姫はまさに私好みのロリータ……大人ぶって背中まで伸ばした髪は縛らずに散らばせ、その毛先が太陽の電気を吸って跳ねている。特攻服はどう見ても十八分丈で完璧に裾が床をこすり、晒しを巻いただけの胸はグランドキャニオンよりも険しい断崖絶壁になっている。
 ああ、もっとだ、もっとそのちびっこスタイルで、背伸びして格好つけてみて。その涙ぐましい哀れさが私の情欲を研ぎ澄ます。
 何かの気配を感じたのか、ぶるっと真姫が身体を震わせた。
「……なんだその目は。テメェ、あんまナメてっと後悔させっぞ」
「さっ、させてください……!!」
「ああ!?」
 あははははー、と愛想笑いしながら綺羅が私の脇腹をつねる。痛い何すんだ、と睨むと綺羅に三倍くらいの怖さで睨み返されてしまった。……見た目は幼女でも戦闘力はこの学校内随一と言ってもいいヤンキー娘である。綺羅は私が怪我したりしたらいけないと心配してくれているのだろう。褒めてつかわす。
 真姫が、ハァ、と見た目に似合わぬ年季の入ったため息を吐いた。ヤンキーって大変なのかなあ。
「で、だ。校舎の中から苦情が出てきててな。『鬼脚の虎狼』がA組から順繰りに潰していってるってよ。……本当にオレらと戦争すんのか、滝沼?」
「そっ、そっ、それが姫との逢瀬になるならば……!!」
「意味がわかんねーよ!! なんでいきなり逢瀬になるんだよ七月七日は痴話喧嘩の日じゃねーぞボケが」
「ああっ、もっと言って! もっと私を罵ってぇぇぇぇぇ」
「…………殺してぇ」
 実感のこもった真姫の言葉に、ウンウンと頷く綺羅。いや何頷いてんだし。面従腹背どころか厚顔腹黒じゃん。もっと思いやりの精神を持と?
「……その様子じゃ、ただ教室を回ってるだけみてーだな。で? なんでそんなことしてんの」
「実は、外履きがなくなってしまって」揉み手しながらニコニコする可憐な私。
「その行方を探しておりますのです」
「上履きぃ?」真姫が口元をめいっぱい弧にして、訝しそうな顔をした。
「そりゃオマエ、素足でココまで来たんだろ」
「違います! 姫にまでそう思われるのは心外です!」
「他のやつにも言われたのか……オマエ、嫁の貰い手ねーな」
 ちょっと小バカにしたような姫の言葉に私はカッとなって言い返した。
「私は、私は姫のお婿さんになるからいいんです!!」
「きっ、気持ちワルっ!!!!」
 おっぱらわれた。
 私はD組の外で、門番にお尻をモップで突かれ「はやくどけよ」されながら泣き崩れた。
「姫っ……どうしてっ……」
「キモイからだって」
「うるさいな!! そんなはっきりとした答えは求めてないよ!!」
「なんてワガママな」綺羅がため息をついた。
「結局、結局私の外履きは戻ってこないしーっ!!」
 うわあああああ、と泣き崩れる私。
 きっと今頃、私の外履きは変態にひどい目に遭わされているに違いない。においを嗅がれたりとか、標本を採取されたりとか、バラバラに分解されたりとか、鍋敷きにされたりとかしているに違いないんだ。私の青春は真っ暗だ。うわあああああああ。
 おいおい泣き続ける私に、見かねたのか、D組の門番の少女が声をかけてきた。
「……単純に下駄箱、間違えてたとかじゃない?」
「そんなわけないよっ、だって私はっ、ちゃんとっ」と顔を上げた瞬間、私は絶句した。
 何その顔。
 綺羅。



 ガチャリ。
 E組の、一番端の下駄箱を開けるとそこには、
『滝沼蓮華』
 と書かれた、私の外履きが入っていた。
「何度見ても、自分の靴に名前書いてるのを見るとそばを歩いて欲しくない」
「なんだと! 最初から真相に気づいておきながらほったらかしにしたクソミソに言われたくないわ!!」
「だってとうとう自分の下駄箱を忘れる知能まで上がったのかと思うと興味深かったし」
「落ちたんだよ!! 百歩譲って落ちたの!! 知能上がって下駄箱間違えるって猿か私は!!」
「猿に失礼な。動物園で猿とバナナの取り合いして負けたくせに」
「あれは乱入してきた変な女に負けたの!! 猿には勝ったよ!!」
「はいはい負け惜しみ~」
「うっがあああああああああああ!!!!」
 私は校庭に両拳を落として亀裂を入れつつ、綺羅を睨んだ。
「ほんっとにもう、ああ言えばこう言う!!」
「少しは言い返せるようになれば?」
「うぜええええええええええええ!!」
 私は空中蹴りを二発綺羅に見舞ったがパンツを通行人に見せびらかしただけで徒労に終わった。私はカッと顔が熱くなるのを感じた。
「み、見てんじゃないわよ!!」
「いや見せてきたんだろ」と男子A。
「…………」何も言わずにフリスクを喰う男子B。特に後者がきつかった。私はその場に跪いた。くさくなんてないもん。
 私は積乱雲を孕んだ大空に向かって叫ぶ。

「ああああああ、もう、A組からD組まで駆け回って、みんなに話聞いて回ったのにこんなに靴見つけるだけで時間かかるなんて……私の友達はみんなみんな、馬鹿ばぁーっか!!」

 ようやくアイスを食い終わった綺羅が、ちゅぽん、と糸を引きながらアイスの棒を口の中から引き抜いた。その先端を見ながら、溶け残りのアイスが滴り落ちていく行方を気にも留めずに、ぼそっと呟いた。
 あたしも。

       

表紙

遅筆友の会 +α 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha