Neetel Inside ニートノベル
表紙

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予想だにしないジャンヌの発言にコウは思わず虚を突かれた。それは、表情を隠す仮面越しにも動揺が悟られてしまいそうなほどで、彼は高鳴る心音を無理やり抑えて乱れる呼吸を整えた。
 この間僅かに数秒。そもそも今は任務遂行の真っ只中であり、敵の懐に単身突っ込んでいるのだ。それだけでも十分危険なのに、ここで敵の親玉であるジャンヌの発言に心乱して冷静さを失うなど、それこそ一番あってはならないことだ。
 目の前にいる少女が善なのか悪なのか咄嗟に判別はつかない。あの日見た彼女の無垢な笑顔を悪だと信じたくない自分がいるのも確かであった。
 だが、今のコウは『断罪人』。この世界で罪を重ねる犯罪者をこの手で裁く処刑者。そして、目の前にいるのは直接的ではないにしろ多くの人々に悲しみと、無意味な死を与える教団のトップ。
 個人的な感情は必要ない。今すべきことは冷徹な心と鋼鉄の意思を持って少女の命を刈り取る事。不思議なことに少女もまた、コウがそれを行うことを望んでいる。
 なら、すべきことは一つしかない。
 コウはジャンヌの身体を押さえつけている馬乗りの体制から立ち上がり、腰に提げていた剣を抜き放った。それを見た教団員たちがハッと息を呑むのがわかる。
 焦る者。諦め、項垂れる者。涙を流し、叫ぶ者。反応は皆それぞれ。
 迫る死を静かに受け入れながら、そんな彼らの姿を見て申し訳なさそうに顔をしかめるジャンヌ。そんな彼女の様子を見て、これまで仕事中は表に出てこなかった良心が痛みを訴え始めた。
 これ以上行動を長引かせてはならないという考えが脳裏によぎる。それは理屈ではなくおそらく本能からの訴えだろう。
 手に持った長剣を無造作に振り下ろす。避けようのない死が罪人を裁く。……その、はずだった。
「なにっ!?」
 剣を振り下ろし、この物語は終わる。大罪の名を冠した少女と『断罪人』の物語は読者の期待するような展開もなくあっけなく幕を下ろすものと思われた。
 だが、それを覆したのはこのような展開を作り出すような主人公や正義の味方などといったお決まりの配役などではなく、むしろその逆。悪の側につく護衛人。
 以前ジャンヌと知り合った時、彼女を連れ帰った一人の男がどこからともなく突如現れ、ジャンヌ目掛けて振り下ろされたコウの一撃を彼の持つ大剣にて弾いたのだった。
「チッ!」
 予期せず剣を弾かれたコウは敵の不意打ちにより崩れそうになる体勢を立て直し、ジャンヌと男から距離を取った。警戒態勢を継続し、敵の出方を伺うコウ。だが、男の方はそんなコウのことなど気にした様子も見せずにジャンヌに声をかけた。
「ご無事ですか、ジャンヌ様」
 恭しい態度を取る男だが、ジャンヌはあと少しで叶う寸前だった己の願望を彼によって邪魔されたことに憤怒しているのか、刺のある声色で男を睨みつけながら不満を口にする。
「……ベヴェル。あなたは、いつもそうですね。どこでも私を見張っていて、私が死を選ぶことことも誰かに殺されることも許さない」
「あなた様の生は我々教団に所属するもの全ての願いゆえに」
「――ッ! どの口がそんなことを! 全てあなたの考えでしょうに!」
「そのようなことは決して。ジャンヌ様、お気を鎮めください。危機はまだ去っておりませぬ」
 そう言ってベヴェルはジャンヌを自らの背に庇い、距離を置きながら対峙するコウに視線をぶつける。
「引け、『断罪人』。ジャンヌ様の命を狙おうと無駄だ。貴様らのような者が現れようと私や教団員たちがこのお方を守ってみせる」
 『断罪人』であるコウに対し、ベヴェルは宣戦布告の言葉を吐きだした。だが、言葉とは裏腹に、この場の光景は実に歪なものである。
 悪を討つために現れた処刑者は自らこそが悪であると否定され、討ち取られるべき悪の一派は自らとその主こそ正義だと声高に叫ぶ。
 そして一番の当事者である少女は自身の身を守る護衛人を煩わしく思い、その命を奪いに来た処刑者の存在を歓迎している。
 これを歪と称さず、なんと呼ぶべきであろう。
「ジャンヌ様、敵の部隊がこちらに近づいております。教団員たちにかけた能力を解除してください。でなければ必要のない犠牲を支払うことになりますよ」
 ベヴェルの忠告にそれまで反抗的な態度をとっていたジャンヌはビクリと身体を震わせた。
「……わかり、ました。みなさん〝いままで通りに〟」
 彼女がそう叫ぶとそれまでその場に縛り付けられていたかのように固まっていた教団員たちの身体は自由になった。
 解放された教団員たちの一部は今までの鬱憤を晴らすようにコウに向かって銃器を構え、その他の者はジャンヌを連れて大広間の奥に隠されていた扉へと向かい施設からの脱出を始めた。
(……逃がすか!)
 このまま見逃しては今後どんな被害が待ち受けているか分からない。ジャンヌさえ潰しておけば崇拝する主を失い、『聖贖教団』が自然と瓦解するのは目に見えている。そうなれば、後の処理はたやすい。
 だが、ここで彼女を抑えられなければ教団員たちによる報復が待ち受けるのは目に見えている。
 それを理解したコウはこれまでの膠着状態を抜けだし、ジャンヌの後を追おうとする。
「させん!」
 だが、その行動はベヴェルと銃器を手にした教団員によって阻止される。大剣を振りかざし、コウに肉迫するベヴェル。見た目からはとても想像できないような洗練された重い一撃がコウを吹き飛ばす。
「邪魔をするな!」
 迫り来るベヴェルを無視しようとするが、彼から距離を離したコウを待っていたのは銃弾の網。即座に回避行動を取るが、その全てを避けることはできず、いくつかの弾が身体を削る。
 彼らを倒さねばジャンヌを追うことはできないと悟ったコウはまずは数が多く面倒な教団員たちを潰すことにした。
 零からの急加速。肉体の限界を超えた猛スピードで教団員たちの懐まで一気に踏み込み、一人ずつ確実に無力化していく。
 ヒット&アウェイ。的を定めさせぬよう高速での接近と回避を繰り返すコウ。だが、そんな彼の死角からまたしても不意を突いた一撃が襲いかかる。
「――クッ!」
 振り下ろされた大剣が面をかすめ、僅かにヒビを入れる。常人にはできない高速での回避がなければ今の一撃でコウは絶命していただろう。
 広間の中を縦横無尽に駆け抜けながら、ベヴェルを睨みつけるコウ。そんな彼と同じように、ベヴェルもまた憎々しげにコウに視線をぶつける。
(奴に対する注意は充分に払っていた。にも関わらず、いつの間にか気配が……いや、その存在自体が消えて俺はそのことに気がつけないでいる。
 こんなことは普通ありえない。となると、これがあいつの持つ〝能力〟か!)
 ベヴェルの持つであろう能力について推測するコウ。その最中にもコウの接近に対処しようと持っていた銃器を彼めがけて振り下ろす教団員の攻撃を避け、反撃に相手の顔面に肘による一撃を与え昏倒させる。
(このままこいつらの相手を続けていたら確実にジャンヌには逃げられる。おそらく、ベヴェルの〝能力〟は相手の意識をズラすものだろう。
 なら、肉体面では俺の方がスペックが上。最大の加速を利用してこいつらを振り払い、ジャンヌの後を追うべきだ)
 ある程度敵の数が減り、この場からの離脱が可能だと判断したコウは敵の注意を引きながら、ジャンヌたちが逃げていった隠し扉へ視線を飛ばす。
「悪いな……しばらく、止まっていろ!」
 叫びながら、右手を教団員達の固まりへと向けるコウ。すると、まるで目に見えない大きな負荷がかかったかのように教団員たちは地面へと倒れんだ。
 それと同時に隠し扉までの道が開けた。その機を見逃さず、コウは最大速で扉まで駆け抜けていく。
「考えは、悪くない。だが、甘かったな!」
 扉まであと数歩というところで、突如としてコウの目の前にベヴェルが現れた。コウの考えを読んでいたベヴェルはこれで終わりと言うように、彼めがけて横一閃の一撃を放つ。
 迫る絶命の一撃。加速が強すぎて停止は不可能。横への回避も間に合わない。
(――ならッ!)
 コウは加速を続けたまま大剣が頭を掠めようとする直前で跳躍。身体を捻り、ベヴェルの頭上を越えていく。
 半身がベヴェルの後方を抜けた瞬間、今度はコウが持っていた長剣を後ろへと振り払い、すれ違いざまの一撃をベヴェルの肩へと叩き込む。
「グゥッ!?」
 激痛に耐えるように呻き声を漏らすベヴェル。だが、彼の様子を確かめずにそのままコウは扉の中へと入っていった。
(後のことは『天警』の部隊員たちに任せるしかない)
 残された部隊員たちの今後が心配ではあるが、おそらく敵の中で最も手練のベヴェルは先ほどの一撃で手負いの状態。
 あれだけの相手が引き際を間違えるとは思えないため、コウは一抹の不安を抱えながらもその場を後にするのだった……。

 一方、大広間にある隠し扉から続く地下水路を抜けたジャンヌと教団員たちは、施設から離れた森の中へと逃げ延びていた。
 未だ戦闘が続けられている施設方面からは、遠く離れていても聞こえる銃撃音が鳴り響いている。
 仲間の安否が気になるのか不安を隠しきれない教団員たちは皆すがりつくような目でジャンヌを見つめていた。
 だが、当のジャンヌはそんな彼らの視線から目を背け、落胆した様子を見せている。それだけ、彼女にとって自分の能力の聞かない『断罪人』の存在は大きなものだったのだ。
(せっかく、せっかく……出会えたのに)
 教団というものが出来て以来、まともにプライベートな時間を取ることもできず、まるで籠の中の鳥のような生活を強いられてきたジャンヌ。
 望んでもいない騒乱はいつも彼女の周りで起こる。それは彼女の持つ〝能力〟のせいでもあり、それを制御する術を持たない彼女自身の未熟さのせいでもあった。
 先ほど大広間でジャンヌが使ったものなどは彼女が持つ能力の一端に過ぎない。彼女の意思とは無関係に発動する能力を無理やり制御して発動しているだけなのだ。
 その結果、目の届く範囲にいる人々ならば彼女の言うことを聴かせることができるが、一旦彼女の視界から外れてしまえば能力は解除される。しかしながら、無意識のうちに発せられている能力の本質である〝魅了〟は継続される。
 そのため、彼女の意思とは無関係に彼女の知らぬところで教団員たちは事件を起こしているのであった。……それがどれだけジャンヌにとって不本意なものだと理解もせずに。
 それでも、ジャンヌは事件を起こした教団員たちを責めることはできなかった。確かに、彼らのせいで多くの被害が生まれた。中には人が死んだ事件もある。だが、それは全て己の能力によって教団員たちが暴走してしまったが故の悲劇である。
 ならばこそ、その責任の全ては自分にあるとジャンヌは思っているのだ。年端もいかない幼い少女がそのような結論を出してしまう思考は異常ではあるが、それも幼少の頃よりこのような環境でずっと育ってきたのならば無理もない。
 けれども、だからこそ彼女はずっと待っていたのだ。己の〝魅了〟という能力に惑わせることなく、自分を殺してくれる相手が現れることを……。
 ザッと土を踏む音がジャンヌたちの後方から聞こえた。驚き、振り返ってみるとそこには施設でベヴェルたちが相手をしているはずの『断罪人』が幽霊のようにいつの間にか忍び寄っていた。
 その姿を見た教団員たちはヒィッと悲鳴を上げ、腰を抜かした。だが、そんな教団員たちには目もくれず、『断罪人』であるコウは静かにジャンヌの元へと近づいていく。
 怯え、身動きの取れない教団員たち。彼らが発する絶望の空気とは対照的に、ジャンヌとコウの二人の間に漂うのはとても穏やかな静寂であった。
「……」
 コウは無言で鞘から剣を抜き、ジャンヌの首元に刃を添える。それを見たジャンヌはコウに向かって微笑みかけた。
「ありがとう」
 お礼の言葉を口にし、ジャンヌはゆっくりと瞼を閉じる。それを見届けたコウは、己に与えられていた『断罪人』の任務を……遂行した。



 任務を終えたコウはその報告をカナリアを通じて美玲に通達し、その後うまい具合に現場にいる偽コウと入れ替わり『天警』としての職務も遂行した。
 施設に集まっていた『聖贖教団』の教団員はその殆どが身柄を抑えられ、後処理を任さられた『天警』の増援部隊により更生施設へと送られることになった。
 最も、教団員全員を捕縛できたわけではなく中には数名の仲間を連れて施設から逃げ延びたベヴェルや、今回の集まりに参加していなかった教団員の存在もまだあると考えられている。
 しかし、ひとまず『聖贖教団』に所属する者たちの載った名簿の一部のデータを手に入れたことや身柄を抑えた教団員たちに自白を促すことで今後の捜査はスムーズに行くと考えられている。
 コウは今作戦に参加した部下たちにねぎらいの言葉と、作戦成功を祝して祝いの場を提供することにした。『天警』職員ご用達の店を貸し切り、部下たちに食事と酒を好きなだけ飲み食いするよう告げたのだ
 これには、これまでコウのことをとっつきにくいと思っていた者たちも感激し、素直に喜びを噛み締めると同時に、彼の言葉に甘えることにしたのだった。
 『天警』本部に戻り装備一式を片付けた部下たちは、コウの貸し切った店に向かうために集まっていた。
 その中にはもちろんコウも含まれていたが、表向きは部隊を率いて作戦成功の要となったコウは始末書を書かないといけないという理由をつけて彼らと共に店に行くことを断った。
 そのことを部下たちはとても残念そうにしていたが、この後に待っている自由な時間を待ち遠しく思い、主役の不在を惜しみながらも彼らは店に向かって意気揚々と歩いていくのであった。
 そんな彼らを見届けたコウは部下たちに告げた通りに始末書を書き、それを終えるといつものように一人自宅へと向かっていく。
 地下鉄を降り、彼の住むアパートの前に着く頃にはもうすっかり日は暮れていた。
 コツ、コツと金属製の階段を靴音を鳴らしながら昇っていく。長い一日を終え、ようやく部屋の前に着いたコウはポケットにしまった鍵を取り出し、玄関の戸を開けた。さすがに、今日は激動と称しても過言ではないこともあり、疲労もピークに達している。
 正直、今すぐにでも眠りについてしまいたいコウであったが、まだ彼の仕事は全て終わっていなかった。
 玄関の戸を開けると中は既に光で溢れていた。彼と合鍵を持つ妹分であるツバキ。そして、このアパートの管理人以外には入ることができないこの部屋。
 ツバキが来るときは事前に連絡をしてくるため、彼女が室内にいるということはまずありえない。サプライズパーティでも企画しているのならば話は別だが、そのようなイベントごとにはここしばらく縁がない。
 では、管理人か? 家賃の支払いは向こう一年は済ませているためそれもない。
 となると、誰が? と普通は思うのだが、コウは中に誰がいるのか知っている。そして、その人物が今日一日を締めくくる……いや、これからしばらく彼の主な仕事になるべき対象であった。
「おかえりなさい、コウ」
 彼の帰宅を察したのか、部屋の一室から出てきた件の人物。それは、つい数時間前まで命のやり取りをし、殺害命令が出ていたはずのジャンヌだった。
「ああ、ただいま。ジャンヌ」
 笑顔で彼の帰りを出迎えるジャンヌに、彼女と退治していた時に見せていたような冷たい雰囲気ではなく、温かく柔らかな空気を纏いながらコウもまた笑顔を返す。
 殺害命令が出ていたはずのジャンヌが何故今こうしてコウといるのか。それは、ジャンヌの首元にコウが剣を突きつけていた時にまで遡る。
 ベヴェルを振り切り、隠し扉を通り地下水路を駆けていたコウはインカム越しにカナリアから新たな指令を受け取っていた。
 それは、『天警』上層部による命令内容の更新であった。抹殺の指令が出ていたはずのジャンヌは捕縛、身柄を拘束した後に監視との指令が下った。
 それを聞いたコウは何を馬鹿なと思った。これまで、彼が『断罪人』として活動してきた任務では一度としてそのような任務内容の変更はなかったからだ。
 まして、相手は幼いながらも『七つの大罪』を称する存在。これまでコウが始末してきた犯罪者たちとはワケが違う。ここで見逃せば今後どのような被害が引き起こされるのか想像できない。
 だが、上層部の判断は変更なしとのことだった。仕方なくコウは不満を飲み込み新たに更新された任務を遂行することにしたのだった。
 そして、地下水路を抜けたコウはジャンヌの元へと辿り付き、彼女を殺す素振りを教団員たちに見せつけた。そして、剣を引いて首を切断すると思わせた一瞬を突いて超加速。
 瞬きほどの時間でその場にいたジャンヌ以外の全員を昏倒させると彼女を連れてその場を後にした。
 ジャンヌは訳も分からずにコウに手を引かれて連れ去られていき、その後偽コウと入れ替わる際に彼女を自らのアパートに連れて行くようにコウは偽コウに指示をした。
 そうして、今に至るというわけである。
「コウさん。あなたが『断罪人』だったんですね」
「ああ、そうだよ。俺もまさか君が『聖贖教団』の教祖だなんて思いもしなかったよ。
 偶然の出会いっていうのは怖いものだね」
「いいえ、これは必然の出会いです。あの日、コウさんに出会うことができたのは私の人生で一番の幸運です」
「……ハァ。ジャンヌ、君自分の今の立場がわかっているのか?」
「ええ、それはもちろん。私は今何らかの理由があって生かされているんでしょう?」
「それがわかっていてどうしてそんなにも落ち着いていられるんだ? 普通の精神じゃありえないだろ?」
「そうかもしれませんね。でも、いいんです。コウさんたちが例えどんなことを考えていようと私にはもうどうでもいいことですから。
 それよりも、コウさん。一つ、これだけはハッキリしておいて欲しいことがあるんです」
「……なんだ?」
「コウさんは……私を殺してくれますか?」
 それまで見せていた明るい表情はなりを潜め、ジャンヌの顔に不安が宿る。なんだか、おかしな問答だと思いながらもコウは彼女に向かって力強く断言する。
「ああ、もちろん。今は理由があって君を生かしているが罪人、それも大罪の名を冠した君はいずれ殺される。そして、その時手を下すのはきっと俺だろう……。
 どう? これで満足したかな?」
「はい! ありがとうございますコウさん!」
 コウの答えを聞いたジャンヌは満面の笑みを浮かべた。そんな彼女の姿を見て、コウの良心がチクチクと痛んだ。
 今の彼は『断罪人』ではなく表の顔なのだ。心は冷徹な処刑者のそれではなく、不器用ながらも心優しい青年のものである。
 そんな彼に己の生殺与奪を気軽に任せるジャンヌの監視と、その護衛をこれから行っていくことになると思うと、コウは今すぐにでもこの任務を投げ出したい気持ちで一杯になるのであった。

       

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