Neetel Inside ニートノベル
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素振り
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 ふと、俺は素振りがしたくなった。
 素振り。そう、あの野球やってるやつなら誰もがやる「素振り」をだ。
 なぜ、そうしたくなったかのかは、わからない。けれども、やはり、何となく素振りがしたい、そんな気分になったんだ。
 この夏の異常な暑さで、多少気がおかしくなったのかもしれない。
 あるいは、あまりにも手持無沙汰で、やることが無さすぎるのがいけないのかもしれない。
 何を隠そう、俺は27歳、無職なのだ。
 「他にやることがあるだろう?」少しでも、モノの分別がつく大人なら、誰だってそのように言うに決まってる。
 でもな、悪いなブラザー。俺には他にやりたいことなんてないのさ。
 趣味のエロゲもアニメも、この1年間でやりつくしてしまったんだ。
 ひきこもりってのは、すごいね。無限の可能性を秘めてる。アニメ1作品を1日で通しで観るなんて余裕だぜ?
 ましてや、それが365日重なったらどうなる?どうなっちゃう?想像してごらんよ。
 な?、エロゲやアニメだったら、それなりの数こなせちゃうだろ?つまりは、そういうことなんだよ。
 
 俺にはもう、素振り以外にやるべきことなんてない。そういうことさ。
 
 

     

 「良し、やるか!」
 思い立ったら吉日である。やると決めた以上、男に二言はない。「目指せ甲子園!」とまではいかないが(どう考えても年齢的に)、バットを無心に振る・・ただそれだけが、この俺の乱れた心を慰めてくれるような気がするのだから。

 ならば、振られずにはいられないでしょう?
 バット。BAT。バット。
 「ヴゥァアアアアアアアットォオオ!!!」

 そうして、俺は意気揚々と、自分の部屋を出た。
 
 さて、問題はバット、である。
 正直言うと、俺は野球などしていたことがない。
 そりゃ少しはやっていたさ、小学校のクラブとか遊びとかでさ!
 でもそれも遠い昔の話だ。時は移ろい、何もかもが変わっていく。この家だって同じだ。小学校時代のそれとは、やはり色々と変わってしまっているのだ。
 つまり、何を気にしているかと言うと、この家にバットはあるのか?って話なのである。
 「・・とりあえず探すか」
 あるのかないのか良く分からないまま、俺はバットを探し始めた。

     

 今日家には俺しかいない。平日の昼間だから、まぁ無職の俺しかない。JKの妹は出かけているし、両親は働いてるし。絶好のバット探し日和なのである。
 「あぁ、バット・・バットぉ。どこだよバットぉ~」
 とりあえず俺は台所へ行ってみた。
 戸棚という戸棚を開けてみる。しかし、そこにあるのは買い置きの洗剤とか調味料とか、調理器具や食器ばかりだ。
 だが、俺はすげぇものを発見してしまった。
 「こ、これはッ!!」

 なぞのちぢれ毛ッッ!!!

 誰だ、こんなところに卑猥な毛を残したのは!母親か?それとも妹か?それともお隣さんちのアキちゃん(15歳)かっっ?!!
 「けしからんぞ、アキちゃん!(だと思いたい)」
 「・・・・」
 ・・母ちゃん掃除しろよ。

 さて、台所を少し探してみて、わかったことがある。
 うん、バットねぇ。
 だが、同時に俺はふと思った。
 誰が素振り=バットでするものだと決めつけた?
 それともアレか、俺が勝手に決めつけていたのか?
 ダメだ、物事は柔軟に考えないと。それこそ頭の固い若年寄になっちまうぞ。
 そう、別に素振りだからといって必ずしもバットを振る必要はないのだ。バット以外の何かを振れば、俺だけの素振りが出来上がるじゃないか・・・、
 「どうして今まで気づかなかったんだ・・俺はアホか。」
 俺は嘆いた。
 だが、これでこそニートの喜びが増えるというもの。
 「さてと、手始めに何から振ろうかな。」

 そうして俺は冷蔵庫の扉を開いたッ!

     

 冷蔵庫の中は、ごちゃごちゃしていた。これまさに、主婦の聖域である。
 だが、苦節27年のこの俺をナメてもらっちゃ困る。この中から、何かバットの代わりになるようなものを探すなんて、この俺にはお茶の子さいさいなのだ。
 「何が出るかな♪何が出るかな♪」
 俺は努めて探す。
 「パジェロっ!パジェロっ!」
 俺は努めて探している。
 そして・・・、ついに・・・。

 「第一村人ぉおお発見んんん!!!!」

 それがこの、ごぼうである。
 「振りたいんや!」
 いてもたってもいられなくなって、俺は我が家の庭に出た。
 「今でしょ!」
 そして2、3回試しに素振り。
 「あぁ・・・いい・・」
 俺は手に持ったごぼうをまじまじと見つめて、こう言ってやったさ。


 「ふぇえ・・・おっきくて、ながいよぉ・・・」



 フフ・・。
 フフフ・・・。
 なんだこれ。なんだこれは。
 敢えて俺に、俺自身に俺は問う!
 なぜ今まで、素振りをしてこなかったんだ!
 こんなにいいごぼうがお家にあったってのに!
 庭でおっきくてながいごぼうで素振り。
 庭でおっきくてながいごぼうで素振り。
 見てくださいよ、奥さん。この色と艶。
 この色と艶と来たら・・・っ!
 さいっこうじゃないッスかっ!
 さすが、国内産!TPP加盟国もびっくりだぜ!
 フハハハハハ!!!!
 ・・・。
 さて、もうひと振りするか。

 俺は無我夢中でごぼうを振る。
 振り続ける。ブンブンブンブンブンブンと。

 「ふぇええええええ!!!おっきくてくろくてながいのぉおおおおおおおお!!!!!」

 「ふぇええええええ!!!すんごく、きもちいいいいいのをおおおおおおお!!!!!!」


 だが、あまりにも俺は無我夢中になりすぎていたようだ。ごぼうを振ることに。
 気づかなかったよ。
 いつの間にか、隣の家の奥さんがこっちを白い目で見ているじゃありませんか!

 どうする、俺?

     

 隣の奥さんは、さもすましたような顔でこの俺を見つめてくるのだった。
 そんな奥さんの視線が痛い。胸にチクチクと刺さりやがる。

 しばしの沈黙。

 あぁ、なんだろう。この感じ。
 あぁ、そうか・・これが。
 「恋・・なのか?」
 どちらかと言えば、奥さんよりも娘のアキちゃんに恋心を抱いてきた俺だけど。
 なんだ、かなりストライクゾーン広いじゃないか!
 ん?ストライクゾーン?・・って野球だな。
 あぁ!なんだそうか!
 こうやって今日素振りをしていたから、恋のストライクゾーンも広がったってわけか!!
 「いぇあああああああああああああああああああああああああああああああいいいい!!」
 嬉しくなって、俺はまたブンブンブンブンごぼうを振り回す。
 そして湧き上がった恋心を抑え切れずに、奥さんと会話したくなる。抱きしめたくなる。
 だが、気付いたときには奥さんはいなかった。自転車で買いものにでも行ってしまったらしい。
 仕方ない、今度会ったらしっかり言おう。

 「どうです、奥さん。僕とご一緒に、素振りでも?」と。

     

 庭での素振りに疲れた俺は、ごぼうを冷蔵庫にしまい、しばし昼寝することにした。
 だが、やはり普通に俺の部屋で寝るというのでは、面白くない。そこで、わが妹、時子の部屋で妹の匂いに包まれながら寝ることにした。
 「おじゃましまーす」
 幸い、妹の部屋は鍵などかかっておらず、まさに誰でも「いらっしゃいませ」状態と化していた。ならば、進入するほかないだろう。
 「あぁ・・・・」
 入ったとたんに鼻をつく妹の部屋の匂い。妹の匂い。JKの匂い。
 「ときこぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 すかさず俺は、妹のベッドにダイヴした! そして、匂いを嗅ぎまくるッ!!!
 「くんかくんかくんかくんかッ!!!イイッ!イイッ!イイイイッ!!!イ、イ、イ、イックゥウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!」
 そして俺はその甘い匂いに包まれながら、眠りについた。


 しばらくして目が覚めた。時計の針は夕方の五時頃を指している。
 「あぁ、いい眠りだった」
 やはり寝るには妹のベッドに限る。ぶっちゃけ、自分のベッドよりも寝やすいくらいだ。
 さて・・・。

 「素振りすっか!!!」

 俺は妹の部屋でバットの代わりになるものを物色しはじめた。

     

 俺は隈なく妹の部屋を探した。しかし、彼女の部屋は存外、物という物が少ないため、はっきり言って俺が期待しているようなバットの代わりになりそうな物はない。
 「弱った・・・」
 男27歳にして、妹の部屋で万事休すである。
 「困った・・・」
 だがしかしだ。
 こういう苦境に立ってこそ、非凡なアイデアというものはひらめくのだ。
 
 「うぬぬ・・・」
 俺は考える。
 「何か、何かないだろうか」
 考えに考える。
 ひたすら考え抜く。
 やがて俺は一つの結論に達した!
 「決めたっ!!!」
 
 
 とりあえず俺は、
 妹の部屋で一発抜くことに決めた。
 手には、妹の写真(机の中で見つけた)。
 
 「ハァハァ」
 「時子ぉ」
 
 ※しばらくお待ちください。
 
 ドピュッ。
 「メッシきもちいー」
 
 さて、出すものも出したし、そろそろ決めなきゃな、何で素振りするのかを。
 かといって、めぼしいものは何にもないんだよな・・・。
 ん?
 んんっ?
 あれっ?
 いや、あるじゃないか、今俺の目の前に。
 男なら誰もが持ってる「バット」そのものが。
 「フッハハハハハ!!!!」
 これまたどうして気付かなかったんだ!
 なんだ、簡単じゃないか。
 己のペ●スを振れば、バット振ってることになるじゃねぇか!!!
 「よーし、パパがんばっちゃうぞー」
 そして俺は全裸になり、妹の写真を胸に抱えたまま、巧みに上半身を動かし、己のティ●コを「素振り」するッ!
 「フッ・・・フッ・・・フッ・・・フッ・・・」
 聡明な読者諸君なら分かるだろうが、これが意外と体力を使うのだ。
 「フッ・・・フッ・・・フッ・・・フッ・・・!」
 だが俺はそれでも振り続ける。明日に向かって。ち●こを。
 「フッ・・・フッ・・・フッ・・・フッ・・・!!!!!!!」
 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
 見てくれ!これが俺の求めた究極の素振りだァアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!
 
 ガチャッ。
 突然開く部屋の扉。
 「えっ」
 目が合う俺と妹。
 俺のたった一人の妹、時子。

     

 フルチンで己のバットをブンブンしていた俺は、部屋の主であられる妹君とのご対面を果たしたのだった。
 だが、次の瞬間、飛んでくる怒号。
 「おにいちゃん、私の部屋で何してんのよ!」
 半泣きで訴えてくる妹。
 「いや、その、あの、これは・・・かくかくしかじかでして・・」
 「はぁ?っていうか、なんでアンタ全裸なわけ?キモッ」
 あぁ・・いいです、全裸で妹に罵倒されるプレイも悪くないとです・・・。
 「それは・・・それは・・・」
 「何なのよ!マジさいてーっ!!!」
 最低だとっ?家に帰ってきて早々、実の兄を最低呼ばわりするとは何事だ。大体この家の平穏が保たれているのも、俺の自宅警備のたまものではないか。だんだんこのアバズレに腹が立ってきた。
 妹に己の一物を見せつけるかのごとく、俺はスッとその場に仁王立ちして、高らかに言い放ったッ!
 

 「裸になって、何が悪い!!!!!!」

 
 「ううっ・・!!!」

 「気持ち悪いもの見せないでぇーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 妹はそこで泣き崩れた。その声を聞いた母親(いつの間にか帰宅していたらしい)が「ごらぁああああ!カズヨシィイイイ!!!何してんのォオーーー!!!」という怒鳴り声とともに駆けつけ、次の瞬間、俺を盛大にビンタした。
 「何ってただ素振りしてただけじゃんよ!!!」
 「この馬鹿息子がぁあああああっ!!!!」
 バチーンともう一発ビンタが炸裂した。


 俺の弁解むなしく、その後も説教は続き、俺は母と妹の面前、全裸で土下座させられるという羞恥を味わったのだった。
 (あぁ・・・こういうプレイも悪くないのかもしれん・・・)







 それからしばらくの間、妹は俺をまるでそこにいないかのように扱い始めた。要するに、「シカト」である。何度も謝っているのにね。

 そう、彼女はそういう「素振り(そぶり)」をする。
 
 愛する妹にそんな素振り(そぶり)を見せられるくらいなら、俺は素振り(すぶり)なんかしなけりゃ良かったと思いはじめているところさ。



  ご愛読ありがとうございました。
                  完

       

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Neetsha