Neetel Inside 文芸新都
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MITSURUGI
第壱話【始】

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 東京都世田谷区用賀──深夜。
 環八通り上り線に複数の緊急車両が停車し、おびただしい数のランプが付近を赤く照らしている。
いくつもの交差点で交通規制がかかり、規制は環八だけでなく交差する世田谷通り、首都高速三号渋谷線といった幹線道路に迄至っていた。
「全規制及び全隊員の配置完了しました」
 グレーの作業服を着た青年が、黒いバンの前に立っているスーツ姿の男に報告する。
「砧や岡本の住民の様子はどうだ?」
「範囲内の小道はパトカーを巡回にまわしているので、そう簡単には公園には近づけない様になっています」
 報告を聞いたスーツ姿の男は、おもむろに胸ポケットから煙草を取り出す。
「しまった、ライター切れてたんだった…石川、お前ライター持ってないか?」
 その言葉に作業服の青年、石川は苦笑いをしながら
「僕が吸わないのは千葉さんがご存知じゃないっすか」
 そうだった、こいつは酒も煙草もやらない男だったか。全く面白味に欠ける奴だ。
千葉はガスのなくなっているライターを取り出すと遮二無二リールを回す。そんな彼を見ていた石川は、クスクスと笑いながらバンのドアを開けてシガープラグのソケットを外して手渡した。
「“常に周囲に目を配らせ状況を把握しろ”っておっしゃったのはどなたですか?」
 軽い皮肉を言われ、千葉は思わず舌打ちしながらソケットを分捕り煙草に火を着ける。
「それだけ言えるって事は余裕がありそうだな。後は全部お前に任せてもいいんだぞ?」
「現場が混乱するだけですから、有難い話ですが遠慮しておきます」
 二人の目の前を、制服姿の警官が走り去っていく。
恐らく、あの警官は近隣の所轄だろう。ただ、いきなり上から詳細を聞かされる事なく環八周辺の通行止め規制に回されて混乱しているだろうな、と千葉は心の中で哀れんでいた。
「…“発現”迄、後何分だ?」
 煙草の煙を吐き出すと同時に石川に質問する。その言葉に、石川は脇に抱えていたタブレットを起動させ必要なデータを開いた。
「時間通りでしたら、後六分といった所です」
 石川の抱えていたタブレットには、【発現予定時間:午前二時半 予定ポイント:砧公園駐車場付近】と書かれていた。
「そうか…予定通りのポイントであってほしいな」 
「確かに、世田谷美術館や医療研究センター付近に出られたら厄介ですもんね」
 石川が懸念材料を口にすると、千葉は「いや」と返した。
「隣の運動場あるだろ。あそこのゴルフ練習場は結構利用するから、そこ壊されたら堪らんからな」

       

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