Neetel Inside 文芸新都
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MITSURUGI
第陸話【反】

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「こちらで確認取れたのはそれだけだが、自分で他に見付けられそうか?」
 特戦部隊専属整備室、通称GMルームで正義は津久井と共にミツルギの見直しを図っていた。
 今迄の戦闘では、ミツルギの武器は両手甲部位のブレードだと思っていたのだが、改めて確認をしてみると手甲部位だけではなく篭手や肘、踵といった全身十五ヶ所に同様の刃が仕込まれている事が判明した。
「多分、これ以外にはなさそうですね…といっても、俺の力量不足で気付けないだけかもしれませんが」
「いやいや、こんだけ見付けられただけでも十分じゃろ。今迄の守護者なんざ、見付けようとすらしてないんだしな」
 特殊強化ガラスで仕切られた実験室のモニタールームで、津久井はマイク越しに正義の熱意に感心した。自分達メカニックスタッフに協力を惜しまない彼に喜びを隠せないのか、津久井はいつも以上にスキンヘッドをぺちぺちと叩いている。
「それじゃ、やってみるかい」
「はい、お願いします!」
 津久井が顎で指示を出すと、スタッフが目の前にあるスイッチのひとつを押す。それに応じて、実験室の中では四方からいくつものパネルが登場した。
 正義はパネルを目で追い、各部位のブレードの試し斬りを行う。最初はブレードを出したままでの攻撃、それが終わると今度は攻撃を当てる瞬間にブレードを出す動作。いくつものパターンを自分の体に叩き込む様にしながら、ミツルギの戦闘向上の為の実験を行った。
「次は、正面三メートル先にパネルを出すぞ。そのままの位置からブレードが届くかの実験じゃ」
 過去のデータでは、一度だけ五メートル先のエソラムにブレードを突き刺したとの報告が残されていた。『恐らく、守護者の意思に応じてブレードは伸縮するのではないか』との推論が出されはしたが、その後の実戦で自在に操った者は一人も現れなかった。しかし、少しでも可能性があるのならば何度も実験をして自分で確認がしたい、との正義の言葉に津久井も乗る事にしてみたのだ。
「パネルだと思うと伸びるものも伸びないかもしれん。頭の中でエソラムとの実戦中だとイメージしてた方がいいだろうな」
 津久井の言葉に、正義は目を閉じて今迄の戦闘を思い浮かべてみる。
 素早い敵、頑丈な敵、強大な敵…『天人』。
 自分の目の前には、あのタケミカヅチが立っている。右手には大剣を握り、頭上には念動宝玉が電気を帯びて浮遊し、ピリピリとした気をこちらに向かって飛ばしてきている。
 正義は腰を落として身構え、全身に力を入れると各部位の刃を一斉に突き出す。ブレードの出し入れは自在に出来る様になってきた。だったら、次はこの距離から攻撃を当てる事だ。
「ふぅぅ…」
 深く息を吐きながら、腰を捻らせ右腕を後ろに回す。
「時に草薙や。敵はどんな奴なんじゃ?」
 スピーカーから、津久井の声が聞こえてきた。
「タケミカヅチです、『天人』タケミカヅチ」
「ほぉ、そうか…おお、厄介な奴が目の前におるのぉ。大剣を持ち上げて、剣圧でお前さんを吹き飛ばすつもりなんかねぇ?」
 よりイメージを強くさせようとの津久井の算段なのだろう、正義がその言葉に耳を傾けると目の前の『天人』はゆっくりと右腕を上げる。大剣は宝珠同様に電気を帯び、離れた場所からでも帯電の鈍い炸裂音がバチバチと聞こえてくる。
「あんな大剣を片手で軽々と持ち上げおった…いかん、総員退避じゃ!」
 そうだ、剣圧はミツルギは防ぐ事が出来たとしても背後のメカニックスタッフは軽々と吹き飛ばされてしまうだろう。ならば、今ここで奴の腕を突かなければ──
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 正義は力一杯右拳を握り締めると、ブレードの剣先に意識を集中させた。
 アメノウズメの羽衣を思い浮かべろ、あの感覚でミツルギのブレードだって絶対に自在に伸びるんだ。“筈”とか“かも”なんかじゃない、“断言”してやる。
「いっ…けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 腰に力を入れて拳を思い切り突き出すと、彼の意思を受け取ったのかブレードは激しい動きで三メートル離れた位置から一瞬にして敵を貫いた。
「おおおおおっ!」
 背後から複数の歓声が聞こえ、正義はおもむろに目を開ける。その目の前には、ブレードがプレートを真っ二つに切り裂きそのまま壁に突き刺さっているのが見えた。
 やった…これで、ミツルギは更に前線での活動に力を入れる事が出来るんだ。
「おお、大成功だな! 草薙よ、よくやった!」
 津久井の感嘆の声に振り返ると、モニタールームではスタッフ全員が惜しみない拍手を正義に贈っていた。その嬉しい光景は彼の疲れを一気に吹き飛ばし、武装を解除した後の汗だくの状態でもその口元には笑みが浮かんでしまう。
「いやー、本当によくやったわ。お前さんは最高じゃ!」
「最高と言えば…津久井さん、メカニックマンなんか辞めて役者に転向したらどうですか?」
「いやー、ワシも今そう思ってた所よ」
 正義がニヤリと笑いながら皮肉めいた言葉を投げると、津久井もつられて笑い頭をぺちぺちと叩く。そのやり取りに、その場にいた全員からもドッと笑いが起こった。
 皆に笑みが浮かぶという事は、自分の力が徐々に評価されているという事だ。足手纏いの一般人から、守護者として周囲が認めてきてくれている。
《汝、力ヲ求ム者ナリヤ?》
 あの時、タケミカヅチは確かにそう訊いてきた。
 過ぎた力は単なる暴力でしかないだろうが、今自分に足りないのは他でもない力だ。戦う覚悟があったとしても、力量不足でそれを補えていない。
 別に加賀さんに認めてもらおうとかそんなのではなく、加賀さんや曲木さんの足を引っ張る真似だけは絶対にしたくない。誰かが足を引っ張るのは、それが仲間の命を削る足枷になる。それだけは絶対に避けたい。
「俺は…力を求む…みんなを守れるだけの力が欲しい…」
 津久井達が談笑している陰で、正義は右の拳を眺めながら力一杯握り締めた。

       

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