Neetel Inside 文芸新都
表紙

MITSURUGI
第漆話【心】

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 正義が処置室のベッドで横になっていた頃、会議室では大和達が神妙な顔付きでスクリーンを見ていた。
「次に、これをご覧いただきたいのですが」
 石川が、淡々とした口調で映像をスクリーンに流す。それらは全てミカガミのもので、先日の記録や今回新たに判明した事態の映像を事細かに説明していた。
「これは、三宿の戦闘記録かね?」
「はい。一方向からの記録映像なので、正確な解析はまだ出来ていませんが…」
 バンに設置された固定カメラは全部で八台あったが、前線から離れた位置での撮影になる為にどうしても角度が一定になってしまう。ズームで撮影した映像は後に画像解析でクリアにはなるものの、至近距離での撮影が出来ないと背中が映っているだけで肝心の戦闘が掴めないという事も多々あった。
「ここで、ミカガミは草薙さんからの指示でType-O・N・I六体の単騎討伐に中るのですが」
 ミカガミがエソラムを相手に一人で素早く相手している映像が流れ、加賀の戦闘スキルによっていとも簡単に六体の鬼が地面に崩れ落ちていくのが手に取るように判る。
「ここです、手元を拡大します」
 石川は、ミカガミが地面に手を伸ばすシーンで一時停止し映像を拡大させる。荒い画像が彼の操作でクリアになると、ミカガミが右手で何かを掴んでいる所だった。
「それは、エソラムの核?」
 姫城が石川に訊くと、彼は大きく首を縦に振った。再び映像を再生すると、ミカガミが六個のタマハガネを次々と拾っている姿がスクリーンに流れる。
 しかし、タマハガネの回収はこれ迄何度も行われた事だから「今更そんな映像を見せられても…」というのが、その場にいた者の感想だったに違いない。
「正直、ここ迄は普段と何ら変わりないので撮影時はスルーしていました。ですが、ミカガミの謀反を元に観直してみて発見したのがこれからの映像です」
 ミカガミの手元を拡大した場面迄戻ると、石川は更に手元を拡大し今度はスロー再生で映像を流した。
「これは…取り込んでいるっていうのか?」
 最初に声を挙げたのは津久井だった。
 タマハガネを握り締めた右手から、まるで生き物が這いずる様なうねりが肘迄続く。上腕部に到達する前にはうねりは消えているが、それは六個のタマハガネ回収の全てに映し出されていた。
「僕としては、GMに携わる津久井さんに見解を聞きたかったんですが…その様子だと、津久井さんもご存知なかったんですね?」
「ご存知ないも何も、タマハガネには自己修復機能みたいなモンがあるから新たにタマハガネをくっつけてどうこうとかなんて考えもしなかったわ」
 津久井は、呆然としたままの表情を正す事無く石川の質問に答える。
「神鎧、っちゅーかタマハガネの成り立ちに関してだったら、分野は古澤の方じゃろ?」
「いえ、私の方でもタマハガネ同士の融合については記述を把握してはいません。不謹慎な発現をすれば、研究対象としてこの映像をいただきたいくらいです」
 コインデックですら掴めていなかった新事実に、その場にいた全員が頭を抱える。想定外の出来事が一気に襲ってきて、一体何から手を付けていいか判らない状態だ。
「お二方の見解がなければ、映像を続けます」
 石川は動揺する気持ちを抑えて、淡々と映像提供の作業を再開させる。手前のキーボードを操作し、今度はタケミカヅチ討伐後の映像をスクリーンに映し出した。
「こちらの映像に関しては、僕が説明するよりも曲木さんにご説明願った方がいいかと思いますが」
 スクリーンには、スロー再生でミカガミがミツルギに攻撃を加え戦闘不能の状態に追い込んだ後、ミタマの元で煌々と輝いているタマハガネを掲げている姿が流れている。音声は爆発音による影響か、ノイズが酷くて会話の内容が伝わってこない。
「私も、どう言っていいのか判りませんが…」
 スクリーンに映る自分達を見ながら、茜は説明し難い状況を思い出す。余りにも突然の事に、直接現場にいながら夢を見ている様な気分になっていた。自分がミタマの守護者になってからの二年、加賀が裏切るなんて一度も感じた事はなかった。それだけに、何が彼を突き動かしたのか、何故こんな事になってしまったのか、疑問が渦を巻いて心の中をかき乱していた。
「加…ミカガミが『天人』のタマハガネを吸収したのは直接見たのか?」
 言葉に詰っている茜に助け舟を出そうと千葉が質問を投げるが、加賀の名前を出しそうになり慌ててミカガミと言い直してしまう。受け入れ難い事実が怒りとなり、今では加賀の名前を出すのも腹立たしくなってしまっている。それはその場にいた誰もが思っている事で、茜も千葉の訂正に何も言わず質問に対して頷くだけだった。
「胸に当てて、そのまま吸収していました。その時に『これで二つだ』って言ってたのが気になってるんですが…」
「二つ? すでに一つ取り込んであるというのかね?」
 数字に疑問を感じた大和が口を挟む。
「それに関しては…こちらの映像になりますね」
 石川は素早くキーボードを叩き、スクリーンにアメノウズメ戦の映像を映す。タケミカヅチ討伐前に倒した『天人』は、それ以外に存在していないのは周知の知る事実だった。
「いや、これは俺も直に見てるけど燃やされて終わりだっただろ」
 だが、映像を見ながら千葉が喰らってかかる。実際、映像ではアメノウズメの体内にミカガミが手を突っ込んだ後、激しい炎が火柱となって隙間という隙間から溢れ出てきていた。
「フェイク…という言い方が正しいか判りませんが、E-ガンでアメノウズメの鎧装内を燃やしている間にタマハガネを吸収した可能性は非常に高いと思います」
 石川は、千葉の疑問を持論で叩き伏せる。同時に、映像を記録動画からデジタルデータへと変え、
「三宿駐屯地での戦闘で、Type-O・N・Iの行動パターンを分析した結果です」
 歪界域から発生したエソラムの行動予測が矢印になって移動する。矢印は、途中ミツルギにほぼ潰され消失していたが、ミツルギのデータを省いて再び行動予測を出すと、それは全てミカガミのいる地点へと向かっていた。
「恐らく、Type-O・N・Iはミカガミから『天人』のタマハガネの奪還回収か、あるいは『天人』のタマハガネを吸収したミカガミを自分達の主として迎えに来たか、のどちらかではないかと」
 ミカガミがすでにアメノウズメのタマハガネを吸収しているたのであれば、エソラムの行動パターンに合点がいく。分析確立は八十三パーセントとなっているが、石川の推測に反論できる意見を持つ者はその場にはいなかった。
「…もし、後者だとすればミカガミは『天人』と見做していいという事になるのかね?」
 石川の推測に静かになった会議室に、大和の声が重く響いた。
「これは、石川君に訊くよりも古澤君の分野かな…君はどう思うかね?」
「“人間が纏っている鎧装”という時点でかなりイレギュラーな事ですので何とも言いかねますが…」
 大和の問い掛けに、古澤は答えを躊躇ってしまった。きっと、自分の回答如何によっては事態は大きく変動してしまうだろう。だが、ここで曖昧な回答をしても大和は納得しないだろうし、何よりもコインデックの為にはならない。何よりも、専門分野で働く人間が嘘を付く訳にはいかない。
「『天人』の核を装備しているとなると、扱いとしては“『天人』級”と言えるでしょう」
 古澤の言葉に、大和は静に目を閉じて黙ってしまう。その姿に、その場にいた全員が固唾を呑んで大和を見詰める。
 次に司令が口を開く時は、ミカガミと加賀の処遇が決まる。例え、どんな結果であろうともその指示に従わなくてはならない。それが望まないものであろうと、ここでは統括司令の言葉が絶対なのだ。
 彼の言葉を待ち、会議室が静寂に包まれる。やがて、大和はゆっくりと目を開いて一息吐くと、
「只今をもってミカガミは[Type-TENJIN:コードNo.X-001]とし、以後対象は破壊及び消滅。装着者の加賀未来は組織員としての全ての権利を剥奪、反逆罪適応により即時処刑とする」
 誰もが予想していた、最悪の結果が出た。
 無論、加賀の取った行動は許されるものではない。だが、今迄仲間として一緒にいた相手を逮捕拘束する訳でもなく「殺せ」と大和は言っている。
「ミカガミは三種の神器の一つだけど、奪還とかってのは考えなくていいと?」
 千葉は、遠回しではあったがGMを引き合いに処遇の変更を願い出ようとした。いくら腹立たしく思っても、つい昨日迄部下だった男を容赦なく処刑するのは正直躊躇してしまう。
「千葉君、もう一度だけ言う。“対象は破壊及び消滅、即時処刑”、いいね?」
 だが、大和は間髪入れずに結論を復唱する事で「同じ事を言わせるな」と脅しに近い形で釘を刺した。それは、千葉にだけではなく「お前等全員、反論の余地はないからな」と言っているのが、彼の座った目を見れば明らかだった。
「曲木君と草薙君には、今迄以上に過酷な思いに耐えてもらう事になるが、こちらでも最大限でフォローする様努めるよ。それで構わないね?」
 大和の発する言葉が、茜の心臓を次々と抉る。
 司令は労いの言葉をかけている訳ではない。
「現守護者の責任として、元守護者の処刑を確実に実行しろ」と脅しにかかっているのだ。
 草薙君、どうしよう…せっかく、貴方がこれからも守護者として頑張ると言ってくれたのに、療養後の行動は人としての価値観を全て失うものになってしまいそうだよ…
 茜は、それ迄感じる事のなかった恐怖と後悔に体を押し潰されそうだった。

     

 目が覚めると、そこは薄暗い空間だった。
 壁の所々が薄ぼんやりと淡い碧に輝き、自分が今いる場所が小部屋程度の広さだというのが判る。扉は存在せず、そのまま広間に繋がる構造になっている様だ。
 爪先で地面を蹴って足場の存在を確認すると、意を決して広間へと歩を進ませる。
 警戒しつつ広場の中心迄進むと、半円状のテーブルの様な物体が設置されてあった。手探りで物体を触ると、それは何かのコントロールパネルなのかいくつもの突起物が並んでいる。操作法の予測が全くつかずに触れるのを躊躇ってしまうが、このまま黙って突っ立っていた処で何も始まらないと感じ、思い切って中央の巨大な球体に手を乗せてみた。
「──!」
 球体がメインスイッチだったのだろう、無音のまま周囲が一気に明るくなる。
「…中央管制室、といった所か」
 加賀が立っていた場所は、テーブルを中心に円形状のロフトとなっていた。下のフロアはロフトの五倍程の広さで、正面には大型スクリーンらしいパネル、左右には貯蔵室の様な部屋がいくつか見受けられる。改めて周囲を見渡すと、どうやらドーム状の半円形建造物であるらしい。
「下にはどうやって行けば…あれか?」
 周囲を見回すと、ロフトの一角に歪界域と似た様な揺らぎが見える。近く迄進むと、それは下へと続く光の筒となっていた。もし原理が一緒であれば、ここに来るのに歪界域を利用したのだから影響はない筈だと判断すると、何の躊躇いもなく光に足を乗せる。
 加賀の全身が光の筒に収まると、十秒かかるかかからないかのわずかな時間で彼の体は下のフロアに到着する。
 それにしても不思議だ。
『天人』の核を二つ手に入れた事で、自らの意思で歪界域を作り出す事が出来た。それを利用すればエソラムの本拠地にこれるだろうと飛び込んで、実際にそれらしき場所に辿り着いている。それなのに、『天人』はおろかエソラム一匹と動いていない。
 いや、動いていないというよりも“存在している気配がない”といった所か。
 エソラムは『天人』が生み出した兵器の様な物だ、恐らく格納庫か何処かに集めてあるのだろう。となれば、『天人』がそこかしこにいてもおかしくはないのだが、ここには人の気配というものが一切感じられない。
 それ以前に。
 タケミカヅチにせよアメノウズメにせよ、鎧装の中はタマハガネが核となっていただけで『天人』そのものがいなかった。
 確か、コインデックに残された記録では『天人』が鎧装を纏って戦い、それをサポートする兵器としてエソラムの存在があった筈だ。だが、実際に戦った鎧装の中には『天人』なんていなかった。てっきり、鎧装もタマハガネによる遠隔操作か何かを施して当人達は本拠地でふんぞり返っているのだろうと考えたのだが、どうやらそれも違うらしい。
「あるいは、ここは本拠地ではない…?」
 だとしても、この場所に誰もいない理由にはならない。拠点を一つまるまるトラップにするという方法もあるかもしれないが、それだって敵が襲撃してくる場合を想定して設定するのが普通だ。人間側が襲撃する手段のない状況でトラップを作る意味がない。
 可能性としては、転送の際に軸ずれが生じ廃拠点のひとつに送り込まれた辺りだろう。
「まぁ、調べてみれば判る事だな」
 廃拠点であれば、何の危険も感じる事なく調査が出来る。そう開き直ると、加賀は貯蔵庫の様な造りの部屋を調べてみる事にした。万が一に備えて、E-ガンのエネルギーを収束させ掌に集めながら部屋の前迄進む。
 部屋は窓の枠組みはあるがガラスがはまっている訳ではなく、壁が刳り貫かれているだけといった簡素な造りだった。通用口も同様で、扉が付いている訳でもなく「ここを通り抜けますよ」と言っている様なものだ。ただ、気になるのはその材質で、どうやらタマハガネで出来ている部屋──否、この建物全体がタマハガネで造られている様だった。
 部屋の中を見渡すと、長方形の台座らしき物体が等間隔で設置されている。目視で数えると、五列に十台ずつ設置されていた。更に奥を見ると、いびつではあるが椅子の様な形状の置物が二十台ほど設置されているのが判る。
「これは…?」
 近くの台座に近付くと、そこには勾玉の形をしたタマハガネが置かれていた。よく見れば、全ての台座や椅子にタマハガネが転がる様に乗っている。
「ひとつにつき一個、って通販番組かよ…」
 周囲を見渡し、大した発見がないと判ると加賀は他の部屋も見て周る事にした。広間に出て改めて確認すると巨大モニターを基点に左右三部屋ずつあり、三つ目の部屋の角には何処かへ通じるだろう通路が延びていた。最初に加賀が入った部屋はモニター右側二番目の部屋で、六部屋全てが同じ構造だとすれば台座が三百に椅子が百二十あるという計算になる。もし、これといった発見がなかったとしても四百強のタマハガネがあるのだから、自己強化以外にも色々と実験が出来るだけの収穫はある。
 最初に調べた部屋の前に戻ると、そのまま左右の部屋を調べる。予想通り部屋の構造は一緒で、台座や椅子の上にタマハガネが乗っているだけで『天人』やエソラムの存在はなかった。反対側にある三部屋を調べてみるが、まるで鏡あわせをしているかの如く全てが同じ状況で思わず肩透しを喰らってしまう。
「こうなったら、徹底的に調べるしかねぇのか」
 もし、収穫がタマハガネ以外何もなかったとしても、ここを自分の活動拠点として今後の方針を考えればいいだけだ。その為には、建物の構造を全て理解してタマハガネの利用方法を見出そう。
 それには、まず何をすればいいか──パネル操作だ。
 加賀は光の筒迄戻ると、そのままパネルの設置されていたロフト部分に向かい何の躊躇いもなく中央の球体に右手を乗せる。当然、加賀が操作するのは初めての事であって扱い方が全く判らない以上手を乗せただけでは何も動きはしなかった。
 パスワード、呪文、大声を出す、適当にいじる…いや、どれも違うだろうな。もっとシンプルに、且つ『天人』でしか出来ない様な方法がある筈だ。それは一体何だ? 『天人』に出来て、人間に出来ない方法とは──
 加賀は、思い出した様にミカガミに融合させたタケミカヅチとアメノウズメのタマハガネに意識を集中させた。この建物自体がタマハガネだとすれば、恐らく核となったタマハガネに対して何らかの反応を示すに違いない。鎧装を通じてタマハガネ同士がリンクすれば、装着者の意思を反映して操作が出来る筈──きた!
 巨大スクリーンに、見慣れない字体が次々と浮かんできた。それは、象形文字の様でもあれば古代筆記体の様でもある。しかし、そのままでは解読が出来ないと感じた加賀は文字の自動変換を自己意思としてタマハガネに命令した。頭の中で漢字、平仮名、片仮名、英語、数字、自分が普段扱う文字をイメージさせ、それを核を通じて球体に送り込む。
 その命令が聞き入れられたのだろう、スクリーンの文字は徐々に加賀にとって見覚えのある自体へと変化していき、やがて全文が修正された頃には建物の内部構造図や『天人』達の状況を記した説明書といったデータである事が判明した。
 球体にてをかざすだけで全ての操作が出来ると判った彼は、頭の中で次々と指示を出し自分が必要とする項目を画面の前面へと出していく。この建物は一体何なのか、『天人』とは何者なのか、エソラムを使って何をしようとしているのか…
「…成程、そういう事だったのか…」
 何時間画面に釘付けになったか覚えていないくらい情報を漁り、自分の望む以上の成果を得た加賀は笑いを抑える事が出来ずに左手で口元を押さえるのに精一杯だった。
「おいおい、本当に神になれちまったんじゃねーかよ…こんなあっさり神になっていいのか?」
 完全に神になるには、まだ足りない材料がある。だが、それはすぐにでも集められるだろう。
「あはは…あははははははっ! 草薙ぃっ! 曲木ぃっ! お前等、本当にご苦労さんだわぁッ!!」
 誰もいないドームに、加賀の笑い声がこだまになっていつ迄も響き渡った。

     

 東京都中央防波堤外側埋立地──早朝。
 北西に台場の灯かりが見える淋しげな埋立地で、正義は最後のエソラムを真っ二つに斬り裂いた。
「おーし、それで最後だな。お疲れさん」
 正義と茜の耳元に、千葉の間延びした声がマスクを通じて聞こえてくる。千葉にとっては、東京ゲートブリッジのわずかな区間だけ規制をかける以外に大した作業も苦労もなく、敵もエソラムが四体と気負う必要がなかったせいで完全にだらけていた。
「石川ぁー、せっかく早く片付いたんだし帰る前にどこかで飯食って行こうぜー」
「馬鹿な事言わないで下さいよ。帰ったら報告書作成とか色々あるでしょうに」
 千葉と石川の漫才の様なやり取りに、正義は思わずクスッと笑ってしまう。
「千葉さん、この時間じゃ環七に出てもコンビニくらいしか開いてませんよ」
 エソラムと対峙した後にコンビニでおにぎりとお茶を買う自分達の姿を想像すると、その緊張感のない間抜けっぷりに笑うしかなくなってしまう。どうやら、千葉達も同じ姿を想像したのだろう、笑いを噛み殺しながら「それは嫌だな」という返しがスピーカー越しに聞こえた。
「さて、俺等は帰ったらシャワーでも浴びてスッキリしますか」
 GMを解除させバンに向かいながら大きく背伸びをすると、正義はとぼとぼと歩き始めた茜に向かって笑顔を見せた。だが、茜はそんな正義の姿に普段の様に返答は出来ず、思わず「あ…うん」と言葉を詰らせてしまった。
 何故、彼はいつも通りの姿を見せていられるのだろうか?
 療養の効果か、正義は一週間もかからずに無事に回復した。そんな中で大和の決定を報告したが、彼は「そうですか」とだけ呟いて反論も拒否もしなかった。かと思えば、今みたいにみんなと和気藹々としている。
 決して緊張感に欠けている訳ではない。でも、以前みたいな警戒心や加賀に対しての怒りといった感情が全く見受けられない。むしろ、そういった感情を流している様にも見える。
 一体、彼は何を考えているのだろう?
 いや、彼だけじゃない。千葉さんにしても石川さんにしても、会議の後から何が変わったかといえばいつも通りで何も変わっていない。石川さんに関しては、あれからデータ報告が続いたのか走り回る姿を何度か目撃はした──目撃はしたがそれだけだ。
 今だって、移動中のバンの中では三人が談笑している。
 千葉さんが競馬に負けて大損したとこぼし、それに対して石川さんが「下手なのは周知の事実でしょうが」と突っ込み、草薙君は「ギャンブルなんて最低だ」と笑う。
 勿論、戦闘後に神妙な空気にする必要もないだろうし、嫌な事を忘れて楽しくするのは何ら問題はないと思う。
 でも。
 加賀君の一件があるんだから今迄の様に「エソラムを倒しました、おしまい」になんてならない筈なのに、何故彼等は笑っていられるんだろう…
 茜の疑問は誰が解決する訳でもなく、その違和感に近い感覚はバンが組織の専用駐車場に到着しても拭われる事はなかった。  
「お疲れさん。俺はこれから姫城んトコに報告しに行くから、お前等はゆっくり疲れを取ってくれや」
「了解しました、上官殿」
 千葉の言葉に、正義は意味もなく敬礼の姿勢を取り笑う。千葉も石川も彼につられて笑うと、同じ様に無意味に敬礼して管制室へと足を進めた。二人の背中をしばらく眺めていた正義は、ため息に近い感じの一息を吐くと茜の方を向いて「んじゃ、俺等も行きましょうか」と目を細めて笑った。
「あ…草薙君、あのね──」
「草薙君、ちょっといいかしら?」
 シャワールームに向かう途中で、正義は背後から古澤に声をかけられた。瞬時に「待ってました」と言わんばかりの表情で古澤の方を向いて歩き出す正義を見て、茜は何となく気になって一緒について行ってしまう。一瞬迷惑かと思ったが、正義も古澤も茜がいる事に何の疑問も持っていない様子で、というより“茜もこの場にいるのが当たり前”といった面持ちでファイルを眺めていた。
「あれから計算してみたけど、ラボで保管しているタマハガネは全部で三十七個ね」
 アーキアラジーの保管庫には、正義達が戦闘後に回収したタマハガネが保管されていた。それは几帳面な古澤の手によって日付毎にファイリングされ、いつでも情報を提供出来る様になっていた。
「ミカガミが吸収したのが何個くらいかの判明は?」
 正義の質問に、古澤は一覧を改めて眺め自分の計算が間違っていないと再確認した上で、
「千葉大学の戦闘からタマハガネ回収を始めて、それ以降のエソラム討伐数が七十二体だから不足分は三十五個だけど…それを全て取り込んだとは考え難いでしょうね」
 実際には、鎧装ごと吹き飛んでタマハガネの回収が不可能だったエソラムの方が多かった筈だ。もし、加賀が皆に知られずに回収しミカガミの体内に取り込んでも精々十五から二十といった所ではないだろうか、というのが古澤の見解だった。
「解析部統括の立場としては実験が楽しみではあるけど、私個人としては反対だわ」
「だけど、加賀さんは実際に成功しています」
「確かに、目の前に成功例はあるけど」
 古澤は大袈裟にファイルを閉じると、睨む様な目付きで正義を見る。
 草薙正義という男の、武器であり欠点である部分が“実直”だろう。
 素直な気持ちのまま真っ直ぐ突き進むから、いつもなら「ま、いっか」で済ませられてしまうが、
「それが確実なものであるとは言い難い状況で、貴方を実験台にするのは素直に賛同出来かねるわね」
 恐らく、津久井だったら彼の覚悟を賞賛して実験に協力しただろうが、自分は危険の方が明らかに強い事項に協力は出来ない。
「こちらでも何か有用な情報を掴む様努力はするから、貴方も焦らないで」
 古澤に痛い所を突かれ何も言えなくなってしまった正義に、彼女は軽く肩を叩くとファイルを閉じてそのまま研究室の方へと去って行った。
「草薙君、今の話は…」
 突如の事に茜は話についていけず、古澤が去った後でようやく口を開くのが精一杯だった。
「ミツルギのパワーアップにタマハガネを取り込もうと思ってるんですが、古澤教授は反対の方向って…困ったなぁ」
 そんな茜の心境を理解しないまま、正義は苦笑いをしながらけろっとした顔で自分の考えを明かした。それは茜にとっては初耳の事であると同時に、 
「困るも何も、無茶に決まってるじゃない!」
 一度でも実験をしているのであれば、そのデータを元に早急に対策を取る事は出来たのだろうが、まっさらな状態から急激に人体実験をして問題が起こらない訳がない。
 いくら何でも、彼のやる気に「よし、やろう!」と手を差し出す人物なんている方がおかしいというものだ。
「でも、実際にミカガミはパワーアップしてます。勝つ為には、こっちもやれる事をやらなきゃいけないと思いませんか?」
 それでも、正義は自分の言い分に間違いはないといった感じの表情で茜を真正面から見た。
「…本気、なの?」
「このまま黙って指を咥えていたって殺されるのがオチだ。だったら、悪足掻きをしなきゃ活路は見出せないっすからね」
 何て事だ。
 彼は緊張感に欠けていた訳でも、警戒心や怒りの感情を流していた訳でもなく、自分の置かれた最悪の状況下からの脱却を誰よりも考えていたんだ。
ただ、常にその事ばかりに頭を一杯にしても何ら解決出来る訳ではないから、普段は自分の立ち位置をしっかり把握して行動していただけだったんだ。それに気付かずに、独りで勝手に不安を最優先させてしまった私は、一体何をしていたんだろう──
「草薙君、シャワーを浴びるのは後回しにしましょう」
 それならば。
「悪足掻きだったら…取り合えず、GM同士の模擬戦で少しでも特性を掴むってのはどうかな?」
 自分の力量がどれだけのものかなんて判らない。それでも、パートナーである彼が前向きに物事を捉えようとするなら、それにとことん付き合うのが先輩守護者としての自分の置かれた立場だろう。
「模擬戦か…そういう方法もあったんだよな。流石は曲木さんだ、俺の考え付かなかった事を瞬時に思いつくなんて感心するなぁ」
 いや、そんな大それた事じゃない。
 彼は、もしかしたら自分や加賀君をすでに越えて先に進んでいるのかもしれない。だったら、先に守護者になった者として彼には負ける訳にはいかないんだ。
 いつ迄も、誰かの背後で守られてばかりの自分に嫌気が差していた。今、その事に気付かなかったらこれからだって自分は草薙正義というイレギュラーにずっと守られてばかりの駄目なままだっただろう。
「言っておくけど、そう簡単には負けないからね」
「OKですよ、先輩。俺も守護者として、徹底的にやりますからね」
 草薙君、加賀君。
 私は、貴方達に…自分に打ち勝ってみせる。
「…徹底的、にね」

     

「“石像”…ですか」
 大和から“ガーゴイル計画”の書類を渡され、暫く無言で計画内容を読んでいた千葉はおもむろに名称に対する不快感を顕にした。
「何か不満かね?」
「いえ、別に」
 ガーディアン・メイルにせよ新造される予定のガーゴイル・プロテクターにせよ“守護する”という意味合いでは同等の筈だが、守護者の資格を持たない者でも装着出来る装甲だからとはいえ“格下”の名称にするなんざ、皮肉と言うより嫌味じゃないか。
「それで、GPを装着させるに値する隊員は千葉君から見て何人いそうかね?」
 特殊な装備品を身につけて前線に立つのだから、立場的には特戦部隊と突撃部隊の中間辺りに位置を置く事になる。そうなると、突撃部隊の中でも選りすぐりの人材にその立場を担ってもらわなければならないだろう。
 戦闘特化の人材を取るべきか、総合的ポテンシャルを取るべきかで悩まされる。前者なら、突撃部隊の方の影響もそんなに大きくはないが、守備の点で問題が生じてしまう。後者であれば、前線に立たせるのは非常に簡単だが、それだけの人材が突撃部隊から抜けるのは部隊の能力低下に繋がるデメリットもある。
「長野、富山、山口、福井、香川、宮崎の六人が妥当な範囲かと」
 悩んだ末、千葉は戦闘特化の人材に的を当てた。“守護者のサポート”に重点を置けば、短期決戦で場を片付ける方が妥当だと判断しての事だった。六名という数字も、アタッカー、サポーター、フォロワーに二名ずつ充てれば場合によって二班体制を取れるからだ。
「では、早速その六名に辞令を出すとしよう」
「司令、お言葉ですがその案には賛同致しかねます」
 しかし、千葉は人材を選んで置きながら大和の考えに反対の姿勢を見せた。
「加賀の件に関しては管理官である自分の失態でありますが、それ以外の現時点での体制による不具合はありません」
 ガーゴイル計画が本格的に軌道に乗った場合は長野達六名が妥当なのは事実だ。だが、果たして今すぐにでも計画を実行する必要があるのかはなはだ疑問でもあったし、何より加賀の一件に対する大和の処遇に納得出来ていない部分で素直に賛同出来かねていた。
「では、君は草薙正義と曲木茜の両名に今迄通り負担を抱えていろと?」
 大和の口から厭らしい言葉が投げ付けられた。
 確かに、加賀が抜けた現状では二人の守護者に対する負担は決して少なくなかった。両者とも非戦闘員で経験も少ない分、実戦での疲弊は並大抵のものではないだろう。
「自分は、隊員を駒として扱いたくはありません」
 それでも、千葉は自分の意見を曲げる気はなかった。
 もし、大和の望むような結果が出せなかった場合、どういう処罰が隊員に下されるか判らない不安。何らかの失態が生じた場合、前回同様簡単にその生命を奪うのではなかろうか。
 そういった疑問や不安が、大和の計画に乗り気になれない大部分だった。
「千葉君、上の人間に必要な要素はなんだと思うかね?」
 突如、大和の口からそれ迄の会話と全く無関係な質問が飛び出した。
余りにも急な質問に千葉は躊躇ったが、すぐに頭を切り替えて、
「部下の体調やメンタルを管理し、常に連携を取れる様に──」
「綺麗事を聞いている訳ではないんだがね」
 そう言うと、大和はデスクの引き出しから煙草を取り出し火を点けた。ゆっくりと煙草を吸い煙を吐く様は、千葉に対して挑発している様にも見え彼の神経を逆撫でした。
「では、司令はどの様なものが必要だと?」
 思わずムッとしてしまった千葉は、二人のやり取りにうろたえている石川や姫城を無視して大和に喰らってかかった。所が、大和はその言葉を待っていたかの如く、
「『下に嫌われる事』が必要なんだよ」
 和気藹々とした環境は、一見互いの信頼関係に大きく関わってきそうだが、実際は上下関係なく和気藹々としてしまうといざという時に相手を頼りすぎて自滅する事の方が多い。
「あの人なら判ってくれる」と己の力量を見誤って自滅する、あるいは「何であの時助けてくれなかったんだ」と己の失態を責任転嫁する様といった亀裂具合を大和は何度も見てきた。
 それよりも、上の強引振りに反発を覚える方が「だったら、俺等で見返してやろうじゃないか」と団結して物事を解決させる率の方が高かった。
 企業、政治経済、戦争…どのジャンルであろうと、それは同じだった。それだから、大和はあえて嫌われ役を買って出る事にした。
 加賀の件も然り。
 本当なら、皆が望んでいるだろう恩赦を考えなければならないのかもしれない。だが、ここで和気藹々と皆の意見に従えば、油断した所で加賀の一手に自滅する可能性の方が大きい。
 これ以上部下を失うくらいなら、自分は鬼になって皆に恨まれる方がいい。 
「私は、保身に走るつもりなど毛頭ない。むしろ、君等が高みを目指す為だったら刺されたって一向に構わないよ」
 大和の真剣な眼差しに、千葉は言葉を失った。
 自分が部下を駒にしたくないだの何だのごねて考えていた間、この男は一手も二手も先を考えていた。常に先を考え、部下の生命を削る真似を避ける為にあえてヒールに徹する姿勢を貫いていたとは…
「言葉が過ぎました…申し訳ありません」
 千葉は、自分の言葉に恥じて深々と頭を下げた。
「では、先程の六名には君から話を通しておいてもらって構わないかね?」
 大和は千葉の謝罪にあえて触れず、話を戻す事で“今迄の暴言なんてなかった”という姿勢を見せた。
「了解しました。早速総務に辞令の発行を請求してきます」
 姿勢を正して従う意志を見せた千葉は、そのまま踵を返して司令室を後にした。それを見た石川も、大和に一礼した後慌てて千葉を追った。
「…ふう」
 二人が退室したのを確認した大和は、肩から力を抜くと大きくため息を吐く。
「鬼軍曹ならぬ鬼司令、お疲れ様です」
 姫城が大和のデスクにコーヒーを置くと、
「その内、コインデックの桃太郎に退治されそうだな」
と皮肉めいた言葉を吐いて淋しげに笑った。

     

 戦闘管理の書類整理を終えた石川が遅めの昼食を摂ろうと食堂に足を運ぶと、長テーブルのひとつに正義が難しい顔をして座っているのを見かけた。
「草薙さん、こんな所でどうしたんですか?」
 きつねうどんを注文し丼を抱えて正義の所へ向かうと、彼は難しい顔から一転して明るい顔を石川に見せる。
「お! 丁度いい所に石川さんだよ!」
「え、僕ですか?」
 正義の前には一冊の分厚い本が置かれていた。恐らく、彼は本の内容に苦戦していたのだろう。
「本を片手に悩んでるって、まるで試験勉強みたいですね」
「あー、似た様なもんかな。古典と日本史のごった煮みたいな状態」
 正義の例えが理解し難かった石川は、おもむろに本のタイトルを眺めた。
「日本神話、ですか…確かに、本の選び方を間違えるとさっぱり判らない内容ですよね」
 彼は大学生だった筈だが、専門課程が違っていればその手の分野には精通しないから判らなくても致し方ない部分はあるだろう。それ以前に、学業で学ぶ内容ではないので全く話を知らないまま生活していたとしてもおかしくはない。
「書店で店員に『一番判り易いので!』って注文したんだけど、それでも全然頭に入らないんだよね」
 苦笑いをしながら、正義は本を突いた。それ迄全く縁のなかった世界ではあったが、タケミカヅチを始めとした『天人』が関わってくる以上少しでも自分なりに情報を集めようと考えた事だった。
「名前や地名なんかの固有名詞が漢字の羅列で、しかも当て字の様に並べられているから尚更読み手を敬遠させてしまうきらいはありますね」
 自分も学生時代にかなり苦戦したな、と石川は昔を思い出し苦笑いをしてしまう。
「石川さんって、確か大学時代に神話関係を専攻してたって聞きましたけど」
 正義は、自分にも判り易い様に石川に解説を願い出た。 
「そう、ですねぇ…国造りからだと五柱神の下りだろうから…」

 まだこの世が形を成していない頃、天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)を筆頭とした別天津神(コトアマツカミ、別名五柱神)が誕生する。その最後に生まれたのが伊邪那岐(イザナギ)と伊邪那美(イザナミ)の二柱神で、別天津神は伊邪那岐達に国を造る様命ずる。
 伊邪那岐と伊邪那美は天の浮き橋に経つと天沼矛(アメノヌボコ)を用いて陸地を形成し、淤能碁呂島(オノゴロ島:一説には淡路島北端にある絵島であるとされる)を誕生させた。
 淤能碁呂島に降り立った二柱神は婚姻の儀を交わし、八つの島を次々と生み出した後性交するが伊邪那美の方から婚姻の誘いを行った為に生まれた子神は奇形であった。
 奇形の子神を処分し、改めて伊邪那岐から婚姻の誘いを執り行い大山津見神(オオヤマツミノカミ)を始めとした国津神を次々と生み出すも、最後に火迦具土神(ホノカグツチ)を産み落とした際伊邪那美は陰部を焼かれ命を落としてしまう。
 伊邪那美を死なせた事に怒りを感じた伊邪那岐は火迦具土神を切り殺すと、伊邪那美を追って黄泉の国に向かい連れて帰ろうとするが、「地上に出る迄決して後ろを振り向かないで欲しい」という伊邪那美との約束を破り伊邪那岐は途中で振り返り醜悪な姿の伊邪那美を見て、余りの恐怖に伊邪那美を捨て逃げ帰ってしまう。
黄泉比良坂迄逃げ帰った伊邪那岐が近場にあった大岩で黄泉比良坂を塞いでしまうと、
「愛しい人からのこの様な仕打ち、ならばそなたの国の人間を日に千人殺して差し上げましょう」
恨みを込めた伊邪那美の声が岩戸の向こう側から聴こえ、それに恐れた伊邪那岐は、
「ならば、私は日に千五百の産屋を建てて建て進ぜましょう」
と言い返し、阿波岐原で身を清め穢れを祓った。その際、清めた左目から天照大神(アマテラスオオミカミ)が、右目から月読命(ツクヨミノミコト)、鼻から素戔男尊(スサノオノミコト)が生まれた。
 その後、高天原を治めた天照大神は伊邪那岐と伊邪那美の造った葦原中国(あしはらのなかつくに:日本大陸の事)の統治は天津神が行うものだと宣言。国津神の大国主神(オオクニヌシノカミ)等と葦原中国平定(あしはらのなかつくにへいてい:別名国譲り)を結んだ。

「簡単に言えば、こんな感じですかね」
 石川が自分なりに内容を簡素に整理して説明すると、正義は目を丸くさせて感心していた。
「それじゃ、タケミカヅチとかはどっちの神に位置するんですか?」
「タケミカヅチは天津神側の神です。基本的に、『天人』に分類される神は天津神がメインになりますね」
 コインデックのデータベースには、天津神、国津神を始めとして数多くの神話関係情報がインプットされている。そのほとんどは必要に値するのか疑わしいが、それでもエソラムに関係がありそうな妖怪や物の怪に分類させている。
「んじゃ、『天人』のラスボスはアメノミナ…なんとかっていう神なのかな?」
「天之御中主神ですか? 流石にそれはないと思いますが…」
 五柱の神々の内、造化の三神の一人高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)は征服・統治の神とされている。征服という言葉に注目すれば、確かに五柱の神々が背後に控えていてもおかしくはない。もし、正義の言う様に五柱神もしくは伊邪那岐達を含めた七柱神の存在を考慮するなら更なる対策を検討した方がいい。
「草薙さん、ちょっとこの本借りていいですか?」
「別に構わないですけど?」
「この本を元に、少し戦闘管理室の方で対策を練ってみます」
 仕事が増えるのは嬉しくはないが、ガーゴイルの一件もある。
 ここは、自分の立ち位置を見極めて慎重に行動するのが戦闘管理補佐の仕事だ。草薙、曲木両名の負担を軽減させる為に、自分のやれる事をやろう。
 千葉と違ってフォローしか出来ないが、だったらそのフォローを完璧なものにしてやろうじゃないか。
「もう、金魚の糞なんて言わせませんよ」
 久々に熱くなれる、そう感じた石川は心の奥から沸々と湧き上がるものに興奮を抱いた。 

       

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