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アルバイター
16.最後の対決

16.
杉村達は会場の裏手通路から、地下駐車場へ向かうまでの長い通路に差し掛かった。
「ちょっと待てー!止まれ!」と叫びながら、崎谷は一人追い駆けて来た。そして2人を確認すると、幹部に支給される拳銃を天井に向かって1発撃った。
 音に怯んで、立ち止る今日子。杉村は逃げるのを促すが全く動こうとしなくなった。
 「なんなのよもう!」と泣きはじめる今日子。
「女は関係ない。行かせてもいいか?」と杉村は近づいてくる崎谷に言った。
「好きにしろ。」呼吸を整えながら答える崎谷。
「先に行け!」と杉村は今日子に促す。
「ええ?嫌よ!」
「いいから!行け!」と頬を張る杉村。
「馬鹿!死ね!」と言って走り去る今日子。
杉村は再度崎谷に顔を向けると、崎谷が逃げる今日子に銃の標準をあわせていた。
「止めろ!」と杉村は叫ぶが、崎谷は構わずに今日子に向けて銃を撃った。
銃弾は今日子の腹部に命中して今日子は倒れ込んだ。
「今日子!」といって杉村は走り寄ろうとしたが、「動くな!動くと女を殺す。」と崎谷に言われて立ちつくすほかなかった。今日子は腹部の激痛に呻きはじめる。
「考えてみたんだが、女が関係ないというのはおかしいだろう。」
「女は…何も知らない。」
「知る、知らないは関係ないだろう?現にこうやってお前のパートナーとして一緒にいるんだ。だから俺の鉛玉をくらう義務があるし、俺にはそれをブチ込む権利がある。」崎谷はそう言いながら、銃口を杉村に向けると「ところで、お前よくもやってくれたな!」と青筋を立てて叫んだ。
「何を?」と杉村。
「何を!?ははは!何をだと?俺が、会長のシャツにミートソースをこぼしたお前に頭が来て銃をぶっ放したとでも?…ふざけるな!お前、会長に鉛玉ブっ込んだだろうが!よりによって俺の仕切りのメインイベントで!俺がゴーサインを出したのは、最終選考会への参加だけで、鉛玉ブっ込むゴーサインは出してねえ!ちくしょう!確かに、確かに!ゴーサインは出しちまった!お前!お前を二次面接で見たとき、ほのかに香る豚臭ささを、感じたんだ!それで、俺はわざわざお前の在籍確認まで取ったんだ!でだ…セーフ!セーフティーだと思っちまったんだよ!俺のクソ野郎!でもな!お前が会長に鉛玉ブっ込む時にハッキリ思い出した。いや思い出したなんて、やさしいもんじゃねえ!ミックスジュース作る時みてえに脳内をグチャグチャ掻き混ぜられて強制的に記憶の連結させられちまった!…お前見た目は変わったが、ウチの豚だった杉村だろ!」
「そうだ!」
「クソ野郎!お前のせいで俺は、また一から汚ねえ尻の舐め直しだ!毎日!毎日!クソの匂いのするケツの!」
「それもいいんじゃないか?」
「良くねえクソ野郎!」動揺で涙を流し始める崎谷。「クソ!どこに行ってケツを舐めればいい?どこに戻って舐めれば、さっきの俺みたいに舐められる立場になれる!?」
動揺している崎谷に近づく杉村。
「近づくんじゃねえ!」と銃を撃つ崎谷。
「ちゃんと、狙って撃てよ、ブレブレだぞ。」
「来るな!来るんじゃねえ!」といって連発で銃を撃つが手が震えてことごとく杉村には当たらない。崎谷はすべての弾を撃ち終えると、「ちくしょう!ちくしょう!」と膝から崩れて泣きはじめた。
「お前、千と千明の神隠し見たことあるか?」突然、杉村が崎谷にたずねた。
「ああ?うるせえよ!」
「どうなんだよ?」と仕掛け銃を構える杉村。
「あるよ…。それがなんだっていうんだよ!?」
「俺はあの映画が過激な思想の映画だと最近ふと思いついた。宮崎速雄が社会の仕組みをそのまま神隠しの構図に当てはめて風刺している。そう考えていた。だがな。そう考えると、しっくり来ねえことがあるんだ。素直に考えれば神隠しは、千明の夢だ。少女の感じている思い全てが統合されてあの世界が生まれている。最初にあの映画を観た時、俺はどう感じたのかよく思い出してみた。俺は神隠しの世界で起こることを楽しんで、最終的に物語が川の名前を思い出すことで問題を解決することに違和感があった。あの違和感こそが監督の自然の重要性をもっと認識しろという作品への意思の介入なんじゃないか。だからあの解決を見たとき俺は夢から醒めたような気分になった。監督はサクとして千明に重要な認識を得てもらおうと寄り添っているだけで、風刺社会を作って少女にその解決を任せようとしているわけじゃない。俺は、少女の見る夢を勝手に社会風刺の産物だと解釈をして過激な考えで社会を見てしまっていた。そんな俺の存在を少女が記憶に取り込んで夢として見たとしたら、俺はどんな存在か。神隠しの中での自分の姿を想像して絶望したよ。俺はあの映画に出てくる面なしそのものだ。世界をクソだと断じて自分勝手に生きて責任は取らず、自分を偽り他人に嘘を付く。図らずも面なしの見ていた世界を俺は見ちまっていたんだ。だがもう仕方がない。面なしは自分一人で解決する手段を持っていないから。お前や小林、野上一家。関わる人間の近くで暴れまわり、何とか暗闇から救い出してもらおうと俺は必死になるしかねえ。それともこのクソみたいな出来事すべてが俺の悪夢なのか?そうだったとしたら、目を覚まさせてくれねえか。」と言うと振り返って、杉村は腹部を押さえて悶える今日子を肩に抱えると出口に向かって歩み始めた。
「何言ってやがる!わけがわからねえ!」と崎谷は言うとそのままうなだれた。

それからほどなくして、SP達が崎谷の下へやってきた。
「大丈夫ですか?」
「ああ。」
「向こうだ!追え!」SPは杉村達を遠目に確認して叫んだ。
「待て!」
「ですが…」
「いい…あいつはどのみち野垂れ死ぬ…行かせてやれ。」

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Neetsha