2.ファイブマートの会議

2.
ファイブマート本社の大会議場では、会長の小林敏政を演壇に迎え、総勢500名の本部スタッフと首都圏店舗担当者。オンラインでつながっている各地方支部が参加して定期成長戦略会議が開かれている。
「創業より一貫して、拡大成長してきた我らファイブマート。年平均10%以上の売上成長率を誇っているのは、パイオニアたる我らファイブマートだけの偉業である。これは他の後追いパクリ企業には出せない数字といえる。・・・がだ!ここに今年の四半期速報値がある。」
強い口調で小林は示された数字を指示棒で叩きつける。
「売上成長率8.6%、目標値から1.4%足りない。・・・1.4%もだ!」
「君」そう言うと小林は指示棒で一人の担当を指した。
「は、はい!」
「我らファイブマートの昨年度の売り上げは?」
「ええっと、その…」手元の書類から数字を探そうとするが、見つからずにいると、
 小林は片手に持った懐中時計で3秒経過するのを確認して、
 「もういい。君は首だ。」そう言いながら首を掻き切る仕草をした。
 会場後方から、屈強な体つきをしたSPがやってきて、回答できなかった社員を両脇に抱えて強制退出させた。
 「奴は、私の!会社の!3秒を無駄にした!いいか。親の命日、妻との結婚記念日、子供の誕生日。そいつを頭から掻き消してでも会社の数字を頭に叩きこめ!いいか?」
 「はい!」会場全体の男達から雄叫びが上がり、コップの水は波紋を作った。
 「では君!どうだ?」新たに小林は指示棒で一人の担当を指した。
「はい。昨年の売上は、2兆8653億6324万3213円です。第二四半期現在、10%成長目標で換算して、1.4%のロスはおよそ200億です。ちなみに今しがた、連れていかれた奴の無駄にした会長の意思決定の3秒のロスはファイブマートの秒当たりの売上に換算すると、27万をドブに捨てた計算になります。」
「すばらしい。君名前は?」
「崎谷です。」
「そうか崎谷君。それで、その200億はどうすれば、回収できる?」
「年末のクリスマスケーキを全国2万店舗で各店舗目標値より400個ほど多めに売りきれば可能です。」
「いかにもそれができれば、達成は可能だが…いささか暴論ではないか?まあいい。でだ。何も私は、この未達の原因を、足りない本来あるべき200億を、君ら現場の人間に負わせるつもりは毛頭ない。この責は、ひとえに、会長である私に帰す!そう考えている。ではなぜこんな数字を。気分の滅入るような数字を見なければならなくなった?」    
小林はそう言いながら胸に挿した、シルクのハンカチを指で撫でながら、
「私は慎重に、丁寧にシルクのシーツを見まわした。そして二つの虫食いを発見した!一つは、既存店売上の低下。これに対する対処として、私は新たに、起爆剤としてファイブマートのマスコットキャラを提案する!名付けてファイブ君だ。」突如、巨大スクリーンに映しだされた、緑を基調とした、筋骨隆々のキャラクターが映し出された。そのとたん場内は激しい拍手に包まれた。
小林が両手を広げて場内を制すると、また静寂が戻った。
「そして、もうひとつこちらの方がより重要な問題だと認識して欲しいのだが。新規オーナー加入率を見てくれ。…どうだ?現時点で前年比9割に満たない水準にある。我々がいくら力を蓄えて、これから新天地に冒険に向おうとしても、船の漕ぎ手がおらんのじゃ話にならん。そこで、新たにキャンペーンを企画し、加入率の上昇を図ることとした。詳細は追って連絡する。以上だ。」
「起立!」小林の側近がそう号令すると、会場内の人間は一斉に立ち上がった。
「ファイブマート!5つのM。唱和!」
「まっさき!まっすぐ!まとまり!まごころ!まいしん!」
「まっさき!まっすぐ!まとまり!まごころ!まいしん!」
「まっさき!まっすぐ!まとまり!まごころ!まいしん!」