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アルバイター
0.バイトの無駄話

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アルバイター

この話はフィクションであり、実在する団体や個人とは一切関係ありません。

やられたらやり返す、○返しだ 半沢○樹

プロローグ

深夜2:00。コンビニエンスストアのファイブマートでは、アルバイトの若い男二人が、仕事の合間に会話をしている。
「宮崎速雄より過激な日本人作家って知ってるか?」
色白で太った男がそう言うと、童顔の男が答える。
「えっ・・?そもそも過激ですかね?」
「どれが一番好きだ?」
「えっ?」
「作品色々あるだろ?…天空の城ラヒュタやら、魔女のお宅便やら。」
「えーっと、トロロですかね。隣のトロロ。」
「いいねえ!俺もトロロは大好きだ!でよ、一番過激な作品は何だと思う?」
「過激さですか?うーん。風の谷のナウツカですかね。」
「なぜだ?なぜそう思う?」
「環境破壊しすぎると大地からしっぺ返しがくるぞって感じがしますよね。」
「まあ、そうなんだが、俺たち日本人にとって一番過激な作品。それは、千と千明の神隠しさ。」
「え?千と千明?まじですか?俺あれ、いまいちピンとこないんですよね。」
「そうだろうな。」
「え?」
「言ったらあれは、見る人間を選ぶ。」
「そうなんですか?」
「先ず神隠しにあって、両親がすぐ豚になるだろう?」
「ええなりますね。あそこから少しおいてけぼりになりますね。」
「あれはなほとんどの日本人が神の存在する空間において欲望の衝動を抑えることのできない豚のような存在になっちまってるということの風刺になっている。」
「ええ?そうなんですか?」
「そうだ。だから先ずここで見る人間を選ぶ。ここの理解を得られない人間は置いていかれる。なぜだと思う?」
「うーん。自分の事を豚とは思ってないから?」
「そうだ!自分自身含めて、身の回りの人間が全て豚だと思える奴はそう多くない。すんなり、自戒の念をもってまあ俺達豚だよなと思える人間しか納得して先にすすめない!わかるか?」
「ええ・・・うーん。なんとなくは。」
「すげえよな。・・・何がすげえってその切り捨て方だよ。初めて鑑賞する人間の9割以上はついて行けねえ。そんな連中についてこれなくて結構だという監督のスタンス!」
「でも。観客動員すごかったですよね確か?口コミで見に行った人多いと思いますよ。」
「でだ!千明が名前を奪われて千になるよな?」
「ええ」
「あれはな。現代の日本人はほぼすべてあてはまるが、明確な価値観の対立を意味している。」
「価値観の対立?」
「ああ、先ず自然を頂点に考え、環境を頼りに生きていくことを最上の価値と捉える自然人。もう一方は、自然を支配し、人がルールを決め、人の生み出す、価値によってすべてが判断される世界に生きる社会人。神隠しの空間では千と千明という名前の区別で明確にこの二つを線引きする。・・・でだ、名前を強制的に奪い社会人として千を支配しているボスは誰だ?」
「お湯ーバ?」
「そうお湯ーバだ。お湯ーバは社会人を支配下に置いているが、何をモチベーションにそんな事をする?」
「お坊ですかね?」
「そうお坊だ!お坊は未熟で、自らの欲望だけ満たす事にしか興味のない子供だ。そこでこの社会の本質はある特定の人間の欲望を満たす為だけに設計された、作為的で不平等なものだということを表している!」
「なるほど…。」
「それで千はそのことに気づいているかと言えばどうだ?」
「いや親を守ろうと必死で…。」
「そうだ、必死で前を向いて働くしかなくなっちまってる。なんとか豚になっちまってる
親を助けようと必死でな。」
「その…本か何かに書いてあったんですか?」
「今の分析か?俺の独自解釈だ。」
「本当に?」
「でだ。」
「まだ続くんですか?」
「ああ続くぞ。サクの名前を千明が思い出すとサクがお湯ーバから解放されるだろう?あれは、千明自身が、失っていた自然人としての自分。人が支配する世界から、自然が支配する世界への回帰を表現している。あの風呂屋での出来事はすべて千明自身の生き方の方向性を決定するものなんだよ。そして、そういう生き方をするってことは現在のあらゆる現行の社会制度を否定して生きていくということにつながる。以前の生き方をする大人を豚として断じていることの意味がここで分かってくる。じゃー具体的にどうすれば社会人が新たに自然人として生きていけばいいのか?そこまで説明されてはいない。だが見えてくるのは、自然の中で生きる術を失ったり知らなかったりする俺たち現代人は不自然であり、人間未満であり、いびつな存在だってことだ。だからこう考えることもできる。サクの本当の名前を思い出すっていうのは自然で生きる術を再度身につけるってことなんじゃねえのかってな。」
「そんな意味があるんですか本当に?」
「でだ、やっと今の俺たちに戻ってくる。いま俺たちは何をしている?」
「普通にバイトをしていますね。」
「仮に客に対してミスっちまったら?」
「かなりまずいですね。」
「怒鳴られちまうよな?」
「はい。」
「必死で謝るよな。」
「はい。」
「だが、ちょっと待て。本当に謝る必要があるか?」
「えっ?」
「社会人として生きていく為に本当の名前を失った俺たちを否定して、自然に還れといっている、あの映画の思想を全肯定して受け止めるとしたら、社会の中で、タガの外れた横暴さを見せるお坊みたいな客と、そいつに喜ばれることをモチベーションにするお湯ーバみたいな経営陣に対して俺たちが日々へりくだる必要があるか?」
「いやでもそれだと、首になるし、生活に困るし、生きていけないですよ。」
「そう!現実は無理かもしれねえ。でもなそういうクソみてえな現実を認識させられて焦りを感じさせるって意味であの映画は究極に過激だと思わねえか?」

       

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