Neetel Inside 文芸新都
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アルバイター
12.今後の相談

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12.
 杉村が自宅に逃げ帰って、乱暴に部屋のカギを開けると、ちょうど今日子が料理を作っている最中であった。
「あーおかえり。もうご飯出来るよ。」
 杉村は呼びかけを無視すると、強引に今日子の体をまさぐりはじめた。
「ちょっ!おいっ!」
 杉村が今日子の制止を無視して乳房を揉みしだくと、今日子は「やめろ!」といい全力で杉村の顔面を殴りつけた。
 「痛って!顔殴るか普通?」
 「あんたが悪いんでしょ!ほらこれ持って行って!」と料理を手渡す今日子。
「…っち。」と舌打ちをしながらもそれに従う杉村。料理を居間に持っていくとまたキッチンに戻って来て今日子にたずねる。
「なあ、どうすればいいと思う?」
「また、なんか変な話?…うわっくさっ…え?これあんたの匂い?ちょっ…先にお風呂入ったら?何か汗と変な体臭が混じってて、すごい臭い!」
「はぁ?…わかったし。」
杉村は物事をうまく進められない事に、調子が外れてしまい、おとなしくシャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びて戻ってくると、今日子は海外ドラマを見ながら一人先に料理を食べ始めていた。
「ねえ。ご飯作ってえらい?」
「うん…。」
「うん?」不満げな表情で問い直す今日子。
「うん。えらいえらい。」とぶっきらぼうに答える杉村。
「もっとちゃんと褒めて!」
「うん…。」と少し黙った杉村だったが、調子を高めると子供をあやすように。「えらいですね~。よしよし~。妖精さん。えらいよ~。お~よしよし。」と今日子の頭を撫でながら褒め始めた。
「ふふん!まあね!」と今日子は大げさに得意げな答え方をした。それから思い出したかのように「あっコップ。」と言った。
「うん。」と答えてキッチンからコップを持ってくる杉村。
杉村はそれから料理を一緒に食べ始めたのだが、今日起こった出来事がどうニュースになっているのかが、気になり始めた。
「ねえちょっとだけチャンネル変えていい?」
「え~。」
「ちょっとだけ。」そう言うと強引にチャンネルを変える杉村。経済情報番組にチャンネルを変えると、ちょうど女性アナウンサーが気になる原稿を読んでいた。
「続きまして企業の新しい試みを紹介するブームエッグのコーナーです。今日都内10店舗で煙によるイタズラが発生したあの企業、何やらユニークな試みをするそうです。」
続いてVTRに移ると、女性レポーターが取材でファイブマート本社に訪れており、「新しい試みその気になる内容とは?」と本社社員にインタビューを行っている。
「今回、弊社ファイブマートでは、若年層のご夫婦を対象と致しまして元手の全く必要ない新しいオーナー加盟プランをご用意致しました。つきまして、その新しい制度のモデルケースと致しまして1組様限定で体験モニターを募集致します。」
 インタビューが終わり、画面が切り替わると、グラフを交えて番組のナレーションが解説を始めた。
「近年。コンビニ業界では熾烈な出店競争が繰り広げられ、オーナー希望者の獲得が新たな課題として持ちあがっていた。従来は、ある程度の金融資産を保有する人だけを対象に加盟店の募集をしていたのが、新たに若年層夫婦を取り込むことによって加盟店舗数の増加を維持したいというのが企業側の狙いだ。以前であれば、加盟時にかかっていた出店料をゼロにし、3年間の店舗研修期間を経た後、企業が保証人となってオーナー希望者は出店料を金融機関からの借り入れを行う。出店料を15年かけて返済しながらコンビニ経営を行っていくことを前提としたこのプラン。はたして出店競争の強力な武器になるのか。各社が注目している。」
解説が終わると、再度ファイブマート社員にカメラが切り替わり、
「モニターキャンペーンの中身なのですが、30歳以下のペア、1組様限定で年収2000万を完全補償致しまして…」
「2000万だって!」と今日子は驚きの声を上げる。
「しっうるさい。」と杉村は真剣な表情で番組の続きを見続ける。
「…1年間限定勤務ということで募集致します。厳正な審査を行いまして、優勝されたペアの方には賞品と致しまして、弊社会長の小林より記念楯の贈呈。副賞と致しまして国産高級車と賞金500万円、ペアの世界旅行券を進呈致します。」
「2000万ですか!」女性レポーターが興奮してたずねる。
「はい!」
「それで気になる日程はどのように?」
「はい来年の4月1日に最終選考会を行う予定となっております。詳細につきましてはホームページ上に詳しい日程と応募方法を掲載させていただきますので、是非皆様ご応募お待ちしております。」
「本日のブームエッグでした。」コーナーが終わると番組はCMに入った。
「これブームでも何でもないね。」今日子は冷めた視点でつぶやく。
「うん。」
「いいなー旅行か。」
「何?行きたいの?」
「うん。」
「じゃー目指す?」
「えー、でもどうせ途中で止めたとか言うんでしょ?」
「いや。」
今日子は含んでいた水を噴き出して、あははと笑い始めた。
「汚ねえよ。」
「だってさ、モニターって広告塔なんだから、会社だって人選ぶでしょ。」と言うと笑い続ける。
「はあ?」
「鏡見てみ、豚さんがいるよ。」
ちょうど杉村の座っている位置から、姿見で自分の姿を見ることができる。杉村は自らの姿を確認すると、自嘲気味に「ブヒー。」と鳴いてみせた。
今日子は笑い続けながら、「それに、裕はしゃべり方が幼いし、もっと口調のしっかりした人が選ばれると思うよ?」と言うと、
「しゃべり方が幼いのは甘ったれた生活を続けてしまったからだし。」と杉村は反論した。
「だから、そんな人受からないって。ちゃんと前職、勤め続けてた人選ぶでしょ絶対。」
杉村は財布から名刺を取り出す。
「誰の?それ。」
「俺の。未来の俺の。」

       

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