Neetel Inside ニートノベル
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 「ご主人様と満月さんって、こっちの人じゃありませんよね?」
 「ん、まあな。日本人だ」
 満月に一回マルカに一回出して休憩中のハルに、マルカは裸のまま問いかける。
 「でもロシア語お上手ですよね、二人とも」
 「俺はじーちゃんがこっちに住んでたからな。元から少しは喋れた。ま、ほとんど満月から教わったんだが。
 満月は完全に独学。ってか俺より早く覚えてたんだよな、こっち来る時に」
 「はい、必要になるかと思いまして」
 ハルの言葉に満月が頷く。
 「俺は晴れるって書いてハルなんだが、満月は実は本名じゃなかったりする」
 「え? そうなんですか?」
 「おう。まんこにけつで満月だ」
 「本当なら殴りますよ。冗談でも殴ります」
 「嘘ですごめんなさい」
 女性に付ける名前としてこれ以上なく酷い理由に、満月を好きなマルカは一発で激怒する。
 その握られた拳が振るわれる前に、満月が掌で包んで制止した。
 「マルカ、おやめなさい。ちょっとしたジョークですよ。笑うところです」
 と言いつつも全く笑ってない満月の顔を見て、マルカはうーと低く唸る。
 そして両手を前に出して身構えていたハルに、侮蔑混じりの視線を向けた。
 「……で、本当は何でですか?」
 「マルカちゃん怖い……いや、深い理由は無いぞ。本名と正反対にしただけだし」
 そうなんですか、と見るマルカに再び満月は頷く。
 「ええ。私の元の名は新月です。満月とは私が今の私になった際にご主人様からお授かりした、メイドとしての名前。
 私がご主人様に仕える限り、私は誇りあるこの名しか使いません。
 あと私は下半身だけが服を着て歩いているような存在なので、そっちの意味でも間違ってはいないと思われます」
 「間違ってますよ! それにおっぱいもあるじゃないですか!!」
 「え、そこ?」
 満月へのツッコミにツッコミを入れるハル。
 見ればマルカは満月の胸に顔を埋めている。相当気に入った様子だった。
 「満月さんー……」
 「あらあら、マルカは甘えん坊ですね」
 「……」
 主人を差し置いていちゃつくメイド二人にハルは危機感を覚えた。
 満月が自分を嫌いになる事や寝取られる事は絶対にあり得ない。断言できる。
 逆にどうやったらこいつを寝取れるのか教えて欲しいくらいの安心感である。
 だがマルカは違う。
 男達に何回も犯されてきた過去を持っている事から、男性そのものに少なからず嫌悪感を抱いているだろう。
 その上に頼れて甘えられて優しい姉のような存在が出来ようものなら、同性愛者になるのもおかしい話ではない。
 これから先、もしかしたらマルカは満月のみに懐き、自分の事は潰れた虫でも眺めるかのような目で見続けるかもしれないのだ。
 「それはいかん……それはいかんぞ……!」
 自分に惚れるなと言った優しさは何だったのか、ハルは満月に抱きついているマルカの背に手をやる。
 「ひゃっ」
 「げへへ、マルカの姉御。どこか揉みほぐす所はございやせんか」
 下品な下っ端キャラを演じつつマッサージに取り掛かろうとするハル。
 一応これでも彼女の好感を得るつもりではあった。が。
 「邪魔しないで下さい」
 「ごめんなさい」
 一蹴。
 満月に夢中になっているマルカにとって、ハルはもはや邪魔者扱いだった。
 「んー……満月さん……」
 恍惚の表情で乳首に吸い付くマルカ。
 満月はどうしたものかとハルに視線を向ける。
 「……」
 ハルはいぢけていた。
 全裸のまま体育座りになり指先でシーツを弄っているだけの存在へと成り下がっていた。
 忘れがちだが一応、彼はこの館の主人であり、絶対権力者である。
 満月は心を鬼にして、マルカを引き離す。
 自分は確かにロリコンだ。しかしそれはあくまで自分の趣味。ハルと言う存在意義より大切なものではない。
 「満月さん……?」
 目をぱちくりさせる少女に、満月は厳しく諭した。
 「マルカ、ご主人様をぞんざいに扱ってはいけません。あくまで貴女はご主人様に買われた身です。それを忘れていませんか」
 「う……」
 「おい満月、家族になるとか自由にしていいとか言っておいてそれを持ち出すのはちょっと……」
 少し言い出したい気持ちもあったけど、約束の手前言う事を憚られたそれを口にする満月にハルはやんわりと止めた。
 (いいのですご主人様、私はご主人様の為なら汚れ役も引き受けます)
 が、満月はハルの本心を理解していた。ハルはマルカに構われたくて仕方がないのだ。
 「確かにご主人様は好きに振る舞っていいとおっしゃいました。
 しかし、それはマルカの境遇を不憫に思ってのこと。本来なら性欲処理のためだけに買い取られたのです。
 その気になれば私に命令し、貴女を淫語しか喋れない肉便器二号にすることもできたのですよ。
 それを可能にしながら家族として扱おうとするご主人様の寛大なお心に、何か思うことは無いのですか?」
 (まあ元から家族が欲しかったから引き取ったんだけどな、マルカは)
 ハルは第一にその目的のために彼女を買ったので、満月の発言は微妙に筋違いではある。
 が、訂正するのも面倒だし満月も知っているはずなので、ここは放っておいた。
 「……ごめんなさい」
 しゅんとした顔で頭を垂れる、マルカ。
 「私に謝っても仕方ありません」
 「……申し訳ありません、ご主人様」
 「いや、まあ、そんな謝るような事でも……」
 「簡単に許してはいけません、ご主人様。恩を忘れるようなメイドには、罰を与えないと」
 珍しく自分からハルに物申す満月。
 彼女の企みは二つあった。
 一つは、マルカとセックスを含んだコミュニケーションを取りたいハルに対するトス。
 もう一つは、マルカが自分に甘えすぎてハルに構わなくならないように、適度に厳しい顔を見せる意図であった。
 マルカを甘やかしたくて仕方ない自分もいたが、それは二人の関係を無視して行う事では無い。
 満月にとって、ハルに比べればマルカすら些細な存在である。
 尤もハルに対する忠誠心が異次元なだけで、自分のことよりマルカを優先する程度には溺愛しているが。
 「罰……ですか」
 「そう、仲直りセックスです」
 「罰なのか仲直りなのかはっきりしろよ。って言うかそれが無理なんだって今現在」
 マルカの性器は大分良くなってはいたが、全快まではまだ少し足りない。
 今無理矢理に挿入でもしたら、また傷が開いてしまうだろう。
 当然、それを知らない満月では無かった。
 「おまんこは使いません。マルカ、お尻の穴の経験は?」
 「う」
 マルカは返答に窮する。
 いつかは聞かれると思っていたが、やはり答えなくてはならないのだろうか。
 両手の指を合わせてもじもじしながら、やがて小さく答えた。
 「……あります、けど」
 「では問題ないですね」
 「大アリだよ!!!」
 ハルが叫ぶ。
 「まだまともにセックスもしてないのにいきなりアナルとか順番飛びすぎだろ! お前と一緒にすんな!!」
 「これなら罰にもなる上にご主人様も気持ちよくなられて一石二鳥かと」
 「俺は調教に段階踏みたいの! 再会した時に既に自分の手で開発済みだった誰かの二の舞じゃねーか!
 って言うかマルカのアナルセックスはおめーが見たいだけだろ!!」
 「そのような事は………………」
 無い、とは言わなかった。
 「あるんだな」
 「……申し訳ございません」
 深々と頭を下げる満月。
 極僅かとは言え、私情を挟んだ事について深く反省する。
 「マルカ、お前は俺が一番変態だと思ってるだろうが、実のところ一番イッちゃってるのは満月だ。気をつけろ」
 「私も薄々そうじゃないかなーとは思っていました」
 ヒソヒソと喋る二人の視線に晒されながらも、満月は充実感のようなものを感じていた。
 (これでいいのです……私が悪者になって二人が仲良くなるなら、これで……)
 「そして今の顔は自分が犠牲になって二人が仲良くなればいいと思ってる」
 「不器用な人ですね」
 「全くだ。完璧メイドが聞いて呆れる」
 へっ、と笑うハルを見ながら、マルカも微笑む。
 (……不器用なのはご主人様もですけどね)
  

       

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