「ふむ」
 内視鏡の映像を見て、女医は言葉を漏らした。
 歳は二十代後半、ふんわりとした茶髪を編みこみカチューシャに纏めた、細い眼鏡の奥の目つきが悪い……もとい、鋭い女性である。
 ハルに拾われた時は、満月も彼女と大差ない冷徹そうな人物に見えた。もちろん、今ではそんな印象は全く無い。
 なので尚更、常に不機嫌そうな彼女の事がマルカは苦手だった。
 「見た目にはもう大丈夫そうだ。指を入れるぞ」
 「はい」
 内視鏡を抜き取り、手袋を付けた右手でマルカの膣を触診し始める。
 「痛いか?」
 「いえ、痛くないです」
 「気持ちいいんですよね、マルカ」
 「淫売は黙ってろ」
 緊張をほぐそうとした満月の冗談を、女医は不快そうに切り捨てた。
 「満月さん、お願いだからお外でそう言う事は言わないで下さい」
 屋敷のノリを持ち出す満月にマルカは恥ずかしそうに俯く。
 「ここは?」
 「痛くないです」
 触診が続く中で黙ってろと言われた満月は、
 
 『へっへっへ、嬢ちゃんここか、ここがええのんか』
 『ああっ……ヴェラ先生……そんなところを弄ったら頭が変になっちゃいます……』
 『うーむ、これは重症やな……しゃあない、私特製のぶっとい注射をぶすっとと打ち込んでやるさかい、大人しくしとれよ……』
 
 と何故か関西弁を喋る女医とマルカの痴態を無表情のままで妄想していた。
 「……嫌な視線を感じる」
 「へ?」
 「何でもない。よし、問題ないだろう。膣道はもう大丈夫だ」
 「本当ですか!?」
 ヴェラは指を抜き取り、マルカの性器を丁寧に拭った。
 手袋を外し、眼鏡をくいと上げる。
 「ああ。セックスでもスカルファックでも勝手にしろ。私は金さえ貰えればそれで構わない。あの頭に海綿体が詰まった変態ペド野郎やそこの気狂い淫乱サイボーグ肉便器が幼い少女をどうしようと私の知ったことではない」
 右手で雑に診断書を書き殴りながら、ヴェラは左手で引き出しを開けて請求書を取り出し丁寧に数字を綴る。
 ほとんど応急処置の様子見にも関わらず、診察料は他の病院と桁が二つ違った。
 取れる奴からは取る、が彼女の信条である。
 それに満月はバッグの中からポンと札束を置いて答えた。
 「バカの金持ちはふっかけても払うから便利だ。是非定期検診をおすすめするよ」
 本人の前で堂々と言い放ち、ヴェラは札束を懐にしまい込む。
 「あ、ありがとうございました……」
 「ああ、いつでも来い。金ならそこのATMから巻き上げるから怪我したらすぐ来い」
 「ありがとうございました、ヴェラ先生」
 満月の尊敬礼を無視して、ヴェラは思い出したかのように付け足した。
 「そうそう、なんなら性器の整形手術もしてやるぞ。まるで生娘のように整えてやることも……」
 「本当ですかっ!?」
 その言葉に、マルカは大きく反応を見せた。
 座ったままのヴェラに駆け寄り、縋るように跪く。
 「私の身体を……綺麗にすることができるんですか……?」
 「……!」
 マルカの必死な態度に、満月は僅かに動揺を見せる。
 自分もハルも気にしていないし、気にすることはないと彼女を励ました。
 それを聞いたマルカは恥ずかしがりながらも安心したように笑っていた。
 (あの男と女の件と言い、マルカは……)
 大丈夫な素振りを見せても、心の中では靄を抱え込んでいる。
 それを見抜けなかった自分が。心底から安心させてやれなかった自分が。
 不甲斐なく、思えた。
 「身体を綺麗に、か……。医者泣かせな台詞だ。まあ、外面はできる。外性器から内性器まで新品同様にな。だが、中身は専門外だ」
 「中身……?」
 よくわからなそうにするマルカの額と胸を、ヴェラは順につつく。
 「記憶と、心だ。お前が過去にどんな事をされたかは決して忘れる事はできない。
 例え見た目が無垢だった頃に戻っても、お前の身体に深く刻まれた傷跡は消えることはない。絶対に、だ」
 「……」
 少しづつ。ハルと満月……家族と一緒に過ごすことで、昔の出来事を思い出すことも減っていった。
 ハルの腕に優しく抱かれれば、男の裸に対する恐怖感も和らいでいった。
 満月の柔らかい身体に包まれて眠れば、悪夢を見ることも全くと言っていいほど無くなった。
 それでも。一人になるとふと思い出す。性欲を満たす物として扱われ、人としての尊厳を奪われ続けた日々を。
 血の繋がった両親に、金蔓としてしか見られてなかった事を。
 自分でも、理解していた。
 この闇が自分の中から綺麗に消失する事は、決してないだろうと。
 「そこを履き違えるな。私は外科専門ながらその気になれば内科や臨床心理士の真似事もできる天才医師だが、神様ではない。
 それをよく理解した上で望むのなら、そこの淫売にでもねだるんだな。高いクリスマスプレゼントを」
 「わかりました」
 返事をしたのはマルカではなかった。
 「マルカの気持ちが少しでも楽になるのなら金など惜しみません。好きな額を書き込んで下さい」
 バッグにしまった請求書を取り出し、机に叩きつける満月。
 「満月さん……」
 姉は本気の目をしていた。
 主人のものである財産を使う事に一切の躊躇を持っていなかった。
 当然である。
 ハルだって、ここにいれば同じ事をしている。
 「たまには良いことを言うじゃないか……淫売」
 ヴェラは口端を僅かに歪ませて、請求書にさらりと桁を書き加えた。
 日本円にして、五億の大金である。
 「それが聞きたかった」



 「……で、手術か。あの先生ホントブラックジャック好きな。未収録話のやつ借りパクされたし」
 「申し訳ございませんご主人様。許可も取らずに勝手な事をしてしまいました」
 「なんて悪いメイドだ。たっぷり罰を与えてやらんとな」
 「ああ……お許しくださいませ……」
 こんなやりとりも久しぶりである。
 マルカがいない間、二人は久しぶりに若干アブノーマルなプレイに勤しんでいた。
 「いくつ入ったっけ、最高で」
 「用意してあった1パック分は割らずに膣内に収まりました。子宮も使えばあと2,3個は入れられたかと」
 「やっぱお前ちょっと現実離れしてるわ」
 殻を剥いた茹で卵。元々は雌鳥から産まれたそれが、今人間の女性……寝転がって足を開いた満月の膣へとつるんと飲み込まれていく。
 ほとんど抵抗もなく、滑らかな曲線を持つそれが押し込まれ、雌の内部を圧迫する。
 「今日は3個しかなかったから新記録挑戦はできねーな。ま、手術の成功祝いに三人で食うか」
 「マルカには伝えない方がよろしいでしょうか?」
 「後から知って変なトラウマ植え付けてもアレだしな。産む所をじっくり見せてやろう。きゃーきゃー言うぞきっと」
 卵3つが収まった満月の下腹部は微妙に膨らみ、異物が挿入されている事を外見から伺える。
 その膨らみを、ハルが指の平で撫で上げた。
 「あっ……」
 「じゃ、たっぷり味付けしてくれよ。美味くなるように」
 「承知、致しました……」
 満月曰く、乱暴に扱っても構わない……流石に実際したことはないが、腹を本気で殴っても卵を割らないらしい。
 つまり。尻穴を穿った程度では品質上に全く問題無いと言うことだ。
 むしろ塩分が染みこんで深みのある味が出る事だろう。
 早速ハルは夕食の仕込みを始めた。