「結婚かー。あたしにゃ縁がなさそーだ」
 ソフィアはマルカのベッドにだらしなく仰向けになり、淵から首を投げ出して重力に任せるようにしながら呟いた。
 膝を立てて寝ているものだから、短いスカートからは下着が丸見えのはしたない姿である。
 「ソフィアちゃんもすぐいい人が見つかるよ。美人なんだから」
 「せんぱいはいーよな。だんなはアホで変態でロリコンで出不精でアナルと小便が大好きなキモ野郎だって事を除けば言うことなしの金持ちイケメンだもんな。あと男を掘った後は自分のケツを掘らせるホモ野郎で」
 「ソフィアちゃん、なんで結婚を申し込んだのかわからなくなりそうだからそれくらいにしておいて」
 「へいへい」
 改めて事実を羅列されると、ハルは相当どうしようもない人物に思える。
 いつも満月が賛美の言葉しか言わないから、尚更だった。
 だが、マルカはハルの良い所を、満月に負けないくらい知っている。
 何だかんだと言うソフィアとて、彼が嫌いだったら館に居着いていないだろう。
 結局のところ、彼が本人自身を何と言おうと、法律的にどんな問題があろうと。
 マルカにとって、満月にとって、ソフィアにとって。
 ハルは恩人であり、愛すべき人物なのだ。
 「ま、いいや。せんぱい達が結婚した所で大して生活は変わらなそうだしね。だんなのちんぽも結構気に入ってるし、まだしばらくは寄生させてもらうわ」
 金髪をふわりと靡かせ、起き上がるソフィア。
 「……うん」
 嬉しそうに言うマルカ。
 すっかり身長は追い越されてしまったものの、ソフィアは唯一の後輩であり、最初の友達であり、可愛い妹である。
 できるなら、ずっとここにいて欲しい。そう思っている。
 「でもだんなと結婚したら、せんぱいの事何て呼べばいーんだ? おくさん? よめさん?」
 「別に、そのままでもいいと思うけど……」
 ばたーん。
 「『若奥様』か『マルカ様』が適切だと思われます」
 突然扉を開き何食わぬ顔で会話に乱入してきた満月に、ソフィアは苦い顔を浮かべる。
 面倒なのが入ってきやがった。明らかに表情がそう言っていた。
 「満月さん!? ……そんな、今まで通りでいいですよ。奥様なんて柄じゃないですもん」
 「いいえ、マルカ様は今日から私共の仕えるべきお方の一人。ご主人様と並んで忠誠を誓い致します」
 「私共、って言われてもあたしは誓わないけど」
 「ソフィア、後で地下室に来なさい」
 「うぇ!? や、やだよ! 拷問室だろあそこ!」
 「人聞きの悪い事をいうものではありません。おしおきにお尻クチュクチュするだけです」
 「それを一般的に拷問って言うんだよ!!」
 「ま、まあまあ、いいじゃないですか満月さん。そんなに堅苦しくされる方が嫌ですよ……満月さんはお姉ちゃんなんですから」
 と、マルカが宥めると満月の目つきも和らぎ、ソフィアの震えも収まった。
 「そうですか。ではこれまで通り、マルカ、とお呼びしますね……命拾いしましたね、ソフィア」
 「た、助かった……。また犯される所だった……」
 過去に何度も尻穴を弄くられたソフィアはほっとして臀部をさする。
 満月の事は嫌いではない、むしろある意味では大好きなのだが……彼女の口うるささと、おしおきと称するレズレイプには辟易していた。
 「この間は手首が入ったので、今日は両手でお尻の中をこねて差し上げようかと思いましたが」
 「あーうるさい! その話はもういいだろ!!」
 顔を真っ赤にして怒鳴るソフィアを見て、マルカはつい笑みを零してしまった。
 うーと低く唸る彼女の頭を撫でて、満月へ顔を向ける。
 「満月さん。満月さんは、幸せですか?」
 突然の質問。少々面食らったが、満月は優しく微笑んで答えた。
 いつものように、優しく。
 「はい。とても幸せです」
 「本当の本当に、幸せですか? ……ご主人様を私に奪われて、二人が小さい頃のような関係に、戻ることができなくて……」
 「はい。これ以上なく、幸せです」
 徐々に顔を伏せるマルカに対し、満月はきっぱりと、そう言い切った。
 「マルカ、実を言うとですね。ご主人様と私の関係は――幼少時から変わっているようで、本当は何も変わっていないのです。
 表面的な主従関係ではなく、もっと奥の、奥の、奥……一番の根本では、私達はお互い相手を思いやって、支え合って生きてきました。
 そこは、マルカがご主人様と結婚して変化が生まれたりはしません。強いて言うなら、二人とも同じくらい、マルカを思いやって、支えたくなっただけです。
 マルカはご主人様の一番の特別であり、私はご主人様の、また別の一番の特別です。だから奪われたなんて微塵も思ってません。それに」
 満月はゆっくりとマルカに歩み寄り、密着し、抱きしめて、唇同士を軽く触れさせた。
 「ご主人様は私の一番の特別で……マルカは、別の一番の特別です。マルカはどうですか?」
 「私も……満月さんのことも、どうしようもないほど大好きです。一番の、特別です」
 マルカの表情は晴れ、今度は自分から満月の唇を求めた。
 ハルの事を愛しても愛しても愛し足りないくらい思っているのと同様に、満月もまた、愛したくて愛したくて仕方のない存在である。
 この関係は、ずっと変わることはないだろう。

 「よかった。では今日は控室でたっぷりとNTRプレイをして差し上げますね。何度もイカせた後でローターを挿入し、式の最中はずっと付けていて貰います」
 「よくないですよ! て言うかそれ、いつものご主人様の仕込みですよね!? どうせ始まる前からご主人様がどこかで見てるんでしょ!?」
 「さあ、何のことやら」
 ……こう言う所も、恐らくはずっと変わらないだろう。
 「うっわ、レズキモいわー……」
 蚊帳の外であったソフィアが不快そうにポツリと零すと、満月は目にも止まらぬ速度でソフィアの背後に回りこみ、育ってきた胸を揉みしだいた。
 当然、半袖メイド服の袖からいつものように手を忍ばせて、下着の中へと侵入させた上で、だ。
 「ひゃわぁ! な、なんだよ突然!」
 「ソフィア。当然貴女にもプレイを手伝っていただきますよ」
 「は!? な、何であたしが! も、揉むな、絞るな!! 出ない出ない出ないって!!!」
 「嫌なら今から式が終わるまでずっと私のパペットにして差し上げますが」
 「恐ろしいこと言うな! わ、わかったよ! わかったから!」
 その言葉で解放され、息をぜーはーと吐くソフィア。
 「後で逃げ出したりしたら両手パペットの刑ですからね」
 「あ、悪魔め……せんぱいと扱いが違いすぎるだろ……」
 「だ、大丈夫? ソフィアちゃん……」
 「扱いを良くして欲しかったらもう少し普段の素行を良くする事ですね」
 無論満月も、ソフィアの事を深く愛している。さしずめ手のかかる娘と言った感覚であった。
 ソフィアの方も、ある意味では満月を一番愛している。そうでなければ、出て行ってやると飛びだして結局戻ってくる事を何度も繰り返したりしないだろう。
 結局のところ、ハルも満月もマルカもソフィアも、家族の一員なのだ。


 「おーいそろそろ支度しろー。遅れるぞー」
 そう言ってのそのそとやってきたのはハルだった。
 いくつになっても変わらない出不精だったが、今日は身だしなみくらいは整えていた。
 「満月、ローターはちゃんと持ったか? ソフィア、寝てないでとっとと服着替えてこい。マルカは……大丈夫そうだな」
 「はい、ここに」
 ブブブブブ。
 「どこに入れてるんですか! って言うかやっぱりご主人様の仕込みじゃないですか!!」
 「さーて、何のことやら」
 「おかしなマルカですね」
 すっとぼけるハルと満月。
 「あーい……」
 ソフィアはむくりと起き上がり、ゾンビのような足取りで自分の部屋へ戻っていった。
 「二人は車で行くからいいとして、俺達はもう出ないと遅刻だぞ。ほら立てマルカ、荷物持て」
 「え?」
 手を取り引っ張りあげるハルに、マルカは疑問符を浮かべる。
 「二人は車で、って……私達は何で向かうんですか?」
 「そりゃ、お前、あの時すっかり忘れてたものだよ」
 「???」
 部屋から出て、廊下を渡り、階段を降り、リビングを横切って玄関に向かう。
 靴を履き替えて外に出ると、空は二人を祝福するかのように澄み切っていた。
 日差しが反射して、白い毛並みに艶が出ている。それは玄関先で行儀よく、二人を直立不動で待っていた。

 
 「…………うま…………?」
 「馬」

 そう。
 この日のために借りてきた、式典用の装飾をした立派な白馬が、そこに四足で佇んでいる。
 よく訓練されているようで、ハルが騎乗しようとしても全く動くことがなかった。
 「ほら、王子様になってやった時あったろ? あの時すっかり忘れてたんだよ、白馬に乗ってくるの。まあ室内だから覚えててもちょっとキツかったんだけどさ」
 そう言って、ハルはマルカに上から手を伸ばす。
 マルカはハルが足を外した鐙に体重を乗せ、えいやっと飛び乗るように上がった。
 「う、うわすごい、生きてる。初めて馬なんて乗った……」
 「まあそりゃ生きてるだろーよ。じゃ頼むわファル公」
 名前を呼ばれた馬はゆっくりと動き始め、振動を伴って前へと進む。
 「え、こ、この子に乗って行くんですか!?」
 「おう。しっかり掴まってないと落ちるぞ」
 「えー!?」
 困惑の叫びを上げるマルカ。
 その顔は、不安感と心の底から沸き上がる期待で複雑な笑顔になっていた。
 「お前が言ったんだろ、甘い夢を見させて下さいって。馬から降りたら教会までお姫様抱っこしてやるから楽しみにしてろ。よしファル公ダッシュだ! ヘイストだ!」
 「わ、わたしもうそんな歳じゃないですよー! 速い! 怖いー!!」
 興奮したのは、手綱を引かれてスピードを上げる馬のせいか。それともハルの言葉のせいか。
 全くわからないまま。
 マルカは高鳴る鼓動の行き場を求めて、愛する人の背中をぎゅっと強く抱きしめた。



 (完)