Neetel Inside ニートノベル
表紙

とれしょ
TITI'Sキッチン(短編連作)

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 「グロウ様! 緊急事態です!」
 「……何だ」
 寝返りを打ち、心底面倒くさそうに答えるグロウ。
 本当に緊急事態ならティティは静かに報告するので、またどうでもいい事だろう。
 どうせ「まだやりたりないんですセクりましょうパコりましょう!」とか言い出すに違いない。
 グロウとティティ。両者共に性欲は強いが、グロウは一旦性行為に及ぶと激しいタイプで、ティティは年がら年中発情してるタイプだ。
 性の不一致とまではいかないが、その奥ゆかしさの欠片もない性格もあって正直ウザい気持ちはあった。
 「M度が限界値に達したのでリョナられないと死んじゃう身体になりました!! 時系列すら無視して!!」
 「りょなら……?」
 「猟奇的に痛めつけられないと、って事です! ハァド拷問です! 骨を折ったり! 四肢を欠損したり!おもつとかおみそとかはみ出たり! スプラッタすぎてギャグの領域みたいなグロ画像状態にならないとおかしくなっちゃいますっ!」
 (……出会ったその日から既におかしかったが)
 顔を真っ赤にして股をこすり合わせながら、常人には理解不能な性癖を並べるティティ。
 「……妖精の世界には病院は無いのか」
 「そんなもんありません! 基本的に魔法でなんとかなるので!」
 「お前の頭をまともにする魔法は?」
 「し、失礼ですね! 私ゃこれでも大真面目に言ってるんですよ! 仕方ないでしょマゾなんだから!! オンリーワンの個性です!!!」
 確かに類を見ない被虐体質だが、胸を張って言う事ではない。
 「……お前はもう、人間に虐げられていた方が幸せだったんじゃないのか?」
 「そんなわけありません、グロウ様以外に陵辱なんて食らったらティティちゃんぶちギレ金剛ですよ。最愛の人から受ける愛の篭ったオーバード暴力こそ私の疼きを止められるのです」
 「ずいぶん歪んだ愛だな。お前を虐めるのは楽しいが限度と言うものがある。悪いが骨を折ったりするのは一人でやってくれ」
 「なぁんでですかー! こんな愛くるしくか弱い妖精を前にしてハァド拷問しないとかグロウ様どんだけチキンなんですか!!
 本人公認で犯し放題壊し放題、血みどろガチゴアエログロパーティーの始まりですよ!? 普通やるでしょ!! やろうぜ!? 行くしかねぇぜ!?!?」
 「行かん」
 再び寝返りを打ち、顔を背けるグロウ。
 愛しているお前にそんな酷い事できるか、などとは口が裂けても言えなかった。
 「グロウ様ぁ……」
 ティティがグロウの身体を揺すって懇願する。
 「私の性癖がいっちゃってるのは承知です。でも、どうしても自分じゃどうにもできないのです。苦しいんですよ、とっても。
 胸が張り裂けそうで……お願いします、少しだけでも付き合って下さいよぅ」
 涙声になりながらも訴えかけるティティ。
 肩越しにちらと見ると、親とはぐれた迷子のような顔で必死に背中に張り付いている。
 その小さい体躯も相まって、つい哀れに思ってしまった。
 深い溜息を吐き出し、グロウは身体を起こした。
 「……少しだけだぞ」
 ティティの顔がぱぁと明るくなる。
 「本当ですか!? グロウ様大好きです! 一生ついていきますよ!!」
 (……)
 笑顔でそう言う姿が好きだからこそ、傷めつけたくはないのだが。
 そんなグロウの心境など知らずに、ティティは早速いつものように一糸纏わぬ姿へとなった。

 
 「と言うわけでTITI'Sキッチンのお時間です。材料は私、愛でてよし食べてよしの万能食材、空飛ぶチャーミングお肉ことティティちゃんです」
 「待て」
 「待ちません。シェフはこの方、和食はもちろん洋食やデザート、郷土料理にも造詣が深い万能コックのワダツミちゃんにお越しいただきました」
 「どーもでござる…………」
 割烹着姿のワダツミの目は虚ろだった。
 眠ってる隙にティティが適当な魔法をかけたのだろう。ふーらふーらと揺れている。
 「……ワダツミの事はこの際いいとしよう。何で食う前提なんだ」
 「どうせグロウ様は私相手だと手加減してしまって大した事ができません。しかし料理として出されれば食べぬわけにもいかない! 完璧な作戦です!」
 食べないと言う選択肢は頭に無いらしい。
 「……食うのはともかく料理するのはワダツミになるわけだが」
 「今回は私も我慢します。大丈夫、私の指示で調理するんですからオナニーの延長みたいなもんです」
 「…………そもそもの話、正直食いたくないんだが」
 「だまらっしゃってください! 好き嫌いしてたら大きくなれませんよ!」
 (……俺は子供か)
 「では行きましょう、第一の料理はこちら!」

 ◯生でそのまま
 「料理ですらない」
 皿の上で大の字に寝転ぶティティを見てグロウはワダツミの必要性に疑問を覚える。
 「素材の味を100%生かした定番メニューです! 丸かじりでも丸呑みでも、好きなようにどうぞ!」
 (どうぞ、と言われても)
 股を粘液で淡く光らせ、ティティはバンバンと皿を叩いて急かしている。
 仕方なくひょいと摘み上げる。と、彼女は期待に目を輝かせ始めた。
 (……黙っていれば美少女なのだが)
 黙っていなければ煩わしい異常性癖妖精である。グロウは今更ながら顔とシチュエーションに釣られて将来を誓い合った事に対し、もっとよく考えるべきだったかと若干後悔にふける。
 食べて食べてと顔が言っているが、いざ口に近づけるとやはり躊躇してしまう。
 「美味しいですよ?」
 上目遣いで甘えるティティ。
 「……美味いかどうかはさほど問題じゃない」
 そもそも、人の形をした生物をまともな感性で食えるかと言う話だ。
 「ちっ、やっぱりそのままじゃ駄目か。わかりましたよ、降ろして下さい」
 「その口ぶりからすると全然わかってなさそうなんだが」
 「まあ任せて下さい、被虐にかけては他の追随を許さない天才っぷりを見せる、このティティちゃんに!」
 (……不安しかない)
 「第二の料理はこちらです!!」

 ◯ティティ丼
 「……………………………………………………………………」
 白米がたっぷり乗っかった丼の上で熱い熱いと言いながらもしたり顔でこちらを見つめる妖精を前に、
 いっそこのまま口を噤んで生きていこうか、とすらグロウは思った。
 「どうですか! あまりの芸術食品っぷりに声も出ないでしょ!!」
 「……ワダツミ、お前の故郷まで案内してくれ。俺で良ければ、共に暮ら」
 「ウェイトウェイトウェイトウェイト!! ウェイトですグロウ様!! ルート変更しようとしないで! 逃がしませんよ! 逃げないで! お願い!!」
 丼の上から跳び立ち、必死にグロウの肩を揺する。
 「どこかおかしかったですか?」
 「……どこか正しかったのか?」
 もはや交わらない二人の思考に、ティティは危機感を覚えた。
 出番が無くて立ったまま鼻ちょうちんを膨らますワダツミを突き、命令を下す。
 「申し訳ございません、グロウ様は生食は好みでないのですね。しかしご安心を、これからはしっかり火を通してお出ししますから!」
 「いや、そう言うわけでは……」
 返事を効かずにテキパキと準備を始めるティティを眺めて、グロウは思考を放棄した。
 (……もうどうでもいい)
 

 ◯ティティステーキ
 そして用意されたるは、小さな鉄板とそれ用の火鉢。
 鉄板の上では油が鈍く光り、下ではパチパチと炭が焼けている音が響く。既に熱されているそれを前に、ティティが佇んでいた。
 「……待て。ティティ、それは冗談では済まされない苦痛だぞ」
 「承知の上です。このティティ、グロウ様に食べられるためなら焼けた鉄の上でのたうち回ることすら厭いません」
 そして一歩を踏み出す。
 「あ゛ぁぁっつっ!!」
 戻した。
 「…………」
 「……今のはノーカンです。やはり自分の意志で飛び込むのは難しいですね……ワダツミちゃん!」
 指パッチンと共に、ワダツミの手がティティの光る羽根を掴み、ぺきんとへし折る。
 「んっ……」
 ティティの身体に直に繋がっているわけではないものの、魔力で生成された身体の一部だ。破損すれば、それ相応のダメージを負う。
 そしてこれから来る痛みは、それの比ではない。
 「これから十分間、止めろって私が言っても止めちゃ駄目だよ……」
 ワダツミはこくりと頷き、ティティの両足に手をかけた。
 「おい、何を……」
 グロウが言いかけた直後、細枝を二本纏めて折ったような軽い音が部屋に響いた。
 「~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」
 何の音かは、言うまでも無かった。
 羽根をむしられ足を砕かれた妖精はもはや自力で立つことすら叶わず、その場にへたり込む。
 痙攣し、虫の断末魔のような高音を発するティティを摘んで、ワダツミは命令通りに鉄板の上へと置いた。
 生肉が焼ける、香ばしい臭い。食欲をそそる音。そこにあるのが小さな妖精でさえ無ければ、グロウとて唾を飲み込んでいた所だろう。
 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!! あつ、熱いよぉぉ!!! いや、助けてッ!!! やだぁぁぁ!!! グロウ様ぁぁぁぁぁぁ!!!! お母さ」
 「ティティッ!! ……ぐっ」
 悲痛な泣き声を上げるティティを、慌てて掴み上げるグロウ。
 自分の指先も少し焼けてしまったが、そんなことは大した問題ではなかった。
 「何をやっているんだ、馬鹿!!」
 手の中でぐすんぐすんと泣くティティ。
 シミ一つ無かった身体に、焦げ目が付いている。
 痛々しい姿に変わった哀れな妖精が、口を開いた。

 「なんで止めるんですか! グロウ様のバカ!!」

 ぶちっ。
 「ひぇぶ」
 あまりの怒りについ反射的に握りつぶして殺してしまい、意図せずにティティの目的を満たしてしまった。
 「あ」
 顔面を除く全身が見るも無残な姿になりながらも幸せそうな死に顔をするティティに、謎の敗北感に包まれるグロウ。 
 「……やられた」
 グロウは舌打ちし、仕方がないので調理器具を片付け始める。
 ワダツミの頬を叩いて起こそうとするが、起きる気配が無いので隣室のベッドまで運び、丁寧に下ろして布団をかけた。
 ティティはトイレに流した。

       

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